股間の刃   作:スピリタス3世

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第四十三話 誰も帰らぬ家の守人

  side 井守犬子(恋雪)

 

 私の手を引く貴方は誰?

 

「すいません、今忙しいんで!」

「だからもういいんだ!もうしなくていい!恋雪さん、頼むから!」

「いや、しなきゃいけないんです。病の人を救うために‼︎」

 

 病人を安楽死させて救う。その理由は…………自分も病人だったからだ。

 

 

 

 私は小さい頃から病気がちだった。寝たきり生活の繰り返し。特に喘息が酷くて、歩くたびに咳き込む始末。

 

「恋雪、大丈夫かぁ?」

「大丈夫、すぐに良くなるからねぇ。」

 

 そんな私を、両親は気を遣ってくれた。でも、病の苦しみは消えなかった。

 

 そして、苦しんだのは私だけじゃなかった。

 

「恋雪………」

「どうしたの………お父さん………?」

「母さんが………死んでしまった………」

 

 お母さんもだった。いつ終わるか分からない娘の介護生活に疲れてしまったのだろう。最近ずっと目が死んでたもの。川で発見されたというが、恐らく川に身を投げての自殺だろう。お父さんもどこか暗く諦めたような表情で、ずっと苦しそうだった。

 

 病人は自分が苦しむだけじゃない。周りの人も苦しめる。私の病気が私を苦しめるだけでなく、父を疲弊させ母を殺した。私が弱いせいで…………

 

 生きるのが辛い。私がとっとと死んでたら、両親はこんな目に遭わずに済んだのに。だからこそ救うんだ。病人を安楽死させ、本人も周囲も幸せにする。それが私の使命なのだから…………

 

 

 

 そして、私のもう一つの願望。それは、傲慢な剣士の殺害。そう、人助けと称し鬼を殺して自己を正当化する、鬼殺隊のような。そう、私の大切な人を殺した、剣術道場の連中のような。

 

 私には、大切な夫がいた。名を狛治さん。心も体も強くて、とても優しい。

 

「恋雪さん、来週花火があるそうです。一緒に行きませんか?」

「いきましょういきましょう!狛治さんと見る花火が、私大好きです!」

「おお、いいな!2人で行ってこい‼︎」

 

 私はその人と一緒に、ずっと幸せな生活を送っていた。お父さんも前より明るい顔が増えて、本当に幸せそうだった。だけど、その生活は長く続かなかった。

 

 結婚してからしばらく経ったある日、

 

「恋雪さん、俺と慶蔵さんは出張稽古に行ってきます。」

「日帰りだから、1人で留守番頼むぞ‼︎」

「はいっ!」

 

 お父さんと狛治さんが出張稽古に行くことになった。2人の素晴らしさを知った隣町の人が、是非私たちにも、と頼んだらしい。

 

「いってらっしゃい、お父さん!」

「おう!」

「そして………いってらっしゃい、あなた!」

「はいっ!」

 

 2人の外出。家に居ない間は寂しいけれど、その間は私が家を守る。この大好きな場所を守る立場になれたこと。病気だった頃には考えられなかった。そしてそれが、私はとても嬉しかった。だからこそ、待つ時間も苦しくなかった。そして、帰ってきた時におかえりと言うのがとても楽しみだった。

 

 だが、それを言う事は無かった。待てど待てども、2人が帰ってくることはなかった。そして最初に家の門を叩いたのは、2人ではなく近所の人だった。

 

「大変だ、恋雪ちゃん!」

「あの、どうかされました………?」

「慶蔵さんが火事に遭って亡くなっちまった!アンタの旦那も‼︎」

「嘘…………でしょ?」

 

 そこで告げられた悲しい報せ………。あの2人はもう帰ってこない。その事実は、とても残酷だった。

 

 そしてしばらくして、

 

「恋雪ちゃん、2人は残念だったね………」

 

 隣に住む剣術道場の男の子がやってきた。この子は私が小さい時は非常に傲慢な性格で仲も悪かったけど、最近は大人しくなっていた。性格が丸くなったのだろう。

 

「はい…………」

「まさか、出張稽古先の道場が火事になるなんて………」

 

 そんなことはなかった。あの2人が出張稽古に行ったのを知ってるのは、私と隣の家だけだった。しかも火事の話。私ですらさっき知ったばっかりなのに、何故知ってるのか。

 

「こうなっては………俺が代わりに養うしかありませんねぇ!」

 

 その理由は、自分たちが犯人だからだ。お父さんと狛治さんを殺し、私と結ばれる。昔から傲慢な片想いをしていて、狛治さんに嫉妬していた彼らならやりかねない。私の中に、普段は湧き上がらない感情が込み上げてきた。

 

「………はい。分かりました。」

「ありがとう!」

 

 こうして私は、復讐を決心した。

 

 

 

 そこから先は早かった。医師免許を取り、この男が病気になった時に、診察と称して毒を飲ませ殺す。

 

「ぐはっ………こ、これで治るのかっ⁉︎苦しみから………解放されるのかぁ⁉︎」

「はい♪貴方は死ぬことにより、その苦しみから解放されるんです♪」

「………はぁ⁉︎」

「病人は自分だけでなく、周りの人も苦しめます。だからこそ、病人自身が死ぬことで、本人も周囲も救われるんです‼︎」

 

 自分でもびっくりするくらいに、作戦は成功した。そして次の日に、ソイツはぽっくりと死んだのだった。

 

 

 こうして私は、剣術道場の全員を病気で殺した。感染症が流行ったのをいいことに、逆効果の薬を皆に飲ませて毒殺。そうして復讐を完遂した。

 

 そして、やることもなくなったので………

 

「狛治さん………今からそっちに行きます………」

 

 私は川に身を投げ死ぬことにした。お母さんと同じように。でも、出来なかった。

 

「自殺なんてもったいない。」

「はい?貴方には、関係ない話………」

「貴様には私の元で働く資格がある。特別に私が鬼にしてやろう。」

「もうどうでもいい………全てが………」

 

 通りすがった無惨様によって、私は鬼にさせられた。そして病院を作り、そこを家にして、患者を安楽死させながら、二度と帰ってこない待ち人を待ち続けた。なんともまあ、惨めで、滑稽で、つまらない話だ。




井守犬子の井守は、井戸を守るイモリの怪異から来ています。これは戦死した武士の霊とも言われ、もう誰も居なくなった城を守り続けると言われてます。狛治さんや慶蔵さんを殺され、誰も帰らぬ家で帰りを待つ恋雪に相応しいと思い、つけました。
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