例えばこんな刀使さん達   作:ブロx

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この物語はフィクションです。この綿貫さんの流派は原作通りではありません。





第2話 鎌府の刀使

 

 

 

 暁風斬り裂く剣の素振りがまるで秒を寸断するように。

貴女の鋭く速い刀刃の運びは、日課である彼誰時の稽古を大詰めへと変化させていた。

 

「………――」

 

 この時念頭に置くことは、呼吸を止めないという事。止めれば身体は力みを生む。身体の流れが留まる。

 どうしても瞬間的なパワーとスピードを得たいなら呼吸を止めてもいいが、異形・荒魂との戦闘は人間のそれとは違い短時間で終わらない事が多い。その間ずっと永遠に呼吸を止め続けて生きる事が可能であるなら誰も止めはしないが、少なくとも貴女には出来なかった。

 

 ――想定する。仮想の敵が得物を構え、今か今かと振るわんとしている。ヒト型の敵だが、人間ではない。体力も呼吸も必要、いや存在しない。そんな眼前の敵を、狙っている勝機を全てを、この刀でもって縦一文字に斬る。斬りまくる。

 

防御ごと叩き斬る我が得物。それはこの一振り。斬るという工程に全てを傾けた、鋼の剣。

 

「――……」

 

 只それだけを考える。一意のみを専心する。迷えば敗れる。その為の鍛錬法だった。

 

「和美。朝ご飯よ」

 

「はい、お母さん」

 

 返事をすると、貴女は御刀を鞘に納めた。

頭(かぶり)を振り、稽古の拙さを切り払う貴女の長い髪が麗しく舞い上がっては空を澄ます。

 

「――不出来。これでは」

 

「眉間にばかり熱が走ってるわね。今日は御前試合なんでしょう? 警護の任、冷静に頑張って務めなさいね?」

 

「…元より承知の上です」

 

 綿貫家の庭兼稽古場を後にして、白く湯気立つ茶碗達が鎮座している居間・テーブルの前に貴女は座り、自身の母を見た。

 澄んだ色。娘に遺伝した縹色の長髪が真っ直ぐに下りて、うなじを隠している。相変わらず綺麗だなと貴女は思った。

 

「呼吸も、流れる水も留まらない。どこまでも。――だから強い。忘れないでね?和美」

 

「………。いただきます」

 

 師の言葉に無言で頷き、手を合わせて白米を二口食べる。味噌汁を音無く啜って、今度はおかずに箸を伸ばす。すると湯呑茶碗がテーブルにコトリと置かれた。中身はほうじ茶のようだ。薫りも味も最高だった。

 

「しかし懐かしい事。お母さんが和美くらいの頃は、一人の刀使さんがずっと御前試合で優勝していたわ。…とても強かった」

 

 母が作る料理とお茶は絶品だ。心身が温まり、初心を思い出させてくれるこの味を貴女は大いに好んでいる。

 

「藤原さん、元気にしているかしら」

 

 いつかこの味を再現し、そして超えてみせると心に想いを落としながら。微笑む貴女がちらりと時計の針を見た。

 

「ご馳走様でした。お母さん、行ってきます。お父さんにも伝えて下さい」

 

「気を付けてね」

 

「はい」

 

かつては刀使だった母が、綿貫和絵が娘と同じく微笑んだ。

 

 

 

◇ 

 

 

 

 朝。いやぁまだ昼ではないよと云った頃合い。これはお城の正門ですかと訊かれんばかりの大きな門の前で、貴女は同僚たちと共に早速任務に就いていた。

 

「おはようございます皆さん。欠員は無しですね?」

 

「はい」

 

「おはようございます、綿貫さん」

 

「集合場所を鎌府と間違えた人がいなくて安心しました」

 

「流石にここ折神家本邸と学校を間違える人はいませんよー」

 

「………」

 

それを聞いて、貴女は押し黙った。

 

「え?昔いたんですか?」

 

「っシ。静かに。…後で教えてあげるから今は黙ってて」

 

「そう、あれは私達高3勢がまだ中等部だった頃…」

 

「早速ですが本日の仕事の確認をします。 よろしいですね?」

 

「あ、はい」 

 

「すみません」

 

 今日はハレの日である。沙耶香をはじめ刀使たちの中でも選りすぐりの強者と、彼女らを束ねる折神家という由緒ある御家の当主がここに集う日。だから恥ずかしい過去は秘めるだけで思い出さなくてよい。

 御前試合の警備任務。今日貴女はその全警備班の司(トップ)として、任務を全うしなければならないのだ。

 

「試合は全てここ折神家本邸内で行われます。予定開始時刻は今から三時間後。決勝戦のみ屋外特設会場で、その他は屋内武道場です。

 試合会場の警備はA班とC班。D班とE班は本邸の外周一帯。F班とG班は観客の誘導・警戒をお願いします」

 

「了解。綿貫リーダー」

 

「…しかし例年通り、試合開始までが長い仕事ですよね」

 

「試合なんてあっという間に終わるもんね」

 

「私は好きよ?この時期、ここの桜が見頃なのよね」

 

「言えてるぅ~。しかもチェリーブロッサムって言うとダサいけど、桜って言うと侘び寂(さび)効いてる所も良いよね~」

 

「は?何言ってんのいきなり。脳みそ腐ってんの?英語でいいじゃんカッコいい」

 

「あ~…。あなた横文字聞くと脳がクラッシュするタイプの病の持ち主ですかあ」

 

「英語よりもこっちが好きなだけよ。黙ってなさいなタイニーども」

 

「は?」

 

「あ?」

 

貴女は微笑んだ。聞く人が聞けば下らないかもしれない彼女たちの会話は警備班の御愛嬌である。

 

「ミーティングを続けますよ?そしてどちらにも良さがあります」

 

「失礼しました」

 

「本邸正門であるここ折神の大門は私とB班が担当で、交代要員は各班二名ずつ。休憩・交代の回し順は各班自由に決めて下さい。それとB班はこれから屋外休憩所の設営をお願いします」

 

「え? ということは綿貫さんが最初に立哨ですか?」

 

「ええ、そうです。嫌なら代わりますよ?」

 

「お言葉に甘えまーす」

 

「綿貫さん、持ってきたドリンクサーバーの中身はどうします?」

 

「いつも通りほうじ茶とスポーツドリンクにしましょう」

 

「了解です。パックと粉を浸しておきます」

 

「お願いします。……さて、今回会場には当主親衛隊のお歴々総勢四名が御出でになります。A班とC班はくれぐれも足を引っ張る事など無いように。 試合までまだ時間はありますが我ら鎌府の刀使衆の力、示してやりましょう」

 

「了解」

 

「では解散。――幸運を」

 

 別れ別れに持ち場に向かう警備の刀使達。御前試合という表舞台には立てずとも、裏側でそれを守護する役目を負った歴戦の刀使が貴女たちだ。

 

 敵である荒魂は何時でも何処でも現れ荒ぶる。そのため刀使たちの緊張が解ける瞬間など皆無に近い。しかしこの御前試合だけは、そんな責務から解き放たれただ純粋に心技体を競ってほしい。伝統ある御前試合は刀使同士のそんな心の機微から始まったのだという。

 無論表向きは当代最強刀使の決定戦であり剣の学び合いの場であるが。

 

 門前に立つ貴女は小さく息を吐き、流れる水をイメージした。四六時中かつ無意識でこれを行えなければ、修行の完成とは言えない。

 母からの教え・綿貫の家に伝わる剣法の基礎鍛錬をいつも通り重ねていたその時、貴女の首筋に電流のような威圧感がピリと走った。

 

「綿貫さん」

 

 まるで虫が知らせてくれたかのように。それに従って顔を横に走らせると、夜梟のような佇まいの刀使がそこにいた。

 

 

 

 

 

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