仮面ライダーレギエル   作:さわたり

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第十話「緋色の覚醒」

レギエルの拳がぶつかろうともびくともせず、炎をまとった蹴りが叩きつけられる。

 

「弱いな」

 

「黙れえええええ!!!!」

 

「私も貴様とお話しする気など無い」

 

今度は手のひらで受け止め。グイっとひねり、姿勢を崩す彼を思いっきり蹴飛ばした。

 

「アモン、覚えたぞアモン!!」

 

「だからなんだ」

 

蹴とばされ空中を舞うレギエル。翼を広げ姿勢を立て直し、空中から迫る。

 

「無駄な」

 

「どうだろうね!」『ラミレシア』『正義』『強制解放。介入、開錠、解放……正義。その、均衡』

『第二体抑制解放・正義強制』

 

再び上昇し振り下ろす大剣。それを炎が受け止めるが、気に留めずさらに力強くねじ込む。

 

「なるほど……なァ!」

 

押し返されるのだが。

 

「……ぐあ!」

 

「愚かなものだ」

 

「うるさい……うるさいッ!」

 

「うるさいのはどっちだ?」

 

地面を這うレギエルを蹴飛ばし、首を鳴らす。そうして拳を振り上げたとき、アモンの身を弾丸が襲う。

 

「またか!」

 

「明路さんは手を出さないでください!!」

 

「なんもかも不正解!!明路は来てないし、手を出さないどころかあんたにも戦わせない!」

 

タオブラスターを捨て、駆け抜けた春子は生身。二度も三度も食らうかと身構えるアモンへ、春子は抽出機を構えつつ向かう。

 

『ハイプリステス』『融合解放』

 

シェイドハイプリステスが地面を蹴り、放たれる電撃の閃光。最後に目を伏せたアモンにムーンのキーを突き立て。

 

『コッフオル』

 

「……何っ」

 

幻覚の時間の始まりだ。その身を雷にしてその場を去り。霧と幻覚が晴れればその場には誰ひとり居ない。

アモンを除き……いや、彼もか。

 

「調子はどうだい?」

 

「……黒田。馴れ馴れしいぞ、ルシファー様はお前を取り締まる姿勢を見せているのだ。お会いし明確な指令があればお前など消し炭にしてくれる」

 

その姿はスーツの男へと戻り、壁に腰をかけた。

 

「天使ひとり逃すのに?私自身が出た方がいい奴かな?」

 

吊られた男のキーを回す彼を疎む、視線。アモンはただ踵を返すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

第十話「緋色の覚醒」

 

 

 

 

 

 

 

国立科学博物館。新しい企画展示は東南アジアに注目したモノである。冬休み前のこの時期はいささか地味な展示で、おそらくこれの次は恐竜でもやるのだろう。

オフで会う時の留一には趣味でこういうところに連れ回されるので、明路としても博物館にはいささか思い入れというか、親しみがあった。

 

「……休むのも久しぶりな気がしてくる」

 

だがここ最近まずオフ自体あまり存在していなかった。菜摘との外出も数週間前に一度だし、その後料理の日を何度か過ごしたばかり。最近は休むことに気遣ってはいるが、その程度だ。

 

「ご興味が?」

 

明路に声をかけたのは博物館スタッフ。明路は春子に勧められてきたという感じで詳しいわけでもないが、こういう話を聞くのは嫌いではない。彼は頷いた。

ちなみに春子は二人で行きたかったようだが、どうしても予定が合わなかったとかなんとか。

 

「こちらがマレーシアの神々をかたどった木像です」

 

「鮮やかですね」

 

「ええ、染料は貴重で、こういった信仰の形で用いられたようです。ここのものは質が良かったようで、120年前の像でもきれいに残っているんですよ」

 

「……ハワイの、何でしたっけ。像と似ている」

 

「ティキですね。ハワイ先住民の人たちはポリネシア地域の人々ですから、マレーシアと遠い文化ではないのです」

 

スタッフが指さすのは壁に置かれた地図。メルカトル図法であることを差し引いても、海が島々を綺麗に隔絶している。人々のできること、その神秘。

 

「人間というのはすごいのですね」

 

「ええ」

 

次のコーナーはフィリピン周辺の文化、生態系。科学者二人が好きなだけあって、明路もまあまあ興味を持ち始めている。雨野君もデートで来たのだろうかなどと思ったりも、してしまうが。

 

「こちらが、最近発見された遺跡の壁面の写しなんです」

 

フィリピンにある神殿のものらしい。あの周辺は研究が進み切っていない他、政治的に使われることが少なかったという。それゆえ、地域ごとにバラバラなのである。

 

「……神を崇める、内容」

 

「だそうです。光、上、世界、悪、それと……」

 

片耳にスタッフの話を聞きながら見下ろす説明用のボード。

太陽のレッシオル、月のコッフオル。刻まれるその名に、明路は目を見開く。

 

「……なるほど」

 

「どうかなさいました?」

 

悪魔の崇拝、まあ珍しい話でも何でもない。

矢沢裕香は、コッフオルは。いまだにこの日々を、鮮明に覚えていたのだろう。

 

 

 

「なぜですか春子さん!」

 

「考えなさいちょっとは」

 

「まさか湖冬は帰ってこないとかいまさら言うつもりです?湖冬はきっと止めるとか?僕はそんなことわかっててただあいつを殺したいだけなんですよ!!」

 

「それであんたが死んだら世話ないでしょ!!」

 

立ち上がった春子の目は、想像以上に怒りではなく悲哀を孕んでいた。

 

「あんたの動機は分かる。あたしだって同じ状況なら。……ついでに認めるけど。明路がああなったら。あたしはそいつを地の果てまで追ってバラバラにするわ!」

 

女教皇のキーを握りしめ、彼女の視線はタオイズムドライバーへ向かう。

 

「だったら……!!」

 

「だったらじゃない!!死んだらできないでしょ復讐!」

 

「……っ」

 

「あんたが倒したいのは分かるし、正直言えばあたしはみじんも手を出したくないけど。……地島も、明路も、浅井さんだって、あんたが死ぬのを望まない」

 

言葉に詰まり、ついにはただうつむいて座るだけの菜摘。

わかってる、わかってるんだけど。そんな言葉を押さえつける脳内。湖冬がにこりとしながら、「でもほら、効率よくないし」と告げる。

 

「……魔術師が現れたら、あたしも行く。必要なら明路も呼びだす」

 

「でも」

 

「せめてタオブラスターとゴスペルブラスターは使いなさい。それと……警察側としては殺害を見過ごすわけにはいかないわ」

 

「今更それ言うんですか」

 

どこか自暴自棄に笑い目を斜めに落とす菜摘。その耳元に、春子は口を近づける。

言い放つ、「だから上手く殺せ」の一言。

菜摘は驚きと嬉しさと、それに勝るほどに「大丈夫かなこの人」という引く視線を零した。

 

少しして、部屋には浅井が入ってくる。あ、という一言ののち、すこし居心地なさげに菜摘を見下ろした。

 

「浅井さん」

 

「ああ。その、聞いたよツッチーから」

 

「ええ」

 

「……なんていうかな、どう?」

 

「まだ脳みそがぐつぐつしてる感じがします」

 

菜摘の癖。怒りや悲しみが襲う時、感情に揺れないように無機質にものを言い始める癖。どこかロボットのような声が、彼の怒りを表明する。

 

「そうかい……」

 

逡巡。魔術師の正体。浅井の視線が少し菜摘を中心に泳ぐ。

 

「……」

 

「浅井さん?」

 

「いや、なんでもないさ」

 

ゴスペルブラスターを持ち上げ、立ち去る浅井。その背を訝しげに見て、春子が追った。

 

「……浅井さん」

 

「ん、ツッチー」

 

「今は何してるの?」

 

「ゴスペルブラスターの調整。君のおかげでまともに使えるようになったよ」

 

「そう」

 

「何か用?あ、ここでタバコは吸わないでよ」

 

普段のオフィスにも浅井のデスクはあるが、こちらの倉庫に引っ込んで政策や研究をしていることも少なくない。吸うわけないでしょと返す春子からしても、当然の取り扱い注意ルームである。

 

「あんた、何か後ろめたいことでもあるの?」

 

「ないけど~?」

 

「そう」

 

「あれ、恋バナのときみたいに掘り込んでこないんだね」

 

「確認のためだもの。カマをかけるわけでもないし、そっから雑談を広げるような適当な話題でもない」

 

「どういうこと?」

 

「隠し事は何?」

 

菜摘をなだめる側なのは、そうせざるを得ないからだ。明路を諭す側なのは、そうせざるを得ないからだ。

土田春子は最初からはらわたは煮えくりかえっているし、焦っている。支える必要のない浅井を前に、隠し切れていなかった。

 

「あったとして、君に言う必要はあるのお?」

 

「別にプライベートなことなら聞かないわよ。でもあんた、明らかに雨野を前にうろたえてたでしょ」

 

「……」

 

息を吸い、考える。魔術師について。

 

 

 

 

 

地島湖冬は生きている。

 

 

 

 

それが、愚者の悪魔こと、浅井留一の出した結論だった。

アモンは、ルシファーの部下として、彼に仕えるものをかき集めている。無理矢理堕天させられ、働かされるなり牢獄につながれるなり、いくらでもあり得る。

 

「言えるわけがないよ」

 

「……そう、あらそう。なんで?」

 

「だからそれ自体……!」

 

噛みつこうと応酬の牙をむいたとき、通報の連絡が来た。警官がアモンを見つけたのだと言う。

一触即発ムードでも、やはり信頼のある仲間。春子が出る準備が一瞬で済む。

 

「君がドライバーを」

 

「ええ。雨野を」

 

「呼ばないで。怪我してるでしょ」

 

「でもあいつが決着をつけないことにはどうしようもないじゃない。あたしたちがサポートを」

 

「いいから」

 

「よくない!!」

 

「いいんだよ彼は呼ばなくて!!」

 

「行きますよ、僕」

 

さすがに騒いでいるとわかるようだ。菜摘を一瞥し、じゃあ行きなよと、うつむき気味に留一は言う。走り出す菜摘、それを追いつつ、春子は留一へと振り返る。

 

「どうしたのよアンタ。なんか変よ?」

 

「元々サ。ほら行っておいで~!」

 

「……そ」

 

春子も駆け出す。

 

「伝えればよかったのではありませんか?彼にとっては希望ですよ」

 

「……分かって言ってんでしょ、ガブリエル」

 

「罪滅ぼしのチャンスですよ」

 

「あそう。そうかい」

 

「期待を裏切らないでください」

 

姿を消す天使ガブリエル。頭をかきむしり、浅井は苦悩を始める。

 

 

 

バルトチェイサーが到着したのは神田周辺。ケツァド・イブクもそこを追い、スーツの男の行く先を防ぐ。タオイズムドライバーを構える春子のそばを駆け抜けながら、菜摘は翼を広げる。

 

『受胎告知』『解放』

 

「ううああああああああああああああ!!!!!」

 

「相変わらずやかましい男だ。お前から来てくれるとは」

 

『降臨……置換……変化……聖なる、開幕』

 

翼が陽を照り返し、緑の天使が拳を叩きつける。直前に胸に鍵を突き立て、アモンはシェイドの姿へ。効かないとばかりに受け止め、炎でもって跳ね返す。

 

「……無理ね、ひとりは」

 

『Taoism……Human power without god's hand』

 

やはり変身しかなさそうだ。バックルに指紋を当て、トランクケースから飛び出るドローン。いつも通りのスキャンが終われば、その身にスーツがまとわれる。フード型に装甲が展開し、仮面を装備。眼の光は赤く。

その間、レイフの隊員たちがタオブラスターで時間を稼ぐ。とはいえ攻撃に対する防御ができるわけでもなく、結局レギエルは盾になるのだが。

 

『Fitting……OK. Five senses assist is ready』

 

「悪いわね!」

 

「それは僕が攻撃を喰らってたことですか?それとも僕の戦いに加勢することですか?……前者なら気にしないでください」

 

「ええありがとう。後者に関しても悪いとは思わないことにするわ!」

 

タオブラスターから放たれる弾丸が迫るアモンを止める。その様子を深く見ることもなく、レギエルはただ駆け抜ける。

 

「だあああ!!!」

 

「愚かな」

 

問答無用の蹴りが襲い、炎がさらにその自由を奪う。首根っこを掴み上げ、さらに叩き込む拳。気を失い倒れるレギエル。

アモンはタオブラスターの射撃も炎で押し返し、めんどくさげに視線を向ける。

 

「まあ、仲間ともあれば邪魔するのも当然か。それとも友人か?」

 

「どれでもいいでしょ別に」『ヘイナ』『ハイプリステス』

 

タオブラスターと、もう片手にゴスペルブラスター。そちらに女教皇のアルカナキーをセットする。

そして、ゴスペルブラスターを持つ手に液体がゆっくり広がり、その手が黒い液体に包まれる。一瞬で乾燥したのかゴム質になった手袋、それは形而上のエネルギーによる影響の遮断を可能にする。

 

『Ji-Du-TAO!High Priestess!That Lightning!』

 

タオブラスターによる退魔の力と、ゴスペルブラスターによる電撃と。二丁拳銃のスタイルがシェイドアモンを確実に怯ませる。

 

「……春子!」

 

「そっち!」

 

「待て貴様ッ」

 

明路は結局休暇に亀裂である。タオの作った隙を狙い、明路は倒れ伏す菜摘を回収。部下たちに任せると、変わるぞと言い放ちアモンから距離を取る。タオこと春子もそろそろ苦しいようで、ベルトの下部のボタンを押し込んだ。

 

辛苦了(Xin-Ku-Le)

 

接続と密着が解け浮き上がるように外れるスーツ。アモンの炎をかわしつつ脱ぎ捨て、ベルトを明路へ投げ渡す。

 

「変身!」

 

両腕をクロスし指を押し当て。春子を後ろにして守りつつ、そのスーツが改めて装備されるのを待つ。

 

『Fitting……OK. Five senses assist is ready』

 

アモンの攻撃を、生身とタオブラスターで春子が捌き。明路のスーツ装着が完了し、仮面をかぶり。今度は緑にその目が光り、青い身体をきらめかせメイルモードのタオが構える。

 

「中身の入れ替えか。だがそれで何か変わるとは思えないがな」

 

「どうでしょうね」

 

アモンがいい加減うっとおしいと言わんばかりの様で接近。春子は、タオブラスターを投げ渡し、説明書3つ目の項目を見ろという。明路は仮面の中でなるほどと頷く。

 

「こうだな!」

 

「よし!」

 

手の保護はこちらでも成功だ。さらにタオブラスターの先に、ゴスペルブラスターが合体。ショットガンの様相となり、接近したアモンの懐へと押し当てられる。

 

「何ッ」

 

「がら空きだ!」

 

放たれる電撃がアモンを喰らい、スパークしながら相手を吹き飛ばす。膝をつき、よろめき。レギエルとの連戦も響いてきているのか。

 

「春子、どうする」

 

「……今がチャンスよ。雨野に……あいつに仇はとらせてやりたいけど……でも……」

 

「ああ、分かった」『再見!』

 

「まずいな……」

 

アモンの様子を見るに、倒される、いや「形而上肉体の破壊」を懸念しては居なさそうだ。だがいずれにせよぶち当てるものはぶち当てて、戦力をそぐに越したことはない。合体形態ショットブラスターの銃口に電撃が音を立てる。

 

「喰らえ!!」

 

放たれる電撃が混じりの弾丸。青と黄色、スパークしながら向かうそれが、着弾。爆散、雷鳴。響く反動。まさに、必殺。

 

「……捕まえに!」

 

駆け出そうとするタオ、その脚元に、何かが突き刺さる。斧、まがまがしい姿の、斧。巻き起こした爆煙を払い、立ち上がる影があった。

 

「……アモン、駄目」

 

立ち上がり向かおうとするシェイドの肩を掴み、小さな声で、静止する。その姿。

タオの攻撃を防いだのは、赤と黒の立ち姿であった。

レギエルが強制解放した、赤黒の部位。それが全身を構成している、というのが近いか。

 

「ルシファー様……いらしたのですね」

 

小さくうなずくと、赤黒の者、ルシフェルはタオの方に寄り。

 

「……」

 

「お前は……」

 

斧を拾い上げ、ただ踵を返すのであった。

 

「待て!」

 

銃を向けられたその背中。赤暗い光の翼、血まみれのカラスの翼、コウモリの翼。一対ずつで成した六枚の翼が、その銃撃を防ぐ。

そしてただ、炎をあたりに一瞬だけ燃え上がらせ、アモンともども姿を消す。

 

ただ、春子と明路たちは立ち尽くすのであった。

 

 

 

「……彼の様子は?」

 

「寝ているわ」

 

「そうかい」

 

「春子がすまなかった」

 

明路の謝罪を横目に、春子はただ苦い顔。浅井の隠し事を告げ口したつもりが、「そんな無理に詰め寄る真似を」というお説教が来たのであった。

 

「いいよ~、私だって、まあ、後ろめたい部分がないわけじゃないから」

 

「もし、苦じゃなければ教えてほしい。滞ることがあれば、あなたも嬉しくないだろう」

 

「……」

 

留一に背を向け、戸を開ける。菜摘は先ほど目覚めたとかで、怪我はひどいままだ。

 

「……ちゃんコフはさ!」

 

明路と、春子の背に、声が飛ぶ。

ひとりで抱えきれない。留一は案外、もろい。

 

「ちゃんコフは……生きてる。ていうか。いる……地獄。ガブリエルが言ってた」

 

「……! 本当か!? それは良かっ「ねえそれさあ」

 

振り返り口角を上げる明路をよそに、春子は留一に詰め寄る。

 

「何で言わなかったの?」

 

「……」

 

「もしかして、それを言ったら雨野が動機をなくすとか、そういうこと?」

 

「あー、ご明察?」

 

揺れる、留一の頭。固く握られた春子の拳を、明路がおさえ込む。ぶつかったのは頬。膝をつき、留一はなおへらへらしている。

 

「グーで来るんだ」

 

「パーとチョキも欲しいかしら!?」

 

「おお、危ないなあ」

 

ゴーグルをかける留一の胸ぐらをつかむ春子。振りほどかれた明路は落ち着けと言いながらまた春子を押さえ。春子は牙をむく、その様相はまるで猛獣か何か。

 

「ふざけないでよ!!あんた、そんな都合で!そのせいでいまアイツは怪我してんのよ!?下手すりゃ殺されたかもね!!」

 

「生きてたじゃないのさ」

 

「結果論とか言ってる場合じゃないでしょ!?アンタ、アイツの事好きにやれみたいな、正義の味方でありたいなら応援するとか、そんなこと言っといて、()()をもてあそんでんじゃないわよッ!!!」

 

「春子!!」

 

「もてあそんでるように見えるのかい?ぼくが!」

 

「浅井さんも!」

 

「じゃなかったらなんだっていうのよ!!」

 

「やめろと言うんだ二人とも!!!」

 

明路の張り上げた声に、ようやく二人の声が止まる。

 

「一旦少し離れろ。春子の意見は分かるがそれで手を上げるのも声を荒げるのも褒め難い。それに、浅井さんもだ。変身ポーズの一件もある、彼を信じてくれないか」

 

「ミチくんはどうしたいの?」

 

「当然伝えたい。それに。……彼女を地獄とやらから連れ戻すことも可能じゃないのか?相手が悪魔、それもアモンという名高い者の行為。不可逆にとどめるべき死とは言い難いだろう」

 

「……ツッチーは」

 

「明路と同じよ。……なに?あたしたちも信用できないの?」

 

「そんなつもりじゃないよ」

 

少し目を逸らし、ぼそりと吐き出すようなセリフ。春子は分かりやすく、ため息をつき、戸を開く。

 

「言ってくる」

 

「俺も行く」

 

「……ぁ、ぼ、ぼくも!私も行く!」

 

「好きにしなさい」

 

戸を開け、音へと振り返る菜摘。憔悴しきった様子で、自虐的に笑う。

 

「逃げちゃったんですって、アモン」

 

「ああ、すまない」

 

「いいです、僕が殺せるんで」

 

強く握る拳、その様子に、明路は怯むことなく水をかける。第一声は。

 

「雨野君。君は地島君に会える」

 

あまりにも直球。復讐に燃える彼の眼の色が、ぐるっと入れ替わる。明路が言うから、というのはあるだろう。彼はこんな嘘つかないし、きっとそう信じるなら。

明路がそういうなら、自分もきっと信じていいと。そう思える。

 

「はい!」

 

細かいことを聞くよりも先に、彼の目に希望が灯り始める。

ああ、自分はどれだけ惨めであれば気がすむ?あんなに、「君はそのままでいい」だとか言ったくせに。留一の胸をつく菜摘の姿。

 

「留一さん?」

 

「え、あ、何?」

 

「……大丈夫ですから。湖冬に会えるって事実は何も変わりませんから」

 

「ああ、そう、かい。…………ごめん」

 

留一が考え込んでいる間に事情の説明は終わっていたようだ。菜摘は笑顔を隠しきれないままでも、留一の方を見て頷いた。

 

「誰かを信用するの、苦手ですか?」

 

「かもね」

 

「僕もそうでした。いや、今でもそうかもしれないです。湖冬の一件から、僕、世界のなにもかもが信じられなくて……ッでも!明路さんや、春子さん、留一さん……皆さんを僕は強く信じてるんです。湖冬がそうだったから、なんてのもあるけど」

 

「……結局、愛憎なんだね」

 

頷きながらも、留一は何か違う景色を見ていた。




次回、「暗黒の客星」
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