例えばこんな刀使さん達   作:ブロx

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第14話 壊す者と守る者

 

 

 

 

 アイツさ、怪獣と戦った事があるんだよ。と聞けば、それは誇大妄想の類の言葉だと思うだろう。炎を吐いたり空を飛んだり。三つ首の化け物と死闘を繰り広げたのだと言えば、そんなもの信じられるか!と一笑に付して終わるに違いない。

 

「あ……貴女は」

 

しかし彼女はその例外。

 

「どけ」

 

 ウォーキングをするような風体で、彼女は舞草(もくさ)の刀使達の前に現れた。ベルトに吊るした大小二本の御刀の刀身はしっかりと鞘に納まっている。

 

 小刀の銘を柊一文字、大刀の銘を退雷・伊賀守金道と云う。

両手は柄にも鞘にも掛けてはいない。自然体。一見、それは和平の意思表示のようにも見えた。

 

「貴女でしたか、同志。高津学長」

 

 それこそが戦闘態勢であると見切れた者が果たして何人いただろう。事実、この場にいる大多数はその不可思議な光景に目を奪われていた。こんな所で大立回りをするわけがない。だってこんなにも、穏やかで自然体だ。

 

「こんな時刻に何用ですか?朱音様も紗南学長も只今不在です。接見ならば――」

 

「接見ではない」

 

「へ?」

 

「はい?今何と?」

 

「これは出撃である」

 

 それを聞いて。やっと事態を理解した舞草の本拠地入り口担当の刀使達は刀を抜いて『写シ』を張った。

 

「御刀をお納め下さい」

 

「?納めているが」

 

「…構えをお解き下さい。狂気の沙汰ですぞ、これから貴女が為そうとしておられる事は」

 

「紗南は今いないのだろう?ならば護剣の鍔柄―――、」

 

 話が通じない。しかし雪那は元より話し合いに来たわけではないので、おかしい所は何も無い。それ故に、折神紫(大荒魂)に反する勢力である舞草の剣士達は、相手が尋常ならざる精神状態にある事を悟った。

 

「敵に絆されましたか、鎌府学長!」

 

「―――降服はムダだ。抵抗しろ」

 

「!?」

 

それは束の間の出来事であった。剣劇は、一瞬二斬が始まりである。

 

 

 

 

 

 

「いやー、一時はどうなる事かと思いましタ」

 

「やっと一息ついたってところだな」

 

 舞草本拠地の隠れ里。間接的に何処から探しても見つからないそこに、糸見沙耶香を退けた可奈美と姫和は居た。

 

 折神紫、すなわち大荒魂に反対する秘密武装勢力・舞草。

累からの伝手でその刀使達と接触した可奈美達は、現在大荒魂包囲網を構築中の一大勢力がある事を知ったのである。

 

「エレンちゃんも薫ちゃんも、その舞草?なんだよね?」

 

「まあな」

 

「舞草の側の人間は、思った以上に大勢いるようだな。長船の刀使達」

 

「ええ、モチロン。先程ひよよん達が話した私のグランパに、長船女学園の真庭紗南学長、かなみんの所の学長に、ひよよんのママ!あとは私達長船の刀使を中心に、他の伍箇伝にもぼちぼち。そして鎌府の学長もデスネー」

 

「まるで包囲網だな」

 

「まるでじゃない。その通りだ。オレ達は準備を着々と進めて折神紫、…いや、大荒魂を白日の下に晒そうとしている。鎌府の学長も、それには秘密裏に協力してくれていたんだ」

 

「そんな中、まさかひよよんが真正面から折神紫にカチコミかけるとは思いませんでしたケドね」

 

「私は私の為すべき事をしたまでだ」

 

 姫和は眼を瞑る。

――亡き母はそんな事を水面下で進めていたのか。とすると、頻繁に来ていたあの人も舞草の一員だったのだろう。姫和は納得と、少しの疎外感を感じていた。

 話してくれてもよかったのに。しかし、あの優しい母ならばと。

 

「母の仇を、娘の私が取らずに誰が取る」

 

「まあこれまでの経緯はどうあれ、確たる証拠も手に入れた。そうだな?エレン」

 

「ええソウデース!これを見て下サーイ!」

 

 長船女学園の刀使・益子薫が言うと、同じく刀使・古波蔵エレンは試験管を袖から一つ取り出した。

 

「それは?」

 

「ノロデスね。折神紫(大荒魂)が製造に携わっていたものデス」

 

「どこでこれを?」

 

「親衛隊の人達がひよよん達をとっ捕まえようと山狩りをしていた頃、ちょっとネー。思わぬ協力者が出てくれたもので」

 

「協力者…?」

 

「あっちも一枚岩ではないということデース。僥倖ともいいますネ」

 

「これからどうする」

 

「勿論!世間にこのノロと我々舞草の集めた証拠の全てを公表し、人間のフリした大荒魂を告発しマース!」

 

「上手くいくか?」

 

「やるなら上手くいかなければならない。それが我々デース!」

 

「まあ、今はのんびりしておこう。お前らの友達も今こっちに来ている頃だ。合流して、ウチの学長とあの人が来てくれればこっちは準備万端」

 

「なのデース!!」

 

 ――友達?あの人? 

可奈美と姫和には色んな?が浮かび上がっていた。

 

 

 

 

 

 

「もう間もなくですね」

 

「ええ。これでやっと、私も篝センパイと美奈都センパイに顔向けができます。朱音様」

 

 車内には二人の女性が居た。同年代、同級生、同組織、すなわち舞草の中心メンバー・長船女学園学長、真庭紗南と折神紫の妹・折神朱音。20年前の大災厄当時は現場は違えど、共に戦っていた者同士だ。

 

「十条姫和さんと衛藤可奈美さんはもう着いているのですね?」

 

「そのようです。今頃はフリードマン博士と、エレン達から説明を受けています」

 

「………。もう20年ですか」

 

早いものですね、と。朱音は呟くように言った。

 

「………ええ。あの日の事は昨日の事のように思い出せます。あの三つ首、あの雷、そう簡単には忘れられません」

 

「………」

 

 本来あの大荒魂は四つ首で、紗南が戦う前には一つ斬り落とされていた。それを為したのが自身の亡き母であり、そして防衛ラインの刀使達である事を、朱音は片時も忘れてなどいない。

 

 あの場にもし自分が居て、そして姉のように強く刀使を全うできていたなら。…その後悔が、彼女が舞草を結成した理由の一つでもある。

 

「きっと、事態を明らかにして、今度こそ私は母達の墓前に言う事が出来ます。あの日の戦いが…やっと終わったと」

 

「協力は惜しまないよ、あかねちゃん」

 

「ありがとう、なーちゃん」

 

 昔馴染みである二人の元刀使が、間もなく舞草の本拠・隠れ里に着こうとしたその時である。

 

「――ん?」

 

「あれは…?」

 

果たしてそこに居るのは、紗南にとってはひどく見覚えのある、一人の剣士の姿だった。

 

「雪那センパイ…?」

 

「高津学長ですね。こんな所で一体何を?」

 

「正門担当の城兵の仕事でも引き受けたんですかね。あの人ジョーク苦手の筈ですが」

 

片手が上げる。ニコリともせず。その仕草は間違いなく高津雪那だった。

 

「ここでお待ちを。

――センパイ、御無沙汰してます。 しかしここで何を?」

 

「待っていたのだ。ここで」

 

「……。どういう事です?待っていた?」

 

「大荒魂がこちらの動きに気付いた素振りあり。こう言えば分かるな?」

 

「!? まさか…」

 

「私はヤツの眼を盗んでここに来た。こうなった以上、最早あらゆる連絡手段は意味をなさない事は明白。間違っているか?紗南」

 

「いえ、間違ってはいませんが……」

 

 紗南は訝しんだ。たしかに互いの連絡方法は舞草の者を使った伝言か、こうして直接会う事ではある。そういう取り決めだ。

 

 だが仮にも我々は鎌府の長と長船の長。互いに会う事はリスクが高い。だから極力避けようという事も事前に話し合っていた筈。

 …妙だ。そして何よりも、何故この場には彼女以外誰もいない。

 

「そういえば雪那センパイ。ここに常駐している長船の刀使達、ここを離れるなと命令してあったんですが、見ましたか?」

 

「ああ。今は向こうで休んでいる。いい刀使に育てたな?」

 

「それは恐縮です。ちなみにいつから休んでます?」

 

「たしか…30分前だな」

 

「貴女がここに着いたのは?」

 

「……30分前だな」

 

「もひとつ質問いいですか。―――ウチの刀使達に、何やった?」

 

「アンタのような勘のいい後輩は嫌いよ。紗南」

 

 『写シ』。そう見て取った瞬間、紗南はドアも閉めずに急ハンドルを切りながら車のアクセルを踏んだ。

 急激に地面を切り裂く四輪タイヤが悲鳴を上げて、しかしそれに交じって聞こえる僅かな鞘鳴りの音。

 

元刀使として、それは聞き間違える事はなかった。抜刀術の音だ。

 

「朱音ちゃんッ!!無事!?シートベルト!!」

 

「それはちょっと言うのが遅いんじゃないのなーちゃん!?!」

 

 まるで最初からそう設計されているように、車が縦に真っ二つに割れる。それはまるで20年前の再来だ。この人はいつもこうして、敵を一刀のもとに斬り裂いていた。

 

「やはり御刀……!」

 

「瑞々しいのは相変わらずね、紗南?きっと、アンタはどんな時代でも若いままなんでしょうね」

 

 高津雪那の姿形をした何かが言う。

荒魂か?とも思ったが、どうやらそうではないらしい。根拠は元刀使としての、そしてかつての相方(遊撃手)としての女の勘だ。

 

「そういう貴女は一体全体どうしちゃったんです?まるで相模に戻ったみたいじゃないですか。冗談は苦手の筈ですよね?タチの悪いジョークは止してくださいよ笑えない…!」

 

「モチロン刀使の任務よ」

 

「アタシらが刀使だったのは約20年も前の事ですよ…ッ」

 

 瞬時に朱音を見る。半分になった車から互いに脱出を果たし、五体無事だ。気絶もしていない。つまり今やるべきは時間稼ぎ。

 

「あら知らないの?先代折神家当主は45まで現役だった。私だってまだ現役でもおかしくないでしょ?」

 

「成る程。つまり本当におかしくなっちゃったってわけですか雪那センパイ――!」

 

仁王立つ。朱音の前に。この人だけはやらせるわけにはいかない。

 

「アンタの部下、まあまあだったけど対人を想定していないのは如何なものかしら。鎌府にこんな腑抜けはいないし、いなかったわよ?」

 

「…生きているんですね?」

 

「あったり前じゃない。『写シ』を一回潰しただけよ。情けないくらいにそれだけでグロッキーだったけど」

 

「紗南先生!大丈夫ですか!」

 

「ここは!」

 

「私達が!!」

 

 異常をついに察知したのだろう長船の刀使達が、雪那を取り囲まんと陣形を展開する。

 対荒魂戦のプロ、多人数での殲滅戦に特化した護剣の鍔柄・長船女学園の刀使衆。学長の紗南は荒魂を殲滅する事を念頭に彼女達を鍛え上げていた。だから、

 

「やめろ!!今は!!」

 

 雪那が笑みを深める。腰を落とす。納刀したまま。

―――観念したのではない。頭(こうべ)を垂れる為でも、勿論ない。

 勝つ為に。人外のみを滅する筈の彼女の剣が、抜刀術が、同じ人へ向けて放つ為に。

 

「逃げろ!!!」

 

 

 

 

 

 

「敵襲!敵襲だ!!皆急いで逃げる準備をしてくれ!!」

 

「フリードマンさん!?」

 

「グランパ何事デス?!」

 

「現在この隠れ里は機動隊に包囲されつつある!どうやら先んじて罠に嵌められたようだ」

 

「敵の数は?」

 

「・・・機動隊は50を超える数だが、実質の敵は一人。鎌府女学院学長・高津雪那!」

 

「おいやべえだろそれ色々と」

 

「まさか鎌府のトップが……?」

 

「でもでも!鎌府の学長さんも同じ舞草の筈ですよね!?」

 

「ああ、そうだよ。大荒魂を討つという共通の目的があったからね。・・・しかし、」

 

「その学長が自らここに侵攻してきた。…つまりオレ達に接触してきたのは最初から騙す為だったと見ていいな」

 

薫が断言する。エレンは考える。自身の祖父と同じ仕草で。

 

「俄かには信じられないがね・・・。あの人の言葉と瞳に嘘はなかった。騙す為だったというより、何らかの方法で操られているというのが正しい気がする。その証拠に彼女は『写シ』を張っているとの報告だ」

 

「一体どうやって………」

 

「理由はどうあれ、ここは三十六計逃げるにしかずだろう。今は撤退だ」

 

「待て、敵は一人なんだろう?ここには私達もいる。返り討ちにしてやれば、」

 

「それは駄目だ」

 

「何故」

 

「ここに真庭学長が居ても同じ事を言うだろう。あの人には勝てない。舞草総員は武装を解除する。その隙に君達は逃げるんだ」

 

「『写シ』が張れても相手は過去の人物だろう」

 

――まだ諦めたくはない。姫和と薫が食い下がった。

 

「だからだ。あの人は相模湾岸大災厄特務隊八人の中の一人、主遊撃手。そして、あの地獄の江の島で荒魂を無傷で屠りながら取り残された私の仲間をも助けてくれた剣士。

 仮にもしあの人が何らかの方法で刀使に、・・・高津から相模に戻ったとなればここはもう終わりなんだ。それだけ当時の特務隊隊員は傑物揃いだった」

 

「紗南先生は大丈夫でしょうかグランパ…」

 

「・・・まだ連絡がつかない。あの方と共に、ここに向かって来ている筈だったが」

 

「そこを見計らって鎌府学長はここを襲ったのかもな。――おいエレン、ここは行くしかないだろ」

 

「そうデスね。ヤッテやりましょう」

 

「君たち・・・・!」

 

「ウチの学長の傍にはあの人もいる。逃げるのは、安全を確保してからでも遅くないだろう」

 

「――征くか」

 

「うん!姫和ちゃん!」

 

「レスキュー部隊結成!グランパは里の皆を頼みマース!」

 

 

 

 

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