暗い暗い、ニンゲンには少し暗い廊下。Sansとフランドールは未だそこをさまよっていた。
見慣れてきた景色なのか、Sansは頭をポリポリと掻きながら口を開く。
「紅魔館ってホントに広いな…流石にそろそろうんざりしてきたな…」
「あはは…ワタシもこんな所あったか覚えてないや。でも全部咲夜とお姉様がやった事だからね。」
「…お姉様とサクヤって妖怪がやったのか?」
あははっ。
Sansのテキトーな考察を聞くと、フランドールは噴き出してしまった。
「違う違う。咲夜は妖怪じゃなくて人間だよ」
「ニンゲン…。んで? 何が変わってるんだ?」
「うん? 基本的にここのみんな変わり者だよ?」
「違う違う…あーと、この紅魔館がどう変わってるのかって事だ」
あー…なるほど。…と、Sansの問いかけに答えながら、お気に入りのサイドテールをクルクルと弄る。
「…この館、外から見るより大きいんだ。それで、咲夜は自分の能力を応用していて…まぁ簡単に言っちゃうとね?」
「おう」
「空間を広げてるってこと」
Sansの目から白い丸が消える。
「んん?? それ、軽く物理法則を無視してないか…? 外側を変えずに内を広げる…?」
「詳しくはワタシも分かんないんだけど。…能力ったって、ほとんど感覚で使うものだと思うから…本能で出来るんじゃない?」
「いんやぁ………それにしたってソイツはなぁ…」
「あはは…まぁ確かに規格外かもしれないけどね」
「オイラんとこだって空間を広げるまほうなんて無かった…筈だ。出来るとしたらソウル…」
「そうる?」
「…や、なんでもねぇさ。」
ところで、と話をすり替える。
「これ無限ループとかじゃ……お? 曲がり角か? アレ」
「わっ…ホントだ。存在してたんだ……」
「おいおい…」
「あ〜はは〜…」
何はともあれ良かった、そう安堵した。
曲がり角の先にはまたまた長ーい廊下。感情の乱高下が激しくなる。
またあの道のりを進むのかと思えば流石に億劫になるのも仕方ないだろう。
「よし、なるべく速く楽に効率的に移動する方法を考えよう」
「速く…楽に?」
「やっぱりな、フランドールが話し相手にいるとは言え、長続きさせるのは難しい」
フランドールが困惑気味に頷く。
「あとは何かやってた方が楽しい探検、になるだろ?」
「それは…そうかもね」
「そういう訳。なんだが…疲れることはしたくない。そういう性分なんでな」
「うんうん…?」
さてどうしようか。足は動きつつ、頭は考えることに耽っていく。
そこで不意にフランドールがあっ、と言った。
「ワタシが持ち上げて運んであげようか?」
普通の感性を持ち合わせていたら噴き出すようなことを、突然言い出した。
しかし…Sans、彼はスケルトン。モンスターの中でも男女の差異が分かりにくい種族である。
それに加え、彼自身ともう一人以外は同じ種族を見たことが無かった。
もちろん、知識としてはあるが、イヌの雄か雌かの違い程度だと彼は考えている。
つまり、Sansには女性の扱いや遠慮など、その他諸々の価値観かまるっと違っていた。
「え、いいのか? いや、そもそもお前さん、オイラよりちっちゃいだろ。出来るのか?」
「問題ない筈だけど。飛べば多少は軽減されるし…サンズって肉無いでしょ?」
男性とは、もとい世間を知らないのはフランドール、こちらもであった。
まぁ人の価値観が引きこもりの妖怪にも適用されるかと言ったら…そんなことはないだろう。
「あぁ…確かに。んじゃいけるか…?」
「よしッ! それじゃ決まりだね!」
フランドールはSansの側へ近寄り、膝と肩甲骨あたりに手を添える。
「?! ぬおっ…ちょおっ…これお姫サマッ」
所謂お姫様抱っこだ。そのように持ち上げられ、全体重をフランドールに預ける。まぁ所詮は骨だけだから、大丈夫だろう。
そう思っていた。
「…わっ! 」
ドサッ
「…え」
「……〜〜〜っ!///// さ、さんず!!」
「うお、何だよ…ビックリしたじゃねぇか」
「あ、えと…その…ど、退いて……///」
さっきまで自信に満ちていた彼女の顔はまさに真っ赤寄りのピンクになっていた。
二人は顔を見合わせている。フランドールが座り込んでいるその上に、Sansが状態を崩してしまったという状態だが。
「……やっぱ重かったか?」
「んもぉー! いいからどいてぇー!」
【TIPS】<トラウマ﹣①>
*トラウマというのは人を縛り付ける鎖のようなものである。
*時に本来よりも弱化させることもあり、時に死に追いやることもある。
こちら、未だに紅魔館廊下内。
「heh…悪かった。オイラが悪かったからよ。な、許しちゃくれねぇか」
「ふんっ……知らないもん」
「あ〜…こりゃダメだ」
腕を折り曲げ、更に両肩を上げたポーズを取る。まさにお手上げ状態である。
フランドール。本物の吸血鬼…それもその力を見たことがないオイラが言ってもなんだが、さっきのコイツの自信がどこから湧いてきたのか、と考えればここまで非力な筈がないだろう。
背丈はガキでも馬鹿じゃない…そんな気がするだけかもしれないけどな。
自分の力を見誤る、そんなことが起こるか? 普通。
ましてやオイラすら持ち上げられないなんてな。さっきのフランドール、震えていた気がするし。気のせいか? …分かんねぇな。
……うーん、それもコイツの“過去”がなにか……いや、余計な詮索、勝手な妄想は良くない。シツレイに値するな。
ま、それはさておき…どうすっかな。
…何故か怒らせちまったからな。
何が原因、やっぱ全体重預けたのが不味かったのか?
「…えーと、サンズ」
「ん? なん……あ、もうゴールか?」
目指していた扉を見つけた。どうやらここが終点のようだ。
「うん。サンズずっと上の空だったよ」
「あーマジか。悪いな、クセだ」
数メートル先には扉。Sansは早速ドアノブに触れる。
「…よし、行くぞ」
「うん」
ガチャりと扉を開け、先に進む。
そこは広く、吹き抜けになっていた。どうやらここから下を見下ろせそうだ。
おっ、とSansが小さい声を出す。
「ここは…紅魔館の玄関…
「えぇ…構造がどうなってるのか…頭がクラクラする〜」
「多分考えるだけ無───」
無駄だろ。
そう言おうとした時、下の方に人型の何かが倒れているのに気が付く。
「…? どうし……ッ! さ、咲夜?!」
ばっ…と、フェンスに置いた手を支点にし、フランドールが身をかがめながら飛び降りる。
「んなっ、サクヤだと?! ちょ、ちょっと待て!」
Sansは能力を行使しフランドールに追いつく。
「おい、コイツがサクヤか?」
「…うん。でもこれは…」
「傷だらけ……所々深くいっちまってるな」
どうしようか…ニンゲンの身体の構造なら分かる……ただ、処置はどうすれば……
「と、とりあえず……なんだ、傷口って確か水やらなんやらで洗うんだっけか…??」
「わ、分かんない……」
「うーん…確かニンゲンは空気がないと死んじまうらしかったような……呼吸しやすい体勢にするには……」
全身骨である自身の身体を触りながら、ラクな体勢を模索してゆく。
咲夜らしき人物の身体を横へ向け、彼女の腕を枕代わりにした。
ニンゲンの構造とか考えても分からなんだ…そもそもこの知識を使うとは思わなかったな。
「……呼気はあるか…? 大丈夫そうだ……っと、よし、これで呼吸は大丈夫…か?」
「う、あ、う……だ、大丈夫なの…?」
フランドールは大分錯乱状態に陥ってるみたいだな。
「落ち着け、慌てたらロクな事にならない。
オレ………いや、オイラの経験則がそう言ってる」
─だから大丈夫だ。
また、そう、言いかけた時に…Sans達が来た扉とは反対側。その下の方の扉から物音がした。