僕は敵に恋してる。 作:ヒドラ
トガちゃんファンは気を強く持ってください。
運命の出会いの翌日。壁の薄いアパートの一室で僕はいつものように目を覚ます。
それは僕が見た夢だったのでは無いか。そう思ってしまうほどに昨日は幸せだったが、背中の傷の痛みとベッドに付いた無数の血痕。そして首筋についた新しい傷。
………何よりベッドの中に感じる僕以外のこの体温と感触が、全てが夢ではなく現実だと教えてくれる。互いに抱きしめ合う形で密着する彼女の身体は歳の割には発育のいい方で、柔らかな肌の感触と温もりはこの肌寒い季節にはとても心地いい。おまけにその安らぎ切った無防備な寝顔は見てると不思議と優しい気持ちになれる。そのせいで早起きしたにも関わらず、僕は彼女が目を覚ますまでじっと彼女の顔を見つめていた。
「んっ……おはようございます。」
「おはよぉひぃちゃん。よく寝れた?」
「うん……すごい久しぶりにゆっくり寝れました!!けど……その………」
寝起きなのに朝っぱらから元気だねぇ。なんて口を開きかけるも、彼女がモジモジと頬を赤らめてしまうものだからそっと口を閉じる。代わりに昨日そうしたように僕は舌を噛み切り、血だらけのピアスの開いた舌をべってする。朝から元気なのはどっちなのか。そう自嘲気味な笑みを浮かべながら、甘い血の臭いで目覚めたばかりの彼女を誘惑してみせる。
「……りゅーくんのえっち。」
「我慢しないって言ったでしょぉ。ほら、ちゅうして。」
「いいですよ。私も我慢しないからね。」
そして覚えたばかりの快楽に抗う真似もせず、彼女は口を開くと僕と舌を絡める形で唇を重ねてきた。まるでもっとと求めるように毛布の下で僕の腰に腕を回し、柔らかな裸体を重ね合わせるように押し付けて甘えてくる。
そうやって血を絡めた舌で互いを貪り合う、朝の挨拶というにはあまりに濃厚すぎる時間。そうして互いに満足すると、漸く僕らはベッドから身体を起こす。が、そうして僕の身体を見ると同時。ひぃちゃんは僕の身体にするりと手を回してくる。
「ねぇりゅーくん……私、もっとちうちうしたいです。」
「んっ……そぉ?
「りゅーくんのそういうとこほんっと大好きです!!」
向かい合って左首筋にかかる黒髪をかき上げ、噛みやすいように差し出してやるとひぃちゃんは一切の躊躇もなく僕の首筋を鋭い犬歯で噛み切ってくる。そして暖かい舌を傷口に這わせ、唇を押し付けてちうちうと音を立てて吸い始める。
その様がなんだか愛らしくて、僕は夢中で血を吸う彼女の後頭部をそっと撫でるように抱きしめた。……本当に幸せだね。ひぃちゃんも幸せそうでよかった。こんな必死に僕のこと求めて……本当に可愛いんだから。僕積極的な女の子は大好きだよ。
「んっ……ありがとうりゅーくん。ごちそうさまです!!」
「どぉいたしまして。……僕もちうちうされるの気持ちよかったよ。もういいのかぃ??」
「はい!!本当はもっとちうちうしたいけど……りゅーくんの顔色よくないから!!我慢します!!」
口ではそう言いつつも、彼女は未だにギラついた目を僕に向けて身体を疼かせている。……別に気遣って我慢なんかしなくてもいいのに。そう思う反面、確かに身体を起こすとまだ少しふらつく。きっと今まで似たようなことをして失血死させまくってきたからどの程度で死ぬかとか、ひぃちゃんは僕より詳しく分かるのだろう。昨日血を流し過ぎたから仕方ないとはいえ、僕はなんか申し訳なくてニコニコとこちらを笑顔で見つめるひぃちゃんの頭を撫でる。
「気ぃ遣わせちゃってごめんねひぃちゃん。君は優しいんだねぇ。」
「りゅーくんは私の気持ちとか分かってくれるから!!傷だらけのボロボロにはしたいけど死ぬのはなんか寂しいんです!!」
「そっかぁ……じゃあ、死なないように気をつけなきゃねぇ。」
両手を激しくぶんぶんと振って主張する彼女から手を離し、これ以上の朝のスキンシップはないと悟ったからタンスの方へと足を進める。そして彼女でも着れそうな衣服を一式探し出すと、丁寧に畳まれた状態のまま彼女へと差し出した。
何しろ昨日は僕が拉致る形でここに連れてきてしまったし、彼女も家や着替えや泊まりの道具などを持ってくる時間は無かった。サイズはひぃちゃんにはちょっと大きいかもしれないけどいつまでも裸でうろつかせるわけにも行かないし、僕ので嫌じゃなければ着て欲しいなって。
「わっ!!これが彼シャツってやつですか!!いいねぇ!!りゅーくんの匂いする!!」
「下着とか洗濯終わるまでそれ着て待っててねぇ。……僕はちょっとシャワー浴びてくるから。傷口洗ってくる……」
「えっ!!一緒に入ります!!」
そう言って僕がお風呂に向かおうとすると、ひぃちゃんは僕が差し出した服一式をベッドにぶん投げてついてこようとする。……悪いけどうちのお風呂せまいから一緒は無理なんだよ。けどそっか。今朝はキスと首がぶってされただけだから汚れてないと思ったけど、一緒に寝てて寝汗とかかいたかもしれないもんね。ひぃちゃんもシャワー浴びたいよね。
「じゃあ先シャワー浴びてきていいよぉ……僕洗濯とかしちゃうから。」
「分かりました!!夜は一緒に入ろうね!!」
「狭いから無理だよぉ……結構積極的だよね君。」
僕は裸に適当なパーカー一枚だけを羽織ると、昨日使ったバスタオルとひぃちゃんの下着や靴下などうちで洗濯できるものを洗濯機へと放り込む。そんな僕を見ながらひぃちゃんはお風呂へと入って行ったが、おかげで僕は少しだけ暇になってしまう。
だから僕はテレビのリモコンを手に取り、適当なチャンネルのボタンを押した。そして朝のニュースに目をやるが、そうすると一つの事件が僕の目へと飛び込んでくる。
『では次のニュースです。昨晩見つかった男子高校生の遺体ですが、28ヶ所もの刺傷からここ数日の連続失血死事件と同一の犯行と見て捜査しております。被害者は────』
それはちょうど、昨日僕が出くわした事件に対する報道だった。……連続失血死事件、ねぇ。ここ最近少しだけ有名になっている事件だね。容疑者はいるにはいるけど見つからないし捕まらないしで、捜査が難航してるって噂の。
別に殺人事件なんて珍しいものでもないから気にも止めてなかったけど、その犯人ってひぃちゃんなんだよね。今僕の家でシャワー浴びてる……改めて思うとすごい事しちゃったな。連続殺人犯に求愛行動して、刺されて、ベロチュウして……挙句にお持ち帰りしてこれから同棲するんだもんな。……いや、同棲するかは聞いてみないと分からないか。
でもそうして僕が昨日のことを思い返してみると、ふと僕はある事に気付く。
(そういえば昨日僕も現場で刺されたけど……思いっきり僕の血痕残ってるよね?あれ調べられたらヤバくない??)
飛び散った被害者の血と見逃されるならいいけど、もし異なる人物の血痕だと気付かれた場合。警察が想定する可能性は二種類だ。
一つはもう一人の被害者。死体は当然残っていないから負傷したまま犯人から逃亡したものと見るし、実際現場から逃走したって意味でも僕はこちらに当てはまる。しかしそうして見る場合、僕は取って然るべき行動を取っていない。
それは通報。僕は昨日、ひぃちゃんに襲われはしたものの連れ帰るために警察には通報しなかった。本来なら一刻も早く庇護を求めるであろう被害者がだ。そうなると警察は『何故通報しなかったか?』という疑問を持つはず。
そこで出てくるもう一つの可能性。それは『抵抗され負傷した犯人の血痕』だ。それなら怪我を負わされたにも関わらず通報が行かない事にも筋が通る。そんな自首するような真似を連続殺人犯がする訳ないからね。現に死体も残っているわけだし。
つまりあそこに血痕を残した僕に犯人の容疑がかかるのは必然。仮にそうでないと僕が主張し認められたとしても、良くて僕は生きた被害者。行方の掴めない連続殺人犯の情報を持つ重要参考人だ。
今の時代血痕なんて残っていれば身元なんて直ぐに割れる。どう転んでも僕の元に警察が来るのは時間の問題だろう。そしてそうなった場合、一番困るのは僕ではない。ここに匿ってある彼女だ。
今こうして逃げ切っているとはいえひぃちゃんは学生。名前や顔はメディアが守ってくれてるものの、そのせいでどこまで警察に素性を把握されているかが僕には分からない。顔とか割れてたら出会うなり即確保とか全然有り得るし、警察なんて嗅覚に優れた犬みたいな個性を持った人間も属している。現場に彼女の痕跡こそ残ってはいないはずだが、いざ対面したら事件の関係者と疑われる可能性もある。少しでも調べられたら終わりだ。
僕は昨日、当然下心で彼女を連れ帰った。けどそれだけじゃない。僕は彼女を警察とかから匿えると思ったからここに連れてきたんだ。浅はかだった。そのせいで今、ひぃちゃんは警察に捕まりそうになっている。一人なら上手いこと逃げ延びられたのに。これでは僕がひぃちゃんを警察に売ったも同然。好きで好きで仕方ない彼女を裏切ったことになる。
それだけは駄目だ。僕は自分も他人も大事にできないけど、好きな人くらいは大事にしたい。僕に分かって貰えたって彼女は喜んでいた。それなのに裏切られて捕まるなんてあまりに可哀想だもの。選りにもよって唯一の理解者である僕に騙されて捨てられるなんて。そのためにも何とか彼女を逃がさなきゃ。
「りゅーくん!!シャワー出ましたよ!!……って、どうしたの?そのニュースがどうかしたの?」
「ひぃちゃん、よぉく聞いて。………って、身体ちゃんと拭いておいで??あれ、タオル渡したっけ………」
「ううん!!だから貰いに来たんです!!」
あぁなるほどね……って、そう言えばさっき洗濯機にぶち込んで回したばっかだったな。いつもは夜と朝浴びて、二枚のバスタオルをまとめて洗濯してってしてたから……一人暮らしが長いから忘れてたね。うっかりした。
仕方ないから僕はタンスから運動後に汗とか拭くための小さいタオルを取り出し、ひぃちゃんへと渡す。そうすると彼女はその場で身体を拭き始めるから、ついでにさっき口にしかけた話を続けることにした。
「ひぃちゃん、あのね……多分だけど今日中にね、ここに警察が来る。」
「……………えっ。」
「だからひぃちゃんは、身体拭いて着替えたら急いでここを逃げて。そして、なるべくここから遠くに離れて。」
そう口にすると、身体を拭くひぃちゃんの手が止まる。その目には何故か涙が溜まっており、彼女は縋るような目で僕のことを見つめてくる。その表情がこれまでの様子からはあまりにも想像できないものだったから僕もびっくりしてしまうが、ひぃちゃんは手にしていたタオルを落とすと真っ直ぐに僕へと濡れた身体で抱きついてきた。
「なんで……!?りゅーくん、私がいると邪魔なんですか!?匿ってくれるって言ったのに!!」
「僕がチクったわけじゃないよ……ただねぇ、昨日あそこで僕のこと刺したじゃん?その血痕が残ってるから。お巡りさん来ちゃうと思うの。ここいると君が捕まっちゃうからさ。」
「あっ確かに。でも……りゅーくんと離れるの嫌です。りゅーくん私のこと分かってくれるし、優しいから……でも捕まるのも嫌です。どうしよう……」
ひぃちゃんはそう言って僕の腰に腕を回し、抱きついて離れまいとする。そんな悲しそうにしなくても別にもう会えなくなるってわけじゃない。連絡先さえ交換しておけばまた何処でも会えるし、その頃にはもう僕の身分潔白も証明されてるはずだから。そうしたら幾らでも一緒に同棲できる。
だから今は、ひぃちゃんが捕まらないのを一番に考えて。寂しいのは僕も嫌だけど、僕のせいでひぃちゃんが捕まって会えなくなるのはもっと嫌だから。
けどそう言いかけた矢先、僕の意識はふと先ほどのテレビへと戻される。
『────また現場には行方不明となっている
「………あぇ?あぁ……ふふっ、そうか。そうだった。そうだったねぇ。」
「りゅーくん?……どうしたんですか??」
いや……そうかそうか。いけない、僕としたことがひぃちゃんの事を心配し過ぎて忘れてた。
「ひぃちゃんごめんねぇ……よくよく考えたら、僕のところに警察が来るわけ無かった。」
「!!………ほんと!?一緒にいても平気ですか!!」
「うんうん。脅かすようなこと言ってごめんねぇ。……ていうか君、僕んとこ住んでくれるんだ。ありがとねぇ。」
嬉しそうに僕に濡れた身体で抱きつく彼女を受け止め、彼女の頬にそっと口付けをする。……けどそうだよね。ひぃちゃんみたいな生まれついて悪癖を持った子はしたい事を我慢して生きるか、こうやって人の目につかないように生きるしかない。
そうやって自由に生きれないのは僕に言わせれば死んでるのと同じだ。僕みたいに抱えた衝動を常に剥き出しにするのは下品かもしれないけど、たまに解放する事すら許されないなんて。この子はずっとそんな世界で生きてて、誰にも自分が持って生まれた衝動を言えずにいたんだもの。いくら何でも可哀想だよ。ひぃちゃんは好きでそんな悪癖に目覚めたわけじゃないのに。
さっきだってどうにかなったからいいものの、なんでひぃちゃんが僕のところにいるってだけで警察に怯えなきゃいけないのか。僕はひぃちゃんの事可愛くて仕方ないし大事だし、可愛い彼女だって自慢したい。けどそんな事すればひぃちゃんは僕の元からいなくなる。僕はずっと『彼女なんていない』って嘘を吐いて生きなきゃいけないんだ。それは僕にとっても苦痛だし、存在を黙殺されるひぃちゃんはもっと辛いはず。
………だってひぃちゃんを隠さなきゃいけないって事は、一緒にデートとか恋人みたいな事も出来ないんだもの。この狭い部屋で互いに淫欲に溺れ続けるだけの人生……それも悪くないけど、僕はやっぱひぃちゃんと恋人らしい事もしたい。なのに………
「………ほんと、この世界は生きにくくて嫌になるねぇ。」
「えっ………」
「もっとひぃちゃんが生きてていい世界になったら……そぅしたら、一緒に買い物とかゲーセン行けるのにねぇ。」
思わず僕は、彼女とのこれからの暮らしを考えてそう呟いてしまった。ひぃちゃんを匿うためとはいえ閉じ込めたまま僕だけが好きなように生きる、そんな幸せの独り占めみたいな生活。たかが連続殺人犯ってだけで、僕の方がずっとずっと悪いことしてるのに。……たった一つの報道でそれ程までに気落ちしてしまう辺り、自分でも面倒な男だなと嫌気が差す。
けど僕がそう漏らすと、ひぃちゃんは唐突に僕に体重を預けるようにして身体をぐいっと押し付けてくる。
「んっ……ひぃちゃん、どぅしたの?」
「りゅーくん……私、本っ気でりゅーくんのこと大好きになっちゃいました………♡♡」
「……………なんでぇ。」
そんな聞いたことも無いような聞いてるこちらがゾクゾクするような声を出し、ひぃちゃんは狂気とも形容できる愛情を剥き出しにした。何がそんなに琴線に触れたのかも分からずに僕は困惑するも、ひぃちゃんは瞳の中にドス黒いハートを浮かべると右手に握ったナイフを振り上げる。
「んっとねぇひぃちゃん……?どっから取ったの?それ………」
「ごめんねりゅーくん♡♡もう我慢しません♡♡したくありません♡♡♡」
「困ったなぁ……殺されるのは僕でもさすがに困るんだけど………」
そしてひぃちゃんはナイフで僕が上に羽織ったパーカーを強引に引き裂くと、力尽くで僕を床に押し倒した。身長は僕のがあるものの僕は元々非力なのもあり、押し倒されると基本的に抵抗できない。
おかげでひぃちゃんは覚えたての快楽を貪り、僕はまた身体に傷を増やして血を流した。もはや自己嫌悪を覚える度に身体を傷つける必要などないほどに、そして自分の血をひぃちゃん用に大事にしようと思うほどに。それ程にひぃちゃんは情熱的で激しく、僕が壊れるギリギリまで僕のことを愛してくれた。
後に僕は知るが、どうにも僕の抱く不満と願望は奇跡的にもひぃちゃんが抱くそれと全く同じだったらしい。それがどれ程までに彼女にとっての救いとなったかは想像に難くなく、彼女が僕へ狂気じみた愛情を抱く理由としては十分に納得の行くものだった。
そのせいで僕らはさらに抑えが効かないほどに溺れていく事になるのだが、それはまた別のお話。とりあえず一命は取り留めた事を最後に明記しておく。
トガちゃんは個人的に私生活だらしなかったら最高だなって思ってます。めっちゃお世話してあげたい。
トガちゃんはどっち?
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清楚!!純情!!
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エッチ!!