仮面ライダーレギエル   作:さわたり

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第十四話「告白、蘇芳色。」

「ねえ、ヘネ。君はそうしてと、強く言うけど。……本気なの?」

 

「本気ですよ、アザゼル。私はしょせん、ただの人間。住む世界が違うのです。だから証が欲しい」

 

自分の腹をさすり、ヘネと呼ばれた女はそっとアザゼルへ唇を触れさせる。優しく見つめる彼女を抱きしめながら、アザゼルは情けなく笑う。

 

()と違って、君は強いね」

 

「フフ、私はそんなあなたを愛してしまったのです」

 

長く、短い夜が始まる。

アザゼルはヘネを心底愛した。ヘネもアザゼルを心底愛した。

アザゼルは、ヘネや他の人間たちに安心してして暮らしてほしいと思った。

だから、手を貸した。

ヘネが、子供が欲しいと言った。ものすごく悩んだ。

でも、ヘネの言う言葉すべてが奥深く突き刺さり、彼は彼女の手を取った。

 

生まれた子は、ネフィリムと呼ばれた。

 

「何か言い訳はあるかい?」

 

ラファエルは寂しそうにアザゼルを見る。

崖の上、今らしく言えば、映画のようなロケーションである。

 

「なにひとつないよ。僕はヘネを愛していた事実を絶対に嘘にはしない」

 

「……残念です」

 

判決は下った。同時に、少し遠巻きに、男は眺めていた。

 

「愛、ねえ……」

 

元大天使長、初代ルシファー、初代サタン。その両方の称号を持つ男である。

 

 

 

 

 

 

 

 

十四話「告白、蘇芳色。」

 

 

 

 

 

 

オーディンの持つ杖に風が集まり、槍の切っ先を成す。やはりかとつぶやきかわすタオ、オーディンが持つ槍などグングニルしかない。

 

「食らえ!!」

 

射撃を喰らいもオーディン気にせず接近。かわしたタオに拳を叩き込むスレイプニル。反撃の銃撃を、六本の腕を翼のようにはためかせて回避。そこに、体を電撃に変えたハイプリステスが回りこむ。

 

「空飛ぶのアリなわけ?」

 

空中でつかみかかり、殴る手も構わず抱え上げ。落下そのままにオクラホマスタンピードを叩き……こめない!蹴っ飛ばされ、地面を転がるハイプリステス。

起き上がるその横で、タオもオーディンに蹴り飛ばされる。

 

「春子、率直な感想はどうだ」

 

「めちゃくちゃ強いわね」

 

双方体勢を立て直しつつ、オーディンの一撃をかわす。スレイプニルはタオの放つ射撃を防ぎつつ、ハイプリステスのドロップキックを拳で迎え撃つ。オーディンの攻撃、咄嗟に転がりハイプリステスはスレイプニルを盾に。

 

「随分卑怯だな」

 

「正義のためってことよ」

 

スレイプニルの影から、ショットブラスターとハイプリステスの人差し指からの射撃。オーディン、グングニルで防ぎ、やはりスレイプニルも素直で盾でいてくれはしない。回し蹴りを食らって仲良く地面を転がり。明路アンド春子、また立ち上がり、敵2人の強襲へ身構える。

 

『第二体抑制解放』

 

「させない!!」

 

右腕のステンドグラスが弾け飛び、放つ拳。グングニルを構えたオーディンをぶっ飛ばし、タオたちを庇うように立つ。あまり効いていないのかオーディンもすぐに立て直し接近。

 

「何勝手なことしてるの」

 

ルシフェルはまずレギエルを押し退けて倒し、オーディンを蹴り飛ばす。また立ち上がるオーディンを他所に振り返り、タオたちに向かうスレイプニルを一瞥。第二体強制解放装置に触れ、手をかざす。

 

『第二体強化解放!』

 

走り、跳び。翼を広げ空中で構え。左脚、ベルゼブブの跳躍。

くるんと回って真っ直ぐ伸ばす右脚、アラハバキの脚力。必殺の蹴りをスレイプニルに叩きつける!

 

「っと!!」

 

オーディンの投げた槍が挟まり、阻まれ。それで減衰した威力を持ってしても、スレイプニルは土煙を上げてぶっ飛ばされた。

 

「明路さんと春子さんに何してるの」

 

「君こそ姪に何をしてるんだ」

 

駆け寄るオーディン。阻もうと走るレギエル。ルシフェルも駆け出し、レギエルをベルトを狙って蹴っ飛ばし。槍の切っ先と、ぶつかる剣。炎と共に召喚された剣と斧で、ルシフェルはオーディンに切り掛かる。

 

「今行きます叔父上」

 

「あいってて……」

 

よろよろ起きるスレイプニルが走り出す。その脚はやはり誰よりも早く、チャリオッツの蹴りがルシフェルへ。吹っ飛ばされつつも受け身を取りまた向かう。

 

『アモン』『魔術師!アモン!』

 

強制解放装置のパーツ、改め不正解放機から炎とともに出現させたキーを左手の剣に装填。かちりとトリガーを押せば、炎がその剣に纏われる。擦り合わせ斧も熱を帯び、くるんと回って両手の得物を叩きつけた。

 

「熱いじゃないか!」

 

しかし2人では分が悪い。オーディンの頭突きを喰らいスレイプニルの拳を喰らい。ひるむルシフェルを見て、タオはアイコンタクトでレギエルからキーを受け取る。

 

『ペイドヴァラ』

『Ji-Du-TAO!Hierophant!That Authority!』

 

教皇のキーの力で放つ糸。オーディンの体を拘束し、木に縛り付ける。

 

「吊られた男もどきだな」

 

「叔父上!」

 

スレイプニルに近づいてラリアットのハイプリステス。かわしたスレイプニルにレギエルが殴りかかり、怯み。レギエルの追撃をルシフェルがその手で止め、蹴り飛ばし。助かったと安堵する暇なくルシフェルの追撃。……しかし、重く入っている訳ではない。時間は順調に稼がれている。

 

『サンファロエ』

 

スレイプニルが節制のキーを突き立てれば、現れる土のドールたち。ルシフェルとレギエル、タオとハイプリステス。2と2に分断し、双方の手を煩わせる。

 

「お待たせしました」

 

「悪いね」

 

半分は自分で切りつつオーディン脱出。ドールを倒し終えたタオも走り、それを拳で迎え撃ち。追撃させるまいと走るハイプリステスを蹴っ飛ばし。一段劣るシェイドゆえボロボロの身でもさらに駆け寄ろうとするハイプリステスの前に、タオが立つ。

 

「明路!?何やって……!」

 

「っぐああああ!!」

 

当然、正面からシェイド2人の攻撃を喰らい、小さく爆風をあげて明路が転がる。明路自体のケガは少ないがタオはボロボロ。もはや重い鎧でしかないタオを着たまま、春子に逃げるよう促し。「誰が逃げるのよ!」と春子は叫ぶ。

 

「別に殺しに来たわけじゃないんだけど……雷鳴はギャラルホルンにちょうどいい。もらおうか」

 

オーディンが伸ばす手を、ぶん投げられた斧が阻む。

 

「2人に触らないで!!」

 

「おっかないことだ。どうします叔父上」

 

「撤退。カオスは好きだけど今は困るし」

 

2人は黒田夫妻に戻り、物陰へ。レギエルにご執心のルシフェルに追撃の余裕はない。

 

「どこまで行っても僕には戦わせないってこと?」

 

「うん」

 

オーディン達へのそれと違い、ルシフェルはとにかく拘束しようと掴みかかるようだ。

 

「……逃げろ雨野君!」

 

飛んでくる明路の助言。湖冬と、自分と明路を見て。震えながらも彼は運命の輪を起動する。

 

『ケツァド』

『運命の輪』

『強制解放。介入、開錠、解放……運命の輪。その、転換』

 

左腕が菜摘のジャケットに戻り、弾け飛び。腕の装甲から飛び出たバイクに乗って走り出す。追いかけようとするルシフェルの羽根、光の翼とカラスの翼とコウモリの翼を右半分、まとめて。それらをショットブラスターの糸が絡め取り、ルシフェル墜落。土を叩きながらのろのろと立ち上がる。

 

「あーあ、行っちゃった。お家に居るかなぁ」

 

「彼が素直に自宅に帰るかは怪しいな。我々は君が自宅に行くとは想定していなかった」

 

「じゃあ警視庁本部とか行っていいんです?」

 

「レイフの特別通行許可証、君のはもう無効だぞ」

 

「あら、大変です」

 

ばちゅん。ルシフェルが黒い何かを撒き散らして爆散し、消滅。ルシフェルが居た場所に立つ湖冬が、くいっと眼鏡を持ち上げる。丸く切ったショートボブの茶髪も変わらず、3年前の湖冬そのもの。

 

「レイフの扱いに関して、どうする気だ」

 

「私が死んだり手が離せない時、正直言ってアモンよりも明路さんの方がありがたいですし。レイフ解散は私的にも要求しません。それに、春子さんも明路さんも留一さんもお給料これでもらってますしね」

 

「まあ流石にいきなり職を無くす心配はしなくていいわよ」

 

春子も元の春子に戻り、タオのヘルメットを外してやる。

 

「あと、貴方たちは天使に絡んでるわけでもないですし」

 

「そこんとこ気になるんだけど、天使に恨みでもあるの?」

 

「菜摘に戦う力を与えたことがまずひとつです。そして私の復讐という目的がなくても戦うよう焚きつけたことも。それに……地獄で悪魔扱いされて苦しんでる人たちも見たので」

 

「天使に恨みを持つ悪魔は、自身の状況に不満を持つ神々が多いと?」

 

「多分ですけどね。まあ、突飛なことはさせないですけど、この世界を天使に握らせておくつもりも菜摘君をレギエル呼ばわりもさせ続ける気もないです」

 

おそらく、後者こそが主題なのだろうと容易に想像つく。

 

「天使どもがどう言う連中かは分からない以上何とも言えないが」

 

「アザゼルさんに聞けば分かると思います」

 

冗談めかし笑い、2人は首をかしげる。

 

「とにかく、菜摘君に戦わないよう言ってください!……菜摘君を蹴った時、すごく、すごく心臓が痛くなるような感じがあって……その」

 

「それはできかねる。彼自身が戦うと言っている以上俺はそれを止めたくない」

 

「地島の主張と意見は伝えてあげる」

 

「んー、まあそうですよね。聞く感じ、菜摘君、私を戦わせたくないって言ってたし。どうあっても……暴力しかないのかな……『アレ』言うのは嫌だなー。上手いこと捕まえる方法考えます。じゃあまた!」

 

歩いて立ち去る湖冬。部下に追わせてみるも、すぐに見失った通信が入る。

 

「戻りましょ、レイフに」

 

「ああ」

 

タオのスーツを外し、少し肩も借りて、明路はバンに乗り込んだ。

揺れる車内。2人は沈黙の中。ただ警視庁本部のレイフへの到着を待った。

 

「ありゃ、派手にやったねえ」

 

タオスーツを見て留一の第一声。オーディンたちにやられたと言うと、二度見。どゆこと?とアザゼルはとぼけて見せた。上手な演技である。

 

「神々が悪魔として扱われている、という話だ。天使たちがそうした、と。どうやってかは知らないが」

 

「ヘイナとしてそういう事情は覚えてなかった。……言われてもピンと来てないあたりヘイナの頃から知らなかったかも」

 

「ンン、そっか。……とにかくタオの修理だね」

 

「ねえ浅井さん。地島も多分邪魔してたら攻撃なり妨害なりするだろうし、敵シェイドはどんどん強い奴らが顔を出してきてるわ。やっぱりキーを使ってタオ自体の強化をしましょう?」

 

「ゴスペルブラスター以上のことはできない」

 

「なんで?」

 

「危険でしょ?」

 

「だったらあたしが使うわ。ヘイナのキーの力を」

 

「ダメだってば」

 

「何が原因で実現不可能なの?形而上存在ならあたしが詳しいから手を貸すわ」

 

「技術的には可能だけど」

 

「だったらなんだっていいわ、あたしがシェイドになることを前提でこっちで何考えるから」

 

「ダメだやめてツッチー」

 

「あんた何隠してるの!?今日明路はね!ケガして」「春子」

 

明路が春子を見てかぶりを振る。息を荒くしつつも、殴りかかった時とは変わって、彼女は深呼吸をした。

 

「……悪かったわ。あたしも別に……浅井さんにデカい声出して楽しいわけじゃないし」

 

「……ううん。隠し事はマジだし」

 

「別に話せとも言わない」

 

目は話せと言いたげだが頑張って伏せているし、何も言わずに口をつぐんでいる。なんだか留一には、自分がひどく惨めに感じた。

 

「……あー。まあ、こうなった以上、話した方がいいのかな……。その、今から話すことについて……追求はいろいろあると思う。でも、私もけっこうぐちゃぐちゃしたままだから、ゆっくりだと助かる」

 

明路と春子は息を整え、頷いた。同時に、もぞもぞ菜摘が起き上がる。疲れ果てレイフのソファで休んでいた彼も、今の前置きに頷いた。

 

『アザゼル』

 

愚者のキーを3人の前で起動して見せ、当然その目は見開かれる。

そして、留一は少しずつ語った。

自分が天使だったという話。自分が人間の監視役だったという話。自分が人間と恋をしたという話。自分と人間の間に子供が生まれたという話。その子供は強大な力を持つ巨人となった話。子供から引き離され堕天使となった話。ルシファーに拾われた話。

 

それは細部は違えど、旧約聖書のアザゼルの物語そのものであった。

 

「……待て、脳で全く処理できていない」

 

「同じく。ヘイナ知識を駆使してもやっぱ話が壮大すぎて」

 

「ってことは、留一さんってアザゼルってことですか?え?」

 

「悪魔と天使は本質的に、っていうか天使どものレイシズム抜きに言えば普通に同じ存在だ。なんらかで私も人間と融合したってこと。浅井家の子供として」

 

「その物言いだと完全に覚醒してるってことよね?」

 

「そうなるね」

 

「……タオを作ったのは、天使への復讐に使うためか?」

 

「ああ、そうだ」

 

明路の当惑をよそに、彼は微笑んで続ける。

 

「お前らが軽んじた人間はこんなにやれるんだぞって、人間の力だけで証明してあいつらに叩きつけたかったんだ」

 

「……なんだ、そういうことか」

 

「なんだって何さ」

 

「いや。……道教モチーフは」

 

「うん。天使どころか神様すら関係なく、人間が真理を求めて人間が自分を高め続ける。人間の生み出した宗教こそ道教だから」

 

「だからゴスペルブラスター作成を渋った、って?」

 

「今もあんまり飲み込めてはいないさ」

 

「僕が戦う動機をなくすことを懸念してたのは……」

 

「人間の技術で上回ったから、雨野菜摘はレギエルであることをやめた……私にとっていちばんいいシナリオ。君が戦うのをやめても結局ガブリエルは天使を見繕うだろうし」

 

少し俯いて語る留一を前に、春子の声は震えたものになり彼女は立ち上がる。

 

「……あんたのその信条の!!!……その、信条の」

 

「私の信条がなんだよ」

 

いつもはしない表情。春子を睨みつける、その留一らしく無い表情。

 

「………………なんでも無いわ。あんたは、妻と子供を……奪われた、ものね」

 

春子の視線が申し訳なさげに下がり、そのまま退出。手に持ったものを見る限り、タバコである。

 

「俺は春子の後を追う」

 

「そっとしておくべきかもよ?」

 

「かもな。分からないなら俺は俺なりの最善をする」

 

2人きり。静寂を切り裂いた菜摘は、春子のデスクを見る。

 

「春子さんは、明路さんのために怒ってます。……前は僕のために怒ってくれました。まあ声荒げると怖いけど、優しい人ですし、」

 

「ああ、知ってる。ものすごく知ってる」

 

留一はふらふらとタオの備品の倉庫へ向かう。途中で見えたのは屋上に立つ明路と春子。

 

「僕ばかり……駄々こねるガキじゃないか……」

 

ため息をついて頭を抱えて座り込む留一。反対側の椅子には、いつのまにかガブリエルが座っていた。

 

「ええ。あなたは使命を全うせねばならない。贖罪の使命を。天使に戻ることは貴方自身望まないでしょうし、できませんが」

 

「……やろうと決心したタイミングでやれって説教くさく言われたらやらなくなるよ。私の母さんもそうだった」

 

「ラファエルから預かっています」

 

相変わらず、ガブリエルはちゃんとした受け答えをしようとしない。彼女は留一の睨む目など気にも止めず、机の上に何か装置を置いた。

 

「第二体……あなたたちの呼ぶ形而上肉体にアクセスするための器具です。使い方は是非、考えてください」

 

置かれたその装置を、ため息と舌打ちで見送る留一、アザゼル。向き直って放置し、タオの修理を始めた。

 

 

ケツァド・イブク。召喚するのとは別に、バイクや自転車を変化させることでも使用できる運命の輪のバイク。

公道を走る上ではナンバープレートがあるのに越したことはなく、今回も白バイを変化させての移動だ。

通報があった。爆発騒ぎと黒田翼の目撃である。茨城県庁の前のようだ。

 

「……見つけた」

 

「君だけかい?仮面ライダーとやらの鎧は壊れちゃったのかな」

 

「そっちこそ君だけ?」

 

「ああ、結構忙しいのさ」

 

「……目的は」

 

「ルシフェル達も頷く理由さ。私はオーディンとしてこの世界を全うする」

 

「何?」

 

「始まりはミズガルズ(人間界)の果てしない戦争。その次は長い冬」

 

「何の話を」

 

「私は。……この世界に、ラグナロクをもたらす!ノルンの言う通りであれば私は死ぬが、このまま天使達の手の下で腐るよりは幾億倍も素敵だろう?」

 

「ラグナロクって、世界の終わりだろ。させない、湖冬が暮らす世界を壊させる気はないよ」『受胎告知』

 

「終焉はいずれ来る定めに過ぎない。タイミングがわかった方がまだマシだろう?」『オーディン』『ハングドマン』

 

「同意する気もない」

 

『解放』

 

「変身!」

 

『降臨……置換……変化……聖なる、開幕』

 

菜摘が倒れ、レギエルが翼をたたみ駆け抜ける。同時にシェイドオーディンも槍を構えて突き出す。

 

「グングニルっていうんだっけ?」

 

「有名だろう?」

 

「そりゃね」

 

放つ槍をかわし、かわし、かわ、す必要なし。振り上げるのはフェイントで、足払いが待っていた。

 

「ぶご……!?」

 

オーディンの蹴りが腹に叩き込まれ、綺麗にレギエルをぶっ飛ばし。起き上がるレギエルへ、さらに迫る。放つ槍を転がって避けつつ懐へ。拳をぶつけるもあまり効いてはいない。

 

「っは!」

 

「っだいなァ!!」

 

槍の一撃を喰らいつつ、勢いそのままの後転回避。貫通はせずに済んだようだ。

 

『ラミレシア』『正義』『強制解放。介入、開錠、解放……正義。その、均衡』

 

弾け飛んだ右腕から出現する大剣。切り掛かるがかわされ、槍の一撃が向く。防御もできるが故の大剣だが、この状況では防戦一方。抽出機を介さないシェイド、仮称モノクロシェイドにはシェイドコッフオルからずっと不利を取っているままである。

 

「ダメだろそれじゃァ!」

 

「どっちかと言えばダメダメかな?」

 

放った拳は簡単に受け止められ、頭突きが叩きつけられる。怯むレギエルにさらに放たれる一撃。殺すつもりはないとか言っていたか。いずれにせよ、いま菜摘が思うのは「湖冬にどんな顔すればいいか」だった。

 

「っで!!」

 

だが、槍を弾き飛ばす銃声。タオブラスターを構えた明路だった。

 

「明路さん……!!」

 

「待たせたな」

 

『Taoism……Human power without god's hand』

 

タオの修理は終わったようである。……何より、トランクケースではなく大きめのジュラルミンケースが明路のその手にあった。

 

「まさか、改良が……!」

 

「結局タオの改良はアルカナキー抜きだ」

 

「あれ、そうなんですね」

 

「まあいい。……変身!」

 

腕を突き出し、ゆっくりと広げ。指紋をベルトに触れさせたのち勢いままに腕をクロス。瞬間、置かれたケース全てが分裂し四つのドローンに変形。

 

「スーツは……」

 

答えは一瞬で出た。ドローンは円陣を組み明路の足元へ行くと、ぐるぐる回転しつつ何かの射出が行われる。樹脂か何からしい。最後に光が照射され、今までの半分以下の時間でスーツの装着が終わった。

まあ、言うなれば……。

 

「3Dプリンター……!?」

 

『Fitting……OK. Five senses assist is ready』

 

「へえ、早いね。軽そうだし面白いけど。防御力はどうかな!!」

 

「待て!」

 

当然待たない。階段の上のタオに駆け寄り、放つ蹴り。咄嗟に腕を構え防ぐタオ。後ずさるが、装甲のダメージは大したものではない。

 

「硬さそのままに早く軽く動きやすくってわけかい」

 

「そうなるな」『ペイドヴァラ』

『Ji-Du-TAO!Hierophant!That Authority!』

 

ショットブラスターで放つ糸たち。しかしかわされかわされ槍で切られ。

 

「2度も3度も喰らうと思う?」

 

背中に構える槍でレギエルの斬撃を受け止め、タオを蹴り落とし。2人がかりだからで楽になる相手でもなさそうだ。

 

「っだあ!!」

 

格闘もいくらかしやすくなっている。ショットブラスターの近接攻撃も当てつつ、拳を叩きつけ。かわされたその隙を埋めるようにレギエルが殴りかかる。

 

「なるほど、悪い動きではないかな!」

 

だが浅い。槍の薙ぎ払いを叩きつけられ仲良くごろごろ。目を見合わせ、これまたアイコンタクト。手に持ったキーを受け渡すタオとレギエル。

 

『ラミレシア』

『Ji-Du-TAO! Justice!That Equilibrium!』

 

『ペイドヴァラ』

『介入、開錠、解放……教皇。その、束縛』

 

「食らえ!!」

 

放ったショットブラスターの弾丸は刃のかけら達。斬撃の散弾と言うべきか。さすがのオーディンも身を庇う『喰らいたくなさ』である。さらに、糸。

 

「っと!」

 

器用にかわしてみるが、飛行や滑空を使った三次元的な糸の結界がその動きを阻む。ショットブラスターの一撃はもはや守るしかない。

 

「……絡め手にも限界があるぞ」

 

「作戦は戦いつつ考えましょう」

 

「名案だ」

 

糸を引き裂いて迫るオーディン。放つ槍の連撃が2人を吹き飛ばす。さらに槍を投げようと構え。

 

「……っづあ!?」

 

その一撃を赤い蹴りが阻む。

 

「菜摘君にさァ、何してるの!?」

 

さらに斧剣斧斧剣!怯むオーディンを前に、ルシフェルは剣にキーを装填した。

 

『アスタロト』『星!アスタロト!』

 

斬撃にて毒霧が放たれ、さらに斧からの火炎が爆発。オーディンも吹っ飛ばされ受け身。あたりを見て、フッと笑い。

 

「不利だな、流石に」

 

肩から生える黒い翼で、撤退。ルシフェルはその背を見たのち、ゆっくりレギエルに向き直る。

 

「……待て」

 

「ごめんなさい、待ちません」

 

急に手を回し、腰と首を撫で回されるタオ。何事かと離れれば、ベルトが外され、装備の電源が切れるではないか。

 

「私がいろいろ意見出してたんで。効率的な緊急停止」

 

「……っく、雨野君逃げろ!」

 

最愛の人を前に背中を向ける。

菜摘はそもそもその選択肢がかなり追いやられている。ルシフェルとレギエルの戦いは抵抗から始まる。

しかし疲弊もあり、簡単に組み倒される。

 

「……な、なにさ」

 

「んーん」

 

あぐらの姿勢で座らされるレギエルと、バックハグで顎を恋人の肩に乗せるルシフェル。首元にキスをされれば、レギエルも力が抜ける。

 

「手荒はやっぱり、したくないから」

 

キーピック型のアイテム、不正解放機を自身のバックルから引き抜くと、ゆっくりとレギエルの第二体解放装置へセットする。

 

「じっとしてね」

 

耳元で囁く声。明路は仮面の下でなにを見せられているのかと思いつつ、タオスーツからの脱出に成功する。

 

「地島君、キミは!」

 

「しぃー……」

 

くったりとレギエルが倒れれば、そこには菜摘が座らされている。キーピックで無理矢理閉じて変身を解除されたのだ。

ゆっくり立ち、菜摘の前で弾け飛ぶルシフェル。血と肉片は粒子になり、湖冬が立ち。戦う様子がないならただのカップルでしかない。

 

「湖冬、何を……」

 

「正直、私は君の意思で戦いの終わりと地獄への移住を決めて欲しかった。あんま言いたくなかったんだ。だから」

 

「でも僕は」

 

「ねえ菜摘君」

 

人差し指を恋人の唇の上に乗せた。

 

「結婚式はまだまだ無理なんだ」

 

「それはそうだけど」

 

「……私達、本当に愛し合ってたし、今でもそうだと思わない?」

 

「うん」

 

「ふふふ、あのね、今、地獄の名簿にある名前なんだけど。処遇がちょっと特別なんだ」

 

「なんて名前?」

 

話を聞く姿勢。菜摘は座り込んだまま湖冬を見上げる。

 

「分季……わけぎ、って言う女の子。事情が事情で、成長が止まってて」

 

「……ワケギ?……それって……嘘、え、」

 

「あのね、菜摘君。3年前の話でね」

 

そっと、腰を丸め、耳元へ。ただ目を見開く菜摘へ、どこか寂しげに、されど嬉しげに、複雑なものが入り混じった声で吐き出す。

 

 

 

 

吐息。

 

 

 

 

「私ね、お腹に赤ちゃんが居たの」




次回、「の天使」
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