紅魔館の地下。そこにある、シンプルながら、厳かな雰囲気を漂わせる鉄製の扉。
その奥には、悪魔の子が住み着いている。
今日
……あの骸骨の妖怪と、探検をし始めてから1週間ほど経った。
元々、吸血鬼は長寿だ。
1週間どころか、1ヶ月経過していたとしても、何にも感じない筈
…濃い1日だった。これから先、何百、何千と生きるかも分からない人生の中でも、とくに。
「あぁ、やっぱり…」
ボソリと、誰に向けての言葉では無いものが、出た。
最近は部屋に篭もりきりだ。
…いや、いつもそうだった、はずだ。少なくともこの495年間は。
無意味な自問自答を繰り返す。部屋はとても静かで、寒気がする程だ。
他の吸血鬼に比べ、幾分か小柄なフランドールは、彼女に見合わないほど大きいベッドに
明度の落ちた紅と、漆黒の交差が為された。
ド、が付くほどの大きさのベッドと共に、同じ柄の枕も置いてある。
枕の傍には、クマやウサギのぬいぐるみがいくつも添えてあり、それがこの部屋の女の子の可愛らしさと、
その異質感とは…それらがほぼ全て、ボロボロになっている事だろう。
タータンチェックのベッド。シーツはツギハギで元は綺麗だった柄も、まばらになっている。一目で一度、いやそれ以上
枕も同様。ぬいぐるみに至っては、四肢がもがれたままのクマや、首の辺りから中に入っている綿が少し漏れているのが分かる。
「はぁ…」
……そういえば、いつの日か。お姉様がため息は不幸を呼ぶとか何とか言っていたな。
または幸運が逃げるとも。
「はは」
…なんでこんなこと思い出したんだろ、今頃。
…………ああ、逃げてるのか。ワタシが。この部屋の外のことを、見ないようにしている。
「ああいやだ」
か細い吸血鬼の声は、ありとあらゆるモノに溶かされ、それらが誰かに届くことは無かった。
陽の光に照らされていない肌。真っ白で雪のようなのだか、頬やくちびるが赤く、血が通っているのが分かる。不健康そうに見えて、艶のある健康な肌。
小さい頃からのお気に入りの服、色白な肌に畏れが生まれそうなほど似合う、白のワンピース。フリルがふんだんに使用され、元々ある幼さが強調される。
その布から出てくる整えられた四肢が、ダンゴムシのように身を丸めた。
艶のある、若干むにっとした太ももが折りたたまれ、一種の芸術のようにも見える。
形の良い顔に、一筋の宝石が伝う。
それは液体だった。
「………え」
なにこれ。…みず?
ああ、涙、か。
思わず手を顔に当てる。
「はあ」
外では何があったのか、知らない。
ワタシはただ単に、面白そうだから出てきただけ。
異変? 事件? なにそれ…聞いてないよ、お姉様。
また? またなの? 仲間外れなの?
…でも、それでも楽しいことがあった。
彼…骸骨の、サンズ。
あまり見たことの無い、珍しい服を着ていた。珍妙な存在。
初めはそんな印象だった。いきなり入って来た時は、思わず消し飛ばしそうになったけど。危なかったなぁ…よく留まれたモノだ。
少し気が、身体がスっと軽くなった感覚を覚える
青と、灰色の帽子? 白いシャツに、黒色の半ズボン。そして、妙に似合うピンク色のスリッパ。
何より、彼との会話は新鮮だった。あんな風に、警戒されて話もしないのは珍しくないけど、ちゃんと会話を成立できたのは久しぶり。
まぁ、内心では心臓バックバクだったの、バレバレだけどね。
感じたの、変なモノを。
感じたことのない魔力を漂わせて…
…そう、あの魔力も。
なんだかおかしかったんだ。魔力の密度? 濃度? がすごく高いの。
おかしいよねぇ。
形の良いくちびるが、曲線を描く。
「…」
ああ、探検の続き、したかったなぁ。
声にならない、声が心に響く。その言葉は、着実に、確実に、彼女の歪んだ心にヒビを入れる。
叶わないと知っている願い。
枕元に置いてある、辛うじて原型を保っているぬいぐるみを手に取る。
それを抱き締め、己の感傷に浸る。
かなしい。あの骸骨と遊べないことが。
うれしい。彼に、これ以上めいわくがかからないようになることが。
さびしい。あの面白い彼の声が聞けないことが。
安心した。本当の自分を、よく知られないようになることが。
不安だ。友達が、妙にコミカルな骨が居なくなることが。
最悪だ。あの……憎たらしい…顔が、忘れられないことが。
良かった。あの凛としていて、希望に満ちている……それでいて底冷えする程冷徹でシビれるあの目。蒼色をした、憧れで燃えてしまいそうなほどの、綺麗な目。
矛盾した感情が複雑に絡まり合い、歪な心を形成する。それが彼女の、フランドール・スカーレットの、本当の心。
ああ、苦しいよ。この胸がキュッと握られてる感覚。分かんないよ。忘れられないよ。助けてよ。
───サンズ。
──その瞬間、ベッドの上を綿で埋めつくした。破裂したのだ。ぬいぐるみが。
彼女の
そうして彼女はまた目を覚ます。
「……あ、レ…ワタシ…? 」
「ナニをして、…? …また、ダ。この子、壊れテル……」
「壊れタマまはイヤだモんね……」
形の良い、人形のような手が、ぬいぐるみだったものを包み、優しく撫でられる。
ベッドから降り、部屋にある、裁縫セットに手を伸ばし、針と糸を取り出した。
彼女の首元が、熱を帯びているのを知っているのは、ほんの少しだけの人物のみだろう。
不気味な嗤い声が響いた。
美しいキャラってのを描写したいんですが、如何せん作者の語彙力が不足しているので非常に難しい…
結局はとにかく可愛いって事。