仮面ライダーレギエル   作:さわたり

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第十五話「金の天使」

暗がり。

シェイド犯罪者は研究施設を兼ねた特殊刑務所に収容されている。刑期や内容は一般的な囚人のそれではあるが、やはり何が起きるかわからない、と言うこと。

だが、やはりシェイド犯罪もここ5、6年で発生したもの。社会側が慣れてないのだ。

 

「……できそうですか?」

 

「ああ、簡単だアスモデウス」

 

脚をぷらぷらさせる長い髪の少女。視線の先は、当然刑務所である。少女改めアスモデウスの後ろでは、不敵に笑う黒髪の男。

 

「問題はキーだけど。そっちは?」

 

「はい。……やってみせます」

 

「じゃ、決行の予定を決めなくちゃなァ!」

 

「ええ。……サタン様」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第十五話「金の天使」

 

 

 

 

 

 

 

 

「私ね、お腹に赤ちゃんが居たの」

 

反芻。

言葉を理解するまでに、数分を要する。

同時に沸き起こる数多の記憶。結婚を決めたときに話し合った、子供の名前。

男の子でも女の子でも、一人目は「わけぎ」だった。漢字は分季。ひらがなの方がかわいいかな、という話もしている。

 

「……え、その、えっと」

 

「うん。君と私の子供」

 

「は……?え、」

 

「心当たりとかはあるでしょ?貯金もあるし、生活には困らないだろうって」

 

「うん……待って、その子は」

 

「私がそうなったのと同じように、地獄に居るの。……成長は止まって、まだ赤ちゃん、だけど。私の体の一部と、一つの命と、中途半端な状態で悪魔になっちゃって」

 

「ごめん、待って、脳が全然追いついてない」

 

「ううん、いいの」

 

優しく抱きしめて、そっとなでる。父となっていた男の頭。

 

「ダシにしたくなかったけど。もう仕方ないし、言うよ。娘のために。……娘のために地獄で暮らそう?」

 

「…………そ、んなの。そんな…の、」

 

うんとしか言うしかないだろ。菜摘はただ震えていた。

 

「地獄に戻ったら、その……カプセルと言うか、そういう装置で育てることになっちゃうけど、成長をちゃんと進める方法も、あるだろうし……だから!……考えておいて」

 

そう残すと、湖冬はくるりと踵。そのまま例によって歩いて去っていった。

 

「……雨野、くん」

 

「…………」

 

完全に放心である。戻ろうという明路の声には応え、ふらふら。ケツァドは白バイに戻して他のレイフ職員に。明路の車へ菜摘は乗り込んだ。

 

「帰るか?……あの様子だと、攻撃されることもないだろう?」

 

「…………お願い、します」

 

レイフの本拠地からは遠くない。彼を送ると、明路はそそくさ退散。少し空けた我が家。湖冬は来ていない。

とりあえず、夕食を。冷蔵庫を漁り、材料を出し。すっかり一人分を作るのに慣れた手つき。

 

「……わけぎ」

 

だが今は考えてしまう。

3人分を作ることもあるのだろうか?

そう考えて、ようやく事実が呑み込めた。湖冬があんな嘘つくはずがないと誰よりも知っている。自分は父になるのだ、沸き上がる感情。喜び、感動。よくわからない涙で、夕飯のそばは味がしなかった。

 

 

 

「おはよー」

 

「ん……」

 

朝、湖冬は菜摘のベッドに腰掛けていた。

 

「あれ、帰ってきたの?」

 

「そろそろ一人でアパートに居るのも虚しくて……。昨日の件は考えてくれた?」

 

「……まだ考えさせて」

 

「うん、時間はあるから。でも一児の父だし、その間も戦いは避けようね?」

 

「一児の母もだよ!」

 

「私の方が強いじゃん」

 

「まあそうだけどさ」

 

顔を洗い、歯を磨く。たまにはね、などと言いつつ湖冬は既に朝食を用意していたようだ。最近は外行きのコートとマフラーが多かったので、ジャージ姿の彼女を見るのは久しぶりである。

 

「見てこれ。映画みたいな朝食!」

 

スクランブルエッグとベーコンとレタスとパン。おいしそうだ。

 

「ん、久しぶりだなぁ……美味しい。湖冬の味」

 

「私の味なんてあるかなー?」

 

「ものすごく均一でなんか、整理整頓されてる」

 

「褒めてるのそれ」

 

「めっちゃ褒めてる」

 

ははは、2人揃って笑いだし、少しして菜摘は視線を伏せ。

 

「……この3年間、食べたかった味だよ」

 

「……。……ごめんね。待たせちゃって」

 

「ううん。会えたからいいんだ」

 

「あはは。そう言えば、菜摘君、いつの間に画集なんて出してたの?」

 

「3か月前ぐらい。おおむね今までのまとめだけど、まあまあ売れててるらしくて」

 

「お金の心配はどう?」

 

「あんまり無いよ。学生時代のバイト三昧も今を助けてくれてるし」

 

「ていうか、私の貯蓄一切減ってないどころかちょっと増えてたけど」

 

「君のお仕事のお金が振り込まれてるはず。……亡くなったって、言う扱いじゃなかったから」

 

「じゃあ猶更安心感?」

 

「でも、地獄で暮らすなら必要ないのかな」

 

「あんまり。私最高権力者だし、別に濫用しなくても生活には全然困らないと思う」

 

地獄の女王と、その夫。まあもともと天使カップルだったとはいえ、アキエルとレギエルが並んだことはなかった。湖冬が連れ去られてから彼の戦いは始まったので、当然と言えばそうである。

 

「サタン、どんな人なの?」

 

「得体が知れない感じだけど頭良いね。悪いひとでもなさそう」

 

「ふぅーん……。地獄ってどんな感じ?」

 

「区画によるね。いちおう私らの支配下とはいえ、いろんな宗教を考えて各々の支配者に合わせてテンプレを作ってる」

 

「元から?」

 

「ンー、私の采配でちょっと元冥界の神さまな人たちの権力が強くなってる」

 

「そうなんだ」

 

「うん。必要だからやってるだけで、私そこまで権力自体に興味はないし。いちいち私とサタンにお伺いしてたら効率悪いもん」

 

「っはは!」

 

湖冬らしい物言いだ。

 

「僕ら、暮らすならどこだろう」

 

「まあ私とサタンの直接支配下の地域だろうね。ただの死人じゃなくて堕天使だし職員の在住区画が……」

 

「待って、待って待って待って。職員?」

 

「うん。地獄運営実行会の職員だね」

 

「実行、え?」

 

「あははは……。天使の皆様は「人間と違って我々は特別」のプロモーションに忙しいけどさ、やってることのスケールがデカいだけで大して変わんないよ」

 

珍しく、皮肉っぽい笑顔である。

 

「もし地獄に住んだら、ここには帰って来れないの?」

 

「え?いやいやいや、全然帰って来れるよ。ほら春子さんとか、留一さんは悪魔と融合した人間として生まれることでこの世界に誕生してるけど、わたしはほら、こっち用の肉体用意して戻ってきてるわけだし」

 

「ってことは、昔と違う体なの?」

 

「これ、小学生の時転んだ時の傷跡。……まあこれもただ再構成したものなんだけど。でも、この跡を確実に再現したってことは、菜摘君がつけた爪痕も噛み痕も全部、消えてるけど存在してたはずの肉体ってことだよ」

 

こればかりは、合理の塊な湖冬らしからぬ物言い。そうして、次の話を切り出そうとするとき。

 

「私はあまり賛同しかねますよ」

 

背後から声。アモンである。

 

「不法侵入かい?」

 

「貴様がルシファー様にへばりつく時点で地獄的には敵対行為と見なしてもいいのだぞ」

 

「アモン。何してんの?」

 

「ルシファー様、あなたは」

 

「私は今ルシファーとして座ってないんだけど、ここにさ」

 

「では個人的に友人として言いますよ湖冬様。あなたはかつてのあなたとは立場も違います。かつての男にこだわって」

 

「今の男なんだけど!?私が菜摘君の女じゃなくなったことなんてないでしょ?」

 

「それが気に入りません」

 

「話が要領を得ないね」

 

「雨野菜摘としても、レギエルとしても、彼は地獄において役立つと思えませんが」

 

「今この状況だとアモンより確実に役立ってるけどね。私の生きる目的をけなさないで。そろそろ手が出るし下手すると殺しちゃうよ」

 

本気でもなければ、脅しとしてのハッタリでもない。口をついて適当な暴言が出るほど、湖冬の血管が沸騰しているという話だ。

 

「……私は、あなたを」

 

「やめてよ」

 

菜摘が制し、牙をむくアモン。とっさに持ち上げたキーを湖冬が奪い取る。

 

「貴様にあれこれ言われる筋合いは」

 

「出てって」

 

「……ルシファー様」

 

「早くして」

 

「……」

 

踵を返すアモン。湖冬はため息をついてメガネをくいっと持ち上げる。

 

「ね?アモンと仲良くするの、難しそうでしょ?」

 

「うん」

 

「まあ、仕事仲間として、すごく優秀なんだけどさ」

 

「……うん」

 

ソファで首を湖冬に預け、そっとなでてもらう。湖冬が170前後の長身というのもあり案外違和感のある光景でもなかった。

 

同じころ、アモンはため息。物陰から出たアスタロトが、くすくす笑う。

 

「敵うわけがないのよ」

 

「……何でも構わん。私はただあの男が気に入らないだけだ。大して強くもない癖に」

 

「ダッサ。何そのおためごかし」

 

「なんだと……」

 

「そもそも強さに関してはあの子相当よ。タオだっけ?と手を組んで……不完全だったとは言えお兄ちゃ、んっん!ベルゼブブを倒してるわ」

 

「ベルゼブブの戦いは環境などにも左右される。単純に測れるものでもないだろう」

 

「でもザコではないのは確かよ。そもそも戦力になるんだったら使えばいいのにとも思うし。非効率よね?」

 

「足手まといになるだけだ」

 

「あらよかったじゃない。足手まといになれば恋敵を始末する口実ができそうだわ」

 

「貴様が知った口を」

 

「あの!!人の家の前で喧嘩しないで!!」

 

扉を開けて菜摘がご登場。湖冬も続く。外行きの恰好でバイクの準備だ。

 

「あらごめんね。菜摘ちゃん元気~?」

 

「元気だよ。……アスタロトって呼べばいいの?」

 

「んー、でも割とこの肉体と人生も気に入ってるし……美国(みくに)ユズルで呼んで」

 

「じゃあユズルさんで」

 

「ありがと。こっちもレイジで良いわよ」

 

「雨野菜摘に気安く呼ばせる気など」

 

「じゃ、退散しようか2人とも」

 

湖冬の意外な発言に、アモンさえ少しいぶかし気な様子だ。

 

「あららお泊まりデートじゃないの?」

 

「んー、そのつもりだったけどやっぱちょっと考える時間を」

 

「へえ!あの菜摘ちゃんがルシファー様と離れたがったりするのね」

 

「菜摘君の何を知ってるの?」

 

「んもォ~怒んないでよルシファー様。いっぺんデートしちゃったのは本当だけど」

 

「……まあ、どっちかというと私が言い出したことだよ。菜摘君のお母さんに私が生きてること今知られてもただ大混乱だし」

 

「菜摘ちゃんのお母様ってどんな人なのかしら?」

 

「優しい人だね。元気で、顔立ちもちょっと菜摘君に遺伝してる。お母さん似なんだよね」

 

「じゃあ、お父様は?」

 

アスタロトの質問会。菜摘の身辺を楽しそうに話す湖冬の背中は、アモンにはひどく不愉快に感じた。

 

「うん、雨野蔓助っていう人なんだけど。産業デザイナーで。……私のこの、理屈っぽい性格はその人のおかげなんだ」

 

何だか恥ずかしそうに笑う。

 

「使いやすく、効率的なデザインを重視してて。でも菜摘君がメタリオン(ヒーロー番組)を見始めた瞬間かっこよさにも凝るようになったんだって」

 

くすくす。湖冬から出る、あれこれ。菜摘の家族の話、ついでに広がる湖冬の家族の話。心底楽しそうに、彼女は続ける。

 

 

 

 

「……いいの?」

 

「いいんです」

 

午後22時。実家で夕食を終え、帰ってきた菜摘は、急な客人である留一を迎えていた。

 

「いや悪いね、正直明日でもよかったんだけどさ」

 

「渡すものがあるなら早い方がいいですよね?」

 

「まあそうだね」

 

案内されソファへ向かう留一。朝はカップルがいちゃついていたとも知らずのっそり座り。菜摘は反対の椅子に。

 

「なんか顔スッキリした~?」

 

「まあ、色々と」

 

「……? そっか。てっきり悩んでいるかなって。ガブリエルの奴、君の……子供の事情とか勝手にべらべら喋ってさ」

 

「……ハハハ」

 

「まあ悩みって点では私もいろいろあったしねぇ。君の事はずっと応援してる反面、その……」

 

「天使の力でカタをつけられるのが面白くなかったです?」

 

「言うねえ!!まあ遠くはないけどぉ。そこに君という個人への感情は関係なかった。とにかくガブリエルとか、ラファエルに思うことが多くて」

 

「……」

 

もし僕が、湖冬から。……そしてわけぎから引き離されたら。菜摘はそう思えば思うほど、留一に「そりゃそうだ」という納得が募る。

 

「でも。でも……僕が駄々をこねる番じゃない」

 

「それは……」

 

かちゃり。机の上に、ダイヤルの付いた機械が置かれる。

 

「ガブリエルから渡された装置を使って、作った。これは……天使を憎むアザゼルからじゃない。愛する人に向き合う、若者の背を押すアザゼルからの。かつての自分を重ねるアザゼルからの、贈り物だ」

 

「留一、さん……」

 

「嬉しいよな、自分の子供が出来たって。しかも娘でしょ?写真、死ぬほど撮れよ?どうするにしてもさ。私は絵をいっぱい描いたけど全部手放す羽目になったし」

 

「ええ、もちろんです」

 

「……このアイテムは、アルカナキーとの併用が前提でね~」

 

「はいはい」

 

「その力を十全に出すなら、天使の技術と馴染む力の方がいいんだ」

 

「と、言うと……」

 

『アザゼル』

 

愚者のキーが、卓上に置かれる。

 

「私は堕天使だから」

 

「……お借りします」

 

「うん。……どうするか、聞いていい?」

 

「ええ。……母が前言ったんです。僕らの子供、楽しみにしてるんだって。おちょくった言い方でしたけど。今日は母と話して、すごく、それを思い出せました」

 

「そっか」

 

「あと、……アスタロトの、ユズルって人から電話かかってきて」

 

「うん」

 

「湖冬が、楽しそうに子供のころとか、家族とかの話をしてたって。それをわざわざ彼女が電話口で言ったんです」

 

「そりゃまたなんでだろうね」

 

「さあ……。でも、嘘じゃない。僕は、湖冬がどんな顔したか、想像できますから」

 

菜摘は、真剣なまなざしで今まで手に入れたアルカナキーを見つめる。

 

「湖冬はきっと、この人間社会でしたかったことがあるはず。僕は、この世界で家族に孫を見せたい」

 

「決まりだね」

 

「はい。……わけぎを、人間界に連れてきます。湖冬ができているんです。彼女の言うとおりに考えるなら、きっとその身体は僕と湖冬の血を分けた肉体として作られるはずです」

 

「そのためにちゃんコフに戦えるよと主張!」

 

「はい!」

 

「じゃあなっちゃん!えいえいおーだ。ちゃんコフとなっちゃんとわけぎちゃんで、幸せな家庭作るぞ~~~?」

 

「えい!」

 

「えい!」

 

「「おー!」」

 

 

 

 

 

「着いたね」

 

「……ただのデートで来る場所じゃないよねー?岩船山は」

 

車がたどり着き、止まる場所。駐車場もろくにない岩場で2人は降りた。

 

「戦うことになるって、想定して来たから」

 

「……菜摘君が娘のこと諦めるはずないし」

 

「うん、この世界に連れてくる方法を探そう。結局、地獄に居る場合もやり方を探るなら同じだよ」

 

「菜摘君を守るのが大変になっちゃうよ」

 

「だから僕は君に守られないって主張しに来た」

 

「君のそういう、意外と頑固なところ……すごく好き」『客星堕天』

 

「僕も君の、けっこう血の気が多い所、好き」『受胎告知』

 

タオやレギエルを見て、影響されたようだ。もともとヒーローものが好きだった湖冬、右腕を腰に構え、左腕を斜めに伸ばすポーズを取る。そして右手の不正解放機をセット。勢いそのままに右腕を伸ばし、左腕を腰へ。ゆっくり手を広げる。

白い翼と、黒い翼が向き合い。

 

「変身」

 

爆散、地島湖冬。

血と肉の雨、砕けたメガネが落ち、粒子になって消える。

ルシフェルはただ、菜摘を見ている。

 

「……力借ります」『アザゼル』

 

「……留一さんのキー?」

 

「うん」『フール』『愚者の翼、堕ちたるアザゼル!』

 

愚者のキーを留一から渡された「フォールンブレイバー」にセット。その見た目は4列のダイヤルがついた装置。

 

『Why don't you dance?Let's get started!Why don't you dance?Let's get started!Why don't you dance?Let's get started!』

 

「それは……?」

 

第二体解放装置に差し込めば、待機音が響き。ダイヤルをひとつずつ合わせ。

 

『Why don't you dance?Let's get started!』

 

「変身!」

 

『Open!』

 

掴んだアルカナキーを引っこ抜く!同時にフォールンブレイバーが展開し、バックル中央にダイヤル部分が重なる。同時に菜摘の右腕がはじけ飛び、強制解放時の、赤黒のそれに。

そして、菜摘の内側から光があふれ、その身体が蒸発でもするように消滅する。

 

『介入 by Fallen!開錠 by Start!解放 with Brave!愚者 a.k.a.Fool!その、無謀。そして光と闇!』

 

留一の趣味が漏れ出る音が鳴り響き、レギエルがその場に立っている。緑だった体躯は白く輝き、全身に黄金の鎧が重なる。その目は緑に光り。

……天使や悪魔の姿はあくまで認知的なものだ。だが、とにかく、湖冬には、レギエルの姿は神々しく感じたという話である。

 

「……それ、その姿は」

 

「まさか他人の力借りるのは無しとか、言わないでしょ?」

 

「あるものは何でも使うべきだと思うよ」

 

「だってそりゃ……」

 

「「効率的だから」」

 

「ふふふ」

 

「あはは」

 

「……やろうか。勝利条件でも付ける?湖冬が諦めるまで殴るのはヤだ」

 

「先に膝をついた方が……負けかな!」

 

「おっけー」

 

駆け出し、ルシフェル。放つ蹴りを防御。そのままバックステップで距離を取る。

光と共にレギエルの手元に出現する、ナックル型の武器。留一謹製、「フォールンレジスター」だ。キーを差し込めば、殴打面にタロットの絵柄が見える形に。

 

『フール』

 

レジスターを持つ左手ごとオーラが包み、また右手はアザゼルの能力でそもそも強化されている。両手ともども強化。ルシフェルに放った拳は、確実に怯みを呼び起した。

 

「……そっか、なるほどね。強いんだね」

 

ルシフェルは体勢を直すと、ルシフェルの頭から剣、ヘパイストスの右腕から斧を出現。構え切り掛かる。

 

「っと!」

 

がきん!ぶつかる音は拳と斧と剣。跳ね除け拳をぶつけ、またひるみ。放つ2発目はマントが防ぐ。肩あたりから出るそれは、光の翼が変化したもの。モリガンの力だ。

 

「だったら……!」

 

放つ連続打撃ラッシュ。流石にやられっぱなしでもない。自前の黒い翼と、腰のサタンによるコウモリ翼。同時展開からの羽ばたきで吹き飛ばす。しかしレギエルはそのまま翼を使い空中維持。飛びかかって殴りかかる。

 

「おっと!」

 

「っはは、湖冬も上手!」

 

「菜摘君こそ。空中デートできるじゃん?」

 

ルシフェルの放つ蹴りをかわし、レギエルの放つパンチをかわし。斬撃と打撃が空中でぶつかり。まともなダメージもなく着地。……の、瞬間だ。一瞬早く着いたルシフェルがベルゼブブの力で地面を蹴って砂煙。羽音すら聴こえる高速、ルシフェルが取った手段は足払いだった。

 

「うおっと!!」

 

「私相手に卑怯って言い方はしないよね!」

 

「ああ、合理的!」

 

地面を殴って上昇。今一度しっかり着地。羽ばたきで逆に砂煙をルシフェルに吹きかけると、急接近。拳っ!

 

「……!」

 

を、放たずに止める。フェイントと気づけばもう遅く、すでに腰にもらったタックルがルシフェルを拘束。

 

「今度は相撲?プロレス?」

 

「春子さん、プロレス好きだしね」

 

力比べの構図。ぐ、ぐぐ。ここでも効率的に炎やアラハバキの脚力を使うが、がっつり腰の入った姿勢であるレギエル有利だ。

 

「よい、っしょ!」

 

そしてそのまま押し倒し。どさっと2人の体が重なる。腕をついたレギエルが覆いかぶさる構図はまるで何かが始まる前。……ルシフェルの視線が足の方へ向く。

 

「あれ?私の勝ちじゃん」

 

「え?あっ」

 

ルシフェルは若干膝を立てた姿勢。レギエルはむしろ膝をついた状態。2人揃って、栓でも飛んだように笑った。

 

「ああっはは!はははは!!もぉー、菜摘君押してたのにそんな負け方ある?」

 

「っふふ、くふふ、うん、なんか、こうなっちゃった」

 

「「あっははははは!!」」

 

「あー……。菜摘君強いね」

 

レギエルがごろっと倒れ、ルシフェルがそのままレギエルの腕を枕に寝っ転がる。

 

「みんなと、湖冬のおかげだよ」

 

「んー、そっか」

 

「僕、地獄に移住させられる感じ?」

 

「勝ち負けと、結論は別だよ。僕は強いんだぞ〜!って、言いにきたんでしょ?」

 

「うん」

 

「じゃあ目的達成だね。……頑張って、この世界でわけぎを育てよ?」

 

「……! そっか、うん。ありがとう湖冬!」

 

「へへへ。でも……なんだってこっちで頑張ろうって決心がついたの?」

 

「昔母さんが孫を見たいって言ってたから。お義父さんもだし。父さんもきっと言った」

 

「あー、母さんも言うなぁ。たぶん」

 

「だよね。あとユズルさんが君がこの世界の家族を自慢してたって話を」

 

「え。アスタロト??ったぁー!!何してくれてるんだよー、もう!!」

 

「ははは、でも嬉しかったよ。僕はさ」

 

「……そっか」

 

身を起こして、向き合う2人。お互いの頬を触れ合い、顔が近づく。

その2人の思考に割り込む音。咳払い。

 

「そのまま気まずくなる前に我々の話をさせてくれ」

 

「よく割り込む勇気あるねスレイプニル」

 

父上(ロキ)がすぐ誰かに手を出そうとするので割り込み慣れています」

 

「弟と思いたくない話だな」

 

岩場に座る、黒田2人。手にはキーを持つ。

 

「何しに来たの?」

 

湖冬が睨みつけ、こわいこわいとわざとらしく黒田翼は怯む。

 

「単に邪魔だからね。天使への腹いせという面もなくはないが、君たちを放置するのは単にラグナロクの障害」

 

「潰させてもらおう。少なくとも、その第二体を失えば戦えまい」

 

『オーディン』『ハングドマン』

 

『スレイプニル』『チャリオッツ』

 

とんだ邪魔である。立ち上がって、菜摘と湖冬のアイコンタクト。

 

「この状況で一番効率的なのは……」

 

「一緒に倒すこと!行こうか」

 

シェイド2人がルシフェル攻撃開始。猛スピードのスレイプニルが放つキックを、レギエルが庇う形でガード。地面が抉れつつも、防ぎ切る。

 

「そういえばいささか姿が変わったか。強くなったようだが……」

 

「油断はダメだよスレイプニル」

 

「分かっています叔父上」

 

連続で放った蹴りを拳で押し返し、しゃがむ。何事かと思えば、レギエルの肩を踏み台にルシフェルのジャンプ。そのまま蹴り上げを顎に叩き込まれる。

 

「ナイス湖冬!」

 

「菜摘君が何したいかはわかるからね!」

 

そのまま両手の得物で切り下ろし。スレイプニルがかわし、今度はオーディンの槍投げ。これを剣と斧で挟んで受け止め、レギエルが殴って吹き飛ばす。

 

「ナイスコンビだねェ、こりゃ」

 

「我々も力を合わせましょう」

 

「ああ」

 

オーディン、ジャンプののちかがんだスレイプニルの背へ。両腕でガッチリ固定してもまだ余る4本。

 

「っであ!!」

 

案外合理性に欠けているものでもないらしい。槍の一撃を喰らい、レギエル防御しつつもぶっ飛び岩壁に激突。スレイプニルの速さでオーディン運搬ということらしい。

 

「おんぶごときに〜!」

 

そう言いたくなるのも仕方ない話だが。アラハバキのキーを不正解放機から引き抜き。左手の剣ルシフェルスラッシュにセットしつつ、ルシフェルは敵意剥き出し。

 

『アラハバキ』『女帝!アラハバキ!』

 

「っだあ!!」

 

剣を振り下ろせば、蹴りの幻影が無数にオーディンとスレイプニルを襲う。

 

「っと、この程度に揺れるものか!」

 

「ゆれろ!!」

 

『ベルゼブブ』『塔!ベルゼブブ!』

 

今度は切り上げの動きと共に暴風。右手の斧ヘパイストスフィニッシュと擦り合わせ、ぶん投げればまるでハエのようにまとわりついて飛ぶ。

 

「だああああ!!」

 

さらに壁を蹴ってレギエル再突撃。オーディンをぶん殴り、スレイプニルの上からぶっ飛ばした。

 

「叔父上!」

 

向かおうとするスレイプニルの目の前でルシフェルは地面を蹴り。砂煙にむせるそいつへ浴びせ蹴り!連続で回し蹴りを叩き込んだ。

 

「っぐ……!」

 

オーディンも拳のラッシュにただ防戦。だがやられっぱなしのわけもない。ぴゅいっと口笛を吹けば、肩からカラス2匹が出現。ドリルのように回りレギエルを狙う。

 

「菜摘君!」

 

とはいえ、所詮はそれだけ。ルシフェルの投げた斧が両方を撃墜し、オーディン自身もレギエルの拳にぶっ飛ばされる。

 

「負けるものか!」

 

スレイプニルの元に駆けつけつつ投げるグングニル。だが不完全もいいところの槍は必殺の力を失っている。

 

「っだあ!!」

 

レギエルの拳でそれは綺麗に叩き折られるのだ。

 

「な……」

 

「行こうか」『第二体抑制解放・Strike!愚者強制。Ready!?』

 

「うん!」『第二体強化解放!』

 

スレイプニルがオーディンを守るべく駆け出し、先陣を切ったルシフェルの蹴りを叩きつけられ、ばちり、ばちりと火花。

だがオーディンは逃げない。槍のかけらを掴み立ち向かい、それを尻目にレギエルは右手にレジスターを持ちかえ。両手分をこめて必殺衝撃をその拳でもって、シェイドオーディンの頬に叩き込んだ。

 

「っぐあああああ!!」

 

「……っくっ、」

 

そしてどうなったかはもはや言うまい。ヒーローのお約束。閃光と轟音である。

 

「雨野君!地島君!」

 

終わってからの到着。ヒーローこそ遅れてやってくるものだが、すでに解決済みだ。とはいえ公権力側の明路、逮捕の準備を開始だ。

 

「泣き言は言わないよ。君たちは強いから、私たちは負けた。光栄だ」

 

明路とその部下たちを一瞥。翼がキーを投げ置き、八千代の方も同じく。レギエルが吊られた男を、ルシフェルが戦車を拾い上げた。

 

「叔父上、どうしましょう?」

 

「罪状にもよるけど現世で何かするのは無理だろうしなあ、またラグナロクは今度!」

 

「ええ。正直父上にこの姿を見せずに済んで安心してもいます」

 

明路によって手錠。罪状は兵器の作成や強盗、テロ等準備罪などなど。逮捕されたとは思えないほど、カラッとした様子で2人は話しあっていた。

 

 

 

「ご迷惑をおかけしました!」

 

「いやいいんだ。雨野君のためだった、俺たちはそれを理解しているし君に手錠をかける罪状もない」

 

「ってよりは国が邪魔するだろね〜」

 

帰還後、レイフ。湖冬はしょっぱな90度謝罪であった。

 

「とりあえずさ、いろいろ落ち着いたからちゃんとあんたの帰還を祝わせなさいよ」

 

「そうだよ!おかえり湖冬!」

 

「あー、ガブリエルが言ってたのよ、実は」

 

「知ってるんですよね?だから私のおかえりと、わけぎの来訪の頑張るぞ。どっちも兼ねて!」

 

「実は私予約しちゃってるんですね〜〜!!ちゃんコフ予定ある?なければ5人で中華行っちゃお」

 

「え、ご一緒しても」

 

「むしろ君抜きでやるわけないでしょ。僕どんな顔で座るの」

 

くすくす。懐かしい話も盛り上がりつつ、待ち、移動、そして夕食。

3年ぶり、賑やかな姿に湖冬は少しだけ嬉し涙を流した。




次回、「お熱は柿色の夕陽」


基本的にレギエルの派生フォームは、「仮面ライダーレギエル 教皇解放」や「仮面ライダーレギエル 運命の輪解放」という名前です。アルカナキーをぶっさすアレ。
今回のいわゆる最強フォームは「仮面ライダーレギエル 愚者解放堕天」と言う名前。厨二病ですね。
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