知らぬ間に巨大組織のトップ3になっていた件について   作:ないものねだり

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リリガリア独立運動
懸念


 「それでなんですが……ここはどうですか?」

 

 「ん、あぁ。まあ、数日程度の所感だけど、やっぱり人の出入りが多いね」

 

 カチャカチャと言う音は、食器とフォークがたてる音。目の前のセアは既に食べ終わってしまったようで、こちらを見遣りながら時折銀の杯に注がれた水に手を伸ばしていた。

 

 今滞在している町、リリガリア。

 

 名目上帝国の交易都市として発展したここは、広漠の国と呼ばれるエルと接する故に少々特殊な場所である。

 要するに、エルの人々が帝国へ入る出入口の役割を果たしているのだ。

 

 さて、そんなリリガリアでしばらく売りに入ろうと思っていたのだが……ちょっと問題が発生した。

 

 「売り上げはどうです?」

 

 「結構良いよ。ここ数日で数ヶ月分は入った。他へ卸すことも考えたら、次の場所への旅費と宿代には充分以上だろう。

 今日の夜はちょっと贅沢しようか。良いところを取ってるから、楽しみにしといてくれ」

 

 「良いじゃないですか!では、しばらくここに滞在するので問題ない感じですね!」

 

 「あー、それなんだけどね……」

 

 口をもごもごと言い淀める。宿の配膳人を横目で眺めながら時間を稼ぐ。

 

 懸念点はある。と言うか、懸念点しかない。

 

 先ほど報告された《暗闇》の計画案。連邦政府を樹立する、と言う趣旨の物だが、これの一案に『リリガリアの独立』が入り込んでいたのだ。

 

 計画を聞き流していたところでリリガリアという名前だけ耳に入り、慌てて真面目に聞き始めたのでほとんど何も分かっていない。どうにか前述の内容だけ読み取ったのが限界であった。

 いつそれを行うのかすら分からない。誰がどのようにそれをするのかすら分からない。

 

 リリガリアの特殊性や成り立ちを鑑みれば、多少のやりようは予想出来るが、もしそうなるととんでもない混乱がここに巻き起こる事になる。……黒服に言われた事が頭によぎった。確かに、レーラはこの計画を嫌うだろう。

 

 そうして、一通り回想した後、私はこの計画の立案者を思った。金色が舞い散る満面の笑みを幻視する。自信満々の高笑いを幻聴する。

 

 ……なんてことをしてくれてるんだ、シトラ。

 

 「なにか懸念点でも?」

 

 「いや」

 

 怪訝そうな青色の瞳が目に入る。セアが不思議そうに首を傾げる。周りのざわざわという雑踏が鼓膜に響く。

 

 こう言うしかないではないか。恨むぞ、シトラ。そして私は笑顔を作り、言った。

 

 

 「……懸念点なんて、これっぽっちもないさ」

 

 

 ◆◇

 

 

 「いりませんかー、東欧の国、トーラの素材たっぷりの調味料ですよー」

 

 適当な声掛けを喉から絞り出す。ちなみに、トーラとは紫色のヤバい色した虫の事である。私が取り扱う商品の中でも特別ヤバいやつだ。

 

 お蔭様で、予め商品を卸す予定だった小売店の方々はこれだけは止めてくれと懇願された。本来なら説明すらしたくなかったが、しないのは説明義務に反する。大陸全土で定められた規定には従わねばならない。

 まあ、物珍しいと言ってもこのレベルになると『珍しい』なんて言って買ってる場合じゃなくなるのだろう。買われないのも当然のことと言えた。と言うか、私も説明するまでもなく取り下げたかったレベルなのだ。

 

 にしても、と辺りを見渡す。煌々と太陽が大地を照らしているそこに、行き交う人々。

 そこをめぼしい場所と見たのだろう。私と同じような商人……いや、売れ残りをわざわざ直接売る商人なんかいないか。

 

 まあ、つまりは店の人々が売りをしていたのだ。

 

 「さぁ寄った寄った!今が旬のノノレア鳥の蒸し焼きだよ!」

 

 「新鮮な春野菜!ここでは珍しい、トウトク草もあるよ!!」

 

 声を張り上げ、身振り手振り。正直なところ、私はあんな感じのが『商人』だと思っていた時期があった。

 しかし、実際のところ儲かる商人とはほとんど買い手と話をしない物だ。特に、『流浪の商人』なんかを目指そうとすれば尚更だった。

 

 なにせ、ああゆう生き方が成り立つのは地域と密着しているからに他ならない。信用も実績も、なにより安全もなさそうな私の売店で物など、到底売れる訳がなかった。

 隣に立つセアが組んでいた腕をだらりと下げ、腰の剣に手を掛けながら左右を見渡す。

 ちょっと脅しているように見えなくもない。うちの店の前だけ人足が速くなった。

 

 脅しているな、これ。

 

 「……売れませんね」

 

 「私からすれば、これで売れたら驚きかな」

 

 「むむ」

 

 「売れなくていいんだよ。そもそもうちは、現状金自体には困ってないんだし」

 

 難しそうに顔をしかめるセア。この子、見た目は良いのだが、余りにも物騒過ぎて売り子は出来ない。

 昔やりたいと言い出したので、売店を任せてみたのだが、目を離した隙に剣を取り出しズバンと一撃。

 

 セア曰く、『殺気を感じたので』らしいが……それで買い手に斬りかかったら苦労しない。頬と服に傷を負った男は、逃げるように帰って行った。

 

 懐かしいな、またやりそうで怖いな、なんて思っていたら、セアはこちらを向いてポツリ。

 

 「……そう言うものですか?」

 

 「そう言うもんだよ」

 

 そもそも売れたら困るのだ。

 

 

 これ、食べられるだけで火薬なのだし。




章管理という物があったので纏めてみました。それに伴い題名も変更。

逆に読み辛ければ教えていただけるとありがたいです!
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