「……あー…よう、フランドール」
「え……あ、ウン」
ふぅーっと……
いや何があったんだこれ。
まずボロボロのエントランス。花瓶とかシャンデリアとかぐっちゃぐちゃになってやがる。
あーあー、マジで、意識は朦朧としてるし、身体はアホみたいに疲れてるわ、まりょくは少ねぇわで…訳分からん。
棒立ちのまま、その場に立ち尽くすSans。
「……ってかやっとクソガキ呼ばわりしなくなったー!」
その静寂も壊れた。
「…クソガキ呼ばわり?」
「そうだよ! 酷いにも程があるし、なんなら今日知り合って間も無いんだよ?!」
オマケに操られた様に人が変わるし!
続けてフランドールはそう言った。
操られた…様に…人がかわる…
「何言ってんだ? お前さん」
「ワタシにだって分からないよ!」
とにかく疲れた。今はもうなにも考えたくない。
「なぁこれってよ…」
「…? なに?」
「弁償とかしなきゃいけないか?」
周りの惨劇を改めて見渡す。部屋の原型が残っていたのは幸か不幸か。
まぁどちらかと言えば幸だろうが、それでも限度があるだろ。なんで壁、床、天井の全部に穴とか空いてんだ!
「う、う~ん…お姉様、なら…ぃゃ、…分かんない。ホントに弁償かも」
あはは、と乾ききった笑いが続け様に聞こえた。
こりゃ失笑もする。壊したやつが可哀想に見えてくるな。
「…ツケとか出来るもんなんだろうか」
「つけ? なにそれ」
「あー、簡単に言うなら…支払いをまとめて後にする事だな」
「…へー、知らなかった。よくそんな言葉知ってるね」
「hehe、…良く使ってたモンでな」
「でもサンズってしっかりモノ考えてて、優しい感じがする」
ブッ。…悪意のない言葉の棘が痛てぇ。こんなこと言われるとなぁんかやりづれぇな。
「……さて、疲れたから座るか」
「床危ないよね、コレ」
ふむ、そう言われるとそうだな。
「…比較的、あそこの階段なら危なげないんじゃないか」
「あ、ホントだ。損傷が少ない」
疲れたのでオイラの近道は使わずに、歩いて向かい座る。隣にちょこんと、フランドールも座った。
「はぁ…全く、だぁれがこんな事やったんだ」
「……え"、そりゃ…もしかして覚えてないの?」
「…おん。その聞き方だとまるでオイラがやったみたいじゃないか?」
「いや実際…えー…覚えてないのかぁ…タチが悪いね」
やば、オイラの無いはずの心臓が…違う、ソウルだこれ。ソウルがすんごいドクンドクン言ってる。
ここまで極度の緊張があったのは久しぶりだ。
「大丈夫? 息苦しそうだよ」
「…す、すまん。驚愕の事実に震えてんだ」
「…ぶふっ…くく」
「笑うなよ、一応お前さんの友達の危機だぜ」
「あははっ! 危機に遭ったら助けてあげるから安心して!」
「heh、そりゃ心強いことこの上………あ」
ここで本来の目的を思い出す。
オイラ、異変解決しに来たんだった。
「…なぁ、お姉様ってどこにいるんだっけ」
「え、えーと…最、上階?」
「うへ、もう異変解決辞めちまおっかなぁ…」
「…うあ、そっか。サンズは元々、そのために来たんだったよね」
「そうなんだが、まぁ、なんというか。疲れたからなぁ」
「……ふーん」
…
……
………。
漂う静寂。今それが、とても心地よく感じる。紅を基調とした内装。趣味が悪いことこの上ないが、もうそれも慣れてきた。
シャンデリアやらなんやらの証明の類いが壊され……いや、壊してしまったから部屋が全体的に暗い。
背中を上の段差に預け、身体を倒す。
柔らかいカーペットが、身を包むようだ。
壊れた廃屋のような感じがする。所有者の居なくなったボロ屋だ。…誰も居なくなった後のような…安心出来るようなそうじゃないような。
「……サンズ、なーに考えてんの?」
「…故郷の事だ」
「帰りたい?」
「正直複雑だ。帰りたいが、帰りたくない」
「はは、なにそれ」
しばし沈黙。
「…サンズの故郷の話、聞きたいな」
「オイラのか、まぁいいけどよ」
さて何を話すか。スノーフルのこと、遺跡であったおばさんのこと。それに友達、そもそもの地下世界のこと。
考えれば考えるほど、話したくなるようなエピソードが出てくる。
「……そうだな。じゃあつい最近のことでも話すか」
フランドールはこちらを見つめ、静かに頷く。
「オイラの住む所、そこはスノーフルの町と呼ばれていてな」
「一面雪、雪、雪、…で氷。が特徴の地域なんだよ」
「まぁそのお陰なのか、オイラたちモンスターの中でも、特に毛深い…ケモノ系中心で構成されてんだ」
「うん…ん? モンスターって?」
「…あー、妖怪みたいなもんさ。オイラとかもモンスターの一種さ」
「へぇー…」
「続けるぜ………───」
そんなこんなで、オイラ達2人で会話が弾んで行った。
フランドールはどうやら聞き上手なようだ。しっかりこちらを見て、聞いて、リアクションをしてくれる。
とてもいい子だ。
そんでオイラは話に話し込んだ。
スノーフルのこと。日常をどう送ってるのかとか。こちらの世界との文化の違いだとか。楽しかったこととか。…ホントに、色々。
「──んでよ、Papyrusの奴はこう言ったんだ─「コレは戦闘用ボディだから」ってな。只のコスプレ用なのにな」
「あははっ、サンズの弟、可愛いねぇ」
「だろ? んでそれからはも〜う外さないったらありゃしない。外に行く時も、飯食う時も、オイラを叱る時も…なんならシャワーを浴びる時だって外さないんだ」
「えっ! …そ、そこまで気に入ったんだ…」
「ああ、さすがに寝る時には外すみたいだがな。可愛いやつだよ…」
「…んふふ」
「そうそう、寝る時と言えば、いつもオイラが……あ? どうしたよ、フランドール」
「いや、そんなに生き生きしてる…饒舌になってる姿? を見るの、初めてだなぁって」
…生き生きしてる…か。
思えば、心の底から楽しいと感じたのは、久方ぶりだろう。最近は色々あり過ぎて、楽しいどころじゃなかったからな。
「それもこれもアンタのお陰さ」
「んえっ」
「フランドール、アンタがこうして、オイラなんかの話をゆっくりと…あー、親身になって聴いてくれてる」
「あ、え…」
「モンスターってな、結構マイペースなんだぜ? …だから、お前さんみたいなのは珍しい」
「…いや、」
「オイラは嬉しいぜ。アンタみたいなのが、幻想郷初の友達だなんてよ」
「……」
静かなる時。止まったかと勘違いしてしまいそうな程。
「…そんな」
「…そんな?」
「そんなにワタシは優しくない。思っている以上に、汚い。穢れてるよ。だから、そんな風に言わないで」
「ふーむ…? どうやら見解の相違…まー、過小評価と言ったところだな?」
「見解の相違でも過小評価なんかでもない。事実なの…! …もう、誰も…」
コイツと話してると、結構、雰囲気がシリアスになる。Sansはそう思った。
「フランドール、お前さんはオイラの友達だ、そこは─」
「ワタシなんかト友達になったら…ふ、不幸になる…」
「……あー?」
「…み、みんな! みんな皆ミンナ! そう、言ってるんだ! 言っテたんだ! フランドール・スカーレットは悪魔の子!! バケモノって!!」
張り裂けんばかりの声。咆哮だ。いつの間にか、くつろぎの空間は打ち砕かれ、
彼女は顔を伏せる。知らず知らずの内に、とても良くない距離感を、感じ始めていた。
「……声、震えてんぞ」
「…アナタも直に分かるよ。ワタシがどんな、どンな存在なのかを!!」
はぁ、筋違いにも程がある、ガキか? コイツ…と心の中で悪態をついた。
と、思ったが、見た目は完全にニンゲンの子供だったのを忘れていた。
「…あー、とりあえず、落ち着いてお茶でも…」
「…くぅっ…」
フランドールの背中に生えており、細く、滑らかな翼が羽ばたく。それと同時に、彼女自身もまた、力強く踏み込み、立ち上がり、跳んだ。
全くもって素早い事この上ないが、Sansはその目で捉えた。
フランドール、彼女の目尻には水が溜まっていたのを。
「…! フランド──!
フランドールの方へ、身体の向きを変えようとする。
──その瞬間、身体全体に悪寒が走り、まりょくの蠢きを感じた。
竜巻状に形成された渦。ある場所を中心にして取り巻いているようだ。その場所とは─紅魔館上空。恐らくその辺りだろう。
そう直感的に分かるくらい、まりょくが動いていた。
「なんだ、これ…空気が、不味い…」
身体にピリピリした感覚が芽生える。
味覚はサイアクを訴えているが、自分の身体は上々になっている。
「…うっ、ぎぼっ…ぶぇぇっ」
口元を両の手で抑え、階段から転げ落ちてしまう。
幸いなことに、転げ落ちたことによる衝撃で床が抜ける、という事にはならなかった。
いってぇ…
「…ぐぅぅっ…ふゆがいだ…」
今までに出したことのない声が漏れた。
空気が不味いのだ。だと言うのに、自身の足りないまりょくが少しづつ回復していく。
──苦しい。
──誰か、助けてくれ。
「…っサンズ! しっかり!」
フランドールの、声。不快感の中、コイツだけは安心出来る。初めての友人。
「…ぉぅえ」
嗚咽を漏らした。出ないはずの吐瀉物を吐き出す様に。苦しい。
くるじぃ。苦しい。辛い。づらい。ギヅイ。ぎぼぢわるい。ふがい"。あぁ、もう嫌だ。こんな苦しいのなら、いっそ。
──まりょくの流れが消え失せた。
「あ"〜……ぐ、ぅぉえ」
「…っサンズ、汗…凄い」
うずくまった身体をなんとか起こし、手を後ろ側へ持っていき、姿勢の悪い正座のような格好になった。
顔を上に向け、必死に呼吸を整える。
「ぜぇ…ぜぇっ……」
「サンズ、サンズ…!」
Sansの身体が更に後ろへ倒れる。否、倒される。
「……ふ、フラン、ドール…hehe」
「笑ってる場合じゃないよ! ワタシ…ワタシ、サンズが…っ」
Sansの脇腹から背中辺りに、柔らかいものが巻き付く。フランドールの腕だ。彼女の顔をSansの顔に伏せられ、抱きつくような形になっている。
「…あー、恥ずかしいとこ見せたな」
「…着眼点が、違うでしょ」
「……まぁ、気分はサイアクだか身体は大丈夫だ。もうそろそろいいだろ?」
そう言ってフランドールを離そうとする。
「……待って、このままに、させて」
「…
これこそ本当の
…てか、やっぱ優しいんじゃねぇか。
【TIPS】<温もり>
*モンスターという種族では、温もりという言葉は常用的に使用されにくいのだ。
栄養は無いことも無いけど味がゴミな食べ物、を無理やり食べさせられてる気分。