東方骸骨伝   作:くるっくー

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第八話 ずっしりふわふわな蛇

 

 

 

白と黒で構成された世界。そこに灰が混じる。

 

 

 

 

紅魔館のロビー。

 

 

 

 

骸骨と、小柄な少女の一騎打ち。

 

 

 

 

 

骨が飛び交い、壁や装飾品等といったモノに傷が付いてゆく。

 

 

 

 

もしこの場に紅魔館の当主や忠実なる従者が居たならば、きっと絶叫…とまでは行かなくとも、叫びを聴くことは出来ただろう。

 

 

 

 

 

 

─まぁ尤も、そのような者たちは既に紅白の巫女がボコボコにしたが。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

─あレ、ワタシ…何して…?

 

 

 

 

 

真っ暗な世界。

 

 

 

 

この場所は知っている。ワタシの中にある気(・)持(・)ち(・)。それに呑まれている時、この場所へ来る。

 

 

 

 

 

ジャラ

 

 

 

 

金属が床を這う音が響く。

 

 

 

 

 

これも知っている。この、鎖(・)を。知っているとは言っても、ワタシの両手両足、そして首に巻かれている事くらいだが。

 

 

 

 

「アハ、それだと知ってるとハ言わないか」

 

 

 

 

虚しい独り言が木霊する。

 

 

 

 

 

この場所に来ると、心が軽く、気持ち良くなってくる。案外、この鎖も悪くないのだ。

 

 

 

 

あーワタシ、何(・)し(・)て(・)た(・)ん(・)だ(・)っ(・)け(・)。

 

 

 

 

 

思い出せない……思い出せないってことはどうでもいいって事ね。

 

 

 

 

 

はぁ、と大きくため息をつく。

 

 

 

 

「…多少、身体を動かス分には問題ないんだけドなぁ…

 

 

 

 

そうダ、この鎖の先って何がアルンだろう」

 

 

 

 

 

実の所、この先に何があるのか真面目に探索出(・)来(・)た(・)こ(・)と(・)が(・)な(・)い(・)。そう、出来たことがないのだ。

 

 

 

 

いくらしよう、しようと考えたところで、いざ行動に移そうとするといつもそんな考えは霧散してしまう。

 

 

 

 

考えられなくなるのだ。相も変わらず原因は不明。

 

 

 

 

 

今日も今日とて、暗闇の中に浸り、惰眠を貪る。

 

 

 

 

 

 

 

しかし、今回ばかりは何かが違った。

 

 

 

 

心の一部がポッカリと消え失せるような感覚。

 

 

 

 

 

「なんだろウ…」

 

 

 

 

明らかな違和感なのだが、それを別の言葉に、具体的に言い表すことが難しい。

 

 

 

 

胸がキュッとなった。

 

 

 

 

不思議だ。今まで一度もこんなことは無かっ…た?

 

 

 

 

嘘だ。

 

 

 

 

これまでにも、数百年も前、このような感覚に陥った事が──ある。と思うのだ。

 

 

 

 

 

ああ、これも思い出せない。なんでそうなったのか、この不安をどこへぶつけたのか。

 

 

 

 

 

四肢と、首に巻き付いた金属の蛇(鎖)がズシン、と重くなるのを感じた。

 

 

 

 

 

「くるしイなぁ」

 

 

 

 

 

あれ、探(・)検(・)の続きは?

 

 

 

 

 

…探検…探検。

 

 

 

 

不意に浮かんできた言葉に、引っかかる。

 

 

 

 

探検って? なに? それ。

 

 

 

 

 

分かんない。何にも分かんない。

 

 

 

 

 

気持ちに混乱が満ちみちてゆく。

 

 

 

 

 

すっぽり抜けた感覚。この感覚だけは覚えているのに、その他は全部、全部…分かんない。

 

 

 

 

 

「たのシカった、きがする」

 

 

 

 

 

楽しい事なんて、何一つ──

 

 

 

 

 

 

──「Hey、一緒に─」

 

 

 

 

 

 

──「…あれは若気の至り──」

 

 

 

 

 

 

──「わかった。行こう──」

 

 

 

 

 

 

─────「オイラの名前は─」

 

 

 

 

 

 

──「あぁ、だから探検なのか」

 

 

 

 

 

 

──「んじゃ、行こうぜ」

 

 

 

 

 

 

──「探検に」

 

 

 

 

 

 

────「オイラの─名前は──」

 

 

 

 

 

 

 

──「…名前は─

 

 

 

 

 

 

「な、まえは…」

 

 

 

 

 

 

 

──な(・)ん(・)だ(・)っ(・)け(・)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

心という歪な鋳型に、混乱がみちみちてゆく。

 

 

 

 

 

 

分からない。分からない。

 

 

 

 

 

 

分かるのはこの気持ち悪さだけ。

 

 

 

 

 

 

分かるようで分からないこの鎖。

 

 

 

 

 

 

分かりそうで、分からないことだらけ。

 

 

 

 

 

 

ああ、きもちわるい。

 

 

 

 

 

 

──不快感が喉から迫り上がる。

 

 

 

 

 

 

消えてくれない。あのこえが、ひびく。

 

 

 

 

 

 

掌を天に掲げ、指を折り曲げようとする。

 

 

 

 

 

 

できない。こわせない。こわしたくない。このこえは、ダメだ。

 

 

 

 

 

 

ひくくて、ひどくあんしんできる、あのこえが。

 

 

 

 

 

 

ワタシをワタシじゃなくする。

 

 

 

 

 

 

ああ、ぁぁ…

 

 

 

 

 

 

わからないわからないわからない。なにも、わから──

 

 

 

 

 

 

 

首に巻き付いた金属製の拘束が、妖しく光り輝いた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

──意識が戻る。

 

 

 

 

ぱらりぱらりと、瓦礫の音がした。

 

 

 

 

 

自分は今、どうなっているんだろう。

 

 

 

 

 

ゆっくり、目を開ける。

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

一面、紅色に染め上げられた壁。ぼやけており、未だに視界がハッキリとしない。

 

 

 

 

 

突然、白い何かが自身の方へと向かって来ているのを確認した。

 

 

 

 

 

しかし、それは弾け、壊(・)れ(・)て(・)し(・)ま(・)っ(・)た(・)。

 

 

 

 

 

「───っあ」

 

 

 

 

 

拳は突き出され、その閉(・)じ(・)ら(・)れ(・)た(・)掌(・)を見る。

 

 

 

 

 

*背中に 罪が 這い登るのを 感じた。

 

 

 

 

 

 

視界がようやっとクリアになってきた。

 

 

 

 

 

カメラのピントが合うように、フランドール、彼女自身も焦点を合わせた。

 

 

 

 

見るからに豪華なシャンデリアは落ち、砕けている。

 

 

 

 

床や天井、も含めた四方八方に、穴(・)が空いていたり、削られていたりしている。それも大量に。

 

 

 

 

天井も少し剥がれてきており、今にも崩れるのではないかと勘ぐってしまいそうな程だ。

 

 

 

 

 

 

首だけ動かしていたのをやめ、身体を起こそうと全身に力を入れる。

 

 

 

 

 

「…─ッいぎっ」

 

 

 

 

 

痛みを感じる。全身の力を一度抜き、状況の確認をする。

 

 

 

 

 

「っうそ、なにこれ…骨(・)が(・)、(・)刺(・)さ(・)っ(・)て(・)る(・)」

 

 

 

 

 

白骨死体のような白さを持つ骨。それが、地面から伸び、そのまま伸びた骨が身体の部位に突き刺さっていた。

 

 

 

 

そのことに気が付くと、ズキンズキンと、途端に痛みを感じ始める。

 

 

 

 

「……ほ、ね…」

 

 

 

 

 

あの、骸骨の……誰だったか…

 

 

 

 

 

 

 

《「お前、はぁ、ホントに身体動かすの好きだな…」》

 

 

 

 

 

低くて恐ろしい声が響く。

 

 

 

 

 

《「なあ」》

 

 

 

 

《「お前、さっきは答えてくれなかったけど」》

 

 

 

 

《「心のどこかでな、オレは感じてる」》

 

 

 

 

 

《「お前の中にある、一筋の良心の光をな 」》

 

 

 

 

 

《「かつては正しいことを成そうとしていた誰かの記憶をな」》

 

 

 

 

 

《「別の時間軸では、ひょっとすると…」》

 

 

 

 

 

しばしの沈黙。

 

 

 

 

 

《「友達でさえあったかもしれない誰かの記憶を?」》

 

 

 

 

 

《「なあ、応えてくれよ」》

 

 

 

 

 

 

《「オ(・)レ(・)の(・)こ(・)と(・)、(・)覚(・)え(・)て(・)い(・)る(・)の(・)か(・)?(・)」》

 

 

 

 

 

 

 

全身がドクン、鼓動が巡る。数メートル先、彼は立っていた。やけに可愛らしいポップな骸骨が。

 

 

 

 

 

肩を揺らし、大きく息をしている。疲れているのは目に見えた。若干、汗ばんでいるのも確認できた。

 

 

 

 

 

「…は、はは…なんで、骨のくせに、骨のくせに呼吸してるんだろ…」

 

 

 

 

乾いた笑いが込み上げてくる。

 

 

 

 

 

「アナタのこと…」

 

 

 

 

 

骸骨の彼はこちらを常に、見据えている。何一つ見逃さないという気すらも感じ取れそうだ。

 

 

 

 

 

腕に刺さった骨を、へし折る。

 

 

 

 

 

根元を断ち、それを抜く。

 

 

 

 

 

落ち着いてやれば、案外大丈夫だ。

 

 

 

 

 

どうやらこの骨、砕くと空気に霧散するように、消え失せるみたい。

 

 

 

 

 

彼は動かない。肩を揺らし、相も変わらずポケットに手を突っ込んでいるだけ。

 

 

 

 

 

大腿にも、鋭くなるように砕かれた骨が深々と刺さっている。

 

 

 

 

 

ゆっくりとその骨に手を添え、掴む。そして、目一杯力強く引き抜く。

 

 

 

 

 

太股から鮮血が飛び出し、くちゅあッ、と音が鳴る。

 

 

 

 

 

「いっ…くッ、ふゅっ」

 

 

 

 

 

おと、変な呼吸音が漏れてしまった。

 

 

 

 

今なら落ち着いて出来る。

 

 

 

 

何故かは知らないが、攻撃してくる素振りがない。

 

 

 

 

 

ニヤニヤした顔。先程とは違うのは、既に肩で息をするのを止めた点だ。

 

 

 

 

 

慎重に、立つ。

 

 

 

 

 

世間一般的に、棒立ちと呼ばれる体位まで持ち上げた。

 

 

 

 

身体を持ち上げ終えたと同時に、さっきまで存在していた傷が大方癒える。

 

 

 

 

 

「吸血鬼の再生能力。バカに出来ないね」

 

 

 

 

 

すうっと息を吸い、肺に空気を溜める。

 

 

 

 

 

「正直、何があったのか知らないし、分かんないけど」

 

 

 

 

「多分、こんなことするべきじゃないはず」

 

 

 

 

「弾幕ごっこはもっと、楽しい事、だったはず」

 

 

 

 

 

《「………」》

 

 

 

 

 

「だから、こんなことやめよう」

 

 

 

 

 

ワタシ、思い出せた。

 

 

 

 

 

 

 

「覚えてる、サンズ」

 

 

 

 

 

《「heh…ま、一応言ってみただけ…ん?」

 

 

 

 

 

 

*白と黒、そして灰の世界に彩りが映る。

 

 

 

 

 

 

《「……なんだ、その顔。その」

 

 

 

 

 

満足そうな顔は。

 

 

 

 

「あ、え?! そ、そんな顔してた?!」

 

 

 

 

 

《「は…やめる気がないなら仕方が─待て、何を言っているんだ?」

 

 

 

 

 

「えっと…伝わらなかった? ワタシ達、あの暗い地下で会ったでしょ」

 

 

 

 

 

《「コレは…クソガキ、何をしたんだ。クソガキ? 誰のことだ?」

 

 

 

 

これまで一度も交わらなかった言葉の羅列が、今初めて交差する。

 

 

 

 

 

「“探検”、忘れたの?」

 

 

 

 

 

《「探─検…? 」

 

 

 

 

「そう、探検。えと…ワタシ達、友達、だから…っ」

 

 

 

 

 

 

 

「友達」

 

 

 

 

 

 

この言葉をキッカケにしたのか、あるいはそうでは無いのか。誰にも分からぬ事だが、確かになっていることが一つ。

 

 

 

 

 

*世界に 鮮やかさが戻る──!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あー…よう、フ(・)ラ(・)ン(・)ド(・)ー(・)ル(・)」

 

 

 

 

 

 

 




【TIPS】〈フランドール・スカーレットー①〉
*【悪魔の子】

*彼女はかつて、誰にも負けぬ、強大な力を有していた。

*全てを破壊し得る、狂気的な力が。
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