スパイたちの日常   作:固床式

10 / 10
今回ほんとに妄想120%です許してください


単話


ある日のこと。

 

「ねえボス」

 

「あら、どうしたの?」

 

このスパイチームで最年少の少年が尋ねてきた。

 

「スパイでも、死んだら死体は投げ捨てるのか?」

 

それは、劣悪な環境で生き伸びて来た彼ならではの質問。前を向けば。横を見れば。後ろを振り返れば。死臭と、死体と、瓦礫と、敵。スラムという、国の汚点を生き抜いた末に辿り着いた家でも、死体を見て過ごす彼に、答え淀んでしまう。

このチームのボスであり、彼の母親のような存在である彼女には、答えにくい質問でもあった。

 

「そうね、状況にもよるわ。」

 

彼女には、これが現実を伝える言葉としての最大の言葉だった。これ以上は、伝えれなかった。

 

「でも、このチームのみんなはしっかり送り届けたいわね」

 

心からの願い。このチームのボスとして、ここの、この国の住民を愛す者として。

 

「····ふぅん」

 

少年は、まだ何となくしか分からないようだった。

 

「あなたにも、きっとわかる日が来るわ。」

 

少年は、彼女の言葉に耳を傾ける。

 

「きっと、あなたを支えてくれる人達が私たち以外にも現れる。その人たちと、いくつも、困難な任務をこなすことになると思う。それが例え私達でもこなせないような任務でも、チームが分裂するような任務でも、裏切り者が出る任務でも、仲間が死にかけている状態からの任務でも。いつ、どんなときも、その仲間を信じて動く時が来るわ。絶対に。」

 

彼女の目には、迷いは無い。まるで、未来を見ているかのように。

 

「ここ以外に行く意味なんて、ない」

 

少年は、僅かに不機嫌だった。このチームが無くなることを恐れたのだろう。このチーム、いや、家族を失くすという想像は、少年には些か早かったのかもしれない。それを母のような優しく包み込む目で、慈しむ目で見た彼女は言う。

 

「大丈夫よ。あなたは、クラウスはきっと大丈夫。」

 

そっと、添えるように。心からの言葉を贈った。

 

 

 

 

 

いつまでも、心の中にある暖かな家族の思い出。冷たい弔いになってしまったかもしれない。しっかりと、その目で、看取ることができなかったかもしれない。でも、その想いは、確かにここにある。

 

「灯、か。」

 

 

新しいチーム名を呟く。先任の『焔』を引き継ぐ名。新しい仲間の出来る未来。母との思い出は短くとも濃く。師との思い出は、荒くとも優しく。墓標に刻まれた偽の名を、家族の名をなぞる。

彼女の言葉は、どこまでも僕を奮い立たせるだろう。燃え盛る炎のようだった母と、その家族の。その言葉の『灯』を胸に宿し、歩き出す。

 

クラウスはいつまでも、心の中にその『灯』を燃やし続ける。

 

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