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評価して下さった皆様、ありがとうございます。
人類は滅亡した。
理由は核戦争だとか、巨大隕石だとか、ましてや宇宙人の侵略や、ゾンビパニックなどでは無い。
地球の環境破壊により人が、生きて行けなくなっただけである。
それは20世紀後半には問題視されていて、21世紀初頭から人々は積極的に改善活動を行ってきた。
しかし、既にレッドラインを越えていた。
消費され続ける資源に増え続けるゴミと二酸化炭素、上がり続ける平均温度に止まらない異常気象、海面上昇に緑地の砂漠化。
治せるほど科学は万能ではなく、延命するには人が増えすぎていた。
人類は真綿で頸を絞められるように、ゆっくりとしかし確実に滅亡に向けて進んで行った。
だが人類滅亡に止めを刺したのは、人間自身だった。
当時、複数の国が協力し巨大な移民船を作り、人の住める別の惑星へと移住する突拍子もない計画が、実行に移されようとしていた。
総人口の約40%の人間を他の惑星に移し、地球環境の回復を促進させる計画は、総人口の1%にも満たない超富裕層の、膨大な資金での資源の買い占めを受け頓挫した。
その富裕層は先行生産された移民船で、太陽系外への旅に出て行った。
世界は大いに荒れたが、残り少ない資源を持ち逃げされ、近代的な戦争を行えるほど余裕のある国はなかった。
徐々に狭まる人間の生息可能な範囲を、彼らは自らの手を血で汚し奪い合った。
皮肉にも最後に残った人間の住める地は、争い奪い合うことを嫌った極東の島国だった。
その地に集まった人々は地下に潜り、半世紀は平和に過ごしたようだ。
だが結果は、そのシェルターにいる俺の目の前に転がっている。
争った跡があり、お互いに胸をナイフで刺し合っている人間の死体が、全てを物語っていた。
ー・ー・ー・ー・ー
夜空に広がる雲の隙間から、小望月が美しく輝いている。
その月光は、山の中腹に有る小さな祠の側に堂々と咲いている一本桜と、それを見上げる1匹の化け物を幻想的に照らしていた。
化け物は着物に流行りのマントを羽織り、長い髪を後ろに流している。
感慨に耽っているその顔には、人間には無い部位が存在していた。
左右に大小のサイズの違う角が、計4本あるのだ。
桜の木の周辺には広く空けていて、見晴らしの良い場所だった。
その眼下に広がる風景にあるのは、鼓、角、舌、猪の4匹の獣による死重奏が繰り広がれている、大きな屋敷では無い。
暗い大地に優しくかかる月光のカーテンに包まれて青白く輝くのは、沢山の異国情緒溢れる建物が立ち並ぶ大きな港街だった。
大きく弧を描く本牧岬へと続く海岸線には、防波堤の様な人工構造物が有り、多くの港湾施設が所狭しと並んでいる。
その中でも一際存在感を放っているのが、赤レンガで埠頭に造られた2棟の真新しい大きな倉庫だろう。
そしてその奥に見える街並みには、異彩を放つに一画がある。
この港は古くは鎌倉時代より存在し、近年米国の黒船が来航してからは、東京湾の玄関口として栄えている。
そのため多くの国の大使館が作られた街は、日本の街並みとは一風変わっている。
しかしその一画は別格だった。まるで突然、別世界に迷い込んだと勘違いするほど、綺麗に隔離された空間がある。
特に中華系が目立つが、他の国々の建築様式もある。それらの多様性が醸し出す不思議な調和は、協奏曲の様に人の心を揺さぶった。
その一画は外国人商人の街、横浜外国人街である。
昔は外国人居留地と呼ばれていたが、明治の中頃に条約改正により居留地は廃止された。
だが廃止され返還されたからと言って、その地に根付いた外国人が居なくなるわけではない。
地元住人からしたら、獣が解き放たれた気分だっただろう。
居留地の廃止された事で、仕事を奪われると危惧した地元住人と外国人たちの軋轢を、比較的馴染み易い横浜華僑たちが執成し表面上は保っているが、華僑たちも彼等からすれば外国人だ。
十分な連携は取れていなかった。
そんな混沌とした街は、闇に蠢くモノたちには格好の狩り場と成っていた。
夜な夜な人の消えるこの街で、名も知らぬ鬼殺隊士たちは刀を振るう。
人々を、食人鬼の驚異から守るために。
しかし彼等は知らない。真に忌むべき驚異は、目に視えるものだけでは無いという事を。
そして今まさにその驚異が、この地に降り立とうとしていた。
「発見出来なかったか」
俺は浅草を発った後、竈門炭治郎の次の目的地、『鼓屋敷』を探していた。
鼓屋敷は通称『かまぼこ隊』の竈門炭治郎、我妻善逸、嘴平伊之助、そして禰豆子が勢揃いする、初のイベントである。
そして『稀血』と言われる、鬼にとっての御馳走が出てくるのだ。
是非とも参加したかった。何せ、その鬼に狙われ易い稀血の少年を、夕方で斜陽によって赤く染まった山道で、護衛も付けずに家に帰すのだ。
帰り道で、人間に襲わせて藤の花の鬼除けを捨てさせれば、簡単に食べられるだろう。
残念ながら鼓屋敷については、日時も場所も正確な表記が原作にはない。
分かっているのは、鎹鴉の有名なセリフ「南南東」。
次の目的地の方角が、南南東という情報だけだ。
浅草から単純に、南南東方面ではないだろう。深川区を通り、海に着いてしまう。
鎹鴉と話す炭治郎の反応から、『目的地へ直線で行けず迂回している時の、五月蝿いナビゲーションへの反応』に見えたので、西南西へ抜ける街道を使い、多摩川を渡った後に南南東の川崎を通り、横浜へ抜ける途中が『鼓屋敷』かと思ったが、違ったようだ。
「チッ。結構自信があったのに・・・」
炭治郎の後を追えない以上、全てのストーリーに干渉出来ないのは仕方がない事だ。
稀血の少年は勿体無いが、炭治郎の嗅覚に補足されるよりはマシだ。
一人で100人ぶんのエネルギーは魅力的だが、無理なら単純に100人食べれば良いだけの話だ。
次の目的地は、横浜の外国人街だ。
炭治郎を見失った以上、次に遭遇できるとしたら無限列車編だろう。
それまでは己の能力向上に努めたい。
俺は、東京では時間がなく出来なかった初めての夜桜観賞を終わりにして、横浜へと足を向けた。
横浜は外国籍の船を受け入れている、大きな港町だ。
外国人街がある影響もあり、海外の品を扱う店が多く、とてもハイカラな街だ。
「ふむ、匂いさえ気にしなければ、悪くないな」
俺は今、外国人街の地下にいる。この街の普通の街と違う大きな特徴は、コレラ対策で地下に張り巡らされている卵型のレンガ管を使用した下水道だ。
沼鬼の血気術は『沼男』だったわけだが、亜空間にある沼男を作る闇の泥が詰まった『沼』は、相変わらず体のいい移動手段として使える。
沼の入り口の厚みは、約3ナノメートルだ。不可視状態と言える最小サイズまで縮めれば、3nm×3nm×30mmに成る。
この程度の隙間なら、どこにでも空いており、人に見つかることなく地中すらも自由に動ける。
しかし空中を移動することはできないし、入り口を閉じていれば外の様子は分からない。
昼間も移動できるが、外の様子を見ようと入り口を開けた途端、陽光に焼かれる可能性がある。
目的地の方角や距離が分かっていないと、まともに使えない。
それを解決するのが、この下水道だ。
外の様子が分からなくても、壁に張り付いた感覚は分かる。
その感覚と正確な周辺地図が有れば、現在地を割出すのは容易く、管を辿って進めば安全に陽光の当たらない室内に出れる。
俺は下水道より下に『沼』の入り口を2m四方に広げ、土を亜空間に飲み込みながら上下に動かし空間を作る。
そして街からくすねてきた木材で天井と壁を補強し、オイルランプをぶら下げる。
床には茣蓙を敷き、木箱でも置けば簡易拠点の完成だ。
排気口が無いので酸素は無くなるし、下水道の側だと病気の心配もあるが、俺は鬼だ。
酸素も、二酸化炭素も、コレラも関係無い。正確には苦しいが死なない。
俺は懐から、禰豆子の血が入った小瓶を取り出す。
クエン酸ナトリウムが混ざっていて凝固していない血を、クルクルと混ぜるように回す。
禰豆子が特別な鬼と言うことは、原作知識で分かっている。
しかし何故特別なのかは、語られていない。
日の呼吸を習得した家系だから、鬼に対して特別だった?
確かに、同じ血筋の炭治郎も特別だ。鬼化して直ぐに、禰豆子と同様に太陽を克服している。
しかし、それでは他の兄弟が鬼化もしないで死んだ事に矛盾する。
遺伝とかでは無く、外的要因により二人が特別に成っているのではないだろうか?
要因として上がるのは『青い彼岸花』だろう。
鬼舞辻無惨様を鬼にした平安時代の医者が使った薬の名前で、原材料でもある。
そして無惨様は、未完成だったその薬を完成させて日光を克服するために、嫌いな同族を増やしてまで探している。
その『青い彼岸花』は原作で、炭治郎の走馬灯の中に描かれている。
つまり炭治郎は、『青い彼岸花』を見ているのだ。
原作の本には描かれていないが、設定資料集には炭治郎の母、〈葵枝〉が『青い彼岸花』の咲く場所を知っていたと、書かれていた。
魂に刻まれていない前世の記憶なので曖昧だが、間違いないだろう。
その場所は日の呼吸の剣士である〈継国縁壱〉の妻、〈うた〉が埋葬された場所だ。
此処からは憶測だが、うたは妊娠中に鬼に殺されて、縁壱と居合わせた鬼殺隊士によって埋葬されている。
明治に入るまでは、庶民は土葬が主流だ。
彼岸花の下には死体が埋まっていると言う話があるが、死体があったからこそ『青い彼岸花』が咲いたとしたら?
これと似たようなことをする生物を知っている。
冬虫夏草だ。
冬虫夏草はセミの幼虫に寄生するきのこだ。だがもし同じ性質を持った人間に寄生する植物が居たとしたら、土葬された墓に咲くのではないだろうか。
そもそも植物ですらないかもしれない。
設定資料では、伊之助の子孫が『青い彼岸花』を研究して枯らした時に、種の話題に触れている。
彼岸花は三倍体で、滅多に種を作れる個体は現れない。
『青い彼岸花』は彼岸花と名がついているが、彼岸花の特性を持っていない。
見た目だけ擬態している神話生物のような別の何かかもしれない事を、否定する要素が無いのだ。
それは宿主が死んだ場合、死体から芽を出し、まるで彼岸花のような花を咲かせ、胞子の様に分身をばらまく。
その分身を吸い込んだ人間は、血の中でそれを寄生虫の様に飼うことになるが、それ自体に特に害はないのだろう。
『青い彼岸花』は願望機だ。寧ろ特別な力をくれるかもしれない。
宿主が死んだ後に花になり、次の宿主を探す。宿主が女性で子供が出来たなら、胎盤を通り分身を直接送り込むだろう。
何年かに2日程度しか咲かない花を、炭治郎が偶々見る確率を考えたら、何者かの意図があったと考えた方が、自然ではないだろうか。
咲いた時に人が来たのではなく、人が来たので咲いたのだ。分身を送り込むために。
この流れは『青い彼岸花』の目論見通りなのだろう。
そうやって分身を増やし、その時を待っているのだ。
同族と出会う瞬間を。そして出会ったのだ。鬼舞辻無惨様の血と同化している、同族である『青い彼岸花』に。
禰豆子の体内で出会った別個体の『青い彼岸花』達は、今までのような分裂による複製品を増やすのではなく、交配することによって種を増やしていく。
世代交代が起きたのだ。無惨様の血だった『青い彼岸花』は役目を果たし、生を終える。
禰豆子の体内で生まれた『新たな青い彼岸花』は、もう鬼舞辻無惨様の支配を受けていない。
呪いが解けたのはこのせいだ。
そして交配で生まれた『新しい青い彼岸花』たちはより進化するために、また交配を続ける。
禰豆子の血が、短い時間で成分が変わり続けているのは、これが原因だろう。
成長のゆらぎによって多様性溢れる『青い彼岸花』は、最終的に日光すら克服してみせた。
つまり、禰豆子を特別にしている原因は禰豆子以外の処に存在する。炭治郎も同じだ。
禰豆子が鬼に成れたのは単なる確率で、6人いて成功したのが偶々禰豆子だっただけ。あの場で誰が鬼になってもおかしくなかった。
炭治郎も、特別な人間が生み出した鬼への執念の結晶である、呼吸法と神楽舞と言う技術を知っていただけ。
炭治郎も禰豆子も、特別に選ばれた子供達ではないのだ。環境と偶然が、特別だと魅せているだけだ。
確かに他人より強い意志を持っているだろうが、それは間違っても特別ではない。
意志の力は人間が当たり前に持って然るべきものなのだから、それを『特別』などと称して言い訳がない!
彼は彼女は、周りの都合に巻き込まれても、誰もが持っている意思の力で立ち向かい勝利した。何と素晴らしい事か!
やはり化け物を退治するのは、人間でなくてはならない!
俺はそんな黄金の意志と、戦わなくてはならない。
主人公が持っているのが、チートで強力な能力だったらよかった。
力なら、いくらでも付け入る隙があり、倒すことが出来る。
だが意志は、倒せない。折るしかない。竈門炭治郎の黄金の意志を折り、人間に絶望させて鬼への道を歩ませなくてはいけない。
「嗚呼、素晴らしき『過去の人類』、竈門炭治郎。貴様こそ、人柱に相応しい。
未来の為に人間性を捧げ、鬼に成れ。炭治郎!」
思考がズレてしまったようだ。
今は、禰豆子の血の方が重要だ。
憶測が正解で『新しい青い彼岸花』でも、不正解で無害になり特効薬でもある改造無惨様の血でも、この血を取り込めば魘夢の様に身体の変化に、悶え苦しむだろう。
万が一、血鬼術に変化があった場合の事を考えて、沼の外に仮拠点を作った。
亜空間に取り残されたら、目も当てられない。
横浜はハイカラな街だからか、日めくりカレンダーを持っている裕福な家庭を見付けられたので、日付はチェック済みだ。
禰豆子の様に二年も意識を失わないことを祈りながら、血を取り込もうとして、ふと思う。
「ちょっと待てよ?・・・禰豆子の血はまだ使い道があるな」
炭治郎の弱点は禰豆子だ。しかし今後二人は大きく成長して、武力での干渉が難しくなるだろう。
ならば、弱点の一分を安々と使用するのは勿体無い。
幸い採取出来た血の量は多い。
半分残しても、呪いは解けそうだ。
俺は右手に持った小瓶の蓋を外し、袖を捲って出した左腕に禰豆子の血を手首から垂らしていく。
スポンジに染み込むように吸い込まれていく血を見ながら、小瓶に蓋をして懐に仕舞う。
特に何も変化がないことに訝しむ。
「何だ?思っていたのと、ちガッ!!・・・」
突然心臓を、鷲掴みにされたような痛みと共に、全身の血管に針金を通されて、そのまま掻き混ぜられる感覚に襲われる。
そして俺はその痛みに耐えようとするが、意識が抵抗を試みても身体が言うことを聞かない。
そして、
俺の意識は、直ぐに白濁とした渦に呑み込まれ、深淵に沈んで行った。
モブ「君の書き物はゴミのようだ。美しさも、儚さも、凄みもない」
響凱「ぐわあぁぁぁ!」
作者「ぐわあぁぁぁ!」