僕は敵に恋してる。 作:ヒドラ
この小説は少々刺激的な表現と数多のキャラ崩壊を含みます。
01.路地裏の邂逅。
個性とかいう異能が当たり前になったこの時代。世間では持て余した個性で犯罪活動に明け暮れる敵って犯罪者とそれを打倒するヒーローって職業が脚光を浴びていた。
今やテレビのニュースを開けばヒーローの活躍の報道はそう珍しいものでもなく、現にビルに貼り付けられた大きなモニターにはかっこいいコスチュームに身を包んだ男性が敵を倒す映像が流れてる。これがアニメじゃなくて現実だって言うんだからすごい話だよね。
……とはいえ、ヒーローは誰でもなれるわけではない。そして仮になれたとしても脚光を浴びるのはほんの一部。その大半は人知れずに埋もれていくだけの人気商売だ。にも関わらず数多の少年少女は憧れる。憧れは理解から最も遠い感情と言ったのは誰だったか。なまじ理解してるせいで僕は彼らに憧れるようなことはなかった。
にも関わらず先日僕は雄英高校。そのヒーロー科を受験してきた。なんで?って思うだろうから理由は話すけどさ。ちょっと長いから読むの疲れたら飛ばしてね。
僕、
その人……まぁ義理の親とでも言うべき人は僕に住む場所と生活、お金を与えてくれた。ただしその条件として、僕に『雄英高校ヒーロー科に合格しろ』と無茶振りしてきたのだ。
まぁ別にやりたい事とか無かったし、入学して順調に行けばプロヒーローになれるからね?何よりそれでお金とか貰えなくなるのが困るから、言われるがままに僕は雄英高校を受験したんだよ。うん思ったほど長くもなかったな。勿体ぶったのに薄っぺらい過去でごめんね。
で、結果はというと合格。筆記試験は受かったのが謎なほど訳分からなかったけどマークシートに救われたらしい。そして決め手になったのは実技試験。こっちの方はトップスコアを叩き出せた。そのおかげで筆記試験の大惨事がカバーされたものと思われる。送られてきたビデオレターでも『勉強頑張ろうな!!』って言われたし。善処したいね。
とはいえ雄英のヒーロー科に合格なんて、僕の長い人生の中でも三本指に入る程度の無茶難題だったから。合格が決まったこの日、僕は浮かれて夜に繁華街へと出歩いていた。ちょっとくらいご褒美あってもいいよねって。
よく行くバーガーショップで贅沢したりゲーセンで豪遊したり、そんな中学生らしいご褒美も悪くない。明日は中学休みだしカラオケに泊まってもいい。とにかく今まで受験に費やしていた時間分遊ぶぞって。そう一人で出歩いていたんだよ。
けど夜を照らす明かりの数々と人の喧騒に紛れ、僕はあるものにピタリと足を止めた。
(………血の臭い。それに刃物で肉を裂く音。)
気の所為と錯覚しそうなそれを知覚できたのは僕が一時期ろくでもない暮らしをしていたせいだろう。現に街の人々はそうした僅かな異常になど気付きもせず、ましてや時間が時間だからヒーローの影なんかも見当たらない。
だからこそ、僕はその嗅ぎ慣れた臭いの元へと路地裏の闇に紛れるようにして駆け出した。なんせ人助けとかいう善行は気持ちがいい。助けられた被害者の視線や崇拝……優越感に浸るための最高の薬だもの。ヒーローに憧れこそしないものの、そこだけは共感できる。だから困ってる人がいるなら助けてあげなくちゃ。
そんな安い正義感で僕は臭いを辿って路地裏にやって来たんだけどさ。残念なことに手遅れだったらしい。既にそこには全身刺傷塗れで真っ赤になった青年が壁に寄り掛かるようにして事切れていた。その様に僕は落胆の意を隠せずに大きくため息を吐く。わざわざ足を運んだのに無駄足だったかと。しかし次の瞬間にはその隣のものが嫌でも視界に入ってくる。
「………あれ?あなた誰ですか?もしかして見ちゃった??」
僕の視線と闇の中で輝くその金色の瞳が重なる。瞳とおなじ色の髪の毛にベージュのセーター。そしてミニスカート。歳の近い女の子だ。高校の制服っぽいから少し年上かな?けどそのチャーミングな笑顔に反して右手には血が滴るナイフを握りしめており、しかもそれを僕に隠すような真似もせずに笑みを深める。そうした隠し切れないほどの狂気に、僕は思わず彼女に歩み寄った。
「へぇ。君……ナイフ好きなんだねぇ。僕とお揃いだ。」
「………えっ。」
「そこの男の人は誰かな?……あっ、怖がらないで?別に君がやったってバラす気は無いからねぇ。」
困ってる人なら助けてあげるつもりだったけど、死んじゃったらもう助けようがないからね。それに死体と女の子、二つが並んでたら男は誰だって女の子を優先するだろう。ましてやそれが可愛いかもしれない子なら尚更だ。ゲイの
だから僕は僕に呆然とする彼女に足を進め、彼女がナイフを刺せるような距離まで近付くとその顔を近くでよく見る。腫れぼったい目元に牙みたいな八重歯。そして高揚したみたいに赤らんだ頬。顔つきは間違いなく端正な部類で、女の子特有の甘くていい匂いがする。
そしてそんな彼女の視線は、先ほど手にかけた男からすっかり僕へと釘付けになる。がっつき過ぎて引かれちゃったらどうしようって思ってたけど……僕の何かが気になるのかな。そんな感じがする。
「あなた……すっごい血の匂い………」
「あ、そうそう自己紹介自己紹介。僕は
「えっ!男の子!?こんなかぁいいのに!!」
可愛いなんて嬉しいこと言ってくれるね。もう既にこの子の事がちょっと好きだよ。それに何ならこの子も僕のこと好きだよね。だってこんな密着してるのに、その手に持ったナイフで僕のこと刺して来ないんだから。こんな路地裏、それこそ嫌だったらそこの男みたいに刺し殺して拒絶できるのに。
確かさっき血の臭いが好きって言ってたっけ……僕のこと好きなのはそこなのかな?なら大当たり。僕と一緒で鼻がいいんだね。彼女が喜ぶかなって僕は腕をまくり、包帯でぐるぐる巻きになってる両手の手首を見せる。
「血なまぐさかったらごめんねぇ。臭うのはこれかなぁ……」
「わっ!?酷い怪我!!どうしたんですか!?ボロボロでかぁいいねぇ!!」
「また可愛いって言った……嬉しいなぁ。ギュッてしていい?するね。」
そう理性なんて持ち合わせてないかのように、衝動的に僕は目の前の女の子をぎゅうって抱きしめた。だってもう相思相愛だもん。鉄臭い血の臭いと甘い匂いも、柔らかい身体も。温かい体温も。その全部を堪能したくて、僕は彼女を痛い思いをしない程度に強く抱きしめる。
けどその時だった。ふと僕の左肩辺りの背中に鋭い痛みが走る。その位置はちょうど彼女の右腕が回る位置。恐らく痛みの原因はナイフだろう。それも結構深く刺されてるっぽい。内臓とかには届いてなさそうだけど………
………流石にハグは嫌だったかな。なんて思ったが、彼女を見るとその口元はむしろ興奮で歪んでいた。どうにもこの刺突は拒絶ではないらしい。
「りゅーくん……ごめんなさい。私、我慢できなくなっちゃった………」
「あぁ……なるほど。君は好きな人を傷つけちゃうんだねぇ。傷だらけの人が好きなんだねぇ。」
「!!……そうなんです!!りゅーくんはもっと傷だらけになったら、かぁいい上にかっこよくて無敵だと思うの!!」
そう言って彼女のナイフを握る手と、僕を抱きしめる腕に力が入る。女の子とは思えないその力強い抱擁に僕は口元を歪めるも、背中から温かいものが流れる感触がする。うん……内臓とかに届いてる感じはしないけど。そっか。これがこの子の愛情表現なのか。そこに転がってる男も、きっとこの愛情表現で殺された感じだね。ならこうして刺されるのも悪くない。
………正直、ずっとこうしていたいけどさ。流石にこう深々と刺されると僕も失血死しそうだ。だからちょっと可哀想だけど……僕は彼女を抱きしめていた状態からパッと抱擁を解いた。すると彼女は、不意に背後の壁に向けて真っ直ぐに
「えっ────」
その距離はほんの数十センチ。けどその程度の高さでも背中から真っ直ぐ、しかも不意に受け身も取れずに落下するとそれなりの衝撃が生じる上に身体は硬直する。ベッドから落ちたりするあれに近い感じだ。
そうして壁へと叩きつけられた女の子は口から思い切り腹の中の息を吐き出し、声にならない乾いた呼吸音を漏らす。彼女は自らの陥った状況に困惑するように僕と自身が
突然乱暴なことしたせいで彼女は少し恐怖と脅えの混じった目で僕を見てくるが、僕も警戒を解きほぐそうとなるべく優しい笑みを浮かべてみせた。刺されたことを怒ったわけじゃないし、ましてや敵意があるわけでもないと。その証拠に僕は左肩辺りに刺さったナイフを引き抜くと、自分から少し離れた所へと捨てて見せた。それでも彼女は自分の状況が理解できなくて困惑してるけど。
「ごめんねぇ……流石に死ぬのは困るから。
「なっ……なにこれ!?私、どうなってるの!?足も浮いて────」
「でも安心して。僕もねぇ……痛いのは好き。痛いのも気持ちいいのも、乱暴にされるのも。全部全部大好きだから。きっと僕らは相性いいよ……仲良くできる。」
そう口にしつつも僕は自分の舌を思いっきり噛み、舌を歯で切り裂く形で流血させる。そしてそのまま僕は彼女の唇を強引に奪うと、血塗れの舌を彼女の口の中へ捩じ込む形で彼女の舌に絡めた。
流石にキスまでするのは彼女も想定外だったらしい。彼女は困惑したように僕の真っ赤に濁った瞳を見つめるが、それでも僕の舌が血を流してると分かると直ぐに自身の肉欲に忠実になる。金色の瞳は蕩けて不慣れなように舌を絡め、舌から滴る血を啜るようにして口の中を吸ってくる。そうして彼女の警戒が解けたのを確認した僕は、そっと発動していた個性を解いた。
そうなってからは、もう貪る側と貪られる側は直ぐに逆転してしまう。個性を解くと彼女は僕に自分から舌を絡めるだけでなく、僕をその場にぐいっと押し倒して体重をかけてきた。僕の好みを聞いてそうしてくれたのか、それとも抑制が効かなくなったか。僕の両手を指を搦めて握りしめ、僕が逃げないように身体を重ねながら血と唾液の甘い味を楽しむように。それこそ息をするのも忘れて、何度も何度もじゅぷじゅぷと下品な音を立てて吸ってくる。
そうする度、体重をかけられる度に僕の背中の傷から血が身体の外へと流れ出る。そうして頭がぼーっとしてくるが、うとうとした感覚に溺れながらキスされるのは結構きもちいい。この子のキスは不慣れなせいで下手くそだし乱暴だけど、それがまた必死に僕のこと求めてるって感じがして……やっぱり思った通り。僕らは相性いいよ。キスだけでこんな気持ちいいんだから。
「………ッ!!ふっ……♡♡ふぅっ………♡♡」
「もう……興奮しすぎ。鼻血出てるよ?」
「だって……りゅーくんがえっち過ぎるのがいけないんです。」
そうやって時間も忘れて互いを貪り合ううち、彼女の瞳はすっかり蕩け切って快楽の虜となっていた。けど彼女の瞳を覗き込むと映るのは、血溜まりの中でぐったりとした僕の姿。背中のべったりした感触は決して心地よい感触ではないが、彼女にはそれが愛しくて愛しくて仕方ないらしい。
………気付けば身体にも力が入らなくなっていた。おかげで僕に跨りこちらを見下ろす彼女を退けることも出来ず、やがて身体が底から冷えるような感覚へと僕の意識は落ちていく。
が、ここで死ぬのは僕としても本意ではない。何しろ僕には好きな子が出来たばかりだし、ここで死ぬのは彼女にも迷惑をかける事になる。人に迷惑をかけるのは別に何とも思わないけどその相手が好きな子なら話は別だ。
「ねぇ……ちょっとだけ退いてもらっていぃ?」
「えっ。いいですけど……どうしたの?」
「ちょっと血ぃ流れ過ぎちゃった……補充してくる。」
僕は這いずるようにして寝返りを打ち、アスファルトに出来た血溜まりに口を付けて啜る。まだ流れ出て染み込んでいる分は少なく、そうして自分の身体から零れたものを口にすると瞬く間に口の中は鉄としか表現のしようのない味で満たされる。……この状態でもう一度キスしたらあの子が喜びそうだな。
なんて考えてもいたが、それでもまだ足りそうにないから。僕はどうにか立ち上がると先程この子が刺し殺したであろう男の死体にふらつく足取りで向かい、そうして辿り着くと男の身体から流れ出た血を舐め取るようにして身体に取り入れる。
そして男が身につけている服を取り出したナイフで引き裂くと、血だらけの服を脱いで肩の傷周りにぎゅっと包帯代わりに巻いて止血する。そうしてその上から服を着直すと、改めて彼女の方へと歩み寄る。
「ごめんねぇ……お待たせ。次は何しよっか……もっかいちゅうする?って……こんな口の中血塗れの状態はやだよねぇ。」
「ううん!!そんな事ないです!!むしろしたいです!!」
「だぁめ。僕の血ならまだしもそこの男の血……ていうか床舐めちゃったから……ばっちぃよぉ。」
恐らく血と砂利だらけであろう、ピアスの空いた長い舌をべっと出してみる。そうすると彼女も流石に気が引けたのか、それでも少し残念そうにしゅんとした様子で俯く。その様がなんだか子犬か何かみたいで……僕はさらに愛着が湧いてしまった。
そこで、僕は彼女に遂に一線を超えた提案を持ちかけてしまう。
「ねぇ……良かったらなんだけどさぁ。これから僕の
「えっ!?」
「ここじゃ出来ること限られてるしぃ……それに、殺人現場でいつまでもラブラブするのも気が気じゃないでしょぉ。逃げないとねぇ。」
この子みたいな学生の犯罪者って帰る家とか逃げる場所もないだろうし。やましい気持ち抜きにこの子にとっても美味しい話ではあるはずだから。現に彼女は僕の提案に呆然とした様子は見せるも、拒絶するような真似はしない。
言い方を変えれば『匿ってあげる』って言ってるわけだから。そのついででこの子が良かったらもっと気持ちいいことしようねって。僕はそう誘ってるんだ。少なくとも彼女には断る理由がない。
「いっ……いいの?私、りゅーくんの事きっと傷つけるよ?痛いことするよ??やめられないよ??」
「いいよぉ別に。死なない程度に加減してくれれば、僕は痛いのも気持ちいいのも大好きだから……今みたいに血が流れ過ぎるのは困るけどねぇ。」
「………受け入れてくれるの?私、こういう事大好きで……我慢できなくって、それがみんなおかしいって………」
そして何より。彼女みたいな異常性癖持ちは、この超常社会においてもそうそう受け入れられるようなものでは無い。現に僕がこうして彼女の性癖を全肯定してみせると、彼女はボロボロと涙を零し始めてしまった。
分かるよ。悪い癖ほど直せないものだ。ピアスもタトゥーもリスカも、僕だってやめられない悪癖は幾つも持ってるから分かる。特にその悪癖が快楽を伴うものともなれば、沼みたいに嵌って抜け出せなくなる。気持ちのいいことはみんな好きなんだから。仕方ないよね。
………うん。やっぱ僕と彼女は似た者同士だ。しかも歪な嗜好が奇跡的に噛み合っている。もはやこの出会いは運命か何かとしか思えないほどに。そう思って僕は泣きじゃくる彼女の身体をぎゅうって抱きしめて、耳元でそっと囁く。
「いいんだよ……我慢なんかしなくって。僕も我慢は嫌いだからさ。これから仲良くしようねぇ。えっと………」
「………トガです。
「可愛い名前だねぇ……ひぃちゃんって呼んでいぃ?」
そう尋ねてみると、ひぃちゃんは僕をぎゅうって抱きしめ返して小さく頷く。………うん。我ながら初対面でベロチュウまでしておいて名前すら聞き忘れてたとか。犯罪者なら何してもいいかってのもあったとはいえ……不誠実にも程があったね。これからは気をつけなくちゃ。
何しろこれでひぃちゃんとは恋人同士なんだから。出来たらもう結婚までしたい。そう思うほどに僕はひぃちゃんのこと好きになっちゃったからね。好きな子くらいは大事にしてあげなくちゃ。大事に大事にしてあげて、僕のことしか考えられないようにしてあげる。ひぃちゃんのこと分かってあげられるのは僕だけなんだから。
そんな悍ましく穢らわしい、猛毒みたいな愛情と独占欲を胸の内に秘めたまま。その日僕はひぃちゃんを自分の巣へと連れて帰った。雄英に受かり、可愛い彼女が出来た。きっとこうもいい事が続いたのはここ数ヶ月ずっと受験を頑張ったご褒美だろう。それはバーガーショップやゲーセンなんかよりもずっと甘美で、同時に満たされるものだった。
そしてどうか彼女も僕と同じ多幸感を抱いてますようにと。街の灯りすら消え失せた夜の闇の中、僕は僕にすっかり懐いてしまったひぃちゃんをもう一度だけ強く抱き締めた。
おまわりさん、こいつらです。
トガちゃんはどっち?
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清楚!!純情!!
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エッチ!!