バルバルサン短編集   作:バルバルさん

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晴天の下、向日葵が咲き誇っている。
今も、昔もこの畑には咲き誇っている。
その畑を管理するのは。二組の家族。
そんな彼らが世話をする向日葵の香りが、一人の男を引き寄せた。
その男と関わるのは二人の少女。
彼らは、向日葵畑で出会う……


向日葵はただ咲き誇っていた

 これは、ある夏の日差しが眩しいとある月の事。

 

 晴天の下の向日葵畑にて、その世話をする二人の少女とその家族たちがいた。

 

 オーバーオールに身を包み、麦わら帽子をかぶった少女、年は13から14歳といったところか。

 

 畑と畑の間の道を、向日葵が倒れないように使う支柱用の棒を持って、鼻歌など歌いながら歩いている。

 

 右の畑には、彼女の兄である青年と父である壮年の男。

 

 左の畑には、別の壮年の男性と彼の娘であるもう一人の少女が一人。

 

 この二つの畑は、彼女の家と彼らの家が管理している。向日葵の成長について競い合ってはいるが仲は悪くない。そんな関係。

 

「父さん。持ってきたよ」

「ああ。ありがとう」

 

 父に棒を手渡し、父はそれと紐を使って、もうすぐ咲きそうな向日葵が倒れないようにする。

 

 すると兄が彼女に話しかけてきた。

 

「遥。水筒に水分を補給してきてくれないか。もう俺はへとへとで」

「もう、兄さんったらだらしないよ。隣の優香を見てよ。しっかりお父さんの手伝いしているよ」

 

 どうやら兄のほうは体力仕事が苦手らしい。ヒィヒィ言いながら父親の手伝いをしている。

 

 それを呆れたような目で見つつも、遥は水筒を手渡され、ため息を軽く吐き家へと戻っていく。

 

 夏になると見られる景色。オーバーオールの少女が兄と父の世話をする。そんな景色。

 

 夏本番になると、この二つの畑には向日葵が輝くように咲く。それを見るのが遥にとって、夏になってよかったと思える時間の一つだった。

 

 

 今日も遥はお気に入りのオーバーオールを着る。今日はスイカを切って縁側で食べるのだ。確かにクーラーのきいた室内も良い。良いのだが、夏なら暑い中で冷たいスイカを齧るのもいいという父親の意見から、暑い縁側でスイカを食べる。

 

 兄のほうはとてもいやそうな表情だったが、遥のほうは乗り気の様だ。

 

 スイカを母に切ってもらい、父と兄の待つ縁側へと持って行く。

 

 その時だ。縁側に出ると、玄関のほうに一人の男性が立っている。

 

 見た目は二十代くらいか。無精ひげに、見たこともない服装をしている。なにやら悲し気なまなざしを感じる。

 

 だが不思議なことに、瞬きを数回すると遥の目から彼は消えてしまった。

 

 しかもスイカを心待ちにしていた兄や父は、その怪しい人に気が付いていなかったようだ。

 

 夏の暑さが見せた蜃気楼か見間違えだろうか?

 

 と思いつつ、二人にスイカを差し出して自身もスイカを齧る遥。

 

 もうすぐ向日葵は本番の咲き具合になる。それを楽しみにしながら過ごす時間。それはもどかしくもあり、待ち遠しくもあった。

 

 そんあ次の日の事だ。優香の家に遊びに、というか一緒に夏休みの宿題をやるためにお邪魔した時の事である。優香は思い出したように言う。

 

「そういやさ、遥。昨日なんだけど」

「昨日? 何かあったの」

「うん。家の前に怪しい男の人がいたんだ」

「えぇ?」

 

 優香の話を聞くに、どうやら昨日見た男性と同じ男性が優香の家の前にも来ていたらしい。

 

 遥は驚きつつも、自分も同じ人を見たというと優香も驚く。

 

 誰だったんだろうね、怖いね。そう話しながら宿題を進める。

 

 そんな中、社会科の教科書。その中に驚くような写真が載っていた。

 

 あの男性が着ていた服が載っていたのだ。それは旧日本軍の飛行士の服。

 

 遥も優香も声を上げて驚いてしまうが、一体これはどういうことなんだろうか?

 

 二人で首を傾げつつも、お互い気をつけようね。なんて言い合って、その日は遥は帰るのであった。

 

 

 向日葵は、あと一日ほどで本番の咲き具合になりそうだ。今日も太陽は眩しい。

 

 そんな向日葵畑の小道を遥は歩いている。いつものオーバーオールを着てはいるが、麦わら帽子をかぶっておらず、フラフラと、おぼつかない足取りで歩いている。

 

 それを見つけたのは優香だった。家を出たら、何かがおかしい遥が向日葵畑のほうに歩いて行っていたのだ。

 

 どうしたのだろうと追いかけていく。すると向かう先は、遥が好きと言ってやまない向日葵畑。

 

 いつもの遥だろうか。いや、やはり何かがおかしい。

 

 そう思い、遥に駆け寄って声をかける優香。返事はない。もう一度声をかけるが、やはり返事はない。

 

 前に回って遥の顔を見れば、目の焦点があっておらず、何かに操られているかのような雰囲気。

 

「遥! どうしたの、遥ったら!」

 

 そう語りかけるが、やはり返事はなく、向日葵畑の小道を進んでいく。その先にいたのは。

 

「っぁ、あ、なたは」

 

 そこにいたのは、飛行士の服装をした男性だった。よくよく見ればこの男性、肌が色白く、生気というものが希薄な気がする。そして、何より足の先が透明なのだ。

 

 ぞくり、と優香の背筋に冷たいものが走る。この人は生きていない。

 

 再び遥に声をかけるが、彼に近づいていき反応は無い。手を握って引っ張るが振りほどかれる。

 

 ならば、と大きな声を上げて父や彼女の兄に知らせようとするが、声がいつの間にか出なくなっていた。

 

 そしてついに、遥は彼の前に立つ。

 

 彼女を無言で見やる飛行士服の男。そして、悲しげに一言。

 

「やはり、違うか」

 

 そう言って後ろに下がっていく。

 

 すると遥は倒れる。慌て抱き起して男を睨む優香。

 

「命に別状はない、安心しろ。と言っても、信じられんよな」

「当たり前じゃない。なんで遥を」

「俺には、妹がいた。ちょうど、君たちくらいの」

「っえ」

 

 そう言うと、彼は太陽のほうを見やる。

 

「逝く前に妹に一目会いたかったんだが。どうやらそれは叶わぬらしい」

「どういう事、あなたは?」

「俺は特攻隊の飛行士だ。海上で命を散らしたんだが、現世に、妹への未練が強くありすぎたらしい。気が付けば、海の底で俺の死体のそばにいた」

 

 その話をじっと聞く優香。なんというか、荒唐無稽だが。そんなことは言えない。そんな凄味が彼にはあった。

 

「家に帰り、妹に会おうと思った。死後の世界に行く前に。だが、海の底からここまで戻るのはとても大変だった。唯一、向日葵の香りが、俺に家の方角を示してくれた」

 

 だんだんと男は消えていく。それに気が付いた優香だったが何も言えなかった。

 

「だが時間が経ちすぎたんだな。もう俺の家族以外の人たちが、俺の家で過ごしていた」

 

 その一言が悲し気に響く。

 

「君たちは、この畑のひまわりは好きか」

「はい。好きです。遥も、大好きだと言ってます」

「そうか。なら、いい」

 

 そう言って、飛行士の男は完全に消えた。

 

 その後には、呆然と座り込む優香と、ぼんやりと目を開けた遥。そして向日葵が残った。

 

 

 その後の事だ。遥と優香は、父親たちにこの畑を、自分たちより前に管理していた人について聞いた。

 

 その人は女手一つでこの畑で向日葵を育てていたらしい。だが、高齢化には勝てず、悩んでいたところに自分たちが移住してきたらしい。

 

 そして自分たちが移住するとき、一つ条件を出されたという。それが向日葵畑を維持させること。

 

 いつか、自分の兄が戻ってきたときに、自分も家も何も残ってないだろうけど。一つでも昔からあったものが残っていてほしいからと言っていたという。

 

 

 その話を聞いた二人。彼女らは何を感じ、何を思ったのだろうか。

 それを知るのは、向日葵たちだけであるが。

 今日も、遥はオーバーオールを着て、向日葵畑を歩く。

 その周囲の向日葵は全力で咲き誇っていた。

 全力で、咲き誇っていた。

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