例えばこんな刀使さん達   作:ブロx

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第16話 例えば

 

 

 

 相模雪那の襲撃により、可奈美達は潜水艦に逃げ込んでいた。

米軍所属の艦ならば折神家は探知も捜査もできない。エレンの祖父のフリードマンと朱音の判断は正しかった。今のところは。

 

「――20年前、大荒魂が江の島に出現しました。世に言う、相模湾岸大災厄の発生です。死者は三千人を超え、その中には私の母もいました」

 

「………」

 

・・・・・。

 

「江の島から藤沢駅に至るまで三つの防衛ラインを母は敷き、闘い、大荒魂は後退。しかし滅する事までは叶わず、臨時の当主となった姉の紫は特務隊五名を率いて江の島へと向かいました。

 ――それが表向き、誰もが知っている当時の真実です」

 

「真実…、ですか?」

 

 朱音の昔話に舞衣が尋ねる。真実とはそれを語る者に尋ね続ける事で現実味を帯びるからだ。

 

「本当の特務隊は総勢八名いたのです。紫、現伍箇伝の学長、そして可奈美さんの母、美奈都さん。姫和さんの母、篝さん」

 

「お母さんが……?」

 

「知らなかったのか?可奈美」

 

「……うん。刀使だった頃の話はあまり話さない人だったから」

 

「美奈都さんは本当に強い人でした。当時の紫よりも、この国のどの剣士よりも。しかしそんな彼女達特務隊も、あの大荒魂を滅する事は難しかった。だから篝さんは柊家に伝わる秘技を使わざるを得なかったのです」

 

 折神家に伝わる古文書と、生前篝より聞いた話。それらを纏めた朱音の言葉の内容は、まさに生贄としか言えない物であった。

 

それを。既に姫和は重く受け止め了承していた。

 

「柊の刀使のみに受け継がれている力。それは第5段階の『迅移』でした。大荒魂を突き刺し隠世の果てまで共に往く。二度とは帰ってこれない場所への片道切符。それが唯一無二の勝機だと、20年前紫と篝さんは決断した」

 

「そんな……」

 

「…マジかよ」

 

 人一人を犠牲にする事で化け物を封じる。

聞く人が聞けばそれはよくある話で。60年前も、20年前も時の折神の王は同じ決断をして、結果も同じになる筈だった。

 

「あれ?でもお母さんは――、」

 

「はい。美奈都さんはそれを良しとはせず、第5段階迅移中である篝さんに追いつき引っ張り、救出。三つある大荒魂の首を全て単身斬り捨て撃退に成功。ここに、相模湾岸大災厄は鎮圧されました」

 

「やべえなそれ」

 

「かなみんのママスゴイでーす」

 

「そうだったんだあ……。そっか、お母さんは」

 

 友を犠牲にする事は出来なかった。そして事実、何とかした。故人に対する誇らしい気持ちが可奈美には生まれていた。

 

「しかし大荒魂は消滅などしていなかった。紫に憑りつき、機会を伺っていたのです。それを何とかする為に私は舞草を結成し、伍箇伝の学長達に助力を願い、家族を。…姉を救出したかった」

 

「…朱音様」

 

 20年前の藤沢駅。そこで姉と共に母の最期を看取った時、もう朱音は家族を失いたくないと思った。

 折神としてこの国の為に生きる。彼女にとってそれは当然であるが、それと同じぐらい朱音は家族が大切であった。

 

そんな彼女をフリードマンは慮り、共に舞草を結成したのだという。

 

「しかしまさかあの雪那さんが敵の手中に落ちるとは。・・・作戦は失敗とみていいでしょうね、朱音様」

 

「…ええ」

 

「作戦ですか?」

 

「雪那さんは元特務隊の中で唯一あと一度、『写シ』を張れる刀使だったのです。だから最悪の場合は私が斬ると私達に言っていて…」

 

「一人で大荒魂と戦うと?それは無茶デース…!」

 

「私達の誰もがそう言いました。しかし必勝の策があるから平気だと。私が斬らずして誰が斬ると。折神紫を救うのだと…。

 あの時の彼女の気迫は、それ以上何も言えませんでした」

 

「作戦は失敗。そして現在我々は戦力も拠点も失った、と。正しくステイルメイト。打つ手なしだね」

 

「………」

 

 その通りだった。頷く朱音の理性は、今はまず時期を待つべきだと判断している。もう一度力を蓄え、次こそ勝つ。それが先決であり最優先だと。

 

たとえ彼女の感情とこの場に居る刀使達が、それは絶対に嫌だと感じていても。

 

「いっそ、国外にでも逃げようか?」

 

「いいえグランパ」

 

聞こえる言葉、出た言葉にだからこそ驚愕した刀使達はエレンに顔を向けた。

 

「一つだけ。打つ手がありマース」

 

「聞こうか」

 

「その為にまず海面に上がって下サーイ。少々メールと、電話をする必要がありマース」

 

携帯電話をフリフリと見せつけ、エレンは立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

「ミナサン、討ち入りしましょー」

 

「は?」

 

「何言ってんだ?」

 

「ふっふっふー!有力な情報を手に入れましタ。これから私達六人で折神家にレッツゴー!空を飛んでカチコミデース!」

 

「!そうか、ストームアーマーのコンテナか!たしかにそれなら・・・!」

 

「敵の本拠地の警備は万全だろう。オレ達に勝ち目はあるのか?」

 

「協力者からの連絡により、あちらの戦力は大荒魂、そして鎌府学長のみとなりました。後は征くのみデース」

 

「どのスジの情報だ?」

 

「もちろん!折神家当主親衛隊からネー」

 

「まさか……」

 

「思わぬ協力者とは。そういう事か」

 

「待って下さい!それでも敵は危険な相手です!貴女方の実力は理解していますが、それでも…っ」

 

「行きます」

 

「可奈美さん……」

 

「なんて言えばいいのか分からないんですけど、行かなきゃならないって思うんです。心がそう感じてるっていうか、そうする事で本当に全てが解決するって予感がするっていうか……!」

 

「私も同意見だ。何故かは…私も分からないが…、でもそれでも、私も行かなければならないと、そう思う。それにあの人を、雪那さんを放ってはおけない」

 

「姫和さんも…!」

 

「エレン。その親衛隊が大嘘ついてるって線はどうだ?」

 

「全て私達を誘い込んで一網打尽する為って? 勿論あるカモです。けれどそれ以上に、もう座視出来ない状況でもありまーす」

 

「分の悪い賭けだな、ハイリスクハイリターン。それも罠って名前の付いた火中の栗を拾う。―――でも乗った」

 

「カオルゥ!だから大好きデース!」

 

「乗ったとは言ったが引っ付けとは言ってねえ」

 

「可奈美ちゃん。私もついて行くよっ」

 

「…私も」

 

「君たち刀使にしか分からない感覚があるということか。そして何より、止めても無駄と。・・・本当に、刀使というのは」

 

「行かせて下さいフリードマンさん。――今やらないと後悔する。そう、私達は思うんです」

 

 真摯の表情。それは20年前相模湾で大荒魂を直視したフリードマンにとって、とても苦々しく感じる表情だった。

 自分もこんな風に只信じて、瞳を輝かせて、ノロの研究をと希っていた。そして行動し、だがその結果があれだ。米国に向かうタンカー内でノロは結合し、自身の眼の前で大荒魂になった。

 

 あの時ああしていたら、そしてしていなければ。

後悔だけが彼をこの20年間生かしてきた。彼らの眠りを妨げるべきではなかったと。

 

 人ではどうあがいても無理なのだ。だからここは否定すべき所であって。何故なら荒魂に、ノロに、大荒魂に人間が立ち向かうなど―――。

 

「私が公に姿を見せます。その隙に皆さんはあそこに、折神紫の元に」

 

「朱音様まで・・・!!」

 

「希望を託す事しか出来ない私達を、どうか許さないで下さい皆さん。――武運を祈ります」

 

「はい!!」

 

 空元気とは決して違う裂帛なる気迫が聞こえて。フリードマンは只閉口し、握り締めていた利き手を自身の胸に当てた。・・・それしか出来なかった。だから今度はその手を力づくでこじ開けて、

 

「――了解だ。君達の刀と未来に、私も命を懸ける」

 

彼は真摯に。そう言ったのだった。

 

 

 

 

 

 

「では皆さん、一先ずは休んでいて下さい」

 

「お先に失礼します。右兵衛大将」

 

「お疲れさまでした、皐月さん」

 

「では」

 

 今宵この時、折神家本邸は静かなものであった。

連日の厳戒態勢によって職員達は不眠とは言わぬまでも不休。目に見える程に疲れは溜まってきている。

 だからこそそこを見計らって、夜見は一旦休みを取らせるべきだと真希達に進言し、それは受理された。

 

 背中をさすり、時に深呼吸しながら帰宅していく職員達を見送り。夜見は感覚を尖らせ、その時を待つ。

 

「今戻った」

 

「おかえりなさいませ。…高津学長」

 

そんな中こちらにやって来る一人の女性。――いや、刀使が油断なく歩いて来た。

 

「紫お姉様は?」

 

「奥の祭壇で御勤め中です」

 

「分かった。少々報告をしてくる」

 

「了解」

 

「? いやに人が少ないな?夜見」

 

「皆疲れが溜まっているようでしたので。休息及び一時帰宅を促しておりました。高津学長が舞草を壊滅させた以上、危機はすぐにはやって来ないでしょうから」

 

「ほう?珍しいな」

 

「――はい?」

 

「折神家当主親衛隊第三席、皐月夜見。名うてのお前がそんな楽観的観測をするなど。らしくないな?」

 

「失礼ながらそれはこちらの台詞でもあります。一度ご自身の御顔を鏡で見ては如何でしょう。高津学長、貴女のそれはひどくらしくありません」

 

「ふん。何を言っているのやら貴様は、」

 

「警告!皐月様っ、未確認飛行物体が横須賀港より現出!現在上昇中!!」

 

「重ねて報告!飛行物体はストームアーマーコンテナ!総数六機!それらが飛来しています!」

 

「………なんと」

 

「何?落下予測地点は!!?」

 

「――ここです!!予測地点はここ、折神家本邸内!」

 

叫ぶ当直管制担当職員達に対して。来た、と。夜見は静かに思った。

 

「出撃致します。高津学長は紫様のお傍に」

 

「悪い予感が当たったか。分かった」

 

「――いたか、夜見。行くぞ」

 

「結芽?出撃ですわよ?」

 

「は~い!」

 

獅童真希が言う。此花寿々花が促す。燕結芽が笑う。

 

「了解。……楽しそうですね?燕さん」

 

「だってお空を飛んで来て襲来?襲撃だよ~?このタイミングで、ここに来るナニカなんて。たった一つしかないも~ん!」

 

――そして皐月夜見が頷く。

 

「誰であれ何であれ返り討ちだ。折神家当主親衛隊の名に懸けて。ボク達全員でお相手し、無作法者にはお帰り願おう」

 

「ええ。真希さん」

 

「了解」

 

「やっぱり!面白~くなってきたあ!!!!」

 

「―――来ます!着弾まで20sec!」

 

「来たな叛逆者」

 

 

 

 

 

 

 

 

『そっか。闘う事にしたんだ、皆』

 

『うん。でも何だか作為的なものも感じてて。…これってなんだろ?』

 

『当然、その通り作為だよ可奈美。雪那が相模になって紗南達を襲撃した事も、可奈美たちを駆り立てたのも。誰かがお膳立てをしたから』

 

『……誰かって?』

 

『分からない?』

 

『そこまでは分からないよー…』

 

『分からない事はあえて単純化して考えるんだよ可奈美。さあ、襲撃したら何が起こる?』

 

『んっと、私達が行けば当然立ち合いが始まる』

 

『そう。そしてそれが順調にいけばどうなる?』

 

『敵と対面する。私達っていう邪魔な刀使と、御当主様に憑りついてる大荒魂と』

 

『その通り。つまり可奈美の敵はそれが狙い。――でもそこにもし、大荒魂なんていなかったら?』

 

『え?…えっと、御当主様が……いるだけ?』

 

『もしくは一人の。貴女達と戦ってみたいだけの誰かが』

 

『―――そこにいる。待ってる?』

 

『可奈美達をね』

 

『でも』

 

夢の世界で可奈美は師に返す。いや、促す。言葉を。

 

『待っているのは。師匠かもしれないよ?』

 

『…へ?私?いやそれは無いでしょ。私は可奈美の中で可奈美を鍛えているだけの存在だよ?流石にそれはないかなー。

 だってもしそれが本当ならその誰かは表の可奈美すら知らない私を知覚してて、その私をどんな手を使ってでも表に出させて、闘いたい奴って事だよ??そんな剣士いる?』

 

『…そっか。…そうだね、じゃあこれはもしもの話って事で』

 

『?うん?』

 

・・・・・。

 

『例えばこんな、藤原美奈都と立ち合いたい刀使さんが、柊篝と立ち合いたい刀使さん達がいるとしたら?』

 

どうする? と。可奈美は眼を輝かせている師に尋ねた。

 

『なるほど。そっか例えば、かぁ。そっかそうだねえ、もしも。もしも仮にそうだとしたら――』

 

 そう、もしも本当にそうなら。もしも本当にただ自身と闘いたい立ち合いたいだけの誰かがいて、可奈美が逢って、この千鳥を抜いて、いやお前じゃ駄目だ奴を出せと。藤原美奈都を出せよと誰かがそう言ってくれているのなら。

 

 ―――心底。無心に。あの日の続きを。今度は私が勝つんだと誰かがこの身を渇望してくれているのなら。

 

『身に余る、光栄だね』

 

 

 

 

 

 

例えばこんな刀使さん達

 

 

 

 

 

 

 

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