東方追求録   作:ヴァリアス

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こんにちは、ヴァリアスです!
最初に、投稿が大変遅れてしまい、すいません!!
リアルがとても忙しく、まったくと言って良い程に時間が取れなかったんです。仕方ないですよね!?「仕方ない!」とのお言葉が聞こえた気がしたので許された...はず!!
さて、切り替えて、この破天異変の始まり、ネメシスの正体に触れていきます。少しばかりの内容の重い話もありますので、注意して見てくださいね!多分、そんなに酷くないと思うけど...(作者視点)
そんなこんなで、東方追求録 第八話「破天異変・壱」どうぞ~!!


第八話

~破天異変・壱~

 

零:「君の正体は...『フランのもう一つの人格』でしょ?」

ネメシス:「うん。まあ、おおよそ正解だね」

零:「おおよそ?どういうことだ?」ネメシスの曖昧な返事に眉をひそめる。

ネメシス:「私はフランの別人格...それはちょっと違うんだよ」

ネメシス:「私はフランの狂気だけど、フランの別人格じゃない。って、事だよ」

零:「フランの狂気はお前が原因だけど、フランの人格じゃない?」

ネメシス:「私、まだ名前しか名乗ってなかったね。今一度、自己紹介しておこうか?」

ネメシス:「私の名前は、ネメシス・スカーレット。スカーレット『三姉妹』の次女だよ」

ネメシス:「以後、よろしくね?零お兄ちゃん?」

絶句。視界の端が狭まり、意識が遠のきそうになる。間違いなく今日一番の凶報だ。

零:「は...?一体、何の冗談だ、それは...?」理解が出来ない。

一体、あいつは何を言っている?スカーレット三姉妹?少なくともスカーレットの性を持っているのは、僕が知る限りで、レミリアとフランの二人だけだ。それじゃあ、あいつの言っている事は、嘘か?でも、嘘を言っている様な感じはしない。

ネメシス:「まあ、驚くのも無理ないよ。」

ネメシス:「私の事を知っているのはお母様とお父様だけだもの」

ネメシス:「レミリアは何も知らないよ。二人が伝える前に死んじゃったから」

零:「お前がレミリアやフランの姉妹なんて話が信用出来る訳ないだろ...!!」

そうだ、そんなことは有り得ない。あいつが嘘を言ってるんだ。そう考える頭の何処かでそれを否定する自分がいる。もし、本当にネメシスがフランやレミリアと姉妹なら、今までの話にも納得がいく。

最初からフランの中にネメシスがいたから、僕たちに気付かれずに紅魔館の中で好き放題出来たわけだし、紫さんの能力で精神を引き剥がせなかった理由は、それだけ強く二つの精神が絡み合っているからだ。それ故に拒絶反応と記憶や感情の逆流が起きた。それで説明がつく、ついてしまう。つまり...

零:「何でだ...?」

ネメシス:「ん?」

零:「何で、レミリアやフラン達を殺そうとする...姉妹なんだろう!?なら、どうして...」

零:「そんなことをするだけの、それだけの理由があるのか!?」

ネメシス:「...聞きたい?」

零:「えっ?」いきなりネメシスの声のトーンが変わる。抑揚のない声が短く問う。

ネメシス:「そんなに理由が聞きたい?って聞いてるの...」

零:「あ、あぁ...」

ネメシス:「そう?なら、良いよ...」

そう言って、ネメシスは空中から僕の方に降りてくる。だが、この時に少しでも周囲に意識を向けていれば気付けたのだろうが、残念ながら僕の意識はネメシスの方に向いていた。

零:「...えっ...?」

瞬間、背中に何かがぶつかる様な衝撃を感じる。目線をネメシスから自分の胸に向けると見覚えのある「レーヴァテイン」の剣先が見える。何で僕の胸にレーヴァテインが刺さってるんだ?理解が出来ずに茫然と立ち尽くす僕に空中に浮いているネメシスの声が聞こえる。

ネメシス:「あ~痛そう~痛い?ねえ、痛い?お兄様❤」嘲笑うような笑顔でこちらの顔を覗き込むネメシス。そこで、先程の発言がブラフであることに気付く。だが、それよりも...

零:「何で傷が治らないんだ?」そう傷が塞がらないのだ。

それどころか傷口から少しずつ出血する量が増えている。

ネメシス:「お兄様~それにばっかり頼り過ぎだよ~?」

ネメシス:「慢心、しちゃったね?お兄様?ふふふっ...」

ネメシス:「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!」

その笑い声が頭にキンキンと響く。五月蠅い...うるさい...

零:「うるせえ!黙れ!!」衝動的に叫ぶ自分の声に、自分でも驚く。

自分自身がここまで感情的になる事が無かったから。というのもあるのかもしれないが、それだけでは説明出来ない程に僕自身の怒りが際限なく、湧き上がり続ける。

零:「さっきからケラケラとうるせえんだよ!!」感情の制御が効かない。

ネメシス:「キャー!こわ~い~!アハハハー」

嘲るネメシスの口調が煮え滾るような怒りに油を注ぐ。視界が真っ赤に染まる様な強い怒りから無意識に歯を食いしばっていた。僅かばかりの冷静な思考で今の状況の最適解を求めるが、すぐにその思考すら怒りに飲み込まれる。

零:「殺す殺す殺す殺す殺す殺すーーーーー!!」

もはや、思考は目の前の薄ら笑いを浮かべる顔を原型も留めない程に、ぐちゃぐちゃにする事しか考えられない。直線的にネメシスへと自身の全ての力を手の平の一点に集める。それをネメシスに叩きつけようとした。

瞬間、ネメシスの全身を鮮血が染めあげる。『僕の血』が...

零:「ごばぁ...」全身の至る所から鮮血が迸る。

そのまま、自分自身の血によって出来た血だまりへと倒れ込む。

ネメシス:「君、傲慢だね...本気を出せば、僕を倒せたのに」

ネメシス:「最後まで、本気を出さなかったね。ほっんと、傲慢だよ」

動かなくなった零に、ネメシスがそう吐き捨てる。その時、正面の土壁が崩れる。

ネメシス:「あ、そういや...君たちが居たね」

霊夢達が零を心配して、出てきたのだ。だが、全員の視線はネメシスではなく、その足元に倒れている零に向いていた。誰もが言葉を発する事もない静寂。それを破ったのは意外にも

霊夢:「れ、い...?」霊夢だった。

魔理沙:「う、嘘...だろ?」

紫:「一体、何があったの...!?」

ネメシス:「どうしたもこうしたも無いよ?自滅さ、自滅!」

ネメシス:「全く、あっけない幕引きだったよね~まあ、余興にしては上出来かな?」

パチュリー:「自滅?貴方が何かしてるでしょ?」

ネメシス:「何も~しいて言うなら、少しばかり煽った程度だよ?」

ネメシス:「ちょっと、何してるの?」

そう言って、地面に倒れる零を持ち上げて宙に浮くネメシス。先程まで零が居た場所には、スキマが開いている。

紫:「くっ...!!」今の会話の隙に零を回収しようとした紫の行動は阻止される。

ネメシス:「まあ、そこまでしてこんな奴の『死体』が欲しい?」

霊夢:「えっ...今、なんて...」顔を青ざめさせながら、ネメシスに聞き返す霊夢。

ネメシス:「聞こえなかった?死体が欲しいの?って言ったんだよ?」

ネメシス:「まさか、生き返ると思ってた??バッカだね~w」

ネメシス:「無理に決まってるだろ?そこらの死体とは訳が違うんだよ?」

ネメシス:「エリクサーで復活できるのは、あくまで肉体的に死んだ者のみだ」

ネメシス:「例えば、既に魂が輪廻転生後の者、魂が欠損、破壊されている者」

ネメシス:「これらは無理だよ。今回は後者だね、更に魔力回路も吹っ飛んでるから」

ネメシス:「例え、蘇っても一生、植物人間か新たな人格が形成されるかだね」

アリス:「そ、そんな...酷い...」

ネメシス:「残念でしたーーー!!今!この瞬間!零という人間は死んだだよ!!」

この場の誰も彼もを嘲るネメシスの顔は、これ以上ない程に愉悦に染まっていた。そして、ネメシスは零の首を掴んで零の顔を紫達の方へと向ける。顔中にべったりと血が付いているが、それでも分かる程に零の表情は酷く歪んでいた。そんなネメシスの姿がブレる。次の瞬間、ネメシスの身体は宙を舞っていた。

霊夢:「汚い手で、零に触れないで...」

ネメシスが反対の壁に吹っ飛んでいくのを一瞥もせずに、零を抱える霊夢。その手には、スペルカードが握られている。たった一瞬の出来事だった。

ネメシス:「ハハハッ!!反応できなかったよ!今のは...!!」

そう言って、獰猛な笑みを浮かべるネメシスとは対照的に霊夢の顔には感情を感じさせない無表情が張り付いていた。

ネメシス:「まあ、でも今の一撃で私を倒せなかったのは、痛手だね?」

霊夢:「うるさい...あんたとは、もう喋りたくない...死んで」

そう言った霊夢の言葉に、ネメシスは笑みを濃くして返す。

ネメシス:「やってみろよ!博麗の巫女、博麗霊夢!!」そう叫んで霊夢へと加速するネメシス。

霊夢:「スペルカード発動」

霊夢:『霊符「夢想封印」』

ただ、発動したスペルの弾幕を見て、ネメシスの目の色が変わる。何故なら、弾幕の大きさ、スピード、正確性、構築スピード、威力のどれを取っても先程までとは比較にならないほど向上していたからだ。

ネメシス:「ハッ!!これが博麗の巫女の本気か!面白い!!」

霊夢:『霊符「夢想封印 散」』

霊夢:『霊符「夢想封印 集」』

一瞬の出来事にネメシスは、視界を閃光に、聴覚を轟音に、触覚を衝撃によって遮断されて、何も理解する事は出来なかった。何が起きたか分からずに居ると、視界が徐々に回復する。そして、その光景に息を呑んだ。

紅魔館の中庭『だった』場所が更地になり、大きなクレーターが開いている。

そして、自分は紅魔館に突っ込み、瓦礫の下敷きになっている状況だ。

霊夢:「えらく丈夫なのね?消し飛ばしたつもりだったのに...」

ネメシス:「まったく、味方もろとも吹き飛ばすつもりか?」

霊夢:「まさか、そんなこと万に一つもないわ...」

そう言って、霊夢が見た方向には、光の膜に包まれた無傷の紫達が居た。

ネメシス:「結界...か...まったく、厄介だな」

そう言いながらも立ち上がるネメシス。身体を動かしながら、霊夢に問いかける。

ネメシス:「君、スペルカードのルール破ってるけど、良いの?」

霊夢:「だから何?自分から不利になるほど私は馬鹿じゃないわよ?」

霊夢:「それに、スペルカードルールを守ってないあんたに言われたくない」

ネメシス:「...はて?何の事かな?スペル宣言はしているけどなぁ~?」

霊夢:「能力か何かをずっと、何も言わずに出してるでしょ?」

霊夢:「技を使う際には『カード宣言』をする。これをやってないわよね?」

ネメシス:「分かれば問題ないだろう?」

霊夢:「決闘(弾幕)の美しさに意味を持たせる。攻撃より人に見せることが重要。これは?」

ネメシス:「あ~分かった分かった...まったく、冗談通じないな~」

ネメシス:「正直、スペルカードルールなんてどうでも良いんだよね...」

ネメシス:「もう私を縛るものも人もないんだから...」

ネメシス:「スペルカード発動」

ネメシス:『禁忌「クランベリートラップ・懐」』

フランのスペカ、多くの者がそう思っていたそれは...

魔理沙:「なんだあれ!?」魔理沙が驚愕の声を上げる。だが、それもそのはず。目の前の弾幕は、とても同じスペカには見えないほどに、凶悪なものになっていたからだ。最早、殺す以外の目的など感じられない。

霊夢:「やる気になったの?さっさとやられてくれない?」

途方もないほどの幾千の弾幕が霊夢へと突っ込んでいく。すぐに土煙で霊夢の姿が掻き消される。

アリス:「霊夢...!!」とても回避や防御が出来る代物には見えなかったそれを霊夢は...

霊夢:「まさか、これが本気とか冗談キツイ事を言うんじゃないでしょうね?」

霊夢:「本気でやらないと直ぐに終わるわよ?」結界が全ての攻撃を防いでいた。

ネメシスの顔に少々のイラつきが生まれる。だが、すぐにそれはふざけた笑みに塗り替わる。

ネメシス:「まさか...ただのジャブだよ。粋がるなよ?底が知れるぞ...?」

お互いにお互いを挑発しあって、一向に動こうとしない。傍から見れば、膠着状態に見えるが、先に動けば死ぬ達人同士の間合いの牽制しあいだ。二人の間の空間が二人から漏れ出す力で歪んで見えだす。

霊夢:「...!!スペルカード発動」先に動いたのは、霊夢だった。

ネメシス:「...!!スペルカード発動!」一瞬、遅れてネメシスもスペカを発動する。

霊夢:『夢符「封魔陣」』

先手を取った霊夢は、お札を辺りに飛ばす。それを見たネメシスが、お札を避けながら霊夢へと距離を詰める。それに対応して、霊夢も後退する。

ネメシス:『禁忌「カゴメカゴメ・牢」』

霊夢の背後へとネメシスの弾幕が展開される。そして、正面からはネメシスの拳と蹴りが飛ぶ。

霊夢の退路を塞ぎ、点での攻撃から面での制圧に変わったネメシスの攻撃に、しかし、霊夢は焦る事なく避けていく。まるでその攻撃に意識を向けていないかのように...

霊夢:「スペルカード発動」その攻撃を無視して、スペルを構える霊夢。

しかし、ネメシスの攻撃の方が先に到達するはずだった。ネメシス自身も攻撃が当たると確信していたはずだ。だからこそ、ネメシスは驚愕の表情を浮かべた。だがしかし、ネメシスの身体は不自然に硬直する。

霊夢:『宝具「陰陽鬼神玉」』

霊夢の手から放たれた陰陽玉の形をした巨大な気弾は、無慈悲にノーガードのネメシスの胴体へと叩き込まれた。スペカによって、四肢が千切れて、身体が吹き飛ばされる。

無残に飛び散ったネメシスの身体の一つからヘラヘラした声が聞こえてくる。

ネメシス:「やったな...やりやがったな...!!!!」

ネメシス:「君はもう私を殺せないよ?君が死ね...!!」

霊夢:「しつこい...くだらない戯言をぺらぺらとうるさい...!!」

霊夢:「スペルカード発動!!」

霊夢:『霊符「夢想封印」』

ネメシス:「ハッ!!これで終わりだ!!」

ネメシス:「破滅しろ!!デストラクション!!」

霊夢が放った弾幕が霊夢自身に襲い掛かる。そんな事は起きなかった...

ネメシス:「はっ...?」ネメシスの気の抜けた声は、すぐに轟音に掻き消される。

もろに弾幕を食らったネメシスが吹き飛ばされる。それは、今までで一番の手応えがあった...

ネメシス:「ぐぁ!?一体、何をした!!博麗の巫女ーーー!!」

しかし、ネメシスを倒すには威力が足りなかった。だが、ネメシスの顔は驚愕に染まっていた。

霊夢:「ギャアギャアと五月蠅い」霊夢の弾幕がネメシスへと飛ぶ。

しかし、ネメシスもすぐさま、バックステップで避ける。しかし、避けたネメシスの顔は、苦虫を噛み潰した様な顔だった。

ネメシス:「お前...さっきからどうして、私を攻撃できる!?」

霊夢:「?何の話をしてるの...?あ、時間稼ぎのつもり?」

しかし、霊夢はネメシスの驚愕も大して興味を示さず、返事すら億劫そうだ。

ネメシス:「お前の能力では、私の能力に勝てないはず...」

ネメシス:「一体、どんな仕掛けをした!それともまたあいつの策か!?」

霊夢:「ふーん...あんたの能力は、攻撃を反射か無効化みたいな能力なのね」

ネメシス:「...!!」そこでネメシスは自身の失言に気付く。

ネメシス:「クソッ!!平静を欠いたか...とんだ失言だ」

ネメシス:「あーそうだ。私の能力『破壊衝動を司る程度の能力』をお前やそこの奴に使ったのさ」

霊夢:「それが攻撃出来なくなる理由になるの?」

ネメシス:「そこまで喋るつもりはない...ここからは、手加減しない」

霊夢:「私も弱い者いじめは、いい加減やめるわ...」

ネメシス:「言ってろ、三下!!」その言葉を合図に霊夢とネメシスが消える。

衝撃。空間を縦横無尽に飛び回る霊夢と、それを迎撃するネメシス。両者の衝突によって、衝撃波が無数に空中に描かれる。それは、観戦者の中で紫を除いた全員が視認できないほどだった。その紫ですら僅かな動きの挙動が見えるだけで、二人の動きを完全に捉えられてはいなかった。

紫:「まさか、これが今の霊夢の全力...!!既に私に届きうるわね...」

魔理沙:「クソッ!!なんてハイレベルな戦いだ...!!」

パチュリー:「まったく、付け入るスキが無いわね...」

アリス:「これじゃあ魔法でカバーなんて、出来ない...」

美鈴:「それよりも、このままだと私たちや紅魔館もただじゃ済みませんよ!?」

その美鈴の発言は、辺りの風景が更地に変わっていくのを見れば一目瞭然だ。

パチュリー:「私たちだけじゃないわ。こんな戦闘続けてたら、人里や他の場所にも被害が出る」

その通りだ。あくまでも、今はここで戦っているが、ここ以外で戦闘すれば戦闘の余波でどんな被害が出るか分からない。

アリス:「とりあえず、ここから離れましょう!!」現状、ここに居ても出来る事は無い。

その判断をしたと同時に、私達は紅魔館の外へと低空に飛行して逃げる。

紫:「くっ!!流れ弾の弾幕もここまでの威力だと危険ね!!」

紫:「それに、零の事を守りながら霊夢が戦うのも限界があるわ」

紫:「霊夢!!飛ばして!!」霊夢ならきっと私の考えが伝わる筈だ。

霊夢:「...!!」霊夢が零の身体を真下に落とす。

ネメシス:「良いのか!?君が一生懸命守ってた奴なのに!!」

ネメシス:「守りながら戦うのが無理だと分かった!?仕方ないね?アハハハ!!」

ネメシス:「でもね?逃がすわけないじゃん...!!」零へと弾幕を放つネメシス。

霊夢:「余計な事するんじゃないわよ...!!」

そんな言葉と共に蹴りをネメシスへと放ち、弾幕を撃ちこむ霊夢。

零に弾幕は当たらないという確信が霊夢にはあった。何故なら、あちらには...

霊夢:「あんたが居るでしょ?零をお願い、紫」

ネメシス:「あぁ!?ほんっとうに、うっざいな!!八雲紫!!」

紫:「あら、それはどうも...本気でやりなさい!!霊夢!!」

ネメシス:「何を言っている?本気だ...と...」

紫の言葉をハッタリと笑おうとしたネメシスの顔から笑みが消える。それもそのはず、霊夢の纏う霊気が爆発的に増加し始めたからだ。

ネメシス:「一体、どこからこんな力が!?いや、それよりも不味い!!」

そう言って、霊夢へと手を向けるネメシス。それを見た霊夢の目が見開かれる。

霊夢:「スペルカード発動!!」霊夢がすぐさま、スペルを構えるが...

ネメシス:「もう遅い!!手遅れだ!!きゅっとして...ドカン!!」

霊夢の身体が爆発四散する姿を誰もが想像した時、辺りに「パリィン!!」という甲高い音が響く。

ネメシス:「は?何で...」茫然とするネメシス。その手はしっかりと「目」を握り潰していた。

霊夢の身体に纏っていた結界の「目」を...

霊夢:「どうやら、あんたは運にも見放される程の屑だったみたいね?」

ネメシス:「なっ!?」ネメシスが怒りを顔に浮かべ、何事かを喚くより先に地上から放たれたレーザーがネメシスを焼き払う。

魔理沙:『恋符「マスタースパーク」』

魔理沙:「戦闘中に考え事なんてしてると霊夢より先に私達に負けるぞ?」

ネメシス:「クソ...大した力も無い雑魚が...!!粋がるなよ?」

マスタースパークは、直撃した。しかし、ネメシスの服を焦がすに留まった。だが、僅かばかりにネメシスの行動が止まった。その結果...

霊夢:「魔理沙は、雑魚じゃないわよ。あんたこそデカい態度の割に弱かったわね?」

霊夢:「ラストワード発動」

「夢想天生」

霊夢の身体が半透明になる。いや、世界からズレた。ネメシスは本能的に気付く。フランと自身の能力の両方の対象から博麗霊夢という存在が消失する。まるで虚像を見ている様だ。

ネメシス:「お前、そうか!そうだったのか...!!」突然、ネメシスがその顔に笑みを浮かべる。

ネメシス:「お前たちが私の能力に対抗できないはずなのに、君だけが対抗できた理由はそれか!」

先程までのイラついた顔から、何とも楽しそうな顔になったネメシスに、対峙する霊夢だけではなく、遠くから見ていた魔理沙達にすら恐怖を感じさせる。それほどまでの態度の変化...

魔理沙:「あいつ...一体、何だってんだよ。いきなり笑い出しやがって...」

アリス:「あいつ、霊夢の『夢想天生』を見て、何かに気付いたみたいね」

紫:「というか、ネメシスの能力に私達じゃ対抗できないって、どういう事かしら?」

パチュリー:「確かに。破壊衝動を司る程度の能力なんて...」

パチュリー:「名前からだと攻撃出来ない理由や対抗できない理由が分からないわね」

魔理沙たちがネメシスの発言から考えを巡らせていると、上空では

霊夢:「一体、一人で何の話をしているの?」いきなりの相手の態度の変化に嫌な顔をする霊夢。

ネメシス:「いや、これは失礼したね。ついつい興奮してしまったよ」

ネメシス:「まさか、この世界にも私並みの能力の使い手が居るとは思わなくてね?」

ネメシス:「ただ、自分の意思でやっているわけでは無い様だね...」

ネメシス:「だからこそ、惜しいよ!とても惜しい!!無意識にその域に手をかける才能が」

ネメシス:「私の様に、常時出しっぱにも出来なそうだし、出力もまだ弱い」

ネメシス:「だが!私は、君に敬意を表するよ。今までの非礼は詫びようじゃないか」

そんなネメシスの態度に霊夢の顔が歪む。無表情から鬼気迫る表情へと変わる。

霊夢:「今更、都合の良いことを言うな!!お前は、零を殺した。それだけでお前は私の敵だ!!」

ネメシス:「そうか...彼も僕と同じ域だったはずなのだが、何故か能力を使いたがらなかったな」

ネメシス:「ただ、私の能力が効いたということは、その程度の奴だったのだろう」

ネメシスのその発言が言い終わるよりも早く、霊夢の弾幕がネメシスを襲う。

ネメシス:「短気は損気だよ?博麗霊夢...」

霊夢:「あんたにこれ以上何か喋られると私の腹が煮えくり返りそうだからさっさと消えろ」

きっと、いつもの私ならここまで怒っていないだろう。なぜ、ここまで私は零に執着しているのだろう?外来人なんて今まで何人も見てきた。中には妖怪に食われたり、事故で死んだ奴もいた。

だが、その時の私はここまで胸が締め付けられる様な思いをしただろうか?いや、無かった。同情することはあれど、ここまで感情的にはならない。

零との初対面は、最悪だった。いきなり私に抱き着いてきたし、ベタベタとくっついてきていた。それに私の事をからかってきたりもしていた。ただ、そんな風に関わってきた零に、私はもしかしたら惹かれていたのかもしれない。いや、惹かれていた。私は物心ついた頃から博麗の巫女として生きてきた。色んな人と関わってきた。しかし、その誰もが私との間に壁を感じていた。異変解決をする内に多くの人妖と関わってきた。私を私として見てくれた彼女たちには、内心とても感謝している。口には出さないが...

きっと、零は私が生まれて初めて、対等な立場で話した異性だった。それに、何度も命を救われた。守る事はあれど、守られる事の少ない私には、零がとても眩しく見えた。

霊夢:「ごめんね、零。助けてあげられなくて...せめて...」

霊夢:「こいつは、地獄に叩き落すから...!!」だからこそ、彼を殺したこいつは幻想郷には要らない。

ネメシス:「あ~!!流石だ!!とんでもない数の弾幕!!その一つ一つが一撃必殺の威力を孕んでいる!!」

ネメシス:「それらすべてが君の心の内を表している!」

ネメシス:「激怒!悲哀!怨嗟!後悔!懺悔!そして、それらの奥底にある愛情...!!」

霊夢:「うるさい!!うるさい!!あんたに私の気持ちは分からない!!」

ネメシス:「分かるさ...私も大切な人を殺されたから!」

霊夢の弾幕を前に、ネメシスがレーヴァテインを振るう。弾幕が乱雑な軌道を描いて、有らぬ方向に飛んで行ったり、弾幕同士が衝突したりする。

霊夢:「それがあんたの能力の効果ね。対象を自滅に追い込んだり、制御を狂わす」

霊夢:「確かに。私達じゃ、あんたの能力に対抗は出来ないわね...」

霊夢:「ただし、『私以外は』でしょ?」

 

 

 

魔理沙:「どうにか離れたが、これからどうするよ?」

背後の紅魔館では、霊夢とネメシスの戦闘によって轟音と閃光が絶え間なく続いている。既に紅魔館は半壊状態だ。いつ崩れてもおかしく無い。

紫:「零を蘇生するわ...」即座に紫がそう答える。

パチュリー:「無理よ...蘇生する事は出来ないわ...」

パチュリー:「貴方も分かっているでしょう?零は、ただ死んだ訳じゃない」

パチュリー:「魔力回路が焼き切れているし、脳の神経系が焼き切れてるはずよ」

パチュリー:「例え、肉体を復活できても植物状態だし、もし脳を直せてもそれはきっと零ではないわ」

パチュリー:「新しく形成された人格よ...」

紫:「分かってる!!分かってるのよ!!そんなことは...!!」

魔理沙:「な、なあ?あの龍にもう一回助けてもらうってのはダメなのか?」

パチュリー:「恐らく無理でしょうね。あんな無理な蘇生を何度も出来るとは思えない」

アリス:「今から永遠亭にスキマで行けないの?」

紫:「ごめんなさい...ここ最近の能力の度重なる無理な能力行使で遠距離のスキマ展開は出来ないの」

アリス:「そ、そんな...それじゃあ、零は助からないの?」

美鈴:「一体、どうしたら良いんですか!?このままじゃあ、万事休すですよ」

咲夜:「...そうでもないわよ...?」突然の声に全員が声のした方を見る。

美鈴:「咲夜さん!!もう動いて大丈夫なんですか!?」

それは先程までの眠りに就いていた十六夜咲夜だった。

紫:「何か、零を蘇らせる方法があるって言うの?」

咲夜:「一つだけ、賭けではあるけど...あるわ」

魔理沙:「その方法って、何だ?一体...」

咲夜:「彼の身体に私たちの持てるだけの力を注ぎこむんです!」

アリス:「それは、出来ないの...魔力回路と脳の神経系が破壊されてるわ」

咲夜:「身体に注ぐんじゃありません。彼の魂に注ぎ込むんです!」

パチュリー:「魂に?どうやって?それにそれをしたところで結果は変わらないと思うわよ」

咲夜:「そこは、紫さん。貴方の能力で彼の魂への道を作るんです」

紫:「そんな緻密な動作、今の私の能力じゃあ無理よ。それに、妖力や魔力も足りないわ」

咲夜:「そこが賭けです。貴方の能力の細かな操作をパチュリー様が外部から補助するんです」

紫:「!?そんなこと出来るの?」

咲夜:「出来る出来ないじゃありません。無理なら彼が死ぬだけです」

紫:「...それで、いきましょう...!!」

パチュリー:「はぁ...無茶ばっかり言ってくれるわ!!」

紫が能力を使い始める。その紫の足元に魔法陣が展開される。パチュリーの詠唱が始まる。

紫:「やっぱり、魂に干渉するとなると。やっぱり消耗した能力じゃあ...!!」

パチュリー:「諦めるんじゃないわよ!!蘇らせるんでしょ!?」

紫:「...!!一気に行くわよ!!繋げられて、数十秒が限界よ!!」

紫の足元に一滴の血の雫が落ちる。紫の顔を見れば、鼻血が垂れている。

紫:「ぐぅ...!!繋がったわ!!」紫の言葉を皮切りにスキマに私たちの残りの力を流し込む。

魔理沙:「一体、いつまでこうやってるんだ!?魔力が、尽きちまう...!!」

アリス:「魔理沙!頑張って!!」

美鈴:「零さん、帰ってきてください!」

パチュリー:「帰ってくるなら、さっさとしなさい!!」

咲夜:「零さん!お願いです!!妹様を助けてください!!」

その時、スキマが不安定に点滅する。そして、紫が前のめりに地面へと倒れ込む。

それは、咄嗟に手を伸ばした咲夜によって支えられる。

パチュリー:「クソ...先に、こっちの限界が来たみたいね...」

ドックン...!!

一瞬、聞き間違いかと思ったが...再度、『ドクン!!』と響く。

魔理沙:「この音は、心音...!!」

アリス:「身体は蘇った...ここからが本番よ」

沈黙。しかし、心音と呼吸音以外には、音は聞こえない。

美鈴:「目を覚ましませんね...流石に脳みそをゼロから作り直すのには時間が掛かるんですかね?」

咲夜:「とりあえず、第一段階はクリアね...」

全員がその場に座り込む。文字通りに私たちの力の全てを注いだが、零の魂はそれらを一片も残さずに飲み込んでなお、力を吸い込もうとしていた。まるで底のない穴の様に...

魔理沙:「おい...皆、大丈夫か?」

アリス:「え、えぇ...」

パチュリー:「むきゅ~疲れたわ...二度とやらないわ...!!」

美鈴:「紫さんと咲夜さん!大丈夫ですか?とても顔色が悪いですよ?」

咲夜:「だ、大丈夫よ...少し力を多く持っていかれただけよ」

美鈴に支えられながら、そんなことを言う咲夜と違い、反応が遅れた紫が

紫:「え?ごめんなさい...もう一度、言って...くれる?」

美鈴:「え、いや、大丈夫かを聞いただけですよ...?」

魔理沙:「おい、紫。さっきからどうしたんだ?顔が青いぞ?」

アリス:「まるで死にかけてるみたい...まさか、何処かケガをしてるの!?」

紫:「...!!ち、違うわよ。少し能力を使うのが、しんどいだけよ」

そう言う紫の顔は、これまで見た事が無い程に青白く、とても平気な顔には見えなかった。

そんな時、背後で物音がする。一斉に全員がそちらに視線を向けると同時に構える。ただ、そこに立っていたのは

これまで意識を失っていたレミリアだった。

魔理沙:「レミリア!?気が付いたのか」

咲夜:「お嬢様...!!」まだふらつく身体で、レミリアに駆け寄る咲夜。

美鈴:「いきなり動いたら、危ないですよ!咲夜さん!!」

レミリアを抱きしめる咲夜。その目に涙が浮かぶ...だが、レミリアが咲夜を抱き返すことも慰めることもなかった。不思議に感じた咲夜がレミリアの顔を見上げる。

咲夜:「お、じょう...さま...?」レミリアの顔を見て、言葉を失った。

何故なら、その顔は...咲夜の見たことも無い、一欠片も希望の無い絶望に染まった顔だったからだ。

レミリア:「...」咲夜の呼びかけに反応しないレミリア。

ここではない何処かを見る様な目をしているレミリアがうわ言の様に何事か喋る。

レミリア:「そんな...私は、どうして。あんな事を...!?」

レミリア:「私が、全部...あいつの言っていた事は...嘘じゃなかった」

レミリア:「あぁ...ごめんなさい、フラン。貴方を苦しめていたのは...」

レミリア:「私だったのね...貴方が背負っていたのは私の罪だった」

レミリア:「私が背負うべきだった罪...」

独り言を言うレミリアの頬を涙が伝う。そこで我に返った咲夜が呼びかける。

咲夜:「お嬢様!!しっかりしてください!!」レミリアを抱きとめる咲夜。

咲夜:「あいつに、ネメシスに何を見せられたのですか!?」

だが、その咲夜の腕をレミリア自身が拒絶する様に押し返す。

レミリア:「咲夜...ごめんなさい...」

レミリア:「貴方も私の性で、沢山傷つけてしまったわ...」

レミリア:「そんな私には、貴方に抱きしめられる資格は無いわ...」

咲夜:「一体、何を...言っているんですか?」レミリアの言葉を理解できない咲夜。

魔理沙:「どうしたんだよ、レミリア!!さっきから何を言ってるんだ?」

魔理沙:「私たちにも分かるように説明しろ!!」

レミリア:「魔理沙...ネメシスは、嘘を吐いていなかった。それだけよ」

魔理沙:「は?それで分かるかよ...!!」

レミリア:「この異変は、もうすぐ終わるわ...」

パチュリー:「レミィ...どういう事?異変がもうすぐ終わるって」

レミリア:「パチェ。貴方を親友とはもう呼べないわね...さよなら」

美鈴:「お嬢様...!!一体、何をしようとしてるのですか?」

レミリア:「美鈴...咲夜やフランの事、お願いね?」

レミリアが微笑とともに美鈴にそう言った。その顔は、悲痛な様にも解放された様にも見えた。

紫:「...!!全員、レミリアを止めてッ!!」

紫の言葉に反応するよりも早く、その場の全員の意識をレミリアが刈り取る。

紫:「貴方、あいつに殺されるつもりね!?」

レミリア:「そうよ。やっぱり、貴方には分かるのね...」

紫:「そんな事をしても意味は無いわ!それであいつが殺戮を止める保証が何処に...!!」

レミリア:「あるわ。初めに言ってたでしょ?あくまで私が目的だって」

紫:「それが嘘だったら?貴方はただの無駄死によ!?」

レミリア:「それは無い。これは、私が原因で起きた異変だから...」

紫:「それは、どういう...」

レミリア:「あんたには、迷惑かけたわね。私の性でごめんなさい」

そう言って、紫に頭を下げるレミリア。だが、それを紫は声を荒げて遮る。

紫:「自分で勝手に決めて、勝手に死ぬなんて許さないわよ!!」

紫:「しっかりと異変を解決した後で、皆に土下座でもしなさい!!」

レミリア:「私は到底、許されない事したわ。だから、それは出来ないわ」

レミリア:「それに、幻想郷には紅魔館があるから。私の性で家を壊すわけにはいかないわ」

レミリア:「紫。私が死んだ後も紅魔館をよろしくね...」

紫:「レミリア!『ドガッ!!』やめ、なさ...い」レミリアの手刀が紫の意識を刈り取る。

最後の瞬間、紫の暗くなる視界に映ったのわ。申し訳なさそうなレミリアの泣き顔だった。

 

 

 

紅魔館

霊夢とネメシスの戦闘は苛烈を極めていた。二人の戦闘によって、紅魔館はその原型を留めていない。

霊夢:「いい加減に倒れなさいよ!!」

ネメシス:「それはこっちのセリフだ!!いい加減にくたばれ!!」

夢想天生の無敵状態があるのに、私はネメシスを倒すことが出来ていなかった。

その理由は、ネメシスの能力によって、こちらの攻撃が無力化されているからだ。

私もネメシスも相手を倒す決定打が無い状況だ。だからこそ、戦闘がズルズルと長期戦になっている。このままでは、私の霊力が尽きる方が早いだろう。度重なる戦闘で私の霊力は、底を突きそうになっている。

霊夢:「ハァ...!!ハァ...!!ハァ...!!」

ネメシス:「どうした!?息が、上がってるよ!!」

霊夢:「あんたこそ、能力使ってる頻度が減ってるわよ?」

お互いに限界が近いのは、分かり切っている。大技で決着をつけようと、残りの霊力を振り絞ろうとした時...

私達の戦闘がピタッと止まる。それは、突然現れた人物が理由だった。

レミリア:「そこまでよ...二人とも」

レミリア:「この争いもいい加減に終わりにしましょう...」

霊夢:「レミリア!?一体、どうしてここに?」

霊夢:「それに、終わりにするって...どういう事?」

ネメシス:「...その目、自分の罪を思い出したか...」

レミリア:「えぇ...貴方の言う通りね。こんな大事な事を忘れてるなんて、とんだ大罪人ね」

霊夢:「ちょっと、レミリア!どういう事よ?説明して!!」

レミリア:「最後に、霊夢に今の状況を説明しても?」

ネメシス:「どうぞーそれで彼女が戦うのを止めてくれれば、御の字だよ」

レミリア:「そう...」短い会話の後、霊夢の近くに来たレミリア。

霊夢:「納得のいく説明をしてくれるのよね?レミリア...」

レミリア:「えぇ、勿論よ。私の知る全てを話すわ...霊夢」

 

 

 

時は遡り、ネメシスから渡された結晶を掴んだ後...

レミリア:「ここは、紅魔館...?」視界には見慣れた館の廊下が写っている。

レミリア:「あの結晶は、一体何なのかしら?」

状況が上手く呑み込めず、何をするか迷っていると...

????:「あら?どうしたの?廊下の真ん中で考え事なんてして...」

背後から、そう声が掛かって振り返ると、そこには...

レミリア:「えっ...う、そ...」立っていた人物を見て、私は言葉を失った。

????:「?どうしたの?私の顔に何かついてるかしら?」そう言って、首傾げるその人は

レミリア:「お母様...」私の母親である『ティアナ・スカーレット』がそこに居た。

ティアナ:「はいは~い!!ティアナ母様ですよ~」

笑顔を浮かべながら、私の前に顔を出す母様。だが、ティアナ母様は既に死んでいる。

フランが生まれて間もない頃、ヴァンパイアハンターの大規模襲撃によって、亡くなった。

ティアナ:「どうしたの、レミちゃ~ん?」

ティアナ:「もしかして、まだ寝ぼけてるだけかしら~?」そう言って、頭を撫でてくる。

レミリア:「お母様...」二度と会えないと思っていた人との再会に目頭が熱くなる。

ティアナ:「あらら...どうしたの?甘えん坊さんはまだ抜けていないのね~」

気付けば私は、お母様に抱きついていた。泣きそうな顔を見られたくなくて、そこに居る事に確信を持ちたくて...私の頭を優しく、とても優しく撫でる手に嗚咽が零れそうになる。しかし、それを喉元で抑え込む。

レミリア:「少し、甘えたくなっただけよ。母様...偶には良いでしょ?」

ティアナ:「フフフッ...もうお姉さんになるんだから...まあ、今くらいは良いわよ」

あぁ...ここは、私の記憶の中なのだろう。これはフランが生まれる前の紅魔館。その証拠に、母様のお腹はとても膨らんでいる。

レミリア:「つまり、あの結晶は対象の過去を映し出す物...?」

ティアナ:「今度は考え事~?レミちゃんは忙しいわね~」

私の顔を見て、やれやれと言いたげな調子で微笑む母様に

レミリア:「ねえ、母様...今って、何月...?」

ティアナ:「?今が何月って、今は六月でしょ~?どうしたの?」

レミリア:「六月...後、一ヶ月で...『あれ』が起きる」

レミリア:「お母様。お父様は何処に居るかしら?」

ティアナ:「そうねえ~?書斎か仕事部屋じゃないかしら?」

レミリア:「分かったわ。ありがとう、お母様」そう言って、書斎に向かう。

ティアナ:「あ、レミちゃん!ちょっと待って!」

すると、背後から母様に呼び止められる。振り返ると、悪戯っぽく笑いながら自身の頬を指差す母様。

ティアナ:「そんな涙の痕を付けて行ったら心配されるわよ?」

レミリア:「...あ、ありがと」どうやら泣いていたのは、バレていた様だ。

顔を袖で拭きながら急ぎ足で、その場を後にする私。恥ずかしさに顔が熱くなる。しかし、書斎を目指している間に思考が冷静さを取り戻してくると、一つの疑問が生まれる。

レミリア:「ここは、過去?それとも記憶の中?」

そう。これが過去か記憶の中なのかによっては、私がする事は大きく変わっていく。

レミリア:「ただ、どうやって確認したら...あ!」

レミリア:「...私の能力なら、運命を見れば...」

レミリア:「まあ...そうよね。過去に戻れる訳ない、か...」

私の期待に反して、過去ではなく記憶の中だった。何故なら、運命には少しの乱れも特異的な改変も起きていなかったからだ。もしも、ここが過去なら、運命に改変によるノイズが映る。

レミリア:「ダメね...弱気になったらダメ」

レミリア:「私の背中には『紅魔館の、皆の運命』が乗ってるんだから...」

そんな私の言葉を呟きながら、ある扉の前で止まる。

レミリア:「お父様。少し良いかしら...?」ノックをしながら室内に声を掛ける。

????:「入りなさい...」短い返事が返ってくる。

レミリア:「失礼します。レイオス父様、少し良いですか?」

レイオス:「うむ、何か用か?昼食には早いと思うが...?」

そう言いながら、持っていた万年筆をインクボトルに置く。私の父親であるレイオス・スカーレットが仕事部屋の椅子に腰掛けている。ただ、父親と言っても実の親ではない。ある日、この家の領主で、私の血縁上の父親を殺してから彼が父の代わりだ。前の親に未練は無かったので、直ぐに受け入れる事が出来た。ただ、その結果として私と母様は後天的に「吸血鬼」になった。

そのため私達は、吸血鬼の中でも「後天吸血鬼(フォールス・ヴァンピール)」という変わった種類に分類されるらしい。主に突然変異、又は「血の契約」による後天的なもので吸血鬼化した人間を指し、中位吸血鬼に該当する。

それに対して、お父様は上位の吸血鬼だ。そして、母様のお腹の子も恐らく上位吸血鬼だと言っていた。そう、それが「フラン」だ。後から血に適応した私や母様と違い、最初から吸血鬼としての生を受けたフランの方が能力においても身体能力においても限界値は上だ。だが、だからといって私が努力を怠る理由にはならない。まだ、この頃の私はそんな事を考えていた。

レイオス:「どうした?レミリア。ボーっとして、調子が優れないのか?」

レミリア:「!!い、いいえ...何でもないわ」

レイオス:「...そうか。ティアナはどうした?」

レミリア:「母様は、さっき東側の廊下であったわ。きっと、庭園に行ったのね」

レイオス:「はぁ...まったく、体調が少し良くなったからと歩き回って...」

レイオス:「今に体調を崩すぞ...」そう苦言を零す父様。

もう顔すら思い出せなくなりつつあった父の顔を見ていると、先程まで感じていたノスタルジックな気持ちが蘇ってきて、目頭が熱くなる。

レミリア:「ねえ、父様...」なかば、無意識に父に声を掛けていた私の声が詰まる。

先程まで、部屋の中に居た筈の私は屋敷の廊下に一人で立っていた。

レミリア:「ここは...というか、記憶が飛んだ?」記憶の中なら夢に近いらしい。

レミリア:「時間も場所も急に変わるのね。とりあえず、誰か探さない...ん?あれは...」

その時、ふと窓の外に赤い光が見えた。吸血鬼の目は夜目が効く、それが何かはすぐに分かった。

レミリア:「人?こんな夜更けに?」黒い装束に身を包んでいる。

一抹の不安を感じた私が、窓に近づいた。その時、雲間の隙間から月光が差し込む。

それが黒装束の胸にぶら下がる『それ』を映し出した。

レミリア:「!?な、なんで...!?」

その胸元には銀の十字架を模した短剣がぶら下がっていた。それは吸血鬼を恐れた人間たちが弱点とするものだ。ただ、お父様もお母様も私も吸血鬼である事を隠しているし、父様に関しては領主の姿を真似ているので、疑われることはない。本来なら...

レミリア:「まさか、この記憶って...!!」私の頭が一つの結論を出す。

それと同時に床を蹴り、すぐさま正門へと向かう。頭の中で「間に合う訳ない」そんな考えが響く。

それでも、私は足を止める事が出来なかった。

屋敷の入り口に近づく程に、微かな足音が聞こえる。ただ、それが一つや二つではない。

レミリア:「今日、私達はヴァンパイアハンター達の急襲を食らった...」

屋敷内にいた門番や警護兵は、人間相手だったのと隣町の領主からの密書だというガセの性で門を通してしまった。後は、中に入ったハンター達は門番を背後から襲い、隙だらけの兵を次々と殺していった。門が開けば、後は外で待機していた奴らが雪崩れ込んでくる。

自身の記憶を呼び起こしていると、廊下から嫌な匂いが流れてくる。血と鉄、薬草の匂いが混ざった刺激臭。

意を決して、廊下を曲がる。そこには...

レミリア:「...惨い。どうして、同じ人間にここまで出来るのかしら...」

人の死体があちらこちらに転がった、地獄絵図が広がっていた。壁や床にも返り血が跳ね、赤黒く染まっている。

レミリア:「生きている人は...居ない、わよね...」そう思い、先を急ごうとした。

衛兵:「うっ...ごぼっ!!げほっ...はぁはぁ」近くの衛兵が血反吐を吐いた。

レミリア:「...!!大丈夫!?しっかりして...!!」そう呼びかけると衛兵が私を見て、目を見開く。

衛兵:「お嬢様...!?どうして、ここに!?」

衛兵:「いや、それよりも...今すぐに逃げてください...!!」

衛兵:「ヴァンパイアハンターの襲撃です!」

レミリア:「ええ、分かっているわ。でも、まだ逃げれない...」

衛兵:「奥様と旦那様なら、大丈夫です。それよりもお嬢様...」

その先の言葉は血反吐によって、遮られる。それでも無理やりに喋る。

衛兵:「私の事は良いです...下半身が動かない上に感覚も無いんです」

衛兵:「それよりも奴らは貴方達、『吸血鬼』を狩りに来たんです...」

レミリア:「...!?どうして、その事を!?」その言葉に驚愕する。

しかし、驚いたのは彼の言葉だけでなく、こんな会話を過去にしていないからだ。

衛兵:「実は、お嬢様や奥様、旦那様が吸血鬼なのは知っていました...私以外の使用人も」

レミリア:「...!?ならどうして、自分達が殺されるかもしれないのに?」

衛兵:「確かに最初はすぐにでも逃げ出そうと思いました...」

衛兵:「でも、彼は私達に真っ先に自分の正体を明かしました」

衛兵:「その上でどう行動するかは、私達に任せると言いました。その時です」

衛兵:「私達が彼を主として思ったのは、彼には種族の差などなかったのです」

初めて聞く話に目を白黒させていると衛兵の視線が此方を向く。

衛兵:「お嬢様...旦那様の心配は不要です。直ぐにお逃げください」

衛兵:「奴らは、お嬢様の存在を知りません...」

レミリア:「で、でも...私だけ逃げるなんて...!!」

衛兵:「お辛い事を言うようですが、お嬢様では足手まといです」

衛兵:「旦那様が本気なら奴らなど、すぐにでも片付きます」

レミリア:「なら、ここに居た方が安全じゃあ...」

衛兵:「ただ、あくまで『お一人なら』...です」

レミリア:「...!!」

衛兵:「お嬢様や奥様を守りながらとなれば、話は別でしょう」

衛兵:「奴らは、人の心など持っていません...」

確かに、この廊下の惨状を見れば、とても正常な人間の行動とは思えない。

その時、ホールの方から爆音と叫び声が聞こえる。衛兵の顔がすぐに険しくなる。

衛兵:「すぐにでもここから逃げてください!!」

レミリア:「...わかった...!!」そう言って、廊下を走りだす。

胸が張り裂けそうな痛みを感じながらも歯を食いしばって、耐える。今は、ただここから逃げる事しか出来ない。

視界がぼやける。目の端から一滴の光の粒が落ちる。

レミリアが廊下を走っていくのを霞む視界で捉え、ため息をつく。

衛兵:「全く...旦那様に似てお優しいですね...お嬢様」

衛兵:「私達など心配して...どうか生きて、ください」

衛兵:「不甲斐ない、私達を...お許しください...旦那様、奥様」

衛兵:「皆様にお仕え出来て、私は...幸せ者です...」

そんな言葉を最後に一人の衛兵が暗く冷たい廊下で一人、静かに息を引き取った。

 

 

 

~紅魔館~  地下通路

薄暗い石畳の上を走る。辺りをうっすらとランタンの光が照らしている。

ここに来るのは、数年前以来だ...あまり思い出したくはない記憶だ。私と母様が「幽閉」されていた時以来だろう。左右の牢屋の中は暗闇が広がるばかりだ。

この地下通路は、この館の中でも知る者は少ない。その証拠に通路には誰かが侵入した形跡はない。

レミリア:「...もう少しで、外に...!!」泣き腫らした目尻に溜まった涙を拭う。

その時、通路にうめき声のようなものが響く。辺りを見回すと、牢屋同士の間に細い道が続く。

レミリア:「ここの先は...地下室...誰かいるの?」

地下室の方に視線を向けるが暗がりの中に鉄扉しか見えない。いや、もう一つある物が見えてきた...

レミリア:「...!!あれは...」扉の下の隙間から血が流れ出てくる。

直ぐに鉄扉に駆け寄る。そのままの勢いで鉄扉を乱暴に引く。吸血鬼の腕力に耐えられずに蝶番が嫌な音を立てて壊れる。その先には...

レミリア:「ティアナ母様!!」壁にもたれかかりながら、体中の切り傷から血を流すティアナ母様だった。

ティアナ:「え!?どうしてこんな所に、まだレミリアが居るの?」

ティアナ:「いや、今はそんな事を気にしてる場合じゃない...!!」

ティアナ:「レミリア。今すぐ、ここから逃げなさい...出来るだけ遠くに」

レミリア:「母様や父様は?外の奴らはどうするの?」

ティアナ:「私達は、ここに攻めてきた人達を足止めするわ...」

レミリア:「ダメ!!一緒に逃げましょう?」

ティアナ:「ダメよ!」ティアナの声がレミリアの言葉をかき消す。

ティアナ:「今回は、途轍もない数のハンターたちが集まってる」

ティアナ:「それに、この子と貴方を一刻も早く逃がさないと...」

そこまで聞いて、母様の胸の中に居たフランと目が合う。今よりも遥かに幼いその目には不安と恐怖が見て取れる。

ティアナ:「お願い...レミリア。我儘、聞いてくれる?」

諭す様に微笑を浮かべる母様の言葉に反対する事が出来なかった。そんな私のせめてもの抵抗はただ沈黙を貫く事だけだった。しかし、そんな抵抗も虚しく母様がフランと私の手を握らせると、地下室から出ていく。

レミリア:「母様...!!」私の声に一瞬、足を止めたが、すぐに歩き出した。

レミリア:「気を付けて...フランは任せて...!!」か細い声でどうにか喋る。

ティアナ:「ッ...!!」

母様が踵を返して、私とフランを抱きしめる。母様の頬を一筋の涙が流れる。それを見た私の頬にも同じ様に涙が伝う。嗚咽が零れそうになる。それをどうにか飲み込む。

ティアナ:「本当に、愛してるわ...!!レミリア!!フラン!!」

ティアナ:「また皆で会えますように...」そう言って、私達の額に軽く口付けする。

そして、今度こそ母様の姿が薄暗い地下通路に消える。しばらく、その場でフランと共に抱き合っていたが、私は意を決して、涙を拭いながら地下通路の出口を目指して歩き出した。

 

 

 

どれほどの距離、歩いただろうか。薄暗い地下通路を歩き続け、その先の出口に着く。出口の扉を押し開けると、紅魔館全体が見える小高い丘の上に出た。

そこから見える紅魔館は火に包まれていた。あちらこちらから煙が上がり、数キロは離れたここまで匂いが流れてくる。

レミリア:「...!!母様!父様!」二人の居る紅魔館に今すぐにでも行きたい。

しかし、フランを安全な場所に移動させてからでは無いと...!!そうして、辺りを見回すと小さな小屋があった。

レミリア:「!!フラン。私が良いと言うまで、あそこに隠れていてくれる?」

フラン:「...」フランは何も言わずに、コクリと頷いた。

レミリア:「いい子ね。直ぐに戻ってくるわ...皆で」

そう言って、フランが小屋の中に入ったのを見て、来た道を駆け戻る。

しかし、地下通路に入ると同時に再度、記憶の省略が入る。

レミリア:「...いきなり、ホール近くに飛んだ。という事は...」

ホールへと向かうと、そこには...父様と母様が居た。

だが、二人の視線の先に居た人物に私は驚愕する。

レミリア:「えっ...どうして、貴方が...」

私の声に反応して、父様と母様が此方を見て、驚愕の表情を浮かべる。

ティアナ&レイオス:『レミリア!?どうしてここに!!』

????:「おっと、何処にも居ないと思ったら、そこに居ましたか?」

レミリア:「何を、してるの?リフォス...」

リフォス。紅魔館に仕えていた執事で父様や母様からも信頼の厚い存在だ。

そんな彼が、父様や母様に剣を向けている。その彼の背中には、蝙蝠のような羽が生えていた。

リフォス:「アハハ...吸血鬼だとは思わなかった。って言いたげですね?」

リフォス:「まあ、吸血鬼になったのは結構、前ですよ?」

レイオス:「お前が、今回の襲撃の発端か...」

リフォス:「流石は領主様!!あ、今は吸血皇と呼んだ方が良いですか?」

レイオス:「...!!随分、調べたんだな。懐かしい名だ」

リフォス:「いえいえ!随分と簡単に調べが付きましたよ」

リフォス:「何せ、万人殺しの吸血鬼なんて数少ないですよ?」

ティアナ:「一体、どうして...こんな事を!?」

リフォス:「黙れ!!てめえみたいな奴にヘコへコとしてんのが嫌だからだよ!」

リフォス:「玩具の分際で、所有物の分際で、私に説教か!?」

ティアナ:「...!!ま、まさか...そんな、嘘...!?」

リフォス:「や~っと思い出しやがったか。人形姫~??」

その下卑た笑みを見た母様の顔が青ざめる。そして、手足がブルブルと震え始める。カチカチと歯の間から音が鳴り始め、顔からは嫌な汗が噴き出している。

思い出したくない過去、思い出さないよう努力した過去、思い出してはいけなかった過去。

リフォス:「この顔になってから会うのは初めてだもんなぁ~?」

レイオス:「お前、ヴァナルガンド...!!」

憤怒と憎悪の籠った父様の言葉に、リフォス改めヴァナルガンドが笑みを消して睨みつける。

リフォス:「おい、吸血鬼。『様』を付けろ...不敬だぞ」

レイオス:「貴様に様付けなど、正気の沙汰ではない...!!」

そう吐き捨て、母様を支える父様。その瞬間、父様と母様がホールの端に瞬間移動する。

レイオス:「これ以上、貴様を生かす理由は無くなった。ここで死ね」

リフォス:「一体、誰が誰を殺すと言うのかね?」

レイオス:「そんな事も分からん程、中身が腐っているのか?」

リフォス:「...殺すッ!!」

レイオス:「ほざけっ...!!」

一瞬で二人の間の距離が消える。そこからは、目にも止まらぬ戦闘が繰り広げられる。

戦闘技術や能力では父様の方が上だが、単純な身体能力と吸血鬼の力だけで父様と互角に殺し合うヴァナルガンドには戦慄を覚える。

リフォス:「おいおい!さっきまでの威勢の割には弱いじゃないか!!」

レイオス:「ふん!まだ一発も当てられていない貴様が言えたことか!!」

リフォス:「はっ!!当たってもダメージにならん貴様の攻撃とは違うのだよ!!」

リフォス:「そら!隙だらけだぞ!」剣が真上から振り下ろされる。

レイオス:「甘い!貴様こそ隙だらけだ!」カウンターが胴体を薙ぎ払う。

リフォスの上半身が大きく揺らぐ。しかし、ダメージが無いのか。そのまま父様の身体を掴み、壁へと叩きつけるヴァナルガンド。それを受け身だけで防ぐ父様。

ヴァナルガンド:「そろそろ鬱陶しいな...ヘイスト」

瞬間、ヴァナルガンドの動きが更に早くなる。突然の加速にタイミングがズレた事で受け流す事の出来なかった。父様の態勢が崩れる。そこに容赦なく剣が降り注ぐ。その結果、父様の四肢が切り裂かれる。

ヴァナルガンド:「ハハハ!!口ほどにもない!」

高笑いをするヴァナルガンド。だが、その腕が地面に落ちる。

レイオス:「ヘイスト...」背後から声が聞こえ、振り返ると。

そこには、四肢が切断された筈の父様が立っていた。

ヴァナルガンド:「ど、どうなってるー!!」激昂するヴァナルガンド。

その目の前で、四肢を切られた父様が蜃気楼のように消える。

レイオス:「黙れ。『エアロスマッシュ』!!」

ヴァナルガンドの頭上から竜巻が落ちてくる。それに為す術なく抑え付けられる。

レイオス:「ヘイストを使った事には驚いたが、所詮は付け焼刃。年季が違う」

ヴァナルガンド:「クソックソッ!!貴様如きに...!!」

決着が着いた。そう思った時...私の背筋に悪寒が走った。

それとほぼ同時に首筋にひんやりとしたものが当てられる。それが銀のナイフである事に気付くのに、そこまでの時間はかからなかった。すぐに父様もこちらの状態に気付く。

レイオス:「レミリア!!」それがいけなかった。足元のヴァナルガンドから視線が切れる。

ヴァナルガンド:「ヘイスト、セカンド...」足元のヴァナルガンドが消える。

父様もすぐに視線を戻すが、もう遅い。ヴァナルガンドの拳が頭上から振り下ろされ、父様が地面に叩きつけられ、先程と立場が逆転する。そして、父様の頭を踏みつけながらニヤニヤと笑う。

ヴァナルガンド:「クヒヒッ...やはり、貴方では私には勝てません...」

ヴァナルガンド:「ネクロマンシー。貴方達の十八番ですよ?」

レイオス:「まさか、あれは...!!」父様の顔が驚愕に染まる。

そのままこちらを見る。背後のナイフを握る人物のフードがめくれ、その顔がこちらを覗く。

レミリア:「あっ...嘘...」私は言葉を失った。何故なら...

レミリア:「衛兵さん...?」私が母様に会う前に会った衛兵だったからだ。

その顔に血の気は無く、ただ虚空を見つめる眼が無感情に私に向けられている。

レイオス:「貴様!!ヴァナルガンドーーー!!!!」父様の怒号がホール中に響く。

レイオス:「殺す!!殺してやる!!生まれてきた事を後悔する程に!!」

ヴァナルガンド:「クッハッハッハッ!!最高だよ!その表情!!」

どうして、あの男はこんな事をしても笑っていられるのだろう?どうして、罪も無い従者たちが無慈悲に殺されて、こんな奴が生きているのだろう?分からない。理解できない。

ヴァナルガンドが近くのハンターの方に手を向ける。すると、武器がその手の内に引き寄せられる。

ヴァナルガンド:「ほぉ~これがサイコキネシスか~便利だ、な!!」

そう言って、手に持つ武器を父様の背中に刺す。銀で出来た武器。吸血鬼にとっての弱点の一つ。

しかし、高位の吸血鬼である父様には、そこまでの効果は無い。そこにホールの扉を突き破り、フードを被ったハンター達がわらわらと入ってくる。

ヴァナルガンド:「やっと来たか、司教。こちらは終わったぞ...」

司教:「そうですか...では、悪魔にはここで消えてもらいましょう」

司教の言葉に、すぐさま動き出す手下たち。そのうちの数人がこちらを見て驚く。

ハンターA:「おい!吸血鬼だ!ピンピンしてるぞ!!」

すぐさま、ハンターたちに取り囲まれる。しかし、それをヴァナルガンドが制する。

ヴァナルガンド:「おい!そいつは殺すな。まだやる事がある」

ヴァナルガンド:「それよりも拘束具持ってこい!」

そう言って、父様の手足に鎖を巻き付けて、身動きが取れない様にする。更に、口にも鎖を巻いて喋れないようにする。そして、こちらに歩いてくる。そして、私の前まで来ると...

ヴァナルガンド:「もうお前は用済みだ。失せろ」そう言って、手を横に薙ぐ。

「バシュ!!」そんな音ともに背後から衛兵の首が落ちてくる。

レミリア:「...ッ!!」

ヴァナルガンド:「う~ん...これぐらいじゃ壊れないか?」

ヴァナルガンド:「まあ、これからが本番だけどな...」

そんなヴァナルガンドの言葉の意味を考えようとした時、ハンターの一人がこちらに来る。

ハンターB:「ヴァナルガンド様!この吸血鬼はどの様にしましょうか?」

そう言って、鎖に縛られた母様を連れてきた。

ヴァナルガンド:「あ~そいつは、後でしっかりと『教育』するから殺すなよ?」

ハンターB:「ハッ!」

ヴァナルガンド:「さてと、それじゃあ...ショーの始まりですよ?お嬢様~」

ヴァナルガンド:「司教。例の物は持ってきたな?」

司教:「はい。こちらに...」そう言って、一本の杖を渡す。

ヴァナルガンド:「流石。今回の報酬と功績はお前のものだ」

司教:「ありがたき幸せ...」

ヴァナルガンド:「さてと、準備は揃ったな...」

ヴァナルガンド:「この杖はな、特殊な物でな。今回の為に用意したんだ」

そう言って、杖をサイコキネシスで宙に浮かせる。

ヴァナルガンド:「まあ、百聞は一見に如かずって、聞くし...ね!!」

杖が私の膝を貫通する。しかし、それに反応する余裕は私には無かった。

レミリア:「ぐっ...!?づぁあああぁああーーー!?!?」

身体の内側が爆発しているかのような衝撃と激痛に意識が飛ぶ。しかし、痛みが意識を手放す事を許さない。痛みで意識が飛ぶ。痛みで目覚める。その繰り返し...

一体、どれ程の時間がたっただろうか。杖が引き抜かれる。その場にドサッと倒れ込む。

レイオス:「んんんん!!!!!!んん!んん!んん、んんんんんん!!!!」

ヴァナルガンド:「はぁー何だよ。今、良いところなのに...」そう言いながら口の鎖を外す。

レイオス:「頼む...娘にだけは手を出さないでくれ...!!」

ヴァナルガンド:「じゃあ、お前が代わりに受けるんだな?」

レイオス:「ああ。勿論...」

ヴァナルガンド:「じゃあな。クソ吸血鬼...」

杖がレイオスの心臓に突き立てられる。すると、レイオスの身体が崩壊し始める。

ヴァナルガンド:「これは太陽の聖遺物で、聖属性の魔力を無限に生み出し続ける代物でな」

ヴァナルガンド:「魔族や闇、邪などの属性にとっては劇毒でしかないものだ」

レイオス:「ゴボッ、ゲホッ...ぐっ、がぁ!?」父様の口から血が垂れる。

ヴァナルガンド:「クッハッハッハッハッハッ!!」

ヴァナルガンド:「これが貴様の運命だ!私には誰も勝てないのだ!ハハハッ!!」

 

 

 

身体が動かない。動かそうとしても指一つ動かせない...目の前に、こんなにも憎くて殺したい奴が居るのに...自分自身が許せない。誰でもいいから、こいつを殺す力ヲ『ヨコセ』...!!!!

レミリア:「...真魔の瞳は魔の者の真価を見通さん。紅き瞳が蛇王の目へと変わる」

レミリア:「その隻眼に我の魂を映せ!!」

レミリア『真紅之魔眼(デッド・クリムゾンアイズ)』

詠唱が終わる。空が割れ、その間から赤い月が覗く。身体に言葉で言い表せない程の力が流れ込む。それらが身体を途轍もない程に強化する。目の前で先程まで饒舌で喋っていたヴァナルガンドは、私の方を見て固まっている。

ヴァナルガンド:「小娘...!?貴様...一体、何をしたーーー!!」

そんな絶叫と共に、こちらに飛び掛かろうとしたヴァナルガンドの身体が空中で不自然に停止する。

ヴァナルガンド:「な、何だ?体が動かない、だと...!?」

必至になって動こうとするが、指一つ動かせない。そんなヴァナルガンドに右手を向ける。

手を握るとヴァナルガンドの身体から嫌な音が鳴る。身体が不自然に折れ曲がる。

ヴァナルガンド:「ぐぎゃあああああああーーー!?!?」

そんな情けない悲鳴を聞きながら、右手を無造作に反対側の壁へと振るう。ヴァナルガンドの身体が凄まじい速度で反対側の壁に叩きつけられる。同時に射線上に居たハンター達は、一人残らず、肉塊へと変わる。

レミリア:「...フッ...フフフッ。アハハハハハハハ...」無意識に笑みが零れる。

しかし、目には涙が浮かぶ。自身の感情が理解できない。今、自分自身が怒っているのか、悲しんでいるのか、憎んでいるのか、楽しんでいるのか。まるで自分の中にあったものを全て失ったかの様だ。

しかし、とても気分は良い。あのムカつく顔を苦痛に歪ませる事が出来た。

でも、まだ足りない...満たされない...心の穴が埋まらない。

レミリア:「アハッ!!」自身が生み出した大穴に向かって跳躍する。

地面を軽く蹴っただけなのに、遥か先のヴァナルガンドまで一瞬にして辿り着く。

ヴァナルガンド:「そんな、あり得ない...!!あってはならないッ!!!!」

ヴァナルガンド:「ヘイスト!!サード!!!!」視界からヴァナルガンドが消える。

レミリア:「...貫け、グングニル...」背後で拳を振り上げていたヴァナルガンド。

その体を槍が突き刺さる。それは次々にヴァナルガンドへと殺到する。

ヴァナルガンド:「ひぎゃああああーーー!?!?」またしても醜い声が響く。

ヴァナルガンド:「どうして、どうして、私がこんな事に...!!」

レミリア:「...アハハ...死ね」槍がヴァナルガンドの頭を貫く。

しかし、それは突如として乱入してきた司教によって妨げられた。

司教:「聖なる光で魔を打ち払え!パージ!!」

左肩を光球が捉え、肩からジリジリと焦げ臭い匂いがする。

レミリア:「チッ...」即座にヴァナルガンドから距離を取る。

司教:「ヴァナルガンド様!大丈夫ですか!?」

ヴァナルガンド:「クソォ!クソォォ!!私が、こんな...屈辱だ...!!」

司教:「それよりもあの悪魔をどうするかを考えましょう...」

司教:「あちらの2匹は、既に虫の息。問題はこちらです...」

司教:「先程の悪魔が放った技がどんなものか詳しくは分かりませんが、恐らくは...」

司教:「狂化の魔法に近いものだと思われます」

ヴァナルガンド:「あの魔法か...つまりは...」

ヴァナルガンド:「理性や知性を代償にした全能力の上昇か...」

司教:「ええ、恐らく...しかし、勝機もあります」

司教:「総じて、あのような魔法たちは消耗が激しい短期決着特化」

ヴァナルガンド:「そこが勝機か...持久戦か」

司教:「はい。なので、私は後方支援に回りま...『バシュンッ!!』...ず?」

司教がレミリアから距離を取ろうとした時、杖を持ったその腕が宙を舞った。

何が起きたかも分からずに空中で回る腕が落ちるまで見た後、腕のあった場所を見ると肩の部分がごっそりと抉られていた。そこで遅まきながら、肩から鮮血が迸る。レミリアの投げた槍が司教の肩を穿ち抜いたのだ。

司教:「づぁあああぁああ!?!?」司教の悲鳴が木霊する。

その絶叫も直ぐに変わる。どうにか痛みを堪えて、回復魔法の詠唱を始める。

腕に淡い光が集まる。しかし、傷口からの出血は一向に止まらない。

司教:「な、何故...傷が治らない...!?」

ヴァナルガンド:「おい!余所見をするな司教!」

司教:「へっ...?」そんな気の抜けた声を呟いた司教の首から上が宙へと舞う。

レミリア:「次はオマエの番だゾ?ヴァナルガンドッッ!!」怒号と共に槍を放つ。

ヴァナルガンド:「ふざけるな!私が貴様に負ける訳が無いだろう!!」

そう言いながら、自身の足元に出来た血溜まりに手を向ける。血液がすぐさまその形を変え、大鎌へと姿を変える。そのまま、私が放った槍を切り裂く。

ヴァナルガンド:「貴様と私の決定的な差を教えてやろう!」ニヤリと嫌な笑みを浮かべる。

ヴァナルガンド:「それはな、その甘ったれた考えがあるかだ、よ!!」

そう言いながら、大鎌を私の居る方とは逆方向に投げる。それは、父様たちが居る方だった。

レミリア:「ッ!!この、下種がぁぁああああああ!!!!!!」

瞬間、怒号と共に飛び出す。その進行方向を塞ぐように立つヴァナルガンドを殴り飛ばす。そのまま勢いを殺さずに駆ける。大鎌が空を裂き、父様達に当たるその直前に割って入る。

血が床に飛び散る。大鎌の刃先が胸を貫通して、床に突き刺さる。

レミリア:「...えっ...は?」

私ではなく『父様』の胸を...

レイオス:「...ぶっ、グフッ...」父様の身体が力なく項垂れる。

どうして、父様の胸に鎌が刺さって...私を貫通した?私の身体にそんな傷は無い。

ヴァナルガンド:「まったく、これだから頭の足りないガキは扱いやすい!」

ヴァナルガンド:「貴様の妨害程度、予測できていたわ」

レミリア:「どうやって...!!」

ヴァナルガンド:「素直に言うと思うか...?」

レミリア:「無理矢理にでも吐かせる!」地面を踏み砕いて駆ける。

ヴァナルガンドの顔面へと振るった拳が空を切る。驚く私のその手をヴァナルガンドの手が掴む。すぐさま、反対の手で殴り返す。しかし、これも空を切る。逆に私の腹に膝蹴りが叩き込まれる。

レミリア:「グハッ...!?」息が詰まり、上手く呼吸が出来ない。

ヴァナルガンド:「フハハハハ!!どうだね?この力...素晴らしいだろう!?」

興奮した様子のヴァナルガンドの拳が、蹴りが、襲い掛かる。それをどうにか中心を外して、致命傷を避け続ける。

レミリア:「はぁ...はぁ...はぁ...ぐっ!!」痛みに顔をしかめる。

ヴァナルガンド:「何が起きたか分からないだろう?」

レミリア:「...」

ヴァナルガンド:「答えられないだろう?そうだ『透過』ろ...」

レミリア:「透過能力。一部の吸血鬼が持つ能力で基本的な能力の一つ」

ヴァナルガンド:「...ふっ、流石に知っているか?まあ、気付くのが遅かったな」

レミリア:「ただ、他人に掛けられるとは思わなかったわ」

ヴァナルガンド:「?何を勘違いしている?私が透過させたのは私の投げた大鎌だぞ?」

レミリア:「はっ?何、言って...そんな事、出来る訳...」

ヴァナルガンド:「無い。とでも言いたげだな?それが出来るんだよ!私ならね!!」

彼の言葉に絶句する。彼の言葉が本当なら彼は本当に『天才』の域に達している。

透過能力は、基本的に対象を知覚している事が前提条件だ。自分自身以外に掛けるのは、知覚し続けるのが難しいので、静止している物体ですらその難易度は高い。ましてや、高速で動いている物体を透過させる事の難易度は想像を絶する。

ヴァナルガンド:「やはり、君たち吸血鬼の力は便利だな!!」

彼は、本当の意味で成長途中なのだ。だからこそ、私がどうにか戦えているのだ。

これが後、一ヶ月後だったら私では歯が立たなかった。と、そう思わされるだけの実力が悔しいが、ヴァナルガンドにはあった。しかし、だからと言って、このまま好き勝手にさせるつもりも無い。

レミリア:「一重の眼差し...傲り高ぶり愚の骨頂」

ヴァナルガンド:「呑気に詠唱してて良いの、か!?」

拳を悠々と構えるヴァナルガンドの表情が驚きに彩られる。それもその筈、私が掴まれている腕を引き千切ったからだ。それにより私は一気に拳の制空権から離脱する。

ヴァナルガンド:「化け物が...!!」

レミリア:「虚構の偽りを見破らん。『真実の瞳(トゥルー・アイズ)』」

詠唱が終わる。ヴァナルガンドが身構える。しかし、何も起きない。

ヴァナルガンド:「なんだ...不発か?救えんな!クッハハハッ...」

レミリア:「救えないのは、あんたの方よ...」

ヴァナルガンド:「図に乗るなよ?小娘がああぁ!!!!」

ヴァナルガンド:「ヘイストォ!!...フィフスゥッ!!!!」相手の顔に青筋が浮かぶ。

ヴァナルガンドが姿を消した。そう認識するよりも早く私にヴァナルガンドの攻撃が届く。それは、僅か0.05秒の間の出来事だった。本来なら為す術なく蹂躙されるだけだったが、今の私は全て視えている。

レミリア:「ヘイスト...セブンス...」

きっと、ヴァナルガンドは何も理解できなかっただろう。恐らく、自身の攻撃で私を嬲っている様子を想像しているのだろう。しかし、それは肉体が攻撃された事を理解すると一気に現実へと引き戻される。

ヴァナルガンド:「グバァ!?あっ、がぁああああ!?」

ヴァナルガンド:「何がぁ...お、起きて!?」

レミリア:「あんたより速く動いた、それだけ...」

両手両足に槍を突き刺して、地面に縫い付けている。どうにか逃げようとするが、抜け出せずに藻掻くだけに止まる。

レミリア:「あんたは、どうしたら死ぬのかしら?」

レミリア:「頭を潰す?心臓を貫く?それとも日光?」

レミリア:「まあ良いわ...死ぬまで続ければ、どれか当たるでしょう...」

ヴァナルガンド:「わ、私は認めないぞ!?こ、こんな結末...!!」

レミリア:「知らないわよ、そんな事...!!出来るだけ苦しんで、死ね...!!」

そう吐き捨てて、槍を頭へと突き刺す。ヴァナルガンドは悲鳴すら上げられずに痙攣する。しかし、こんな事では吸血鬼は死なない...

案の定、手足がバタバタと動き始める。

頭部が再生出来ないので、どうにか槍を退かそうとしている。行き意地汚いヴァナルガンドに虫酸が走る。一秒でもこいつが永く苦しみ、父様の受けた苦しみをその魂に刻み付ける。そう考えて、今度は腹に風穴を開けるべく槍を構える。

しかし、ヴァナルガンドという男を私は完全に理解していなかった。この男の悪運の強さを...

槍が突き刺さる。正にその時、ヴァナルガンドの身体から夥しい数の血の塊が飛ぶ。その一つが右腕に当たる。その瞬間、右腕が宙に舞う。

それにより槍を手離してしまったので、バックステップで回避する。

だが、如何せん数が多いので回避しきれずに、左足に命中する。左の足首が爆ぜて、着地の体制が崩れる。

そこを狙い澄ましたかの様に大鎌が飛来する。だが、翼によって空中で回転する事で鎌の射線上から避ける。しかし...

レミリア:「ホーミング付き...ウザいわね...」

背後で大鎌が急旋回して、こちらに飛んでくる。それをグングニルで真正面から破壊する。砕け散った大鎌から視線をヴァナルガンドに戻すとそこに奴の姿はない。

ヴァナルガンド:「はっはっはっ!!油断したな、小娘!?」

レミリア:「あら?尻尾を巻いて、逃げれば良かったのに?」

レミリア:「貴方って、結構な馬鹿ね...?」

ヴァナルガンド:「これを見ても、まだ同じ事が言えるかな?」

そう言ったヴァナルガンドの腕には、父様と母様が居た。二人ともぐったりとして、意識がない事が窺える。その時、レミリアの頭に鋭い痛みが走る。

レミリア:「...ッ!?」

一瞬、攻撃されたのかと思ったが、特に傷は見えない。それよりもあの男を殺さなければ...フラフラと男に歩み寄る。

ヴァナルガンド:「おい!!こいつらが見えないのか!!?」

そう言って、自分の腕の中で気絶している男女の首に血液で作ったナイフを向ける。そうして、自身と私の間に二人を挟む様にして立つ。

レミリア:「...」無言で歩みを進める私。

それを見たヴァナルガンドの表情が歪む。私が止まるとでも思ったのだろうか?「赤の他人」の為に攻撃を止めるとでも?

ヴァナルガンド:「お、おい!?こ、こっちに来るなぁあああああ!!!!!!」

そう叫ぶヴァナルガンドが二人の首を掻き切ろうとする。

レミリア:「あんた、やっぱり馬鹿でしょ?」

私の腕は、手前の二人諸共、ヴァナルガンドの胸の真ん中に風穴を開ける。

ヴァナルガンド:「ブハッ!?な、なんで...攻撃でき...!?」

そのまま呆然とするヴァナルガンドの顔へと回し蹴りを放つ。それにより、ヴァナルガンドの首が爆ぜる。

目の前の二人の顔と一緒に...

レミリア:「まったく...最後までイラつく奴だったわね...あいつ」

辺りに飛び散った肉片を眺めながら、そう吐き捨てる。

レミリア:「そういえば、あいつって...ダレダッケ?」

思い出せない。この二人も、この男も、誰なのか、何なのか...

そんな言葉と、混乱する思考と共に意識が遠のく。この頭痛の正体は何なのか、それを理解する事は今の私には出来なかった...

 

 

 

目が覚める。窓から差す朝日で目を覚ます。

朝日。そこまで理解した事で、私はその場から飛び退こうとして気付く。体が全く言う事を聞かない事に...

レミリア:「何で...というか、日で焼けない?どうして...」

状況に理解が追い付かない頭で辺りを見回す。周りには、凄まじい破壊の痕跡が広がっている。

その向こうに、ヴァナルガンドの体が大の字に倒れている。

その向こうに、二人の吸血鬼が倒れている。二人の顔へと視線が上がり、そこにある事実に到達する。

レミリア:「...えっ...?」

レミリア:「母様...?父様...?」それが誰かを理解する。

私の頭がその真実を理解する。それを理解してはならないと心が最大限の警鐘を胸の中で鳴らしている。息の仕方を忘れたかのように肺が酸素を求めて、息を荒くする。

レミリア:「何で?二人がぁ...こんな、嘘、嘘よ!嘘よォォッ!?」

半狂乱になりながら、頭を床に叩き付ける。そうして、目の前の光景を否定する言葉を並べる。

レミリア:「母様たちが死んでる訳なくて!!父様があいつなんかにやられるはずなくて...!!」

それらの言い訳を並べるたびに、その言葉を嘘だと答える冷静な自分の思考を搔き消そうと声を荒げる。

レミリア:「父様も!母様も!吸血鬼なんだから、死ぬ訳ない!!!!」

そこまで叫んで、私は何かの気配を感じて、顔を上げる。

レミリア:「...えっ...ど、どうして!?」

そこに居たのは...「フラン」だった。フランは私を見ていない。

フランの視線の先には、倒れている父様と母様。更に、その視線がヴァナルガンドに向かい、そして...私へと向いた。その目には、たった一つの感情が残っていた。

 

『恐怖』

 

ただそれだけ...

私への視線からは、ただ恐怖が滲み出すばかりだった。

レミリア:「ふ、フラン...」私が名前を呼ぶ。

ピクッと肩を震わせるフラン。その目に徐々に涙が浮かぶ。そして...

フラン:「...ば、ばけもの...!!」フランの言葉が私の思考を止める。

レミリア:「ッ!?...どうしたの!?私よ?レミリアよ、フラン...?」

困惑する私の言葉に返ってきたのは、怯え切った妹の声だった。

フラン:「おねえちゃんじゃない...!!」

フラン:「もし、おねえちゃんなら...!!どうして、どうして!!」

フラン:「かあさまやとうさまを、ころしたの...!!」

その言葉で私の心を打ち砕くには、あまりにも十分すぎる言葉だった。

レミリア:「私が...殺した?母様や、父様を...?」

レミリア:「う、嘘...そんなわけ、どうして...私が!!」

そこまで言って、私は自分自身の記憶の不自然さに気付く。

自身の最後の記憶から、一気に飛んだとばかり思っていたが...もしも、私が忘れているだけなら...

その考えの答えは、すぐに分かった。

突然、頭に鋭い痛みが走る。激しい痛みに、頭を押さえて蹲る。凄まじい情報が頭に流れ込む。忘れていた間の記憶が記憶の濁流となって、押し寄せる。

レミリア:「あがぁ!?違う...私じゃ、こんな事...私はあいつを...!!」

記憶が全ての真実を私の頭に刻み込む。忘れてはならないと、痛みと共に...

レミリア:「私はただ...家族を守ろうと...!!」

そんな言葉を並べながら記憶を否定しようとするが、私の手と足には肉を骨を穿ったその感触が残っていた。腹の底から上がってくる不快感に言葉が止まる。

レミリア:「うっ...!?おぇええええぇ!!」

目の前で砕け散った二人の顔を思い出し、不快感が限界に達する。そして、喉元までせり上がった嘔吐感をそのまま吐き出す。吐き出したそれは、真っ赤な血反吐だった。

レミリア:「!?なん、で...ゲホッゴホッ!!うっ...げえぇぇ!!」

更に、堰を切ったように、私は血反吐を吐く。

身体から体温が奪われたかのように、急激に悪寒が這い登ってくる。それは私に明確な死の予感を感じさせた。不死のはずの吸血鬼が死を感じるなんておかしな話だが、それでも否定できない本能的な恐怖。だが、その恐怖はその後の出来事によって、搔き消えた。

レイオス:「ぐっ...!!レミ、リア...?」

その声に心臓が...いや、全身が震えた。死んでいると思っていた訳ではない。そう言ってしまうと嘘になるが、しかし、その希望的な仮説に確証が持ててしまった。

その安堵に身を任せて、離してはならない命綱を手放してしまった私の心は酷く穏やかだった。

 

目の前で微笑を浮かべて、床に崩れ落ちたレミリア。

上手く力が入らない体を動かして、レミリアの近くに寄る。

レイオス:「おい!目を開けてくれ、レミリア!」返答はない。

レイオス:「身体に異常は、ない。それなのに...」

死がレミリアの体から緩やかに、しかし確かに、その温度を失っていた。

レイオス:「一体、何が起きたというんだ...!?」

私が余りにも突然の状況に、打開策を思案していると...

ティアナ:「えっ...レミリア...?」

背後からティアナの声が聞こえ、振り向く。そこには顔を真っ青にしているティアナが居た。レミリアの異常に気付いたのだろう。

ティアナ:「レミリア!?レミリア!!お願い、目を開けて...!!」

ティアナの呼びかけにも答えないレミリアの顔色がいよいよ青白くなり始める。

レイオス:「ティアナ!君の能力で原因を探してくれ!」

ティアナの能力は「血を媒介に事象を起こす程度の能力」この能力によって、ティアナは昔、地獄の日々を歩んでいた程に強力な能力だ。

その能力の副産物で血の近い者の状態が分かるというものがある。この能力によりレミリアとフランの状態をティアナは感じる事が出来る。レミリアの顔を注視したティアナの顔色が悪くなる。

すぐに自身の腕に爪を立てる。鮮血が地面に血溜まりを作る。

レイオス:「どうした!?一体、レミリアはどういう状態なんだ!!」

ティアナ:「魂が崩れつつあるの...こんなのどうしたら!?」

その言葉の指すところを理解して、自分の顔からも血の気が引く。身体なら治す事は出来ても、魂はそこまで簡単な話ではない。

ティアナ:「どうしたら...!?どうしたら良いの!?」

焦るティアナの声に、答えを返せずにいると

ティアナ:「...!!赫龍に、赫龍に頼めば...!!」

レイオス:「おい!?正気か、ティアナ!!」

ティアナ:「でも、このままだとレミリアが...!!」

赫龍。星龍の一角であり、龍種の最上位種である以前に、宇宙の調停者的な存在だ。

今は、ティアナの中に住み着いていて、力を貸して貰う事もある。だが、今回は願いのレベルが違う。

今のレミリアを助ける為には、生命譲渡や死者蘇生などとは次元の違うレベルだ。無から有を創造する様なものだ。何かしらの代償を契約によって、受けたレミリアの代償を踏み倒す様な事が許される訳はない。

レイオス:「赫龍であっても、そこまでの横暴が赦される訳ではないんだぞ!?」

ティアナ:「じゃあ、諦めろって、言うの...!?」

レイオス:「...一つ、方法がある」

ティアナ:「...!?」私の言葉にティアナが顔を上げる。

ティアナ:「どうしたら良いの!?」

レイオス:「私の命と魂を代わりの代償とする事だ...」

ティアナ:「...はっ?何、言ってるの?」ティアナの顔が更に青ざめる。

レイオス:「文字通りに、ここまでの代償は対象の変更だって、簡単な事ではない」

ティアナ:「じゃあ!何で!どうして!!」

ティアナ:「私の命も、魂も、一緒に賭けないの!?」

レイオス:「私は、元より地獄行きだが、君は違う...」

レイオス:「それに、レミリアとフランを置いていくつもりか?」

ティアナ:「...ッ!!」ティアナは言葉に詰まる。

私は最低だ。彼女に、私とレミリアの、娘の命を天秤にかけさせているのだから。選ぶことが出来ないのを分かった上で...

ティアナが口を噤んだことを確認してから、レイオスは爪で手の平を切る。血が地面に流れる。

ティアナが震える手で、その血に向かって詠唱を始める。

瞬間、体の中から何かが引きずり出されていく感覚を感じる。それが抜けていくと、身体から力が抜けていく。いや、正確には身体よりも魂が摩耗していく。

レイオス:「ぐっ!」足から力が抜けたのか、地面に膝をつく。

ティアナ:「ダメ!あなただけじゃ足りない!」

レイオス:「ぐっ!!そんな...」

ティアナ:「だから、私の体と魂も代償の対象にしたわ」

レイオス:「なっ!?ティアナ!!君は...!!」

ティアナ:「もう遅いわよ...いでよ。赫龍!」

レイオス:「待て!ティアナ!」

私の言葉も空しく、ティアナの体から赫龍の頭部が飛び出す。それは、最初に私を。次にティアナ自信を飲み込んだ。それがどういう事かは分かっている。身体が軽い。とても軽い。まるで羽のように軽い。

ティアナ:「これで、レミリアは助かったわ」

レイオス:「君には、出来るなら生きて欲しかった...!!」

ティアナ:「まったく、貴方がそんな調子だと、困るんだけど?」

ティアナ:「貴方は私となら、地獄でも何処でも来てくれるんでしょう?」

そう言って、昔のように微笑む彼女の手を私は握る。彼女を地獄から連れ出した時のように...

 

 

 

目が覚める。全身を温かなぬくもりに包まれているからなのか、まるで夢の中の様だ。

状態を起こしながら、周りを見渡すと近くに父様と母様が寄り添う様に座っている。

レミリア:「父様、母様...」二人に呼びかける。

だが、二人は微笑むばかりで返事を返さない。まるで、聞こえていないかの様に。

レミリア:「父様?母様?」沈黙...

レミリア:「ねえ!二人とも!!どうしたの!?」

起き上がり、二人に近づいて触れようとする。気付いた。

二人の体から光の粒の様なものが立ち昇っている事に...

レミリア:「なん、で...?どうして、どうして二人が!」

分からない。ただ、このままでは二人の体は光の粒となって、消えてしまう事は明白だった。

だが、解決する方法が分かる訳でもなく、ただ空しくも手でそれを捕まえるかの様に一心不乱に腕を振り回す他に私に出来る事はなかった。

気付けば、二人の体はそこにはなく、私は地面に蹲っていた。受け止めきれないその事実から目を背ける様に...

信じたくない、二人が死んだというその事実を。それを認める事が自分自身の何か大切なものを叩き壊してしまうような気がした。だから、否定した。こんな「運命」を。

そうだ。きっと、これは...夢だ。ユメダッタンダ。

二人が死んだ事も、ヴァンパイアハンターが来た事も、私の性で二人が死んだんじゃない、私の性じゃない。うわ言の様に繰り返し、繰り返し、言い続ける。

 

 

 

そして、運命は虚構に塗り潰され、捻じ曲げられた。

レミリア・スカーレットの罪は、何の因果かフランドール・スカーレットの罪に置き換わった。そして、その原因の狂気が生み出された事で、本来は目覚める事のないネメシスの魂を目覚めさせた。

だが、大規模な現実改変により、当事者の記憶や意識すら上書きしてしまった。

これが、本当のレミリア・スカーレットとフランドール・スカーレットの過去である。

 




第八話はどうだったでしょうか?
まあまあ、重い話だったかな~?という感じに書いてみましたが、文章力が乏しい主では、これぐらいが現状の限界だと感じました。今後の発展に尽力したいです。
そして、相も変わらずの長文でグダグダになってしまいました。すんません!
次回は、過去編から戻って、現在のお話に戻りたいと思います。
それでは、次回“東方追求録”第九話「破天異変 ~弐~」お楽しみに!!
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