コンコンコン。と3回ノックの音が響く。
ロビーのように、あの華々しくも妖しい雰囲気を漂わせていた場所と比べると、どこか素朴な扉だった。特別豪華ではなく、ただの木製特有の落ち着く
骸骨という、一見感覚器官のなさそうな外見であるが、何故かしっかりと感じ取れる。匂いも、色も、空気も。
少しした後、中から「入りなさい」と声が聞こえた。
「……失礼します」
扉がキィ…と軋む音を発しながら開く。
部屋はやはり、紅色。だが、少し淡くシックな色となっている。イヌが5、6匹…いや、それ以上寝てもまだ余裕のありそうなベッドがある。地下で見たフランドールの部屋とは違い、部屋はやや明るい。
…窓はカーテンで締め切っているが、ふつーに照明が付いてあるのでそれのお陰だろう。そのまま壁際に本棚があり──まあどんな本かは不明だが──ぎっしりと詰まっている。
また、アンティーク調の執務机がドンと置いてあり、いかにも、ここの館の主だっ! 感を醸し出していた。
「ようこそ骸骨さん。お噂はかねがね、聞いているわ」
うふふ…
と、何とも妖艶な雰囲気を持つ少女が喋った。
「あー…そりゃどうも。Sansだ。アンタのことは妹さんから聞いてるぜ? レミリア・スカーレットさんよ」
レミリア・スカーレットらしき人物は執務机にどっしりと構え、肘を立てながら手を組んでいる。何とも…まぁ特徴としては、フランドールと違って、しっかりと翼がついている所だろうか。
「あら、もう知っていたのね。何を話していたのかしら?」
と、目の前のお嬢様は、手を口元へ持っていき、少し姿勢を屈めた。
なんか物々しい雰囲気だな、とSansは思った。
「いや別に、やましいことは話してないぜ。ま簡単に言うなら…お姉ちゃん大好き! みたいな話だったな?」
「…なっどういう、え、…詳しくお願いするわ」
レミリア・スカーレットはさらに、深く顔を隠すように姿勢が低くなる。
「フランドールにアンタのことを聞いてみたんだ…そしたら…そう、アンタのこと褒めてた…ぜ。うん、いつも凛としててカッコイイと言っていた」
実際は精神が幼くて可愛いとも言っていたが。
「……そう、なのね」
ぴょこぴょこと翼が動く。ついでに頬あたりも紅潮していた。極めつけにはニヤケを隠せないにんまり顔。下手したらオイラよりニヤニヤしてるかもな。
と、言うか…読めてきたな、お姉様の人柄。まだ会って間もないから、やたらめったら決めつけるのはよくないが…多分、はっきりと言えることがあるな。
コイツ、さては
「…お嬢様、お話があるのでは」
と咲夜が指摘する。美鈴をボコボコにしかけていたあの凛とした顔はいずこへ。爽やかに口角を上げ、非常に穏やかな表情をしている。
「え? え、ええ…そうだったわね……おほん」
その話はまた後日に、という声が聞こえた。
また聞くのかよ。…でも、
「私の聞きたいことはひとつ」
一本、スラッとしている指が上向きに起き上がる。
「何故、あなたはこの紅魔館へとやってきたのかしら」
レミリアは丁寧に、柔らかな口調でSansを諭す。そのゆったりとした問いかけは、続く。
「目的は? 私たちを殺すため? それとも気まぐれ? ……霧を出していたから?」
穏やかな口調なのにも関わらず、会話の雰囲気は一気に緊張が張り詰めている。
スっと、表情のお面でも被ったかのように、目の前の少女の眼差しは、確実に鋭さを増した。
「…元々、オイラは異変解決目的でここに忍び込んだんだ」
Sansが言葉を連ねて、弁解する。
レミリアの執務机の上にある水晶が、妖しく灯った気がした。
「………それから、まぁザルにも程がある門を潜って、探索して、フランドールと出会って、なんか…あー? 少し真偽はアレだが…ロビーをボッコボコにしたとかなんとか」
レミリアは目を細めて少しだけ俯いた。
「…フフ、なるほど…身に覚えがないのかしらね」
身に覚えがない。その単語に大分引っかかったのだが、聞き返すより先に、レミリアが「咲夜」と呼びかける。
「…いかがされましたか」
「外に出てて貰っても、いいかしら?」
「しかし……いえ、承知致しました」
その瞬間、パッとその場から消え失せる十六夜咲夜。やはり跡形もなく消えている。この唐突に消えるような事象を目にするのは一度目ではない。
あのメイドさんがこの紅魔館の空間を広げているだとか、フランドールが言っていたことを反芻する。
「………さて、気を取り直して」
にこやかな吸血鬼姉がこちらを覗く。目を細め、口角を上げ、愛想良くしている。
「質問を言い換えるわ。あなた、フランドールと……戦っていたわよね」
真顔になった。フランドールがふと覗かせた、あの狂気的な顔とは似ても似つかないが、確かに感じられる。
確固たる意思を持って、まるで家の中にいた虫を見つけたかのような、明確な
「ッ………へへへへ、どうしたんだ? そんな、こわいかおして」
真顔のレミリアが、答える。
「…どうなのかしら?」
「どうもなにも…アンタがそんな顔するから、ビビっちまったじゃねーか」
「……私はそこまで、優しくないわよ」
レミリアの、眼光が更に鋭くなる。
「…へいへい。答えりゃいいんだろ? ったく、イザヨイさんを追い出したのはこのためかよ」
Sansは、続けて言う。
「オイラは、なーんも知らねぇ」
肩、両手を首の位置まで上げて、答える。ちっとも真面目そうには到底見えない態度だった。
水晶が、変わらず、妖しく、光った。
「ふうん…あなた、さっきからずっとヘラヘラしているけれど、思っているよりも、事は深刻なのよ」
ピシャリと、目の前の少女にそう突きつけられてしまった。
事が深刻。そのような言葉から、Sansの頭の中に思い浮かぶのは失敗、手遅れ。
もういくら掘り起こしても残るのは抉れた傷口のみとなった、
「……そりゃ一体、どういうイミだ」
しかし、未だ内容は知らされていない。藁に縋るような思いで、レミリアに問う。
「我が妹、フランドール・スカーレットの記憶が失われたわ」
レミリア・スカーレットの両手が水晶を覆う。
「…なに?」
「原因は…おそらく、あなたと戦い、強い衝撃を受けたから。と推定しているわ。詳しいことはまだパチェ…あぁいや、パチュリー・ノーレッジに調べさせているわ」
オレとの…たたかい?
身に覚えのないことを言われ、沸々と怒りが湧いてくる。しかしそれと同時に、理性が考えを巡らす。
確かにロビーはボロボロで、オレがやったのかもしれない。それにフランドールとやり合ったのも完全に否定できない。…いやむしろ、フランドールから聞いた話から推察するに、ほぼ確定だろう。
ただ、あの後はピンピンしていたはずだ。じゃあなぜ? 強い衝撃? たたかいの反動を受けた? それともあの薄汚いまりょくモドキのせいか?
…………まさか、本当にオレが?
ああくそ、イライラする。本当に、どうなってんだ。
「うふ…やっぱり、心あたりは、あったんじゃないかしら?」
悪魔のような囁きが無いはずの脳を埋め尽くす。
文字通り、眼前に差し迫るほどに距離感が近い。執務机から身を乗り出し、背中の翼を用いて体を支えているようだ。
くりくりとした目が、紅く、鋭い、悪魔的な目が、コチラを覗いている。
「正直な目ね」
ゾワリと来た。背中に、何故か罪が這い上る感覚を覚えた。
やはり只者じゃ無かった。先程まで、いいやつ認定しかけていた自分を、ほんの数分前の自分を殴りたい気分だ。警戒すべきはあの金髪の狂気でもなく、あの赤髪の鍛錬野郎でもなく、銀髪のニンゲンでもない。
真に警戒すべきは、この幼き吸血鬼だった。
「フフッ、今からするのは、当主としての命令じゃなくて…ただの提案」
「……」
「ああ、いいわね、その傾聴の姿勢は好ましいわ。
ま、提案といっても、あなたに悪い話じゃないわよ」
紫と青の混じったような髪色をした吸血鬼は、目を閉じ、続きを紡ぐ。
「フランの記憶が戻るまで、側でお世話でもしてあげてほしいの」
お世話…? …それが、オイラにできることなら、今からでも記憶が戻るなら…だい、じょ、う、ぶ…なの、か?
「…3食お風呂付き、部屋なら有り余ってるし、サポートをする。どう? 悪く無いでしょ?」
「これからよろしくお願いするぜ」
「態度の変わり様がすごいわね」
イライラした気持ちも、背中に張り付く罪悪感も、自分への叱責も、全部ぜんぶ、好待遇のお陰で、いつの間にか消えてなくなってしまっていた。
◆◆◆
【TIPS】〈レミリア・スカーレットー①〉
*天性の
*惑わされたらおしまいだ。掌で弄ばれるぞ。
◆◆◆
「お似合いですよ、サンズ様」
「イザヨイさんよぉ、別に無理してサマとかつけなくてもいいんだぜ? まぁでも、お褒めの言葉はしっかりと頂いたぜ、ありがとさん」
「いえいえ、本当のことを言ったまでですので」
「でもよ、イザヨイさん、一つ聞きたい事があるんだ」
「なんでしょう」
「本当に
「ええ、か、かわい、可愛らしい、ですよ」
「んー、そんなもんなのか? オイラの親愛なる
紅魔館での住み込みが決定した今、Sansは絶賛、正装(?)の試着をしていた。
黒を基調とし、スカートのようなヒラヒラとした状態で衣服、正面やら肩やらに、白色のフリフリが付いており、随分と可愛らしいデザインとなっている。
その服に身を包むのは、新人世話係ことSans君。
「……やっぱおかしくねぇか? 誰だ? これをオイラに着せようって提案したの」
「レミリアお嬢様にあらせられます」
「ぐ、雇われてる身からすると、ジョウシには逆らえないか?」
「Sans様専用の服は後日、人里で作ってもらうので、暫くはそれで我慢なさって下さい」
「オイラは男だろ? もうちょいカッコイイのはないのかぁ…?」
「……サンズ様は本当に男なのでしょうか。確かにお声は男性に聞こえなくもないような気がしますが。骸骨ですし、どちらなんでしょうか」
「ふーむ確かに。言われてみれば勝手に男だと解釈してたけど、オイラってどっちなんだろう。確かにモンスターにもオスメスの区別はあるが…
あー、タブン、ニンゲンほど重要視はされてないしなぁ」
「謎、ですか」
「ナゾ、だな」
メイドコスにしか見えない骸骨と、正真正銘のメイドが真面目な顔をして、そんなことを呟いていた。
久しぶりの投稿があんまり話進まなくてゴメンね。
気長にお待ちください。
ちょっと待たせすぎ感はありますがね…