東方骸骨伝   作:くるっくー

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第六話 満月は目を覚ます

 

 

 

フーっ、フーっ……

 

 

 

う…うぅ……

 

 

 

「がホッ、ゴホッ……う、ぅぅ…」

 

 

 

目が覚めた。どうやら横になっていたようだ。

 

 

 

…えと、ここは……?

 

 

 

身体が重い。………あぁ、思い出した。私は…敗北した…

 

 

 

 

何に? …博麗の巫女。

 

 

 

 

どうやって… …そう、油断していた。完全に彼女(人間)を舐めてたわ。

 

 

 

 

お嬢様は今頃……恐らく、博麗の巫女と交戦。あるいは…もう既に

 

 

 

 

「いゅっ──ゲホッ ゴホッ」

 

 

 

仰向けの体勢のまま、咳き込む。辛い。身体に残っているダメージが動くことを阻害する。全くと言っていいほど動かない。

 

 

 

 

先程、咳によって防がれた言葉を頭の中で紡ぐ。

 

 

 

……もし、既に戦っているのならば、それはきっとお嬢様にとって、私や紅魔館の皆にとって素敵な……それはとても素敵な事になっている筈。

 

 

 

私には出来なくても、お嬢様ならば。きっと。

 

 

 

そう信じる事しか今は出来なかった。

 

 

 

状況の整理がようやっと出来た。

 

 

 

しかし、発声しようと試みても、出ない。

 

 

 

出せない。それは忘れたかのようだった。今、自分の身体がどうなっているのか、途端に不安を煽られる。

 

 

 

「……め、メイド長… お、起き、マシタ…?」

 

 

 

聞き慣れた声。少なくとも今、この急な状況においてその音は十六夜咲夜(いざよい さくや)、彼女の心を安堵で満たした。

 

 

 

ヒューッ…ヒューッ…と間抜けな呼吸音だけが響く。

 

 

 

だがちっぽけな者にとってはそれだけで十分だったのか、その存在はニコリと笑った。

 

 

 

そして、少し申し訳なさそうに喋る。

 

 

 

「…う、メイド長、ご無事で、何より、デス」

 

 

 

どこか辛そうに見える。他の仕事仲間はどうしたのか。何故そんな顔をしているのか、いつも通りのあほヅラはどこに行ったのか。

 

 

 

聞きたいことは山ほどあった。 ただ、身体が動かない。今喋れば咳で抑えられる。

 

 

 

「……ヒューッ……あ、ぁぁ〜 けホッ」

 

 

 

再度声を絞り出してみる。

 

 

 

今度は長く発声できた。

 

 

 

「あァっそんな、ムリしないでくだサイ。メイド長、貴方は私達より酷い状態なんですよ」

 

 

──私達の傷が治ったらパチュリーさまのトコロへ運んでいきますカラ。

 

 

 

続けざまにそう言った。

 

 

 

「あ、あぁー……おー…ヒューッ……ゴホッゴホッ」

 

 

 

「あっ、キケン、ですヨ!」

 

 

 

私が咳き込む度に目の前に居る妖精メイドは私の身体を気にかける。……普段ちっとも仕事しない癖に、こういう時だけ勤勉なんだから。

 

 

 

それでもお構い無しに発声を続ける。

 

 

 

 

「あ…く、ほ、ほがの、み"んな"…は?」

 

 

 

「……もうッ…みんなも…大丈夫デス。ちょっと怪我しちゃってマスけど、すぐに再生しマスから」

 

 

 

「…けが…っ 」

 

 

 

 

少しだけ呼吸に専念する。ここまで身体がボロボロになっているとは思わなかった。

 

 

 

 

ホント、あの巫女…容赦が無いんだから。

 

 

 

「大したコト、ないデスよ。メイド長は安心シテ休んで──

 

 

 

 

さっきまでの手に体重を掛けて座る姿勢。その前のめりだった、姿勢が崩される。

 

 

その時、小さく、それでいて生命としての悲痛な──苦しみの声が漏れ出た。

 

 

 

──ひュっ……う」

 

 

 

それをメイド長は聞き逃さなかった。

 

 

 

「…どう、したの」

 

 

 

問い掛けながら、視線を下の方に向ける。

 

 

 

小さな、小さな妖精の小さくて太もも。ソコへポッカリと空いた()が──

 

 

 

 

「あ、ああっ…何でもナイんですよッ! 大っ丈夫ナノで! だカラ、今は休んで」

 

 

 

紅魔館メイドの象徴である、メイド服。そのスカートを急いで伸ばす妖精。

 

 

 

……なんだった? 今のは。()…? 太ももに()が空いていた?

 

 

 

自分の目を疑うより先に、身体が動こうとする。動かそうとしても動かない。痛い。辛い。制御が出来ない。力が入らない。

 

 

 

う、ぐ、ぐ…

 

 

 

確固たる決意で身体を転がし、地に手と膝をつける。

 

 

 

 

「ァ! 動いちゃいけなっ……い"ッ─」

 

 

 

 

「み、せなさい……はーっ…はーっ」

 

 

 

 

ハラり、小さなメイドの小さい──ものにしてはちょっと長めのスカート、それを捲る。そこには白いタイツを履いた脚と、脚と…脚と、()

 

 

 

貫通していた。何がここまで酷い怪我を負わせたのかは分からないが、人体の欠損すらさせてしまうような戦いをこの子達がする訳が無い。

 

 

 

グルグルぐるぐる。

 

 

 

抉れるような傷。いや、傷と言うのもおかしくなってくるほどだ。

 

 

 

 

妖精だからか、ヒトのように血や肉が飛び出してくることは無い。その様子が更に咲夜を混乱に陥れてゆく。

 

 

 

 

もう分からない。頭が真っ白になる感覚。

 

 

 

「う、うへへぇ…バ、バレちゃッタ」

 

 

 

 

バレちゃった。

 

 

 

「バッ、な、によ……これ」

 

 

 

 

そこでようやっと、視野が広がる。周りにも沢山の妖精メイドがいることに気が付く。

 

 

 

みんな、同じように座り込んで。苦しんでいる。

 

 

 

 

ハァッ…はぁっ…と、必死に呼吸する音が妙に響く。

 

 

 

 

ま、まさか……みんなも…?

 

 

 

 

「心配シナイデ。私たち妖精はこの程度の痛み、どうというコトも…無い」

 

 

 

事もナイんだけど…てへへ。

 

 

 

苦笑しながら小さく呟く一匹の妖精。

 

 

 

その妖精に続くように、続々と他の妖精も応える。

 

 

 

 

ダイジョウブでっす!

 

咲夜さんが頑張ってるカラ私も頑張レル!

 

イきてる

 

妖精は、フメツ!

 

ダカラ、心配しなくてもいいんだヨ。

 

ゴメンね、私が不甲斐ないばかりに。

 

それはボクもだ…

 

油断してたよねェー

 

ウンウン。 はんせーはんせー。

 

 

 

「は、はは…はあ。……あー、えほっ。まぁ喋れるようになったかしら」

 

 

 

ようやっと、この身体の状態に慣れた。

 

 

 

「ま、まぁあなた達が無事そうで良かったわ」

 

 

 

「メイド長も、大丈夫なの?」

 

 

 

ええ、大丈夫よ。

 

 

 

そう伝え、何やら、反省会…? をしている妖精たちを尻目にし、何が起こっているのか落ち着いて考える。

 

 

 

起きるまで何をしていたのか…

 

 

 

まずはそれから整理していこう。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

【TIPS】<十六夜 咲夜─①>

*【紅魔館のメイド】

 

*当主のレミリア・スカーレットに仕え、主に館内の掃除、洗濯、料理、などといった家事の要素から、まだモノをしっかり考えるには幼い当主の補助、兼秘書的立ち位置まで様々だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

場所は変わり紅魔館時計台前。

 

 

 

の、遥か上空。

 

 

 

紅く、暗い空の下。ある二人の人物の戦いは最高潮を迎えようとしていた。

 

 

 

「──っく! やるわね! 人間! いや、博麗の巫女!」

 

 

 

「そりゃどうもっ─と、危ないわねぇ! あたしのおっきなリボンに掠りでもしたらどうするのよ!」

 

 

 

レミリア・スカーレットが自身の背中から伸びる漆黒の翼を広げ、博麗の巫女こと博麗霊夢との距離を置く。

 

 

 

レミリアが手を突き出すと、背後から無数の光──即ち弾幕。それらが飛び出し、博麗霊夢へと突き進む。

 

 

 

その光たる攻撃は猛々しく、絶望、いやむしろ感嘆の息を漏らさせることになるだろう。

 

 

 

普通ならば。

 

 

 

 

「ちっ…ちょこまかと鬱陶しいわね! 仕方ない、弾幕には弾幕よ! このままぶっ潰してやる!」

 

 

 

「フフフっ…やれるものならぁ…やってみなさいッ!」

 

 

 

ズドドドド。光が動く度、身体へと衝撃を感じる。

 

 

 

「《霊符ッ!「夢想封印」》ッ!!」

 

 

 

 

霊夢の足元へ円の形をした陣が顕れる。

 

 

 

幾何学模様の重なったそれはゆらりと背後へ回り、けたたましい光を放つ。

 

 

 

次に来るのは身体に重い衝撃。

 

 

 

そしてじぃんと来る感覚。

 

 

 

後から続いてくる轟音。

 

 

 

 

弾幕がぶつかったのだ。

 

 

 

 

ぶつかった地点を中心に、突風が吹き起こる。その力は地上にまで及び、周辺の木々を撫でるように揺らしていた。

 

 

 

 

カラフルで一際大きい弾幕、そしてこれまた無数に存在している弾幕。

 

 

 

 

「…アハっ、その紙くず、侮ったら不味いことになりそうね」

 

 

 

「ただの紙切れだと思ってたら大怪我するわよ! 博麗の巫女特製、妖怪特化の御札!!」

 

 

 

「いいえ…全て捩じ伏せてみせるわ!」

 

 

 

「出来るものならね!」

 

 

 

 

渦巻く御札。引き裂くような鋭い弾幕。真正面からぶつかり合い、弾け、砕けて当たって飛び散る。

 

 

 

どちらも傲慢ゆえのパワープレイ。フェイントを差し込んでやってやろうかという思考が掠めるが、それをしてしまったら勝っても勝った気分にならない。

 

 

 

どちらも自分の意地にかけて勝負をしていた。

 

 

 

 

「はぁぁぁぁああああ!! 吸血鬼ぃ! こんなものかァァァああ!」

 

 

 

「くぅぅううううっ!! まだまだァァァァあああああ!」

 

 

 

ぉぉおおおおおおぉぉぉあああああああ!!

 

 

 

どちらからも聞こえる、とても、とても乙女とは思えない程の怒号。しかし、元々そのようなものは気にしない性分。

 

 

 

あったとしても関係ない。どちらも普通では無いのだから。

 

 

 

 

ズドンッ。

 

 

 

 

3度目の衝撃。

 

 

 

そしてそれはこれまでのものより大きく、凄まじい。

 

 

 

一瞬、時間にしてほんの一瞬。紅魔館から音が消え去った。

 

 

 

 

──。

 

 

 

 

 

 

 

 




十六夜は満ちた月が欠け始める時。

その昨夜は──
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