東方骸骨伝   作:くるっくー

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第十二話 笑うガイコツ服着たる

コンコンコン。と3回ノックの音が響く。

 

 

 

ロビーのように、あの華々しくも妖しい雰囲気を漂わせていた場所と比べると、どこか素朴な扉だった。特別豪華ではなく、ただの木製特有の落ち着く(かお)りが漂う。

 

 

 

骸骨という、一見感覚器官のなさそうな外見であるが、何故かしっかりと感じ取れる。匂いも、色も、空気も。

 

 

 

少しした後、中から「入りなさい」と声が聞こえた。

 

 

 

「……失礼します」

 

 

 

扉がキィ…と軋む音を発しながら開く。

 

 

 

部屋はやはり、紅色。だが、少し淡くシックな色となっている。イヌが5、6匹…いや、それ以上寝てもまだ余裕のありそうなベッドがある。地下で見たフランドールの部屋とは違い、部屋はやや明るい。

 

 

 

…窓はカーテンで締め切っているが、ふつーに照明が付いてあるのでそれのお陰だろう。そのまま壁際に本棚があり──まあどんな本かは不明だが──ぎっしりと詰まっている。

 

 

 

また、アンティーク調の執務机がドンと置いてあり、いかにも、ここの館の主だっ! 感を醸し出していた。

 

 

 

「ようこそ骸骨さん。お噂はかねがね、聞いているわ」

 

 

 

 

うふふ…

 

 

と、何とも妖艶な雰囲気を持つ少女が喋った。

 

 

 

「あー…そりゃどうも。Sansだ。アンタのことは妹さんから聞いてるぜ? レミリア・スカーレットさんよ」

 

 

 

レミリア・スカーレットらしき人物は執務机にどっしりと構え、肘を立てながら手を組んでいる。何とも…まぁ特徴としては、フランドールと違って、しっかりと翼がついている所だろうか。

 

 

 

 

「あら、もう知っていたのね。何を話していたのかしら?」

と、目の前のお嬢様は、手を口元へ持っていき、少し姿勢を屈めた。

 

 

 

なんか物々しい雰囲気だな、とSansは思った。

 

 

 

 

「いや別に、やましいことは話してないぜ。ま簡単に言うなら…お姉ちゃん大好き! みたいな話だったな?」

 

 

 

「…なっどういう、え、…詳しくお願いするわ」

 

 

 

レミリア・スカーレットはさらに、深く顔を隠すように姿勢が低くなる。

 

 

 

「フランドールにアンタのことを聞いてみたんだ…そしたら…そう、アンタのこと褒めてた…ぜ。うん、いつも凛としててカッコイイと言っていた」

 

 

 

実際は精神が幼くて可愛いとも言っていたが。

 

 

 

 

「……そう、なのね」

 

 

 

ぴょこぴょこと翼が動く。ついでに頬あたりも紅潮していた。極めつけにはニヤケを隠せないにんまり顔。下手したらオイラよりニヤニヤしてるかもな。

 

 

と、言うか…読めてきたな、お姉様の人柄。まだ会って間もないから、やたらめったら決めつけるのはよくないが…多分、はっきりと言えることがあるな。

 

 

 

 

コイツ、さては悪い奴ではない(イイ奴だ)な?

 

 

 

 

「…お嬢様、お話があるのでは」

 

 

 

と咲夜が指摘する。美鈴をボコボコにしかけていたあの凛とした顔はいずこへ。爽やかに口角を上げ、非常に穏やかな表情をしている。

 

 

 

「え? え、ええ…そうだったわね……おほん」

 

 

 

その話はまた後日に、という声が聞こえた。

 

また聞くのかよ。…でも、姉妹(きょうだい)の話は気になるのも仕方ないか。

 

 

 

「私の聞きたいことはひとつ」

 

 

一本、スラッとしている指が上向きに起き上がる。

 

 

 

「何故、あなたはこの紅魔館へとやってきたのかしら」

 

 

 

レミリアは丁寧に、柔らかな口調でSansを諭す。そのゆったりとした問いかけは、続く。

 

 

 

「目的は? 私たちを殺すため? それとも気まぐれ? ……霧を出していたから?」

 

 

穏やかな口調なのにも関わらず、会話の雰囲気は一気に緊張が張り詰めている。

 

スっと、表情のお面でも被ったかのように、目の前の少女の眼差しは、確実に鋭さを増した。

 

 

 

「…元々、オイラは異変解決目的でここに忍び込んだんだ」

 

 

Sansが言葉を連ねて、弁解する。

 

 

 

レミリアの執務机の上にある水晶が、妖しく灯った気がした。

 

 

 

「………それから、まぁザルにも程がある門を潜って、探索して、フランドールと出会って、なんか…あー? 少し真偽はアレだが…ロビーをボッコボコにしたとかなんとか」

 

 

 

 

レミリアは目を細めて少しだけ俯いた。

 

 

 

「…フフ、なるほど…身に覚えがないのかしらね」

 

 

身に覚えがない。その単語に大分引っかかったのだが、聞き返すより先に、レミリアが「咲夜」と呼びかける。

 

 

「…いかがされましたか」

 

 

 

「外に出てて貰っても、いいかしら?」

 

 

「しかし……いえ、承知致しました」

 

 

 

その瞬間、パッとその場から消え失せる十六夜咲夜。やはり跡形もなく消えている。この唐突に消えるような事象を目にするのは一度目ではない。

 

あのメイドさんがこの紅魔館の空間を広げているだとか、フランドールが言っていたことを反芻する。

 

 

 

「………さて、気を取り直して」

 

 

 

にこやかな吸血鬼姉がこちらを覗く。目を細め、口角を上げ、愛想良くしている。

 

 

 

「質問を言い換えるわ。あなた、フランドールと……戦っていたわよね」

 

 

 

真顔になった。フランドールがふと覗かせた、あの狂気的な顔とは似ても似つかないが、確かに感じられる。

 

確固たる意思を持って、まるで家の中にいた虫を見つけたかのような、明確な()()が醸し出される。

 

 

「ッ………へへへへ、どうしたんだ? そんな、こわいかおして」

 

 

真顔のレミリアが、答える。

 

 

「…どうなのかしら?」

 

 

 

「どうもなにも…アンタがそんな顔するから、ビビっちまったじゃねーか」

 

 

 

「……私はそこまで、優しくないわよ」

 

 

 

レミリアの、眼光が更に鋭くなる。

 

 

 

「…へいへい。答えりゃいいんだろ? ったく、イザヨイさんを追い出したのはこのためかよ」

 

 

Sansは、続けて言う。

 

 

「オイラは、なーんも知らねぇ」

 

 

肩、両手を首の位置まで上げて、答える。ちっとも真面目そうには到底見えない態度だった。

 

 

 

水晶が、変わらず、妖しく、光った。

 

 

 

「ふうん…あなた、さっきからずっとヘラヘラしているけれど、思っているよりも、事は深刻なのよ」

 

 

ピシャリと、目の前の少女にそう突きつけられてしまった。

 

事が深刻。そのような言葉から、Sansの頭の中に思い浮かぶのは失敗、手遅れ。

 

もういくら掘り起こしても残るのは抉れた傷口のみとなった、彼の歴史(ストーリー)。またか、またなのか。何故か自分の声にそう言われた気がした。

 

 

「……そりゃ一体、どういうイミだ」

 

 

しかし、未だ内容は知らされていない。藁に縋るような思いで、レミリアに問う。

 

 

 

 

「我が妹、フランドール・スカーレットの記憶が失われたわ」

 

 

 

レミリア・スカーレットの両手が水晶を覆う。

 

 

「…なに?」

 

 

「原因は…おそらく、あなたと戦い、強い衝撃を受けたから。と推定しているわ。詳しいことはまだパチェ…あぁいや、パチュリー・ノーレッジに調べさせているわ」

 

 

オレとの…たたかい?

 

 

 

身に覚えのないことを言われ、沸々と怒りが湧いてくる。しかしそれと同時に、理性が考えを巡らす。

確かにロビーはボロボロで、オレがやったのかもしれない。それにフランドールとやり合ったのも完全に否定できない。…いやむしろ、フランドールから聞いた話から推察するに、ほぼ確定だろう。

 

ただ、あの後はピンピンしていたはずだ。じゃあなぜ? 強い衝撃? たたかいの反動を受けた? それともあの薄汚いまりょくモドキのせいか?

…………まさか、本当にオレが?

 

 

ああくそ、イライラする。本当に、どうなってんだ。

 

 

 

 

 

 

「うふ…やっぱり、心あたりは、あったんじゃないかしら?」

 

 

 

悪魔のような囁きが無いはずの脳を埋め尽くす。

 

 

文字通り、眼前に差し迫るほどに距離感が近い。執務机から身を乗り出し、背中の翼を用いて体を支えているようだ。

 

 

くりくりとした目が、紅く、鋭い、悪魔的な目が、コチラを覗いている。

 

 

 

「正直な目ね」

 

 

ゾワリと来た。背中に、何故か罪が這い上る感覚を覚えた。

 

 

 

やはり只者じゃ無かった。先程まで、いいやつ認定しかけていた自分を、ほんの数分前の自分を殴りたい気分だ。警戒すべきはあの金髪の狂気でもなく、あの赤髪の鍛錬野郎でもなく、銀髪のニンゲンでもない。

 

 

 

 

真に警戒すべきは、この幼き吸血鬼だった。

 

 

 

「フフッ、今からするのは、当主としての命令じゃなくて…ただの提案」

 

 

「……」

 

 

「ああ、いいわね、その傾聴の姿勢は好ましいわ。

 

ま、提案といっても、あなたに悪い話じゃないわよ」

 

 

 

紫と青の混じったような髪色をした吸血鬼は、目を閉じ、続きを紡ぐ。

 

 

 

「フランの記憶が戻るまで、側でお世話でもしてあげてほしいの」

 

 

お世話…? …それが、オイラにできることなら、今からでも記憶が戻るなら…だい、じょ、う、ぶ…なの、か?

 

 

「…3食お風呂付き、部屋なら有り余ってるし、サポートをする。どう? 悪く無いでしょ?」

「これからよろしくお願いするぜ」

 

「態度の変わり様がすごいわね」

 

 

 

イライラした気持ちも、背中に張り付く罪悪感も、自分への叱責も、全部ぜんぶ、好待遇のお陰で、いつの間にか消えてなくなってしまっていた。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【TIPS】〈レミリア・スカーレットー①〉

*天性の魔性(カリスマ)

 

*惑わされたらおしまいだ。掌で弄ばれるぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「お似合いですよ、サンズ様」

 

 

「イザヨイさんよぉ、別に無理してサマとかつけなくてもいいんだぜ? まぁでも、お褒めの言葉はしっかりと頂いたぜ、ありがとさん」

 

 

「いえいえ、本当のことを言ったまでですので」

 

 

「でもよ、イザヨイさん、一つ聞きたい事があるんだ」

 

 

「なんでしょう」

 

 

 

「本当にこの服(メイド服)で合ってんのか?

 

 

 

「ええ、か、かわい、可愛らしい、ですよ」

 

 

「んー、そんなもんなのか? オイラの親愛なる黄色トカゲ(オタク)の情報によると、男はもっとすらっとしたもん来てるはずなんだが…」

 

 

 

紅魔館での住み込みが決定した今、Sansは絶賛、正装(?)の試着をしていた。

 

 

黒を基調とし、スカートのようなヒラヒラとした状態で衣服、正面やら肩やらに、白色のフリフリが付いており、随分と可愛らしいデザインとなっている。

 

その服に身を包むのは、新人世話係ことSans君。

 

 

「……やっぱおかしくねぇか? 誰だ? これをオイラに着せようって提案したの」

 

 

「レミリアお嬢様にあらせられます」

 

 

「ぐ、雇われてる身からすると、ジョウシには逆らえないか?」

 

 

「Sans様専用の服は後日、人里で作ってもらうので、暫くはそれで我慢なさって下さい」

 

 

 

「オイラは男だろ? もうちょいカッコイイのはないのかぁ…?」

 

 

「……サンズ様は本当に男なのでしょうか。確かにお声は男性に聞こえなくもないような気がしますが。骸骨ですし、どちらなんでしょうか」

 

 

 

「ふーむ確かに。言われてみれば勝手に男だと解釈してたけど、オイラってどっちなんだろう。確かにモンスターにもオスメスの区別はあるが…

 

あー、タブン、ニンゲンほど重要視はされてないしなぁ」

 

 

 

「謎、ですか」

 

 

「ナゾ、だな」

 

 

 

メイドコスにしか見えない骸骨と、正真正銘のメイドが真面目な顔をして、そんなことを呟いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




久しぶりの投稿があんまり話進まなくてゴメンね。
気長にお待ちください。

ちょっと待たせすぎ感はありますがね…
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