だが、こんな恵まれ方なんて。望んでいなかった。
そんな俺が出合ったのは、一人の女性。
これは、彼女と俺の……
(R-15程度の性描写あるかも?
苦手な方は飛ばした方が吉)
俺は恵まれて生まれたのだろう。
なにせ、貴族階級の次男坊として生まれたのだ。衣食住、何不自由なく暮らしいている。その今が恵まれていなくて、何が恵まれているというのか。
例えば、奴隷階級で生まれたり、スラム街で生まれたりするよりははるかに恵まれている。
だが、俺はいつも考えていた。恵まれている俺は、果たして幸せなのだろうかと。
物心がついて、俺の中で倫理観とも言うべきものが形成されていくうちに、その想いが強くなっていく。
屋敷では鞭が肌を打つ音がよく響いている。奴隷を遊び半分で兄が鞭打っているのだ。
屋敷では嗤い声がよく聞こえる。身分が下賤な者を嗤う母の声だ。
屋敷では悲鳴がよく響いてくる。地下で父が可憐な少女に拷問のような行為をして楽しんでいるのだ。
これが恵まれた幸せな家庭なのか。こんなにも腐りきって、腐臭を放っているこんなものが。
俺は、彼らのような最低の人間になりたくなかった。どうしても形成されていく倫理観と良心が、彼らと同じ血が流れている事を否定して心を苦しめる。
これが貴族として一般的な、幸せな家庭なのなら……俺は幸せなどいらない。こんな他人の不幸で心を痛めず、愉悦するような精神が感じる幸せなど反吐が出る。
恐らく貴族としては俺が異端なのだろう。でも、それでもいい。俺の考えは俺だけの物なのだから。
とはいえ、貴族の家から出るという選択肢を選べない俺も中々に屑だ。今のいわゆる恵まれた暮らしを捨てるという選択は、知らない世界に放り出されそうで恐ろしいのだ。
俺の中でそんな心の葛藤が渦巻く、17歳になったある春先の事だった。俺は一人の女性に出会った。
◇
俺は父の付き添いで王城に来ていた。父の傍にはあまり居たくなかったので、理由をつけて少し離れたのだが……その時、俺は可憐な天使を見付けた。
彼女は見たところ俺と同い年くらいで、蒼髪が美しく、宝石のような蒼い目で王城のバルコニーから庭先の花々を見下す儚げな様は、とても絵になっていた。
一目見てすぐに話してみたいと思った俺は、彼女の隣に立ち、庭の花々を話の種に、二言三言と言葉を重ねて話しを始めてみた。
彼女はとても控えめな女性だった。そして聞き上手でもあった。俺に意見することなく一歩引いて、でも彼女が野の花に対して何を思っているのか、何を感じたのかは伝わってくる。そんな会話が続いた。
彼女の名はソゥラ。とても澄んだ響きの名前だと思った。
話した時間は15分程度、一緒にいた時間は30分程度。でも、俺は彼女がとても気になった。もしかしたら、これが一目惚れというものかもしれない。
とても幸せな30分だった。だが、いやらしく彼女を見つめる父が来てそれも終わった。
父はソゥラを一方的に知っているようだった。何か嫌な予感がしつつも、俺は父より先に屋敷に戻った。
◇
その数日後の夜に俺はソゥラと再会した。兄と父に犯され、穢され、とても見るに堪えないた状態のソゥラに。
父は、いやらしい笑みを浮かべつつ語った。
ソゥラは低級の貴族とメイドの間の庶子らしい。その父親はどうやら俺の父に負けず劣らずの屑の様で、ソゥラに上級の貴族や王族に身を売らせて地位を得ようとしているらしい。
そして、今回売られた先が俺の家だったというわけだ。
父と兄は、飽きるほどに遊んだからお前にやると言って部屋を出ていった。
俺は、情けなくて、吐き気がして、悲しくて、腹が立って、滅茶苦茶な感情が脳を焼く。
ソゥラは虚ろな蒼い目で俺を映す。そして、にこりと笑った。
彼女はかすれた声で、泣かないでと囁いた。
俺は自分に流れる腐った貴族の血に眩暈がした。その穢され切った状態で浮かべた笑みに、俺の肉体は欲情したのだ。
激しくソゥラを抱いた。苛立ちも、悲しさも、全てを彼女にぶつけた。
そして、彼女を俺の手で穢した後、部屋に戻り気が付いた。彼女はこれからも穢されるのだろう。
そこに女性の尊厳などなく、人権などなく、ただ親の地位のために俺以外の男に抱かれ続けるのだろう。
そんなのは嫌だ。
彼女は俺が愛する相手だ。そんな彼女をこれ以上穢されてなる物か。
俺は決めた。
ソゥラを殺してあげようと。人間である時に、穢される肉人形で無い時に。
さらに数日後の事、ソゥラは王城にいた。あの時と同じく、儚げに庭の花を見ていた。
俺は彼女に声をかけ、振り向いたソゥラを抱きしめた。
ソゥラはびっくりした表情をしたが、すぐに抱きしめ返してくれた。
俺は、そのまま愛を囁き。
バルコニーからソゥラを抱きしめたまま身を投げた。
彼女は俺の物だ。彼女は俺と一緒に死ぬべきだ。そんな独占欲を心で燃やしてしまったあたり、俺も腐った貴族の血を引いているのだろう。
だがこれでいい。ソゥラはもう穢されることはなく。
俺はもう貴族であることに苦しまなくて済むのだから。
野の花に包まれながら、俺とソゥラの身は、庭に鮮血の花を咲かせた。
これ以上、お互いに苦しまなくて済むよ。それが最後の思考だった。