知らぬ間に巨大組織のトップ3になっていた件について 作:ないものねだり
とある商人の独白①
この世界には、三つの巨大組織がある。
一つ。『聖伝』を全とし、それを元に作り上げられた教義を元に行動する《教会》。
一つ。『皇帝』を崇め、それをトップに厳正な階級制度を引く《帝国》。
そして──最後。
実態すら誰にも分からず、しかしその存在を誰もが否定出来ない《暗闇》。
それ以外にも、多種多様な大小の組織や国が存在するが、前述した二つの存在が半分近くの大地を席巻していることに相違はない。
さて、ここで誰もが不可思議に思うだろう。何故、『二つ』なのかと。三つの大きな組織があると言っていたではないかと。
それは、既に述べた通り『暗闇』には実体がないからだ。そう、どこの土地で暮らし、どのように生き、誰がトップで、どのような制度に基づいているのかすら不明な謎に包まれた存在。
それこそが『暗闇』である。
さて、ここで自己紹介。年齢二十二、性別女、名前はリゼア、苗字はソート。
『暗闇』と呼ばれる組織の、《第三席》をいただく、一介の商人である。
……まあ、私は嘘偽りのない、ただの商売人なのだが。
◆◇
最初は子供の遊びだった。いや、私は今でも遊びのつもりである。と言うか、そう思わないとやってられない。
──私達はとある村の仲良し三人組であった。集まって、遊んで、夢を語り合った。仲違いして、喧嘩して、そして仲直りをした。
やがて、一人が妙なことを言い出した。
『組織をつくりたい。結構大きな。夢はビッグに、レッツ覇権』
元々、『世界を平和にしたい』とか真顔で言っていた娘だったから、あまり気にする事でもない。そう思ってその娘が適当に名付けた、これまた目的すら適当なグループ、『暗闇』の立ち上げに参加した。と言っても、私達三人だけの小さなお遊びみたいな物だった。……その時は。
その後少し話し合いをして、次の日には普通に遊び始めた。ちょっと遊びの内容も変わっていたが、十三になろうかという私はそう言うものか、と一人納得したのだった。
やがて、私達はバラバラになった。
『もう、個々人で活動する時期。あんまり会えなくなる。悲しい。でも、絆はフォーエバ……それじゃ、またね』
そう言って、いつも集まっていた廃れ小屋から、リーダー格の娘はするっと消えた。それに追随するように、もう一人の娘も消えた。たった一日での出来事だ。中々個性的な友人達であったから、まあそんなもんかと納得した。
そうして、私は昔からの夢であった『世界を旅する商人』とやらを目指し始めた。
ふらりふらりと様々な国を訪問し、あんまり美味しくない焼き肉や微妙な風味の調味料を適当に売る。
これを続けていただけ。
まあいいかな、なんて思っていた。物珍しさからか、稼ぎはまぁまぁ。師匠的な存在もいるから最悪もカバー出来てる。共に旅する友人も出来た。
友人と言うよりも『用心棒』の意味合いが強いが、それでも友達は友達である。冗談を吐き合って、たまにボードゲームをする。なかなか強い娘なので、私もやりがいがある。
余談だが、私はボードゲームが普通に好きだ。かなり好きと言っても良いかもしれない。
戦術を考えるのが好きなのだ。定説、と言おうか。決まり切ったそれも楽しいのだが、自分で考えたそれが決まるのには極上の楽しさがある。
閑話休題。
さて、こんな安定したようでしていない生活を続けて数年になろうか、と言ったところだ。
とある国に留まろうと、宿を取った時である。コン、コンと窓から音が鳴るではないか。
私はこれまた酷く驚いた。ホラー物は嫌いなのだ。本でも余り好かない部類である。
しかし謎の負けん気があったのが幸いか、ビクビクしながら私は窓へ向かった。カラカラと乾いた音を立てて窓を開く。
しかし、誰も居なかった。誰かの悪戯かと思い下を向くと、おや、と眉をひそめる。
ポツリと紙が置かれていた。風で飛びそうになりながらも、どうにかそこに留まってパタパタと揺れている一枚の紙。
私は紙を取り上げ、微妙な顔をして──そして、目を見開いた。
『明日、昼過ぎ。誰も付けずに東漠通りの《卵楽亭》へ。目印は赤のスカーフと緑の靴』
びっくりした。まあびっくりした。一人で来いとか、以外とお高い《卵楽亭》を指定するところとか、そういうのを抜きにして。
なにせ紙には最後、こう書かれていたのだ。
『──絆はフォーエバ、フロム《暗闇》』
その頃は《暗闇》なんて誰も知らない組織で、私ですら忘れかけていたレベルの名前であったし、なによりこの独特な筆跡と語り口。私が次の日、いの一番に卵楽亭へ向かったのも当然のことと言えよう。
ちょっと用心棒の娘から怪しまれながらも、なあなあで済ませ駆け足で。
そして、私は久方ぶりに会ったのだ。
──とんでもないことをやらかしたとほざく、かつての友人に。