仮面ライダーレギエル   作:さわたり

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第二章
第九話「紅の魔術師」


「雨野菜摘の場所は聞くだけ無駄らしいな」

 

炎が巻き起こり、タオの装甲を簡易フライパンへ変える。当然金属ではなく、耐熱性柔軟性に優れる樹脂なのだが、そういう問題ではもはやない。

 

「……っぐ」

 

「私は別に人間どもに興味があるわけではない。殺しがしたいわけではないのだが」

 

黒と白のシェイドは、鳥のような顔立ちに牙、毛、蛇のような鱗。見るからに悪魔という姿をしていた。迫るタオを押しのける、圧倒。

 

「どこにいる?レギエルは」

 

「お前は何者だ!」

 

「質問に質問で返すのは無礼だと思うがな」

 

『ミチくん大丈夫!?』

 

「問題ない!」

 

「誰と話してるんだ貴様は」

 

首根っこを掴みつつも最後はいら立ち気味に頭突き。ひるむタオをさらに蹴飛ばし、炎で追い立てる。熱い、痛い、苦しい。それでも、何故か服やスーツは燃えず熱だけ伝わる感触。悪魔の炎だ。

 

「待たせたわね!」

 

バルトチェイサーに乗った春子が、タオへ投げ渡す、新装備。武器だ。

タオブラスターと同じほどのサイズのその銃。全体的に十字を模したそいつを受け取れば、明路の視界へどんどん説明書が。

 

「なるほど、そうまでして雨野菜摘と会わせたくないようだ」

 

「そうなるな。ところで春子。これは……」

 

「浅井さんは大反対だったわよ。でもあたしが説き伏せた」

 

春子が続けて投げ渡す、月のアルカナキー。それを十字型の銃改めゴスペルブラスターへセットした。

 

『コッフオル』『ムーン』

 

「コッフオル……そういえば名簿に居たな、奴も。奴は」

 

「ベラベラうるさいぞ!」

 

『Ji-Du-TAO!Moon!That Lunacy!』

 

「っぐぁああ!!」

 

悲鳴を上げたのはタオの方。手が焼け、ぶっ飛ばされる反動とともにタオがぶつかり、バルトチェイサーが倒れ込む。バイクには傷ひとつつかないのがさすがではあるが。

とはいえ不発ではない。着弾点に放たれた霧が、シェイドへと幻覚を放つ。

 

「っ……!」

 

「チャンスって言いたいけど……明路アンタ大丈夫?」

 

「ああ、大丈夫だ!」

 

その身を奮い起こす彼をよそに、シェイドはまともに取り合うつもりなし。あたりに炎を放ち、姿を消した。幻覚に付き合う暇はないという判断だろう。

同時に何か緊張の糸が切れたのか、タオが膝をつきかける。それを春子が支え、部下の乗るバンへ。彼女がバルトチェイサーに乗り込み道を引き返す。

 

 

 

 

 

 

 

第九話「紅の魔術師」

 

 

 

 

 

 

大きな怪我はないが打撲と疲労が見られ、何より手の火傷が射撃の邪魔になる。次タオが出るなら春子が行くとの事で決まった。

明路に申し訳なさそうにする反面、留一と春子はお互いを牽制しあうような視線だった。

 

「……どうかしたのか?」

 

「いーえ?別に」「いやぁなんでも」

 

「? そうか」

 

妙なところで息は合っているが。

 

「不甲斐ない。俺は負けて怪我をすることが多くないか?」

 

「前線に出て戦ってりゃね」

 

今回はベッドではないが、それでも包帯の巻かれた右手に思うところはある。

 

「雨野君は……あまり巻き込みたくはない。今日は特にだ」

 

「今日はミチ君特有の強迫観念~~!って感じではないよねえ」

 

「そうねェ……」

 

「とりあえず、ミチくんは自宅療養じゃない?右手……特に手のひらをいたわってほしいから料理は困るけど!」

 

「まあそうね。電車乗って帰るのはできそう?」

 

「俺の自宅は徒歩圏内だ。心配してくれて助かる。今の俺にできるのは休息、胸に刻んでおかねば」

 

「できることを……」

 

「出来るときにやる、そうだな」

 

明路はそそくさと準備し、自宅へ。残された留一と春子はお互い視線をぶつけ始める。

 

「で~?私の反対を押し切って悪魔の力を使わせた感想は?」

 

「相手を撤退させて明路の安全を確保できたわね」

 

「ミチくんの火傷を代償にね」

 

「これからの課題が分かってよかったじゃない」

 

「ああ言えばこう言うってこういうことだねーーーー」

 

「あら?アンタがかみついてくるって珍しいじゃない」

 

メンチを切るといって差し支えないにらみ合いの状況。迫る目と目。芸人同士ならキスになるその距離を、割って入るように扉の音。

 

「危なかった。忘れ物でな」

 

明路である。一瞬で戻り、何事もなかったかのようにふるまう2人。携帯電話を持ち上げ立ち去る明路をにこやかに見送ると、改めてにらみ合い。

がらら。

 

「すまない、渡し忘れだ」

 

また一瞬で元の場所へ。明路がタオイズムドライバーを春子に渡し、あんた疲れてるのねなどと軽口。戸を閉じて立ち去る明路を見送り、第三ラウンド。事前に打ち合わせでもしたかのように再開するにらみ合い。

そこに、がららと扉の音が割って入り。

 

「「しつこい!!」」

 

「はッヒ、え、ごめんなさい……」

 

ゴスペルブラスターを届けに来た明路の部下を、震え上がらせるのであった。

 

「で?アンタ的にどうするのよ」

 

「どうしようかな~~」

 

部下も立ち去り再度サシへ。いい加減真面目な話を始めるあたり、大人なところは大人である。

議題は当然ゴスペルブラスター。

 

「まーね?部隊名に「霊符」を提言した所から続く道教コンセプトにそぐわないとこ!まーーいい、これぐらい全然いい!カッコいい事はモチベアップに大事だけど、デザインの系統の統一性とかそういうのを気にするほど君もミチくんもオタクじゃないのは分かるし!」

 

「何が言いたいの?」

 

「前置きにそれ言っちゃおしまいだよん」

 

「てか何レイフって」

 

「知らなかったっけ。霊符だよー」

 

「……そんなに道教にこだわるのは何?」

 

「コンセプトだよ、コンセプト~!」

 

フフと笑う妖しい笑み。無駄に胡散臭いところもあり、真意でもあるのか単なる好みかはいまいち判断しかねる所がある。

 

「で?本題は」

 

「危ないんじゃないのォ??君はヘイナとしての経験があるからともかく、人間が使うにはハードルが高いとか、さ」

 

「だから機械や技術を通すのよ。抽出機だって科学技術。作ったのが悪魔で、使用者が悪魔というだけ。どの人間だって形而上肉体を持っているし、アルカナキーによる湧出の誘発はできるはず」

 

「韻踏んだ?」

 

「湧出の誘発、YO。うっさいわね」

 

「気になる問題、簡単なことかい?アブねえ絶対、」

 

「韻踏まない。だいぶ無理してるじゃない」

 

「まあ何はともあれさ~。抽出機だってあまり安全とは言い難いと思うんだよ。矢沢裕香を見る限り、どんどん形而上肉体と形而下肉体の境目ゆるくなってるじゃん?今回戦った炎のシェイドだって、多分その類だよー?」

 

「じゃあやっぱり形而上肉体を使う考えはやめるわ」

 

「あら素直」

 

「明路を無理させたいわけじゃないのよ」

 

眼を逸らし気味にうつむく彼女。その様子を、呆れ気味に留一が笑う。

呆れの対象は春子自身じゃない。

 

「なんだってこれで気付かないかなあの朴念仁は」

 

「あいつは鈍感なぐらいでいーの」

 

「こっちからすりゃもどかしいけどねかなりー!!」

 

「結局ゴスペルブラスターはどうすんのよ!」

 

「あっはいはい。んー、タオのスーツ側にちょっと細工した方がいいよね」

 

「あの火傷は強制的に形而上次元に在留している力を呼び起したためね。形而上肉体と同じ段階にクッションを作る必要があるわね」

 

「よし、じゃあ考えようか」

 

分野は違えど、技術者同士で共鳴する者はあるらしい。

 

 

 

曇り空。

湿気った空気が冬前の寒さと混ざり妙な攻撃性すら感じる。昔プレゼントでもらったマフラーを巻き、雨野菜摘は戸を叩いた。誰からもらったかは、言うまでもないだろう。

 

「……あ、ナツ兄」

 

「ユキちゃん、元気?」

 

「元気~?はこっちの質問だよ!」

 

彼を招き入れるのは地島池雪(ちしまちゆき)。湖冬の妹である。

彼が来ているのは、湖冬の実家だった。

 

「菜摘君!」

 

「お義父さん……お久しぶりです」

 

湖冬の父、海幸(みさち)。彼はお義父さんと呼ばれて、寂しげに笑った。娘が行方不明になって、3年。

その喪失もだが、娘とずっと、幼稚園に入る前から仲の良かった青年がする顔が、あまりにも苦しめる。

 

「ナツ兄、大丈夫?」

 

「ユキちゃんはやさしいね。来るたび言うじゃない。しかも結構な頻度で来てるよ僕」

 

「住んでもいいんだけどね。パパ的にもいいでしょー?」

 

「……まあ、な」

 

「あれ?反対?冷たっ」

 

湖冬の父は、少し惑った末に言葉を選び始める。

 

「菜摘君を……娘にしばりつけるのは」

 

「そこは心配しないでください。いずれにせよ僕は、あの家を出ることはできません」

 

湖冬との思い出の詰まった家。

ずっと綺麗なままの彼女の部屋。

 

「俺は……君が雨野家へ住むことを勧めるよ。義父さん呼びだって、やめてくれて構わない」

 

ふらふらと書斎へ立ち去る海幸。高校生、思春期の娘は、少し複雑そうに頭をかいた。

 

「パパの言うことだって分かるけどさァ。私はナツ兄みたいなお兄ちゃん、ほしかったし。てか、ずっとお兄ちゃんみたいなもんだったし。今更他人ヅラむりだよ」

 

「……僕からしても、君は妹だったし、地島さんも、お義母さんだよ」

 

ゆっくり、仏壇の前に座る。

 

「今後それが変わる気もしないよ」

 

線香を立て、手を合わせ。座布団を取りちゃぶ台へ腕を預けた。

 

「これ、フユ姉のデザインなんだってね」

 

何気なく掃除機をつけ、そのまま畳にかけ始める池雪。来客だと考えると無礼だが、兄がいる部屋で掃除機をかけると思えばなんら変なことではない。

 

「僕も買ったよ、それ。別に売り上げからの歩合でも何でもないから、彼女へのお金が増えるわけじゃないけど」

 

「そうなの?ちょっとはナツ兄の生活の足しになると思って買ったのに!」

 

「湖冬のお金に手を付けるわけないじゃない」

 

「夫婦なのにー?」

 

「婚約者ね。一緒に使うものは一緒に払うだけで、まだちゃんと一緒に財政管理してるわけじゃないし」

 

「ふぅん」

 

掃除終了。彼女のデザインした掃除機は少し淡白で地味だが、持ちやすく動かしやすく片付けやすい。機能性重視のそのまとまりは、洗練された雰囲気があった。畳の部屋には若干浮くが、シンプルな内装の……例えば菜摘と湖冬の部屋には似合うだろう。

 

「賢君とは最近どう?」

 

「もう別れた!」

 

「あ、ごめん……」

 

「ほんとだよー!!あんたたちのイチャイチャを見続けた立場としちゃ、勝手にあんたたちみたいな関係にあこがれちゃうのー!」

 

「そこは僕悪くないって」

 

「じゃあフユ姉のせい。最後までちゃんと添い遂げろよバカ」

 

「……うん」

 

思い起こされる光景、男の手に握られる魔術師のキー。怒りが爆発しそうになるのを振り払い、いつも通り、にこやかに。

 

「……警察に任せなよ?」

 

「何が?」

 

「ナツ兄、犯人自分で探したりしそうじゃん」

 

図星である。それどころか警察と手を組んでることに関しては、さすがに見抜かれないようだが。

 

「大丈夫だよ」

 

「どーだか。てか、バイクどしたの?なんか赤黒のやべーバイクになってたじゃん、トゲとか鎖が似合いそう」

 

「前のバイク事故っちゃって」

 

「え、大丈夫?怪我無いの?」

 

「うん、置いてたやつが壊されてね。犯人は目の前で捕まってたから」

 

「あそー……壮絶だね。で何、趣味が変わったと」

 

「指抜きグローブとかつけようって考えてる」

 

「イケメンだしまあ許されるよナツ兄なら」

 

けらけら笑うさま。湖冬より軽い性格だが、笑い方なんかは若干似ている。

 

 

やはりド昼間に飲むとなると、ノンアルでもビールははばかられる。ウーロン茶を片手に肉を焼く、不思議な昼食が始まった。七輪を挟むのは、春子と留一。

 

「なんかデートみたいでヤだ」

 

「心底嫌そうに言われたらさすがに傷つくよ私もー」

 

「あんたみたいなふわふわしたの苦手なのよ。あ、恋愛に限ってよ?」

 

「じゃなかったら普通にディスられただけだしねえ!!ミチくんみたいな真面目ちゃんが好きなんでしょ?ま、男を見る目はあると思うよ~」

 

「そうね。あんたはそういう浮いた話ないの?」

 

「話のタネが高校生。」

 

「いーでしょ別に。オンナは恋の話が好きなのよ」

 

「主語でっかいなあ~~。ないよ」

 

「ある顔ね、それ」

 

「めんどくさ!!」

 

「言いたくないならいいわ。ただちょっと心配なるじゃない、齢30で独身は」

 

「えっじゃあ今までの全部私がみっつ上って理解した上での狼藉??? 現代じゃ珍しくもないでしょ」

 

それぞれが育てた肉はそれぞれで食べる。特に奪い合いがないのは案外普通の程度の食い意地だ。2人の喧嘩は日常の戯れなのである。

 

「あたし結婚出来るかしらねえ」

 

「ミチくん云々を一旦忘れると……どうだろうね。うん。まあ美人だし別にすごく性格悪いってわけではないかもだし……」

 

「頑張ってフォローしないでよ」

 

「冗談だよん、できるんじゃない?君仕事だってすごいデキるし」

 

「適当言うのね」

 

「……ミチくんと結婚できるといいねー」

 

「茶化さないでよ!」

 

「逃げ道がない!!」

 

 

 

 

「いただきます」

 

「いただきまーす!」

 

「……いただきます」

 

普段は池雪が作る夕飯だが、今日は菜摘が中心。うまくなったねと言い出すと、湖冬がいないからと。

菜摘をつつくと、どう頑張っても湖冬の話が出てくる。それゆえ彼自身はあまり気を遣わせないようにしていて、それがむしろ自らを苦しめる。

 

「フユ姉ってやっぱり料理もあんな感じなの?」

 

「毎回計量カップ使ってた」

 

「っふふ、フユ姉って感じ」

 

「一緒に頑張り始めたところだったって感じかな」

 

「……そっか」

 

「っはは、いつの間にか僕だけ上手になっちゃって」

 

そっか、池雪は小さくそうつぶやく。海幸はただただ静かに食事をする。

優しく明るい父。そもそも、池雪の性格だって父似だ。いまはただ思い悩むだけの姿。当然、それがむしろ菜摘を痛めるだけだとわかっているし、たまに無理して明るい様子を見せたりもするのだが。

 

「……ごちそうさま!」

 

「ごちそうさまでしたー!」

 

「ごちそうさま」

 

久しぶりに、3人以上の食事だった。

とはいえ菜摘は月に一度か、ふた月に一度ほどは来るのだが。

 

「じゃあ、また来ます」

 

なんだかんだ、夜になるぐらいまでは居た。大体は池雪と近況を話したり、姉譲りのゲーム好きの彼女と遊んだり、そんな感じだ。

義理とはいえ、仲のいい兄妹だろう。……法的にはそんな関係など無いが。

 

「じゃねー!ナツ兄無理しないでよ!」

 

「分かってるよ!」

 

「菜摘君……。また、いつでも来ていいからな」

 

「ええ、ありがとうございます」

 

結局、「彼のために突き放す」なんてことはできない。自分の弱さを嘆きながら、ひどく小さく見える菜摘の背を見送った。

 

 

「ご実家に来ていると思ったよ」

 

「……?」

 

雨が降る、夜早く。菜摘の前に立ったのはきちっとした格好の、背の高い男だった。手袋をきゅっと整え、手を伸ばす先、アルカナキー。

 

まごうことなき、魔術師のアルカナキー。

 

「  え?」

 

「不本意なのだがな……ルシファー様のご命令だ」

 

『アモン』

 

いつも通りの冷えた声で、キーが告げる。

外した手袋にさらされるその手は、いつもどう引き裂こうか考えていた、冷たい雰囲気の手。

 

『マジシャン』

 

その手に付き立てられる鍵。内側からあふれ出るように、その姿が変わった。

シェイド。明路が撤退を許した、炎の悪魔。

 

雨が白く息を立てて、焼ける音が響く。

黒と白の悪魔が、シェイドアモンがゆっくり菜摘へと迫った。

 

ぶつんと、頭の血管がブチ切れるような感覚。

 

 

「ああああああぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!!!!!!」

 

『解放』

 

絶叫。駆け抜ける菜摘の肉体を押しのけ蹴り飛ばし、レギエルが拳を構えた。

 

 

 

 

「アモン……マジシャンは彼でしたか」

 

「ガブリエル……?」

 

先に帰宅した春子を見送り、その部屋にただ1人残される留一。声をかけたのは、件の天使改めガブリエルだ。

 

「いかにも。あなたに伝えた意味、くれぐれも考えることです」

 

「あんたはいつもそうだね」

 

特に、気に留めず。ガブリエルは瞬きの一瞬で姿を消す。

 

愚者、留一の手には、アルカナキーが握られていた。




次回、「緋色の覚醒」
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