知らぬ間に巨大組織のトップ3になっていた件について   作:ないものねだり

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信念

 売れない調味料をしばらく売りに出してみたところ、やはり売れない物は売れないのだと結論した。もう日も暮れそうである。諦め時だろう。

 やはり紫色はダメだったのだろうか。売れても困ると言ったが、少しは売れてくれたら嬉しかったのだが。

 もう二度とトーラ虫なんぞ仕入れんぞと言う決意と共にため息を付き、店仕舞をしようと──

 

 「──一つ!貰えるかしら!!」

 

 カチャリ、と隣で音がした。セアが臨戦態勢へと入ったのだ。

 いや、それは良い。まだそれは良いのだ。

 

 なによりも問題なのは、この声に聞き覚えしかないことである。自信に満ち溢れた声には、己を絶対と信じて疑わない者特有のそれが充足していた。

 

 ゆっくりと、店仕舞の為に下げていた顔を上げ、目の前を捉える。目に入ったのは予想していた通りの存在。

 

 「……シトラ」

 

 「知り合いですか?」

 

 セアの呟きに小さく頷く。相変わらず、()()()()()()友人だ。

 

 私達三人の中で最も突拍子がないのがレーラであるとすれば、私達の中で最も()()()()()のが彼女である。

 

 爛々と煌めくは金色の輝き。溢れんばかりのその自信は、かつてと変わらぬ眩しさを放っていた。

 

 「奇遇ね、リゼア!久しぶりだわ!!」

 

 奇妙な事に、周りの人間には欠片も注目されていなかった。彼女の放つ、いかんせん常人とは言い難いそのオーラにしてはあり得ない事である。

 

 だが、今はそんなことをセアに説明している場合ではない。

 

 「奇遇だね、シトラ……それじゃあ、場所を移そうか?」

 

 「ええ!異論はないわ!!」

 

 『リリガリアの独立』。シトラがここに来た事にはこれが関係しているのであろう。ならば話を聞かなければならない。

 そう考えた私はのそのそと、だが確かに動き出した。

 

 

 ◆◇

 

 

 「──では、ごゆっくりお過ごし下さい」

 

 「うん、ありがとう」

 

 ウェイターは軽く一礼。カツカツと言う音をたてて姿を消す。それを見届けると、シトラがニコニコとした笑みで私に向いた。

 

 「良い店ね!!広いし、綺麗だわ!!」

 

 「ここはそれなりにするからね。まあ、君からすれば余り高くないかも知れないけど」

 

 「あら?!心外よ!!確かにお金はあるけどね!!そういうことじゃないの!私は『皆』の視点に立ちたいのよ!!」

 

 セアが凄い顔をしてシトラを見ているが、それも頷ける。なにせ、ここは高級料理店。

 エルの特産品と帝国の豊かさが相まり出来た、かなり評価の高い店だ。勿論そんな店なのだから、ここで大声で騒ぐ人は嫌な顔をされて当たり前。なんなら摘まみ出されて然るべきである。

 

 だが、シトラは違う。なんせ、彼女は特別なのだから。

 

 「うん、セア。一応説明しておくと、シトラは『加護』持ちだよ」

 

 「そうね!!与えてくれた偶然と運命に、私は感謝しているわ!」

 

 「ああ……なるほどです」

 

 ちなみに、感謝しているとの事だが、本心からならシトラは相当な極善人である。かなりこの加護に困らされてきたからだ。

 

 さて、見れば一目瞭然であるが、この加護の特質すべきは『気付かれない』ことである。勿論こんな大層な賜物、なんの訓練も受けていない一個人がまっとうに制御出来るわけがない。

 故に彼女は私達と会うまではほとんどコミュニケーションという物をとったことがなかったらしい。今はこんなんだが、初期はなかなか扱いに困った物だった。今はこんなんだが。

 

 そこで、セアが薄い警戒心を滾らせている事に気が付く。

 

 「あー、そんなに警戒する必要はないよ、セア」

 

 「そうね!!だって私、とんでもない運動オンチなんだから!!」

 

 「……えぇ?なんか警戒してる本人から言われるとアレですね、違和感です」

 

 「そうかしら!私は私を嫌いじゃないわ!!だから、自分を隠すなんてしたくないの!!」

 

 「なんか眩しいです、この人」

 

 相も変わらぬ素晴らしき前向き思考であった。掌で目を隠すセアも、特段嫌な雰囲気は見えない。

 こう言うところが、私がシトラを好きなところでもあるのだが……さてはて。しかし、話が進まない。取りあえず、目下やるべきは一つだろう。

 視線を下へ移す。

 

 「そろそろ食事、始めようか」

 

 早くしないと冷めてしまう。私は湯気を立てる食事を前に、ゆっくりと手を合わせた。




 加護についてですが、シトラに限らず、リゼアとレーラも加護持ちです。片方はもう使えないですが、一応残ってはいます。
 そして、この加護がそもそもの勘違いの元凶と言っても過言ではありません。
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