沼鬼に憑依した話   作:茸山 寄竹里

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一万文字行きそうだったので、2つに分けて投稿しますので初投稿です。
後半は多分、明日です。


第五話

「やあ、君も来たのかい」

 

 

 白濁とした世界で朦朧としていた意識が覚醒して、声を掛けられたことに気が付く。

 目の前に居るのは、同胞の中でも飛び抜けて美形な“N”だった。

 

 俺は『並行世界論』と言う書物を片手に、死都“東京”にやって来た。

 人間は昔、この死の星と成った地球と並行世界の地球を入れ替える為に『虚空の門』を召喚しようとして失敗し、東京が溶解して更地となり、関東一帯を第5元アイテールで満たしてしまった。

 

 アイテールは人体を変質させる為、人は地下に潜ったらしい。

 俺たちはアイテールの影響は受けないので、こうして日本一巨大な図書館のあるシェルターに来ている。

 

「“N”も来ていたのか。この実証実験を失敗した理論から、ヒントが得られないかと思ってね」

 

 俺たちは26体居るため、生まれた順にアルファベットが割振られている。

 母はそれを頭文字にして名前をくれたが、母の墓標に捧げたので今はアルファベットで呼び合っている。

 

「ふふふ、それは面白い着眼点だけど、この『ネクロノミコン』は写本だよ。原本でなくては、意味がないと思うよ」

 

 “N” はまるで歌うような声音で、子供に語りかけるように手に持った魔導書を、ヒラヒラさせながら答える。

 俺は飄々とした態度の“N”が苦手だ。

 

「地球をまるごとなんて、流石に古き神が許さないよ。古き神が気に留め無い方法を、考えないとね。それに僕たちがしたいのは、過去改変じゃなかったかい?」

 

 

 周りの背景が徐々に泥になり、溶けていく。

 

 

「人類が過去に世界を、2度も変えただろ。世界を球体にし、大地を動かした。その時に過去も辻褄が合うように改変されている」

 

 

 

 俺が、自分の意思に反して答える。

 

 

 

「ははは、それは他に観察者がいたからだよ。今はもう神しか観察者はいない。『シュレーディンガーの猫』も箱を開けなければ、死は確定する。神が態々確認すると思うかい?」

 

 

 

 嗚呼、これは過去の記憶だ。

 

 

 

「ちっ、だが時間遡行など出来るのか?そもそも、それが出来る奴の召喚に、失敗してるだろ」

 

 

 

 

 俺たちの終焉が、決まった瞬間だ。

 

 

 

 

「そ・こ・で、さっき偶々、偶然、思いもよらぬ場所で見付けた、この手記の出番でぇす」

 

 

 

 

 最早“N”しか存在しない空間で、表紙に何も書いていない薄汚れた手帳のようなものを見せてくる。

 

 

 

 

「こ、これは!」

 

 

 

 

 

それには渇望していた情報が、書かれていた。

 

 

 

 

 

「興味深い内容だろ?」

 

 

 

 

 

 光明を見てしまっては、進まざるを得なかった。正に、それは・・・

 

 

 

 

 

「ああ、これは検討する価値がある!」

 

 

 

 

 

 

 悪魔の囁きだった。

 

 

 

 

 

 

「ふふふ、嬉しいよ。僕は末弟の君が頑張っているのを、応援したいんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 意識が遠退いていく。

 

 

 

 

 

 

 

「さあ、不可能を可能にしてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 もう“N”の姿も、声も、分からない。

 

 

 

 

 

 

 

「僕は、ずっと君を・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 世界が白濁に沈む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミ テ イ ル ヨ 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー・ー・ー・ー・ー

 

 

 

 

 小高い丘に囲まれた盆地に茂る林の中に、小ぢんまりとした屋敷が隠れるように建っている。

 その屋敷は、地形と木々に隠されて余程近付かなくては気付けない、巧妙に計算された場所に有った。

 

 周りには桜が満開に咲き誇り、早咲きの藤の花も負けじと鮮やかな色彩を帯びている。

 

 屋敷は腕の良い職人が、手掛けたのだろう。

 絢爛豪華な印象は受けないが細部まで、きめ細やかに仕上げられており、日本庭園とのバランスもよく、安らぎを覚える落ち着いた雰囲気を、醸し出している。

 しかしこの規模の屋敷が華族の、しかも公爵相当の地位の一族の物と知れば、人は驚くことだろう。

 

 その一族の名は『産屋敷』、ここは平安時代初期から続く由緒正しき一族の住まう、『産屋敷邸』である。

 

 

 

 この一族は、平安時代より幕府が変わるたびに高い地位が与えられ続け、明治維新後には新政府より公爵相当の華族の地位を与えられたにも関わらず、公式の場には一切出る事はなく、文書に名前すら載る事もない。

 

 理由は千年前にまで遡る。平安時代の貴族たちは自分たちが高貴である証明に、血の濃さを求めていた。

 多くの貴族が血族結婚を繰り返し、産屋敷一族も同様にして血を濃くしていった。

 

 そして、その血は呪われた。後の世に有名になるスペインの『ハプスブルク家』と同じ呪いだ。

 彼の一族は顎に出たが、産屋敷一族は寿命に異常が出てきた。

 

 呪いの最初の犠牲者は、二十歳まで生きられないと告げられた病弱な青年だった。

 

 彼がそのまま病で亡くなれば、もしかしたら誰かが血の異常に気が付いたかもしれない。

 しかし彼は運命に抗い、医者が其れに答えてしまった。彼は“青い彼岸花”を接種する事で鬼へと落ち、死の運命から逃れたのだ。

 

 しかしそれは、彼の望んだ結果では無かった。彼はこの運命を科した神を呪った。

 

「神は私に六道の辻より、餓鬼道に進めと言うのか!神が鬼と成って無様に舞い、討たれる姿を望むなら、惨めに生き延びてでも、いつか必ず貴様の喉元に喰らいついてやる!!」

 

 そう呪詛を吐いた彼は、その屈辱を忘れぬよう自らを揶揄する様に『鬼舞辻無惨』(鬼として舞う道を選んだ無様で惨めな男)と名乗り、不完全な不死性を完璧にして神の頂きへ至る為に、闇へと消えていった。

 

 

 

 一族から鬼を出した産屋敷の罪は、族誅を言い渡される程のものだったが、其れに待ったをかけたのは皮肉にも、原因の鬼舞辻無惨の存在だった。

 帝は鬼の怨念が、自分達に向けられる事を恐れたのだ。

 

 そこで帝は、「族誅は見逃してやるから、必ず鬼を討伐せよ。其れが為せる迄、人を動かせる地位だけを与えよう。産屋敷の血が穢れた血で無い事を、証明してみせよ。」と告げ、一族の血を薄める事を禁じた。

 

 そして産屋敷一族は、歴史の表舞台より消えた。

 当時の産屋敷一族11代当主は、事態を甘く見ていた。名誉は得られなくなったが、地位は失わなかったうえに、一族の汚点とは言え、病弱な甥である彼への哀れみがあった。故に、討伐には消極的だった。

 

 しかし産屋敷の血が受けた呪いは、着実に一族を蝕んでいた。

 二世代も進めば子も育たない領域まで、呪いは進行していた。

 

 次々と亡くなる孫に戦慄した当主は、神主に助言を賜る。

 

 当主は、一族から鬼へ落ちた鬼舞辻無惨を討伐すれば解決すると言う助言を湾曲して、全ては鬼舞辻無惨が原因であると解釈した。

 

 それ以来、産屋敷一族の呪いは鬼舞辻無惨の呪いに変わった。

 

 産屋敷は主に鬼の被害を受け、怨みを持っている者を中心とした『鬼殺隊』と言う私兵団を結成し、鬼舞辻無惨討伐に心血を注ぐようになる。

 帝は公認はしなかったが、容認して金銭の援助と事件の揉み消しを行うようになった。

 鬼の被害者は全て神隠しとして処理して、鬼と民衆の目を日本国に向けさせないように、裏で手引したのだ。

 

 産屋敷家と統治者との関係は、こうして出来上がった。

 

 その関係は統治者が変わっても続き、明治政府は版籍奉還を利用して屋敷や刀鍛冶の里を工面して、鬼側の情報を撹乱している。

 表舞台に出てこない隠された公爵家の存在理由は、利害の一致によるものだった。

 

 しかしそのバランスも、崩れつつある。

 鬼や天罰を畏れていたのも今は昔、科学が発展するに連れて統治者の中にも、鬼の不死性に魅力を感じる者が出始めている。

 

 長きに渡る鬼と人間の関係が、転換期を迎えようとしているのかも知れない。

 鬼殺隊の本願を果たすには最早、猶予は無くなっていた。

 

 

 

 そんな状況下で97代目の産屋敷一族の当主と成ったのは、4歳の〈産屋敷耀哉〉だった。

耀哉の父親は外部からの圧力と、内部の多くの隊士が次々と死んでいく様に耐えきれず、19歳の若さで自殺した。

 

 当時の統治者達は、狂喜乱舞した。間者を送り込んで情報を得ようと試み、あわよくば傀儡組織に仕立てようとしていた。

 しかし耀哉は感性の赴くまま、人や金を動かして完璧に対応してみせた。

 たかが4歳児を陥落させられぬ事は、統治者達を震撼させた。

 産屋敷耀哉が生きている限り、鬼殺隊に手出しは出来ないと印象付けたのだった。

 

 

 其れから、19年の月日が流れた。

 

 

 

 

 

 

 耀哉は、襖の隙間から入る満月の光で明るくなった産屋敷邸の寝室で、鎹鴉からの報告を聞いていた。

 

「そうか炭治郎達は無事療養に入ったんだね。良かった。一人も欠ける事なく元下弦を倒すとは、優秀な子たちだね。早く会ってみたいな」

 

 耀哉は報告をした鎹鴉の顎を、掻くように撫でる。

 喜ぶ鎹鴉を眺める耀哉の瞳は呪いに蝕まれ、殆ど見えていない。

 報告を終え飛び去る鎹鴉の羽音を聞きながら、加齢性白内障と診断された瞳で、隣の部屋で眠る妻を見つめる。

 

 耀哉には妻の顔が、ハッキリと見えている。

 例え病で目が見えなくなったとしても、妻の顔が見えなくなるはずがないのだ。

 

 妻の名前は〈産屋敷あまね〉、旧姓は〈神籬〉。

 嘗て産屋敷が助言を賜わり、唯一血を混ぜることを許された神職の一族である。

 

 耀哉は、強く美しく自分達に掛替えのない宝を授けてくれたあまねを、何よりも大切に想いたいと考えている。

 しかし自分は鬼舞辻無惨を葬る為に必要ならば、あまねの命すら駒として使うと確信している。

 

「私は本当に、度し難いな」

 

 心底、自分の一族にかけられた呪いに辟易する。

 その妻に異変が起きたのが、四日前だ。今は落ち着いている様で安心だが、心配は尽きない。

 

 

 耀哉は本当に、あまねを何よりも大切に想っているのだ。矛盾している様に思えるが、それが真実である。

 

 

 

 

 神籬あまねは幼少の頃より、既視感を感じる事が良くあった。

 

 

 あまねは断片的だったが、予知夢を見ることが出来たのだ。

 あまねは気付いていた。予知夢で見た未来は自分の行動で変えることができると。

 

 その夢を見だしたのは、産屋敷家に嫁ぐ事を決めたその日の夜からだった。

 あまりのショックで、一時金縛りにあったかのように起き上がる事が、出来なくなってしまった。

 

 その内容は、自分の子供を流産する夢であった。しかし、そんな予知夢を見ても、あまねは絶望しなかった。

 何故なら予知夢で見たということは、自らの行動で変えることができる未来だと知っているからだ。

 

 あまねの戦いは、そこから始まった。

 

 耀哉に話すことは出来なかったのは、変わる要素が増えれば増えるほど、望むべき未来は遠のく、と思ったからだ。

 まずは穢を清める禊祓から始め、食事内容を変え、1日の運動量も変えた。

 思いつくことは全てやった。確かに予知夢は変わった。変わりはしたが、その内容は若くして亡くなる自分の子供の姿だった。

 

 産屋敷一族に降りかかる呪いについては知っていた為、覚悟は出来ていた。

 それにまだ予知夢を見るなら、好転する可能性はゼロではない。

 まだ、負けるわけにはいかない。

 

 しかし、時間が経つに連れて変わらぬ予知夢に焦りが出て、あまねは賭けに出ることにした。

 産屋敷耀哉と祝言をあげたその夜、契を交わすその前に告げた。

 

「耀哉さま、どうか私を想い信じてくださるのでしたら、情を交わすのを今しばらく、待ってはいただけませんか?」

 

 耀哉の人柄は何度も会って知っているし、あまねを思いやる気持ちも分かっている。

 だが今の世は、男尊女卑が強い時代である。女性から伝統や仕来りに意見するなど、手討ちにされても文句は言えないのだ。

 

 耀哉は少し驚いた顔をしたが、直ぐに笑顔になりf分の1揺らぎの安らぎを覚える声音で答える。

 

「私は、前にも言いましたね。貴女の気持ちを、尊重すると。今も、此れからも、その気持ちは変わりませんよ。」

 

そして、ふふふと笑い続ける。

 

「私は貴女がワガママを言ってくれて、嬉しいですよ」

 

 この日、あまねが始めた独りの戦いは、二人の戦いに変わった。

 

 

 

 それから一年と少し経った頃、あまねは3人の子供たちが立派な大人になる夢を見る。

 果たしてそれは予知夢だったのか、ただの願望だったのか、あまねには判断する事は出来ない。

 

 だが、あまねは英断した、「今しかない」と。

 飛び抜けた先見の明を持つ耀哉も其れに同意して、その日急遽一年遅れの初夜が執り行われた。

 

 

 

 そして、あまねは耀哉と子供を想う意志と強靭な精神力で、産屋敷一族に鬼舞辻無惨がまだ居た頃より蔓延っていた呪いに勝利した。

 1億分の1に満たない確率を引き当て、三卵生の五つ子をお腹に授かったのだ。

 

 それ以来、子供の夢をあまねは見なくなったが、それは喜ばしくも残酷な事だった。

 直系の男子が無事なのだから、呪いは解けたと言っていい。

 しかし五人のうち二人の安否は、分からない。此等の事は耀哉と話し合い、他言無用と決めた。情報は力だ。注意しなくてはいけない魑魅魍魎は、鬼だけではない。

 

 あまねは、五人の子供達が入っているお腹を優しく撫でながら、決意する。

 自分が出来る精一杯の愛情を与えて、分け隔てなく育てよう。そして、耀哉様の行っている鬼舞辻無惨の討伐に尽力して、私達の代で完全に産屋敷一族の呪いを解くのだ。

 

 

 

 あまねは決意通り予知夢を使い柱となる人材、『始まりの呼吸の子孫』を一人勧誘に成功している。

 断片的な予知夢のため、兄を助けることができなかったのは残念なことだが、弟の〈時透無一郎〉を助けることが出来たのは、十分な功績と言えるだろう。

 

 未来が分かったからといって、必ずしも良くなるとは限らないのだ。

 それでもあまねはか細い最善の流れを掴み取る、強い意志と精神力を持っている。

 

 例え耀哉と子供たちが、鬼舞辻無惨を倒すための布石と成るために自爆して死んでしまう予知夢を見たとしても、嘆くことなく成功率を上げるために、自分も一緒に自爆すると言うだろう。

 

 

 

 しかし世界に混入した異物は、そんな生易しいモノでは無かった。

 

 

 

 どれだけ強靭な意志や精神力と言っても、それは人間の尺度である。

 今、満月に寝顔を照らされて落ち着いた寝息を立てているあまねは、4日前に一つの予知夢を見て発狂した。

 

 金切り声を上げて飛び起きたあまねは、近くにあった冠水瓶を割り、尖ったガラスの破片を自らの心臓に突き立てようとした。

 偶々、報告に来ていた風柱が咄嗟に止めに入り、手刀で意識を刈り取らなければ、大惨事になっていただろう。

 

 

 

 

 

 東の空が朝焼けの光で暁色に染まる中でも、明けの明星は誇らしげに輝いている。

 山の稜線が黄金に輝き、生命の息吹で世界が満たされるこの時間が、耀哉は好きである。

 

 鎹鴉の報告も途絶え、今日は悲報が無かった事に安堵しつつ、身体を起こしたまま考え事をしていたら、こんな時間に成っていた。

 

「お館様、先日は大変お見苦しい姿を晒してしまい、申し訳ありません」

 

 絹の擦れる音がしていたので、あまねが起きたことには気付いていたが、直ぐに声を掛けてくるのは意外だった。

 子どもたちを産んでから何かを決意したようで、自分の事を『お館様』と呼ぶように成った事を、少し残念に思いながらあまねに答える。

 

「気にする必要はないよ。大事に成らなくて良かった。もう起き上がっても、大丈夫なのかい?」

 

 心配する耀哉に対して、あまねは「はい」と答える。

 

 先日、あまねが錯乱した事は記憶に新しい。

 余程恐ろしい予知夢を見たのだろう、あまねは起きて直ぐに自殺行動を取ったのだ。

 その時は瞳孔が開き、明らかに正気を失っていたらしい。

 

 あまねの動きに躊躇は無かった様で、その場に〈不死川実弥〉が居なかったらと思うと、ゾッとする。

 耀哉や控えていた〈隠〉の子だけでは、対処出来なかっただろう。

 

 あまねは落ち着いてから予知夢の内容を思い出そうとしたが、無理に思い出そうとすると防衛本能からか脳が拒絶反応を起こし、気を失ってしまった。

 実弥の聞いた叫びと、耀哉の前でうわ言の様に口走った内容から察するに、あまねは『上空に目が現れて東京全土が焦土と化す』と言う予知夢を見たようだ。

 

 正直、理解できない規模での破壊だ。

 天災が原因であるなら分かる。滅多にないが、巨大な地震で多くの被害が出た記録は残っている。

 しかし、あまねは目が原因だと認識している節がある。

 

(血鬼術?いや、そんな桁外れの規模での破壊が出来るなら、上弦以上のはず。でも、そんな鬼の記録は見たことがない。それに天より見下ろす目なんて、まるで神のようだね。もしかして、目では無く、球体・・・)

 

 耀哉は頭を振って考えを散らす。憶測で考えても意味がない。それにこれ以上考えてはいけないと、本能が呼び掛けている。

 耀哉は、この感覚を無視するのは危険だと、経験で知っていた。

 

「一つだけ、思い出した事が有ります。私は夢の中で、4本角の鬼を見ました。目に数字は有りませんでしたわ。何彼に役立つと良いのですが・・・」

 

 あまねは、普段の調子が戻ってきた様子だ。有益な情報を提示出来た事で、安心したのだろう。それは、喜ばしいことだ。

 

 予知夢もあれ以来見ていない様なので、夢に精神を蝕まれる心配はない。

 だが耀哉は、得も言われぬ冒涜的な脅威が這い寄ってくる感覚を、拭うことが出来ない。

 

 

 情報を纏めた耀哉は、一つの指示を鬼殺隊士に出した。

 何故その様な指示なのかは、耀哉にも合理的な説明は難しいだろう。

 

 あまねの予知夢には、鬼が絡んでいた。そして鬼舞辻無惨に一人で対峙させてしまった竈門炭治郎の事を考えていた時に、その報告を受けた。

 そんな、偶然としか思えない取り留めのない繋がりに、耀哉は何かの縁を感じた。まるで神の啓示を受けたかの様に。

 

 ただ耀哉は、自身の類稀なる先見の明の根幹にある、直感力を信じたのだ。

 

 その指示は鎹鴉より本日中には、全隊士に伝わるだろう。

 

 

 指示の内容は「隊士は階級に関係無く可能な限り、二人一組で行動せよ」である。

 

 

 この指示は鬼との戦いには、特に影響を与えなかった。

 炎柱の運命にも、音柱の身体にも、何も影響を与えないだろう。

 しかし、この指示が有ったお陰で、少なくない隊士の命は見えない脅威から救われたのだ。

 

 

 

 

 耀哉は沢山の呼吸使いを後世に残した。

 

 これは沼鬼の想定外の対応であり、正に神の目線で答えを見たかのような1手で、耀哉は沼鬼の見えない脅威に意図せず勝利した。

 

 

 

 耀哉の的確な指示に隠された、()()()()()()()()()()()()()に気付ける者は、終ぞ現れることは無かった。

 

 

 

 




破壊される事に定評のある東京さん「解せぬ」
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