仮面ライダーレギエル   作:さわたり

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定まりましたメインテーマ的なイメソンはメランコリーキッチンで、15話のレギエルvsルシフェルの挿入歌がMAD HEAD LOVEで。


第十七話「水色の雨が降り」

 

「いい?湖冬ちゃん、自分が使ってみる想像も大事だけどね、知らない人が見ても……ってのが大事でさ」

 

「うん」

 

地島湖冬、8歳。最近目が悪くなってかけ始めたメガネに慣れず、くいくい動かしながら、話を聞いていた。

彼に話しかける男性は雨野蔓助、菜摘の父で、今は湖冬の義父に当たる存在。この5年後に病で旅立つこととなる男性だ。

 

「ほら、このアイロン、どう使うか分かる?」

 

「ここもちます」

 

「だね。じゃあ、俺が作った……この板は?」

 

「こうです」

 

取っ手の付いた板を持ち上げ、だよねと笑い。でも、と続ける。

 

「もしかしたらこうかもね?」

 

「かもしれないです」

 

手の先を通して、ファンデーションのパフのように持ってみる。

 

「まあつまりさ、物の使い方って……相手の知識と経験次第なんだよ。だから、いろんなことを想定していろんな意見を聞かなきゃいけない」

 

「だいじだとおもいます」

 

「他人の気持ち、どんな形でもいいからさ、理解するって大事だと思う。全部は無理だけど。でも、一個ずつなんでなのか紐解けば……少しは近づけるだろ?」

 

「……なつみくんのきもちはだいたいわかります」

 

「お、じゃあ今菜摘はどうしたいと思う?」

 

「んー、わたしにあいたいとおもってます」

 

「ふふ、あいつ多分いつでもそうだよ。あっちの部屋で本読んでるし、会ってあげて」

 

「はい!」

 

ぱたぱた駆け出す湖冬の背中を見送り、顔をのぞかせた妻に顔を向ける。

 

「湖冬ちゃん、どう?」

 

「あの子俺の話に興味津々だからね。賢い子だよ。……俺の後継いで工業デザイナーなってくれないかなァ」

 

「あんたの職種に跡継ぎって概念ないでしょ」

 

「ハハ、確かに」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第十七話「水色の雨が降り」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

脱獄騒ぎから一日。結局シェイド犯罪者はだれも捕らえられず、キーもほとんど奪われた。アマテラスにさえ逃げられた。捜索網を広げる警察だが戦闘要員は追いついておらず、明路があらゆるところを駆け回っているのが現状だ。

 

「……義父さん」

 

雨、曇天。

捜索の過程で、湖冬はたまたま近くに来たので霊園に寄っていた。雨野家の墓があり、そこに雨野蔓助はいる。少しばかり時代が古ければ、自分もここに骨を埋めていただろうかなどと考えてみて。

 

「私、お義父さんみたいになれてるかな」

 

師匠、湖冬からすればそう言える男性だった。

 

ぱちゃり、ぱちゃり。

 

うつむき思い出に浸る彼女。少し後ろに、足音共に長い髪の女、白い傘。日向葵だ。

 

「……地島ちゃんも、墓参り?」

 

「寄ったから」

 

「そっか。まあ私も同じような感じよ」

 

「そっか」

 

「うん」

 

無言。お互いの視線は雨野家の墓石から動かない。

 

「で、どうするのよ」

 

「どうするって?」

 

「私を倒す?」

 

「むしろ日向ちゃんが私を倒し……殺したいんじゃないの?」

 

「うん」

 

「私も死にたくないし、それ以上に菜摘君をあげたくはない」

 

「……今傘持ち換えたの、指輪見せたかった?」

 

「だとしたら何?」

 

「質問してるのはこっちよ」

 

「それの答えを仮定して質問してるんだよ。正確な返答のために」

 

一瞬、お互い目を見合わせ、笑いを零す。

 

「ホントに理屈っぽいわね地島ちゃんって」

 

「日向ちゃんはすぐ感情的になるんだから」

 

「ふふ」

 

「あはは」

 

「……やろうか」

 

「うん」

 

一転、二人の目は氷のように。そろって傘を投げ捨て。

 

『客星堕天』

 

『サンファロエ』

 

「変身」

 

「死んで」

 

『超強制解放!堕落……腐敗……謀反……堕ちたる、終幕!』

 

『テンパランス』

 

内側から湧く「もう一つの肉体」とまざり、変貌、生まれるシェイドサンファロエ。同時に、はじけとんだ湖冬の血肉が雨を一瞬赤く変え。

飛び散った血と肉が粒子となって消えるのが、開戦の合図となった。

 

 

 

明路の安全運転。その横で女はぼーっと外を眺めていた。レイフのバンが運ぶこの女は別府アイ。恋人のキーを持ち、ゼイネルの前世を持つ者だ。ゼイネルの能力や現在の性別との不一致から、別人格になっている。

 

「……結局聞いていなかったが、君は何故自首を?」

 

「私ですかァ?マ、なんていうか……大した野望とかないんでェ。ゼイネルが居れば……それでああ待ってくださいそうっすけど、うるさいっすね」

 

「あー、俺にはゼイネルの声が聞こえないんだが」

 

「いじられただけっス」

 

「……俺が君と居るのは、監視という意味もあるが護衛の向きの方が強い。使っても構わない」

 

脇に止めながら、明路は抽出機を差し出した。

 

「ああ、それなんスけどォ。もう慣れたんでアレ行けると思いますゥ」

 

「おい、ちょっと、気をつけろ。靴をこっちに向けるなこっちに」

 

『ゼイネル』『ラヴァーズ』

 

助手席から横の隙間を通り、後ろの席へ。そこで左手にキーを突き立てれば、白黒の服と仮面の男、ゼイネルがその身からはがれるように出現する。

それを見守り、明路はシフトレバーを動かした。

 

「いでッ」

 

「車内なんスからァ。ちったぁ気を付けてくださいよ」

 

「へへハニーは優しいね」

 

「うるさい」

 

「やれやれ」

 

「でェ、何でしたっけェ?自首でしたっけェ?」

 

「ああ、丸山周矢と黒田夫妻も、我々の方に自供をな」

 

「えっ黒田もっスかァ?」

 

「ああ。というかあいつらの前世、知ってたいたのか?」

 

ゼイネルとアイが同時にかぶりを振る。以心伝心ゆえか本質的には同一人物ゆえか。

 

「オーディンとスレイプニルだ。北欧の神らしくてな」

 

「いやァその二人知らないオタクとかいませんて」

 

「そうなのか?」

 

「そうだよ」

 

「そうなのか……まあ、ともあれ彼らに言わせれば自身の戦いを愚弄するつもりはない、とかでな。野望に進むのは一旦あきらめたということらしい」

 

「野望って何だったの?」

 

ゼイネルが首を傾げる。雨を拭うワイパーに視点を送りながら、明路は続けた。

 

「ラグ……なんだったか。とにかく世界の終末を起こすとからしい」

 

「えッラグナロクゥ?」

 

「びっくりだね……彼も死ぬんだよ?」

 

「天使に飼われ続けるよりは……とかなんとかな。天使と他の神々の関係についても聞いたよ」

 

「ふゥん……。ゼイネルはどうなんすか?」

 

アイに話題を振られ、ちょっと驚く。少し考えて、続けた。

 

「僕、まあなんていうかな……ひどいけど天使が暴れまくって以降はずっと平和だしね。決闘狂いとかはいるけど、僕結構満足してるよ。あっでもいまはハニーがいるから地獄には帰りたくないな!」

 

「はいはいありがとッスよダーリン」

 

「…………」

 

「鏡に映ってるッスからね刑事さァん。なんすかその呆れ顔ォ」

 

「いや呆れてるわけじゃない。あと俺は刑事ではない」

 

「僕らに嫉妬しちゃった??」

 

「……」

 

「あれェ?怒ってツッコむかとォ……」

 

「いやまあ、何というか遠くないんだ。君たちの仲の良さを、羨むような……」

 

「「えっ!!」」

 

二人揃って目を輝かせ接近。少し驚いて、明路は鏡の二人を一瞥した。

 

 

 

「なかなか興味深いな」

 

「勝手に見ないで。殺すわよ」

 

「乱暴なことだ」

 

レイフ本部で、春子は戦車のキーを調査していた。横に座るのは黒田八千代。スレイプニルだ。

 

「この機にちゃんと聞くけど。地島とあんたたちってどういう関係だったの?」

 

「お互い利用してた、というところか。最終目標が違うことを把握した上で、我々の抽出機の技術を利用し、彼らは我々にお目こぼしをしていた、だな」

 

「なんで地島と雨野が会った時点で対立したの?」

 

「表に姿を出したのがそこだったからな。ラグナロクを本格的に邪魔するのだと気づいた」

 

自身の犯罪について警察に話す、という言うには軽い様子で八千代は語る。

 

「にしてもあんたも、オーディンも自首するとはね。ホントに意外よ」

 

「本来我ら北欧の神は策略も使って噛み付くものなんだがね。……事情が事情だ」

 

「事情?」

 

「今のサタンはおそらく……天使どもに反抗をする気だろう」

 

「あんたらと同じじゃないの?」

 

「バカを言え。天使の体制転覆が奴らの手で済んだらラグナロクのための根回しが出来んだろう」

 

「あきらめてないワケ?」

 

「何千年もあきらめてないさ。大丈夫だ、お前が死んでから次の計画は動かすよ」

 

「……あたしはヘイナよ」

 

「じゃあ磯羅明路が死んでからだ」

 

「明路には千年以上生きてもらわなきゃ」

 

「死なせてやれそこは。人間として」

 

しばし笑い。少し落ち着き、ため息とともに雨の降る曇天を眺めた。そんな春子に、疑問提起。

 

「何かあったのか?」

 

「色々よ」

 

「色々ってお前な」

 

「いいから!他に聞くことないの?」

 

雑なごまかしに笑いつつ、八千代は空を見る。

 

「そうさな、叔父上はどうしてる?」

 

「あんたと同じ」

 

「恋バナの予感にワクワクしてるのか?」

 

「中学生? てかなんであんた恋バナって!!」

 

「磯羅明路の名前が出てから態度に出ただろう。クク……」

 

「~~~~ッ!」

 

 

 

「じゃあ、君もお兄ちゃんってわけだ」

 

「だねー。こっちの妹は兄よりいい子だケド」

 

「ふふ、お兄ちゃんってば」

 

「……」

 

黒田翼と居るのは、アスタロトこと美国ユズル、アモンこと灯田レイジ、ベルゼブブこと飯塚カケルである。

立場としてはベルゼブブも翼と同じ自供者なのだが、犯行の内容や、意図、その他もろもろから「ルシフェル側の責任かつ様子見」という扱いのようだ。言ってみれば、保護観察処分。

 

「何というか、デコボコトリオだな君ら」

 

「雑にまとめるな。俺はな、」

 

「そういうアモンのマジメさがいい味出してる」

 

「……全く。気が抜け過ぎだ」

 

「フフ、アモンったらかわいいわね」

 

「茶化すな。……少し電話してくる」

 

アモンが立ち去り、ちょっと和やかな静寂が残り。三人みな空気を読まずに静寂を切るタイプだが、今日のそれはベルゼブブだった。

 

「そういう冗談めかす態度じゃ伝わんないヨ」

 

「うるさいわねェ……」

 

「お、なに?恋の話?なんかどこもかしこも色めきだってるね」

 

「クリスマスを恋人と過ごしたいって感じィ?必死になっちゃうよネ」

 

「なんだって私たちがヨシュアの誕生日に浮かれなきゃなんないのよ」

 

「確かに」

 

ベルゼブブがくつくつと笑い、翼はサタンやルシファー側ならではのジョークをちょっと面白がり。一転して居心地悪げなアスタロトを、黒田翼、つっつく。

 

「アモンのこと好きなのか?」

 

「はァ~~、だったら何よ」

 

「だから雨野菜摘と湖冬ちゃんをべったりさせて諦めさせたい、と。前に引き合わせたのってそう言うことデショ?」

 

「ちょっと、なんでその一件知ってるのよ」

 

「湖冬ちゃんがネ」

 

「初々しいことだ。……まて、『湖冬ちゃん』?」

 

「現ルシファーよ」

 

「いやそれは知ってるしボコボコにされたけどね。ベルゼブブ、君はルシファー様、じゃないんだな。アモンもアスタロトも、本人が居ない場でもルシファー様と」

 

「湖冬ちゃんはルシファーなんかじゃないよ」

 

にこにことしたまま、ベルゼブブは吐き捨てる。

 

「ビノリエルはもうルシファーじゃない」

 

「ぼくは認めてない」

 

「……なるほど、事情は読めた」

 

「ま、ルシファーの椅子には従うからサ」

 

「お兄ちゃん……」

 

ベルゼブブの物言いは、冗談めかしたもの。その真意がわからない。続いて静寂を割ったのはドアを開く音。

 

「誰と電話?」

 

「政府関係者だ。……お前たちは何の話を?」

 

「アモンが聞いたらキレる話題だヨ」

 

「……お前のルシファー様への不躾は慣れた」

 

「そもそもクーデター時点で見限らなかっただけぼくは優しいと思うんだけどナー」

 

席を立ち、逆光に紛れてベルゼブブは続ける。

 

「ぼくちょっと、アラハバキたちの様子見るネ」

 

「うん」

 

アスタロトは複雑な様子で、その背を見送った。

 

 

 

「雨の日、狙って来たの?」

 

「違うけどいい案ありがとね」

 

雨粒で水のドールが無尽蔵に現れ、ルシフェルにつかみかかる。ヘパイストスとアモンの熱の力で蒸発するだけだが、そこに手間取ればサンファロエの拳が叩き込まれる。怯むルシフェルでもなく、蹴りの反撃。

土のドールがそれを受け、サンファロエ、回って受け身。戦いが進まない。

 

「……、ああ、もう。恨み言とか吐きたいんだけどなぁ」

 

「吐いた方がいいと思うよ」

 

「ないんだよ。私、地島ちゃん嫌いじゃないし。恋路の邪魔、してるの私の方だから怒る気にはならないし」

 

「その自己認識はあるんだ」

 

「うん、だから、地島ちゃん。死んでも私の事、許さないで」

 

「死なないし許さない」

 

「わがまま!」

 

ドールを切り倒しながら迫るルシフェルと、あくまで距離を取るサンファロエ。さすがに仕事も雑になり、ドールの動きも精細さを欠く。体力を消耗するというものだ。

 

「もう……」

 

水のドールをぶつけまくり、土のドールを壁に、自分で殴り掛かる。至極単純な作戦で押し切りに行く。しかしルシフェルも防戦メインに。まだ剣と斧だけで対応するあたり余裕はある。力量差を感じながらもサンファロエが食らいつく。

その戦いに、水を差す、煙。

 

「なによこれ……」

 

「あなたの味方だから」

 

現れたのは矢沢裕香。月、コッフオルの力だ。

 

「は?ちょっと邪魔しないでよ、私は」

 

「欲しくないの?……雨野菜摘」

 

「…………。てか、地島ちゃんが攻撃を」

 

「その心配はないわよ、……ほら」

 

霧が薄まると、ルシフェルはけだるげに空を眺める。

 

「ごめんなさい、心配ない……って状況ではないと思います」

 

他でもなく、ルシフェルがそう吐いた。

 

「地島ちゃん?……いや、違う?」

 

「体は地島湖冬です。第二体だからアキエルかルシフェルっていう方がそれらしいとは思いますけどね」

 

「アスモデウスはね、体を乗っ取れるのよ」

 

「でも全力で追い出しに来てますしこれ倒すの無理ですね。五感の一つを盗み見たり盗み聞く分にはバレませんが乗っ取るとバレま……あ、これ、もう無理なんでさっさと撤退のじゅ」

 

はじきとばされ、はがれるようにアスモデウスが転がり出る。白黒のモノクロシェイドである。少女だった第一体の姿と変わらず小柄。とはいえ躊躇する相手でもないルシフェルは構えた。

 

「もういませんよ、そこには」

 

だが切ってもそれは幻覚。コッフオルの能力の精度も上がっている。ため息をついて、霧の晴れた誰も居ない空間でルシフェルがはじけ飛ぶ。立ち去る湖冬を遠目に見るアスモデウスたち。葵は複雑そうにコッフオルたちを一瞥する。

 

「……私、悪事に加担する気は。待って、みなまで言わないで。私がしてることが悪事ってのは分かってるけど」

 

「そう、かしらね」

 

「なによその微妙な返答」

 

「欲しいもののために……邪魔者を潰す。天使たちも、取った手段よ」

 

「何が言いたいの?」

 

「私は……あなたを手伝えるわ」

 

「わたしもですよ」

 

コッフオルと、アスモデウスが振り返る。なんとなく付いてきている足取りが、肯定に近いものであると二人は半ば分かっているようだが。

 

「考えさせて」

 

「まあ、遅くはないですよ。サタン様と話してからでも」

 

アスモデウスがドアを開けると、脚癖の悪い座り方の男が迎えた。アスモデウスともども脱獄騒ぎに居た男、サタンである。

横に居たのは矢沢裕絵。こちらは裕香と同じで葵も面識がある。刑務所での話だ。

 

「裕香、その人は……」

 

「違うでしょ、『あなた』」

 

「……そうだったなコッフオル」

 

裕香は兄のそばによると、媚びるような手つきでその腕にすがる。

 

「この前のこと、怒っているなら謝るわ。本心じゃなかったのよ」

 

「怒ってないし分かってるよ」

 

葵が「どういうこと?」と問えば、アスモデウスは複雑なんですよと軽く流し。彼女は葵をサタンの元へ案内した。

 

「謁見?」

 

「もっと軽くでいいよ。てか君その感じ……前世の事覚えてないの?」

 

「どうでもいいって感じよ」

 

「いいな、俺嫌いじゃないぜ! そういうの」

 

「……知ってると思うけど、日向葵。サンファロエよ」

 

「俺は111代目サタン。一応、沢黒マシロって人間の名前で呼んでくれ」

 

「マシロね、覚えたわ」

 

「雰囲気真逆と思っただろ?」

 

「割と。それで、私を助けたのは何で?」

 

「俺はもっとわかりやすい手段で動くべきだと思ってんだよね」

 

何の話だと首をかしげる葵に、サタンはその詳細を語る。端的に言えば、天使の体制について。

 

「今のルシフェルはガブリエルたちに懐疑的だが、まずは静観の姿勢を取っている。……でも違ぇんだよなァ~~~~~~……。そうじゃねえだろって。クーデターでさァ、けっこう混乱してんじゃん?天使側」

 

「じゃん?って言われても」

 

「俺はこっちに来た後も何回か地獄とこっちを行き来してんの。ルシファーとかアモンと同じで、いろいろめんどくせー手続して欲しくもない第一体作ってこっち来てるわけよ。だから知ってる。いま地獄で起きたクーデターの詳細がわかって、ミカエルとメタトロンあたりが大騒ぎ」

 

「その混乱の隙に何するの?」

 

「天使たちを叩きつぶす」

 

自らの拳を自らの平手にぶつけ、牙を見せて笑う。

 

「ま、そんなことだろうと思ったわ。言っておくけど、私には関係ない話じゃない?」

 

「どうだろうな。雨野菜摘を戦わせてるのは天使だし、俺たちが邪魔だと思ってるのは地島湖冬だぜ」

 

「……」

 

「考える間はこの隠れ家に居ていいぜ。警察から逃げ回るのも楽じゃねえし?」

 

「正面から叩き潰したりしないの?」

 

「ンな悪いことしねえって。クク」

 

「そ」

 

葵はやはり考える様子、その様を見て、アスモデウスは矢沢兄妹に声をかける。

 

「あなた方は、どうしたいのですか?」

 

「俺は……。…………」

 

「どうしたのよレッシオル。決まってるでしょ。……私たちの島を取り戻すの」

 

「島、ですか」

 

「サモア独立国サバイイ島。そこはタンガロアさまが作り私たち夫婦が支配した島よ!!いまはキリスト教徒ばっかだけどね。あの島を天使と天使どもが崇める“主”から取り返すのよ、あの島の権利は私たち夫婦にこそあるッッ!!」

 

机に叩きつけられる裕香の拳。複雑そうに、裕絵は手の中のレッシオルの力を見る。

 

「……ご立派です」

 

「アスモデウス、だっけ?お前はどうなんだ」

 

「私はどこまでもサタン様を支えるまでです」

 

アスモデウス、一貫して無表情。

 

「……私、すこしあの子の様子を見てくるわ」

 

裕香が席を立ち、葵のいる部屋に向かう。その背を見た後、相変わらず上りも下がりもしない口角でアスモデウスが吐き出した。

 

「あなたのお名前、お聞きしても?」

 

「……? 矢沢裕絵だけど」

 

「あの方…。先ほど話していた方との関係は……」

 

「……まあ、兄妹だよ。知らなかったってこたないだろ」

 

「物覚えが悪いもので」

 

アスモデウスは窓の外の雨を眺める。そしてサタン、マシロを一瞥すると、少しだけ微笑んで。

今日の曇天は月も太陽も隠している。

 

 

 

明路の車が雨にさらされ、うっとおしげにワイパーは水を拭う。そんな車や外の様相とは裏腹に、車内は楽し気なことになっていた。

 

「いや、なんというかだな。……俺は、仲のいい同僚がいる。異性だ」

 

「え、土田春子?」

 

「っちょゼイネル、バカかあんたはァ!無粋ッスよォ」

 

「ん゛ッ、ん。……まあなんだ。この前一緒に出かけて、そこで邪魔が入ってだな」

 

「はいはい」

 

「まあその時……春子が、ああいや同僚がな、」

 

「言ったならもういいでしょそれ」

 

「まあなんというか……「明路とのデートを邪魔するな!」……と。ああ、俺の名前は明路というのだが」

 

「知ってる知ってる大丈夫」

 

「ならいいが……デートという言葉が、異性との単なるお出かけを揶揄して言われるのは、まあわかる。しかしなんというか、春子がそういうタイプではないというか」

 

「ふゥ~ん?」

 

「春子は俺の事を意識しているのか?と、そういう思いをな……」

 

正直、アイとゼイネルからは「え、気づいてなかったんだコイツ」という認識である。そもそも、アイが春子と戦った際の一件は、明路に化けたから。……恋人の、ゼイネルの変身能力は、対象の想い人に変身するものだ。恋の想いの力を使ってるとの事だが詳細は不明。

とにかく春子が明路に惚れているのは周知の事実なのだ。

 

「まあ大丈夫だって!土田春子も君のこときっと好きだよ」

 

「投げやりだな……」

 

「え~~? 僕恋人のアルカナ持ってんだよ?」

 

「春子は女教皇ではないが」

 

「でもレッシオルは太陽の神様でしょ?」

 

「まあ……参考にする」

 

明路のぼやかした物言いに、ゼイネルはイラつき……というより、甘酸っぱいもどかしさと共に迫る。

 

「いや行けるって!だってそう思うんなら刑事さんも好きなんでしょ?」

 

「ゼイネルちょっと、気ぶりすぎっスよォ」

 

「気ぶる?」「気ぶる?」

 

「なんすか二人そろってェ。オタクの言葉っスからァ……忘れていいっすから、ハイ」

 

「で、どうなの刑事さん」

 

「俺は刑事ではないと……。まあ、なんだ。春子と、そういった、恋愛……という関係は。まあ…………」

 

「やぶさかでは?」

 

「まあ、ないが……」

 

「「Foooooo!」」

 

「車内で騒ぐな。結局お前もか別府!」

 

「そりゃもう、初々しくていいじゃないスかァ、私より年上だけど。……っスよねェ?私22っすけどォ」

 

「俺も春子も27だ」

 

「じゃあもう結婚の歳では!?」

 

「もういい黙ってくれ!!」

 

「ふふゥーん、なんかいいねハニー」

 

「そっすねェ、ダーリン」

 

「ダーリン、か……」

 

「えっ刑事さん呼ばれたかったりしますゥ??」

 

「マジ!?」

 

「黙ってくれ本当に!!」

 

珍しく、明路の顔が赤い。

 

 

 

 

 

「結局、メグルさん、ああいえ、周矢さんの指輪って」

 

菜摘の手の中には、運命の輪のキー。丸山周矢、菜摘と留一といるのは悪魔ケツァドを前世に持つ彼だ。

 

「少なくとも、嫁さんではない。オレの戸籍にはなかった」

 

「そう、でしたか」

 

「ただ、これを……女の子からもらった記憶がさ、ぼんやりあって」

 

「ありゃりゃ?青春してんじゃん」

 

「フフ、でもまあ、オレのとこに面会が誰も来なかった辺り、恋人だったかも怪しいけどな。ただの冗談てやつ?」

 

「なんか、寂しい話ですけど……」

 

「かわいい幼馴染がずっといたんだって?君。じゃわかんないと思うけどさ、冗談に勘違いさせられてる間ってすっげ―楽しいモンだよ」

 

「なァんか分かっちゃうにゃ~」

 

「留一さんも、片想いだったことがあるんですか」

 

「んー?そりゃあねえ。ヘネと私、大恋愛だったよ」

 

コーヒーを入れながら、留一は懐かし気に語る。

 

「私は……娘に顔向けする資格なんてないしさぁ。なっちゃんはわけぎちゃん、大事にしなよ」

 

「留一さんは、立派ですよ」

 

「親としてどうなのかは別。マルさんもそう思うよねー?」

 

「オレ結構記憶喪失してんだってば。思い出しつつあるけどさ」

 

「へへ。なっちゃん、わけぎちゃん連れてくるめどは立ちそう?」

 

「肉体を作るのも簡単じゃないみたいですし。いま、けっこうお互い忙しいですから。……早くわけぎに会いたいけど、その感情で危険にさらすの、イヤなんで」

 

「……なっちゃんは立派な親になれるよ」

 

「ありがとうございます」

 

「そういう事情ならなおさらさ、オレのキー、使っててほしいから」

 

「はい」

 

菜摘は決意を今一度固め、その手のマグカップが強く握られる。

 

 

 

 

「あ、湖冬ちゃんだ」

 

「……ベルゼブブ」

 

「ダイジョブ~?服めっちゃ濡れてるじゃん」

 

「ふふ、ありがと」

 

廊下、すれ違いざま。ベルゼブブと湖冬に、すこし笑顔が飛び交い。

 

「どう、ルシファーの力は楽しい?」

 

「全然」

 

「……フ、フフ、アハハ! 力に溺れない、立派だネ~」

 

けらけら、けらけら。ひとしきり笑ったかと思うと、その声色はいきなり冷めて。

 

「向いてねえよ、お前」

 

そう吐き捨てて、ベルゼブブはその場をあとにした。湖冬が用があったのは、ここに居る部下の面々だ。悪態をつかれてあまり気持ちよくない感情で、湖冬はドアを開ける。

 

「……ルシファー様」

 

「ルシファー、。」

 

「モリガンにアラハバキ。元気してる?」

 

「私見。貴殿の方が無し『元気』。提示を認識しても?」

 

「いいよ」

 

「わたくしアラハバキの、見解『断言』。気遣う対象ではない元気。まず、気遣う。ルシファーが、上述を。『必須』」

 

目の焦点の合わない、性別もよくわからない若者。……仮に彼女としておいて、彼女がアラハバキのようだ。

 

「大丈夫だよ、アラハバキは優しいね」

 

「少なくとも雨野菜摘には会えよ。足りてないだろ、成分が」

 

ボロボロのパンクなファッションとハデな髪色の彼女はモリガン。

 

「……茶化してる?」

 

「そりゃもう。お熱いねェ?」

 

「はいはい」

 

「述べる個人的見解。対象:モリガンの態度(対象:ルシファー)。あまり『茶化す』な。理由としては失礼だからだ」

 

「いいよ、アラハバキ。楽しいもん」

 

「お優しいことで。で、今日のお仕事は?」

 

「んーん。元気か見に来ただけ」

 

「感謝。」

 

「そりゃどーも」

 

無表情だが、どこか楽しそうにアラハバキは茶の準備。同時に、モリガンもゲーム機を横において湖冬へと向き直る。よっぽどのこと(菜摘を傷つけるなど)をしなければ優しい彼女は、接しやすい相手らしい。

 

 

 

衝突音。

車に叩きつけられたのは確実に蹴りで、揺らされた瞬間明路は予感ゆえに車から飛び降りた。車を止めたシェイドレッシオルの横で、矢沢裕香が迫る。

 

「探してたわね。……迎え、来てあげたわ」

 

「矢沢裕香……!」

 

「コッフオルと呼びなさい」『コッフオル』『ムーン』

 

「いきなりか!変身!」

 

迫るシェイド。ベルトを巻いても変身に間に合わない。焦る明路を前に、駆け出す影。

 

「推しカプできそうになってたんスからァ」「邪魔しないでよね!」

 

「……ゼイネル?」

 

「ゼイネルとアイちゃんのラブラブコンビでーす」

 

コッフオルの蹴りを止めたのは、融合したアイとゼイネル……まあ本来のシェイドゼイネルと呼ぶべき姿だ。左腕の弓から追撃を飛ばし、霧の中にコッフオルが逃げる。

 

「させっかよォ!」

 

適当に矢をばらまくのはこの場において案外最善手。食らって幻覚が解けたコッフオルに、装着を終えたタオの銃撃。春子の二丁拳銃の乱射スタイルを真似てコッフオルに幻覚を出させず、そしてレッシオルが迫る瞬間に合体させてショットガンに。

重い銃撃で怯み、そこにゼイネルの矢がつきささる。

とはいえタオの火力と機動性では追い切れない面もある。レギエルとシェイドハイプリステスの助力で倒せたコッフオルが相手だ。雨で悪い視界では幻覚も脅威だ。

 

「ちょいちょい刑事さん、これどうする?」

 

「連絡はした。遠くはないはずだ」

 

「あれェ、他力本願!」

 

「自分がやるという観念に気負う必要はないという話だ」

 

背中合わせのシェイドゼイネルとタオ。熱波と幻覚を捌き、待ちの時間も終わる。

バイクが横向きに止まり、レッシオルを突き飛ばす。

 

「いってて」

 

「あなた……」

 

「大丈夫だよ。……コッフオル」

 

「大丈夫ですか明路さん!」

 

レッシオルに駆け寄るコッフオル、タオに駆け寄る菜摘。双方睨みあい、菜摘は第二体解放装置をその腰に出現させ、キーを起動する。

 

『アザゼル』『フール。愚者の翼、堕ちたるアザゼル!』

 

「変身!」

 

『Open!介入 by Fallen!開錠 by Start!解放 with Brave!愚者 a.k.a.Fool!その、無謀。そして光と闇!』

 

フォールンブレイバーにキーを突き刺し第二体解放装置にセット、そのままキーを引き抜き、黄金のレギエルに代わる。赤い拳をレッシオルに叩きつけ、さらに銃弾と矢がコッフオルの位置を特定、レギエルから追撃のパンチが叩きつけられる。

 

「ていうか、なんで復活してるの?」

 

「第二体は破壊ってよりこの次元から弾き飛ばされてるのよ。私という錨があれば、私はいつでもコッフオルでいられる!」

 

「あっっっ……そう!」

 

放つ拳と蹴りがぶつかり、押されるコッフオル。レッシオルの熱波もフォールンレジスターの衝撃波で打ち消し、さらにタオの銃撃とゼイネルの矢。押される、一方的に。レギエルという一石が戦局を大きくゆがめる。

 

「おい裕香、一旦ここは」

 

「コッフオルと呼ばないの?」

 

「……コッフオル、今は、」

 

「大丈夫だよ」

 

割り入って立つのは、サタンことマシロことサタン。その手に、悪魔のキー。

 

『サタン』『デビル』

 

自らの頬に突き立て、シェイドサタン、解放。一人増えて厄介だと思うのもつかの間、サタンは距離を変えない。その尻尾を伸ばして振り返ると。

 

「……え?」

 

「は?」

 

「な……」

 

そのまま、裕香の胸に尻尾が突き刺さる。

 

「ふ、あは、あはは!!」

 

高い声を張り上げるコッフオル。そのままサタンが尻尾を振り抜き、その体がバラバラに引きちぎれる。飛び散ったのは、シェイドコッフオルではない。矢沢裕香の、バラバラ死体が転がり。

絶句するレッシオルの横で、裕香のいたその場所に女がたたずむ。

 

透き通る銀髪の女。この世界の者とは思えないほど、美しく光を放つ女性。彼女はレッシオルのそばに寄るとあたりを見る。

 

「……どうしたの、あなた。なんで、人間の体なんかに?」

 

「は?な、裕香、いや、違う、裕香じゃない、コッフオル、おまえ、コッフオルで、」

 

「ふふふ、よかった、私の事、覚えてるのね。……ここ、人間の世界?第一層だわ」

 

「裕香は……裕香はどこに!」

 

銀髪の女は、コッフオルはただ首を傾げ、少し不機嫌そうに。

 

「それ、他の女の名前?」

 

「……え?」

 

転がる裕香の手足を、サタンが拾う。

 

「矢沢裕香は死んだ。矢沢裕香としての、20年の記憶が消滅したんだよ。その身体と一緒に」

 

「……は?」

 

「大丈夫だよ、彼女は喜んでたし、今から聞いてもきっと喜ぶぜ。ただ第二体を呼び起すのと違う、第二体の全部が今ここにあるんだ。力を取り戻したんだ!」

 

手を広げ笑うサタン。ただ眼を見開くだけの裕絵に、尻尾が迫り。

 

「お、おい何を……」

 

「お前はともかく、レッシオルはそれを望んでる。大丈夫だよ、レッシオルはお前なんだから」

 

「でも、おれは矢沢裕絵で、」

 

「嫁さんの認識は違ったみたいだぜ」

 

「違う、裕香は俺の妹、で……」

 

振り抜かれ、引き裂かれる喉元。どさりと倒れる、矢沢裕絵と、その場に膝をついた、線の細い青年。黒髪の彼は立ち上がって、コッフオルの方を向いた。

 

「あら、人間の体から出たのね」

 

「……ああ、なんか、ずっと寝てたみたいな感じ」

 

「さ、ほら、ご夫婦」

 

サタンが指さすのは、絶句するレギエルたち。

 

「あれ、天使?」

 

「そうなる。それも君たちを襲ったんだぜ」

 

「レッシオルの敵、ね。そ……。じゃあやりましょう」

 

「うん、行こう」

 

構える2人の姿が、変貌する。それは悪魔という認識にぶらされていたそれと違い、まさに神様のそれというべき、光の姿だった。

 

「ごめん、僕はお前たちに恨みはないけど。コッフオルのために、倒すね」

 

「あァ……そう」

 

レギエル、タオ、シェイドゼイネル。構え、冷や汗。




次回、「反駁は黄色
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