東方骸骨伝   作:くるっくー

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第一章
第十話 おはよう世界


 

目が覚めた。

 

 

 

あー…どこだここ。……この色調、紅魔館か。

 

 

 

おおよそ(あか)を基調とした色で仕上げられているこの部屋。Sansも、既にここの色には慣れたのだ。

 

 

 

「あの後、どうなったんだっけか」

 

 

 

急に気持ち悪い、なんともいえないサイアクな苦しさを感じて、あ、ヤバい意識がぶっ飛びそうってところでフランドールに支えてもらった…

 

 

 

うーん、この後のことはさっぱり、覚えてねぇな。

 

 

 

確かに覚えちゃいないが…まー、フランドールか館のメイドさんか…その辺に運び込まれたのだろう。

Sansはそう結論付け、思考を終えた。

 

 

 

ふかふかのベッドに包まる。

 

何故かは知らんが、今まで使ってきたやつは硬かったしなぁ。

 

 

 

オイラがやった事なんて、シーツやらなんやらを引っぺがして丸めたくらいしか無いのにな。

 

 

 

heh、たまにはこういうキレイな状態で保たれてる寝具を使ってぐっすり眠るのもいいだろ。

 

 

 

二度寝っつーモンは、気持ち良いんだ…この快楽に抗えるやつがいるなら、そいつは…

 

 

 

ソイツは……恐ろしい、モンだな。

 

 

 

 

Sansが二度寝の快楽に沈もうとした時、()が響いた。

 

 

 

「ぐがぁ…」

 

 

 

「…ハァッ?!」

 

 

 

マヌケな声も響いた。

 

 

 

 

 

…ビビった。いや周りを見ずに寝ようとしていたオイラにも非はあるにはある……いやないか? しゃーないか?

 

 

 

にしちゃあこれは無いだろ。なんで赤色の長い髪の毛のニンゲンが倒れてんだよ、どーゆーこった。

 

 

 

 

側には深い緑色の帽子が落ちている。おまけに長身でガタイがいいのがもう分かる。ムキムキだなこりゃ。

 

 

 

 

 

…さて、とりあえず話しかけてみる、か?

 

 

 

「…あー、起きてるか?」

 

 

 

そっと手を伸ばし、倒れているニンゲン(か妖怪?)の顔の前で、手を振──

 

 

 

「──っひゃい! も、もももももちろん起きてますよだから許してナイフを私に突き付けないで咲夜さん!!!! …って、アレ?」

 

 

 

「おっと、おはようさん…?」

 

 

 

困惑しすぎて手を引っ込めてしまった。

 

 

 

「あ、お、おおおはようございます、起きてたんですね…ハハ…」

 

 

 

赤い髪色の女は、ササっと立ち上がり、お恥ずかしいところをお見せしました、そう言った。

 

 

 

しばらく静寂が彼らの身を包む。

 

 

 

「あーオイラはスケルトンの、Sans。よろしく。えーと、あんたは…」

 

 

 

「あっえと、(ほん)美鈴(めいりん)と申します。…えーと、何だっけ…何を伝えれば良かったんだか…」

 

 

 

確か、咲夜さんから貰ったメモがここに。彼女はそう言って胸元から二つ折りの紙を取り出した。

 

 

 

ワオ、ニンゲンの胸部にある膨らみってのは、物を収納するための場所だったのか? ザンシンなアイデアだな?

 

 

 

 

「あった、ありました。…おほん、『客人が起きたら、我らが当主様がお呼びである旨を伝えなさい。咲夜』、と。なるほど…えーと、全部言ってしまいましたね」

 

 

 

「ああ、しっかりこの耳で聞いていたぜ。ま、オイラの耳は小さい骨の耳だからな、聞くのも一苦労だ。()()()だけに」

 

 

得意気な顔でニンゲンにあたる耳の部分をトントンと指でつつく。

 

 

「…あー、耳小骨…」

 

 

「中々いいジョークだろ」

 

 

「あ、あは〜」

 

 

「アンタが笑ってるから面白いって事だな? そんなに面白かったか、ならもっと炸裂させてみるか?」

 

 

 

 

Sansがかなり強引に、自身のジョークを評価する。

 

 

 

 

「え…ち、違いますよ! ほら、これは苦笑いですよ」

 

 

「そんなこと言ってるが、顔はニヤついてるぜ?」

 

 

「そ、そんなことないですよ?!」

 

 

「おいおい、そんなに顔を膨らませてどうしたんだ?」

 

 

 

Sansは口に手のひらを当てて、三日月の如くにんまりと笑みを深める。

 

 

 

「ぐぬぬ…」

 

 

「まぁまぁ、悪かったよ。オイラもからかい過ぎたな、ほら、仲直りの握手」

 

 

「…は、はぁ、まぁそれなら…」

 

 

 

骸骨の小さな手を、美鈴は何を躊躇うこともなく握る。

 

 

 

――躊躇うことなく握ったその瞬間、音が…いや、()()()鳴り響いた。

 

 

 

 

 

プゥゥゥゥゥウウウウウウウウウwwwwwwwww

 

 

 

 

そう、人を小馬鹿にするような()()()

 

 

 

 

「──な」

 

 

「hehe、手にブーブークッションを仕掛けといたんだよ。どうだ、驚いたかぁ?」

 

 

 

もはや、自身の持ちネタ、十八番、お決まりとなりつつあるこのムーブ。Sansは綺麗に決まったことで悦に浸っていた。それも満更でない顔で。

 

 

 

だが、それを笑い飛ばしてくれるような心優しき人物は、この世界において少数派である。つまり、いまここでモロに喰らった美鈴も例外ではない。

 

 

 

 

「く、初対面なのにここまでからかわれたのは、初めてですね…こうなったら…!」

 

 

 

そこまで言い切ると、美鈴はSansの眼前まで拳を突き出し、叫んだ。

 

 

「門番が舐められては務まりません! いざ尋常に! 弾幕勝負です!!!」

 

 

「ゲッ…いや待て待て、悪かった、ホントにオイラが悪かったから許してくれよ」

 

 

「ダメです!」

 

 

「いやそこをなんとか…」

 

 

「ぜっっっっったいに嫌です! 私の気が済むまで…いや、鍛錬に付き合ってもらいますよ!!」

 

 

「お、オイラは病み上がりで寝起きでだるいんだ。ちょっとくらい勘弁してくれても――「では行きますよ!!!」

 

 

 

うがっ。

 

 

身体に強い衝撃が走る。

 

 

かかっていた布団が急に遠ざかる。

 

 

どうやら身体を持ち上げられて運ばれているらしい。しかも窓から飛び降りようとしてる。

 

 

 

 

 

は?

 

 

 

 

「ちょ高いたかいたかいたかい!!! うおおおぁぁ!」

 

 

 

「ちょっとくらい我慢してください! これもただの鍛錬ですッ!!!」

 

 

 

骸骨の叫びも届くことは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【TIPS】 〈紅美鈴ー①〉

*底抜けに明るく、いつもはみんなのムードメーカーとなる存在、気前良く接してくれるお姉さんでもある。

 

*しかし、怒らせると鍛錬の相手(と言う口実でぶん殴ってくるよう)になってしまうので注意。

 

*決して野蛮ではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなして、自分が能力を駆使して脱出する暇もなく、地面に降り立った。

 

 

 

メーリンやらなんやらがどうにか衝撃を受け流してくれたからだろうか。何故かちっとも痛くない。

 

 

 

「…おいおい、今アンタ二本足で着地したのか…? あの高さから落ちたんだ。少しは痺れて動けなくなるんじゃないのか?」

 

 

 

「ご心配なく。落下の際に空で踏みとどまったので、大丈夫です」

 

 

 

「…お、おー」

 

 

 

サラッとヤバいこと言ったなこいつ。

 

 

 

…ってか「空に踏みとどまった」だぁ? つまり…こいつは浮遊ができるのか…? フランドールはまだ翼…まぁただの骨格でしかないが…は、ある。

 

 

だがそれに比べてどうだ? 見るからに翼も無い。ましてやアタマにプロペラが付いていて、それが回ってる訳でもない。だが一つ、割と本気で言えるのは…

 

 

 

只者(ただモン)じゃないってことだ。

 

 

 

目の前でコチラを見据える、まるで凶暴なケモノのような形相で構えるメーリン。完全にやる気だ。

 

 

 

別に殺し合う訳じゃないんだ。相手に罪がある訳じゃないのだ。大丈夫。なんとでもなるさ。そう自分に言い聞かせ、前を向き、今一度…(ホン)美鈴(メーリン)彼女の顔を見た。

 

 

 

「……ふむ、やっとやる気になりましたか? 骸骨さん」

 

 

 

Sansはニィッと笑みを深め、口を開く。

 

 

 

「ひとつ、聞いてもいいか」

 

 

「…どうぞ」

 

 

 

二人の間に、絶対的な領域が組み上げられる。

 

 

誰も踏み入れてはいけない領域が。

 

 

 

 

「アンタはさっき、弾幕勝負、と言ったな?」

 

 

 

「ええ、ハッキリと」

 

 

 

「オイラは弾幕勝負、なんてやったことがないんだよ」

 

 

 

 

虚偽と真偽を織り交ぜた舌が踊る。

 

 

 

 

「ふむ…確かにあなたはここら辺ではあまり見ない類の妖怪のようです。いいでしょう、ハンデをあげます……それで、私はレクチャーでもすればいいのですか?」

 

 

 

 

Sansはその言葉を待ってた、と言わんばかりに、口角を上げる。

 

 

 

 

「いや、レクチャーの必要はないぜ。オイラは一つ、別ルール…つまり俺たちだけの簡単なルールを希望する」

 

 

 

 

美鈴は表情をピクリとも変えず、に頷く。

 

 

 

 

「…痛いのはキライな性質(たち)でな。どちらかの攻撃が相手に一発でも当たったらその時点で勝者を決める。モチロン当てた方の勝ちだけどな」

 

 

 

「なるほど、いいでしょう。…ですが、初めてならばもう少しハンデを加えてもいいんですよ?」

 

 

 

 

美鈴は弾幕勝負の先輩として、風がなびいているかのようなドヤ顔をかまし、手をクイクイっと折り曲げ挑発する。

 

 

 

 

「いいや? 問題ない。むしろハンデなんて付けたら困っちまうぞ? それでもいいんなら、いいけどよ」

 

 

 

 

変わらずこちらもドヤ顔…いや、ある意味いつも通りの顔面で挑発に乗る。

 

 

 

 

少しメーリンの眉がピクついた気がした。Sansは「あ、やべ」と思わなくもなかったが、さっさと終わらせることに専念しよう、そう思った。

 

 

 

 

「さっさとやるか。ローカルルールの弾幕勝負ってヤツをな」

 

 

 

 

「望むところです」

 

 

 

 

美鈴とSansは目を合わせ、弾幕を扱うに適した距離まで離れる。

 

 

 

Sansは相変わらずポケットに手を突っ込んだままだったが、これまでとは決定的に違うことがあった。

 

 

 

目が違っていた。いや正確には目つきが変わっていたのだ。しっかりと顎を引き、いつでも動けるようにと少し前のめりな姿勢となっている。

 

 

 

 

美鈴は気が付く。目の前の相手はただの初心者などでは無いことを。

 

 

 

 

 

骸骨は笑う。

 

 

 

 

 

 

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