例えばこんな刀使さん達   作:ブロx

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第九話 刃達の最終防衛ライン

 

 

 

 総勢33名。歴戦の刀使たちが、そこでは陣を敷いていた。くの字を描いた鶴翼の陣形外側20名がフロントライン兼ディフェンスライン担当であり、10名がちょっと中側遊撃担当である。

 

 そして真ん中中央、背に藤沢駅を背負い堅く守るのは、現特別祭祀機動隊最高戦力、折神家当主と2人の折神家当主親衛隊。

 

「兵站線の確保は?」

 

「問題ありません。近付く荒魂は一匹残らず討滅しているとの報告あり。ご指示通り紫様と篝、そして藤原さんを第一兵站線に配備しております」

 

「国道一号線を中心とした第一兵站線は十全に機能中。辻堂駅と大船駅の第二・第三兵站拠点と各ラインも問題なしとの報告が届いています。全防衛ラインへの衣食と医療の供給も問題なし。後は、」

 

「―――アイツを斬るだけね」

 

 ここまで届くほどの大きな音を鳴らしながら。地を踏みしめ家々を破壊する四つ首の大荒魂を見つめ、各戦線からの報告に折神葵は辟易としていた。

 

「葵様、燕様、綿貫様。第一防衛ラインから残存戦力の撤収が完了。第三兵站拠点まで後退します。

 加えて第二防衛ラインから残存戦力の撤収及び死傷者の回収完了。第一兵站線まで後退の後、伍箇伝へと護送致します」

 

「了解。後は任せよと伝えなさい」

 

 死ぬ者と生きる者、刀を使う者と壊す者と守る者。

古来より刀使は荒魂という異形と戦う戦士であり、それは例えるなら生と死の境界線を行き来する事でもある。そして、それら全ての結果を受け止める事は自身の責務だと葵は思っている。

 

 …ずっと見てきた。その経験が、彼女を折神に相応しい資質にしたのだとしても。今、彼女は折神の王だった。

 

「――ああ、それと」

 

「? はい」

 

「折神葵が感謝していたと。皆に伝えて」

 

「――了解」

 

この場に最後まで残っていた管制担当は、少し息を飲んでから頷いた。

 

「だから最初から私を行かせておけばよかったんですよ」

 

「燕さん…」

 

「和絵も分かってるでしょ?この事態が」

 

氣を発しながら。葵の左側の椅子に座っている刀使が前方を睨みつけていた。

 

「………はい」

 

「第一・第二防衛ラインは双方壊滅。現段階で殉職した刀使の数は100を超えています、葵様。

 分かりますか?これではあの大荒魂を討伐できようと出来なかろうと、これから刀使の数は減る一方だという事です。御刀を返納する元刀使でこの国は溢れるでしょうし、刀使になろうと思う者すら減るでしょう。

 刀使は一気に減ってはならないのです。1人2人の殉職ならば、気を付けようかな?みたいな心構えで大抵の人間はすみますが、10人100人規模であればどんな馬鹿でも危機感を覚えます。私明日死ぬんじゃないか?という今更な危機感を。刀使を頑張ろうと考えている段階の者にとって、それは致命的ですよ。葵様」

 

「……」

 

・・・・・。

 

「私や和絵といったその段階を超えた刀使達のみを戦線に向かわせておけばよかったのです。しかもあの藤原を兵站線に、後方に配置するなんて。部下の命を何だと思ってるんです?まさか葵様、最初から第一と第二は捨てるおつもりでしたか?」

 

「捨てる筈ないでしょう。ただ私は私の出来る最善を尽くしただけです。 報告ご苦労様、下がっていいわよ?」

 

「・・・了解」

 

 行き場のない管制担当官はこれから戦場になるこの地を後にする前に深くお辞儀と、最敬礼でもって応じた。

 これが今生の別れになるのか。何故だ。とは今更思わないよう彼は努力し、ただこの戦場に集った戦士達を忘れないよう心に留めた。共に戦場に立てずとも、烏滸がましくとも、それが最期の礼儀だと思ったからだ。

 事実、彼はこの戦いで死んだ刀使達(戦友)を忘れることはなかったし、それは後に彼の苗字が変わっても失する事は無かった。

 

「葵様、綿貫様、――燕様。御武運を」

 

「はーいよろしくどうぞ」

 

「刀使以外避難完了。では葵様。皆に御下知を」

 

「ええ」

 

 葵は静かに立ち上がり息を吸い、順番に32名の部下を見た。内心では不安な者、奮い立っている者、諦めてなるものかと殺意に溢れている者達がここにはいた。

 

「皆には詫びなければならないわね。もう二度と大荒魂をこの国には発生させない。それが私の、…40年前の戦いを知る者にとっての願いであり誓いだった。それを反故にした事、折神の当主として深く謝罪します」

 

 深々と頭を下げる当代の王に、集う刀使達は不快感を抱かなかった。これから戦うというのに、今更侘びて何になる。そう思った者も一人としていなかった。親衛隊である結唯も含めて。何故ならば、

 

「――けれど」

 

後は斬り合うだけだからだ。

 

「今、私達はここにいる。貴女達をこの国最強の刀使集団だと信じて疑わない私と、名実ともに最強の刀使である貴女達。今夜、我々が負ける事はないと、敗因も皆無と、私は断言するわ」

 

・・・・・。

 

「40年前、私はまだ5歳で、御刀はおろか刀使とは何かすら分かっていなかった。そんな私が、今もこうして刀を使っている事、すなわちここに集ってくれた貴女達と共に肩を並べて戦える事を誇りに思うわ。ありがとう、皆。ここに来てくれて」

 

・・・・・。

 

「昔人は言った。死を懇願した時、勝敗は決まる。

でも我々にとっての勝敗とは何?この身体が写シごと砕かれ只のタンパク質の塊になる事?荒魂を倒す事?

 いいえ、違うわ。私達の後ろに敵を通すことよ。私達の後ろに、何も通さない事よ」

 

・・・・・。

 

「ここを護るわよ。皆。ここが最後。ここが最後の正念場。たとえこの御刀が砕けようとも、私達が時の最果てに辿り着いて誰も憶えてしまわなくなっても。私は、私達は忘れない。

 刀使たちよ、抜刀。あの化け物にとことん思い知らせてやりましょう。ここが何処で、私達が一体何処の誰かってね!」

 

「応!!」

 

 刀使達の咆哮と抜刀と同時に。今は肉眼ではっきりと見える大荒魂が翼を広げ、空へと飛んだ。偶々そうなったのだろうが、人間の眼から見てその行動は逃げを打った様に思え、堪忍袋の緒を斬りながらイの一番にその翼目掛けて一人の刀使が跳躍。空中で第3段階迅移へと移行し、八幡力を全開にして斬りつけた。

 

「逃がすなッ!!!」

 

「燕さんが撃ち落とした!?」

 

「はっや!まるで弾丸!!!」

 

「絶対包囲!!(キルゼムオール)」

 

「あの四つ首全部斬り落とせ!!!」

 

「応!!!」

 

刀使達の最終防衛ラインの火蓋が、ついに切られた瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

「……始まったみたいね」

 

「何故私達が後方、兵站拠点の防衛なのでしょうか…。第3段階の迅移が出来る者は悉く防衛ラインに配置の筈。それが出来る者は、ここに3名もいます…」

 

「折神家当主の命令よ。準じなさい、篝」

 

「ですが!」

 

「あそこで戦っている刀使や各戦線は、私達が守る補給を待っている。刀使だろうと何だろうと人間は疲労するし、お腹も減るし喉も渇く。でもずっと戦えるのは、少し下がれば腹が膨れる御馳走がちゃんとあるからよ」

 

「そうそう。紫の言う通り」

 

「美奈都先輩まで…」

 

「兵站って、最後の晩餐になるかもしれない物を運び続ける仕事なんだよ、篝。だから私達も頑張ろ? 紫もね」

 

「ええ勿論。ここは命に代えても絶対死守よ。…でもそういえば、雪那はどこに配属になったのかしら。どの兵站拠点にも配置されてないみたいよね?」

 

「?そう言えばそうだね。鎌府の全刀使は緊急出撃命令が出て、当面の配置表も貰ったけど、雪那の名前は無かった」

 

「あそこです」

 

「え?」

 

「きっとまだ。江の島です」

 

後に彼女達が行く事となるその場所へ、篝は視線を投げていた。

 

 

 

 

 

 

「――うぉおおおお!?!?荒魂でいっぱいだよ相模さん俺どうしたらいい!??」

 

「黙って頭も尻も隠して伏せてなさい!!全部今ッ斬っておくからッ!」

 

「こりゃあ凄い!いや凄いなんてモンじゃない素晴らしい!!ねえ、僕がもし官僚になったらさ!刀使さん達の給料と待遇を更に上げる事を約束するよ!」

 

「期待しないでおくわッ」

 

 斬った張ったの大立ち回りを江の島で繰り広げる雪那は、迫り来る荒魂を全て斬っていた。生存者を探す為に変な荷物(高津だよ!)と一緒にぐるりと島を回りながらの行動であったが、途中幾人かの生存者を見つける事に雪那は成功。現在は大橋へと向かっていた。

 

「…食糧は現地調達しか出来なくて申し訳ありませんが、皆さんにお渡し出来る物はもうこれで全てです。一先ずはこのまま前進、未だ無事な大橋を渡って、皆さんを片瀬江ノ島駅までお送りします」

 

「かたじけない。刀使さんは?」

 

「そうです、貴女は?」

 

「私は隊に合流。次の指示を仰ぎます」

 

「ありがとうございます、刀使さん」

 

「礼は要りません。刀使ですから」

 

 雪那は生存者たちを真っ直ぐ見つめて言った。その瞳はほんの少し嬉しさが含まれていたが、まだこの江の島に生存者がいるのではないか気が気でなく、しかし自分一人ではこれ以上の捜索は不可能だという冷徹な理性が、彼女に言葉を選ばせていた。

 

「では渡りましょう。私が先導します。出来る限り急ぎで」

 

「はい!!」

 

「・・・・」

 

「?」

 

「・・・・」

 

・・・・・。

 

「…ちょっと何?私の顔に変な物でもついてる?だとしたら拭いてる暇もないからほっといて頂戴」

 

「!ああごめん。ちょっとね」

 

「?」

 

男は雪那にだけ聞こえる位の小声で話した。

 

「なあ相模さん。君はこの後あの竜とやり合うのか?」

 

「命令があればそうするわ」

 

「それが刀使だから?」

 

「ええ、それが刀使だから」

 

「・・・そっか」

 

・・・・・。

 

「カッコいいんだね。刀使さんって」

 

「お金貰ってるからね。それなりにしないと、税金泥棒でしょ?」

 

「ハハ、――そうか」

 

 おっと、と。雪那に見惚れていた男は気を引き締めた。

――落ち着け、映画だったらこれじゃあ次の瞬間化け物に襲われて死ぬ役目になってしまうぞ。古今東西、こんな時にこんな気持ちでいる奴は主人公やヒロインの為に命を捧げちまう可哀そうなキャラだって決まってるんだ。勿論ここは現実だけど、万が一があるからな。

 

そう思えた事は男にとってラッキーではあったが、それ故に不幸でもあった。

 

「?・・・・・、?」

 

 男が首を傾げる。雪那は気付かない。前後左右と生存者達に視線と気を配っているから。

護る者ではなく護られる者だけが気付ける、微かな臭いと視線に。

 

「―――?」

 

海面に眼をやる。小波が、水面が、異常なんて無い筈なのに何かの腕が見えてそこには、

 

「危ない!!!」

 

 ――今度こそ死ぬだろうなと。そんな絶対の勘と予感が五体を満たし、けれど彼女を護れるなら本望と男は心底覚悟して雪那の華奢な身体を横から突き飛ばし、

 

「こっちの台詞よ」

 

――たんだけれども。

 

 

「 B&&&&&&&&&&&& 」

 

 

 それは海の中から跳躍、ジゲン流・猿叫の如き咆哮と音を立てて大橋の中央に着地した。肥大し、誰が見ても凶悪な形をしたその左腕が雪那達を叩き潰さんと、仁王立ったのは巨大な荒魂だった。

 

…被害はゼロ。今の所は。

 

「――ぅえ?あれ?僕の命はこの為にあったんだなあなんて、・・・悟ったり何だりしちゃったんだけれども?」

 

「刀使には『迅移』ってモノがあるの。だからすぐに分かった。以上」

 

「え?僕ってもしかして無駄に恥ずかしい事しちゃった感じ?」

 

「カッコいー」

 

「ちょっと待って待ってホント待って!!時を戻して!!!」

 

 …間一髪であった。

男が叫んでくれたお陰で雪那は『迅移』を発動。早く動く事で男ごと荒魂の間合から退避する事が出来ていた。

 

 もしも、と。雪那は思う。あのままだったらこの左腕に叩き潰されていただろうと、冷たい汗が背中を流して。

 

「皆さん、下がっててください。出来るだけ姿勢は低く。ほら貴方もよ」

 

「顔から火がでるぅぅぅぅううあ!!」

 

「 B&&&&&&&&&&&& 」

 

 獣のような荒魂と対峙する雪那。その後ろには顔を覆って叫ぶ荷物(高津だよお!)と護るべき人々。絶対の窮地に一人だけの刀使である彼女は、しかし何故か。

 

 

―――カッコいいんだね。刀使さんって。

 

 

「かかって来なさい。ここは、通さないわよ?」

 

笑みを浮かべて、化け物に刃を向けた。

 

 

 

 

 

 

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