仮面ライダーレギエル   作:さわたり

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第十二話「橙緑の隔世」

「ずいぶん騒ぎになってたじゃねえか」

 

銀色を差し入れた髪だが、だいぶ黒の割合が増えてきている。

鋼誠(はがねまこと)。『正義』のキーを持っていた、シェイド犯罪者の一人。殺人や放火などまあまあな犯罪歴の彼女だが、その動機は強すぎる正義感。案外模範囚のような様相で刑務所に居た。

昼の休憩時間は楽だ。昼飯をもらい適当な机で食事開始。ついでとばかりに、目の前の男へ声をかけた。

 

「そう?」

 

首に紅い後の残る青年、二山ヨシオ。教皇のキーを持っていた、彼。

 

「自殺騒ぎだよ。死にてえの?お前」

 

「というよりは……絞首の意図を、その時の『人間』を知りたいって感じかな」

 

「よくわかんねーな」

 

「俺自身あんま分かってないし」

 

くるくる。縄のように、パスタがフォークを絞め上げる。

面白そうな男だ、なんて考える。鋼誠は暇を持て余していた。趣味のショッピングもできやしない。

 

「絞めてみるか?」

 

自分の首を指さし、笑った。

 

 

 

 

 

 

第十二話「橙緑の隔世」

 

 

 

 

 

ベルゼブブは何を聞き出そうにもごまかしながらケタケタ笑っているという。そもそも留一の言う通りアモン達とは別行動で、何なら敵対的だと狙われてすらいた様子。

アモンの姿は結局拝めず、時間が淡々と過ぎる。まあ、それでも捜査が進みアモンの足の踏み場は失せていっているのが現状なのだが。

 

「奴が潜伏するとすればどこか……」

 

「地獄だとすれば手出しはどうすれば」

 

「それはあり得ません」

 

菜摘の後ろにかかる声。驚きつつ見上げる明路と、いい加減慣れた菜摘。天使改めガブリエルだ。

 

「地獄とこちらの行き来は楽ではありません。そもそも位相が違うので、歩いて簡単に行けるわけでもないのです」

 

「では、普通に人間界に居ると?」

 

ガブリエルは静かにうなずいた。

 

「……湖冬は生きてるんですよね」

 

「地獄と天国の行き来も楽ではありませんので」

 

暗に告げる「知りません」。菜摘はそうですかとため息をつき。

その様を一瞥しながら、明路は部下との連絡を続ける。灯田レイジ、アモンは確実に探し出したい。

 

「足取りは、どうですか?」

 

「協力者のもとに身を潜めているという可能性が高い。目撃情報から地道に探すほかないだろう」

 

「まあ、追い詰めているってことですよね」

 

「その通りだ。雨野君きみは……あまり気負い過ぎないでいるんだ」

 

「分かってます」

 

それでもやはり隠せない焦り。留一も、相応に責任を感じているようだった。

 

「急いでも仕方がない、徹底的に、そして段階的に進めよう」

 

「……はい」

 

男三人そろってしょい込むタイプだが、冷静でいられるタイプなのはこの環境だと幸いか。淡々と、今すべきことが進んでいた。

 

「なっちゃんはお家で待ってなよ」

 

「でも……」

 

「気持ちは察するが、休むことも大事だと伝えたろう」

 

「ミチくんすっごいブーメラン」

 

「ブーメラン?」

 

「他人へのアドバイスとか指摘が自分にこそ言われるべきな奴~~~」

 

「失敬な。俺は反省して休んでいる」

 

「ならいいけどォ~。なっちゃんは一旦帰って休みな?多分、すぐ呼びだすってことはないだろうし」

 

「……分かりました」

 

気を付けて帰ってね、そんなねぎらいを受けつつ退散。部屋に残るのは明路と留一。

 

「ツッチーは?」

 

「科捜研に。塔のキーは奪われたからな、周辺の証拠から形而上……まあそういった物の採取を試みているようだ」

 

「なるほどね」

 

 

 

 

「お礼はあるのかしら?」

 

「金や手伝いなら喜んでしよう」

 

「そ~ゆ~ことじゃないのよ」

 

「何が言いたい」

 

「わかんないの?」

 

アモンの頬に触れる女。彼はその手を振り払い、目を背けた。

 

「なによ」

 

「心に決めた女性がいる。何度言えばいい」

 

「ふふっ、ご執心ね」

 

ケタケタ笑う女、アスタロト。怪しげな目つきで、アモンへ視線を落とす。隠れ蓑に使ったのは、同じくルシファー配下の彼女の家だ。

 

「ところでさァ、私もあんたの会社の社員として扱われてるのよね。ここ、すぐ見つかっちゃいそ~」

 

「理解はしている。時間稼ぎだ。こちらから動くまでのな」

 

「何する気?」

 

「日本政府に地獄の存在を飲ませ我々の正当性を主張する。基本的にやることは尻拭いだからな」

 

「ふぅーん?上手くいくのかしら」

 

「そのためにルシファー様が来たのだ。それが変わることはない」

 

「あら、じゃあ楽しみにしてるわね」

 

アスタロトはそれだけ残し外へ。空を見上げ、ぼんやり。そこへ、近づく影が一つ。

 

「やあ」

 

「黒田の女ね」

 

「確かに私も黒田だが気に入らない言い方だ。彼の姪だ」

 

「戸籍上は妻でしょ」

 

「フン。……で、そちらの様子は」

 

「必要以上に話すつもりはないわよ?いちおう敵同士なんだから」

 

「敵ってことはないだろう。双方一致する利害はある。それに我々の技術を使っても居るじゃないか」

 

「そーね、敵は言いすぎたかも。でもあんたらの事手伝う気はないからね」

 

「勘違いしないでくれ。そういった頼みごとをしに来たのではない。単に様子見さ」

 

「あんたらの期待してることが起きるかは分かんないけど、ま……天使どもの『そういうとこ』が気に入らないのは私も同じだし。応援だけはしたげてもいいよ?」

 

「甘んじて受け取るとしよう」

 

黒田は相変わらず余裕ぶった様子で笑う。アスタロトも同様。腹を見せない対話が、一旦の終わりを迎えた。

 

 

 

 

「……湖冬」

 

わりとオタク気質の湖冬、書店もまた思い出の場所であった。漫画のコーナーと小説のコーナーはもちろん、デザイン系の雑誌のコーナーも、彼女の好きな場所。

菜摘自体も好きなジャンル故見ていて楽しいのだが、湖冬の思い出の反芻と湖冬のいない現実が感情をぐちゃぐちゃにさせてくる。

 

「面白そう」

 

それでも足を運ぶのは、反芻の方に縋り続けたいからだ。

だが今日、足を運んだのは決意のため。ここにまた二人で立つという決意のためであった。

 

「そうね、面白そう」

 

「!?」

 

少し肩を震わせて驚く菜摘。そりゃ知らない人間が背後に居たらそうもなる。訝しげな彼の目の前に、手、いや、手の中のものを提示する。

 

『アスタロト』

 

「……!」

 

「ここで戦う気はないわ、レギエル。少しお茶をしましょう?」

 

「何が目的?」

 

「それを話すためにお茶するのよ」

 

「……本、見てからでいい?」

 

「胆力のある男は嫌いじゃないわ」

 

ニコニコ笑うアスタロトに視線を流しながら、雑誌をいくつか購入。カフェに移動し、冬前らしくない薄着の女と奇妙な食事が始まる。

 

「用事は何?宣戦布告なら付き合うけど」

 

「街中で戦う気?」

 

「必要ならね」

 

「意気込んでるのも結構だけど戦う気はないわよ。通報されたら逃げるし、あなたには追えやしないわ」

 

「じゃあ何?」

 

「地島湖冬に会わせてやろうって言うのよ」

 

その発言の瞬間、ぐっと、菜摘は目の色を変える。

 

「どこだ!!」

 

「食いついた」

 

「ねえ御託は良いんだけど」

 

「あらァ?いいのかしら。そういう言い方で私の機嫌損ねちゃっても」

 

「必要なら舐めるよ」

 

「何を?」

 

「靴」

 

「っふふ、必死でかわいいわね。手っ取り早いのはルシファーと対峙することね」

 

「対峙してどうするの」

 

「戦ってみればいいわ。私の言ってることがすぐ分かるわよ」

 

「……」

 

なぜ?菜摘に浮かぶのはやはり疑問符。そうするメリットがアスタロトのどこにあるのか。聖書のアスタロトに関してはアモンが居たことを考え、調べている。しかしそこに書いてあることの真偽などわからない。結局は過去の人間の書いたものだ。

 

「ねえ、どうするのよ」

 

「ルシファーはどうおびき出せる?」

 

にやり、アスタロトの口角がわざとらしく持ち上がる。

 

「私が騒ぎを起こすわ」

 

「は?」

 

思わず声が出る。

 

「もちろん一般人の目の前で暴れるとかじゃないのよ?匿名の通報をして、その場所に私がいる。廃墟とか。シナリオは単純で「天使を恨むアスタロトは天使を囲む警察を潰そうとした。まずは武力を削るためタオをおびき出す」ってとこ」

 

「めちゃくちゃだよ。なんで君が体を張るんだ?」

 

「あら、心配かしら?ウッフフ」

 

「ごまかさないで」

 

「あなたの生殺与奪は私が握ってるのよ?」

 

あくまで真意を語るつもりはないようだ。

 

「つまり僕は君をまずタオと戦わせればいいんだな?」

 

「そうなるわ」

 

「……理由は」

 

「私がタオの力試しをしたいからじゃダメ?」

 

「……」

 

「じゃあ言い換えましょう。ヘイナの様子が見たい」

 

菜摘の眉間にしわが寄る。「顔が老けるわよ」などと茶化すアスタロトをよそに考える。こいつはどの程度警察や天使の状況を知っているのだろうか。油断をさせてくれない物言いは逆に助かるというものだ。

 

「で、君が暴れたらどうルシファーが出るの?」

 

「アモンが来たらあとは流れでいけるわ」

 

「今僕らはアモンを引きずり出すために四苦八苦してるんだけど」

 

「じゃあ実を結んだことになるわね。よかったじゃない」

 

「彼が来る保証は?」

 

「さあ?少なくとも要因はあなたたちなのよ?」

 

「何?」

 

「警察の捜査がこっちを追い立てているのは確かって話。私の警察との接触はたぶんアモンを追い詰めることになるわ」

 

「君の一件でしびれを切らすと?」

 

「そうなるといいわね」

 

席を立ち、次はシェイドとして会いましょうの別れを告げる。会計はアスタロトが菜摘の分も済ませ立ち去る。うっすら申し訳なく思いつつもそのあとをつけてみるが、当然、見失う。

 

 

 

「信憑性ゼロね」

 

そりゃそうだ。菜摘の語る内容に第一声の春子。明路もしっかりと頷いた。というか留一すら苦い顔をしている。

 

「ただ、するメリットが何も思い浮かばない以上、罠としての質が分からないんです。……ですから」

 

「あえて乗る、か」

 

「ない手じゃないわね。アスタロトの奴と交流が深かった記憶はないからそこはよくわかんないけど」

 

「俺が……」

 

「いや退避の時にヘイナの力が使えるあたしの方がいいわ」

 

春子が手を上げ、明路と留一が目を見合わせ。数秒ののち頷いた。そして明路が差し出すタオイズムドライバー。くれぐれも無茶するなの忠告付きである。

 

「言った通りの通報があればあたしが向かって対処って感じ?」

 

「ああ、俺も向かう」

 

「僕はどうしましょう」

 

「近くで構えていてくれ。アスタロトは君をルシファーと会わせるつもりだった以上、君がいてはならないということはないはずだ」

 

「ていうかあいつならこの作戦会議まで想像してておかしくないわよ」

 

作戦は決まったな。そう言わんばかりに目を合わせ、各自自分の机に向かった。菜摘と明路はこれから戦う者としてしばしの休憩。菜摘の内心はどちらかと言えば、湖冬の顔を思い浮かべた、高揚そのものだった

 

数時間。まあまあな早さでその通報はあった。ボイスチェンジなどもないあたり、「分かっていること」も織り込み済みなのだろう。……まるで、ルシフェルと会わせることが目的のようである。

 

果たしてアスタロトはそこに立っていた。

 

「来たわね」

 

「居たわね」

 

「じゃ、行きましょうか」『アスタロト』『スター』

 

「……変身」『Taoism……Human power without god's hand』

 

完全に相手のペースかつ手の上。それでも、シェイドの力を振るう者である以上は戦わない選択肢はない。幸い、タオは腕時計を隠せる構造。抽出機はいつでも使える。

 

『Fitting……OK. Five senses assist is ready』

 

「食らえッ!!」

 

「あら威勢のいい」

 

白と黒のシェイドアスタロト。蛇と竜が絡み合うような姿の怪物とタオの拳がぶつかるのを、明路は物陰で見守る。飛び出して援護したい気持ちを押さえ、菜摘の方を見る。彼もいつでも動けるようだ。

 

「たァァ!!」

 

身を大きく引き、ナックルアロー。浴びせられつつもすぐさま受け身を取り、アスタロト顔側面の蛇が口を開く。放たれる緑の霧。タオのHUDに現れる成分の分析。可燃性のガスだ。有毒物質ではないようだが、色が毒だと言っている。そもそも……。

 

「あんたは毒攻撃が得意だったわね」

 

「悪臭攻撃も得意なのよ?」

 

アスタロトの能力に多少だが覚えはある、有名な悪魔だ。形而上の存在に絡む攻撃だろう、今の物言いからするに、効果は毒のような体力減衰だろう。

 

「しかもね、こんなこともできるの」

 

今度は顔側面のドラゴンが火を噴く、当然可燃性ガスであるからには大爆発である。ある程度何をするか想像の付く攻撃であるので、春子は素早く回避。しかし、不用意に近づけない状況が作られたのは事実だ。

 

『ゼイネル』

 

『Ji-Du-TAO!Lovers!That Falling!』

 

恋人のキーをゴスペルブラスターにセット、放つ一撃が矢の形になり、強烈なものに変わった。

 

「……!?」

 

かなり焦った様子で回避するアスタロト。訝し気にタオがその姿を見下ろす。

 

「ゼイネルって、あの変態よね?」

 

「散々な言いようね」

 

「この矢、喰らったらヤバい?」

 

「さあ?ま、惚れた男が空中に映し出されたりはしないわよ」

 

「ならいいわ」

 

アスタロトが駆け出す。タオブラスターとゴスペルブラスターの二丁拳銃スタイルで迎え撃ち、相手のそれを気にしない突進をもろに喰らい、ぶっ飛ばされ柱へ。起き上がるそこにアスタロトの蹴りの追撃。身を守りつつも、逆に言えば身を守ることしかできない。

 

「ンの……!!」

 

「さァ~て、そろそろ、かしら」

 

「何をしている、アスタロト……!!」

 

「……マジでそろそろだとは思わなかったけど。ハロー、レイジくん」

 

アスタロトが振り返る先、アモンこと灯田レイジことアモン。菜摘はやはり脳の血管という血管がブチ湧く感覚に襲われつつも息を噛み殺し、その様を見守る。

 

「何をしているのかと聞いている」

 

「単独行動。こういうことしてたら…………レギエル、来るでしょ?」

 

近づいてくるアスタロトを見て、アモンの表情がいささか変わる。

 

「居るからには、やることは済んだかしら?」

 

「ああ。日本政府への声明文を書いた。15分で書くことになるとはな」

 

「頑張ったわね」

 

「誰のせいだと思っているんだ?」

 

アスタロトが菜摘の方を見て、唇を動かす。「も」「う」「い」「い」「わ」のサイン。最初から隠れているのは分かっていたようだ。興味をなくされたように放置された春子、おそらく同じようにバレている明路。アイコンタクトののち、菜摘は物陰から出た。

わざとらしくアスタロトは「噂をすれば」などと言ってみる。

 

「アモン……」

 

「来たか、レギエル」

 

春子に手当てをしたのち、ベルトを装備する明路。部下に肩を貸される彼女を見送りつつ、菜摘のそばに並んだ。

 

「一緒に取り戻すぞ」

 

「ええ」

 

流れで行ける、その意味は分からないのだが、現状存在する流れは戦うこと。まず、アモンからして敵意むき出しだ。

 

『アモン』

 

『受胎告知』

 

『Taoism……Human power without god's hand』

 

「「変身!!」」

 

『マジシャン』

 

『解放。降臨……置換……変化……聖なる、開幕』

 

『Fitting……OK. Five senses assist is ready』

 

自分の体を押しのけ、構えるレギエル。一足先に。

……その一瞬、炎が巻き起こり、着地の衝撃があたりを揺らす。

枯れ木が燃えながら舞い散り、六枚の翼が畳まれた。

アモンがぼそりと、「ルシファー様」とつぶやく。

装着を終えたタオが赤と黒の堕天使を睨みつけた。

そして、菜摘が、レギエルが駆け出す。

 

「まて、焦るな!相手は確実に」

 

「ルシファー様に近づくな!!」

 

アモンが立ちはだかろうとするが、その腹をほかでもないルシファーが蹴りつける。軽蔑でもするように一瞥。ただ膝をついて下を向き、謝罪を並べるだけのアモン。目論見通りと笑むアスタロト。

 

近づく、ルシファーとレギエル。ルシファーはただただ手を広げる。

 

「な……」

 

「は?」

 

「……クソ」

 

「アハハ!」

 

春子と明路が唖然とするまま、レギエルはルシファーに飛びついた。両者攻撃をしない。それが一秒目。

そしてお互い、密着。二秒目。

そして……そう、仮面のような姿に見えるのはあくまでただの認知。そう前置いて、三秒目。

抱きしめ合い、唇をかわす姿。

 

 

 

レギエルとルシファー。

 

 

 

 

雨野菜摘と地島湖冬。

 

 

 

 

「……おかえり、湖冬!」

 

「ふふ、ただいま、菜摘君!」

 

 

 

君は騙されている!……ゼイネルの一件が無ければ、アモンが頭を抱えてなければ、アスタロトがアモンにすり寄ってなければ、そう言っていた。

ガブリエルが明路のそばに現れ、つぶやくように吐き出す。

 

「地獄で、クーデターが発生したとは聞いていましたが。まさか、堕天使アキエルによる……ルシファーの座の……簒奪(さんだつ)……!」

 

「本人、なんだな」

 

「寸分のたがいもなく、アキエルです」

 

 

抱きしめ合い、お互いの肩に顔をうずめ、再会を喜ぶ。

数時間にも数秒にも感じた時間。すっと離れ、ルシファーは、堕天使ルシフェルは微笑んだ。

 

「菜摘君、会いたかったよ……」

 

「僕も、僕もだよ、僕も……!」

 

「ごめんね、三年も、待たせちゃって、こんな苦しみを背負わせちゃって。私のせい」

 

「ううん、僕が勝手にしたんだ。いっぱい、無駄なこともしたし、多分効率も最悪だった、でも、でも、」

 

溢れて止まらない、涙、言葉。その一つ一つに応え、受け止め。落ち着いたころ。

ルシフェルはそっと第二体解放装置を掴んだ。

 

「……なにして、え?」

 

握りつぶす、その意思を感じる握撃。思わずその手を払いあとずさるレギエル。訝し気に見たルシフェルは寂しげに笑っていた。

 

「もう、苦しまなくていい。私だけでいい。君を戦わせなんてしないから」

 

今一度迫るルシフェル。その手を押さえ、こんなに強いのかと知る。無理矢理押しのけるしかなく、困惑したまま、菜摘は婚約者を見つめる。

揃いの指輪の左手は、悲し気に斧を持ち出す。

 

「無理矢理にでも、解放装置を壊すしかなくなっちゃうよ……?と、当然君の事を攻撃なんてしたくないもん。……ガブリエルに騙されないで」

 

本当に悲しげな声色を漏らし、見つめる。

自分の腰の解放装置と、湖冬と、たまにガブリエル。それを交互に見て、レギエルは動けなくなった。




次回、「独白、濡羽色。
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