例えばこんな刀使さん達   作:ブロx

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オリキャラオリ刀使登場回です。





第五話 飢えたる者は常に問い 前編

 

 

 

 彼を知り己を知れば百戦殆うからず。

孫子に曰く、相手も己も知らない奴は戦いにおいて必ず負け、相手の事は知らないけど己の事だけは知ってる奴は一勝一敗するので、絶対に勝ちたいならどちらもちゃんと熟知しましょうね。その上で砕け散るまで戦え(意訳)。

 昔読んだ本の内容を、雪那は反芻しながら鎌府高校の廊下を歩いていた。

 

どうすればあの不愛想刀使、柊篝に勝れるか。その為には彼女と、その主を知る必要があった。

 

「………」

 

 鎌府高等学校は折神家本家と隣接しており、この学校に通う事は折神の家の者の務めであるという。

 過去何人かの例外はあったにせよ、鎌府という場所はこの国の中枢近くに位置している要所であり、ここで切磋琢磨するという事は様々な側の人間たちへのアピールとなっていた。

 

 何かあれば折神家が駆けつけてくれる。指揮を執ってくれるという安心感と、何かあればすぐに折神が鎮圧するぞという脅し。

 次期当主である折神紫はその例に漏れず、学校と実家という二つの場所を行ったり来たり。学生の時分から当主としてのいろはと帝王学を学び研鑽する立場にあった。

 

「あっ紫お姉様~、この間の御前試合!格好良かったです~!」

 

「それはありがとう、雪那」

 

 ――初めて出会って、取り組んだ任務から早数ヶ月。

雪那は自分なりに折神家と、その長女である紫の事を調べ、その結果を自身の頭の中に出していた。

 

この人がトップに立つ組織ならば信用に足ると。

 

「他校の刀使をバッタバッタと薙ぎ払う様は正に二刀流の鑑です~!初めて一緒に任務に就いたあの頃を、今の私が見たらきっと卒倒しちゃいますよぉ」

 

「ありがとう。でもそんな褒め殺しは美奈都にも言ってあげて頂戴?優勝したのはあの子だから」

 

 …普通の人であったならと思った事もあっただろう。折神ではなく他の家の人間であったなら、女学生として人並みの青春をもっと謳歌できたのにと思った時もあっただろう。

 高校2年生でありながら、しなやかなこの双肩に背負わされた重責は如何ほどだろうかと。初めて任務を共にしたあの日から、気付けば雪那は紫を慮り、慕うようになっていた。

 

 ――自分勝手だな、とは思う。

本当はそんな風に思ってなどいないのかもしれない。けれど確実に言えるのは、この人の人柄が雪那の心の琴線に触れたという事実。それだけは間違いなかった。

 

「美奈都先輩は美奈都先輩。紫お姉様は紫お姉様です~。そして私が一番凄いと思ったのは他でもないお姉様ですから!」

 

「…ありがとう。雪那」

 

 優しい眼差しで、紫は笑った。 

しかし彼女が美奈都に負けたのを内心悔しがっている事は、この場にいる全員が(紫以外)分かっていた。そしてそれを加味しても雪那にとって一番凄いのは紫であり、この想いは終生変わるわけにはいかないと今の彼女は思っている。

 

そう、たとえこの不愛想刀使がいつも眼の前の人物の隣りに居てもだ。

 

「――あらまあ居たの柊さんお疲れ様。いつもいつもいつもお姉様の後ろを金魚の糞よろしくご苦労ね。もう帰っていいわよ?」

 

「………」

 

「その歳で存在だけでなく耳まで用済みになってるなんてホントご愁傷様。知ってた?耳が聞こえなくなったら人間ヤバいらしいわよ? あ!そうだ!紫お姉様ぁ~、近くに美味しいお蕎麦屋さんが出来たんですぅ~。これから一緒に行きませんかぁ?タヌキ蕎麦が本当おいしくて、もう天かすがバチバチなんですぅ~」

 

「ごめんね、雪那。…申し訳ないけれどこれから篝と一緒に折神の家に行かなくてはならないの。また今度ね」

 

「絶対ですよぉ~?紫お姉様~~」

 

「………」

 

「何よ」

 

「別に」

 

 毎度お馴染み小さく会釈をする同級生。彼女はいつも通り涼し気な顔と態度で紫と共に去って行った。

 ――絶対に越えねばならない。アイツに勝る事で私はきっともっと強くなって、紫お姉様を支えてゆける。後悔せずにずっと。

 今に見てなさい。絶対に借りは返してみせるわよ。アンタに借りを作ったままなんて、私が私じゃなくなるわ。

 

「? あれ?お久しぶりですセンパイ。どうしたんですそんな怖い顔で」

 

「――ねえ紗南。やっぱりアイツちょっと邪魔じゃない?斬ってやってよちょっと腕一本」

 

「いきなり何言ってんです雪那センパイ…」

 

「お久しぶりですぅ~~写シ張りましたかぁ~?とか言って斬ってやんなさいよ正面から。

だっておかしいじゃない。お姉様には私が付いているのに、何であの女は相も変わらず毎日毎日毎日毎日すぐ傍にいるの?わけわかんない」

 

「…ぇえ?ていうか篝センパイの事だったんですか…。そんな小細工であの人が斬れるわけないじゃないですか」

 

 仕事(荒魂討伐)上がりなのだろう。額に汗を浮かばせて、後輩の紗南はこれから私鎌府高校の先生にも報告書を上げないといけないのでスイマセンと断ってから雪那に言った。

 

「篝センパイは折神家と繋がりのある柊家の人ですからね。仕方ないんじゃないですか?」

 

「そんなのこっちは知ったこっちゃないわよ………!」

 

 お姉様の側に私がいればアイツは用済み。それ以外に何があるというのだ。雪那は物騒にもそう考えていた。そう、知った事じゃないのだ。理屈じゃないのだ。

 

「まあまあ。…センパイ達同じクラスなんでしょう?いっそ訊いてみたらどうです?何で紫様の傍を離れないんですかって」

 

「………そんなの……」

 

「え?」

 

「そんなのとっくの昔に訊いたわよ!!!!!」

 

「あ、ヤベ」

 

「なのにあの女は涼しげな眼を細めて、え?なに?と思ったらもう閉じて何も言わないし!!!しつこく問い詰めても、それが務めなので。とか何とかほざいて終わり終了!!!あんの不愛想刀使ホント叩っ斬ってやりたい!!!」

 

「大声で叫ばないで下さい私まで同類だと思われるじゃないですか」

 

「あ?何か言った?」

 

「いいえ~何も」

 

「はぁ~~。叫んだら少しすっきりした」

 

「蛮族ですね」

 

「あ?」

 

「?え?」

 

「………まあいいわ。ありがと、紗南。愚痴聞いてくれて」

 

「どういたしまして。それより、やはりここはもっと知るべきじゃないですか?」

 

「? どういうこと?」

 

紗南は両手を可愛らしくわざとらしく口元で組んでみせながら言った。

 

「篝センパイは家の務めの為だけに紫様の傍に付いているのか。はたまた違う何がしかの理由があるのか、その目的は何なのか。 これらがネックですよね?ならその全部を徹底的に知る事が出来れば、」

 

「! これらを知る事が出来れば、私がお姉様の傍であの女よりも上手く立ち回る事も可能!!流石は出来た後輩ね!よく言ったわ!!!」

 

「どういたしまして~」

 

「早速ちょっとお隣りさんの折神さん家に行ってくる!!」

 

「いってらっしゃ~い」

 

 行動力の化身かよ。いやきっと幻聴だな。仕事明けで頭が少しおかしくなっている事を自覚した紗南は、さっさとシャワーを浴びて今日はもう寝ようと決意した。

 

 

 

 

 

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