仮面ライダーレギエル   作:さわたり

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第三章
第十六話「お熱は柿色の夕陽」


磯羅明路は泣き虫だった。

優しく大人しい子供で、落ち着いた子供。両親は明路を可愛がったが少し忙しく、長い間家を空けそうな時は田舎の祖父母に預けることも多かった。

 

「怖いんだろ〜??」

 

「怖くなどない!!」

 

真夏のある日だった。小学校の夏休みだったか。祖父母宅の周辺の子供達と遊ぶことも多かった彼は、肝試しのような話に伸びつつあった。

 

「じゃあさ……」

 

怖くないなら行ってみろ。真夜中の山道、それが子供たちの言い出した話だった。きっと怖がって止めるだろう。そういう戯れだった。

 

想定外、というものだったのだ。明路の遭難は。

 

「……っは、っは、ああ」

 

震えながら丸まって、夜が過ぎるのを待つ。幽霊も暗闇も動物も飢えも渇きも怖くて、涙も枯れ果てて。

今ならじっと耐える程度。夜が明ける程度。

朝焼けの時間帯に、がさがさと音がした。

 

「おい大丈夫か!!」

 

バイクに乗った男だった。

 

「……調子は?」

 

ヘルメットを被ったままの男が、水とお菓子を差し出し。一瞬でそれらを食べ尽くし、明路少年は泣きながらありがとうありがとうと述べる。

 

「礼儀正しい子供だねえ」

 

「おじさんは?」

 

「おじさん?おじさん……?まあいいや。俺はね、なんだろう。ただの旅のライダーだけど」

 

「ライダー……」

 

ヘルメットの下で笑う顔。少し尖り、また横がギザギザしたいかついヘルメット。ヘルメットというよりは、仮面という感じだ。難しい英語が読めなかった明路少年には知るよしもないことだが、そもそもヘルメットの横にMASQUERADE(仮面舞踏会)と書かれたあたりそういうコンセプトのデザインだ。

 

「仮面のライダー……」

 

「カッコいいっしょ。ちょっとどっかでご飯食べる?それともまず帰る?ウチどこ?」

 

バイクに明路少年を乗せると、発進。心細くないよう話をつづけるライダー。

明路にはそれがヒーローそのものであり、いつしか仮面ライダーという言葉が、彼の中にヒーローの代名詞として存在していた。

 

 

 

 

 

 

第十六話「お熱は柿色の夕陽」

 

 

 

 

 

 

「おはよう、菜摘君」

 

「んん……」

 

眼を開けて横を見ると、湖冬がそばにいる。寝顔を眺めていたのか、起きて早々の対面である。さすがに布団に横になると邪魔ゆえ、メガネは外している。

いまだにベッドの半分だけを使って寝る癖が治らない彼は、もはやその癖を治す必要がないという事実を噛みしめるのであった。

 

「朝ごはん、作っちゃったよ?」

 

「ああ……ありがとね」

 

「んん、いいの。一人になってから、菜摘君ずっと自分で作ってたでしょ!」

 

「君も同じじゃないの?」

 

「ン~……職場で寝ることが多かったからなあ……アモンが勝手に作るかアスタロトが勝手に作るかベルゼブブが勝手に作った時の片づけてないやつで私が作るかだったし」

 

へへへと笑いながらパンをほおばる湖冬。平然としているが、過酷な戦いを強いられていたということだ。菜摘は複雑そうに彼女を見た。

 

「ベルゼブブと言えば。彼収監されてるけど」

 

「いいお灸だよ。勝手に動くんだもん、彼。ま、交渉してちょっとこっちで処遇決めるのは考えてるから……そこ次第?」

 

「ンン……そっか」

 

「妹も妹で勝手に菜摘君とデートしたとか言い出すし!」

 

「妹?」

 

「ん、アスタロトとベルゼブブは兄妹なの」

 

「そうなんだ……。ユズルさんとデートしたって言ってもあの人に勝手に連れてかれて喫茶に行っただけだよ。アルカナキーを見せられて、自分の正体も晒したから何かたくらみがあるかなって」

 

「知ってるけどぉ~~、その時私地獄で戦ってたし!」

 

「……埋め合わせのデートしようか?っていうか、僕がしたいかも」

 

「え、いいの!」

 

思わず席を立つ湖冬。座り直しつつ、嬉しげに頷く菜摘を見つめた。

 

「今日は難しいと思うけど、明後日にでも、どう?」

 

「うん!」

 

 

 

 

東京の警察機関は有給は来年に回すこともできる。が、さすがに消化しなさすぎるとちょっと苦言は呈される。

今日は明路がそれである。オーディンたちの企みが止まったことにより、最近はシェイド犯罪も落ち着いた。働きづめでもないし残業もないし、休む時は休んでいるので明路は「別にいいだろう」という感じだが。

 

「で、調査とかの業務は部下にですか」

 

「そりゃミチくん居ないだけで回んない場所ではないしネ。国の組織。」

 

「じゃあ春子さんが居ないのは?」

 

「デート。ミチくんと」

 

「じゃあ有給ですか」

 

続けて曰く、レイフの研究所も春子無しでも回る程度の人材は……居るのだが、キー周りはほぼ春子のみでやっているので現在ストップ中。現状するべき研究が多くないというのが事情でもある。

 

「……待って、デートですか?」

 

「うん」

 

首をかしげたのは湖冬。レイフの基地に居るのは菜摘、湖冬、留一の天使と堕天使のトリオである。

デザイナーとしての仕事もしつつ、戦闘要員としても動けるようにの待機である。加えて、湖冬はのちほど用事がある。

 

「あれ?知らないっけ湖冬」

 

「え、なになになに?」

 

「言っていいのかなあ、こういうの勝手にィ」

 

「もうここ来たら今更だと思います」

 

「じゃあいうとツッチーはミチくんの事好きなのよん」

 

「えっ!!」

 

一瞬立ち上がる湖冬。すぐに座り直してメガネをくいっと直し。

 

「……いや意外でもなんでもないですね」

 

「でしょ?」

 

「だよね」

 

 

 

 

「……いいの?あんたの休みでしょ」

 

「春子の休みなのもそうだろう?」

 

春子は開き直っていた。菜摘に少し前に聞いたデートスポットは「ららぽーと豊洲」だ。

とはいえ春子的にはよく来る、ショッピングモールという施設。明路を引っ張りまわす形になっていないかという不安はある。恋する乙女的には少しでも不満に思われたくない気持ちだ。

 

「あんた普段の休みは料理してんのよね?」

 

「出かけることも多いぞ。最近はお前や浅井さんの影響で、博物館もな」

 

「そう言えばレッシオルとコッフオルの話してたわね」

 

「ああ。あとゲームをすることもあるな」

 

「マジ!?」

 

ものすごい勢いで振り返る春子。若干びくっとしつつ、頷き。続いて菜摘に勧められて、という旨。彼のサポート力に感心しつつ、春子の足がゲームショップに向く。

 

「そう言えば春子もゲームが好きだったな。友人の家でやったり、携帯ゲームに触れることはあったが、自分のゲーム機でゲームをするのは中学生以来かもという感じだ。楽しいよ」

 

「何してんの?ジェットコンバット?」

 

「マリオシリーズをいくつかな」

 

「任天堂ね。今度一緒にやりましょうよ。電話でもつないでさ」

 

「会えばいいだろう。遠くもない」

 

危ない!会うチャンスの口実を逃しかけたが、明路自ら会う提案。まるで高校生のようなやり取りである。

 

「そ、そうね!……これ、どう?」

 

「やったことはないな。前作だったかが……高校時代に流行っていた」

 

「3rdは十年以上前なのよね……。どうせだしやってみる?」

 

「悪い提案じゃないな」

 

にやり。カネに余裕のある国家公務員。即日購入だ。

 

「それマルチプレイできるのよ」

 

「友人がやっていた。俺はタイミングを逃していたが」

 

「アラサーの青春ね」

 

「はは、そうなるな」

 

「でも学年同じだけどあたしの方が上なのよねェ」

 

「ああ、それだが。俺は今日が誕生日だ」

 

「……」

 

「今日が誕生日だ」

 

「……………………」

 

「今日が」「は?」

 

「今日」「待て待て待て待って待ちなさい」

 

「なんだ」

 

「初耳なんだけど!?」

 

「初めて言ったかもしれないな」

 

危うく誕生日の口実によるプレゼントを逃すところだった。春子は職場の人間の誕生日をいちいち把握するタイプでもなく、明路の事を意識し始めたのもここ一年そこらの話。

むしろ、今までなぜか確認していなかった自分を恨むばかりだ。

 

「あんた、誕生日に、いいの?あたしと出かけてて」

 

「むしろ嬉しいよ」

 

「え!?」

 

めちゃくちゃ顔が赤い自覚があり、春子は明路の方を見ることができない。

 

「俺は地元が青森の方でな、上京以降は家族に祝われることも多くなかった。警察学校の時点で寮だからな」

 

「誰かとの誕生日が嬉しいって?」

 

「ああ。まあ今まで、寂しかったというわけでもないのだがな」

 

どうせなら「春子と過ごせるから嬉しい」ぐらいまで欲しがりたがったが、春子もさすがにわかっている。明路はそういうキザさを一切兼ね備えていない。

 

 

 

「で、2人は何してンのー?」

 

「戦ってます!」

 

ゲーム機をがちゃがちゃといじりながら、菜摘と湖冬はオフィスに居た。仕事をしつつも急に息抜きを始めるのは自営業ゆえの点か。そもそも、菜摘も湖冬も仕事には今余裕があるらしいが。

 

「あ!負けちゃった……」

 

「ふふ。メグの攻撃、出は早いけど後隙大きいから気を付けないと」

 

「むー。すでに格ゲーは菜摘君の方が強いなあ」

 

「でもシューティングとかだと湖冬圧倒的じゃん」

 

「あと音ゲーもね!」

 

「この2人が人前でいちゃつく感じ、懐かしいなあ」

 

しみじみとしながら、若い2人を見つめる留一。

どこか自分に重なる気がして、彼は1人俯いた。

 

「留一さん?」

 

「ん、どしたー?」

 

「……いえ、なんでも」

 

湖冬はアザゼルとしての事情を知っている。留一の視線が持つ意味も、なんとなく理解していた。

 

「明路さんたち、今何してるかなー?」

 

「それこそゲームとかかな? 明路さん、最近ゲームし始めたみたいだし」

 

「想像つかないね」

 

「なっちゃんが勧めたんだよ。ツッチーとくっつけるために」

 

「べつに明確にその意図があったわけじゃなくてですね」

 

「まァまァ、見ててもどかしーのはわかるしィ」

 

けたけた、留一は悪だくみじみた表情である。

 

 

 

 

ファストフード店で友人とゲームをするのも数年ぶりだ。

いや、十年? 高校生時代以来かもしれない。社会人、それも警察の人間。この幼稚な瞬間は春子に、若き日に楽しみ切れなかった青春の欠片のように感じられた。

 

「非常に足を引っ張った。すまない」

 

「いいのよ、初心者だし」

 

楽しい。

自然に溢れる笑みを押さえてもなお、明路に「機嫌がいいな」と言わせる顔だ。

 

「……続けるにしても混んできそうだ、昼だしな」

 

「まあ他の客のメーワクはダメだしねェ。場所変えましょうか」

 

続けたいと明路が思っているのが嬉しい。

 

「そうね、次は……」

 

手とかつなげないだろうか、さすがにそれは高望み?うごうごとする春子の声に、聞きなれない呼びかけが割って入る。

 

「お前たち、仮面ライダーだな」

 

16、7さいくらいの男か。あたりを見たのち、その手にキーを持ちだした。

 

「へえ……」

 

「君、悪魔の前世を。それを悪用した瞬間君は犯罪者だ。落ち着いてそれを放し、座るんだ」

 

「貴様たちと剣を交える。これは正当な申し込みだ」

 

「違法だぞ。君が攻撃するのなら、俺も相応の態度を取らなくてはならない」

 

このにらみ合う状況下。周囲の目線がありつつも人は離れ、自然と人混みのリングが出来上がる。

春子が叫びたいのはただ一つ。

デートを邪魔しやがって!!!!

 

「決闘の了承と見る!」『アマテラス』『エンペラー』

 

話を聞かない男が駆け出す。

その身にキーを突き立てたシェイドアマテラス。シンプルな恰好をしていた青年と打って変わり、白黒のその姿は布がはためき女性らしい雰囲気の物。……あくまで、認知的にはそう見えるという話だ。

 

「食らえ!」

 

振り下ろす剣から放たれる炎の輪。明路は春子をかばい、逃げるように促す。春子が「逃げるわけないでしょ」と叫ぶのは想定内。まずそこを言い争う前に、明路はタオイズムドライバーを装備した。

菜摘とアモンの一件から、護身用にもされている。明路の人柄に対する信用ゆえだ。

 

『Taoism……Human power without god's hand』

 

「変身!」

 

「あ、あたしも!」

 

「やめておけ。シェイドだと分かってこじれるのは嫌だろう。タオも俺が行く方がいい」

 

こういう時冷静なのは、明路の方。春子も落ち着き、いざの時のためにキーを握りながら人込みへ下がる。通報はした。群衆をパニックに陥らせずに避難させるのは2人だけでは難しい。少なくとも時間は稼がなくては。

 

『Fitting……OK. Five senses assist is ready』

 

光の照射と共に硬化する樹脂。面白いとばかりに振り向き、アマテラスが斬りかかる。臆しても居られない。エスカレーター前の広場で、タオは斬撃の隙間、懐へ。そして放つタオブラスター。ひるみながらも、アマテラスには大したダメージではなさそうだ。

 

「技量はあるようだな磯羅明路!」

 

「勝手に盛り上がられても困るぞ」

 

ゴスペルブラスターとタオブラスターを合体。ショットブラスターを構えつつ距離を取る。タオの銃撃は殺傷力は低いがそれでも一般人にけがはさせられない。アマテラスが接近して来たところにぶつけるほかない。

 

「フン、来ないのか?」

 

アマテラス、しびれを切らす。駆け出したその懐を、いや、違う、フェイントまじりの斬り上げだ!

 

「……っぐ!」

 

「とっさに見切るか」

 

防御しつつも後ずさるタオ。追撃はかわし、さらにゼロ距離射撃。アマテラスもそれに怯むが、すぐさま立て直し。さすがに不利が過ぎるか。そろそろ野次馬も事態を把握して減っているが、好き勝手にぶっ放せる状況ではない。

 

「腑抜けか!」

 

「場所というものがあるだろう……!」

 

かわして、かわして、かわして。反撃の隙が無い。今すぐにでも助けに行きたい様子の春子だが、隠れて変身できる場所を探している間に取り返しがつかなくなるのではと、ただ明路を見守ることしかできない。

 

「……っく、」

 

明路が膝をつきアマテラスが剣を振り下ろす。春子がキーを構えたその瞬間、アマテラスの剣は何かに弾ね返される。同時になだれ込む警官が避難誘導を始め、剣をふさいだ主、レギエルの拳が連続で叩き込まれた。

 

「効かんぞ!」

 

しかしすべて剣でいなされ、蹴りこまれ。後ずさるレギエルが、タオのすぐそばまでノックバック。2人まとめて切り払おうとする横なぎを、今一度誰かが止め……いや、剣を振ろうとしたアマテラスをもろともぶっ飛ばす。

 

「何、してるの」

 

「……ルシファー様。私はあんたのやり方に」

 

「なにしてるかって聞いてるだけだけど!!」

 

声を荒げ駆け出すルシフェル。剣の一撃をすべてみずからの得物で跳ね飛ばし、回し蹴りを三連続。そのまま斬りつけを叩き込み、反撃をかわしながらヘッドバッドを叩きつけた。

さらに、ルシフェルの腰は今回はサタンではなくアスタロトのもの。蛇が放つ毒ガスに着火し、炎を炎で押し返す。

 

「っぐ……」

 

『オーディン』『隠者!オーディン!』

 

レギエルから投げ渡されたキーを左手の剣にセット。光が槍、グングニルをかたどり、その投擲がアマテラスをぶっ飛ばす。

しかし、一地域で最高神をしている悪魔改め神だ。その着地はスムーズで、ダメージも少ない。武神でもないのに。

 

「地獄の者は地獄の法でこそ裁かれるべきだ」

 

「身勝手を言わないで」

 

「私の主張は公平だ。不公平な主張をしていいのなら、私は日本という国自体私の幅が効いて然るものだと主張するのだがね」

 

そうこぼすと、アマテラスは陽光と熱波を放って姿をくらます。倒れるレギエルとはじけ飛ぶルシフェル。並び立った菜摘と湖冬が、明路を一瞥してから顔を見合わせる。

 

「ジャマしちゃったかな」

 

「多分……」

 

「でも放置はできないよね」

 

「アマテラス、来るだろうし結構強そうだからちゃんと対処したいな」

 

しばし相談。留一と連絡も取り、すぐ移動できるよう準備しつつとりあえずアマテラスへの対処に当たる、という形に。

 

「というわけで、私たちが護衛……みたいな」

 

「過剰戦力が過ぎない?」

 

「まあ状況が状況ですからね」

 

図らずもダブルデートのような状況に。事情を知る悪魔からすれば、本当に異様な状況だろう。

春子的に、菜摘と湖冬の存在はまあ好ましかった。自然な感じで明路と話せるし、その道では先駆者である菜摘たちが居るのは心強い。

今一番憂慮するのは、アマテラスという非常に邪魔極まる存在。日本神話の中でもドの付く大物が、なんだって今日に限って我々を狙うのか。

 

「はァ~~……」

 

「ため息か?」

 

「幸せが逃げるってんじゃないでしょうね」

 

「いや、気がかりなことがあるなら遠慮なく言ってくれと」

 

「あたしが遠慮とかするように見える?」

 

「案外する気がするが」

 

明路は案外自分の事を見ているのだと、恥ずかしくそして嬉しくなって。若干うつむき加減に照れ、すぐにはッとして後ろを見る。居る。にこにこした湖冬と菜摘が。

先ほど好都合だと思ったが、やはりこの状態の自分を見せるのは恥ずかしいどころではない。すすす、と下がり。

 

「余計なこと言ったらブチ殺すからね」

 

「まだ何も言ってませんって」

 

「言う気?」

 

「明路さんには言わないです。菜摘君とは話してニヤニヤします」

 

「人の恋路をあんたら」

 

「え、いま恋って」

 

「いいから!!」

 

後ろで三人がわちゃわちゃしていれば明路も訝るというもの。なんでもないわよと言いつつちゃっかり明路の隣に戻りつつ、移動。

春子はどっさりと椅子に座り込んだ。

 

「で、アイツは……」

 

「アマテラスさん。大人しい人ですけど、スイッチ入ると完全に傍若無人になります。ビノリエル……先代ルシファーの時に何かがハジけたらしく、時々(スサノオ)さんみたいに……」

 

湖冬にはルシフェルをやってるぶんの知識がある。

 

「私にあまりついてくる気のない人でしたし、睨みつけても無駄です。決闘……地獄では状況次第で許されてるんですけど、それで物事を動かしたがるので、多分決着つくまで来ます」

 

「また来るのね?」

 

「それもすぐ」

 

「ならここで待つか」

 

「はい。気張らなくてもいいと思います。あの人、正々堂々が好きなので、正面から挑んできますよ」

 

「ならいいわ。次、あたしがやりましょうか?」

 

「いや、俺が…………。いや、頼んだぞ春子」

 

「自分を気遣えて偉いわね」

 

人の避難は完了した。タオイズムドライバーを受け取り、春子たちの待ちが始まる。

とはいえ、暇。店の人も避難したので、ただ座ることしかできない。しびれを切らした春子が、ゲーム機を取り出す。

 

「これやって待ってない?」

 

「……大丈夫か?」

 

「本来は私一人構えてるだけでもいい案件なんです。法的には!」

 

湖冬が立っているだけであまりにも頼もしい。菜摘は菜摘で他の警官と連携を取りながら、まだアマテラスの男が立ち去っていないことを確認していた。

 

「なら、まあ……相手の油断にもなるか?」

 

「ええ、そうよ。ほら」

 

そしてゲーム機を起動。これだけでわくわくしてしまう自分に少しあきれながら春子は画面の中のキャラを動かし。さあ一緒にクエスト。……というところで、着地。見上げればずんずん迫る姿が。

 

「人々の避難は完了しただろうさあ立て」

 

「ちょ、え、」

 

「早くしろ」

 

「ああもうわかったわよ!変身!!」

 

やけくそ気味にベルトを装備。構えて駆け出す春子を明路がちょっと寂しそうに眺めた。

 

「っは!」

 

ゴスペルブラスターとタオブラスターを構え連射!二丁拳銃スタイルの銃撃を防ぐべく、アマテラスの腕に鏡が出現した。放つ銃弾がはじかれることすらなく鏡にぶつかった瞬間落下。

春子はシェイドに詳しいのもあってこういった超越的なことが起きたときに何ゆえか判断することもできる。

 

「吸収されてるわね」

 

「おおかた熱にして返してくるというところか?」

 

「ご名答だ!」

 

剣をこすりつければそれは巨大な炎の剣に。振り下ろすその一撃を回避。横なぎは腕でガードしつつも食らい、ぶっ飛ばされ激突。

アマテラスはなおも迫る。

 

『フール』『愚者の翼、堕ちたるアザゼル!』

 

そこにレギエルの拳が割って入る。

背中掛からもろに喰らい、アマテラスも苦い顔。

 

『介入 by Fallen!開錠 by Start!解放 with Brave!愚者 a.k.a.Fool!その、無謀。そして光と闇!』

 

「……邪魔をする気か?この決闘は」

 

「その都合は僕にも日本の法律にも関係ないよね」

 

タオが体勢を立て直す時間を、レギエルが稼ぐ。アマテラスは強い。だが、今のレギエルであれば少なくとも能力は同程度。戦いに明け暮れていたアマテラスゆえ、防戦一方ではなくとも押されるが。

 

「っは!」

 

放つ拳を鏡で受け止め。何が来るか分かっていてもかわし切れない熱の剣。とはいえそれで膝をつくレギエルでもない。食らいながらも気合で駆け抜け、アマテラスの胸に拳を叩き込んだ。

 

「っぐあ!」

 

解放した愚者の右腕、放つ衝撃波もろともアマテラスが後ずさり。さらに愚者のキーを差し込んだナックル、フォールンレジスターを叩きつけ、殴打面に愚者の絵柄を浮かべながら吹き飛ばした。

 

「……ま、菜摘君が倒せたとしてもね」『客星堕天』

 

2人がかりの方が迅速で効率的。湖冬も強制解放装置を出現させ。

その瞬間、アモンからの着信に気づく。うっとおしい気持ちもなくはないが、電話の時のアモンはたいてい重要な話を持ってきている。

 

「ごめん菜摘君、もたせてて!」

 

「うん、大丈夫」

 

アマテラスとレギエル、お互い距離を見計らうフェイズ。応援に入りたい気持ちの中、アモンの放つひとことに湖冬の顔色が変わる。

 

「……わかった、すぐ行く。菜摘君任せたから!終わったら連絡見て!」

 

「わかった!」

 

自分が消化試合のような扱いでむかついたのか、レギエルの拳を防いだ熱で思い切り斬り込む。レギエルも空を飛ぶなどで対処し、しかし炎だけ飛ばす斬撃は正面から食らうが。

 

「いったいなァ……」

 

「なぜまだ立つそこで見ていろ!邪魔をするなと言っている……!」

 

「邪魔してんのはどっちよ!」

 

レギエルが応える前に、仮面の奥で春子が叫ぶ。立ち上がり、銃を構え啖呵を切る。

落下もあり膝をつくレギエルを一瞥すると、決意を固めタオ、駆け出す。

 

「遅かったぞ仮面ライダー」

 

「食らえ!」

 

と、叫びつつ弾丸を放つのは嘘で、両手の武器をぶん投げつつスライディング。背後に回って思い切りタックルを叩き込んだ。

しかし動じない。

 

「フン、いい根性だ」

 

「うるさいわね!邪魔しやがってプライベートを!!」

 

「お前は力を持つものだ。その力には相応の」

 

「あんたの理屈は聞いてないんだよ!アタシが!あんたのせいで!」

 

ゆっくり、持ち上がり。

 

「な……」

 

「あんたのせいで……明路とのッ!」

 

「まずい、貴様!」

 

「明路とのォ!!デートがァ!!中断ンン!!されてんのよォ!!」

 

恨み言と共に放つジャーマンスープレックス。さすがにこたえて、痛そうに見上げれば銃を構えるタオと、拳を構えるレギエル。

アマテラス、ため息。

 

「分かったよ。私が無粋をした時点でそちらも私のやり方に則るつもりないのだな」

 

「よくわかったじゃない」

 

「不服だがな」

 

自身の体からキーを引き抜き、アマテラスが投げ渡す。春子がキャッチし仮面をはずしながらため息。

 

「……なあ、春子」

 

「なによ」

 

目が合わせられない。

 

「春子は……俺と、なんだ。デートを……」

 

「春子さん!!明路さん!!」

 

割り込む無粋はこの際置いておく。菜摘がその態度をとるだけの連絡が、湖冬から残されていた。

LINEの文面に写る、「脱獄について」。

 

 

 

「ねえこれ、僕も脱獄できるんじゃネ?」

 

「そもそもまともに収容できる状況ではないだろう……」

 

囚人服のベルゼブブと、スーツのアモンが見渡す、特殊刑務所。

ボロボロに崩れ去った壁と、大混乱の内部。そこに、エンジン音が響いた。

 

「遅くなった!」

 

馬を模した前半分と、機械的な後ろ半分。ルシフェルが駆るバイクは、『戦車』のキーで呼び出した『ゲビナビノ』。降りつつあたりを見て、ため息。

 

「本当に、起きてるじゃん脱獄……」

 

当惑の湖冬。混乱の中、歩み出るのは黒い服の青年だった。

 

「な……」

 

「ハローアキエル。……失礼、君をルシファーと呼ぶのに慣れてなくてね」

 

「なんでここにいるの?」

 

「出た、その冷たい目」

 

「質問に答えてサタン」

 

アモンが睨み、ベルゼブブがニヤニヤと眺め、合流したアスタロトが目をヒクつかせる。氷の底ような目を受けつつも、男サタンはキーを突き出した。

 

『サタン』

 

「なぜここにいるか、だったねルシファー。まあ見ての通り……脱獄パーティってとこだな」

 

「そのキー、なんで……。悪魔のキーは私たちが」

 

「盗んだ。」

 

『デビル』

 

その首に突き立てれば、白と黒で沸き上がる。その姿はヤギと竜を混ぜ合わせた白黒の怪物、という様相。

到着した明路の目には、少なくともそう見えていた。

 

「地島君これは……」

 

「脱獄だ」

 

湖冬への質問に割り込んで答えるアモン。明路も様子を見て察する。ルシフェルはシェイドサタンと完全に緊張状態にあった。

 

「その通り」

 

同時に張り上がる声。その声は、菜摘たちの後ろから響き。振り返る隙もなく、少女はサタンのそばへ。サタンも微笑むと、少女の手の中からキーを受け取る。数個のキー、その中には、たった今回収した皇帝もあった。

 

「よくやったぞアスモデウス!」

 

サタンに撫でられご満悦。明路が自身の持ち物やバルトチェイサーの小物入れを見れば、そこからはごっそりとキーが抜かれ。駆け出すルシフェル。

 

「返せッ!」

 

「このアルカナキーは俺が作ったものだし、こもってるのはそれぞれの力の欠片。お前たちに権利はないぜ」

 

ルシフェルの攻撃をひたすら避けるサタン。まともに取り合うつもりはないようだ。

 

「やつが、作った……?」

 

「彼の名はサタン」

 

「……久しぶりだな、ガブリエル」

 

「第二体解放装置に合わせて彼が作ったもののようです。……目的は不明ですが」

 

明路も眺めているわけにもいかない。他の警官たちと共に、脱獄囚たちの対応へ当たる。アスモデウスがばらまいたキーは、蹴られたりたまたま転がったりしてそれぞれの持ち主の元へ。

多少ながら、因果の力で惹かれあっているのだ。

 

「ふふふ、あはは!私の力よ!ぎゃはははははは!!!」『コッフオル』

 

「……」

 

「……グズはそこで見ていなさい」

 

かつて向けた軽蔑とは違う、いろいろな感情を込めた目を兄に……いや、コッフオルから言えば夫に向け。矢沢裕香がそのキーを突き立てる。

 

『ムーン』

 

「……変身!」『Fitting……OK. Five senses assist is ready』

 

シェイドコッフオルが幻影を広げ。明路もベルトを装備して駆け出した。

辺りの混乱はすさまじく、アスモデウスに拘束を解かれ、アマテラスもキーを拾いあげる。

同時にレギエルも変身。駆け出して拳を放つが、相変わらずサタンはかわすだけ。

 

「ルシファー……君の相手をするのは俺じゃないってことだよ」

 

剣と斧の連続攻撃もすべて避け、サタンは瓦礫を指さす。もぞもぞと、抜け出る姿。土煙。

そのシルエットに息をのみながら、ルシフェルは、いや湖冬は、悲しく笑った。

 

「……日向(ひゅー)ちゃん」

 

「久しぶりね、地島ちゃん」

 

アスモデウスが投げたアルカナキー、節制をキャッチ。

レギエル、ルシフェルを交互に見て、自分の手を見て。同時にレギエルとルシフェルもお互いを見て。

ため息、呼吸、そして、睨み。

 

『サンファロエ』

 

「雨野くん、私に頂戴」

 

『テンパランス』

 

胸元に付き立てたキーが呑み込まれる。

彼女も抽出機なしにシェイドになるだけの力に、目覚めたようだ。白と黒のシェイドテンパランス……シェイドサンファロエが、その手をひろげ。

土煙の中、土のドールがぼこりぼこりと身を起こした。

 

「地島ちゃん、私のために死んで。それか雨野君に……菜摘君に嫌われて!」

 

駆け出す、横恋慕に狂わされた女が。




次回、「水色の雨が降り」


今回は私でも頭を抱えるぐらい微妙な回でした。何故かうまく書けずちょびちょびつぎ足しながら描いたので複雑骨折気味ですがお許しを。次回は面白いと思います。

あと細かいところですが、仮面ライダールシフェルの仕組みについての解説もしておきます。
ルシフェルの見た目は、全身が赤黒です。これはよく言うように、レギエルが腕とか腰とかだけを強制解放(悪魔の力を使ってそこの部位の天使の力を解き放ち、同時に利用する)しているのを、全身にやっているという話です。なので、アキエル(湖冬の天使としての姿)が強制解放しているパーツをかき集めればルシフェルになります。黒い翼を除き。
なので、たとえばヘパイストス……『力』のキーを『正義』のキーに変えて剣を持つことも普通にできます。
キーは不正解放機に全部収納されています。
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