例えばこんな刀使さん達   作:ブロx

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第五話 飢えたる者は常に問い 後編

 

 

 

 所変わって鎌府のお隣り・折神家本邸。

折神の大門(正門)を早足で、けれどゆったりとした所作で歩き抜け、雪那は気配を殺しながら邸宅へと侵入もとい姉と慕っている先輩の家に遊びに来たのだった。

 

「? ちょっと失礼そこの貴女。ただ今御当主は会談中ですよ?」

 

「私は伍箇伝鎌府高等学校1年、特別祭祀機動隊員相模雪那です。折神家当主ならびに紫様にご報告あって参りました」

 

「え?しかし――」

 

「ご心配なく。刀使の任務です」

 

「な、成る程・・・」

 

 いけしゃあしゃあとぬかす雪那はキリリとした表情を維持していた。まるで嘘が本当であるかのように。そういう技である。

 彼女の師曰く、剣士は迷ってはならない。迷いは他者に伝染する。人の剣術は迷いという感情に敏感であり、周囲に一人でも欠片でもそれが存在すれば剣は鈍る。決めたのならば行動し、行動したいのなら顔に出せ。顔に出せたら疑うな。相手も君を疑わない。

 

――亜種・心の一方。

 

「ここが折神家当主執務室ね」

 

 十中八九この中には紫と、あの不愛想刀使が居る筈。…果たして何を話しているのか。一言残さず盗み聞いてやる。雪那は鋭い眼差しで、背中を壁にもたれさせた。

 

「? あの?」

 

「御当主様がここで待てと。刀使の任務です」

 

「アッハイ」

 

―――では母様。まずは私から質問をしても?

 

「………っ」

 

 来た。 不動なる表情筋の下で、雪那の心は踊った。部屋の中から声が聴こえてくる。折神家とその側付きだけの会話。秘密がこの中には、確かにある。

 

 

 

 

 

 

 折神家当主執務室の出入り口は荘厳な装いである。

黒を基調とし、毎日綺麗に磨かれている扉の取っ手は金色の装いで常に美しく、もしも常世全てを塗りつぶせる色があるとしたらこんな色かもしれない。もし仮にこれ以外に、人は何も見る事は無いとしたらそれはとても気味が悪いだろう。

 

 真っ直ぐに電灯を反射する金の取っ手を見ながら、閉める。くるりと振り返って、紫はこの部屋の主を真っ直ぐに見た。

 

「ただ今参りました。……母様」

 

「大儀。――――なんてね? やっぱり娘の顔を見ると安心するわ~。朱音もだけど、最近は一層可愛くなってきたわね?我が娘たちは」

 

「…御用が無ければもう失礼しますが」

 

「ああっちょっと!そんな塩対応を親にするんじゃありません!」

 

「………」

 

「ほら御覧!篝なんて親不孝者を見るような眼で貴女を見てるわよ!?恥ずかしくないの紫!?」

 

「親馬鹿を見る眼だと思います」

 

「滅相もありません、御当主。紫様」

 

「ああ言えばこう言う~~~~」

 

「……」

 

 はしゃぐフリをする母を、紫は油断のない瞳で見つめていた。目上の人間がこうやってみせると、表面上しか見ない他人及び大多数はこの人を軽く見る。するとうっかり口を滑らせて、情報を聞き出しやすい環境が出来上がる。当代折神家当主はそんな道化振りが殊更板につき、それ故に恐ろしかった。

 

「では母様。まずは私から質問をしても?」

 

「は~~いよろしくどうぞ」

 

「ありがとうございます。――先日、この折神と鎌府の膝元相模湾に外国の特使が参られたとか。それは何用ですか?」

 

「サイトシーイング」

 

「成る程。ではその特使に我々刀使の任務である荒魂退治を見学させた理由もそれと同様でよろしいのですか?」

 

「うーん、まあねえ。あっち方の人達がどうしてもと言うからねえ…。荒魂なんて物騒なのがいるのはこの国だけだし?珍しい物好きよね人間って何処も彼処も」

 

「そうですか。しかし滞在期間が今年の9月までというのは妙な話ですね?」

 

「え?なんでなんで?」

 

母は心底楽しいモノを見る眼で促した。

 

「今年の9月。それは相模湾の港から一隻のタンカーが出港する月。――それも、今サイトシーイングとやらに勤しんでいる特使の国に送る御刀と、ノロが大量に詰められているタンカーが」

 

「………」

 

「母様」

 

真意は。正気か。紫は表情で訊ねた。

 

「流石は私の娘、折神の長女。朱音も悪くはないけれど、次の当主を貴女にしたのは正解だったわね。ちゃあんと裏を取ってからここに来た。最初から私を詰問する為に。次代に相応しい胆力と腕だと思うでしょ?綿貫」

 

「全くもって」

 

「母様。質問に答えていません。 ノロと御刀は常に我々の管理下にあります。全て折神の名の下に。貴女がそう教えたのです。

 その管理を離れた地へ御刀を、ましてやノロを送るなど正気の沙汰ではありません。貴女もかつて刀使だったなら分かる筈。ノロは結合し荒魂に、そして荒魂は人を襲います」

 

「大丈夫よ。心配無いって」

 

「心配なんてものが無かったら刀使なんて最初からこの国にいませんよ。――母様」

 

「だから大丈夫なのよ?紫。 実は今進めてる外国との共同研究で、ノロを結合させない装置が出来そうなの。全ては貴女の言う心配を取り除く為。この国に生きる全ての者の心配を」

 

「ノロを結合させない?…つまりそれは荒魂を生ませない術という事ですか?」

 

「その通り。でもそれの実現にはこの国の設備では不十分でね。外国にある施設で最後の大詰めをする必要があるの。勿論警備も備えも万全よ」

 

 ――刀使も何人か詰めていると、紫の母は言った。私達折神の悲願、人々の安心がすぐそこまで来ていると。これを為せば、刀使以外での荒魂に対する特効薬が一つ生まれる。そして最前線に立つ刀使達の負担も減ると。

 その上で、紫は母の眼を見て言った。

 

「全て真実ですか?」

 

「勿論よ。私は先代とは違うわ。貴女の祖母と、私は違うのよ」

 

「……」

 

「……」

 

・・・・・。

 

「…分かりました。母様を信じます」

 

「貫禄が付いたわね~、紫。お母さんドキドキしちゃった。今年の御前試合が貴女を変えたのかしら?」

 

「…失礼します」

 

「ああちょっと待ちなさいな。まだ私の用が終わってないわよ紫」

 

「?」

 

 それはいつになく真面目な口調と表情で。だから紫はまたも居住まいを正し、待ちに待った本題が来たかと下腹部に力を込めた。

 

「最近調子はどう?もしかして彼氏とか出来た?御前試合で負けて傷心中に出来る男なんて碌な奴じゃないわよだから、」

 

「ッ―――失礼します!!」

 

帰るわよ篝! 強く言う紫であった。

 

「私もこれにて失礼致します。結唯先輩、和絵先輩。当主親衛隊のお役目、どうか恙無く」

 

「フフ、ありがと」

 

「篝もしっかりね?」

 

「はい。先輩方」

 

「ちょっと紫~、お母さん本気で心配してるんだけども」

 

「母様は今晩説教です!失礼します!」

 

年頃の娘のように怒りながら。紫は退出し、篝もそれに続いて一礼の後に部屋を出たのだった。

 

 

 

 

 

 

「私の娘冷たいわ~。クロクロ、あれどう思う?」

 

「年頃であるとだけ」

 

「綿貫は?」

 

「普通じゃないでしょうか。むしろ良い塩梅かと」

 

「もうちょっとあんな感じの年頃の娘らしさがあの子には欲しいわねえ。もっと可愛くなれるのに」

 

「紫様にも立場がおありです。ご存じでしょうに」

 

「魂にまで刻まれてるけど親子なんだからもっと~~」

 

「オフの日に家族サービスでも何でもなさって下さい」

 

「で~~も~~ん」

 

「折神のデーモン…」

 

「え?唄うデーモン?」

 

「え?溶鉄デーモン?」

 

「悪ふざけはよして下さい御当主。燕さんも。 …それより、先程話されたノロと御刀を外国に送るというナンセンスな暴挙、本当に実行なさるおつもりですか?」

 

「しかたないじゃない。政治は難しいものよ?特に対外となるとね」

 

「刀使だけの秘密が海を飛び越えあちらの手に渡るぅ~なんて素敵感激。――馬鹿なんですか?葵様」

 

「燕さん」

 

「いいのよ綿貫。――明治の時代から、歴代の折神家当主はノロを一ヶ所に纏め管理するようにしてきた。散逸して何処にあるのか分からなくするよりも、その方が何か有った時人々は安全だと言って。表向きはね」  

 

「軍事利用でしょう?裏の理由なんていつだって」

 

「少し違うわね。それはあちらのお国のお偉いさん達の理由」

 

「?」

 

「ごめんね。こればかりは秘密の中の秘密だから貴女たちにも言えないわ。今言える事は只の一つ。ノロと御刀は今年の9月に、纏めて外国に向けて出発する」

 

「有事が起きれば何とします。万が一」

 

「だからよ」

 

「は?」

 

「―――だからよ」

 

当代折神家当主・折神葵は笑いながら言った。

 

「先代(母)の時のようなヘマはしない。私は私の全てを賭して、この計画を成功させてみせるわ。紫と朱音と柊の一族が、平和に暮らしていけるように」

 

「分かりました。存分に本懐を遂げられる事を我々親衛隊二名は願っております。ところで葵様」

 

「うん?何?」

 

「斬ります?」

 

「駄目よ」

 

世間話をする雰囲気で。葵は泳がせておいた気配に向けて言った。

 

「入っておいでなさい。隠れていても、貴女のような刀使いは匂いで分かるわよ」

 

・・・・・。

 

「――失礼、致します。…御当主様」

 

「いらっしゃ~い。先輩と同級生想いな若き刀使さん?」

 

 当代折神家当主親衛隊二名が執務室の出入り口を開けると、そこには青ざめた顔をした相模雪那がいた。

 

 

 

 

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