ガタッ
勢いよく扉が開いた。
ん? なんだ? アイツら…
「はぁっ…なーんだ、妖精メイドだったのね。驚いて損しちゃった」
「妖精メイド?」
気になった単語を繰り返して聞き返す。
「うん、メイド服着たあの小さいあいつらのこと。いっつも遊んでるサボり魔だよ。ま、ワタシにとってはただの雑魚、なんだけど」
ワオ、中々言うな。そこまでなのかこいつら。
などと考えていると、そのちびっ子達がこちらへと寄ってきた。
「メイド長!!! メイド長!!!」
「メイド長が! 」
「こいつらにやられたノカ!」
「…へいへい、なんか流れ不穏じゃねぇか? なぁフランドール」
「確かに…何か誤解されてるような…でも大丈夫! 紅魔館当主の妹たるこのワタシが説得してあげる!!」
「「だれダ! おまえ!」」
……忘れられてないか?
「…気にすんなよ」
「気にしてない…ぐすん」
「お、OK?」
ドワァッと声が広がる。
「みんなぁ! かかれぇ!!!」
「「サクヤさんのかたきぃぃ!!」」
「「「「ぉぉおおお」」」」
「うまくいったらお賃金上がるぞぉぉおおお!!」
「「「「「「「「「「「「ぉぉぉおおおおおおおおぉぉぉあああおお!!!!!!!!!」」」」」」」」」」」」
うおぉぉ……てか賃金て、まぁ確かにカネの方が大切だろうけど。
「んもう許さない!! ワタシだって本気出すから!!」
フランドールが少し前のめりにかがみ、その華奢な足にチカラを溜める。
ブゥオン
Sansの横を恐ろしい程の風圧を出しながら飛び出して行くフランドール。
Sansはその姿を確認することが出来なかった。
その時初めて、
「?! ッ速すぎだろ……」
ここまで速いとなると先程何故自分を持ち上げられなかったのか。その謎がますます深まる。…ま、考えるだけ無駄か。
フランドールが飛び出して3秒にも満たない時間。
1秒で距離を詰め、
2秒で拳を握る。
3秒で────
──その勢いは止まった。
「あうっ」
顔から崩れ落ち、煙が出そうな程の勢いで床を滑る。
「フランドールっ?!」
ふらっとしつつも、立ち上がる。その姿は産まれたてのイヌ。
足腰がしっかりしておらず、立てるか立てないかの境界をさまよっている状態。
フランドールは今、チカラが入っていない。
その様子を、Sansは静かに見ていた。
「うがっぁ──」
小さな悲鳴が木霊する。
「─! フランドールッ」
遅すぎるんだよ、何もかもが。
「うっく…」
様々な色をしたキレイな弾幕がフランドールに襲いかかる。
待て、まてまてまて。
突然のイレギュラーな展開に頭がこんがらがる。
オレは一体何をすればいい? 見てりゃいいのか?? ただ……見ているだけで……ホントか…?
「…は、まただ…」
足が動かない。まりょくで出来ているはずの骨の脚が動かない。
視界は真っ白になり、
空っぽの頭蓋骨に
─《オレサマはお前を信じるぞ!》─
─《お前はイイやつになれる!》─
─《例えそうお前が思ってなくてもな!》─
─《約束する…オレサマは───バキり。
───「そうだもんな。約束、だもんな」》
《「heheheh……」》
─《you’ve been busy, huh?》─
*■■■ で 満たされた
Sansがポケットから左手を出し、それを上へと振り上げた頃には、
静寂が訪れていた。
◆◆◆
【TIPS】<トラウマ﹣②>
*トラウマというのは染み付いた記憶である。張り付いて頭から離れないだろう。
*時に我を忘れさせ、時に身を任せ、蘇り、時に心への傷を深く、深く抉る。その循環を繰り返す。
*なんとも厄介な存在。
◆◆◆
ず ぶ。
耳元でそんな音を聞いた。
「…ヒッ…」
「……ぃッ…あ、あぁ…いだい…いだいよぉ」
「あ、ぁぁ…」「うっぅ…」「……くぅっ」
状況をまるで理解できない。さっきまで沢山いたはずの妖精は? 地に伏している。
何が起こって? 四肢に…骨のような物が、刺さっている。
サンズは? 手を上げて……妖力、いや魔力?分からないけど、そんな感じのチカラを感じる。
怖い。
「ふ、震えてる…ワタシの…手が…?」
本能的な恐怖。
これでもお姉様と同じ、吸血鬼。恐るるに足りない筈。どうして? さっきも肝心なところでチカラが入らなかった。早く原因を───
[!]
赤色の警告。魔力のようなものが辺りに漂っている。これは………サンズがやっていること。
青い、綺麗な瞳。時折
その骸骨が今、何をしようとしているのか、全く分からない。
しかし、確実に良くないことが起こる。そう思った。
「…ッ! サンズ!! 待って!」
チカラが入る。全身を使って叫びに叫ぶ。その声は届いたのか、サンズが一瞬、仰け反るのを確認出来た。
その隙を
今出せる最高速度。その一身に突風が巻き起こる。
─先程より速い。
─チカラを抜くな。
─必ず捉えろ。
─ここで捉えられなければ己諸共やられるだろう。そう思え。
自分にそう自己暗示しながら着実に近づく。
目の前には目の中を真っ黒にした骸骨の姿。妖怪のようであり、妖怪ではないその姿は全身の毛を逆立たせる。
正しくソイツは
──でも、やるしかない…!
己を奮い立たせ、行動をする。骸骨の首根っこを掴まんと吸血鬼の左手が繰り出される。
「ゴメンね…ッ」
相手に聞こえるかも分からないか細い声で、一人の吸血鬼は言葉を発した。
仕留め─
─ていない。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
*世界の色が消え失せる。
*そこは白と黒で構成された空間。
*そこにいるのは、吸血鬼と骸骨のみ。
《「It's a beautiful day outside.」》
っは? 消え…た?
《「birds are singing」》
違うッ、後ろッ。
《「flowers are blooming」》
何を言っているの…?!
今まで聞いたことの無い言葉…サンズッ 彼は一体─
《「on days like these, kids like you」》
ゾワリ。
神経を逆撫でするかのような感覚。
聴いていて不快、不愉快極まりない。
でも──
《「s h o u l d b e b u r n i n g i n h e l l」》
──やるしかないでしょ。
*kッ位 が 脇 DelL。
*欠 ィ が 湧 気出ッル
*毛槌が 耳湧き出留
*決意 が み、みた湧き出る。
突然、身体にのしかかるような重さを感じた。どうやらサンズの仕業の様だ。
「一体どうやってるのか分からないけどっ…やるしかないみたいね」
[!]
《「heh、足元に気を付けな」》
またまた唐突に出現する赤色の警告。明らかな危険色、これだけは彼の優しさであると言えるのでは無いか、そう思った。
「…不味いッ、跳ばなきゃっ…と」
ジャンプで回避する。すると、先程まで感じていた重圧が消え失せた。
「…飛べる─…ッ! よっ、ほっ!」
目の前まで迫ってきていた骨の壁を通り抜ける。どうやらウェーブ状に通り道があったようだ。
今まで培ってきた弾幕戦闘技能を駆使し、避ける。
《「まだまだいくぞ、クソガキ」》
「…くっ、まだあるの?!」
Sansはポケットから出した左手を振る。
その目はあの時、サンズに探検へと誘ってもらったときの目と似ていた。
何故か惹き付けられる蒼い目、それを見ているだけで時間が潰せそうな程綺麗な目。しかし決定的な違いがあった。
その蒼さは濃く、そしてその中に垣間見える黄色の光が輝く。
「──っ! 弾幕は?!」
不味いっ…考えるよりも先に身体を動かさなくちゃ…───?
*その世界は 静寂 で 満たされている 。
《「what's happened? 何故……?」》
*
コツン、コツン、と骨と骨のぶつかる音がする。
「指を…鳴らしてる…?」
《「クソっ…何故だ…! Blaster!」》
「ブラスター…?」
気になる単語を口に出す。
でも今はそれどころじゃない。サンズの暴走…なんでこうなったのか分からないけど、ワタシはそれを止めなければいけない。そんな気がしてる。
だから、今はチャンスだ。
ゆらりと身体を揺らし、またもや風圧を起こしながら飛び込む。
当たれ、当たれと祈りながら。
しかしまたもやその握りこぶしは空を切った。
《「──heheh……仕方ねぇな」》
その声はまたもや背後から聞こえた。
な、また背後に回られた?! いくらなんでも、目で追えないのはおかしい…まさか、咲夜と似た能力…?
まだ確定出来ないけど、可能性としては有り得る。……だとしたら、かなり恐ろしいかもね。
《「…どうやらBlasterが動かねぇみてぇだが…アンタはこれも知ってるのか? ま、オレは仕事を全うすりゃいいんだ」》
簡単だろ。
Sansはそう言い、手を伸ばす。そして指先をクイッと繰り返し曲げる。
挑発のジェスチャー。3回ほど曲げられた時、戦いの火蓋が切られた。
Sansは距離を取り遠距離から攻撃を仕掛け、フランドールは距離を詰めて接近戦を仕掛ける。しばらくはこの繰り返しであった。
◆◆◆
骨だけが飛び交い、シャンデリアやその他の装飾が傷つく。
◆◆◆
フランドールは相も変わらず拳を振るう。この幻想の土地でのルールを理解していない訳ではなかった。それでもフランドールは接近戦を仕掛ける。
◆◆◆
傷付けないように。かつて自分がやったことを反省し、出来るだけ傷付けないように、一番手加減の利く近接攻撃へ頼る。
◆◆◆
それでも攻撃は当たらない。確実に仕留められる位置にいたのに、気が付いたらそこは忽然としていた。
◆◆◆
「ちィっ、当たらなァーいなぁ 」
《「……」》
「ネぇーえ! 何
その問いかけには答えない。いや、あるいは応えないのか。
どちらにせよ、Sansとフランドールの会話は既に成立しなくなっていた。
「…ふぅ〜っ…もう、イイのかな…?」
少女は心に決めたモノを抱いて期待する。
「…せっかく手加減してあげようと思ったのにね…うふ、仕方ナイよねぇ?」
《「死ね」》
ズガガガガ
地面から無数の骨が生え、フランドール目掛けて伸びてくる。フランドールはその骨を捌き、砕き、避ける。
「あはっ中々壊れないし……イイよネ」
《「お前さんには分からないだろうな。一瞬にして世界が終わってしまう、その事を知っている恐怖をな」》
「ふひ…ヒハハ…分カルわけないでしょ」
《「……」》
これは正真正銘の殺し合い、に良く似ており、再現されつつあった“
怪物と妖怪の“