例えばこんな刀使さん達   作:ブロx

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 とじみこに隻狼要素とか刃鳴散らす要素とか色々ごちゃ混ぜた本編再構成物です。主人公の一人は後に鎌府女学院の学長になる雪那さん。原作でいう胎動編までの予定となっていて、裏テーマは『継承と決着』そんな妄想話です。
 今作はヒスおばさんがヒスってなかったりいやこいつ誰だよ?とか色々作者の妄想全開です。ご注意を。許容出来ない方はブラウザバックをお願いします。

こちらは雪那さんサイドの過去話となっております。







過去サイド:相模雪那
第一話


 

 

 

 一組の夫婦がテーブルを境にして、コーヒーどころか一杯のお茶すら置かれていない雰囲気(ムード)の中。その始まりは絶縁状からであった。

 

「離婚届もセットでとはね。誰か良い人でも見つけたのかい?」

 

「違うわ」

 

 笑い合えない冗談の中で、女は断じてと付け加えながら言った。

男の一方的な勘違いでなければ、二人は相思相愛をもって夫婦となった。病める時も健やかなる時もと自身の魂に懸けて誓ったし、相手の幸せと守護を額面通りだけでなく心でも互いに言い合った仲だった。自他共に、二人は良い夫婦であった。

 

「・・・僕では君を幸せに出来ない。つまり見限られた。って意味で捉えていいのかな」

 

「違うわ」

 

強く切り出すのはいつも君の方からだったな。男は女を見つめながら思った。

 

「私では貴方を幸せに出来ないから、離縁するのよ。どうか幸せになって頂戴。私以外の誰かと」

 

「君以外の人と幸せになんてなれないよ」

 

「……」

 

 男の真っ直ぐな視線を、女は気に入っていた。初めて会った時から変わらない、瞳の奥のその光が好きだった。

 自身を受け止めてくれるこの眼差しが、心意気が好きで一緒になって今の今まで夫婦であった。

 

だからこそ、もう一緒にはいられなかった。

 

「私は」

 

「!」

 

 男は息を呑んだ。もしくは、言い換えるのならば惚れ直した。

そこらの人間では浮かべる事の出来ないだろうその表情。決意の表れ。女の鋭い視線とその奥で輝く瞳の光が、男は今も昔も好きなのだ。

 

「私はこれから無道を往きます。自分勝手ともいうけれど」

 

「人間なんて皆大なり小なり自分勝手だろう。今更そんなで僕は君を嫌いになんてなれない。昔も今もこれからも」

 

「もう決めたのです。別れて頂戴」

 

「どうしても嫌だと言ったら?」

 

「貴方を逮捕する」

 

「おっとっと。罪状は?」

 

「公務執行妨害」

 

「公務って?」

 

「刀使としての」

 

「君はもう刀使じゃないだろう」

 

「警察機関の人間です。昔も今もこれからも」

 

「なるほど。つまり僕は仕事の邪魔ってわけだ」

 

「……そう。邪魔よ」

 

「刀使として死にに行くには。・・・かい?」

 

 女は眼を逸らさず、だが沈黙した。どう言えばこの先この人を巻き込ませずにいられるか。ただそれだけを考えていた。

 

「敵は強大ってわけだ」

 

「ええ」

 

「僕どころかもしかしたらこの国全体をも危機に陥らせるかもしれないわけだ」

 

「ええ」

 

「―――でもやるわけだ?」

 

「ええ」

 

「分かった」

 

 男は深く頷いて、絶縁状と離婚届は預かるよと言った。

この場面を字面だけで眺めたなら、男は潔しと断じて構わないかもしれないが、実際は用紙を両手で手に取る様は少し震えていて、瞳は不安以上の絶大な感情によって揺れていた。怖いとはこういう事なのだった。

 

 けれど男は女から視線を絶対に逸らさなかった。

これが今生の別れ。そう思って、男は最後に女の顔を見続けていた。女の瞳の中にはずっと、情けない自分の顔だけが映っていた。

 

「私はもう一度刀使としての責を果たします。さようなら、あなた」

 

「貴女が本懐を遂げられる事を祈っています。さようなら、雪那」

 

 ――全ては自身の独りよがり。別名を、それは復讐とも云うのだろう。

悲しいくらいに優しいこの声も好きだったなと、女は最後に思って、そして忘れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

記憶の中で、雪那は激怒した。

 

「どうして私が刀使になんてならなきゃいけないのよ」

 

「貴女は御刀に選ばれたの。それはとても名誉な事なのよ、雪那」

 

「刀なんて只の人斬り包丁じゃないのッ!!」

 

「神聖な御刀に対して何て言い様ですかッ!」

 

「神聖だろうと高尚だろうと何だろうと怖いものは怖いわよ!!」

 

 刀使として生きようと決めた時分。記憶の中で、雪那は古のプレインズウォーカー・ウルザの如く激怒した。

 相模家の長女として産まれ、ハレの日である10回目の誕生日に、母親からこれ(刀)握ってみろと言われてそうしてみたら光ってナニコレ? と思ったのも束の間、急に胴上げの嵐である。

 

 頭の中を疑問符という名の快速ランナーが年始の箱根ですか?往路復路を行ったり来たり。止めてと言って胴上げがやっと収まったと思いきや、今度は刀使になれと言われれば誰しもがこうもなろう。

 

 ――常時この日本刀を身に着けろ。相模雪那にとってそれは、今日お前は少女から人殺しになれと言われたようなものだからだ。

 

「聞いて頂戴、雪那。貴女、荒魂は知ってるわね?」

 

「外国人以外で知らない人がいたら心底教えてほしいくらいには知ってる」

 

「その荒魂を斬り、祓える力を貴女は持っているの。人を護る術と力を、貴女は手に入れる事が出来るのよ」

 

「……それがこの刀?」

 

「そう。御刀よ」

 

「荒魂(化け物)を斬る事だけにこれが使われるって?」

 

「ええ」

 

「私は今日で十歳になったから訊きたいんだけど、これを振るう人間がそんな頭のいい生物だとお母さん本気で思ってる?」

 

「思ってる」

 

「悪い冗談よ」

 

本読んだ事ないの?雪那は吐き捨てた。

 

「何とでも。とにかく今日から貴女は道場で鍛錬を始めてもらいますからね。武を修め、誰かを護る。それが刀使。矛を止むのも、矛にて止むのも貴女次第です」

 

「…どっちでもイヤよ。道場ってお母さんが前に言ってた隣町のでしょ? あそこの人達気持ち悪いくらいズッと変な座り方してるじゃない」

 

「そういう古流なの。力としなさい、門下生」

 

「嫌よ!!!」

 

 ――心底嫌だった。だって怖いもの。誰かがその刃に触れればスパリと斬れる兇器(まがきもの)。人を殺す為に生まれた物。もし好きな奴がいたら手を挙げてほしい。通報するから。

 

顔にそう書いてある雪那に、彼女の母は溜め息もつかなかった。

 

「……分かったわ。じゃあ今日一日だけ猶予をあげる。この御刀、妙法村正の手入れでもしてじっくり考えなさい。刀使になるかならないか」

 

「はぁあい」

 

 腑抜けた返事をあえて雪那はした。手入れの仕方はこうこうこうと云った説明を右から左へ耳の穴を貫通しながら聞いて、その夜彼女は反復を試みた。興味も欠片も無いくせに何でそんな事をとは自分でも思うが、もう一生こんな物を触る日はない。

 今夜でバイバイだ。幸か不幸か、その決心は雪那に行動力を与えていた。

 

「これが打ち粉と油っと。ってナニコレくさ」

 

 刀身から目を背け、目釘を抜き、柄を外す。茎を握りながら、二枚ある切羽と鍔の表裏を確認しながら外して、布の上に置く。すると手元に自然と目が行った。

 黒々とした気味の悪い茎に開いている目釘穴。そうっと目線を上に滑らせると、意外と反りのある刀身が、裸身と言って差し支えない状態の日本刀が雪那の眼前にあった。

 

「……」

 

 光景に言葉を失う。だって刀身以外何も見えない。――いや、違う。何かが彼女の脳内に映し出されている。刀が、彼女に何かを見せている。強く目を凝らす。それは一人の女の絶望している姿だった。

 

『あんなにも尽くして……、あんなにも愛したっ‼それなのになぜ―――‼』

 

……は?誰?このヒステリックなおばさん。

 

『姫‼紫様‼ 一体なぜなのですか―――っ』

 

誰よ姫って。紫様って。

 

『捨てないで。私を、独りにしないで―――』

 

 大人の女だろう。雪那にとって見知らぬ女は、一見支離滅裂な事を言っている。……変なの、疲れてるのかしらと雪那は感じたが、その瞳と言葉と涙には無視できない何かがあった。

 

 他人事とは思えない何か。それはまるでいずれ辿るだろう自分の姿のように。直感であるが。

 ――ああ、これ明日は我が身だなあと不意に思えるほどの素直な感慨と直感。このようにして人間は絶望して死ぬんだな。

 

刀使になれば自分はこうなるのだなと、未知の結末をこの相模雪那は知ったのだった。

 

 その光景が消える。瞬きをすると眼前には装飾も拵えもない刀が一振り。他には何もない。刃紋と平地が彼女の顔を鏡のように写し見せていて、ひどく険しい顔がそこにはあった。

 

「……ならない」

 

だから刀を天井に掲げながら、雪那は告げる。

 

「私は。ああはならないわよ」

 

お前の未来はこうだと伝えた御刀へ。それは否と告げる。

 

「尽くすだの愛だの。そんなの、悔いてしまえば死んだも同然でしょ。それまででしょ。――私は違うわ」

 

 逆の工程でもって刀に拵えを着けてゆく。最後に鞘に刀身を入れ終わった所で、この場にて宣言する。

 例えばそれは強迫観念にも似た何か。今ここで言わなければきっと駄目なのだと、或いは誓わなければならないのだという絶対の信念(意地)を若さから生み出しながら彼女は宣言する。

 

「何処かの世界の何処かの誰かさん? ご愁傷様。アンタなんて見た事も聞いた事もないけれど、人生なんて悔いたらお終いよ。私はアンタみたいにはならないわ。傍で見ていなさい、妙法村正」

 

カツンと鞘を軽く叩きながら。自身の未来と御刀に向けて、この相模雪那は誓ったのだった。

 

 

 

 

 

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