僕は敵に恋してる。 作:ヒドラ
「ねぇねぇりゅーくん!!りゅーくんって話し方が独特ですよね!!なんでなの!?」
「んっとねぇ……僕ほら舌にピアス開けてるじゃん?それに舌が長いから、滑舌良くないんだよぉ。キモかったらごめんねぇ。」
「ううん!!すっごいエッチだと思うよ!!歯もギザギザしててかぁいいねぇ!!」
「りゅーくんりゅーくん!!りゅーくんってなんで女の子の服とかメイク持ってるの!!私も使っていい!?」
「一時期そういうお仕事するのに使っててねぇ……メイクも服も好きに使っていいよぉ。」
「やった!!今度お互いメイクしようね!!りゅーくんもっとかぁいくしてあげる!!」
「りゅーくん!!りゅーくんの好きな食べ物ってなんですか!!私料理とかぜんっぜん出来ないんですけど!!」
「んー……ジャンクフード?野菜はあんま好きじゃない……」
「一緒ですね!!ちなみに私はりゅーくんの血が大好きです!!元気になったらまたちうちうさせてください!!」
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「りゅーくんりゅーくん!!」
「ねぇ待って。ひぃちゃん、ちょっと待ってね?ひとつ聞いていぃ………??」
「はい!!!」
なんで僕こんな質問攻めされてるの??ぐったりベッドに横になってるのに、向かい合うように添い寝しながら超近くで質問攻めしてくるんだけどこの子。僕がこうなってる原因は前回参照してね。話しかけてくれるのは嬉しいんだけど僕マジで死にかけって言うか……流石にちょっとそっとしておいてくれると助かるなって。主に僕の命が。
けど僕がそうお願いすると、ひぃちゃんは得意げに鼻を鳴らす。うーん、可愛いなぁほんと。
「好きな人の事って何でも知りたいじゃないですか!!」
「あぁ……そうだねぇ。」
「私りゅーくんのこと何も知らないから!!だから色々りゅーくんのこと教えて欲しいんです!!」
なるほどねぇ……まぁそりゃ僕のことなんて知らないだろう。そもそも一目惚れで拉致ってここにいるんだし。ひぃちゃんの意思もあるからだけど普通の女の子にやったら事案だからね??散々手を出しておいてこんなこと言うのも何だけど、よく僕のこと好きになってくれたよねひぃちゃん。
けど確かに僕は勝手にひぃちゃんのこと分かった気になっていたけど、そのせいで僕のことは何もひぃちゃんに話してない。素性も分からない相手を好きになるなんてそれこそ本来無理のある話だ。身体を起こすのも億劫なくらい衰弱しているけど、ひぃちゃんの言うことは一理ある。となれば………
「………そういう事ならいいよぉ。なんでも聞いて。僕もごろんしてるだけは退屈だしぃ……大体の事は教えてあげるから。」
「ほんとですか!!じゃあ、まずりゅーくんの個性を教えてください!!」
「おっとぉ。」
そう答えた矢先、さっそく答えられない質問がひぃちゃんから発せられた。返す言葉に困って僕はひぃちゃんの顔をじっと見るも、ひぃちゃんはニコニコと無邪気な笑みを浮かべて僕の顔を見つめている。可愛いね。……じゃなくて。
困ったな……僕の個性は、僕の面倒を見てくれてる人に口外する事を禁止されている。し、僕もあまり知られたくない。個性なんて本来戸籍の無い敵くらいしか秘匿する必要のないものだけど……だからこそ、下手に隠そうとするとひぃちゃんは訝しがるだろう。
そうして言葉を選ぶうち、僕は逃げるようにひぃちゃんにこう返してしまった。
「………そういえば、僕もひぃちゃんの個性は知らないねぇ。」
「あっ、そうですね!!確かに見せてない!!」
「良かったらひぃちゃんの個性も教えて……?そしたら僕の個性も見せてあげるから。」
それはあまりに卑怯な言い回しだった。ひぃちゃんはさっき言った個性を隠しておきたい人種、敵なのだから。敵にとって個性の開示は犯行の手口をバラすようなもの。開示したからって個性が強くなるようなこともない。僕はつまり、ひぃちゃんに弱点を教えてと迫っているのだ。
実際ひぃちゃんは僕に個性を今まで話してなかった。強力な個性を持ってると、この位の歳の子はそれを自己紹介とばかりに自慢してくる子すらいるのに。それはつまり、ひぃちゃんの個性は知られて困る類の個性なのだろう。
それなら流石に開示できない。出会って一日経ってない僕に、幾ら恋仲になったからってそう簡単に教えることは出来ないはずだ。もしそれで僕が個性を誰かにバラしたらひぃちゃんは簡単に捕まってしまうのだから。
そんなリスクを犯してまで自分の個性を教えるわけが無い。僕はそう考えたからこそ、ひぃちゃんにこんな意地悪を言ったのだ。我ながら自己嫌悪でリスカしたくなるけど……逆に言えばそれほど、僕自身の個性も他人に言えるものじゃないんだ。ひぃちゃんには嫌われちゃうかもしれないけどこれで────
「いいですよ!!」
「────えっ。」
「ちょうどさっき沢山ちうちうさせてくれたし見せてあげます!!代わりに後で個性、教えてね!!」
そう言うや否や、僕の返事も待たずに目の前でひぃちゃんは蝋のようなゲル状の物質に全身を包んだ。そうしてしばらくして纏った物質が剥がれ落ちると、中からすっかり姿を変えたひぃちゃんが現れる。
気だるげな切れ長のたれ目に歪につり上がった口元。真っ赤に濁った大きな瞳は蛇みたいな瞳孔を持ち、肩ほどまである紫のメッシュの入った黒髪は外にハネていてボサボサ。肌は雪みたいに白く、主張の強い赤い涙袋や女みたいに長い睫毛。そして柔らかそうな唇からその顔はいかにもな地雷女みたいな印象を受ける。元々中性的どころかメス寄りの顔立ちなのにメイクまでがっつりしてるものだから、言わなきゃまず男とは気付かれないだろう。
が、その印象は細部に目を凝らす事でまた違ったものに見えてくるだろう。何しろ両耳には無数の黒いピアスが開いており、右側面の首筋から肩。さらには袖の中から覗く両手の甲と五指の先に至るまでの露出する箇所に黒く
何より決定的なのは両手首を始めとした生々しい無数の切り傷。ひぃちゃんは包帯もしてないものだから耐性のない人が見たら吐き気を覚えるほどの、そんな
………改めて見せられると中々にヤバイよな。僕の容姿……こんなのがもう少ししたら雄英高校のヒーロー科行くなんて。校風は自由だしアクセサリーとか禁止されてる訳でもないとはいえ、絶対悪目立ちする。厨二病でもこうはならないだろうと顔を覆いたくなっていると、ひぃちゃんは僕の声でニコニコと話しかけてくる。
「これが『僕』の個性です!!それにしてもりゅぅくんはピアス多いですねぇ!!」
「うん。すごい細かく真似できるんだねぇ……自分の姿を見せられるのって結構キツい……声も嫌ぃ……まぢ病む………」
「なんてこと言うんですか!!こんなかぁいいのに!!」
そうひぃちゃんは張り切ってるはずなのに、妙に気だるげで脳を溶かすような甘ったるい声に僕はまたげんなりする。けどなるほどねぇ……ひぃちゃんの個性。きっと血を採った相手の姿をそっくりそのまま真似できる、『変身』とでも言うべき個性だね。本質は異なるとはいえ僕と同じ系統の個性だ。こんなところまでお揃いなんて何だか嬉しくなるね。
見た感じ服はそのままだから、服までは真似できないのかな。アクセサリーとかタトゥーはそのままだから身体に薄い粘土を纏うようなものなのだろう。………となると服まで再現するには全裸じゃないと駄目とかかな。
何しろ人の
しかしひぃちゃんには相性がいい個性っていうか……確かにこの個性なら使いこなせばずっと警察やヒーローから逃げ隠れできる。殺人犯って性質上血には困らないはずだし、血を多めに採って持ち歩いておけば任意のタイミングで好きな姿に変身して姿を眩ませられるはず。やっぱ犯行の上で重要すぎる個性だったな……そんなものを僕に堂々とバラすなんて。ひぃちゃん、そんなに僕のこと信用してくれてたんだね。何かひぃちゃんの信用を試すような真似をした気がしてまた気が沈むなぁ……そんな必要無いとは思うのに。ほんっとこのよわよわクソ雑魚メンタルどうにかしたい。
「さ、次はりゅーくんの番ですよ!!個性見せてください!!」
「んー……ていうか、その姿やめて……僕の姿見るのやだ……ひぃちゃんの姿のがずぅっと好き………」
「もう!!かぁいいのに!!でもいいですよ!!」
ひぃちゃんの纏った僕の姿がドロリと崩れ、身体から剥がれ落ちるようにして消える。そして中から現れたひぃちゃんは、僕の個性を楽しみとばかりに僕の顔をニコニコと見つめていた。
………そうだよね。ひぃちゃんは僕にあんな秘密にしておきたいであろう個性を見せてくれたんだ。それにこの個性なら、ひぃちゃんにも一回だけ使っている。雄英に行ったら死ぬほど使うことになるはずだし、見せたところで問題はない。………はず。僕の全部は見せてあげられないけど、少しだけなら………
「んじゃねぇひぃちゃん……僕の上に身体を重ねて、僕のことぎゅうって抱きしめて。」
「うん!!……あっ、またエッチなことするんですね!?」
「個性を見せてあげるんだよ。……危ないからしっかり抱きついててねぇ。」
僕の言葉の通りにひぃちゃんはワクワクした様子で僕のことを強く抱きしめてくる。それを確認すると同時、僕はひぃちゃんを抱きしめ返して個性を発動してみせた。
そうすると、不意にひぃちゃんは
「えっ!?ちょっ……なにこれ!?どうなってるのりゅーくん!!」
「これが僕の個性……そうだね。名付けるなら『落下』だよ。」
「落下!?えっ……これ、むしろ飛んでいきそうなんだけど!!風船みたいに!!絶対離さないでね!?」
ひぃちゃんが不安そうに頭上……いや、彼女からすれば目下一メートルほどの天井に視線を向けながら僕を抱きしめる腕の力を強める。そんな彼女を安心させるように僕も強く抱きしめ返すが、こればかりは流石にロマンの欠片もありはしないだろう。
何しろこの落下の個性。これは僕自身や僕の身体が触れた対象を
おかげでひぃちゃんにとっては天井こそが地面で、僕とベッドは天井だ。うっかり手を離す事になれば高さ一メートルを背中から落ちることになり、それなりでは済まない痛い思いをする事になる。だから僕はひぃちゃんを離さないように必死に抱きしめてるんだけど……僕が貧弱なのか、それともひぃちゃんのが体重あるのか。少しだけ僕の身体が上に引っ張られてる気がする。絶対に前者。僕がザコなんだと思う。
「……よぉし。もう個性は十分に堪能したね?解除するよ。」
「うん!!お願い!!すっごい怖かった!!」
「だから見せるの嫌だったんだよ……大丈夫?どこか痛くなぁい??」
このままだと僕もろとも天井に叩きつけられそうで危ないから、僕はそっとひぃちゃんに発動した個性を解除した。浮遊感が消えてなおひぃちゃんは僕に抱きついているが、僕が腰に回した手を離しても自分の身体が僕に押し付けられてる。そう理解すると安心したように顔を上げた。……思いっきりぎゅうってされたの幸せだったな。
けどそんな事を考えてると、ひぃちゃんは僕の顔を見つめて楽しげに笑う。そして僕にわざとらしく身体を擦り付け、僕の反応を楽しむように甘えてみせる。
「えへへ……りゅーくん、私に抱きつかれるのほんと好きなんですね!!」
「あぁ……うん。柔らかくて温かいしひぃちゃんいい匂いするから………えっちでごめんねぇ。ごちそうさま………」
「りゅーくん顔に出るから分かるんです!!刺されてる時みたいに幸せそうな顔してたから!!」
僕の考えてることが分かるのが嬉しいのか、ひぃちゃんは口元を吊り上げて笑みを深める。……僕ってそんなに分かりやすいのかなぁ。それともひぃちゃんの洞察力が高いのか……ネジ外れた子だけど僕のことよく見てくれてるってことだよね。醜悪なまでに放蕩で貪欲な淫乱極まりない僕の本性も、僕の持つえっぐい性癖の数々も。その上でこんなに好き好きってしてくれてるんだよね。……そう考えると僕もすっごい嬉しい。僕と付き合った子って大体途中でドン引きしていなくなっちゃうから………
なまじ僕も分かってもらえない側の人間だから忘れてた。好きな人に自分のこと理解してもらうのって、こんなにも嬉しくて幸せな事なんだねって。そしてひぃちゃんも僕が理解してあげた時、こんな気持ちになったんだねって。……そりゃ好きにもなってくれるわけだ。
でもひぃちゃんはそんな満面の、ひぃちゃんを知らない人が夜中に見たら腰を抜かしそうな笑みを浮かべたまま僕にぐいっと顔を近付ける。
「………だからねりゅーくん。私、分かるんです。」
「えぇっ……?何が────」
「りゅーくん、私に嘘ついたね。何か隠し事しましたね。」
────そう唐突にひぃちゃんが吐いた言葉。僕の身体は蛇に睨まれたように硬直し、邪悪の笑みを浮かべたひぃちゃんから目を逸らしそうになった。けどそれはひぃちゃんの言葉を肯定するようなもので、だからこそ僕はちゃんとひぃちゃんから目を逸らした。これ以上ひぃちゃんに嘘とか吐きたくないから。
するとひぃちゃんは両手で僕の顔をがっしりと掴み、ひぃちゃんの顔を見るように向き直らせる。その瞳にあるのは怒りではなく、残忍なまでに無邪気な好奇心。だからこそひぃちゃんは僕の様子など気にしたような様子もなく……むしろ僕の反応を心底楽しむように、僕に追求を続けた。
「ねぇなんでりゅーくん嘘ついたの?なんで私に個性使う時に目ぇ逸らしたの??個性知られるの怖いの??」
「あっ……えぇっと、その………」
「もしかして私と一緒で何か悪いことしちゃったの?りゅーくんって敵(ヴィラン)なの?何やっちゃったの??教えてくださいよ。ねぇねぇ。」
質問の趣旨を微妙にずらしつつ、畳み掛けるようにひぃちゃんが尋ねてくる。ついでにほぼゼロ距離まで顔を近付け、わざと囁くような声で詰問してくる。
そうした彼女に僕も緊張で彼女を抱く力が強くなる。彼女にどう答えれば僕の本質を隠し、僕がやった事だけを懺悔できるか。仮に便利な言葉が見つかったとしてもそれは彼女にまた隠し事をするって事であって。胸を締め付けるような罪悪感と『全て教えてあげたい』『僕のことをもっと知って欲しい』という欲求で吐きそうになる。
今の僕は果たしてどんな顔をしてるのか。自分のこともっと知って欲しいって思ったばっかなのに。言葉がちゃんと喉から出てこない。乾いた息ばっかが口から漏れる。視界が滲んでひぃちゃんの顔がよく見えない。
言わなきゃ。言わなきゃ。ひぃちゃんに嫌われたくない。ひぃちゃんに僕のこともっと教えたい。ひぃちゃんにこれ以上嘘つきたくない。そんなぐるぐると回らない思考の中、僕はようやく拙い言葉をどうにか一言だけ吐き出すことに成功する。
「………人殺すより、悪いこと。」
「えっ。」
「ごめん……!!ごめんねぇ……!!ひぃちゃん、ほんとごめんなさい………!!これしか言えないのぉ………!!」
どうにか言葉を吐き出すと同時。何かが決壊したように僕の目からボロボロと大粒の涙が零れる。僕がやった事が脳裏から蓋をこじ開けたかのように溢れ出し、その罪悪感とひぃちゃんにまた隠し事をしたって自己嫌悪感。そして情けなく大泣きする僕を見てひぃちゃんに絶対に幻滅されたと、嫌われたと感情の収集がつかなくなる。
こうなっちゃうともう僕はダメだ。自己嫌悪感が拡がる染みのように心を塗り潰していき、消えてしまいたい。死にたいという悪辣な発作じみた破壊衝動に頭が支配されていく。
痛みだ。もっと痛いのが欲しい。痛みでこの心のぐちゃぐちゃしたのを消したい。僕の心はそうやって直ぐに限界に達し、僕の意思に反して僕の身体はひぃちゃんを跳ね除けて起き上がり、右手はベッドの上に転がるひぃちゃんのナイフへと伸びる。
「!?……あっ、りゅーくん!!こらっ!!」
「ゔぅっ……!!ぐすっ………!!ゔぅぅっ……………!!」
「なんて事するんですかりゅーくん!!」
そして僕は右手に握ったナイフを左手首へと乱暴に振り下ろし、ブチブチという嫌な音と共に皮膚を、肉を裂いていく。すると直に太い血管が鋭い刃によってプツッと音を立て、じんわり拡がるような痛みと共に赤黒い血液が零れ始める。
そんなドス黒い液体が流れ出るのを見ると、自分の中の穢らわしいものが出ていく感じがしてナイフを握る手を止められなくなる。既に僕の身体には生きるのに最低限程度の血液しか残ってないのも忘れ、何度も何度もナイフを振り下ろす。
しかしその右手はやがて彼女の両手によって強く握り締められ、僕はナイフを振り下ろせなくなる。
「りゅーくん、もうやめて………!!」
「はっ……はぁっ……ひぃちゃん、離して………」
「離しません……!!それ以上やったらりゅーくん死んじゃいます……!!」
縋るような声と懇願するような視線。ひぃちゃんの声にはっと我に返り、僕はひぃちゃんとボタボタと血を零す僕の左手を交互に見る。僕の手はどうでもいいけど、ひぃちゃんの表情……あんな必死な顔、初めて見た。僕、ひぃちゃんにあんな顔させて……それにこのナイフ、ひぃちゃんのやつだ……ひぃちゃんに隠し事しただけでも最低なのに。
薄ら消えかけていた罪悪感が再び燻り始め、また大粒の涙が零れる。僕ほんっと最悪だ……男なのに面倒くさいし情けないし、気持ち悪くて穢らわしくて……こんなんだから逃げられるんだって分かってるのに。
僕は僕が誰よりも大っ嫌いだ。どんなに外見を綺麗に取り繕っても中身が腐ってて、どうしようもなく人のことを大事にできない……今だって、ひぃちゃんへの反省じゃなくて自分が楽になりたくてリスカした。そのせいでひぃちゃんにあんな顔させた。やっぱ僕なんてひぃちゃんとは幸せになれない……いくらひぃちゃんの事を分かってあげられるからって、結局は僕が気持ちよくなりたいだけなんだから。
………そう分かってるのに。
「ひぃちゃんごめん……っ、嫌いにならないでぇ………」
「………りゅーくん。」
「お願いだから一人にしないでっ……僕、ひぃちゃんと別れたくないのぉ………!!」
────厚顔無恥とはこういう奴の事を言うのだろう。なんて未練がましい。僕はボロボロに泣き崩れながら、縋るようにしてひぃちゃんの両腕を握っていた。謝るでも止めてくれたお礼を言うでもなく、ただ情けなく『捨てないで』と泣き喚いている。女の子ならまだしも女装趣味の変態男が、だ。あまりの醜態に逆に一周回って冷静になってきた。
涙で視界が滲んでひぃちゃんの顔が見えない。しかしきっとひぃちゃんはドン引きしてるだろう。いくらさっきまで僕のこと大好きって言ってくれててもこれは……余りに酷過ぎる。
………もういっそ振って欲しい。捨てて欲しい。そっちのがひぃちゃんも幸せになれるに決まってる。こんな僕と一緒に生きるなんて苦痛でしかないはずだもの。
「りゅーくん、私………」
「………ごめんね。ひぃちゃん、僕のこと心配してくれたのにお礼も言えなくて………」
「ううん、私の方こそごめんねりゅーくん。りゅーくんが個性のこと聞かれるの、そんなに嫌だなんて思わなかったんです。」
しかもそんな願いに反して、ひぃちゃんから帰ってきたのは優しい声。耳を疑って思いっきり俯いてた顔を上げてしまった。でもそうすると、ひぃちゃんは涙でボロボロになってる僕を見て優しく笑っていた。
………正直意味がわからなかった。けどひぃちゃんは困惑する僕の左手首を掴むと、未だにドクドクと血液の溢れる傷口に唇を付ける。そしてぬるりとした舌を這わすと、ちうちうと僕の傷口から漏れる血液を吸い始める。
『勿体ない』。そう愛しそうに言うひぃちゃんに僕はしばし言葉を失ってしまう。そうしているうちにひぃちゃんは僕の手首の血をすっかり舐め終え、満足そうに喉を小さく漏らす。
「………ごちそうさまでしたっ。」
「ひぃちゃん……僕のこと、嫌いじゃないの?僕ひぃちゃんに嘘ついて……ナイフも勝手に取ってグサグサしたのに………」
「そのくらいじゃりゅーくんの事は嫌いになりません!!急に手首ザクザクするからびっくりしたけど!!」
あまりに裏表もない言葉でそう断言するものだから呆然としてしまった。けどその言葉を噛み締めると、安堵から再び涙が溢れてしまう。そしてひぃちゃんの事をぎゅうって抱き締めると、彼女は僕の背中に腕を優しく回してくれた。
「もう……りゅーくんって泣き虫なんですね!!ほんとかぁいいねぇ!!」
「ごめんねぇ……!!ほんと、ひぃちゃんごめんねぇ………!!」
「大丈夫!!個性の事は、りゅーくんがいつか話せるようになったら教えてください!!それまで待ってるから!!」
そう言ってくれるひぃちゃんの優しさに僕は強く頷いてみせた。それでも一度溢れた涙はそう簡単には止まらず、彼女の優しさに縋るようにして僕は再び泣き崩れた。
そんな僕をまるで赤ん坊でもあやすかのように、ひぃちゃんは僕の背に回した腕を僕の後頭部に回して撫でてくれる。それが余りに心地良くて、温かくて……それに身体から流失した血による倦怠感が合わさって、情けなくも僕の意識は闇の底へと引きずり落とされていく。
………本当に嫌いだ。僕は僕が大嫌いだ。情けないところも、依存しやすいところも。人に迷惑しかかけられないどうしようもない男だと何度も思い知らされる。なんで生まれてしまったのだと命を呪うほどに。
けどそれでも……そんな僕が大嫌いな僕でも、ひぃちゃんにはやっぱり全部を知ってほしい。それでひぃちゃんに嫌われたとしても、ひぃちゃんにもう隠し事はしたくない。
だから、いつか全てを話せる時が来ますようにと。そんな叶うはずもない願いを胸に、僕は消えかけの意識を手放した。
違うんです、トガちゃんって性癖の塊だから主人公にも性癖詰め込んで釣り合い取ろうとしたんです。そしたらなんかえげつない化け物が錬成されていただけで。
トガちゃんはどっち?
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清楚!!純情!!
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エッチ!!