折神家当主御前試合。
年に1度、桜が舞う時期に行われる刀使達の夢の舞台である。全国に5校しかない刀使育成学校から上位2名が選抜され、総勢10名で覇を競う。
それに優勝し、折神家当主の目に留まれもすれば刀使達の憧れ親衛隊入りも可能だとか。
――折神家当主親衛隊。近年では20年前の相模湾岸大災厄大荒魂侵攻の折、時の当主と共に奮戦し敵の勢いを食い止め江の島まで撃退せしめたという。
当時を体験した元刀使達を含め関係者がこぞってその戦いについて口をつぐむ為、半ば伝説と化しているのが現状であるが、その役職は現役の若い刀使達にとって憧れとなり、やる気となる。
それは正にこの刀一本だけで立身出世した古の剣士みたいだと、何かの本に書いてあったのを思い出したのだろう。
「う~~~!!!!ワクワクしてきたよー!!!」
一人の刀使の少女は両手を挙げて、満身の武者震いを示していた。
「可奈美ちゃん、他の人もいるんだから静かに…」
「可奈美らしいじゃん!美濃関の代表として私の分まで頑張ってよ?」
「まっかせてーー!!!」
笑顔煌く美濃関学院の代表である衛藤可奈美。そして柳瀬舞衣は今回の御前試合出場メンバーの中でも上位に入るだろう。全国的に見ても、美濃関は伍箇伝(刀使育成校の総称)において手練が多い。それは現学長の教育方針の賜物かもなあと、美濃関学院代表補欠刀使・安桜美炎は思った。
「しかし悔しい…!あの準決勝で集中が切れていなければ、柳瀬さんの隣りは私だったのにぃ……っ!」
「う~ん、美炎ちゃんはもっと集中力を高める稽古をすべきじゃない?」
「え?たとえば?」
「レトロゲームとかどうかな。妹が最近始めたんだけどね?スーパーマリオコレクション全制覇とかしてみたら、今より集中力も器用さもレベルアップすると思うの」
「なるほどゲームかあ………、ってそれ暗に私が不器用だって言ってる?ねえ柳瀬さん今日なんか毒舌じゃない?もしかしなくても緊張してる? もしかして私のこと嫌い!?」
「………」
「柳瀬さァん!?」
「為せば成るっ!だよ!美炎ちゃん!!」
「私の決め台詞それ………」
「ふふ。ごめんなさい、美炎ちゃん」
「柳瀬さァん……!」
頭を撫でられ、美炎は元気と機嫌を取り戻した。
後に彼女は応援のため額に鉢巻き、美濃関の校旗を振り回そうと決め会場に向かうがそれは美しい長髪の刀使に門前で咎められる事となったとかならなかったとか。まあそれは別の話。
「とにかく!頑張ってね、可奈美!柳瀬さん! なせばなるっ!だよ!」
◇
折神家本邸は鎌倉、鎌府女学院の隣りに位置している。正門である折神の大門の荘厳さと邸宅の景観は見る者にとっては眼の保養どころか一生に一度は見ておきたい類いのもので、特にそれは遠方より来る者にとっては眼に焼き付けておくべきレベルの感動があった。
「は~~……すっごい」
「綺麗だね、可奈美ちゃん」
「来て良かったよ~…舞衣ちゃん。 あ!警備の刀使の人だ!」
「鎌府の方だね。――あれ?確かあの人、」
「お疲れ様でーす!」
「お疲れ様です。貴女方は美濃関学院の代表者ですね?」
「はい、そうです」
それは縹色の長髪が殊更美しく、加えて体格がスラリとした長身の刀使だった。モデルさんかな?と場違いにも一瞬舞衣は思ったが、微動だにしない彼女の腰と膝の備えと足のスタンスを見てとった後はゾクリとした闘気を感じた。
折神家現当主・折神紫がつい先日復活させた五官司。恐らく、この刀使はその中の一人の―――。
「会場はあちらの屋内武道場になります。決勝戦のみ、前方に見えます特設会場での試合となっていますので、是非ともご健闘を」
「はい!ありがとうございます!」
「ありがとうございます。行こっか、可奈美ちゃん」
「うん!」
大門の刀使の佇まいに少し恐怖を抱いた舞衣が可奈美の眼を見ながら先を促す。しかし当の彼女は元気に返事をしたは良いものの、足は全く動かなかった。
「……」
「…?」
「? 可奈美ちゃん?」
可奈美の眼は鎌府の制服を着た長髪の刀使にのみ注がれていた。――観察?いや、間合を図ってる?また可奈美ちゃんの悪い癖が出たのかな。舞衣はそう思った。
それは的を射ていたが、可奈美の眼に奇妙な懐かしさがほんの少しだけ浮かんでいる事に彼女は気付けなかった。
「ううん、なんでもないよ舞衣ちゃん。さあっ行こー!」」
可奈美と舞衣が共に歩く。そして一度だけ、可奈美だけは振り返る。―――何流かなぁ、あの人。
そんな嬉しさと、楽しさと共に。
◇
「おお!結構広いんだねー、この試合会場って。警備大変そう」
「そうだね。でも流石の警備体制だよ。見て?左右近衛の大将、親衛隊の方々まであちらにいらっしゃるから」
「あれ?親衛隊の刀使さん達って確か四人の筈だよね?最近制定し直したとか何とか、左右兵衛と左右近衛の」
「残りの方は多分外の決勝会場じゃないかな。決勝戦は例年通りだと、ご当主様が直々に御見えになるって」
「決勝戦!!一緒に戦えるといいね!」
「………。そうもいかないみたい」
「ぅええ!??」
会場に着いた可奈美が舞衣から対戦カード表を手渡され、その中身を見て頓狂な声を上げながらおったまげる。試合は2ブロックトーナメント式で行われる上、対戦カード表には同じブロック内に可奈美と舞衣の名前があったからだ。
「舞衣ちゃあん……」
「決勝戦は無理みたいだね。でもお互いベストを尽くしましょう?可奈美ちゃん」
「…うん!!」
私、負けないからね! 可奈美が言う。全力で楽しむぞいっ!といったやる気と共に。絶対に楽しくなるという絶大なる自信を胸に。
「………。そうだね」
それを見た舞衣の両腕がだらんと下がる。いついつでも腰の御刀に、斬るという工程に全身が移行出来る姿勢と構えをあえて可奈美に示す為に。
一挙手一投足=体幹の動き。舞衣のような刀使達にとって身体が動くとはそれだけでなく、武が全身に働く。意識的にか無意識的にかはあまり関係がない。重要なのはどのような場面か。出来るのか出来ないのか。
そんな全身の備えをこの歳(13)で出来る彼女だけの鍛錬と気組みを見て、可奈美は震えた。
「!」
「……」
これは慇懃である。無礼ではなく。こと可奈美に対してはこれこそが正答だという事を舞衣は知っていた。
――貴女に追いつく。貴女と肩を並べて、刀使として共に戦い抜いて往く。そんな気迫を込めて舞衣は微笑んだ。勝つのは私だと。
素直に、可奈美は怖いと思った。
「楽しみだね。可奈美ちゃん」
「うん!!」
舞衣と可奈美が笑い合い、相見える。鏡合わせの様に。待ちかねていた様に。気付けば親友二人は同じように構えていた。
―――必ず勝つ。
親友であり剣士同士である二人の心はこの時一つだった。
そんな刀使二人の熱い闘気を、伍箇伝綾小路武芸学舎代表の刀使と長船女学園代表の刀使は微笑ましく見守り。鎌府の刀使代表はそんな事よりいけ好かない相方の到着が遅い事に内心腹を立て、平城学館代表の刀使の一人は負けじと闘気を醸し出しながら隣りの相方を見た。
「皆すごい気迫だね、十条さん!」
「……」
その中で十条姫和だけは静かに。誰も瞳に映さず己の刃を心の奥底に隠し続けていた。