第一話 招待しよう幻想へ
一瞬の歪み、空間に亀裂が走り、こじ開けるように広がる。
それは
それはまるで───
────隙間が出来る瞬間のようだった。
──地下世界最後の回廊にて。
全てが白と黒のみで形成される世界。
白黒ながらも、そのステンドグラスには綺麗な装飾が施されており、幻想的な風景を思い浮かばせる。よく耳を澄ませば、鳥の鳴く声や風が花を撫でる音も聞こえる。
刹那。骨が飛び、光線が放たれる。所々、ステンドグラスは貫かれ割れていく。
そこに子供が1人、単身で弾幕をかいくぐってはその手に握られたナイフを振り回す。そしてもう1人、その子供を迎え撃ち、振り回されたナイフを避け続ける骸骨。
その踊りは永遠に続くかと思われた。
「hehe…スペシャル攻撃、どこかで聞いた事あるか? ……次、動いたらオレのスペシャル攻撃が炸裂するぜ」
薄汚れた青いパーカーに、白い縦線の入った黒い短パン、ピンク色のスリッパ。そしてそれに包まるのはモンスターこと「Sans」。
地下世界において最も……弱い存在。
「……」
対するは長袖の服に、横縞が入ったシャツ、胸の辺りに金色のロケットが掛けられてある。
そしてその小さな手には鋭利な短剣が握られている。
それはニンゲン。地下世界において最も……強い存在。
ニンゲンが一歩大きく駆け出す──と同時に、Sansお得意の
避けられ避けられ、また避けられる。更にやり取りは続き、それは全て捌かれる。当たったとしてもお構い無しという風に突っ込んで来る姿は、狂気を感じざるを得なかった。
Sansは段々と、廊下の端へと追い詰められる。
「…チッ…なら、これはどうだ…!」
重力の向きを変え、回廊が長い縦穴と化す。下に大量の骨が待ち構えている。ニンゲンはナイフやその体捌きで器用に避け続け、下へ下へと降りてゆく。
次いでSansを能力を駆使し、横へ落ちる
廊下の構造上、柱は足場となるためその隙間を埋めるように骨で敷き詰めていた。
それが仇となっているのか、ニンゲンはあろう事か壁を下にし走り出す。
ほんの少しと言えど、ニンゲンの怖さを改めて認識した。
──壁キック。
下に落ちる時に、少しでもダメージになるように配置した骨を壁キックで避けられる。
当たりそうものなら握られたナイフで角を砕き、骨の壁で受け身を取っている。
「──heh……バケモンがよ」
やっとのことで足は地面に着き、終わり。──かと思わせて更に追い詰める。
しかし、不意打ちで放たれた骨は完璧に避けられてしまう。
無謀な事だとは感じつつも、攻撃を止めない。
ニンゲンを中心とした円型に、竜のような形状をした頭蓋骨が無数に現れる。
ニンゲンは分かっていたかのように、既に走り出していた。出来るだけ最小の動きで避ける。かするだけでも相当な痛みとダメージを伴うからだ。
──痛み。コイツに痛覚なんてものはあるのか?
5週半ほどした後、ボロボロの身体に追い討ちをかける。
重力による叩きつけである。しかしいくら叩きつけても死なない。
「…ハァ…ハァ…仕方ないな」
ようやっとこの戦いに終止符が打たれる。
「それじゃ、ホントにオレのスペシャル攻撃をお見舞いするからな?」
ニンゲンは動かない、動揺もしない。
「…………」
「どうだ?……ま、どうだっつっても……無いんだよ、スペシャル攻撃なんてものは」
しっかりとSansを見据えるニンゲン。
「驚くわけないよな」
余裕の表情を装い、言い放つ。
「お前を倒すなんてオレには無理なんだ。だから考えたんだよ」
お 前 の タ ー ン に な ら な き ゃ い い っ て な
身体が限界の今、舌を回して時間を稼ぐしかない。
「だからオレはお前が諦めるまで自分のターンを続けることにした」
「もうここには何も無い、いいか? お前はその強い………強い……【決意】でスッパリと諦めるこった……」
頼む、これで諦めてくれると…本当に楽になる。
「………………ふぁーぁ」
…やべ、どっと疲れが…
「……………………」
……あぁ、ねみぃ…
「……………………………」
…
「………zzZ…」
◆◆◆
*まだSansのターンは続いている。
*しかし彼は何もしていない。
*ならば 私 が勝手にターンを進めよう。
静かに標的を定め歩き出す。あと一歩で仕留められる距離まで。
ナイフを構え、踏み込む。
しっかりとナイフを振り下ろすが、斬った感覚がない。
「へっ…そうは問屋が卸さな──
Sansはしっかりと避けていた。
*どうやらまだ諦めてなかったらしい。
ある筈のない、二度目のナイフでの攻撃を────
────視界が途切れる。
◆◆◆
歪んだ空間は世界を覆い、こじ開けるように広がる。
─卸さない…っは? なんだ?」
その亀裂はニンゲンの身体を引き裂くように出現し、ドンドン空間を侵食していく。
大量のギョロ目。それらから逃げようとしたが、間に合わなかった。
呑み込まれ、セカイが変わる。
「青い服、桃色の靴…そして頭蓋骨…。あなたがSansね?特徴と一致してるわ」
不意にかけられた言葉にビクッとする。
「─っ?!」
「そんなに警戒しないで?私はあなたの味方よ。少なくとも、ね」
「アンタ……誰だ」
「私は【
幻想郷へと招待します。
◆◆◆
【TIPS】<TIPS>
*TIPS、助言やヒント、情報を流すための場
◆◆◆
「ま、ここに座って、お茶でもしましょう」
どこからともなく飛び出してきたテーブルと椅子二つ、異様な光景だったが、色々疲れていたため大人しく座ることにする。
「…あー、一体どこなんだここは?」
「私のスキマ世界よ。さっき見せたスキマを経由しないと絶対に入って来れないわ」
「そうか…」
分からないことが多すぎる。大体こいつ…ユカリ、だったか?の真意が読めない。敵ではないと言っているがそれも分からずじまいだ。
とりあえずここから抜け出す事を目標にするか。
「ここから出してもらいたいんだが」
「……大丈夫よ。心配なんでしょう?あの世界が。さっきあの世界と繋げる時、念の為あの子を別の所へ移しておいたわ」
…見透かされていたか。ユカリとやらはこちらの事情を知っている様子だ。
「……単刀直入に言う。訳が分からない。
なんでオイラを助けたんだ? 今あそこはどうなっている? みんなは無事か? 別の空間…と言うと、どういうことだ?」
「まぁまぁ、
「heheh…いいジョークだが、オイラは今珍しく真面目なんだ」
少し声を低くし、威圧するように話しかけるSansを尻目にし、紫は目の前にある紅茶を飲む。そしてお皿の上にコトリと置く。
「…ふぅ……大体あなた、今のボロボロの状態で行ってどうするの?死ぬ所だったでしょ?……今更どうするのよ」
ユカリの言うことは一理どころか十理くらいある。ド正論だ。今のオイラが行ったところで何も変わりゃしない。ぶっちゃけると無駄だ。
「………」
「はぁ……私はある人に…まぁ頼まれたのよ。…そうそう、依頼主の名前は明かせないわ。やめてくれ、そう言われたもの」
依頼主がいる……となるとユカリはこちらの事情を知らないのか?……誰だ?その依頼主っつーのは……
まったく見当がつかないな。
「……続けてくれ」
「別の空間、と言っても私のスキマ世界に隔離しただけよ…今あの子が何をしているのかと問われれば困るわね」
少なくとも妖怪の大賢者である私の結界…ただのニンゲンに破ることは出来ないわ。と紫がつづける。
「…そうか」
「だから、あなたの言うみんなも無事よ。…にしても、アレ…何があったのよ」
「知らないのか?」
「知らないのだから仕方がないわ」
「…たった一日で、しかもただの子供に…友達みんな、手も足も出ずに殺された。そう言ったら信じるか?」
「……ふぅん?」
ユカリは目を細くする。
「ま、ニンゲンって事を加味すれば当然かもな」
「ニンゲン、ね。あなた達の種族……モンスターだっけ? その被害って、どれくらいなのかしら」
ああ、只の興味本意だから、話したくないのならそれでいいわ。
終始、Sansとはまた違うニヤリ顔で、彼女はそう続ける。
「……ほとんど全員だ。要は皆殺しだ、地下世界ほぼ全域でな……避難できた奴もいるが、明らかに数が減った」
「へぇ…そんなに」
「そんでもって……
恐らくこの後……王も。Sansはボソリと呟く。
ふむ、と言い手を顎に当て視線を下げる紫。途端にニヤリと笑う。
「あなた、意外と冷酷なのねぇ…」
「…どういうイミだ」
「だってぇ…見てたんでしょ? その殺人鬼が殺すところを。なのに助けにもいかないなんて」
そのまま押し黙ってしまうSans。
いくら事情があろうとも、見過ごしていたのは事実。例え言葉で脅して止めようとしても、行動に移さなかった。
自分が本気で戦う時に能力を最大限活用する為だと、言い訳しながら。
「…約束、なんだ」
それも苦し紛れの言い訳。誰に言っているのかすら分かりもしない、自分を正当化するための口実。
それにそんな約束、あの日あの時、最後の回廊で既に破り捨てている。
「あのおばさんとの大事な…約束だ」
「…律儀なのか、事情があるのか…それともただ単にそれを口実にしているだけなのか、分からないわね」
「…そうかい」
「ま…もうこれくらいにして次に行きましょ」
「
Sansは暗い話によって暗くなった雰囲気を和ませようとする。
「…以外と元気ね。心配して損したから手短に行くわ」
「hehe、悪かったな」
◆◆◆
*2回目の攻撃の手応えがな………ここは…。
*どういうことだ、何が起こ────
ブチッ
大量の目玉に見つめられる感覚。
それを一身に受ける。
悶え苦しむ声が響く。
生き続けたいと願え。
(小説の説明欄に書いてあったやつ)
【非情な二ンゲンは虐殺を始め、出て、破壊し、快楽に溺れ、自惚れ…地獄で焼───また舞い戻る】
【嘆きの女王は ケモノを世界に解き放ち】
【勤勉な骸骨は、無駄なことを信じ続け】
【黄泉の国から戻りし英雄は、最期まで、戦いに明け暮れ】
【俯瞰し続けた怠惰な骸骨は、それらを直視することなく、最悪の時を迎え、迎え──歓迎された】
【嘆きの王は、同族に──
【嘆きの花は、繰り返し、騙し、気付き──