例えばこんな刀使さん達   作:ブロx

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バレバレな流派判明回です。累さんの流派は原作通りではありません。





幕間 可奈美たちサイドその3

 

 

 

 

『ふーん、その子を助けることにしたんだ。可奈美』

 

まるでこの世ではない場所と時空で。その人物は言った。

 

『うん。決着がまだだし、何だか放っておけなかったから』

 

『放っておけない…か。さっすが私の一番弟子。似るもんだね』

 

『似る?』

 

『私にも居たよ。放っておけない大切な友達がさ』

 

『それって前に言ってた篝さんって人?』

 

『そうそう。よく憶えてるね?』

 

『師匠の言葉は全部頭に入れるようにしてるから。…起きてる私は、それを忘れてるみたいだけど』

 

『剣はバッチリ憶えてるんでしょ?それならいいって』

 

 夢の中とでもいうべき世界で、可奈美とその人物は剣と言葉を交わし合う。その内容は起きてしまえば忘れてしまうが、しかしこれまでの経験上、身体に刻まれたものは忘れる事はない。人の剣術、魂、技。そして学びは、決して消え失せたりはしないと。

 

『ね。その姫和ちゃんってどんな子なの?』

 

『為すべき事を為すんだ、って感じの真面目な子。すっごく良い子だよ』

 

『そうなの?まるで篝みたい。同じ刀使だし、案外親戚かもね~!』

 

『そうかもね~』

 

二人でそう言い合うと、可奈美の師はふと思い出したように言った。

 

『あ、そうそう。次はどう勝つ?あの剣に』

 

『転』

 

『面白い。でも出来る?相手は別に居合だけの刀使いってわけでもない。可奈美の話を聞いた私の予測が正しければ――、多分その相手の剣は天下無双』

 

『うん。だから勝つ』

 

『結構。じゃあ早速稽古する?』

 

『うん!』

 

可奈美の師は教え続ける。そして同時に待ち続ける。

 

『あ、でも、』

 

『? 何?可奈美』

 

『ううん。なんでもない』

 

―――師匠とあの人、どっちが強いだろう?

 

あの日の続きを。もう一度。

 

 

 

 

 

 

「おい起きろ。いつまで寝てるつもりだ」

 

「んぅ~~?もう朝ぁ?」

 

「もう昼だ。寝ぼけているのか?」

 

 可奈美が起きると、覗き込むようにしてこちらを見ている姫和の顔があった。……何だかまた夢を見ていたような気がする。可奈美はフルリフルリと顔を振って、いつもの目覚ましをした。

 

「顔ぐらい洗ったらどうだ?」

 

「すぐ洗う~」

 

「……。ちょっと電話を掛けてくる」

 

「?電話?」

 

「公衆電話だ。携帯より探知される可能性は低い」

 

「何処に掛けるの??」

 

「……」

 

・・・・・。

 

「そのまま独り何処かに行くのは無しだよ?」

 

「……。私にも、何処に繋がるのかは分からないんだ」

 

「?え、それって?」

 

「万が一、本当に困った時。ここに掛けろと言われた」

 

「誰に?」

 

「母の知り合いだ」

 

 それ以上は知らない。姫和はそう続けた。

ずっと独りだと言っていた彼女だけれど、少しぐらいは知り合いがいるらしい。

 訳の分からない所に電話を掛ける。それは母に対する絶大な信頼と、そんな母の知り合いならばという事だろうか? それにしては表情が幾分、少なくとも可奈美が見た中では最も柔らかい表情で姫和は言った。

 

「私もついていくからね」

 

「…。勝手にしろ」

 

勝手にするという覚悟はとっくに出来ている。そんな可奈美なのだった。

 

 

 

 

「掛けるぞ。周囲の警戒を頼む」

 

「分かった」

 

「それとなくだぞ」

 

「分かってるよ」

 

「…もしもし」

 

『はいはい。お困り?』

 

「……」

 

きっかりワンコール。姫和の電話に出たその人物は女性のような声だった。

 

「………。困っています」

 

『了解。今東京だよね?』

 

「はい」

 

『これから〇×駅に来れる?迎えに行くよん』

 

「…行けます」

 

『じゃあ現地の東口階段集合で。気を付けてね~』

 

ぷつりと音がする受話器を静かに戻し、姫和は内容を可奈美に伝えた。

 

「知り合い?感じはどうだった?」

 

「知らない声だ。でも明るい声量だったから多分女性だと思う」

 

「罠の予感は?」

 

「当然ある。…けどあの人がくれた伝手だ。こちらにとってプラスになる。…と思いたい」

 

「どんな人なの?その、姫和ちゃんのお母さんの知り合いの人って」

 

「怖い人だ」

 

姫和はその人物を真っすぐ思い出しながら言った。

 

「怖い?」

 

「いつも怖い目付きで母を見ていた。長患いの母だったが、でも何故かその人が見舞いに来るといつも笑っていた」

 

「へ~、ちなみに姫和ちゃんには?怖い目付きだったの?」

 

「……いや。いつも気を遣ってくれていた」

 

「じゃあいい人なんだね?」

 

「それは無いかもな。あの眼はまるで仇を見つめる眼だった。そんな眼をしている人間は、碌な最期を迎えないだろう」

 

 自分の事は棚に上げて姫和は言った。

何故最期まであの人を信頼していたのか、何故あの人はほぼ毎日見舞いに来てくれていたのか。それらを訊こうと思った矢先に母は亡くなってしまったので、真相は闇の中である。少なくとも今は。

 

「もう行くぞ。無駄話をしている余裕はない」

 

「あ、待ってよー!」

 

何が来ても邪魔する者は斬る。仇を見つめる瞳で、姫和は進んでいった。

 

 

 

 

 

 

『そうか分かった。保護出来るか』

 

『はい。現在目視にて二人を確認、これから合流します』

 

『ご苦労。後は手筈通りだ。明日、二人をあの場所に』

 

『分かりました。……あの、』

 

『何か問題か。グラディ』

 

『学長達は大丈夫なんですか?』

 

『大事ない。計画に支障もない』

 

『分かりました。では明日、二人を舞草に』

 

『そうだ。為すべき事を為せ』

 

 

 

 

 

 

駅に着き、その日の夜の事。可奈美達はとある人物の家に匿われていた。

 

「いや~、散らかっててごめんね~?適当にくつろいどいていいから~」

 

「あ、はーい!」

 

 高層マンションの一室は広く、その人物にとって二人を匿う事は何の苦でもない。むしろ懐かしい感情を思い起こさせてくれる事、募る嬉しさは有り余る程であった。

 

「あの、恩田さんって呼んだ方がいいですか?」

 

「んぇ?何でもいいよー?恩田でも累でも」

 

「じゃあ累さんでっ!」

 

「いえーい!どんとこーい!」

 

 カンパーイ。一人で缶ビールのプルタブを動かす家主、恩田累は姫和達を見ながら缶を掲げた。

 

「おい可奈美」

 

「え?何?」

 

そんな人物を間近で見て。姫和は怪しさが募っていた。

 

「用心しろ。――あれが敵であるという可能性は充分、」

 

「えー?それは無いよ姫和ちゃん」

 

「確証だって無いだろうがッ」

 

「あはは~……聞こえてるんだけど。まあ、いきなり信用しろってのも無理な話だよね~。あ、お風呂沸いてるから先にどうぞ?」

 

「いいんですか? お先しまーす!」

 

「おいッ!!」

 

 ちゃんとした風呂に入れる事が嬉しいのか。或いは、郷愁を以て姫和を見つめる累の空気を読んだのか。可奈美は素早く動いていた。

 

「可奈美ちゃんだっけ? あの子面白いね~」

 

「……。危機感が無いだけだ」

 

「そう言う貴女が十条姫和ちゃんだよね?………ふ~ん」

 

ほろ酔いになった大人なんて見たくもない。姫和は勝手にそう断じた。

 

「――私の顔に。何か」

 

「ああ、ごめんごめん。似てるなあって思って」

 

「え?」

 

「君のお父さんに」

 

 顔を向ける。

すると累は目を合わせながら、リンゴジュースの缶を姫和に差し出していた。

 

「――生前、父と面識が?」

 

「うん。同門だったからね~。よく稽古を付けてもらってたよ。強かったな~、十条さん」

 

「そうでしたか」

 

姫和の父は彼女が小学生の時に殉職している。

 

「そうっ! 今の姫和ちゃんみたいに為すべき事を為すんだって顔でいつも鍛錬しててね~。…やっぱり親子だね?」

 

「そんなに似てますか」

 

「うん似てる~」

 

本当に。累は強く頷いて言った。

 

「………」

 

 対して、姫和は小さく俯いた。こんな所で父の話を聞けたのが嬉しいのだろうか。或いはそれは、これまで取っていた自身の態度に対する姫和なりの謝意の表れであったのかもしれない。

 

昔話に華が咲く。この時だけは、互いに今を忘れる事が出来ていた。

 

「あっがりましたー!いい湯だったあ…!」

 

「姫和ちゃんどうぞ?」

 

「ではお先に頂きます」

 

「あれ?何だか素直?」

 

「うるさい」

 

 その証拠に風呂場に向かう姫和の足取りは軽くなっていて、これは良い事があったんだなと察する可奈美なのだった。

 

 

 

 

「そうだ累さん!訊いてもいいですか?!」

 

「え?なになに?」

 

「累さんはどんな流派なんですか?教えてください!!」

 

「ここに来る途中でもそうだったけど、可奈美ちゃんはホントグイグイ系だねえ」

 

「あ、ご、ごめんなさい…」

 

 自身の気持ちと興味にまっしぐら。それが彼女の良い所だが自制も要る。可奈美はこれも剣の為と思い頭を下げた。

 

「いいって事だよ~。ええと私の流派はね、ちょっと特殊なやつで。こうしろああしろっていう一般的な流派の堅苦しい決まり事だとか、精神修養だとかが一切ないのよ」

 

「へ~、そうなんですか。………へ~」

 

 可奈美は顎に曲げた人差し指を当て、黙考した。

――精神修養が取り入れられておらず、流派としての約束事・決まりといったものすら無い。つまり、この流儀は只斬る為だけの物騒な物というコト。

 

「戦いに勝つ為だけの、――剣?」

 

「ご明察。可奈美ちゃんなら、いつか戦うと思うよ? あ!私は駄目ね?もうずっと稽古らしい稽古してないからさあ」

 

「あははは」

 

 ――先手を獲られてしまった。どんな剣なのか身をもって知りたかったのに。しかし生まれた好奇心は留まる事を知らず、自制を己に課しながらも彼女を動かし続けた。

 

「特徴は何なんです?流派の名前は?」

 

「お、興味津々?」

 

「はい」

 

曇りなき瞳で可奈美は言った。

 

「水かなあ。しかも一ヶ所に留まらず、一生流れ続けるって感じ」

 

「流れ続ける……」

 

「斬って斬って斬りまくる為には、流水になる必要があったんだね~。だってほら、何処かに留まってちゃそこで終わりだから」

 

「………」

 

 微笑む累を他所に、その時可奈美は身に覚えのあるイメージが湧きたち全身を震わせた。

 数日前、折神家当主御前試合の日。そのような剣を使う刀使と戦った事があるという記憶の想起。流水のように留まらず、居付かず、かといって流れ続けて滝壺に落ちるだけでもない。

 果ての無い、何か遠くを臨むような剣技と精神。何処までも遠くへと往く気概。戦いへの渇望を。

 

可奈美の脳裏に、美しい長髪の刀使が思い起こされた。

 

「―――あれ?もしかしてもう戦った?」

 

「かもしれません。とても強かったですから」

 

可奈美は横腹を見ながら言った。あの時相打ち、否、斬られた箇所を。

 

「あっちゃ~…。まずいね」

 

「…え?」

 

「剣を交えたんでしょう? ならもしまた戦う時は、以前と同じと考えない方がいいよ」

 

「………?」

 

・・・・・。

 

「ひたすら斬って斬って斬りまくる。つまりそれって、永遠に学び続ける剣ってことだから」

 

 細められ、やがて閉じられる累の双眸。

――骨の髄まで思い知っている。己が扱ってきた剣法の怖さと、そして今まで何度も経験してきた鍛錬・稽古を思い起こしながら。

 

 戦いに勝つ。この剣に込められた一意専心を。

眼を開けたそんな累に、可奈美は無言で問いを投げていた。

 

―――その剣の名前は?

 

「葦名流」

 

その剣が今も未完成であるという事を、衛藤可奈美はまだ知らない。

 

 

 

 

 

 

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