仮面ライダーレギエル   作:さわたり

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仮面ライダーレギエル、OP妄想をよくするのですがこの機に既存曲からイメソン的にOPイメージを挙げておきます。
米津玄師の「メランコリーキッチン」です。OP映像をぜひ想像してみてください。


第二話「暴走と赤」

「敵は……」

 

「『運命の輪』か『戦車』といった所だろうな」

 

「そもそもシェイドであることは確実なんですか?」

 

「ああ、間違いなさそうだ。単に速度違反で通報されたようだが警察の手もかいくぐって走り続けている。映像を見る限りではあるが、先日『教皇』が用いた装置と同じような物が見られた」

 

プロジェクターで映した映像を指さし、明路と菜摘はうつむき気味に話をつづけた。

 

「……しかし、助かっていると同時に申し訳ない。君には本当に苦労をかける」

 

「いえ、僕にも私情があっての事なので」

 

「そうか、立場上君をスカウトすべきなのだろうが……」

 

「しないのですか?」

 

「……君を本当は巻き込みたくはない。部下にした方が当然楽だろうが、しかし善意の協力者という立場でいてくれ。俺からのお願いだ」

 

「ええ、お金だって出ますから、生活面に響くことはないですし。……本業も自営業ですから」

 

「再三だがすまないな」

 

そんなに謝らないでくれと、ホワイトボードに書かれた「魔術師」の文字を見ながらうつむく。

菜摘の目的はほかでもなく復讐である。……まあ、相手の詳細が分からない以上、どうするかなど考えてもいないが。今はただ悲嘆にくれながら目の前にあることをしらみつぶしにするしかない。この現状もその一つである。

 

「や、おいでだね!」

 

思考に割り込むテンションの高い声。白衣(黒いので黒衣というべきか?)と銀のゴーグルが目立つ中性的な青年が、会議室へ突撃してきた。

 

「浅井さんか」

 

「お邪魔しています」

 

「うんうん相変わらず礼儀正しい子だ!」

 

浅井留一(あざいりゅういち)はレイフ専属の技術者である。現在シェイドに対抗する技術を開発している真っ最中であり、その使用者候補こそ、ほかでもない磯羅明路だ。

 

「タオシステムについてか?」

 

「んーん!ただの休憩さ。私だって人間だもの。みつお!で。なぜここに居るかって言うと~?」

 

「……あっ僕ですか」

 

自分を指さす菜摘を前にうんうん頷く留一。隣の椅子に座りつつ手に触れた。

 

「人間が作る技術以外使いたくはないしそもそも使えないんだけど、それはそれでこれはこれ!君たちの人知を超えたあれこれは本当に気になるんだ!触れる機会も多くなかったから」

 

「ハハ……」

 

「ま、現代医療でわかる範囲の力じゃないしさ、触るだけムダなんだけど!」

 

あいも変わらずヘラヘラと彼は手を離す。

 

「タオシステムについては?」

 

「んーまだ待ってもらうよ」

 

「そう、ですか」

 

「ま、わかるよ。若人にばっかり任せてるのもツラいもんね〜」

 

「僕も……意図のがあっての協力ですので」

 

「じゃあ君はさ、魔術師のシェイドを倒したらもう全部おさらばしちゃう感じ?」

 

浅井の問いに、彼は言葉を詰まらせる。そうだと言いたくもないけど、かと言って戦う宿命に飛び込むような真似をし続けて居られるだろうか、なんて考えてしまう。

世界平和を望んでこそいるが、自分が叶えるものという感覚など当然なかった。

 

「……わかりません」

 

「だよねえ、まあ分かれとも言わないよ」

 

より一層俯く菜摘を見て、浅井が二言目を選び出したところで割り込む。春子からの連絡である。

 

まっすぐ進むシェイドゆえに経路の予想なども簡単だ。通行止めなどを敷き、また行動を絞るために別の道には鉄柵などを構え、準備を進める。

 

「20分後にここに来ると予想されてるんですね?」

 

「ああ、そうだ」

 

目的の場所は江東区。公園などに隣接し、利用者が多すぎない地域である。

いつでも天使になれるよう、彼は構えていた。

 

「……」

 

「まだ接近はしていない。身構えは必要だが気張りすぎるなよ」

 

路上に立つ菜摘に、明路は缶コーヒーを投げ渡した。

 

「俺と同じものを買っただけだが。好みか?」

 

「意外です。てっきりブラックコーヒーが好きなものだと」

 

「ミルクティや抹茶ラテ、その他……俺は牛乳と砂糖が好きだ。意外だろうか」

 

受け取ったカフェオレにそっと口をつけながら、待ち構える。秋前は服や食べ物の温度に迷うが、今回も冷たいコーヒーでいいか明路は少し迷っていた。

まあ、菜摘の様子を見る限り問題なさそうだ。

 

「……どうだ?」

 

「現状、まっすぐ向かっています」

 

タブレットを操作しつつ明路の部下は端的に答えた。……そこで異変が起こる。道を逸れたのだ、シェイドが。

 

「何ッ!雨野君!!」

 

「ええ、向かいます!」

 

『受胎告知』

 

二輪へ飛び乗りかけ出す!戦いはいつ始まるか分からない。彼は腰にそれを出現させた……と言うより、『存在していたことに』した。

 

『解放』

 

広がる翼。純白の閃光が駆け抜け、光の主が第二体解放装置の鍵に手をかける。開かれる、扉。

 

『降臨……置換……変化……聖なる、開幕』

 

だらんと身を投げ出しバイクから崩れ落ちる菜摘。既に、乗っていた。純白の翼と緑の姿の戦士。消滅する菜摘の肉体と大きな翼に隠れるレギエルの後ろ姿を、明路は息を呑んで見送った。

 

通行止めなんかも軽く薙ぎ倒し飛び越え。シェイドはただ進む。

 

「っ速い!」

 

巨大な車輪に手足を生やしたような外見と言えば良いだろうか。車載カメラからの映像を見ながら、明路はそのシェイドの姿を視認をした。

 

「やはり右腕の機械らしきものは二山ヨシオが抽出機と呼んでいた装置で間違いなさそうだ」

 

「カードの図柄は不明です」

 

「『運命の輪』のように見える、が……これは雨野君の勝利を待つしかないか」

 

「ですが速度が追いついていません」

 

「何か手段はないものか……」

 

あれこれ考えても既にシェイドとレギエルは遠くに居るし、シェイドはさらに遠のいている。バイクの上でレギエルは焦りを見せた。

 

「……くっ、止まれ……!」

 

「……悪いな」

 

「悪いと思うなら止まってくれないかな」

 

「……」

 

答えずもただただ距離は離れていく。意を決し、レギエルはバイクから跳ぶ。純白の翼を広げるが、やはり間に合わない。

 

「っ」

 

ゆっくり着地し、どんどん小さくなるその背をため息と共に見送った。

 

 

 

 

 

第二話「暴走と赤」

 

 

 

 

 

 

「消失しちゃったって?」

 

「単にシェイドの姿から戻ったのだろう」

 

「戻ったか、それとも化けたか」

 

「……それは」

 

「いや、……単なる想像」

 

明路の話を聞きながら、留一は画面と睨めっこ。まだやはりタオシステムには課題が多いらしく、その手が頻繁に止まる。

 

「……ついに出たってね」

 

「……」

 

「状態は?」

 

「まだ情報は」

 

「回復に向かってるそうよ」

 

がちゃりと戸を開き、春子が資料を置く。そのままファイルから、ホワイトボードに磁石で紙を止めた。

 

「それは良かっ」

 

「でも確実に障害が残るわ。酷ければ半身不随。記憶の状態も曖昧らしいのよね」

 

「……命あるだけマシ、って思うべきなのかな」

 

シェイドの横に、顔写真と事故現場のマップが描き出される。

今回のシェイドにより、ついに怪我人が出たのだ。これにより交通規制もさらに強化され、鉄道の臨時運行の数も増やされた。社会に確実にダメージが出始めている。

 

「杉並の阿佐ヶ谷……流石の移動速度というべきね。タオシステムに取り入れて何か移動手段を作れない?」

 

「無理だよ。そう言うことができるシステムじゃないし、する気もない。そもそも人間が簡単には扱えない」

 

「しかし春子曰く……人間は皆シェイドになり得ると聞いたが」

 

「……ま、それはそう……らしいね。人間はみな肉体を二つ持っている。魔物として具現化できる、ケイ……形状……」

 

「形而上肉体」

 

「それをうまく引き出して、扱えればよいのではないか?」

 

「おお!完璧な作戦だ!不可能という点に目をつぶればね」

 

おどけた態度で背もたれに身を預ける留一。イラっとした目で見下ろす春子をよそに、明路は真剣に頭を抱えていた。

 

「タオシステム……何が難航のポイントだ?」

 

「まず装着の際に位置情報の取得が必要なんだけど、衛星だとレイテンシが引き起こすズレでエラーが出る」

 

「人工衛星からの取得が必須なのか?」

 

「そもそも周辺地形のに対する考慮もだし、位置情報とかカメラ映像はどうやっても衛星を使うから別のネットワークを用意するのは逆に遅延の原因になる」

 

「装着を手で行うのは?」

 

「そっちへの切り替えも可能にしてる」

 

「なら……」

 

「ほかにも攻撃時の耐衝撃構造の動作チェック、攻撃を受けた際の分散機構、宗教学的文様の分散効率、その他もろもろ」

 

「……急かすようなことを言ったな、すまない」

 

「いいさ、人命救助の道具ならなおさら」

 

真面目な顔になり、またPCとにらめっこ。邪魔になっては悪いと、彼のもとを離れた。

 

「春子にも苦労をかける」

 

「なによ、あたしはこれで金もらってるんだけど」

 

「だからと言ってねぎらいを拒む理由もないだろう?」

 

「そう、だけど……」

 

すこし、照れるように笑い。彼女も机に座りPCを起動した。装備開発を行う留一と、シェイドそのものの研究を行う春子という形で役割は分担されているわけだ。

実働部隊長も命をかけ、自ら体を張る危険な仕事である。それでも、いやむしろ、だからこそ、なおさら無力感が募る。

 

 

 

春はまだまだ先だが、桜が植えられた河川敷はそれでも趣がある。菜摘的にも服飾系のデザイナーとして、インスピレーションを感じるのにちょうどいい。

春になると「彼女」を思い出すのもあり、あまり桜の花は気持ちよくない、という面はあるが。

 

「……何の用ですか?」

 

「様子見です」

 

「プライバシーというものはないのですか」

 

「必要ですか?」

 

「だれにでも必要です」

 

「だったとしても、外出の時間はプライベートの中では比較的公なものです」

 

「そうですか」

 

座り込んでスケッチブックでペンを滑らせる彼を見下ろし、天使は無機質な態度で声をかける。美形な女性の顔だけに、無機質さが不気味ぐあいを押し広げている。

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……えっもしかしてこれずっといる感じですか?」

 

「なにか問題でも?」

 

「光景が異様すぎるでしょう」

 

「再三言っていますが、第二体の直感で認知されても理性的に認識されることはありません」

 

「一方的に認識される相手を選べると?」

 

「そうなります」

 

「プライバシーも何もないですね」

 

「人間のプライベートに興味はありません」

 

「配慮は?」

 

「理解しうる限りでは」

 

不安だなあとつぶやきながら景色の方へ目を向けたとき、突如携帯電話が鳴り始める。LINE通話だ。

 

「明路さん……」

 

『そうさ、オレには記憶がねえんだ』

 

「……?」

 

明らかに明路の声ではないし、話しかけても謎の声は反応を示さない。

 

「スピーカーをミュートしてるのかな……」

 

『だから、覚醒したかった。前世の記憶を……思い出したかった』

 

「前世……」

 

「輪廻転生は存在しません。人は死すれば父のもとへ向かうのです」

 

「僕は別にキリスト教徒じゃないんだけど」

 

「天使なのにですか」

 

淡々と応酬をするのに割り込むように、電話の先の男が話を続ける。こちらの会話が聞こえていない証拠である。

 

『走れば思い出せる気がしたんだ!オレの……ケツァドとしての記憶を!今の人生の……失った記憶も一緒に呼び起せるんじゃないかと思って!』

 

「……ああ、ケツァドなのですね」

 

「知ってるんですか?」

 

「悪魔ですよ。ソロモンも特に目をつけていない、その程度の悪魔です。あなた方らしく言えばシェイド」

 

「アルカナは」

 

「さあ、わかりません」

 

魔術師か?と疑う思考。それとはまた別に、悪魔のしたことへの怒りがぐつぐつと騒ぎ始めた。

 

「こいつは……」

 

『オレには……婚約者?妻?がいたっぽいんだよ。な、ココ見ろよ。手錠とかはよせよ?銃もだ。オレもあといっこボタンを押せば一瞬で悪魔の姿になれるんだからな』

 

「……話が見えてきたよ」

 

明路が何かしらの形でシェイドの人間に接触したようだ。場所のヒントのためか、会話を聞かせることそのものが目的か。ともあれ菜摘はバイクの準備を始めた。

 

『ま、この跡が指輪っぽいってこと。生きてるなら会いたい。死んだなら墓参りをしたい。ただのファッションとかなら……またその指輪を楽しみたい』

 

「……」

 

『でもさ、ハハ……オレたぶん事故って記憶飛んだっぽいんだよな……オレが轢いたやつ、い、今どうなってる?生きてたよな!?……日本人って優しいんだよな、ヤッパ……ハハ……救急車すぐ呼んでたよリーマンが……だからオレすぐ逃げて……』

 

『石田賢三氏は生きているが下半身不随の可能性が色濃い。記憶に関しても障害が残り得るそうだ』

 

『っは、記憶喪失……喪失……だよなあ、』

 

『気になっていたからあまり遠くまで行けなかったか?』

 

菜摘は今、河川敷にいる。善福寺川の、だ。事故の発生地点は阿佐ヶ谷。……近い。まあそもそも事件発生現場に向かったのちの散策である。当然といえば当然。

直後にシェイドの男は『川沿いの橋の下なら隠れられそうでさ』と続けた。……おそらく本当に近くだ。

 

 

 

「……」

 

「今の君を裁く法は整っていない。道路交通法は適用されないからだ。主に傷害罪が罪状となる。刑務所には食事も衣服も……病院もある。君の戸籍に関しても念入りに調査をしてくれる。君の財産を調べるためだ」

 

「お、オレ……いいのかな」

 

「当然、」

 

「良いわけがありませんよ」

 

遠くないどころか、この善福寺川緑地に彼は居た。移動中に吐いた名前はメグル。まあ、偽名のようだ。そもそも彼にはホームレス生活の記憶しかないと言うから、偽名なのだろうが。

歩み寄る菜摘は、腰に手を当て。

 

『受胎告知』

 

「待て雨野君、彼は」

 

「日本の法でまともに裁けない犯罪者、でしょう?私刑にするつもりはないですけど形而上肉体を破壊する必要はあるのではと」

 

『解放』

 

後ろで天使はどこか満足げに頷く。明路が止めるのを待たず、菜摘は広がった翼と共に歩み、そのドアロックを捻る。第二体解放装置の扉が開き、聖母が祈る姿のステンドグラスが解き放たれた。同時にどさりと菜摘が倒れ、消えるその身体をどけながら。

体からただ一つ残った装飾物である指輪が薬指にきらめいた。

 

『降臨……置換……変化……聖なる、開幕』

 

「騙してたとはよくやるな、おい!」『ケツァド』

 

「違う、これは!」

 

「違くてもオレが逃げなきゃなんねーのは確実だろうが!」『ホウィール・オブ・フォーチュン』

 

肉体が『形而上肉体』に押し上げられ、混ざりこみ。抽出器は無機質に『融合解放』と吐き出す。加速を始めるそいつを追いにバイクにまたがるレギエルへ、明路が声をかける。

 

「言いたいことはいくらでもあるが……とにかくこれを。春子からだ」

 

「……教皇の」

 

彼が回収し渡したものだから、戻ってきた構図だ。ハイエロファント・アルカナキーをしまいつつ、進む。二輪を走らせるがやはり距離は離れていく。

 

「賭けは好きじゃないんだけどね……」

 

アルカナキーは、その名の通りのものである。プレート型のそこからガチャリと飛び出る。鍵のブレード部である。

第二体解放装置の、向かって、左。ドアロックの反対側のカギ穴へ、接続される。

 

『教皇』

 

「さて、どういうのかな……」

 

瞬間、腰回りが菜摘の肉体へ戻る。解放装置の下から膝のあたりまでと言おうか。そこが、先ほどまでのズボンへと戻った。バイクの上に立ち、キーヘッドとなったプレートを捻る。

 

『強制解放』

 

『介入、開錠、解放……教皇。その、束縛』

 

ばちゅん、腰回りが血と肉片と布の欠片をまき散らしてはじけ飛び。その肉片も血も布あまねく消滅する。赤と黒の、レギエルとは様相の違う腰部が車載カメラに写り込む。

 

「なるほど、これなら……」

 

続いて、腰部から尻尾のようなものが伸びる。尖った先とはいえ武器としてはそこそこという程度か。主題はそこではない。

 

「まだ見える……届く、かな」

 

ばしゅっと、その先端から糸が放たれる。驚くももう遅い。しっかりとシェイドの身に絡みつき、レギエルを引っ張る。バイクで引きずるのは無理と感じ、翼を広げ上昇する。要するに、凧である。

 

「なに……!」

 

「何って、見ての通りさ」

 

糸を手繰り寄せればおのずと距離は近づく。等速で移動しているのだから当然だ。

 

「くっ」

 

振り払おうとUターンするが、むしろレギエルはそれを利用する。建物に足をかけ、曲がるための減速中であるシェイドを引っ張り壁へと激突。すぐさま足へと糸を放った。

 

「ああ、くそっ、っ!!」

 

糸を切って逃げ出すがもう遅い。加速し始めなら慣性抜きにしても糸のほうが早く、完全にギチギチに拘束されてしまった。

 

「……ああ、やめろ、あ、ああああ!!」

 

「落ち着きなよ」

 

『第二体抑制解放・教皇強制』

 

「っは!」

 

糸が放たれ、シェイドの体を一気に絡めとる。そして、引く。

宙に投げ出されたその身が迫り、同時にレギエルの右腕のガラスが弾け飛び。光が溢れ出すその拳が静かに沈み込んだ。

 

「っぐあ!」

 

シェイドの肉体からメグルが弾き飛ばされ、尻餅をつく。それと同時にさっきまで融合していた、シェイドの、『運命の輪』の体が砕け散った。

 

「……さて」

 

レギエルが翼もろとも倒れ、そこにいた菜摘がメグルへと歩み寄る。

 

「っく、来るな!!こ、殺さないでくれ」

 

「大丈夫だ、殺すわけがないだろう」

 

急いでやってきた明路がメグルを拘束し、部下たちにその身を預ける。一件が通りすぎ、落ち着いた彼は菜摘の方へと振り返った。

 

「……魔術師かもしれない可能性があったとはいえ誉められた態度ではないぞ」

 

「じゃなかったとしてもシェイドでしょう」

 

「雑な括りで人間と向き合うな!カードと同じなら22名はシェイドが居ることになる。全てああやって殴りかかるつもりか?」

 

「だとしたら何なのですか……!」

 

「感情抜きにも非効率だろう!人間にはそれぞれ適した対応がある。彼はシェイドのメグルではなく、メグルという人間がシェイドだっただけだ。分かるか!」

 

効率悪いなあ。地島湖冬が、彼の脳裏で困り気味に眉を下げる。

 

「……反省します」

 

「そうしてくれ」

 

「……その」

 

彼が近づくと、メグルはその身を跳ね上げて後ずさった。手錠をかけていたレイフの隊員たちが引っ張られ、彼は小さくすまないと言う。

 

「お、オレはもう何もできない!だから」

 

「……ごめんなさい。あなた個人を追い詰めたかったわけじゃないんだ。……ちゃんと、日本の法で罪を償ってください」

 

「……あ、ああ。そうする」

 

「ええと、婚約者、見つかるといいですね。僕にも、できることがあれば……」

 

「あんたも、か?」

 

「え?」

 

「そんな……気がしたんだ。目っていうか、言い方かな」

 

「シェイドにやられて、死んじゃいました」

 

メグルは目を見開き、俯き、もう一度見上げ、言葉に詰まり。……少しして、すまないと漏らした。

あなたは悪くないですよと、シェイドがやったんじゃなくてやった人がシェイドだっただけですよと。受け売りながら言おうとしてみる。

 

「へ……」

 

出たのは、涙まじりの下手くそすぎる笑顔だった。

 

 

 

 

 

「お見舞いなんてわざわざ」

 

「ご無事で何よりです」

 

石田賢三氏はリハビリが必要になりそうですと、ベッドで笑っていた。医者の腕がすごいにせよ、運が良かったにせよ、彼はまた自らの意思で地面を踏めるようだ。

 

「まだ、おぼろげですけど、多分思い出せそうなんです。妻の顔はわかります」

 

そう言って、彼は頭を下げた。自分が何もできないからという無力感は、人の出来た石田が責めようとしないことでなお膨らむ。

 

「……明路さん」

 

帰還する彼を迎えたのは菜摘だ。

 

「メグル……いや、丸山周矢から、君が使ってくれと。春子は既にデータを取ったそうだ」

 

「……ありがとうございます。彼にもそう伝えてください」

 

渡されたのは『運命の輪』のプレート、言ってみれば『ホウィール・オブ・フォーチュン・アルカナキー』だ。

 

「気分はどうだ」

 

「三年間ずっと最悪です」

 

「それも、そうか」

 

「……いま24歳で、1歳の時に隣に越してきたから、二十年。ですね」

 

「居るのが、当然だったのだな」

 

「僕の、一部なんです……僕も、彼女の一部だった」

 

明路には返す言葉がない。特別製の、婚約指輪にしては少しシンプルな指輪を撫でて、彼は静かに泣いた。




次回、「の剣と正義」
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