バルバルサン短編集   作:バルバルさん

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最近、登下校時の記憶が飛ぶことに疑問を感じるようになった少女、安奈。
そんな彼女と一緒に登下校するのは、アルビノ髪の少女。

これは、神様と、一人の少女がお祭りを楽しむ、ひと夏の夢……


神様(トモダチ)に送る、一夜のお祭り

 セミがやかましく鳴き、太陽がジリジリと道行く人の肌を焼く。

 

 季節は夏。暑さ真っ盛りの中、通学路を二人の少女が歩いていた。

 

「ねえ安奈。知ってる?廃校舎のうわさ」

 

 滑らかなアルビノ髪の少女が、隣を歩く黒髪をポニーテールに束ねた少女、安奈に話しかける。

 

「廃校舎? あのボロっちい木造校舎の事?」

「そうそう。あの校舎、夜に出るんだって」

「出るって、コウモリでも出るの?」

「もう、安奈は鈍いなぁ。お化けよ、お化け」

 

 両手を垂らすように、お化けのジェスチャーをする少女に、安奈はあきれたような表情を作る。

 

「お化けって、今時小学生も信じないわよ」

「そうかな。廃校舎のお化けって、なんかロマンが無い?」

「ないない」

 

 そう話していると、夏の花火大会を知らせる張り紙が張られているのが見えてくる。

 

「もうすぐ夏祭りだね」

「そうだね。暑い中、よくやるよね」

「このお祭りって、何を祭ってるんだっけ?」

「え?」

 

 変なことを聞くなぁ。なんて思い、安奈は少女の方を向こうとするが、少女はそれより先に走って、安奈の隣から先へ行く。

 

「じゃ、私は先に行くからね」

「あ。ちょっと」

 

 待って。そう言おうとするが、さっと少女は曲がり角を曲がって行ってしまう。

 

 まったく、せっかちだなぁ。なんて思った時、疑問が浮かぶ。

 

 あれ、彼女の名前って何だっけ?

 

 というか、あんな可愛らしい女の子、友達にいたっけ?

 

 彼女がいなくなった瞬間、安奈の脳内に浮かび上がってるく疑問。

 

 一瞬、セミの鳴き声が遠くなる。そして、疑問を持ったことも、彼女のことも、さぁっと記憶から消えていく。

 

「あれ、なんで私。こんなとこで」

 

 変だなぁ。なんて呟き、学校への道を歩く安奈。

 

 セミがやかましく鳴き、太陽の光が安奈の肌を焼き、汗が流れる。

 

 その姿を、先に行ったはずの少女が、安奈の後ろの方からじっと眺めていた。

 

 

 日本には、八百万の神々と言って、様々なものを神格化したり、神が宿っていると教えている。

 

 現代においてはほとんど形骸化している教えであり、考えだが、安奈にとってはとても身近な考えだった。

 

 なぜなら、彼女は「視える」体質なのだ。そういった、物に宿る神が。

 

 そう言った存在は、たいていはぼんやりと白い影のように安奈には見える。たまに、動物のような姿をしている物も見えるが、人の姿をした存在を見たことはまだなかった。

 

 とはいえ、そんなことを言えば頭がおかしいと思われるかもしれないのは重々承知しているので、安奈は決してそれをほかの人に話さないように決めていた。

 

「あー、最近。なんか記憶が飛ぶなぁ」

 

 そう、家で呟きベッドに寝ころがる安奈。彼女は最近、登下校の時間の記憶がよく飛ぶのに気が付いていた。

 

「ねー、ポチ。なんでかわかる?」

 

 そう、ベッドの横で寝る犬に語りかけるが、当然返事はない。

 

 実はこの犬、安奈の家に宿っている神なのだ。こういった存在はめったに語りかけてくることはないので、安奈も返事は期待はしていない。

 

 ふと、窓の外を見る。空に星が輝く外。もうすぐ、この空に花火が打ちあがるんだなぁ。

 

 なんて思いながら、眠気を感じた安奈は、部屋の電気を消し、就寝した。

 

 目を閉じた安奈は気が付いていなかったが、部屋の電気を消した後、ポチと呼ばれた神が、起きて窓の外を睨んでいた。

 

 そこには、アルビノ髪の少女が、安奈をじっと見ながら立っていた。

 

 

 安奈の学校の近く。そこには廃校舎がある。安奈の通っている学校が移転する前の学校で、もうすぐ取り壊されるという話が上がっているらしい。

 

 そんな校舎の前を、安奈は通学のために歩いていた。その隣には、何故か家の神様、ポチもいる。

 

 滅多に家から動かないこの神様がついて来るなんて珍しいな。なんて考えていると、安奈に駆け寄ってくるアルビノ髪の少女が。

 

「安奈。おはよう」

 

 その少女を一見して、安奈は誰だっけと思うが、すぐに、友人だったなと思いなおす。

 

「おはよう」

「今日も暑いね」

「そうだね」

 

 なんて話ながら学校への道を行こうとすれば。足元のポチが一回ワンと鳴く。

 

 すると、安奈はハッとなり、目の前の友人……と一瞬前まで思っていた相手から、一歩離れ。

 

「あれ、あなた……誰?」

 

 そう記憶にない少女に、疑問を投げかけた。

 

 それを聞き、少女は驚いた表情をとなり、そして、悲しげに笑みを浮かべる。

 

「あはは、もう、ごまかせないみたいだね」

「ごまかせない?」

「うん。安奈。最近記憶が飛んだりしてるでしょ?」

「え、なんでそれを?」

「それはね、その時間は私と一緒にいた時間だから。私が、あなたの友人になってた時間だから」

 

 そう悲し気に話す少女に、安奈は、もしかしてと思い。

 

「もしかして、あなた、神様なの?」

「うん」

 

 やはりか。人の記憶を改ざんできるのは神様ぐらいだろうと思ってみたら。やはり私の記憶が飛んでいたのには神様が関わっていたのか。

 

 そう思いながらも、安奈の心中は複雑だった。

 

 ポチのおかげで、記憶の改ざんによる「少女が友人だったという記憶」は無くなったが、「少女が友人だ」という想いには変わりはなく、安奈にとって、少女は知らない間柄なのに友人と感じてしまっているのだ。

 

「でも、人の姿をした神様なんて初めて見たよ」

「うん。私も私達の存在を見れる人なんて、めったにいないから、初めて会った時は驚いたな」

「でも、なんで私と友人に? あなたたち神様は見えてもめったに干渉してこないじゃない」

「なぜかって言うとね。私、この校舎の神様なの」

 

 そう言って、少女は廃校舎を見る。

 

「この校舎で、あなたたち人の子供の営みを、ずっと見てきた。だから。友人って存在にあこがれを持っちゃったんだ」

「なるほど。それで見える私を見つけて」

「うん。初めは興味本位で近づいた。でも、あなたと過ごす時間は、本当に心地よくて……これが、友達との時間だと思うと、とても楽しかった」

「そう、なんだ」

「でも、それももうすぐ終わっちゃう」

 

 そう言って、安奈の方を向きなおし、悲し気に謝る少女。

 

「ごめんなさい。あなたの大切な記憶と時間に、勝手に干渉して」

「別に良いよ。私に害をなしてたわけじゃないでしょ? なら、また友達になりましょうよ。登下校の間だけでもさ」

「ううん。もうすぐ、私は消えちゃうから……もう、限界が近いの」

「えっ」

「この校舎、取り壊されちゃうから。私の宿ってるこの場所が消えれば、私も消える」

 

 その言葉に、愕然とする安奈。友人としての記憶はないが、それでも友人だと思える相手。消えると聞けばショックを受けた。

 

「そんな」

「あはは、安奈は優しいね」

 

 少女は、近くの壁に貼ってある、夏の花火大会の張り紙を見る。花火大会も、もう明日に近づいていた。

 

「この神様が羨ましいな。花火で祭ってもらえるんだから。もう一度、私も祭ってもらいたいな……」

 

 その悲しい呟きを聞き、安奈は、ぎゅっとこぶしを握る。

 

 確かに、少女は私の記憶と想いを騙していた。だけど、こんな悲しい表情されたら、何とかしたくなるってのが、人の心じゃないか。

 

 そう思い、安奈は意を決し、少女に伝えた。

 

「なら、さ。私とお祭り、しようよ!」

 

 夏の花火大会。それは、この地域に祭られてる神様を祭る行事だ。

 

 安奈は夜の祭り会場へ行くと、屋台を回っていく。

 

 たこ焼きを二つ買って、りんご飴を一個、かき氷を一つ。

 

 そして金魚すくいで金魚を一匹。

 

 それらを持って、廃校舎に潜り込む。

 

 そして何故か鍵の開いている校舎に入ると、神様の少女と約束しておいた部屋へ。

 

 その部屋には、窓の外の建物の光を眺める、アルビノの神様少女。

 

「来たよ」

 

 そう後ろから声をかければ、こちらを向き、ぱぁっと顔を輝かせて。

 

「安奈。来てくれたのね」

「うん、ちょーっと遅れちゃったけど、もうすぐ花火始まるし、見ながら食べよ?」

「うん」

 

 神様少女は窓の端に座り、たこ焼きを手に取る。

 

 そして安奈はりんご飴を手に、椅子に座る。

 

 すると、窓の外。都会の街中の空に、火薬の炎の花が咲く。

 

「あ、始まったね」

「そうだね。じゃ、私達も始めよっか。お祭り」

 

 と言っても、屋台の食べ物を食べるだけだけどね。なんて安奈が笑えば、神様少女は首を振り。

 

「その、安奈の人の心がとても嬉しいんだ」

 

 と言い、たこ焼きを一口。

 

 安奈もりんご飴を齧りながら花火を眺める。

 

「そういえばさ、安奈って好きな人とかいる?」

「いきなりだねー」

「ふふ、安奈くらいの女の子って、こういう話する物でしょ?」

「まあ、そういう事ばかりじゃないけど。間違ってもいないかな」

 

 苦笑しながらも、りんご飴を齧り。

 

「いないかな。まだ、そんな風に思える相手はいないな」

「へー。いたら、私が存在する間、祝福してあげようかなと思ったのだけどね」

「あはは。なにそれ。貴方はどうなの?神様」

「うーん、私達はそういう感情は、案外薄いんだけど……しいて言えば、安奈かな」

 

 その言葉に、安奈はこほ。こほ。と咳き込みつつ。

 

「あはは。やっぱ、人って可愛いね」

「もう、神様ったら」

 

 そんな雑談を、二つ、三つ交えていると。花火が最高潮に達し、その音が窓を叩き、光が部屋を照らす。

 

「おお、スターマイン……だっけ、凄いなぁ」

「うん。火薬だとは思えない、本当にきれい……」

 

 そして、神様少女はぽつりと。

 

「……ありがとう。安奈」

「どういたしまして。こんなお祭りで、喜んでもらえたらとても嬉しいよ」

 

 そして、神様少女は花火に負けないほどのまばゆい笑顔で。

 

「あなたの未来が、この花火のように輝くことを、私は願ってるよ」

 

 そう言って……

 

 花火の終わりと同時に、スゥっと消えるのだった。

 

「……あなたも、神様に来世があるのなら、また会いましょう」

 

 その寂し気な呟きを聞くのは、金魚すくいで捕まえた金魚だけだった……

 

 廃校舎が取り壊されている。

 

 その様子を、遠くから眺める安奈。季節は秋に差し掛かる中、旧校舎の取り壊し作業が進んでいた。

 

 その様子を、足元の家の神様、ポチを撫でながら、眺める。

 

「結局、名前。聞けずじまいだったな」

 

 そう呟くその背中には、一抹の寂しさが。

 

 それに答えるように、足元のポチが、安奈の足元に体をこすりつける。

 

 滅多にしないその行為に、安奈はくすりと笑い。

 

「ふふ、慰めてくれるの?ありがとう」

 

 そう言って、学校への道を歩き始める。

 

 その姿を遠くから見守るアルビノの影は、もうないけれど。

 

 彼女との記憶は、再び薄れていっているけれど。

 

 それでも。彼女は。あの神様は、安奈の友達だった。

 

 

 ありがとう。

 

 

 その、風に乗った呟きは、彼女に届いただろうか……?

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