知らぬ間に巨大組織のトップ3になっていた件について 作:ないものねだり
『おひさ、リゼア』
そう声が掛けられたことを、今でも思いだせる。かつてと変わらぬ死んだようにのっぺりとした白銀の瞳に、スカーフの上でゆらゆらと揺れる黒色の髪。
レーラである。私達の中で一番突拍子のない行動をしていた、かのレーラである。
私は満面の笑みで迎えた。無下にする理由など無い。溢れんばかりの歓迎の意を持って、挨拶をする。
そうして、しばらくは昔話に花を咲かせた。
しかし、風向きが変わったのはその数十分後。無駄に卵を使いまくった食事に、少し飽き飽きしていた頃だ。
もしかしたらそんな私の顔を見て、『そうだ、刺激的な話をしよう』と彼女が気を利かせてくれたのかもしれない。そんな配慮はいらないと、今なら胸を張って言える。
彼女は、世間話のノリでポツリと言った。
『近々、帝国から《暗闇》当ての手配書が出される。今のところ、《そう言う名前である》と言うことしか割れてない。けど、念の為活動を抑える。
水面下で用意はするけど、目に見える活動はしない。よろしく』
『は?』である。紛うことなき『は?』であった。
数秒笑顔で停止して、ぎこちない動きで軽く頭を動かす。しばらくして、納得した。
なるほど、レーラも久方ぶりの再会で緊張して下手な冗句を言ってしまったのだ。
そして、凍り付いた笑顔で口を開こうとすると、レーラはちょっと早口で語り始めた。何故か分からないが、焦っているようだ。表情が変わっていないので分かり辛いし、あまりにも微細な違いだが、これは焦っている時の反応だ。
無駄にレーラについて知っている私は、そう考えながら長々と話を聞いていた。
『──違う。安心して、リゼア。これは転機。私達の素性も、名前も割れることはない。そこはシトラが保証してくれた。
だから、寧ろ今回は名前を売れたことを喜ぶべき。逆にそれを利用する方法も──』
既にこのあたりから私は頭がポカーンとなっていた。勿論、顔は笑顔のままだ。これは商人として大事なスキルであると師匠から口酸っぱく言われていたので、どうにか意地で保っていた。
だがしかし。長々と語られても、思考を停止した私に何か入ってくるわけもなく。
やがて、『──だから、大丈夫』と自信満々に言い切るレーラに、私は笑顔で頷くことしか出来なかった。
そして、一応レーラの連絡先を貰い、うつらうつらとした頭で宿に戻る。用心棒の娘にちょっと心配されながらも、私はベッドに突っ伏した。
しばらく放心し、出した結論は一つ。
『これは全てレーラの妄想である』
そう考えると頭が楽になった。翌日には全てをさっぱり忘れていた。
──一ヶ月ほど後、用心棒の娘が『そう言えば、帝国から新たに指名手配された組織がいるらしいですね』、と言われるまでは。
お店辺りの事業はレーラの管轄だったりします。