七光りバカ御曹司と狂犬で駄犬な番犬メイド   作:胡椒こしょこしょ

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七光りって言うなッッッ!!!!

多くの人が集まる首都、ンガイシティ。

そこに長い歴史を持った学び舎がある。

 

『ビルゲンワース魔法学園』。

1000年以上の歴史を持ち、長い時代を掛けて多くの魔術師が魔術を究めることを目指す名門学校。

僕もこの学園の生徒の一人だ。

この前入学試験を済ませて、不安だったけどなんとか入学することが出来た。

 

まぁ?僕の家は長い歴史を持った魔術師の家系だから?

入学出来て当然なところはあるんだけど。

そんなことよりも!今直面している問題は!!

 

「僕が七光りだと....。」

 

僕の事を七光りだと呼ぶ奴が居るってことだ。

入学したばかりで、何故ここまで僕の仇名が広がっていくのか。

俺の中ではなぜ学年全体でこう呼ばれてるか二つ推測している。

 

一つ目は僕自身の威光がヤバヤバヤバのヤバで、一心に嫉妬を集めているっていうこと。

これは僕自身もこっちだと望ましいのだが(まぁ、僕は完璧だからこうなるのも仕方ないって割り切れるし?)、流石にこれはないと思えるほどの客観性は持ってるつもりだ。

入学して数週間で、ここまで名前が広がるにはまだこの学校における影響力は持ってないだろう。

 

生徒会長だっているし、なんなら各クラスには委員長が居るのだから愚民共の注目は分散されると考えられるからだ。

俺という伝説が始まったと言うのに、それに気づかないっていうのはなんともまぁ愚民らしいと言えば愚民らしいのでだろう。

 

だからこそ、俺からすれば確実に二つ目の要因なのではないかと結論づけているのだ。

二つ目、それは....。

 

「陰湿な真似しやがって...俺を七光りと呼ぶと広めたのはお前だろう?まったく...幼馴染だからって許されることと許されないことって物があるんだぞ?」

 

「は?」

 

目の前で顔を顰めてる銀髪の少女。

彼女の顔は嫌という程に見慣れた顔であった。

彼女はクレア・ハウンド。

幼い頃からの腐れ縁だ。

というか、腐れ縁っていうか僕の専属メイドだ。

彼女の家は代々僕の家系に仕えていた家系なのだ。

だが、こいつは僕に仕える使用人の分際でこともあろうに僕の事をこう呼ぶんだ。

 

「いや、私じゃないんですけど?そういう決めつけ辞めてくださいよ、普通にダルイんで。」

 

「いーや、そうじゃないとおかしいんだよ。なぜなら...俺の事を七光りって呼んでいたのは今までお前一人だったからだ!!」

 

そう彼女は僕の事を七光りと呼ぶのだ。

まぁ、本来は彼女は次女なので家業のメイドをやる必要はなかったのに家の都合でメイドやってるから何か思うことがあるのだろう。

本来は主に対してそんな不遜な真似は一般的に言えば許されないはずだけど、まぁそう言う背景とかもあるし、なんなら彼女がメイドになる前から僕らは幼馴染なのだから大目に見てやっているのだ。

ほら、僕って寛容で心が広いから?

 

「...そもそも、貴方の名前...言ってみてくださいよ。」

 

「ん?いいぜ、そこからどんな弁解に入るかお手並み拝見って所だな。全く馬鹿な奴だな....速くごめんなさいと言えば僕は優しいから許してやると言うの...」

 

「良いから。自画自賛に付き合わされる身にもなってくださいよ。」

 

む...なんだよ、最後まで話聞いてくれてもいいじゃん。

まっ、そんなに聞きたいなら聞かせてやろう!

お前が仕えている者が何者であるかを!!

 

「しかと聞くが良い!若き主の名を!!僕の名前はグリム=セブンライト!!セブンライト家の次期当主様だぜ☆」

 

「ほら、もう答え言ってるじゃない。そういうことですよ。仇名っていうのはその対象者の個人を呼びやすく、また一回聞いたら分かるように付けるもんなんですよ。」

 

....?

何を言ってるんだ?

まったくもってチンプンカンプンなんだけど....。

 

首を傾げる。

すると彼女はそんな俺を見て溜息を吐いた。

 

「はぁ...だからぁ!貴方の家名がセブンライトですよね?な・な・ひ・か・り。ほら、だから七光りって呼ばれてるんですよ。そんでもって坊ちゃんの貴方がそんな名前だからそんな仇名が付くんです。理解できました?...っていうか今まで分かんなかったのかよ...やっぱバカじゃん。

 

「ん?なんか言ったか?」

 

「べっつにぃー、何も言ってないですよ~。」

 

本当かなぁなんか言った気がしたけど...?

まぁ、それよりも確かに考えてみたらその線が強いな。

なるほどなるほど...いや、ということは...。

 

「てことは、お前も僕の事を七光りって呼ぶのはそういうこと?いや、でも使用人のお前がそう呼ぶのはおかしいし.....。」

 

「違いますよ。ただ単純にまだ貴方が親の威光に頼り切りのおんぶに抱っこで到底当主に相応しくないと私の中で結論が出てるからです。」

 

...びっくりした。

めちゃくちゃさらっとボロクソ言ってきたから。

耳おかしくなったのかと思ったわ。

いやいや、待て待て待て!

 

「お、おま....主に対してなんてこと言うんだ!そ、それに俺だってちゃんとやってる時はあるし!!」

 

「そうですね。だから偶にしか言ってないでしょ?いちいちうるさいなこの七光り....。

 

「今のは完全に聞こえたからなオイ!ちょっと流石に不敬すぎィ!!ぱ、パパンに言いつけたって良いんだぞ!い、嫌なら嫌って言ったら今なら許してやってもいいぞ!!」

 

僕がそういうと彼女は僕から視線を外した。

 

「別に...私が嫌ならそう言えば良いじゃないですか。清々しますよ、貴方のメイドを辞められるし。」

 

「な、なんでさっきからそんなひどいことばっか言うんだよぉ.....。パパンに言うわけないだろぉぉぉ、何年の付き合いだと思ってるんだよぅぉぉぉ。」

 

「うわっ、めんどくさ!」

 

あからさまに嫌そうな顔をするクレア。

クッソ―、いついかなる時も何を言われても動じないわけじゃないんだぞ!

こんな僕でもナイーブになる時だってあるんだからな!!

 

「はぁ...冗談ですよ。はいはい、こちらも言い過ぎでした。」

 

「だ、...だよなぁ!分かれば良いんだよ!分かれば!」

 

「...正論は人を傷つけるって言いますもんね。すいません、頭から抜けてました。」

 

「オイっ!!!!」

 

結局それも傷つけてんだよなぁ....。

ねぇ、悪態吐かないで会話しようよ。

いくら何でも僕拗ねるぞ?

拗ねると僕めんどいぞ?

 

「機嫌直してくださいよ、揶揄ってるだけでしょ?まったく...頭撫で....。」

 

「おー!七光りきゅんじゃん!七光りきゅーーん☆」

 

背後から声を掛けられる。

振り返ると、そこには一人の少女が手を挙げて駆け寄ってきていた。

これまた見知った顔だ。

いや、それよりもまずは言うべきことがある。

 

「だから七光りって言うなぁッ!!」

 

「あはは~ごめんごめんってぇ~。ほら、スマイルスマイル~♪」

 

「や、やめ...僕の口角を無理やり上げようとするな...!せめて魔法使ってあげようとして..笑顔(物理)やめて!」

 

俺の口元に両親指を押し当てて、無理やり口角を上げさせようとする少女。

明るいブロンドのTHE白ギャル風の少女。

こちらの口角を上げながらケラケラといかにもギャルですよ(偏見)って感じに軽く笑う。

 

彼女はミラ・ローレライ。

美術における魔術と芸術の時間において、唯一僕のことを描いた子である。

その時から偶に話すようになったのだ。

彼女は他の凡百の連中とは違って僕のことを描いていた。

つまりは確かな審美眼を持っているのだろう。

人は見た目に寄らないとはこのことだと強く思った。

 

「なぁーんでぇ~、ナナミン絶対笑った方がカワイイって!笑え笑え!ほ~らピスピス☆☆」

 

「ナナミン!!?」

 

な、なんだ....七光りがさらに短縮されたぞ....。

流石ギャル...でもいくら何でも不敬すぎ!!

 

「ぼ、僕のパパンは魔術省の省長なんだぞ!こんなの不敬だって思わないか!!」

 

「えぇ、まったくその通りです。その辺にしておいてもらいましょう。こんなのでも私の御主人です。これ以上の狼藉は見逃せません。」

 

「そうそう、その通り....こんなの?え、お前今僕の事こんなのって言った?え、我一応主ぞ?あるじ?わかる?ユアハイネスだよ?ちょっと扱いがひどすぎて僕びっくりしちゃった.....。」

 

なんだこの空間...失礼な奴しかいないじゃないか!

例え心の中で思ってても言うのは違うじゃん!!

悪戯に僕の心を傷つけてくるのやめてよ!

 

「あー...ハウンドさん居たんだ。どもども~お勤めご苦労様でぇ~す★」

 

「居て何か問題でも?」

 

「べっつにぃ~?何睨んで来てるの?怖いなぁ~★」

 

二人もどうやら知り合いのようだ。

一瞬、彼女の事をクレアに紹介した方が良いのかなって思ったけど、僕が絡まない所で知り合いなら必要ないだろう。

寧ろ、二人で積もる話とかもあるのかもしれないな。

 

時計を見れば、丁度約束の時刻が来ていた。

丁度いいタイミングだな、よし!

 

「それじゃ、僕ちょっと友達との約束に行かないといけないから。僕がお前に言いたかったことっていうのはさっきもう言いつくしたし。」

 

「友達....まぁ、構いませんが。その友達というのは....。」

 

「えぇぇっ~~~!そんなのよりウチと遊ばない?どーせ男の子でしょ?ウチとの方が楽しいってぇ!後でその子に一緒に説明してあげるから!ほら、いつだって男の子の絆を壊すのは女の子ってよく言うじゃん☆」

 

言っている意味はよく分からないが、要するに僕と遊ぼうとしていたってわけか。

ミラと学外で遊んだ記憶はないので、少し興味はあるが先約がある。

それにしてもなんで詳しく話を聞かずに男だと断定されてるんだろ?

....まぁ、いっか!そんなこと!!

 

「悪いけど、今日は無理だな。だって約束って守る為に結ぶものじゃん!」

 

「だよねー☆じゃ、楽しんで来てねー!どっか予定空けててよ~!」

 

「約束されないとどうともいえないなッ!その話はまた今度で!!クレアもまたな!!」

 

俺なりの誠意として正直な答えを述べて、そのまま走り出す。

時間に遅れると面倒だしな。

 

 

 

 

少年は二人の少女に背を向けたまま、走り去っていく。

そんな少年をクレアは無表情で見つめ、ミラは彼が見ていないにも関わらず手を振っていた。

そして彼が見えなくなったタイミングで、ミラはクレアと対峙する。

ヘラヘラと笑うと、手を合わせた。

 

「あっ、ごっめーん★なぁーんかウチばっかナナミンと話してて置いてけぼりにしちゃった?話とか振ってあげればよかったかなぁ?ハ・ウ・ン・ドさん♪なんかハウンドさんの言葉に私の言葉が被っちゃったりしたけどわざと被せたじゃないんだよぅ?ホントホント★」

 

「...別に構いません。どうせ家に帰る頃合いには彼と否応なしに話すことになりますから。」

 

「へ~?余裕って奴?流石メイドさんは主のことがよく分かってるんだね~!ホントソンケイシテマスー」

 

ニヤニヤと笑いながら棒読みでそう言葉を吐くミラ。

しかし、そんな彼女には目もくれずにクレアは一歩踏み出す。

 

「あれぇ?やっぱりついていくの?不安になっちゃった?強がらせちゃったかなぁ?」

 

「...あの方はアレでもやんごとなき身ではありますから。私の役目は彼を守ることです。危険からも、...家目当ての悪い虫からも。...ちょうど、貴方のように。」

 

「あ?なにそれ、わけわかんない★」

 

クレアはミラをジロリと睨みつける。

そんな彼女にミラは笑顔で応じる。

 

「分からないなら、分からないままで居てもらって構いません。その方が自分の望むことが叶わないという事実に気づかずに済むでしょう。」

 

「ハハ、八つ当たりやめてよ★メイドさんって可哀想だよねぇ....恋とかしちゃっても、叶わないもんねぇ~?体裁が悪いから。庶民の私にもそれくらい分かるよ?...あ!もしかして分からないままが良いって経験談?あちゃ~ウチ気づかず傷抉っちゃったぁ?」

 

挑発的にミラが言うも、クレアは変わらずに目もくれずに彼女を横を通り過ぎる。

そして足を一度だけ止める。

 

「...勘違いしないでください。私は彼の保護者です。それ以外でもそれ以上でもありません。」

 

「そう?よかったぁ~★メイドさんの鑑って奴ゥ?学生服脱いでメイド服着たらもう完璧じゃん!っま、なんか獣臭いのが玉に瑕って感じなんだけど。」

 

そう言葉を吐いた瞬間、クレアは振り返る。

その瞳には剣呑な光が宿っていた。

 

「...っ、二度と私の事を獣などと呼ぶな。まだ生きていたいなら。」

 

「こっわ。呼んでないじゃん、耳大丈夫ゥ?被害妄想?病院行った方が良いよ★」

 

クレアは表情を一瞬歪めながらも、表情が無表情に戻る。

そして歩みをまた始めた。

そんな彼女をミラは半笑いで見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

教室の前に掛かった『錬金生理魔術部』のプレート。

部屋の中は長机や流し台と共にフラスコなどの実験器具が並んでいる。

この部活は錬金術部と魔術生理学部の部員数が少ないことで合併したという過去を持っているらしく、器具も正直雑多な印象を受ける。

 

「っというわけだ。理解できたかねセブンライトくぅぅぅぅん!!!!!」

 

「....わかんないです....。」

 

僕の前に立って偉そうに胸を張ってバカでかい声発している桃色の髪をした少女。

彼女はモモカ・ラプラス。

二年生の先輩で、この部活の部長だ。

なんか面白い実験とかを入学説明会とかでやってて興味本位で話しかけたら案外面白い人だったのが始まりだったか。

 

ちなみに今僕は....部員でもないのにこの部室の中でなんか電気椅子みたいな椅子に座らされていた。

皮のベルトで足とか手とか縛られてる。

....あれ?なんでこうなった?

 

確か呼ばれたのはクッキーの糖度を砂糖を使わずに魔術で変えることが出来るかっていうのを検証する実験で、僕はクッキーを食べて感想を述べるのが仕事だと聞いていたんだけど。

部室に入った瞬間、後ろから何かを嗅がされて意識が飛んだらこの状態なんだけど。

 

「やれやれ....君という男は本当にしょうがないなぁセブンライトくぅん。じゃあもう一回説明するぞ。」

 

多分目の前の彼女の仕業だということは分かる。

でもさっき説明されてもまったく微塵も分からなかった。

多分次も分からない気がする。

 

「今日君をここに縛り付けたのは他でもない実験の為だよ。心理学と魔術の観点における重要な実権でね、魔術によって人の自信ややる気を引き出すことが出来ればそれは人類史上類を見ない発明になり得るはずだ!というわけで私は大して魔術の腕に長けてるわけでもない七光りであるにも関わらず何故か不可解にも自信に溢れた振舞いをしている君に目を付けたんだ。君のその根拠のない自信が湧いてくるメカニズムを解明することが出来れば研究は飛躍的に向上するかもしれない。誰もがどんな状態でも自信に溢れた世界、きっと素晴らしい世界になると思わないかい?私は暑苦しそうな世界になるからまったく思わないな。私は世界とかどうでもよくて金になりそうだなって思ってこの研究をやっているぞ!お金っていうのは貯めること自体が娯楽になり得るからね!ちなみに私は何にもない休みの日には日がな一日下着だけでゴロゴロしながら気が向いたら通帳の残高を眺めてニヤニヤすることが趣味だ。あ、今休みの日の私がベッドで寝転がっているヌードでも思い描いたな。この男の子めっ!メッ!だぞ。あっ、そうだ。もし研究が成功した暁にはスピーチの際にスペシャルサンクスとして君の名前を載せてあげよう。あと商業利用されることになった暁には売り上げの一割一分を君に分けてあげよう!人と人は助け合い。とても後輩思いの良い先輩だとは思わないかい?」

 

「あ..あ、え?...えっーと....えぇ.....?」

 

やばい。

早口な上にコロコロと話しの方向性が変わるせいで言っている意味が全然頭に入ってこない。

デカい声か早口じゃないとこの人は喋れないのだろうか?

僕は今、情報の氾濫に晒されている。

彼女は研究のことになると早口になる上に、そもそも話が二転三転と変わってしまう。

それが面白いと思っていたが、まさかこんなことになるなんて....。

 

「と、いうわけで!君にはこれをつけてもらうぞ。」

 

そう言って取り出すのはヘッドギア。

なんか見たこともない形してる。

....え、これ本当に大丈夫?

縛られるような実験のヘッドギアとかなんか嫌な予感しかしないんだけど。

 

「い、いやちょっと待って...そもそも拘束するの辞めてくださいよ....あの、本当にゆっくり喋ってもらわないと全然分からないし、そもそもそれ大丈夫な奴なんですか!?」

 

僕が尋ねるとまるで彼女は僕がなんでもないことを質問したかのようにあっけらかんとわらった。

 

「大丈夫大丈夫!君は私を信じてくれ!私も私を信じる!」

 

「ねぇっ!?それマジで大丈夫っっ!!!!?」

 

私も私を信じるとか自信ないんじゃないの!?

え、こわいこわいこわい.....。

 

怯える僕を尻目にてきぱきと僕の頭にヘッドギアを載せる。

 

「えーと、こことここを繋げてっと。」

 

な、なんか頭の上でバチバチ言い出したんだけど.....。

 

「ちょっ...やめっ、やめろぉぉぉぉ!!!ぼ、僕のパパンは魔術省の省長なんだぞ!も、もし失敗したらただでは済まない....。」

 

「失敗を恐れて成功が生まれるか!すべてはコラテラルダメージ!私の心に迷いはない!!」

 

先輩は端麗な容姿にはそぐわないようなぐふぐふとした陰気で不穏な笑みを見せていた。

頭上のバチバチはどんどん大きくなっていく。

だ、ダメだ....この人は関わるとヤバイタイプの人だった!!

 

「だ、ダメだ...この人、話が通じない!た、助けて誰かぁぁ!!助けて、助けてクレアァァァァアアアアア!!!」

 

生命の危機を肌にひしひしと感じると、いつの間にかクレアの名前を口走っていた。

僕がどこに行くかなんて言ってない。

来る可能性は明らかに低い。

 

そう思った矢先に、扉が凄い勢いで蹴破られた。

 

「グリム!!グリムッッッ!!!グリ.....。」

 

そこには白銀を思わせるような綺麗な銀髪の少女。

見慣れ過ぎて安心感を覚えるその相貌。

それは紛れもなくクレアだった。

 

クレアは息を切らして、焦燥感を露わにしていた。

昔....クレアがまだメイドでもなんでもないただの幼馴染だった時の呼び方のグリムで僕を呼んでいた。

あの頃以外であれば、誰も居ない二人きりの時にも出るか出ないかくらいの呼び方だった。

それだけで、彼女が平静さを欠いているということが僕には手に取るように分かったのだ。

 

正直、驚いたけど嬉しかった。

だって、そうだろ?

助けが来て、嬉しいと思わない人間は居ない。

それが求めた相手でそれでいて幼馴染であるのなら。

 

部屋に入って中を見るとクレアは動きをぴたりと止める。

縛られている僕に目を向けて、隣のモモカ先輩に視線を向ける。

 

「なんだ...君の知り合いかい?」

 

モモカ先輩は扉を蹴破って入ってきたクレアを見ても調子を崩さない。

すごい胆力だな.....。

普通は少しは取り乱すだろうに。

 

 

まぁ、そんなことはどうでもいい。

助けが来たんだ!助けが!!

この拘束を解いてもらおう!!

 

「クレア!助けて!!縛られててこれをほどい.....」

 

「なるほど....どなたが存じ上げませんが.......」

 

...えっ?む、無視?

そ、そんなことってある!?

お、お前何しに来たんだよ!!

 

困惑する僕をクレアは今まで僕が見たことないような険しい目つきで先輩を睨んだ。

 

「生まれてきたこと、後悔させてやる....。」

 

「へぇ....殺意?デスクワークでは味わえない迫力だぞ!これはとてもいい経験だ!!セブンライトくん!!レポートを取り給え!!!」

 

「いや縛られてるから無理だし、クレアも早く拘束を解いてほしいって僕は言ってて....オイ!何こんな狭い室内の中で魔術使おうとしてるのっ!?とんでもないことになるからやめて!!」

 

クレアの方を見る、目が爛々と光り出す。

足元には彼女の家の家紋が刻まれた魔法陣が動いている。

髪の中から二つ、犬が生える。

そしてスカートの下からは狼のように荒い毛並みの尻尾が生える。

 

彼女の家、ハウンド家の継承魔術である獣化魔術。

血統でしか伝わらない術式であり、ハウンド家は獣化術式の中でも運動性能に優れている狼への変化を用いる家系である。

 

そう、運動性能。

えーと...この部室は特段広いというわけではなく、普通の一般的な教室のサイズだ。

 

「グリムに...話しかけるな。」

 

「なぜだい?その理由がとても気になるねぇ!原稿用紙2枚程度に纏めてもらおうか!!」

 

「どいつもこいつも.....っ。」

 

二人は対峙している。

クレアは先輩を睨んでいるが、先輩はクレアに狂的な笑顔を見せている。

そんな先輩を見て、クレアは吐き捨てるようになんか言ってるし。

まずい雰囲気...。

 

「く、クレア?そのこのベルトちぎる為に魔術使ってくれたんだよな?な?あの、クレアさん?」

 

「大丈夫、大丈夫だよグリム。私が全部なんとかするから。」

 

なんとかするどころか、さらに滅茶苦茶にしそうな気がするのは僕の気のせいなのか?

ダメだ...クレアに僕の声が届いてない。

な、なんだこれは...ぼ、僕を助けるとかとは別の話になってないか....?

 

「へぇ...面白い。だったらここぞとばかりに別の実験に予定を変更だ。なぁに臨機応変はサイエンティストとしては当然のこと。題して『昨日思いつきで作った斥候ゴーレム3型の耐久テスト』!!」

 

モモカ先輩は依然変わらない様子。

なんだここは...どうして元々居たはずの僕が何も分からなくなってるんだ?

ぱ、パパンなら分かるのかな...これ?

 

「グルル..だったら、お前の身体で耐久テストとやらをやってやるよ....。」

 

「いいね!さぁ、実験を始めようか。」

 

クレアは獣化の影響でグルグル唸ってる。

そして先輩はどこから取り出したかの分からない試験管を地面にぶちまける。

液体は明らかに毒々しい煙を上げながらも机が人型に形を変えていく。

それと同時にクレアは一歩踏み出した。

 

 

その直後に宙を舞う実験道具たち。

彼らの末路は言わずもがな。

部屋の中はまるで現在進行形で竜巻が通過しているかのような様相。

 

...あの、僕は?

縛られてる僕はその竜巻の真ん中に縛られてるような状況。

最早呆然としたまま圧倒的なまでの二つの暴虐の二つの間で成すすべもなく蹂躙されていく木片たちを眺めていた。

これ、賠償....どうなるんだろ....。

 

 

その後、僕の家は錬金生理魔術部の修繕費及びに器具の調達費を払うことになった。

パパン....ごめんなさい。

 

....あれ、これ僕が悪いのかな...?




なんだこのメイド....周りが見えてないじゃないか....(唖然)
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