待て、ジレン。孫悟空に会ったことあるってマジか。   作:白狐

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待って、ジレン

「・・・・久しぶりだな。」

 

そんなことを言ってきたそれに、フォルノは目を丸くした。灰色の肌に、大きい、と表現するのに悩む黒い瞳。そうして、見上げるような上背。

遠い昔の記憶の中にある、グレイという宇宙人を思い出す彼は、久方ぶりの再会にしてはあまりにも簡素な挨拶だった。

 

「お、おう、ジレン。」

 

 

フォルノというそれは、遠い昔、なんの変哲も無い人間だった。

普通の、どこにでもいる人間だった。そんな人間でも当たり前のように死んでしまったわけで。

そうして、何故か生まれ変わっていた。何故、と問われても知ることもない。神様に会ったわけでも、使命があるわけでもない。

ただ、おぎゃあと生まれた先はなんちゃってなファンタジーという訳ではなく、どちらかというと宇宙船などが闊歩するSF的な世界だった。

幸いだったのがフォルノの生まれた人種?種族?は前世と似た、人間のような容姿、生態、文化を持っていたことだろう。

群青の髪に、金の瞳。強いて言うならば、エルフのようにとんがった耳が特徴だろうか。

まあ、種族と言ってもフォルノと、父親だけだったが。

なんでも、昔、ひどい侵略戦争にあって星ごと滅んだらしい。壮絶な話であるが、なぜかと言われれば簡単な話。

フォルノたち、テレー人は瞬間移動の力があった。それは、特殊な目印さえあればどんな所にでも跳ぶことが出来る。それも体が触れているものならばなんでも移動させることが出来る。

その能力は、他の星にとって良くも悪くも有用だったのだろう。上手く使えば、反撃する暇も無く、他の星を席巻することも出来る。スパイに使うことも、そうして、暗殺だって出来た。

奴隷狩りのような名目で、テレー人は狩られたらしい。

まあ、そうはいっても住まうべき星が滅び、ちりぢりになったことは行幸だった。なんといっても、帰るべき場所を持たないテレー人は逃げることに関しては一級品だ。捕まえられるものたちもおらず、フォルノの父は配送業を営んでいた。

それは、有名な存在たちの個人的なものから、辺境の星の人間の依頼まで様々だった。

 

 

フォルノは、ちらりと目の前のそれを見た。見上げるような上背に、びっくりするようなムキムキ具合。

二人がいるのはビルの上だ。フォルノはちらりと、ビルの枠ギリギリに立ちながら隣の男を見た。

黙り込んだままのそれにため息を吐いて、彼女は声を出した。

 

「じーれーん。」

「ああ。」

「ああ、じゃねーから!」

 

腰に手を当てて呆れたようにそう言えばビルの下を眺めていたジレンはちらりと視線だけをこちらに向けてきた。それにフォルノはため息をついた。

もちろん、それの性格なんてわかりきったことなのだが。

 

目の前のグレイ似の男はフォルノにとって昔なじみに当たる。

フォルノは幼い頃、父親について数多くの星を渡り歩いた。ジレンは、フォルノの父親の取引相手の一つだった。

そこそこ辺境にあったジレンの星に必要物品を届けていた。そんな中で仲良くなったのがジレンだった。

といっても、フォルノが仲良くなったのは彼だけではなかった。それでも、確かに、一等に仲の良い存在だった。

 

(昔はなあ、かわいかったんだけどなあ。)

 

などとそんなことを思いながらフォルノはじっと目の前の筋肉達磨を見た。あの、可愛らしかった面影などはみじんもない。

それも仕方が無いだろう。

フォルノは目の前の存在の過去を思い出す。

フォルノたちがその話を聞いたのは、全てが終った後だった。ジレンの星が滅び、向かった先にあったのは墓場だけが残る無人の星だった。

フォルノは父に頼み、せめて生き残りがいないかを見つけてもらった。それは、ジレンだった。

父も自分たちの故郷のことを思い出したのだろう、ジレンを助けた武芸の師匠であるギッチンに対して出来るだけの支援をした。

そうして、フォルノとして気になったのはジレンのことだった。

見た目は少女でも、中身は十二分に大人であったフォルノとしては故郷を無くし、両親を亡くした彼のことはひどく気になった。

 

「やあ、ジレン。」

 

そんなふうに声をかければ、なーにと少し年上のフォルノに甘えた声を出していた彼はもういなかった。

以前よりも、厳しく、冷たく、それこそ手負いの獣のようになっていた。それも仕方が無いだろう。

だから、フォルノはそれについては触れなかった。

ただ、気遣わずにはいられなかった。少なくとも、フォルノにとって自分が生まれる前に滅びた故郷だとか、紛争だとか、彼女の中では遠い出来事だった。

初めて、自分がそこそこ残酷な世界に生まれたのだということを自覚させる出来事だった。

フォルノは父がギッチンの元に向かうたびにジレンの元に行ってはたわいもない話をした。

ジレンは昔の屈託のなさを見せてくれることはなかったけれど、それでも反応だけはしてくれた。

 

一面が水の星に行ったんだ。

水の中は戦いにくいな。

 

ものすごい怪獣ばっかの星だったよ。

どれぐらい強かった?

 

治安の悪い星だったよ。

フォルノ、お前は弱いんだからそんな所に行くなよ。

 

大抵、どんな話をしても鍛錬だとか、強さの話しになってしまったけれど。

それでもジレンは言葉少なに返事をしたし、そうしてフォルノの身を気遣ってくれた。

ギッチンには懐いているようだし、確実に強くなっている事実はジレンに自信をつけているようだった。

プライドトルーパーズに入ってからも、どうやら孤立癖は変わらなかった。

ギッチンからも相談されてフォルノはジレンに聞いたことがあった。何故、友人の一人も作らないのかと。

それにジレンは不思議な顔をした。強さに、それは関係ないからだと言われたとき、何と言えば良いのかわからなかった。

というよりも、その場合、自分はどうなるのだろか。何に当たるのだろうか。

ジレンの師匠に当たるギッチンと頭を抱えたのは良い思い出だ。

そうして、ジレンはフォルノに執拗に鍛錬をすることを勧めてきた。

 

「・・・・この宇宙で弱いのは致命的だ。何より、フォルノ、お前は狙われやすいということを覚えているだろうが。」

 

そんなことを言われたこともあるが、フォルノとしては曖昧にそれを躱し続けた。自分にそういった才能が無いことはギッチンにすでに言われていたことだし、それよりも逃げるために自分の能力を磨いた方が早い気がした。

 

「あー、まあ、なんかあったらジレンの所に逃げるから!」

 

そう言えばジレンは少しだけ黙った後、呆れたようにため息を吐いた。そうして、ふんと息を吐いた。

 

「まあ、仕方が無い。お前は弱いしな。」

 

などといわれはしたが、ああ、助けてくれるのは助けてくれるのかと少しだけ得意げな彼の横顔を覚えている。

昔、可愛らしかった少年の面影が愛おしくて仕方が無かった。

このまま、少しでも彼の傷が治ればいいと、そう思って。

 

そんなことはもちろん、なかったけれど。

ギッチンが死んだとき、いち早く駆けつけたのはすでに一人前になり、宇宙を一人で転々としていたフォルノだった。

生き残った人間のために医者を引きずってきて、その場を駆けずり回った。そうして、ジレンを見つけたのも彼女だった。

目覚めたジレンの絶望を、失望を、そうして怒りをフォルノは覚えている。彼はそれから余計に鍛錬に明け暮れた。そうして、フォルノと会話することも少なくなった。

拒絶するほどではない、けれど、明らかに壁が出来てしまった。

親代わりの師匠も死に、同胞たちから背を向けられた彼からすれば当然だっただろう。

その時、関わりを止めようとは思えなかった。だって、ジレンはフォルノが初めて見た、この世界の残酷さの被害者だった。

何もかも無くして、それでもまた一人になることを望んでいる昔なじみとの縁を絶つことは出来なかった。

幼い頃の、彼のかわいげを知っている。彼の、絶望を覚えている。

だから、フォルノはプライドトルーパーズに物資を運ぶ名目で、ジレンとできるだけ関わるようにした。定期的なメールも送っていた。

ジレンは全てに応じることはなかったけれど、それでも時折返事をしてくれた。

それだけが縁だった。

けれど、フォルノはあるときジレンと大喧嘩をしてしまった。

 

それはフォルノの父親が、殺されたことが原因だった。知らせを聞いたフォルノは、ジレンに連絡をした。

父親の能力目当てに襲撃した存在に殺されたことを。

父親もジレンのことは目にかけていたし、弔いのために彼には一報入れておいた。

父親は彼の希望通り、すでに滅んだ母星に墓を建てた。仕事人間だった彼が個人的に交流をしていたのは、幼い頃からの付き合いのジレンぐらいで、一応弔いに呼びはしたが来ないだろうなあと予想していた。

その予想は、ある意味で最悪の形で叶えられた。

ジレンは来た、父親を弔うために、確かに来てくれた。父親を殺したごろつきの首を持って。

 

「敵は取った。」

 

それだけだった。本当に、それだけを言った。フォルノはそれに、絶望した。

死体を怖いと思うような感性はとっくに無くしていたし、それについてはざまあみろと思った。

けれど、フォルノは心底絶望した。

ジレンは、確かに無口で孤独を好む性質であっても、それでも、優しい奴だった。

誰かのために拳を振ったし、助けるために生きていた。

そこにどんな成り立ちがあっても、ジレンは一度だって弱者を踏み潰すことはなかった。

殺しだって初めてではなかったはずだ。

けれど、フォルノは心底、絶望した。

 

自分は、自分は、こいつに、少なくとも優しい奴に人を殺させてしまったのだと。

敵は自分で討つべきで、その男の拳を血にぬらしてしまったことに絶望してしまった。

それだけは、させたくなかったのだ。例え、悪人だとしても、優しかったそれに自分が理由で人を殺させてしまったことに絶望した。

いや、内心で、自分はそれを望んでいたのかもしれない。父を殺した相手を、ジレンは殺してくれるのだと期待していたのではないかと。

そんな醜い自分がいたことに、心底、絶望してしまった。

 

そんなことを望んでいなかった!どうして、そんなことをした!?

ジレン、どうして、なぜ、そんなことを!?

 

口汚く罵ってしまったのは、自分が愚かであったからだ。一時の激情と動揺で、ジレンのことを拒絶してしまった。

ジレンは短く、そうか、すまないと言ってその場を去った。

 

フォルノはそれに対してジレンに謝罪をした。ジレンはそれについて気にしていないと言ったが、率先して接触をすることはなくなった。

当たり前だ、自分のような昔なじみに会いたくはないだろう。

そうして、ずいぶんと時間が経ち、仕事途中の彼に会ったのがつい先ほど。

ジレンの姿は目立つからと、互いに人の来なさそうなビルの上に立っている。

 

(なんで突然会いになんて来たんだ?)

 

疑問に思っていると、ジレンはようやく口を開いた。

 

「フォルノ。」

「なんだよ?」

「一緒に暮らさないか?」

 

それは一瞬の沈黙の後、はあ?と声を出した彼女は赦されるはずだ。

 

 

 

ジレンにとってフォルノという少女は昔の安寧の証だった。

幼い頃に自分の村にやってくる少女のことは、幼いジレンは心底好きだった。

同種族の村の中で、他種族の彼女は珍しかった。けれど、土産話が多い彼女は村の中で人気であった。

そんな彼が例に漏れず、ジレンは好きだった。彼女の話を聞くのは好きだったし、自分たちにはないさらさらとした髪の毛に顔を押しつけてじゃれつくのは好きだった。

大人になって思えばなかなかに特殊なことをしていた自覚はあるが、そうはいっても

子どもの頃なのだから流しても構わないだろう。

そんな彼女は理由はわからないが、ジレンとは特に仲が良かった。

幸せだったのだと思う、あの日々はまだ。

 

そうして、そんな日々は終わりを迎え、彼にとって師匠であるギッチンの元で暮らすようになった。それでも彼女は変わることなくジレンに会いに来た。

それはジレンのことを不憫がった彼女の父親が支援のために通っていたと言うこともあるが、それでもフォルノは何よりもジレンをかまい続けてくれた。

当時、心を閉ざし、強くなることに集中していたジレンだが、それでもフォルノのことだけは無碍には出来なかった。

少なくとも、彼女とその父はジレンにとって唯一残った故郷の忘れ形見だった。

 

フォルノは何でも無い世間話をよくした。おそらく、ジレンと話しても楽しくなかったが、彼女は飽きることもなく話をしてくれた。

ジレンが何かを喋るだけで、フォルノはそうかと笑いながら聞いてくれた。

その時間だけは、少しだけ、強くなるだとか、敵のことだとか、忘れている気がした。

それが良いことなのか、悪いことなのか、ジレンにはわからなかったけれど。

 

フォルノは大きくなって、そうして独り立ちしても変わることなく父親の代わりにギッチンたちの元に通っていた。

他の弟子たちにちょっかいを駆けられたが、それでもフォルノは何よりもジレンを優先してくれた。

それは、愚かな話、ジレンにとっては非常に嬉しいことだった。

皆のものだった彼女は、確かにその時、ジレンだけのものだった。それはジレンにしては珍しく、ほのくらい感情だった。

独り立ちした彼女を心配して強くなれと言っても、のらりくらりと躱すフォルノに苛立ちもしたが、ジレンに守って欲しいと言われるとまあいいだろうとなんて甘ったるいことを思ってしまった。

守れると思ったのだ。そうだ、その幼なじみのことを。

 

 

そんなことがないのだと気づかされたのはすぐだった。

師匠が死に、同じ弟子たちに背を向けられても、フォルノはジレンの元に通い続けた。

ジレンは、そうだ、それが怖くなっていたのだと思う。

両親は死んだ。弱かったから。師匠は死んだ。弱かったから。同じ弟子たちは背を向けた。弱かったから。

そうして、目の前の、逃げるだけしか出来ない幼なじみ。

それは?

死なないと思っていた師匠は死んだ。彼よりも弱い彼女は?

彼女は、死ぬのだろうか。そうして、自分に、彼女を守ることなんて出来るのか?

吐き気はするような、恐ろしさだった。

唯一だ。それは、それは、ジレンに残った安寧の証だった。それを失ってしまったら、それがなくなったら、それを守ることが出来ないのなら、自分はどうなるのだろうか。

一人でありたいと思った。一人で強くなろうと思った。

けれど、その黄金の眼を拒絶しきれない自分がいた。

早く関係を断たなくては、捨ててしまわなければ。

ジレンと仲が良いと、狙われるリスクもあった。けれど、彼女の声を聞くと、弱かった頃の自分が顔を出す。

 

けれど、その願いは案外早く結論が出た。

フォルノの父が殺されたと知ったとき、目の前が真っ赤になった。率先して連絡を取ることはなかったが、それでも彼には恩義があった。

殺されたのだ、あの、善良な人は。利己的で、愚かな考えで、殺されたのだ。

怒りのままにそれを殺して、そうして、まるで狩りをしてきた獣が主に獲物を差し出すようにその首を見せたとき、フォルノの拒絶に、何かが食い違ってしまったことを理解した。

 

何故だと、どうして、そんなことをしたのだと。

彼女は散々にジレンをなじった。

敵を取りたかったのだ。恩義を返したかったのだ。人との関係を断ちはしても、恩義を忘れるような愚かさは持っていなかったから。

けれど、フォルノの様子にジレンは自分が散々に間違えてしまったことを理解した。

 

フォルノはそれきりあまり会わなくなった。それでよかった。一人であることが自分の望みであったから。

 

けれど、力の大会の後、孫悟空との戦いの後、なんとなくフォルノとの関係のことだった。

半端に、どこかギクシャクした関係の彼女。

ずっと、自分の元に通い続けた彼女。ジレンの安寧の証。

仲間などと、そんなことを考えられるほど整理も何もついていない。

ただ、唯一残った繋がりを、そろそろ整理しても良いのではないだろうかと。

 

「一緒に住まないか?」

 

考え出した結論は、全うであると思った。元より、彼女の父からは後のことは頼まれていたし、そうすればフォルノを己の庇護下に置くことも出来る。

何よりも、接する時間を長くすれば彼女への感情も整理がつくだろうと。

そういったジレンに何故か幼なじみは頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。

 

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