例えばこんな刀使さん達   作:ブロx

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第15話 貴女だけ

 

 

 

 雪那は上体を屈めた。腰を落とし、脚を前後に広げ膝を曲げ、ただ納めた御刀の柄頭のみを前方に向けて。

 奇怪な構えである。長船の刀使達は刹那、介者の流儀か?と訝しみ間合を広く取った。

 

 あの姿勢では急な方向転換は不可能。『迅移』でもって前後左右の敵に、つまり我々四名に対して抜刀斬撃をしてくる筈。

 

 刀使達は雪那を包囲した。不規則な距離と間合で。

あんなにも沈み込んでいるのだからやるとすれば飛び上がるくらいか。つまりは――、読めた。この低い姿勢は下方からの跳び上がり抜刀。

 なんとも攻撃一辺倒な近間の弓(居合)だ。

 

「……ッ!」

 

 ぴくりとも動かない姿勢の雪那目掛けて。刀使達は気を吹き、自身の得物を振りかぶった。上から横から、そして袈裟懸けの斬撃と仕舞いに刺突。敵一人に対しての十全な念の入りようは、流石は長船刀使衆の連携である。

 

 そう。雪那がその場で360°回転しながら、彼女達の脚目掛けて抜刀していなければ確かに勝利であった。

 

「……え…?」

 

「あ…れ……?」

 

 踏ん張りがきかずに崩れる身体の理由を見ようと視線を下げると、鍔元ではなくいつの間にか柄頭を片手で握って抜刀、薙ぎ払う雪那が見えて。自身の足は、滑稽なほどしっかりと地面を踏みしめていた。主である筈のこちらに挨拶をするように。

 

「もっと低い姿勢でも私は出来るわよ?」

 

「………――」

 

「でもこれ以上身体を沈めると、バレちゃうからね。こいつは脚を狙ってくるって。勝負の鞘の内。中身の想定が甘かったわね」

 

 歴戦である先輩の声。同時に『写シ』が剥がれ、長船の刀使衆はそれが脳に届いてから気絶した。

 

「さて紗南?貴女もやるかしら?」

 

「まさか。―――なんて言うとでも?」

 

 紗南は倒れた生徒の御刀を拾い、朱音を護るように構えた。…この人は舞草の頭。そして何より唯一無二の友だからだ。

 

「流石ね後輩(副遊撃手)。でも紫お姉様が私と、私の成果を待ってるのよ。バイバイ」

 

「…今の折神紫は荒魂ですよ。目を覚まして下さい」

 

「先輩を付けなさい?不敬よ紗南」

 

「他ならぬ朱音様が目撃したのです。荒魂化したあの人を。篝センパイだって―――」

 

「あら、そうなの。で?それが何か問題?」

 

「………ッッあぐ!?」

 

「生身の人間を斬る趣味はないのよ。眠ってなさい」

 

「なーちゃん…ッ!!」

 

 水月への一撃が紗南の意識を刈り取る。

『八幡力』による一般人への攻撃が内臓破裂までに至らなかったのは、雪那の絶妙な力加減によるものである。

 その力量からしてやはり今の彼女は高津ではなく相模雪那なのだろう。朱音は震える膝の裏、膕(ひかがみ)に力を込めた。

 

「貴女は逃げて構いませんよ?朱音様。私の任務はここ(舞草)の壊滅ですから」

 

「……」

 

「さっさと逃げて、復讐しに来て下さい」

 

しかし笑って目的を言う雪那が、朱音に背を向けたその時である。

 

「…―――嫌です」

 

「?」

 

 殺気。否、闘気が揺らめいて雪那の耳を撫でる。…素早く振り向くと、そこには刀を持った剣士が居た。

 

「私は折神です。友を、仲間を見捨てる事など出来ません。何より亡き母に、姉に、そして数多の刀使達に顔向け出来ません。そのような私では」

 

「成る程。葵様とは似ても似つかない………。いえ?そっくりなのかも?」

 

「貴女をこの御刀で祓います。相模という名の、貴女の荒き御魂を」

 

「やれるものならどうぞ?初撃は譲ってあげますよ。その矜持に免じて」

 

 抜刀。朱音は昔取った杵柄よろしく剣士然として刀を上段に振りかぶった。今の彼女は御刀で祓わねばならない。それが今の己の責務なのだ。元刀使として。

 

それを、雪那は両手を広げて迎え入れた。

 

「……ッッ!!!!」

 

 刀の刃が雪那の首に接触する。力を入れる。切断という名の結果を出す為に手の内を締める。手と刃を手前に引く。すると物打ちから切っ先に至るまで刀は滑らかに己の職務を全うする。朱音は袈裟懸けに物を断つ感触を20年ぶりに味わう事となり―――、

 

「――興ざめね」

 

むんずと。しかし奔る刃は雪那に掴まれた。

 

「刀使の『金剛身』を一般人が破れるとでも? ああ、違いましたね。元刀使さん」

 

 ブラックアイスバーンの上を滑るように。刀はしゅるりと雪那の硬い皮膚を通過しているのみだった。

 

「ではさようなら。貴女も眠っていて下さい」

 

 絶体絶命。硬化した雪那は拳を握り、さながら迫るボーリング球のように朱音を殴ろうとする。気絶か、痛みか、はたまた死か。どの結果もそれを運ぶ過程にも眼を逸らさず、朱音は見つめ続けた。

 ――姉の仇、母の仇、己の無力、友の安否。その全てを押し殺して。

 

「だめ」

 

「――?」

 

「そんな事、してはいけない。高津学長」

 

「朱音様!大丈夫ですか?」

 

「貴女達は…、?」

 

 鎌府の制服と美濃関の制服を着た誰かが立ちふさがる。

雪那の拳を全力で止めながら、彼女達はこちらに注意を引き付けるようにして名乗った。

 

「柳瀬舞衣です」

 

「糸見沙耶香」

 

 それはまるで物語のヒーローか主人公。なんとまあ格好のいい事と思いながらだから自身は悪役のように。雪那は切っ先を向けて言うのだった。

 

「邪魔よ。アンタら」

 

 

 

 

 

『ここから先は歩いて行ってね。真っ直ぐ、『迅移』を使った方が早いから』

 

『ありがとうございます。羽島学長』

 

『…ありがとうございます』

 

『紗南とは連絡がつかないし、機動隊が周囲を進んでるから気を付けて。…この分だと舞草の里は押収される。完全にそうなる前に、朱音様をお願い』

 

『分かりました』

 

 

 

 

 

ふって湧いた出た援軍に、雪那は笑った。

 

「あっはは!しかし任務ってのはこうでなくちゃあね。どんな邪魔であろうとも突破してこそ、お姉様に役立てると言うものよ」

 

「…舞衣」

 

「うん。…この人は高津学長だけど、何だか少し、」

 

「美濃関に鎌府の刀使。どいつもこいつも折神に刃向かう叛逆者共。ああ、愚かな野心の火に焼かれたってわけね? 消してやるわ、この相模雪那が」

 

 殺気が溢れる。沙耶香と舞衣が『写シ』の上から感じるそれは、まさしく荒魂のような雰囲気を醸し出して、…この人は高津雪那とは別人なのだと察するに余りあった。

 

 そして同時に看破する。この刀使には勝てないと。

二人だけでは容易く負けてしまうだろうと。直感でそれが分かる。

 でもそれでも、ここで退いたら刀使でも剣士でもないという矜持が二人をこの場に踏み留まらせ、

 

「降服はムダよ。抵抗しなさい」

 

殺意が、二人を包み込む。

 

「そうはさせませーン!! 横ヤリ!!!」

 

「ダイナミーック」

 

「――今度はなに?アンタ達は」

 

「私は紗南先生の仇、そして皆の仇を取る女!名乗る程の者ではありませーン!」

 

「オレは益子薫。こいつは古波蔵エレンだ」

 

「んモウ!カオルはワビサビが分かってませーンっ!!」

 

「時と場合を考えろ。今はそんなもんいらねえ」

 

 構える薫は状況を看破。そして同じくエレンも雪那の注意をこちらに引き付ける為に会話を続けていた。

 

「へえ…?なるほど、たった四人で私を邪魔しに来たってわけかしら?」

 

「ああ。邪魔しに来た」

 

「出来るの?若造」

 

「OH!――それが出来るから、ここに居るワケですが?」

 

「――そして邪魔者はオレ達だけじゃない」

 

「可奈美!」

 

「OK!」

 

 雪那の前方から薫とエレン。そして左右から迫る振りかざす刃持つ二人の刀使・可奈美と姫和が現れる。

 『迅移』を行使しての完璧な奇襲。これでは一見、逃げを打つとすれば後方のみであるが雪那は一歩も動かずに全員の刃を受け止めていた。

 

「ああ、やっと逢えたわね、ヒイラギさん」

 

「!?」

 

「弾かれた!……ううん、滑った?!」

 

「第五段階の金剛身か…ッ」

 

「ナルホド。グランパの言っていた20年前無傷だったっていう話。それはこの人、相模雪那は『金剛身』の発動タイミングと強度が絶対的にウマい。ってことデスね」

 

「それだけじゃねえ、間合の管理もだ。少しずつ少しずつ『迅移』を使って遠ざかってやがった。だからオレの初太刀も浅かった」

 

 刀使としての蓄積、経験の多寡。つまり雪那に勝つにはそれ以上の何かを行使して戦うしかない。可奈美はそう思い、間合を図った。

 

「アンタがここにいるなんてビックリよ?ヒイラギさん。なんでまたここに?」

 

「?…柊さん?」

 

 可奈美が姫和に問う。初めて聞く筈の名前を。しかし姫和にとっては馴染みのある名前を。

 

「母の旧姓だ。………私は柊ではありません」

 

「アンタがジョークを言うだなんてね。知ってる?不愛想刀使がそういう真面目な事言うともっと不愛想になるのよ?そういった面では笑えるけどね」

 

「……母は。柊篝は死にました」

 

「その小烏丸。その太刀筋。私が見間違えるわけないじゃない。だから今度こそ私は、アンタに勝つ」

 

 構える。互いに。刀を担ぐように。

…この人は正気を失っていると、姫和は思った。病床の母へ見舞いに来ていたこの人が鎌府の学長とは驚きだったが、しかし姫和を柊篝と認識している事がどうしても腑に落ちなかったからだ。

 

「―――と言いたいけれど。今はその時じゃあないわね。ほら、この折神朱音を助けに来たんでしょう?さっさと連れて行きなさいな」

 

「…それは。最初からその手筈だったって事ですか?」

 

「当たり前じゃない。今の私の任務はここ舞草の壊滅だからね。アンタへの復讐はすぐ近い内に、ね?」

 

「………」

 

…罠か。姫和は構えを解かずに見つめ続けた。

 

「HEYひよよん、この人十中八九ノロを打ち込まれてマス。だから今は自分の都合のいい現実しか見えてないし聞こえてないノかもです」

 

「……。どうすればいい」

 

「研究施設に運んで体内のノロを除去するしかありませんネ」

 

「愉しみよ?ヒイラギさん。――あの日、私を斬ってくれた気持ち悪いアンタの剣を全て否定してやりたかった。ずっと、ずっとずっとそう思ってた。江の島での闘いなんてその為の前座でしかない。私の敵は、今もずっとヒイラギカガリ。貴女だけ」

 

「……成る程。分かりました」

 

「姫和ちゃん…!まさか斬る気じゃ、」

 

「貴女を斬ります。雪那さん」

 

「さん付けだなんて気持ちワル。でも、それでこそよね」

 

 雪那が完全に納刀する。『写シ』が解ける。同時に大勢の機動隊員が舞草の里を包囲進撃せんと駆け始めた。

 

「全員逮捕だ。我らが王たる折神の勅命である」

 

「了解!」

 

「―――。ここは逃げまショウ!」

 

「朱音様はこちらに!」

 

 無事に朱音を奪還。いや、あえて無事に奪還させてもらった事実。

その結果と思いを胸に、六人の刀使達は撤退していった。

 

 

 

 

 

 

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