このヘラヘラ騎士の寄り道にも祝福を!   作:名無しのガーディアン

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今回は比較的早く仕上がりました(日曜昼)
スレイヤーズコラボが来ましたね……コラボ自体は若干世代とズレるんで思い入れはあまりないんですが姫様と騎士ちゃんの過去に関して割と重要な内容になるという噂を聞いてワクワクしてます

あと、なんかガデテルのファンアート動画見てたら姫様がウィンドウブレイカー片手にあちこち走り回ってるゲーム画面を見かけたのですがひょっとして後々10〜11章悪夢で騎士ちゃん不在期間を舞台にした姫様視点のお話があったり……?
……がっつりその辺の時間軸も書いてく予定ですが、もしおかしなところあっても目をつぶって下さい


Chapter-02
02-1 :女騎士、異世界で装備を整える


「――ふっ、やっ、ええぃっ!」

 

 陽に照り返す銀の閃きが、気合の声とともに風を切る。

 武器屋の側にある広場で何度も確かめるように真新しい剣を振るい、やがてディアンは満足したようにその刃を鞘へと納めた。

 

「……うんっ、特別な力とかは篭ってないけど、なかなか手に馴染むいい剣だねぇ。ひとまずはこれで頑張れそう!」

 

 そう言って彼女は鞘を細い指先で撫で付けながら破顔する。

 

「いくら思い出深いつっても、あの剣ボロボロだったもんなあ」

 

 麻のシャツの上から緑のケープを羽織りすっかりと冒険者らしい装いとなったカズマはその剣さばきに軽い拍手を送る。

 

「ふふ、カズマくんもなかなか似合ってるんじゃない? みんなも装備新調したみたいだし、気分も新たにって感じだねー」

「めぐみんはちょっと行き過ぎてたけどな……」

 

 キャベツ収穫の報酬を得た彼らは、各々装備を整えたりと自己への投資を行っていた。

 マナタイトを使用した高価な杖を購入しためぐみんがひと目もはばからずその杖に頬ずりどころか全身を擦り付けてくねくねとしている姿を見たカズマは深くため息をついた。

 

「それよりもまあ、アクアだわな。しゃあねぇからツケの支払いは肩代わりしたが、きっちりその分働いて返してもらわないと」

「まさか、アクアさんが捕まえたのがほぼレタスだったなんてね……」

 

 公衆の面前で恥も外聞もなく泣きわめき、ルナへとすがりつくアクアの姿を思い出してディアンは苦笑する。

 冒険者たちがキャベツバブルに湧く中、群れに紛れ込んだ単価の低いレタスばかりを捕獲したアクアは得られる報酬が想定を大幅に下回り……豪遊した彼女は一人だけ借金まで負っていた。

 

「最初は山分けを予定してたのに、欲張って『報酬は個別で貰った分にするわよ!』なーんて言い出したアイツが悪い。ディアンもあんま甘やかすなよ? つけあがるから」

「あはは、厳しいなあ。まあ、私も剣と弓を買うのにだいぶんお金使っちゃったからあんまり余裕はないんだけどね――」

 

「――いましたっ、カズマにディア! 新しい装備を試すため討伐クエストを受けようじゃないですか!!!」

「……ほーら、騒がしいのが来たぞ」

 

 そんな二人の元に、真新しい杖を握りしめて鼻息を荒くしためぐみんが足取りも軽くやってくる。その後ろには未だにしょぼくれているアクアと、報酬で鎧を綺麗に補修したダクネスも立っていた。

 

「たくさんの雑魚モンスターを薙ぎ払えるようなクエストを受けましょう! 新調した杖の力を皆さんにも見せて差し上げます!」

 

 杖に頬ずりをしながら、目を爛々と輝かせためぐみんが言う。

 

「いいや、気持ちの良い一撃を放つ凄く強いモンスターにしよう!」

「いーえっ、討伐に拘らずお金になるクエストをやりましょう! 今の私はスッカラカンなの、今日の夕飯すら危ういのっ!」

 

 頬を紅潮させたダクネスと、涙目で訴えるアクアの姿にカズマは大きくため息をついた。あまりにも要望がバラバラすぎた。

 

「……じゃ、街の近くで増えてきたジャイアントトードの討伐にするか。デカくて一撃も重たいし、群れてるし、肉も売れるから多少報酬に色も――」

 

「「カエルはやめましょう!!!」」

 

 そんなカズマの提案にアクアとめぐみんはさっと顔色を変え、彼の言葉を遮って否を突き付けた。

 

「うん? 何故カエルは駄目なんだ? 皆の要望を概ね満たしていると思うのだが……」

「二人ともカエルにいい思い出が無いみたいだからねぇ、私もちょっと苦手かなあ……まあ、やるってなら戦うよ?」

 

 首をかしげるダクネスに、ディアンは頬を掻きながら苦笑する。

 

「こいつら二人は頭からぱっくり飲み込まれて、粘液でヌメヌメにされたからなぁ。まあ、トラウマになる気持ちも――」

「丸呑みでヌメヌメ……ッ! なんという……ッ!」

 

 そんなカズマの説明に目を輝かせ食い気味気味で叫ぶダクネスに、彼はじとっと白い目を向けた。

 

 

 

「あれぇ!? なんだこれ、こないだまであんなに張り出してたのに依頼がほとんどないじゃないか」

 

 依頼書が貼り付けられた掲示板を見たカズマは思わず瞠目する。

 僅かに残った依頼に目を通して見れば、高難易度故に塩漬けにされがちなクエストのみとなっていた。

 

「カズマこれにしようっ! 頭部から血のように赤い毛の生えた、特異個体の巨大熊! 多数の手下も従えていて、賞金総額もかなり凄い事になっているぞ!! 皆の要望通りだ!!!」

 

 その一つに目をつけたダクネスが喜色を帯びた声を上げる。

 強力な個体を頭に据えた群れを成す熊の高額賞金クエストと、確かに全員の希望が叶うものとなっていた。命の危険を顧みなければ。

 

「アホか死ぬわ! 却下だ却下!!! ルナさーん、なんかこうちょうどいいクエストとかないんですかねー!?」

 

 慌てたカズマが受付に立つルナへ声をかけると、彼女は困った顔をして一行へ歩み寄ってきた。

 

「申し訳ありませんが、今出ているクエストはそれらだけとなります……実は、魔王軍幹部とみられる者が街の近くに根城を構えまして。弱いモンスターは次々と姿を隠してしまい、手頃な仕事を用意できないんです」

 

 申し訳なさそうに説明する彼女の言葉に、一同は顔を見合わせた。

 

 

 虫の音が響く夜の馬小屋に、ランタンの明かりが揺れる。

 

「ぐぬぬ……幹部だかなんだか知らないけど、アンデッドや悪魔なら覚悟しておきなさいよ! この女神が直々に浄化してあげるわ!」

 

 怒りのオーラを身に纏いながらも、アクアは器用な手つきで造花作りの内職に励む。

 布の花弁を指で伸ばし形を整えては明かりへとかざして確認し、手早く箱へと詰めてゆく。

 

「……王都の討伐隊や高レベル冒険者が来るまで、まともな討伐依頼は出ない、か。幸いにもキャベツで潤ってるから持ちはするか」

「持たない人も居るのよ!? もう、最悪ったらない――あ、見てみてこのお花、会心の出来じゃない? さすがは私!」

「……悩みが無さそうで結構な事だ。――お」

 

 コロコロと機嫌が変わるアクアに呆れていたカズマは、遅れて公衆浴場から戻ってきたディアンの姿に気がついた。

 

「ただいまっ! ふぃー、気持ちよかったー」

「あ、おかえりなさーい」「お疲れさん。依頼の方はどうだった?」

 

 藁に毛布を敷き、よいしょと腰を下ろしたディアンにアクアとカズマが声をかける。彼女は湿り気を帯びた長い金髪を(くしけず)りながら湯上がりで上気した頬を緩めた。

 

「うん、即席パーティでもなんとかなったよ。でも盗賊スキル持ちなんだしカズマくんも参加すればよかったのにー」

「無理無理。万一戦闘になった時に足手まといになりかねないしなにより怖い。蓄えもあるし、俺はリスクは取らない派なの」

 

 そう言ってカズマは藁のベッドに横たわる。

 

 ディアンは現れた魔王幹部を調査する依頼を受けていた。

戦闘を回避するため、潜伏スキル等を持つ街の高レベル盗賊職で固められた調査隊に彼女も参加していたのだ。

 同じく潜伏スキルを持つカズマも参加資格はあったが、懐に余裕のある彼は参加を拒んでいた。

 

「……で、魔王軍幹部なのは間違いなさそうなのか?」

「うん、従えてるモンスターの質からしても間違いなさそうだって。今の所は街に興味がなさそうで、何かを調査してるみたい」

「調査かぁ、こんな駆け出しの街に何を調べに――」

 

 そこでカズマが口をつぐみ、ディアンは首を傾げる。

 

「ちょっと待てよ? もしかして……いやいや、そんな……」

「……? どうしたの?」

 

 アクアとディアンへ交互に視線を向け冷や汗を流すカズマに彼女が問うと、彼はびくりと肩を揺らして首を振る。

 

「いや! いやあ何でもない! うん、思い過ごしだわ! おいアクア、俺は先に寝るから程々にしておけよ、それじゃあおやすみ!」

「はーいおやすみ」「おやすみー?」

 

 内職に集中するアクアと不思議そうにするディアンを振り切るように、カズマは毛布を頭まで被って眠りについた。

 

 

 “手頃な依頼がない”という状況は、当然冒険者にとっては死活問題となる。しかし今回は幸運にもキャベツ収穫の直後、普段は宵越しの金を持たぬ冒険者ですら多少の蓄えがある状況での出来事だ。

 

 故に彼らは浪費を控えて当面を凌ぐ決断をした。

 ダクネスは実家へと戻りトレーニングに精を出し、ディアンは他の冒険者たちと交流を深め、スキルを教わってまわっていた。

 大半の冒険者が多少の余裕を持っているこの状況下だが、何事にも例外はある。つまりはアクアだった。

 

 彼女は再びアルバイト漬けの日々へと戻っていた。昼は商店や工事現場などでその愛嬌や器用さを活用し、日が落ちては馬小屋で内職に励む日々を送っている。

 

 そして懐に余裕があるカズマとめぐみんと言えば――。

 

「――紅き黒炎、万界の王。天地の法を敷衍(ふえん)すれど、我は万象昇温の理。崩壊破壊の別名なり。永劫の鉄槌は我がもとに下れ……!」

 

 詠唱が進むにつれ、めぐみんの周囲に渦巻く魔力が真新しい杖の先端へと収束してゆく。そして――。

 

「エクスプロージョンッ!!!」

 

 杖先から(ほとばし)る破壊の奔流(ほんりゅう)は、抜けるような青空を切り裂いて遥か遠くにそびえ立つ巨大な廃城へと直撃し、爆炎と衝撃波を盛大に撒き散らした。

 

「――はぅっ」

 

 ぱたり。なんとも満足げな表情を浮かべ、魔力の尽きためぐみんがその場に倒れ付す。

 その横で、カズマは炎を上げる城を眺め口を開いた。

 

「85点。音、衝撃波、上がる炎のどれも過去最高の物には届いていないものの全体的にハイレベル。ナイス爆裂!」

「ふふ、次こそは満点をとってやりましょう……!」

 

 起き上がれぬままに親指を立て不敵に笑うめぐみんをカズマが抱き起こし、背中へおぶって立ち上がる。

 

 ――そう、これこそが仕事もなく暇を持て余した彼らの新しい日課。

 通称爆裂散歩、街から離れたこの廃城に爆裂魔法を打ち込むというなんとも傍迷惑な散歩であった。

 

 ――ガサガサッ。

 

「……っ!」「わっ!?」

 

 茂みを掻き分ける音が耳に入り、カズマは思わず飛び上がる。

 この日課は、魔王軍幹部に怯えた獣やモンスターの類が逃げ出して周辺一帯が安全地帯となっている事を前提としているのだ。

 

「カズマ、敵意感知には?」

「……反応はない。けど、こっちに気付いてないだとかで敵意を見せていなければ反応しないから油断はできねぇ」

 

 例えば、モンスターの不在に気を緩めている賊の類。相手がこちらに気づいていなければ、二人の不幸な遭遇戦は起こり得るのだ。

 

 彼はゆっくりとめぐみんを地面へ下ろし、冷や汗に濡れた手で腰の短剣へ触れた――次の瞬間、二つの人影が勢い良く現れ……カズマはそのうちの一人と目が合い、思わず脱力した。

 

「――あれっ、カズマくんとめぐみん?」

 

 おっとり刀で街道へと飛び出して来たのは二人の見知った顔――ディアンとクリスの二人組であった。

 

「いきなり出てくるからびっくりするわ、こんな所で何してんだ?」

「いやいや、君たちこそ何してたの? とんでもない爆発音が聞こえて何事かと思ったよ」

 

 困惑顔のクリスの問いに、カズマが無言で廃城を指し示す。

 二人はその指先へと視線を辿り、やがてその遥か先にある煙の立つ廃城の存在に気付く。

 

「「……………………」」

 

 それをしばし呆然と見つめていた二人のうち、クリスの表情がじわりじわりと青ざめてゆく。

 そんな反応にカズマが困惑していると、ディアンが剣を納めながら口を開いた。

 

「ありゃりゃ……流石に二人でカチコミは厳しくない?」

「は? カチコミ?」

 

 いきなり飛び出してきた物騒な単語に、彼は目を丸くする。

 

「魔王軍幹部にカチコミかけるならアクアさんとダクネスも呼んできた方がいいと思うな。めぐみんの爆裂魔法も使っちゃった訳だし」

 

「「………………えっ」」

 

 出てきたのが知り合いと分かり魔力不足による倦怠感に身を委ねていためぐみんすら、ディアンの提案に驚きの声を上げた。

 

 


 

 

「うーん、ここには無いかぁ……」

 

 草むらの中から抜け出して、ハンカチでおでこの汗を拭く。その時、足元からじゃらっと音が聞こえて思わず下を向いた。

 

「あっ!」

 

 ポケットからハンカチを取り出す時に落ちた袋を、私は慌てて拾う。口が開いた巾着の中身を取り出して……いち、に、さん……よかった、中身は飛び出してないみたい。

 ほっとした私は、大きなため息をついた。

 

『わあっ、ありがとうございます! キレイな石ですねぇ』

 

 おひさまを浴びて手のひらの中でキラキラと光る石を見て思い出すのは、ディアの笑った顔。いつも私を助けてくれる、大事な人。

 初めてこの石をあげたのは、いつだったかな……?

 

 たしか、浮遊城に住むようになって、ディアと一緒に探検してる時に道端で拾ったのが最初だったと思う。

 青くて、透き通ってて、とってもキレイな石。あんまりキレイだから、ディアに「どうぞ」ってあげたら、すっごく喜んでくれた。

 

 『家宝にしますね!』って言ってくれてすごく嬉しくなった私は、お散歩に出るたびにこのキレイな石を探すようになったんだ。

 たくさん集めて、帰ってきたディアをびっくりさせるんだ。

 

「……だから、早く帰って来てよぉ」

 

 フタをしていた悲しさが急にあふれ出して、じわりと風景が揺らめいた。ディアは今どこで何をしているんだろう。怪我はしてないかな? お腹は空かせてないかな? ――無事でいるのかな。

 

 油断してると、そんなことばかりが頭の中をぐるぐると回る。

 

「クゥン……」

 

 そんな時、うずくまってる私の肩には決まってずっしりとしたもふもふがやってくる。私はそのもふもふに顔をうずめて、ざわつく心が落ち着くまでの間その暖かさに包まれる。

 

「うん、もう大丈夫……ありがとうシロちゃん」

「ワフ」

 

 ゆっくりと顔を離すと、心配そうなシロちゃんの顔が視界いっぱいに広がった。その大きな頭をなでなでしてありがとうを伝える。

 

 ……私がめそめそしてたら、みんな心配するから。ディアが帰ってくるまで、私がしっかりしなきゃだから。

 

「……よおし、お昼ご飯たべよっか?」

「ワンッ!」

 

 

 浮遊城は下から見上げたら小さく見えるけど、歩き回ってみるとすごく広い。

 私の足だと、周りを一周するだけでヘトヘトになるくらい。

 

 石の大きな階段で渡った川を下ったところから見えるおっきな水晶は、ちょっと遠いけど私のお気に入り。おひさまが水晶に差し込むと、きらきらしてとってもキレイなんだ。

 

 ココは「何かすんごいのが封印されてるみたいだから危ないかも」なんて言ってたけど、ずっと封印されてるなら大丈夫じゃないかな?

 

 水晶がよく見える川のほとりの原っぱにシートを敷いて、その上にカバンの中身を開ける。お弁当と、シロちゃんのごはん。

 ロレインが作ってくれるお弁当はとっても美味しい。

 

「あ、今日はサンドイッチだ。……これならピーマンは入ってないよね?」

 

 包を開けて少しホッとする。キライだから入れないで、って言ってるのにロレインはいつもピーマンを入れるの……ディアが居たら、食べてくれるんだけどなぁ。

 ……もちろん、入ってても捨てたりしないよ、私はいい子だから、ちゃんと飲み込むもん。

 

「ハイ、シロちゃんはこっちね?」

「ワッ!」

 

 シロちゃん用のごはんの包みを開けて差し出すと、シロちゃんは待ってましたとばかりにがっつく。

 その姿はとってもかわいいんだけど、今はなでなでしちゃいけない。ごはん中のシロちゃんはとってもワイルドだからね。

 

 シロちゃんが食べる姿を眺めながら、私はサンドイッチを手に取る。……たまごサンドだ。

 ロレインのたまごサンドはトロっとしててとってもおいしい。

 ディアつくるたまごサンドはゆで卵を豪快に切って挟んだ食べ応えのあるやつだけど、ロレインのはスクランブルエッグみたいにふわふわで柔らかい。どっちも好き。

 

 腹ぺこな私は大きく口をあけてぱっくりとかぶりつく。エヴァが居たら「はしたないですよ」って言われちゃうかもしれないけど、今はシロちゃんしかいないからね。

 

「……んむっ!?」

 

 もぐもぐしてると、なんだか食感がへん……たまごサンドなのになんだかザクザクしてる。

 視線を手もとに落として見ると……かじったサンドイッチから緑色の何かがコンニチハ。

 

「た、たまごサンドなのにピーマンが入ってる……」

 

 ゆ、油断してた……。

 細かく刻んだピーマンを和えた卵を真ん中に隠すなんて、ロレインはイジワルだ。おいしいのが逆にくやしい。

 フクザツな気分でサンドイッチを完食すると、お弁当にもう一つ小さな包みが付いている事に気付く。開けてみると……。

 

「……わあ、プリンだ」

 

 封をされた瓶の中には白いプリンがぷるんと揺れている。

ロレインはお弁当にもときどきデザートを入れてくれるけど、中でもプリンはとくべつにおいしい。

 ロレインの作るなめらかとろとろのプリンにはカラメルは入ってない。カラメルってほんのり苦くて実はあんまり好きじゃないんだけど、ロレインもおなじなんだって。だから浮遊城のプリンはカラメルは後入れタイプ。

 ディアはいつもひたひたになるくらい入れてたなぁ。

 

「いただきま――」

《むっ、そ、それはプリンではないか!! 美味そうじゃのう……》

 

「……んえっ!? わっ、わ!」

 

 いきなり頭の中に響いた声に、思わずプリンを落としそうになる。

 びっくりしてあわてて周囲をぐるっと見る……けど、周りにはご飯を食べ終わって日向ぼっこをしてるシロちゃんしかいない。

 

「だ、誰か居るの……?」

 

 もしかして、お、オバケ? う、ううん、こんなおひさまが出てる昼間にオバケなんて出るハズがないよね!? そらみみ――。

 

《……おお! ぬし、もしやわしの声が聞こえるのか!?》

「また喋ったーっ!? だ、だれですか……?」

 

 また聞こえてきた女の人の声に思わず悲鳴をあげると、びっくりしたシロちゃんが顔を上げる。

 シロちゃんもキョロキョロと辺りを見回してるけど、何も見つけられないみたいで首をかしげた。

 

《ふふ、驚かして申し訳ない。童よ、わしは目の前にいるぞ》

「め、目の前……?」

 

 私は正面を探すけど……それらしい人影は見当たらない。

 

《ええい、まどろっこしいのう。目の前に封印されておろう、その水晶の中心にいるのがわしじゃ!》

 

 そう言われて、私は水晶に視線を向ける。おひさまを浴びてきらきらと光るそれの中心にはたしかに人影がある。水晶が邪魔で、よく見えないんだけど……。

「もしかして……あなたが『封印されてる何かすんごいの』?」

《ふふん、いかにもじゃ! わしこそ、偉大なるプリ――》

 

 おそるおそる聞いてみたらその声は自慢げに何かを言いかけて、何故か途中で言葉を途切れさせる。

 

「……プリ?」

《……そ、そう、プリンの女神様じゃ! ぬしのプリンを見て反応したのはそれ故である! ……本当じゃよ?》

 

 私が首をかしげていると、その声はそう言った。なんかあやしい。

 

「プリンの、女神さま?」

《そう、わしはプリンを司る女神と言うことにしておこう。……オホン、わしはこんな所に封印されてしまった故、かれこれ500年ほどプリンを食べておらんのじゃ……》

 

 女神さまは、悲しそうにそう言う。

 神様になるくらいの大好物を500年も食べられないなんて、かわいそうだと思った。

 

《……のう、童よ。ぬしさえ良ければそのプリン、このわしに譲ってはくれぬか?》

 

 私は視線を手もとに落とす。瓶に入った白いプリンが、プルプルとゆれている。

 

《ぜ、全部とは言わぬ! 半分、いや一口だけでもよい……!》

 

 ロレインのプリンはゼッピンだ。くちあたりなめらかでとってもクリーミー、とろけるような食感の……ゴクジョウのおやつ。

 

《たのむ、後生じゃ……! この機を逃せば次は一体いつになるやらわからぬ――》

「いいよ」

 

 でも、そんなプリンも、最近はそこまでおいしく感じない。ロレインが料理に失敗するワケないんだけどなぁ。

 ……だからまあ、いいや。

 

《ほ、本当か……!?》

「うん、あげる。でもどうやって食べるの?」

 

 あげようにも、女神さまは水晶の中。封印されてるらしいから、出てこられないだろうし……。

 

《うむ! 天に掲げるがよい、その至高の甘味を――そして一言心の中で唱えよ、“捧げる”と。さすればこのわしが封印から解き放たれたあかつきには、特別にぬしの望みに協力してやろう!》

 

「望み……本当に……?」

 

 嬉しそうな女神さまの言葉に、私は思わず聞き返してしまう。

 

《神は約束を違えぬ。……とはいえ、わしの力の及ぶ範囲でという但し書きは付くがのぅ、それに封印を破る方法も見つけねばならぬし》

「………………」

 

 もし。もし、女神さまの封印を解く事ができたなら、ディアやお姉ちゃんを探してもらえるかもしれない。

 神さまだもん、きっと出来るよね?

 

「――このプリンを、女神さまにささげます」

 

 言われたとおり瓶を高くかかげてそう呟くと、私の手の中からプリンが跡形もなく消えた。

 しばらくすると、女神さまが大きく息を吐くのが聞こえてくる。

 

《ふぉぉおおおお……っ! この味、この食感……ッ! まさしくわしが500年求めてやまなかったものじゃ……!! カラメルソースがないのは少々残念じゃが、このプリンはまさに絶品! プリン絶ちしていたのもあるが、わしの長い生の中で間違いなく最高に美味なプリンであった……!! うむ、童よ褒めてつかわすぞ!》

 

 ……よかった、なんだかとっても満足してもらえたみたい。

 

《して、童よ。ぬしには何か願いはあるか? わしの封印が解除されてからとなる故、気が早いと言えばそうではあるが、このプリト――プリンの女神の力の及ぶ範囲で手助けすることを約束しよう》

 

 女神さまの言葉に、私は口の中がカラカラになるのがわかった。

 神さまの力なら、きっと。ディアも、お姉ちゃんも……!

 

《なに、わしは神じゃ! 特に剣の腕には――》

「探してほしい人が居るの」

 

《覚えが、あ、る……が、人探しかぁ……》

 

 私のお願いに、神さまの声は小さくなっていく。

 ……そうだ、仙人さまにもニガテなコトがあるんだから、神さまにだっておなじなのかも。そんなことも忘れて、浮かれちゃった。

 

「ダメ、ですか……?」

《……いいやっ、神に二言はないぞ! 確かにわしはそういった権能を持ってはおらんが、それでも手伝える事はあろう! 大船に乗った気持ちで封印が解ける日を待っておれ! はっはっは!》

 

 でも、神さまはそう言ってくれた。その気持ちが嬉しくて、私の心はちょっとだけ軽くなった気がした。




ロレイン「姫様? プリンの容器は……え、プリンの神さまが持っていった? 川の下の、水晶の……ハァ、あのお方は子供からおやつ巻き上げて何をしてらっしゃるんでしょうねぇ(呆れ)」


・特異個体の巨大熊
彼を斃すため、仲間を集めて旅する野犬がいるらしい……。

・チビ姫様
騎士ちゃん行方不明でちょっぴり不安定。
みんなの前では気丈に振る舞っているけど、一人でいると時々悲しみが押し寄せてくる。そんな時はすぐさまシロちゃんがモフらせてくれる。

・シロ(白き野獣)
騎士ちゃん不在中における姫様の騎士代行、可愛くて頼れるシロちゃん。種族名ガーディアンウルフは伊達じゃあない。
浮遊城内であっても姫様が一人で遠出するときは必ずくっついて護衛してくれる。ついでにアニマルセラピーもしてくれる。

プリン戦の女神プリトヴィツェ
傷心中の子供からおやつのプリンを巻き上げたり、安請け負いしてちょっと焦ったりとちょっと残念な女神さま。
自身の名前を名乗るのを躊躇する程度には自覚があるっぽい。
思念を飛ばせる程度に緩んだ封印が完全に解ける日は果たしてくるのかどうか。
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