仮面ライダーレギエル   作:さわたり

24 / 37
アバンが前回からつながってるので前回の終わりの方読み返すといいと思います。


第二十話「天色に突き抜けて」

「死ねッ!」

 

電撃をまとった拳が連続で放たれ、それをアスモデウスは一撃一撃回避していく。だが、時折挟まれる電光石火のストレートは食らい、怯みながら後ずさり。

 

「コッフオル。」

 

「そうね」

 

「逃がすか!」

 

レギエルが頭を振れば、放たれる電撃が床を伝いアスモデウスたちの体に一瞬バチリと光が見え。霧に隠れるより先に、その拳が顔面にめり込んだ。

 

「……っ、痛いんですが」

 

「人殺しがいっちょ前に痛がるなァァ!」

 

「話になりませんね」

 

レギエルの首につかみかかり、頭突き。だがそもそもいまレギエルは頭部が強制解放された状態。電撃をもろに喰らう。しかし、アスモデウスは意に介さず。

 

「サタン様はお逃げください。ついでにコッフオルも」

 

「なんでついでなのよ」

 

「待てよ!!」

 

コッフオルとマシロは霧に姿を消し、何故かアスモデウスも姿を消す。血眼であたりを探すレギエル。体を乗っ取られてはいない。自由に動けることを確かめ、辺りを見る。

 

「……ッ」

 

春子を揺らし声をかけ続ける明路に、話しかけることなんてできない。レッシオルにはコッフオルと同時に逃げられアマテラス側に向かおうとするモリガンを、菜摘が止める。

 

「も、モリガン……。居ないんだアスモデウスが、探して、どこかに居るはずなんだ!」

 

「落ち着け……てのも無理か」

 

「……この事態は」

 

「お前も平然と逃げようと……!」

 

レギエルが飛びついて殴り掛かる先はアマテラス。怒りで狂犬のごとく叫びながらつかみかかり。気迫に押されながらも、放たれる拳はすべてかわしていく。

 

「菜摘君に……何してるの!」

 

うっとおしげに応戦するアマテラスを吹き飛ばすエンジン音。戦車スレイプニルのバイク、ゲビナビノである。転がるアマテラスを横目に、湖冬はレギエルの方を見る。

 

「ねえ、今、どん……な……」

 

「……。湖冬……」

 

「え? ああ、また怪我してる? 明路さん……明路さん? え? 春子さん、きぜ、……つ……?」

 

明路のそばに駆け寄り、見つめる。

開いたままの瞳はなにも捉えることはなく、頭から血を流すそのからだ。明路は何かネジでも外れたように揺らしながら、名前を呼び続けている。

 

「……誰?誰が何をした?」

 

ブツッと、声が冷え。

振り返る先。ヘイナが居心地悪げにうつむいていた。190を超えようかという、男とも女ともつかない若者がその場でレギエルたちを一瞥。

ぶごっ、と。脳内で血液が沸騰する音が聞こえた気がした。

 

「サタンだね?」

 

「……」

 

レギエルが頷く。

 

「アスモデウスがやった。サタンと二人で。サタンは撤退した。」

 

菜摘の感情を抑え込むときの、ロボットのような淡々。それを聞くと、湖冬はレギエルから少し距離を取った。

 

「ルシファー様。」「ほらよ」

 

「ありがとう」『客星堕天』

 

モリガンとアラハバキのキーを受け取ると、不正解放機に収納。第二体強制解放装置に差し込むと、その身ははじけ飛ぶ。

 

「アスモデウスの能力なんだけど、」

 

「いつまで喋っているのだ!」

 

斬りかかってきたアマテラス。レギエルはそれをかわしつつ、アマテラス越しにルシフェルに視線を送る。

 

「逃げると抜かしおったな天使。だが我は最初から」

 

「お前の話聴いてる暇ないんだよ!」

 

レギエルの放つ電撃すらもかわしつつ、アマテラスの舌打ち。いらだった様子で構えると、レギエルの拳はその胸で受け止め、ルシフェルの蹴りは身を逸らしてかわす。

 

「……アスモデウスの能力は他人に取り憑くことで、感覚一個だけの盗み見とか盗み聞きなら、気付かれない」

 

「そしてテレパシーが可能じゃ。我は貴様の手助けなど要らぬ!思わず聞いてしまうだろうが」

 

「そこはちゃんと始末してくださいよ」

 

ずるっとレギエルから飛び出るアスモデウス。ルシフェルの蹴りをその小さい体躯でかわすと、そのままバックステップで距離を置く。レギエルの視線を盗み見見て次の攻撃先を伝えたのだ。

 

「逃げますよ、アマテラス」

 

「誰が逃げるか」

 

「なら結構です」

 

「誰が逃がすと!」

 

「あなた方が、わたしを逃がすんです」

 

ゲビナビノに乗って追うルシフェルから離れると、彼女はいつの間にか姿を消す。アスモデウスの能力はあまりにも撤退向きである。このまま追跡は得策ではない。冷静にキレながら、ルシフェルはアマテラスの方へ改めてエンジンを吹かせる。

 

「何度もはねられると思うたか!」

 

「黙れッ!」

 

激情するタイプの菜摘は、もはや相手の話を聞く気もない。アマテラスが人間一人の生き死にを気にするタイプでもないのは容易に想像もつき、その想像すら神経を逆なでする。バイクから飛び出たルシフェルの斬撃も苛烈さを増し、だんだんと、アマテラスの防御も追いつかなくなっていく。

 

「くそッ!」

 

熱と共に放った斬撃はかわされ、二人の武器が同時に襲い掛かる。

人間として生きた時期を忘れた彼女は、むしろこの環境下に慣れる前に追い詰められる形になっている。

 

『第二体強化解放!』

 

「っは!」

 

ルシフェルが『塔』、ベルゼブブで跳び上がり、『女帝』、アラハバキで蹴り込む。吹き飛ばされる。その姿をさらにレギエルが追う。

 

『第二体抑制解放・Strike!愚者強制。Ready!?女教皇強制。Ready!?』

 

「ぜああああああ!!」

 

右手にもったフォールンレジスターがその胸部に沈み込み、電撃が閃光と共に放たれ。

 

「っぐ、ふ、はは、次やるならサシであるぞ」

 

「誰がするか」

 

爆炎を巻き上げ、アマテラスが四散。その場には何も残らない。湖冬曰く、地獄に魂が飛んで行っているはず。……記憶だって、消えはしない。

戦いが終わっても、こんなに達成感ひとつないとは。レギエルが倒れるのを押しのけ、菜摘が駆け出す。ルシフェルも弾け飛び、二人は春子の元に。

 

「……」

 

「そん、な……」

 

明路はただ、かぶりを振るだけ。

 

 

 

 

 

 

 

第二十話「天色に突き抜けて」

 

 

 

 

 

 

 

留一は、いつになく深刻な顔でPCと向き合っていた。その横で、ヘイナが居心地悪げに見つめる。

 

「オレ様はね、……なんていうかな。…………あー、なんでもない」

 

「……そうかい」

 

一瞥、複雑そうにヘイナの顔を見ると、うつむき。春子の外見は、両親……すでにどちらも他界しているが、ともあれその外見は土田夫妻の遺伝だ。

当然のことだが、ヘイナの顔のつくりは春子には似つかない。しかし、春子の免許証とヘイナを見比べると、何故か同一人物だと脳が認識する。

 

「邪魔ァ、だよなオレ」

 

「いや……別に」

 

優しく接しようとするのが、苦しい。

 

「……ハルコってのは、要は、記憶亡くす前のオレ様ってわけだろ」

 

「うん、そうだね」

 

「愛されてんだな」

 

「…………。私もね、ツッチーの事気に入ってたよ。……キツい性格だけどさ、誰かのために怒れる人でさ」

 

「やめろよ」

 

「……」

 

「やめてくれよ。死んでねえだろ……オレ様なんだろ?ハルコって」

 

「うん」

 

女教皇のキーに視線を向け、そして逸らす。留一はブラインドの先を見て。

 

「うっすら、マジでうっすら残った感覚で分かるんだけどさ。……オレ様ね、どうも好きだったんだ。あの、男前の事」

 

「ミチくんもたぶんツッチーの事好きだったよ」

 

「……ッ、だから死んでねえって!」

 

「じゃあ君は土田春子って胸張って言えるの!?」

 

席を立つ留一を見て、ヘイナの視線は泳ぎ。小さな声で謝りながら、ゆるゆると留一は座り込んだ。

 

「君に当たるのだけは、絶対違うよね……」

 

「…………。アキミチ、調子どうなの?」

 

「けがで寝込んでる。……精神的にも、すぐに復帰は、厳しいだろうね」

 

「まあ、だよな。……オレ、あっちの部屋、居るよ」

 

「うん」

 

研究室を出て、レイフの客室へ。湖冬が力なく見上げ、無理やりヘイナに笑みを向けた。

 

「いいよ、オレ様の方もつらいぜ、それ」

 

「……そっか」

 

隣にいるベルゼブブは、マニキュアを塗りながらつまらなさげにため息。

 

「だ~~ァから向いてないんじゃないノー?湖冬ちゃんは」

 

「春子さんをダシにしないで」

 

「真面目だねェ」

 

「お兄ちゃん」

 

「アスタロトもマジメマジメ。ねえヘイナ見てこれー。黒い爪かっこよくない?」

 

「……。まあいいんじゃねえの」

 

「ちぇー。みんなソノ調子ですかァ」

 

ため息。湖冬ににらまれ、わざとらしく怖がりながら彼は居住まいをただした。

 

「アモンはどこに?」

 

「あっちの会議室だよ」

 

「……ありがとう、ルシ…………ハルコは、お前の事なんて呼」

 

「やめて。……いいから、そういうの」

 

「あっそ」

 

戸を閉めて、ヘイナは自分の手を見る。相手が見ているのは自分なのに、自分じゃない。

今明路に会ったらきっと頭が破裂するなと、ヘイナはため息をついた。とぼとぼ向かう会議室で、アモンと、それからモリガンがキーをいじりながら話していた。

 

「……ヘイナか」

 

「アモン。……ええと、あんたは」

 

「マジで忘れたんだな」『モリガン』

 

「な……マジか、お前も……」

 

「お前の恋応援してやるつもりだったんだけどなァ~~」

 

「……そうかよ」

 

少なくとも、モリガンは春子とヘイナを結構イコールで見てそうである。彼女……仮に彼女とするが、とにかくヘイナは椅子を持ち出し、席に着いた。

 

「アモンと何話してたんだよ」

 

「ま、現ルシファーについていろいろな」

 

「人間関係についていろいろと、な」

 

「まさかハルコに関して、ヘイナに戻ってむしろいいとか、そう言うことじゃねえよな」

 

「ちげぇって。ルシファー様出自が人間なんだからそこは大事だろーよ。むしろ、何?雨野菜摘がふさわしいか、だったっけ?ギヒヒ」

 

「俺を見るな」

 

「……」

 

自分と土田春子という人間のことに、いやでも敏感になってしまう。ヘイナは、優しい悪魔と言って差し支えない性分の者だった。

……自分自身だからこそ、という面もあるようだが。

 

 

 

「ええっと、これは……」

 

手を伸ばす先、ヘイナのキー。

レッシオルやコッフオルのような第二体が完全に出現した面々は、キーなしでも十二分に戦える。キーはただの力の一部を渡すためのものでしかない。

春子が居ない分、自分が研究を。そんな彼の手に、ばちりと小さな音。

 

「いてっ……静電気……?いやでも、ヘイナのキーか……」

 

訝しげにキーを持ち、振り返る。

 

「……力借りるよツッチー」

 

ヘイナのキーを春子の設備にセットししばし操作。

なぜか、アルカナキーが帯電している。そして放電せずに電気量の消費が発生している。……一体なんだ?よく分からないまま、機器を繋ぎ合わせて給電を行なった。

 

「……っ」

 

席を立つと、疲れが溜まり込んでいるのがわかる。春子の、……ヘイナの記憶が消される前からずっとタオのためにPCと睨めっこだ。

フォールンブレイバーも調整しており、そういえば睡眠時間も……。

 

「よし!」

 

ただ時間ゆえか眠くもないので、長めに散歩でもして気を紛らわせることに。普段から菜摘に預けているアザゼルのキーも、なんとなく持つと安心感がある。

 

「……さァ~て」

 

ちょっとばかり、路地裏に足を伸ばし。なんとなく自販機を見てみる。この時期だと温かい飲みものも欲しい。12月も半ばで、ちょうどいいのはホットのレモンティー。

自販機が吐いたそいつを拾い上げ、冷たいベンチに腰を掛け。尻とベンチの間に手を挟んで、無駄な抵抗もしてみて。

 

「レモンティー好きなんだね」

 

「ん?うん、好きだよ~」

 

話しかけて来たのは、黒い髪をお団子にした少女。小学生ぐらいか?アスモデウスの件もあり、警戒が強まってしまう。

 

「君ご家族はー?」

 

「昔死んじゃった事故で。おばさんの家で暮らしてる」

 

「あー、……ごめんね」

 

「んーん。……浅井留一。会いたかったよ」

 

「……あれ?私のこと知ってるヒト~?」

 

「そうなるね」

 

「ふゥ~ん……」

 

「コレ知ってると思うけど。……アスモデウスは気づかれた時点で、潜める時間に限度ができるんだよ。私は疑わなくていい」

 

「……何か知ってる感じ?」

 

にこにこしながらも、留一の目には警戒が宿る。当然と言えば当然だ。

 

「いろいろ知ってるよ、パ~~、パ。」

 

「はい?」

 

彼女が見せたキーは、隠者。

 

「君ぃ、お名前聞いても?」

 

「悪魔は気軽に真名を教えないよ~~ん」

 

にやりと笑って、少女もレモンティーを拾い上げる。

 

「ちなみに人間としては広島トメル。トメ子って呼んで」

 

「いいけどトメ子ちゃん、私に何の用なのー?」

 

「遊ぼうよ。暇でしょ?」

 

「暇じゃないんだけどにゃー」

 

「私のために作ってよ暇ぁ~」

 

「えー。……ま、散歩のつもりだったからいいけど」

 

「やったね」

 

話しかけて来たからに意図があるはずだ。……情報を得たい。留一はにやにやしながらも腹芸のできる男である。

 

「でも私ぃ、公園うろつくだけだよー?」

 

「いいじゃん、いままでそんなことしなかったわけだし」

 

「いままで?」

 

「そ、今まで」

 

ブランコをぐいんぐいんと動かしながら、少女はつぶやく。

 

「トメ子ちゃん私と遊んで何したいの〜?情報は吐かないよ」

 

「でも私の情報は欲しいでしょ?」

 

アルカナキーをクルクル回しながら、トメルは怪しく笑う。留一自身にもどこか似た笑み。まあまあ胡散臭い彼だが、自分より胡散臭い相手にはめっぽう弱いらしい。

 

「君の持ってる情報ってさ、そもそも」

 

「飛行機。……始まりは飛行機だったの」

 

少し真面目な声色で、トメルは告げた。くるくると指を回して空を飛ぶさまを描き、ぱっと手を広げ。概ね意味するのは、爆発。

 

「飛行機……?」

 

「そう、飛行機事故。私は食べたから覚えてる。私は最後の一人だから、覚える者であることを任されたの、ミカエルにね」

 

「……君、堕天使(ぼくたち)に近い存在って事?」

 

「ぼくって言った。私じゃなくて。ふふふ」

 

「あんまりにも得ないな~~要領をさ~~」

 

「私は食べたものの事は絶対に忘れないようにしてるの。だからシカムも十分に消せなかったんだろうね。事実を追ったら、思い出せたんだ。きっかけを」

 

「シカム……現サタンだ」

 

「そのとォ~~り」

 

滑り台をつるつる降りる姿を見れば、それは見た目相応の少女のようで。しかし、振り返った顔は、確かに前世を思い出し切った深みのある目。まるで渦巻いているかのようにすら見える目は、にこやかに留一を見て。

 

「サタンは第二層から第零層……地獄から天国行きの飛行機を爆破したの。」

 

「……なんだって?」

 

天国と地獄。……天国が罪人の管理を地獄に押し付けていることを除けば、天使たちの住処かそれ以外の住処か以上の違いはない。些末な話だ。

しかし、人間に対して「我々は人智を超えている」と見せたい天使には、重要な話。

 

「飛行機の動力によって次元のずれが発生し、第二体を失った乗客二十人の魂は……」

 

「……第一層の魂が形成されていない肉体に宿った、と」

 

「いえすせいか~~い。力を分離してキーに入れたのはなんでか分かんないけど」

 

「で、なんでそれを思い出せたの?君の言った通りならサタンはこの記憶を消したんだろ?」

 

「爆破直後に私は飛行機の欠片を食べて、事故の記憶を刻み付けた。ってかんじ~?」

 

間延びした気の抜け方も留一に似ている。鉄棒でぐるぐるしながら、ぶら下がって彼女は続ける。

 

「ま、一緒に乗ってたのにパパは私に気づかなかったけど」

 

「だから……僕、が……。まて、僕の事、パパ、て……、」

 

着地して、ベンチに座ると、彼女は髪を揺らして笑った。

 

「もう、『かつて奪われたもの』のファイルに入っちゃったんだね、私。あの仮面ライダーとか言うカッコイイ鎧。あれ天使への意趣返しでしょ」

 

留一はそっとうなずく。唾をのむ彼の心臓は高鳴る。

 

「でもね、私生き延びたの。ミカエルどもの仕組んだ洪水を生き延びたの。仲間皆が、私を押し上げて、お前が仇を、父と共に仇を取れって。……やっと会えたんだから」

 

 

『ネフィリム』

 

 

「パパ、一緒に天使を潰そう?」

 

驚きと、喜びと、それから焦り。あらゆる感情が混ざり、留一はまともな呼吸ができない。

 

「ネフィリムは、種族の名前だ、堕天使と人間の……ハーフで、」

 

「生き残ったの、私だけだから。私の名前はオグ。ヘネと、アザゼルの娘。」

 

そっと留一の指を握る。今は自分の遺伝子が介在しない肉体なのに、その握りもぬくもりも、初めて我が子を抱き上げて、指を差し出したその時のようで。

 

「……ハァーっ、ハァっ、」

 

「脳みそぐちゃぐちゃになった感じかな、ごめんね、驚かせて。ふふ」

 

優しく笑いながら、そのキーを自らに付き立てる。

 

『ハーミット』

 

「ねえパパ、私こんなに強くなったよ!」

 

ぐぐ、ぐぐぐ。その身が落とす影が、どんどんと留一を飲み込む。

ネフィリムは、巨人の一族である。シェイドネフィリム、それは3mほどの巨人であった。

 

「これなら天使たちの手先を潰せるよパパ」

 

妖しくもかわいらしい、少女の声。

 

「……手先?」

 

「雨野菜摘、友達なのは分かるけど。彼と仲良くしてたらくすぶるだけだよ。サタンたちは関係ない人間に手を出すから、天使どもと変わんないし……私達で一緒にやろう、ね?」

 

「なっちゃんを傷つけろって?」

 

「うん」

 

「それを飲むと?」

 

「娘より大事なの?」

 

「大事な娘が他人を踏みにじる子に育たないことは少なくとも大事かな」

 

「止められても、私やるよ。雨野菜摘を呼んで」

 

「嫌」

 

「じゃあいいや、引きずり出すよ」

 

「待って!」

 

ずんずん歩き出す白黒の巨人は、警視庁を目指しているようだ。すぐ近くである。焦りながらも、彼はキーを出して。

 

「……行ける、たぶん行ける!」『アザゼル』

 

『フール』

 

その身に突き立てれば、身から湧きおこる第二体が混ざりこみ。白と黒のシェイドアザゼルが現れる。黒くひん曲がった翼と、巨大な腕が目を引く姿が空を飛び、その手を広げる。

 

「邪魔するの?」

 

「邪魔するよ」

 

「どいて!パパだって天使は憎いでしょ?」

 

「憎いけど殴ってもスカッとしない!」

 

「もっと怒りなよ!!娘を引きはがされて、奥さんを殺されたんだよ!?」

 

「それでヘネが返ってくるなら殴るさいくらでも!」

 

「なんで、なんでそんなきれいごと言えるの!?……私の事大事じゃないの!?」

 

ネフィリムの声は泣いている。

 

「大事だからこそ!君の立場を危うくしたくない!短絡的な手に走れば、今度こそ誰かを巻き込むかもしれない!なっちゃんもちゃんコフも、君やヘネみたいな目に遭わせたくないんだ!」

 

「そんな、そんなまともな怒り方、なんでできるの!なんでそんな優しい顔してるの!」

 

頭がぐちゃぐちゃになり、怒りと混乱任せの拳。それをアザゼルは受け止め、優しく抱き留める。娘だという実感が、第二体に部分的に触れたことで鼓動し始める。オグの腕だ、紛れもなく。

 

「天使どもの鼻を明かすならもっといい方法がある、君の力も貸してよ!娘を巻き込むのは気が引けるけど、でも、」

 

「わからずや!」

 

幼い少女の肉体故か、情緒がそこに引っ張られているようだ。もう片方の手で、父を振り落とそうとする。

そこに、光が割り込む。公園の真ん中で、まばゆく輝くのはガブリエルだった。

 

「おやめなさい」

 

「出たな天使ィ!」

 

「なんだって今来るかな!?」

 

ネフィリムが殴り掛かっても、それはただ空を切る。

 

「ガブリエルは第零層……天国にいる。それで通信してるだけだから、意味ないよ」

 

「ああ、くそォ!じゃあ宣戦布告する!お前ら全員ネジ切ってコキュートスでシャーベットにして食べてやる!出てこいラファエル!」

 

「やめてトメ子!」

 

「……ご希望であれば、つなぎますが」

 

ガブリエルが淡々と告げる。ぴたりとネフィリムが止まり、アザゼルも振り返った。

 

「……本気?」

 

「ええ」

 

頷いてガブリエルが指をはじくと、その姿が一瞬で変わる。光を放つ、優しげな青年。翼と、輪と、仰々しい服装は天使たちの共通装備。

 

「……ラファエルゥ!」

 

「やめてトメル!」

 

「構いませんよ。……久しぶりですね、アザゼル」

 

「ああ、ほんとにね……。」

 

アザゼルを罰し、家族から引きはがさせた天使。それこそラファエルで、彼は優しい目でアザゼルを見る。

……ヘネや他のネフィリムたちは、洪水で皆死んだ。

 

「……言いたいことがあるのですよね?」

 

「当然だ!!私は」

 

「トメル。……大丈夫だから」

 

「私が大丈夫じゃない!」

 

「いいから!!」

 

留一の語気が強まる。今日だけでも、彼らしくないと言って差し支えない回数声を荒げている。

 

「……よくないよ」

 

俯く巨人。ラファエルは複雑そうに二人を見る。ガブリエルに比べ、感情を見せるタイプらしい。……もっとも、相手が堕天使とその娘ゆえ繕う必要がないと考えたためか?

 

「戻っていいよ、ラファエル。僕はわかってるよ。ミカエルともども……矢面に立つことの大変さは理解してる」

 

ラファエルは、見透かされたような気持ちでふふと笑う。

 

「あなたは優しいのに」

 

「私の過ちを指すなら、むしろ私が優しいからこそだよ。後悔はない」

 

ラファエルは微笑むと、その手に小さな部品を出す。

 

「あなたたちは、私に対し『堕天使や悪魔を利用してサタンに牽制している』と感じているかもしれません」

 

「……」

 

「それも嘘ではありません。……ですが」

 

ラファエルが投げ渡したそれを、アザゼルがキャッチ。訝しげにネフィリムはそれを見下ろす。

 

「一体お前」

 

「大丈夫。……大丈夫だから。……これ、第二体解放装置にも使われてる部品」

 

ラファエルは頷く。

 

「私は……アザゼル、あなたを友と思っての事だと、それも知っていては欲しいのです」

 

彼が笑えばその姿は消えて、ガブリエルに入れ替わり。彼女もいつも通り何を考えているのかよく分からない顔で踵を返す。

 

「営業ご苦労様!」

 

留一の皮肉に顔を向けることもなく、姿を消した。その様を見下ろすと、ネフィリムは三角座りの姿勢に。少し居心地悪げにアザゼルを見る。

 

「……パパは、ただ枯れちゃって、諦めちゃったんだと思ってた」

 

「んー、どゆこと?」

 

「パパ、大人なだけなんだね。怒り方も大人。……私だけ子供だ」

 

キーを引き抜くと、みるみる小さくなりシェイドは普通の少女に戻る。それを見届け、アザゼルも留一へ。

 

「パパも大人なんかじゃないよ」

 

留一はどこか遠くを見つつも、しっかり娘を見て、その手を伸ばした。

 

 

 

 

「確認:気になります『最終的目標』」

 

「ん~~」

 

警視庁近くのビル屋上。マシロと桃色の横で、アラハバキが空を見ていた。

 

「まあ簡単だよ。至極単純。四文字で表せるぜ」

 

「要求。」

 

「世界征服」

 

マシロは妖しさもなくまっすぐと、にっこり。アラハバキは顔こそ向けても目の焦点は合わないまま応えた。

 

「理解。具体的な方法認識(違いますか?)『第二体の顕現による、悪魔たちの第一層進出』」

 

「そのとォ~~り!」

 

「言ってみれば、人間は苗床です。矢沢裕絵はレッシオルの、矢沢裕香はコッフオルの、別府アイはゼイネルの。土田春子はヘイナの、苗床。」

 

「焼畑くゆり:苗床『アラハバキ』。ワタクシの認識」

 

自らの手を広げ、アラハバキはマシロを見る。

 

「俺今第二体壊されちゃってさァ……ゼイネルの奴頭冷えてたらいいけど。ま、いずれ俺に感謝してくれるよな!」

 

「同感です。さて、第二体の顕現をしたいのであれば私が承りますが」

 

マシロが銃を持ち、桃色がその手にサタンのキーを持つ。

 

「ありますが(希望) 前提、こちらの提示。いたしますお願いします」

 

アラハバキが差し出したのはメモ。小さく精巧な字で、メモにぎっちりと自身の事情が書いてある。あくまで普通の文面だ。

人間としての記憶をなくしても、確認できるようにだろう。

 

「ちなみに、アラハバキ。あなたの野望は」

 

「……日本定住。」

 

「焼畑くゆりとしてすでに達成されているのでは?」

 

「クナト(不在)の存在」

 

「ああ、ご友人と過ごしたいのですか」

 

アラハバキが頷く。続けて、信仰がほしい旨も語った。アラハバキの物言いは意味を感じ取りづらく、多分に推察が含まれるが、ともあれその意図は「土着的なものでよく、管理はアマテラスたちに任せる」という程度。

それは権力というよりは、自らを守るだけの地位を担保したいように感じた。

 

「じゃ、やるか」

 

「ええ」『サタン』

 

キーと固い金属が押し付けられ、霞ヶ関に乾いた銃撃音が響く。

屋上で放たれたそれは銃声としてとらえられることはなく、ちょっとした何かの衝突音のようで。

 

 

 

 

「レイフ、ついてくる?」

 

「うん」

 

トメルは頷いて、その手にキーを握る。

 

「サタンたちを倒せて天使どもも見返せる、最高の作戦でしょん?」

 

にこにこ笑う留一に、少し申し訳なさげに目線を下げる。それでも彼女は、声をあげた。

 

「でも、結局天使の力を使ってるよ」

 

「……ぎく」

 

「天使を見返すなら、タオは人間の技術だけで完結させるべきだよ!」

 

「そのせいで僕たちみたいな目に遭う人が増えていいの?トメ子は」

 

「…………。別に、いいもん」

 

「あ、ウソついた。……後悔するよ、そういう感じだと」

 

いつになく真面目で、そして優しい声色で留一は告げた。しゃがんでトメルより下に視線を合わせると、またにっこり微笑んで。

 

「娘に後悔してほしくないしさ、まあ、私も悩んだけど吹っ切れたの。……イチバンの復讐はなっちゃんを真っ当に幸せにして、天使のやり方を皮肉ってやることだよ。彼が使ってるの、堕天使の私の力ってのも皮肉でよくない?」

 

「復讐に利用してるじゃん」

 

「本人も了承済みだからさ」

 

くすくすと笑ったトメルと留一。そうして立ち上がろうとしたとき、留一の首を後ろから引き寄せる小さな腕。同じく少女のトメルは、背の低いアスモデウスとしっかり目が合う。

 

「え、な……だめッ」

 

駆け寄ろうとしたトメルを蹴飛ばす強烈な一撃。そこに立つのは、かなり短く髪を刈った、無表情の女だった。

 

「ちかづくな。じゃまを、するな。」

 

アラハバキ、人間の肉体という檻から解き放たれたその姿。留一を一瞥するのは、「お前もその仲間になれるぞアザゼル」という視線。

 

「だめ、パパ、逃げて!!」

 

「……これを、なっちゃんに!」

 

「悪あがきですね」『サタン』

 

キーを起動するアスモデウスの腕力は見た目に合わないほど強い。それでも投げ渡したのは愚者のキー。まるで、もう自分はやられてしまうと諦めているかのように。

 

「……ッなんで!」

 

「君なら、僕がまた復讐に固執してても氷を溶かしてくれるでしょ?……だから、お願いね」

 

「大げさだなァ……人間としての記憶とか、どーでもいいだろ。気遣わずに暴れりゃいいんだよ天使相手だぜ?」

 

マシロは拳銃を磨き、ごりごり、押し当て。

キーと弾丸が、その身に突き立てられる。

 

 

「……!?」

 

「消えた……。」

 

 

いや、切ったのは空。

一瞬空気がひりついて。……そういえば今日は湿気が低い。ぱちぱちと、それは静電気。

アラハバキの足元を撫でると、それは緑と黄色と青の光を複雑に描き。アラハバキの蹴り、そのトメルへの一撃も空を切るのであった。

 

電撃が固まり、それは人型を成す。白い服と口元を隠す襟。男か女かよくわからない高身長は、ヘイナの姿。その腕に、留一とトメルを抱え。

 

「……ヘイナ」

 

「助けて、くれた?」

 

トメルを下ろして逃げるように言うと、少しだけ少女は離れてキーを握り。駆け出したアラハバキに、向かうのはシェイドモリガン。

 

「テメ~~の裏切り予想してねえと思うのかァ?いや全員分、裏切り想定はしてるみてえだけど。アタシも対象だぜ。ケッ」

 

「どきなさい」

 

「やァ~~~だねッ」

 

その様を見て、ヘイナは留一も下ろして立つのを手助けすると、間髪入れずヘイナのビンタが叩き込まれる。

 

「いてて……パーで来るのね」

 

「グーとチョキも欲しいか?」

 

「ふふ……」

 

記憶がないだけで、春子なのだなと、少し考えて。

 

「人間としての記憶、投げ捨てんなよ。なくす前のオレ様を……ハルコを覚えてるやつに減られるのは困ンだよ!」

 

「ヘイナ……」

 

「ツッチーって呼んでもいいんだぞ」

 

「……ツ」

 

「ああ、無理はしないで。オレ様見た目がハルコじゃなさすぎるし」

 

「あと口調かなあ」

 

「べつに春子っぽくやってもいいのよ。見た目に似合わないからあたしは今のスタイルなだけで。……まああと王様系のビジュアルでしょ?」

 

「ふふ、まあ好きにしてよ。土田春子って、自分らしさとか自分の趣味とか自分の好きなことに、胸張ってる人だから」

 

「……フン、オレ様だってそうだぜ」

 

向き直る先、ため息のアスモデウス。アラハバキとモリガンの戦いも、モリガンの劣勢に傾きつつある。だが彼女は平然と笑って。

 

「アタシがぶっ殺すって言いてェがこの際は虎の威を借りるぜ……ルシファー様にも報告は済んでんだよ、援軍だぜ援軍ンンン!!」

 

「るしふぁーがでるばあい、きみのきーがつかわれる。せんりょくはへる」

 

「ルシファー様が百人力だから問題ねえんだよッ!」

 

「みぎあしのきょうせいかいほうには、わたくしのきーがひつようだとおもうが」

 

「ハッ、どうだか」

 

蹴とばして距離を取り、向かってくるアラハバキの脚が止まる。赤黒く馬を模したバイクに乗るのは湖冬。彼女はモリガンの前に止まるとそのキーを受け取り。バイク『ゲビナビノ』からキーを引っこ抜くと、それは小さな自転車に。

 

「ありがとね、モリガン」

 

「ヘイナにも感謝してやってくださいよ」

 

「うん、ありがとう」

 

「いいよ、敬語でも別に」

 

少し考えて、その意図がわかって少し申し訳なさげに。

 

「アハハハ……ですよね、春子、さん」

 

「無理はすんなよ。27年分忘れて、結局コフユとオレ様は初対面だし」

 

「……いえ、でも、あなたは絶対に春子さん、ですから」

 

「ああ。……行こうぜ」

 

「ええ」『客星堕天』

 

拳を手に包み、雷光と共に現れる悪魔の姿。白い体に、緑黄青のラインが強く通うヘイナ。同時に、留一と湖冬が構える。

 

「トメルは隠れてて」

 

「行きましょう」

 

「おっけーちゃんコフ!」『アザゼル』『フール』

 

「変身!」『超強制解放!』

『堕落……腐敗……謀反……堕ちたる、終幕!』

 

はじけ飛ぶ湖冬の肉体と、第二体と混ざり合う留一の肉体。いい加減待つのも飽きて、アラハバキとアスモデウスが駆け出す。アラハバキの姿も人間に擬態したものではなく、金属や陶器が混ざった不思議な形状の姿に。

捕まえてやろうとサタンの方にヘイナが向かう。電光と共にすさまじい速度だが、その動きを霧が阻む。

 

「バカか?何べんこれやられりゃ気が済むんだよコッフオル!」

 

一瞬でその姿が消えると、霧全体が帯電。視覚などではなく、全身でもって探知。コッフオルの前に姿を現すと、鋭い蹴りを叩き込む。コッフオルがずざざっと砂を巻き上げつつのけられ、しかしサタンは逃がしてしまった。

 

「ああ、クソッ……つか今日はダンナはいないのかよ」

 

「そのまま返すわ」

 

「アキミチは怪我してんだよあんたらのせいで!」

 

電撃の速度と共に放つ蹴りをすべて蹴りで相殺。一瞬放った霧と共に後ろに回るなど、コッフオルもタダでやられる気はないようだ。

 

「さっすが」

 

ばちり、電撃が通ったかと思えば、ヘイナの体が一瞬で前後逆に。膝の蹴り上げがコッフオルに叩き込まれる。

 

「あァ~あァ~……男ならもっと悶え苦しむんだけどなァ」

 

「……イライラさせやがって……!!」

 

「出てるぜ"中身"が」

 

その横で、アラハバキとアスモデウスの攻撃をルシファーがいなしていた。二対一かつ、完全に解放したアラハバキ相手で分が悪い。アマテラスに比べ土着的で人間に近い神ゆえか、この土地での勝手も完全にわかっているのか、その動きも慣れた物。

 

「っは!」

 

「っと……。なんなんですさっきまでしおらしかったのに」

 

「うるさい!私はやる気になったのさ」

 

アスモデウスの武器は二本の縄。鞭のように振るうのを避け、拳を叩き込み。放った横なぎを、同時に飛び退いてかわすアザゼルとルシフェル。黒い翼が四枚、寒空を薙ぐ。

 

「あいてッ!」

 

しかしアザゼル、縄によって脚を掴まれる。地面に叩きつけられるが、地面をたたいて衝撃を逃がし大ダメージは免れ。砂煙の中、そこにアスモデウスはいない。

 

「……まさか!」

 

向かってくるアラハバキ、ルシフェルを押しのけると、蹴りッ!かわした先に、用意したかのようにもう片方の脚。地面を転がる父を見て、草葉の中でトメルは唾をのむ。

 

「留一さん!目をつむって!」

 

「そっか、OK!」

 

「右です!しゃがんで!左に転がって殴って!」

 

「……ッ!」

 

ルシフェルの攻撃をかわしながらという点あるとはいえ、それはもともと。目をつむって動くと、いきなりアラハバキの食らう攻撃の量が増える。

 

「……あすもでうす、こっちだ」

 

耳を叩く動きのアラハバキ。だがその様子を見れば、何をする気かは簡単にわかってしまう。

アザゼルの中のアスモデウスに伝えたのはおそらく「視覚ではなく聴覚を盗み聞きしろ」。アスモデウスが一度に盗めるのは感覚ひとつだけ。すぐさま伝言はやめて、アザゼルも目を開いた。

 

「……だめそうですか」

 

こうなればいっそ。体をまるごと奪い拳を放とうとするアスモデウスだが、それはルシフェルに届く直前に奪還。……しかし、そこに構っている隙にアラハバキの蹴りがルシフェルをえぐりこみ。

加えて体から飛び出る瞬間は至近距離である。アスモデウスの縄を使った投げがアザゼルに叩き込まれる。

 

「っぐあ!」

 

一度怯めば追撃の嵐。立て直したルシフェルはともかく、アザゼルは不利に追い込まれていた。

 

「……どうなってるんだ!」

 

焦りながらバイクから降りる菜摘。アザゼルの姿を見て、それが自分の使う力に似たものだと気づき。留一だとわかる。

 

「僕も……!」

 

「待って!」

 

「……!? 危ないから君はここから逃げて!」

 

トメルに対し優しく声を上げる菜摘。彼女はかぶりを振る。

 

「これ……使って!」

 

「キー……!?」

 

「私アザゼルの娘なの。雨野菜摘……なっちゃんについては聞いてるから」

 

「え、えと、アザゼルの娘……って、え?」

 

「いいから戦って!悪魔の力めっちゃ使って私の復讐手伝ってね!」

 

「ま、まあいいか。わかった、ありがとう」『受胎告知』『ネフィリム』

 

「変身!」

 

『強制解放。介入、開錠、解放……隠者。その、謀略』

 

右脚だけ菜摘のジーンズのままレギエルが現れ、その脚も弾けとぶ。赤黒いその足で地面を踏みしめると、そこから赤と黒の装甲が現れ、レギエルを覆う、いや包み隠す。

 

「これ……!」

 

「巨大ロボみたい……」

 

自分以外が力を使うことはあまりないからか、新鮮そうに3mそこらの巨人をトメルが見上げていた。

 

「な、菜摘くん?」

 

「今行くよ!」

 

藪から棒に感じる唐突さで放たれた巨大な拳。アスモデウスもアラハバキも仲良く空中に放り出され、縄を使ったアスモデウスだけが上手く着地。背中を地面に投げ出したアラハバキに、レギエルは拳を落とす。蹴りで抵抗するのがやっとで、横に腕を振られれば、そのまま砂を巻き上げ。

 

「……くそっ」

 

『第二体抑制解放・隠者強制』

 

『第二体強化解放!』

 

レギエルの放った拳に対応しきれない!相手の勝手があまりにも分からず、のこのことカチ上げられるアラハバキ。地面に落ちたところで、それはアスモデウスの近く、駆け寄っている、ルシフェルが。

 

「すみません、アラハバキ。」

 

言いながら、アスモデウスがアラハバキを盾にする。意に介さずルシフェルはベルゼブブの脚で地面を蹴り、スレイプニルの脚で蹴りを放つ。車輪の軌跡を描くそれは、跳び回し蹴りだ。

 

「っぐ、ぁ、」

 

爆散、閃光。アラハバキの第二体が消滅し、この次元に残されたのは女帝のキーのみ。腕の長さで、アスモデウスではなくルシフェルが争奪に勝利。

状況を見て、コッフオルの元へ。

 

「いつまでヘイナと遊んでるんです」

 

「分かってるわよ!」

 

がむしゃらに霧を広げ、とにかく離れる。逃げに専念してしまえばヘイナの速度でも見失うというものだ。

辺りに敵がいなくなったことを確認し、ため息のヘイナ。ばちりと、人間態に戻って振り返ると、レギエルがちょうどどっさり倒れ。

 

「あ……ァ……」

 

そして菜摘もすぐさま倒れ。全員が、主に湖冬が駆け寄る。

 

「大丈夫!?」

 

「いや……疲れて動けないだけ……」

 

何が犯人かは彼の手の中のキーを見れば分かる。申し訳なさげにトメルは自分のキーを拾い上げ、菜摘に謝罪。別にいいよと言いながらも、菜摘、気絶。睡眠に近いものらしく、倒れ込んだ湖冬の膝で寝息をあげる。

心配しながらも、大したことなさそうでよかったと撫でてあげて。

 

「……パパが守りたいのが、どういうのかわかったよ」

 

「フフ、でしょ」

 

娘を優しくなでて、彼は微笑む。人間としては血がつながっていないのだが、夕陽の下の立ち姿はどこか似たものだった。




次回「雷」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。