本作はカロッサ、メリッサ、二人をメインにした短編小説です。もし良ければ。なお本作はpixivでも
少年は、大切な人を守れなかった。
巨大な駆動機械──ヨロイに乗り戦う事を宿命付けられ……その為だけに、ある組織で生み出された少年と少女の双子。
組織の為に、そして組織を作った一人の男──『同志』とその夢の為に。
二人はヨロイに乗り、『同志』を仇とし夢を阻もうとする男達と戦った。
──戦い、そして……命を散らした。
────
「……ここ、は」
少年は目を覚ました。
長い間眠り続けていたのか、緑色の髪は長く伸びきって、身体も大分痩せていた。
瞳が丸く、元は可愛いらしい顔だと思われるけれど今は頬が痩せこけて血色も悪い。……ずっと上にぶら下がっている点滴から、身体に直接伸びるチューブを介してしか栄養を取れていなかったからだと分かる。
「……」
長い眠りから覚めて、意識はおぼろで。
だけど今自分がベッドに寝かされているのは、分かっていた。……それに。
(音、聞こえる。……波の音。あと、鳥が鳴く音……右の方から)
音が聞こえた方に顔を向けると、そこには澄み渡った青空と、海の景色が窓から見えた。
とても綺麗な景色だと、少年は思って。……だけど同時に。
(ここは俺の、知らない所。うう……分からない、どうしたんだ?)
自分がどうしてここにいるのか、混乱する少年。
……そんな時だった。反対側から扉が開く音と、誰かの声がしたのは。
「やっと──目を覚ましたのか?」
誰かが呼ぶ声、少年が振り返るとそこには白衣を着た一人の男がいた。長い白髪を後ろに束ね丸眼鏡をかけた、糸目の優男。……一見二十代中頃の若く見えるが、実年齢はもう少し高くも思えた。
「俺、は」
人の言葉に慣れない様子で、少年は少し片言な言葉を発する。
「言葉も話せる。意識も問題はなさそうだ……良かったよ」
男は安心した様子で少年に近づく。けれど、途端に警戒して睨み、まるで野生の狼のように牙を向きだしにして唸り威嚇する。
明らかに警戒している様子。対して男は安心させるように優しい表情で、武器は持ってない事を示すために空の両手を上げる。
「心配はいらない。私は君の味方だ、危害を加えるつもりはない」
「……お前、誰だ!?」
「そうだな、私の事はさしあたり『ドクター』と呼んで欲しい。
君は……自分の事を憶えているだろうか?」
男──ドクターの雰囲気は相変わらず優しく、今度は少年に名前を尋ねる。
自分の、名前。それさえ上手く思い出せずにいる様子だけれど、少年は何とか……思い出した。
「──カロッサ。俺、同志さまのために戦う……オリジナル7」
カロッサ──それが少年の名前だ。
自分の事を思い出した、カロッサ。そしてそれをきっかけに以前の記憶が彼の脳裏に、段々とフラッシュバックする。
……同志を仇とし、彼とその夢の前に立ちはだかる邪魔者たち。特殊で強力無比なヨロイを操る『オリジナル7』の一人であるカロッサ、そして同じオリジナル7である妹と一緒に、同志の元に迫ろうとしていた邪魔者を迎撃しに向かった。
カロッサと、彼の妹は彼らと戦闘を繰り広げ……そして、ヨロイとともにその命を。
「……同志、さま!」
いきなり記憶がはっきりしたショックのせいか、カロッサは無理に身体を起こして、ベッドから手を伸ばす。ドクターはとっさに彼の身体を押さえる。
「放せ! 俺は行く、同志さまの…………所に!」
「カロッサ、君はまだ身体を動かせる状態ではない。無理はするな」
「うるさい、うるさい!」
暴れてもがく相手を押さえながら、ドクターは……ある事実を伝える。
「よく聞きたまえ、君はあれから一年の間ずっと眠り続けていた。
同志も既に亡く、その夢も、叶うことなく終わった」
「え……っ」
それを聞いた途端、カロッサの瞳から光が消え、力が抜ける
「嘘……だ。同志さまは……僕達、救ってくれた。居場所、くれた」
「悪いがもう存在しない。同志は亡くなり、組織は壊滅……拠点も島ごと海の底へと沈んだよ」
ドクターは子ども相手に言うのを心苦しく思っていた。そして目の前で傷ついている様子の、カロッサ。
明かな絶望……そして、途端に大きな両目に涙が溜まり、一人泣き出した。
「同志さま、いない。……メリッサも、いない。俺……一人ぼっちだ」
「メリッサは君の、妹だね。君と同じくオリジナル7の一人で……あの戦いで命を失った」
カロッサは答えなかった。そんな余裕すら、もうなかった。
彼が覚えていた妹の、メリッサの最後の記憶。壊れたヨロイから、最後までカロッサの身を案じながら命を失ったメリッサ。
唯一の居場所だった同志と、そして唯一の肉親も……失って。まるで世界でただ一人だけ残ったような、孤独。カロッサはそれに圧し潰されていた。
彼の悲しみ、それはドクターにも分かっていた。……だが彼には伝えるべき事があった。
それは──。
「同志を失った辛さは分かる。けれどカロッサ、君のもう一人の大切な人、メリッサは────生きている」
────
カロッサが一年もの長い眠りから目を覚まして、二か月経った。
「それでは、お大事にな」
ドクターは患者の一人に優しく声をかけ、玄関先まで見送った。
彼はその名前通り、人々の医者として働いてもいた。家でもあり診療所であるここは湾の内側、海辺にある小さな町……人里の外れにあった。
穏やかな海と、白い浜辺。その傍らにぽつんとある建物が彼の診療所だ。
「さて、と。これであらかた終わったかな」
「俺も……仕事、終わった。とても、頑張った」
医者の仕事がひと段落した彼の元に、小柄な緑髪の少年──カロッサが来て言った。二か月間の間で身体の調子は良くなって、元気も取り戻していた。
長かった髪も切って、服装も……組織にいた時の衣装をそのまま着ていた。どうやらドクターが取っていていたらしい。ほんの少し背が伸びている以外は以前の頃と、ほぼそっくりな姿だ。言葉が片言なのは相変わらずではあるが。
「ありがとう、カロッサ。君が手伝ってくれて……私も助かる」
医者としての仕事を、簡単な準備や手伝いを、カロッサはしてくれていた。
「礼……いらない。俺とメリッサの、居場所。失いたくないから」
「ははは、心配しなくても私は二人を追い出したりなどしない。君達の事は、私が守る」
ドクターはカロッサを優しく受け入れてくれ、面倒も見てくれている。同志を失った事は大きいけれど、新しい居場所を得て彼は彼で立ち直りつつあった。……それでも、カロッサは彼に警戒する部分がまだ残っていた。
「俺やメリッサ、守ってくれる。良い人……思う。けど俺、まだ分からない」
「まぁ、仕方ない。ゆっくりでも構わない、私は君達の味方なのは変らないのだから」
「……うん」
これに、カロッサは素直にこくりと、頷いた。それから……こう伝える。
「仕事、終わった。俺……メリッサと、いる」
彼の言葉にドクターは微笑んで、軽く頷いた。
「分かった。きっと、君といる方が彼女も……喜ぶと思う」
ドクターから離れ、カロッサは一人、ある部屋へと。
「……メリッサ」
小さい部屋の一つ。この家……診療所には病室として使われている部屋がいくつかあり、ここも……その一つ。
「海、綺麗だ。見えるだろ?」
「……」
部屋の窓辺に車椅子を引いて、窓向こうの海を眺めてカロッサは言う。
言葉をかけたには先、車椅子に座っている少女──メリッサ。カロッサと瓜二つの、緑の……長く伸びた髪の双子の妹、ではあるが。
「……鳴いてる、鳥。あんなに……」
「……」
カロッサの呼びかけにメリッサは何も答えない。ただ椅子に座り、魂の抜けたような虚ろな瞳を開けているだけだった。
「……」
話しても一向に返事がない妹、いつしか彼も押し黙って、沈黙する。
けれど……悲しくて、振り絞るように呟いた。
「返事してくれ。……して、よ」
────
ある日──その日は患者が来る様子もなく、ドクターは書斎で一人いた。
(今日は静かだ。仕事もなく、入院している患者もいるわけではない。……資料でも読むに限る。何かメリッサを直す手段が、あるはずだ)
書斎に並ぶ棚には、多数の蔵書と資料が並んでいた。
ドクターと呼ばれ、その名の通り医者として働くこの男。中には医学に関するものも多くある。時間があればそうした資料を読み……研究をしてもいた。医者としてでも勿論──未だに心が戻らない、人形のようなメリッサ。彼女を元に戻す治療法を、ドクターはずっと探していた。
(やはり……これも参考にはならないか。また、別の資料を取り寄せる事にしよう)
だが、有効な手立ては見つからない。彼は読み終えた資料を戻そうとした……が、その時の拍子で別の物が棚から落ちた。
「……これは」
ドクターはそれを拾おうとした。しかし、それを……資料を目にして、表情が変わる。医療、医学とは異なる、『カロッサ・プロジェクト』と名付けられた一冊の研究資料。
それは、ドクターにとっても──。
…………パリン!
「何だ!?」
向こうの部屋から、何か割れる音がした。
(一体どうしたのだ? メリッサの部屋から聞こえたが!?)
様子が気になる。ドクターは目を通していた資料を置き自室を出た。
────
「──これは!」
床一面に飛び散っているガラスの破片と広がる水。そしてその傍らで唖然として固まっている、カロッサ。
「メリッサに水飲ませようとした。だけど……手が滑って、落として」
カロッサと、それに相変わらずただ人形のように車椅子に座ったままのメリッサ。
「大丈夫か? ガラスに触って怪我はしていないか?」
「俺……平気。片付けする、俺が割ったから」
そわそわしている彼に、ドクターは優しい表情で言った。
「心配なくともこれくらい、私がするとも。細かいガラスが飛び散っている……カロッサが怪我をしたら大変だ」
「────」
早速、タオルとごみ袋を別の部屋から持って来たドクターは片づけをする事にした。自身も手を傷つけないよう手袋をしながら……そんな中で。
「……ドクター」
ベッドの上で膝を抱えて座るカロッサは、掃除するドクターを見上げた視線で眺めて呟く。
「どうかしたかな? 話したい事があるなら、構わないとも」
「……」
途端顔を膝と両腕に顔を埋めるカロッサ。だが、また少し顔を上げて隙間から僅かに瞳を覗かせながらぼそりと、こんな事を言った。
「ありが……とう。俺とメリッサ、助けて、世話してくれて」
恐らく初めて彼に言った礼の言葉。ドクターも少し驚いたが、ふっといつもの穏やかな笑みをこぼして応えた。
「礼を言う必要はないよ。私はただそうしたいから、そうしているだけだからね。
君たちを幸せに出来ればと……最もそれさえ私はしてやれていないのだが」
そうして視線を向けた先には、やはり虚ろな目を開いたまま反応もせず、車椅子に座ったまま言葉も話さないメリッサの姿がある。
ドクターは改めてこんな話をする事にした。
「──あの時、カロッサとメリッサはヨロイに乗って戦い、敗れた時、君達は二人とも確かに命を落とした。
私が駆けつけた時には既に脈拍も心臓も止まり、生命活動は停止していた……が、それでも蘇生させる手段はあった。急いで二人の身体を運び出し、私はかつて関わった研究技術と、医療術を応用した蘇生手術で生き返らせようと試みた。
……成功する可能性は低いものだったがね」
そう、カロッサも、メリッサも一度死んでいた。
『同志』と呼ばれていた男の為にヨロイに乗り、彼の邪魔になる敵を阻むために戦い敗れた事で。
だがこうして二人は生きている。ドクターの救おうとした試みは成功したんだろう……けれど。
「どちらも一命を取り留めはした、しかしヨロイの操縦による神経へのダメージは……大きかった。カロッサ、君はずっと目が覚めることなく眠り続け、そしてメリッサは見ての通り、精神が戻らなかった。……心を失ってしまったのだ。
やはり力不足だったのだ、私は」
ひどく落ち込むドクター。カロッサはそんな彼を膝を抱えたまま見つめていた、けれど。
「ドクター悪くない。俺達助けた。
メリッサ、今はこうだけど、いつかきっと良くなる。……俺みたいに」
彼なりの励ましの言葉。ドクターにとって、その励ましは助けになったようで。
「嬉しいとも。こんな私に、そう言ってくれて。
──本当はそう言って貰う資格など、ありはしないのに」
「……」
これにカロッサは少し沈黙する。それから、ある事をドクターに……告白した。
「俺、ドクターを見た事、前にあった。……思い出した。
組織いた時たまに声かけて来た研究員の一人。みんな俺達嫌ってた、だけど優しく話して来る、変な奴。あの時はそう思ってた」
同志と呼ばれた男が仲間を集め、自らの夢を叶えるために作り上げた──組織。カロッサとメリッサもそうだが、ドクターもそこにいたようだ。
「それにずっと前、あの研究所にもいた。俺たち苦しめたあいつらの一人。そうだろ」
「気づいて……いたのか」
おそらく、長く過ごしているうちにカロッサの記憶が呼び起こされたらしい。それに思い出したのも昨日今日の事ではなく、しばらく前から分かっていたようで。
それを悟ったドクターは観念した表情になる。それから……カロッサに話す。
「その通り。私はかつて、君達二人を作り出した研究──『カロッサ・プロジェクト』に携わった研究員の一人だ。
オリジナル7の為のヨロイは他よりも強力だが、神経制御による操縦は常人には負担が多い。カロッサ・プロジェクトは二人一組の遺伝子が等しいクローンを作り、神経制御の負担を振り分ける事で操縦を可能とさせる。
……分かりやすく言えばヨロイの操縦士を、人為的に作ろうとしたのだ」
かつての事を思い出したのか、彼は苦々しい表情を浮かべる。
「今にして思っても酷い代物だ。多くの人体実験を繰り返し、犠牲となった者もいた。その結果生まれたのが──君達だ」
カロッサ、それにメリッサは研究によって生み出された……作られた存在だ。
自分達がそうしたものだと、カロッサ自身も理解していた。
「あそこは、嫌な所だった。俺とカロッサ苦しめた……ドクターも。だから俺達……山の中に、逃げた」
「人類の進化の為だと、良い事だと……その時の私は信じていた。だがそれは間違いだった、許されない事をして君達を苦しめた。……カロッサも私が憎いだろう」
ドクターは項垂れたまま、自責の混じった呟きをする。対してカロッサは……。
「……うん」
一言、形にした言葉。
「やはり……な」
「俺達利用して、苦しめたあいつらの仲間……だから許せない。けど、ドクターは俺達、助けてもくれた。居場所もくれて優しくしてくれた、良い人、思う。
許せない……けど、嫌いなんかじゃ、ない。いつか許せるように、俺、だから……」
考えれば不幸な存在だ。研究により人生を弄ばれ、犠牲になった二人。ドクターにもその責任がある。憎まれても当然なはずなのに、そう言ってくれた。
「──カロッサ」
見るとカロッサは顔を上げて、微笑みかけてくれていた。
不愛想な彼がそうしてまで……二度の命を与えられてから、変わった部分もあった。
ドクターは安堵の様子を見せる。
それからカロッサへと優しい笑顔と、それから改めて決意したような表情で。
「ありがとう、こんな私を受け入れてくれて。
犯した罪が消えるわけではない。けれど君達二人が一緒に過ごせるように……せめて今度は人並みの幸せを得られるように、私は尽力する。
メリッサの事も必ず良くしてみせる──だから、任せて貰えないだろうか?」
以前では決して応える事はあり得ない。けれどカロッサの瞳はドクターを見つめて、信頼を示すように……頷いてくれた。
────
それからも、三人は日常を送っていた。
ドクターは医者としての仕事の傍ら双子の面倒を……その傍らでメリッサの治療法を探していた。カロッサも妹である彼女の世話を、それにドクターの仕事の手伝いもしていた。
そして──ついに
「……メリッサ」
カロッサは一人、自分の部屋にいた。
今は気を紛らわすように窓から外を眺めて……あれから数時間、ずっと彼は期待と心配を胸に抱えて部屋で待っていた。
(ドクターはメリッサ治す、言ってた。だから俺……信じたい)
そう、ようやくドクターは治療法を見つけたのだ。
今は手術室でメリッサへの治療を行っていた。……神経系を扱う複雑かつ高度な施術、ドクターにとっても困難で時間さえかかる。
(きっと、大丈夫。だから──)
願うようにそう自分に言い聞かせるカロッサ。自分に出来るのは、信じて待つしかないと分かっているからこそ。
すると──部屋の扉からノックの音が。
それから扉は開き、白衣を着たままのドクターが現れた。
「ドクター!」
カロッサは彼に駆け寄る。
「メリッサ、どうなった? 良くなったのか?」
「……」
沈黙するドクター、カロッサは不安になる。……が、彼はにこやかな笑顔でこたえた。
「安心してほしい。施術は無事に──成功した」
治療を終えたメリッサは、先に自分の部屋にいる。
「カロッサ、大切な妹に顔を見せてあげてくれ」
扉を開けて、ドクターはそう促す。
カロッサは部屋に入り、一歩、二歩、ゆっくり歩み進んで行く。
「なぁ、メリッ……サ」
部屋には車椅子に乗ったメリッサの後ろ姿がある。命は取り留めたが精神が戻らないまま、抜け殻のようになっていた彼女。
本当に治ったのか、心臓が高鳴るカロッサと、かすかな呟き。そしてこの声が……届いたのか。
「懐かしい声。もしかして、カロッサ?」
返って来た返事。カロッサにとっても、懐かしい声だった。そして車椅子を動かして彼に振り返る──メリッサ。
「良かった、カロッサも元気そうで。また会えて……すごく嬉しい」
目の前のメリッサは、まるで天使のような、穏やかな微笑みを向けていた。
先ほどの治療……手術で頭には包帯を巻いてはいたけれど、それでも自分に笑顔を向けて、言葉も……。
「──あ」
待ち望んでいたメリッサとの再会に、カロッサは言葉を詰まらせる。ずっと、もし会えたら何を話そうか考えていた。伝えたい事も沢山あった……なのに。
「……ふふっ、せっかく会えたのにどうしたの? カロッサってば、固まっちゃって」
メリッサはおかしそうにくすくすと、笑ってくれて。──そんな彼女を前に彼の目には涙が浮かんで……そして。
「メリッサっ!!」
そう叫ぶとカロッサはぎゅっと、メリッサを抱き留めた。
「……カロッサ」
「ごめん、俺のせいで。もっとちゃんとしてたら。メリッサ、守れなかった」
あの時、二人でともに戦った時、メリッサはカロッサの事をかばって先に犠牲になった。抱き留めながら。
カロッサは彼女を抱いたまま泣いていて……けれど心から安堵して、喜びで一杯の表情で。
「でも──また会えた。メリッサの笑顔、見れた。
それだけで俺、嬉しい。すごく……嬉しい」
急な事にメリッサはびっくりした様子で。けれどカロッサの気持ちは十分に、伝わっていた。
彼女も優しく、カロッサの背中を抱いて想いを伝える。
「私も、カロッサと会えて嬉しいよ。……もう離れたりなんてしないから。
これからはずっと、一緒にいようね」
「うん……うん……っ!」
一度は失われた命と、絆。それを取り戻した二人は、今この幸せをかみしめていた。
ドクターは邪魔にならないよう、離れた扉の傍で一人静かに、その様子を満足気に眺めている。
人並みのものでも、きっと──この先、カロッサとメリッサは新しい人生を幸せに歩いて行ける。
だが……それはまた、別の話だろう。