仮面ライダーレギエル   作:さわたり

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1、2話より長いですがたまたまです。今後は短いです。


第三話「銀の剣と正義」

土田春子の趣味はショッピングである。

皮肉っぽく、態度も良好とは言い難い彼女だが、お洋服を買うのが趣味なのだ。

今日もバッチリ決めた服で喫煙所にいる。最近は世間全体がタバコに当たりが強い。

 

「……」

 

さて、旅は道連れで世は情けである。この態度の彼女だが、ショッピング中に出会えた人と友達になることが恒例なのだ。それが楽しみで毎回違うショッピングモールを選んでるといえる。

 

「センスいいわね」

 

「そうか?」

 

今日はパンクな格好の女性だった。小物や服の選びがいいし、何より同じ店で見かけたり喫煙所に居たりと気が合いそうな雰囲気を感じられた。

 

「髪に銀入れてるのね」

 

「似合うっしょ」

 

「とっても」

 

「おねーさんもいい感じな。その金、ってか、黄色の入れ方」

 

「バナナの色合いを参考にしたわ」

 

「チョコバナナじゃん髪色」

 

「真っ黒なチョコってだいぶビターだわ」

 

「どういうチョコが好き?」

 

「甘いの。特にホワイトよ」

 

「気が合うじゃん」

 

ショッピングモールにはたいてい、カフェはあるものだ。無論チェーン店のである。お手ごろだが雰囲気がいい類の店は、即興女子会にぴったりと彼女は心得ていた。

 

「見てこのクロワッサン」

 

「何これ。牛脂?」

 

「牛脂をパンにはさんで食べたいワケ?」

 

「微塵も」

 

ホワイトチョコクロワッサンは二つセットだ。片方を分け、一緒に頼んだカフェオレを口に含み。ギークと言って差し支えない彼女だが、割と友好的かつ羞恥心が麻痺しているのでこういう形の友人は多い。

パンクな女改め、鋼誠(はがねまこと)。彼女もそういった友人の一人になったようだ。

 

「随分かっこいい名前ね」

 

「ハガネってすごいよな。私の家系はなんか……あれらしいぜ。なんか、鍛冶とか。おねーさんは?」

 

「土田春子。ビックリするでしょ、特徴なさ過ぎて」

 

「いい名前じゃん。でも名は体を表すってのはウソってこったな」

 

「どういう名前っぽい?」

 

「冬子」

 

「春っぽくないって」

 

「春の色じゃないっしょチョコバナナは」

 

冬でもないでしょとけらけら笑い、カフェオレを飲み干す。

 

「乙女と乙女がする話っつったらさ」

 

「ええ」

 

「恋バナだろ」

 

「あたし27なんだけど」

 

「こっからじゃん!」

 

「そうかしらァ?あんたこそどうなのよ、そのへん」

 

え~、と少し考え込んだのち、寂しそうな顔。なくはねえよと笑った。

 

「親父はさ、私のこと心配してくれんだけどな。……旦那候補とか、紹介してくれるんだ。跡取りが欲しいだけかもしんねえけど」

 

「……今一瞬、「聞いたら悪かったかしら」とか言いそうになったんだけど。あんたよねこの話振ってきたの」

 

「マジでそれ。だから私は春子さんの話を一方的に聞き出せるってことだぜ」

 

「なによそれェ……別にまあ、好きな男は居なくはないわよ」

 

「マジ!?」

 

「食いつくわねェ!」

 

「そりゃ気になるだろ!!」

 

「秘密!!あたしから言えるのはこれだけ!!終わり!!」

 

教えろ~、絡んでくる彼女をグイっと退け。たまには良い戯れだ。

 

「で、春子さんこのあとどうすんの」

 

「夕飯食べて帰るわよ」

 

「一緒していい?」

 

「そりゃそのつもりよ。あ、でもお金おろして来ていい?」

 

モール内には銀行がある。中庭に隣接しており、カフェから遠くもない。ATMにはいって、パネルをいじり始めたとき。悲鳴が聞こえる。

あまり性格はよくない……というかいい性格をした春子も善の人である。まっすぐその先へ向かえば、絵にかいたような強盗である。

 

「今時目出し帽はどうかと思うわよ。洋画以外で見たことないんだけど」

 

「あ?」

 

「救いは口が出てる帽子じゃないことね。ちょっとだけアメコミヒーローっぽいわよ」

 

振り返った強盗犯にドロップキックをぶち込み、しばりつけようと上着を脱いだ、その時。

 

「春子さんどいて!」

 

爆音。どうやら窓が吹っ飛んだようだ。よもや仲間か?驚いてしりもちをつきつつも即座に飛び退いた瞬間、目の前で爆炎が吹き上がる。二撃目は確実に強盗犯を狙っていた。

 

「……な、に」

 

「危ないぜ春子さん。生きてる、そいつ」

 

「でも動けないわ」

 

「おう。だからチャンスだろ」

 

爆弾を持つ彼女……誠は、何というか、見たことない乗り物に乗っていた。デカいドローンと言うべきか?というより……。

 

「アメコミ……っつーか、デッドプールみたいな強盗の次は……グリーンゴブリンもどきってわけ?」

 

グライダー、と言うべきだろうか。

 

「なにそれ」

 

「スパイダーマンの敵」

 

「心外。……私は正義の人間だぜ」

 

「どっちかって言ったらパニッシャーね」

 

「私アメコミわかんない」

 

「乱暴なタイプの正義の味方ってこと」

 

そんなのどうでっていいからさ、なんて言いつつ誠はグライダーを降りた。あいにく服装は先ほどと同じだが、その手に爆弾を持っているのがより「それらしい」。

 

「させないわよ」

 

「それなら……あれ?」

 

「まずい……」

 

焦りながら拾い上げる、プレート。その手元を見て、誠は悲しそうにうつむき奇遇だぜと吐き出した。

 

『ラミレシア』

 

「私の名前だってさ」

 

「その絵柄……正義、って、悪趣味な話ね」

 

「だから言ってるだろ。私は知ってる……悪魔たちが人間に何をしてきたか。……私は思い出したんだ。今度は変わる。これは天啓だぜ、私は『正義』になるッ!」

 

「誤解よ、コレは」

 

「誤解なことあるか!」

 

投げつけられた爆弾……というより火炎瓶か。これをかわし、強盗を担ぎ逃走。この際職員が使う通路への不法侵入も緊急回避である。

 

「……ああ、クソッ!」

 

警察が来始めた。無辜の民を巻き込むわけにも行かないと、正義の誠も離脱。上から見つからないかと試してみたが、春子は屋根の下をうまく逃げ果せたようである。

 

「クソ……よりによってなんで……あいつが」

 

いい人そうだったし楽しかったのに、まさか奴も魔物か。春子の持つカードの図柄を思い出しつつも、何かはわからない。

 

「あとでタロット買うか……」

 

ひとまずは帰路に付く。父の会社が作っていた試作品のグライダーは勝手に帰還させることができる。帰りは電車にしておいた方が、当然目立たない。

スマートフォンでグライダーのGPSを眺めていると横から声がかかった。

 

「やあ」

 

「こんちは」

 

ツボを買わせる?それとも新興宗教?悪魔狩りほどの価値はないが、元締めを殺せれば社会の浄化に近づくだろう。話しかけてきた女の胡散臭い話を聞きつつ、グライダーを近くに待機させるようスマートフォンを操作した。

 

「私は黒田。よろしく頼む」

 

「よろしくお願いします」

 

ファミレス、というのもあからさますぎる。内心ほくそ笑む彼女の予想に反し、雑談と食事の後に黒田とか言う女が出したものは、もっとぶっ飛んだものだった。

誠の内心の笑みはさらに燃え上がる。

 

「『戦車』、私のアルカナだ」

 

「…………『正義』だ」

 

「君は、覚醒を?」

 

「覚醒?」

 

「前世の記憶とか、そういう類の」

 

「悪魔としての記憶、ってことか?」

 

「そうなるな」

 

とりあえず、噓をつく必要はない。おおむね思い出してると言うと、黒田は表情の読めない態度で頷き、腕時計のようなものを差し出した。

 

「いくらだ」

 

「おいで」

 

耳打ちされた値段は……数万円だ。よくわからないうちに買うには微妙に高い。大学生である誠からしても、何日分のバイトだと計算してしまう。

それを察してか、黒田はおいでと誘う。会計を済ませ、向かう先は路地裏だった。

 

「使ってみたまえ」

 

「やっぱそうだよなァ」

 

『ラミレシア』『ジャスティス』『融合解放』

 

使い方の説明は懇切丁寧だ。パスワードを設定しろというので、携帯のロックなどに普段から使っている4ケタを設定。別にそんなことはないのだが、ラミレシアとしての記憶で脳の領域がパンパンな気がしていた。

シェイド・ジャスティスとレイフの者たちには呼ばれるだろうか。スマホのインカメラに映る自分と大剣を見て、「ヒーローみたいだ」と彼女は思った。

 

「買うかい?」

 

「当然だぜ」

 

たまたまショッピングの日でよかった。金を渡し、君のモノだと告げられる。その腕輪を眺め、うっとり。満足で嬉しいと告げながら踵を返す黒田へ、その背中へ、大剣の初振りを向ける。

 

「……いい心がけだ」

 

どこか「効かねえよ」と嘲るようにも見える笑顔を見せ、黒田は人込みへ消える。仕留め損ねつつも、彼女は新しい力を得た。その点で、やはり満足である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第三話「銀の剣と正義」

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、春子はネットニュースのサイトをはしごしていた。強盗犯が捕まったという記事はいくらでもあるが、大体「犯人の持っていた爆弾が~」としか言わない。防犯カメラなどもハッキングしているのか、金や武力でもみ消しているのか?SNSには少し、ヒーローを示唆するようなものも見える。しかしどれも過去の投稿で、アカウントは凍結されていたり、投稿が消えている。魚拓やダークウェブでしか見つからない。

 

「……だめねえ」

 

「難儀だな……たまたま持っていた『運命の輪』を見られたと」

 

「そうなるわね」

 

「また春子を狙うだろうか」

 

「今は何とも。あの子は「自分の魔物としての記憶」を見て、その悪行から……悪魔を断つべきと考えているんでしょうね」

 

「自分の事を棚に上げてか?」

 

「だから贖罪のつもりもあるんでしょうね。正義の味方になった悪役みたいにね」

 

「光堕ち、ていうのですかね」

 

「で、それに酔ってもいると」

 

指の上で運命の輪のプレートを回しながら、春子はため息をついた。所在や地位が分かっているのはやはり彼女である。菜摘にプレートを渡しつつ、彼女は意を決して告げた。

 

「あたしを囮にしましょう。で、雨野があたしの護衛をする」

 

「え」

 

「金は出すわよ」

 

「いや、驚いただけで別に」

 

「護衛任務の相場とか分かんないから言い値になるけど別にいいでしょ」

 

「え、いやそうじゃなくて」

 

「タバコ吸ってくるわね」

 

「あちょ、待ってください!」

 

そそくさと退散する二人。明路はやれやれという感じで、留一のもとへ向かった。

 

「あら意外。あんたも吸うのね」

 

「二度だけ。一度目で死ぬほど不味いと思って二度目でやっぱ美味しくないと。二度と吸いません」

 

「ふうん。じゃあなんで喫煙室まで付いてくるのよ」

 

「運命の輪は、僕に預けてたでしょう」

 

「……」

 

「今朝、研究のために渡しましたね。……昨日持っていたのは何なのですか」

 

「……まあバレるわよね」

 

「まさか魔術師だったり」

 

「女教皇」

 

彼女の懐から、確かにアルカナキーが取り出される。手元の教皇と比べても、「同じ系統の別絵柄」という見た目だ。

 

「一体誰の……」

 

『ヘイナ』

 

「あたしの本名。明路には内緒よ」

 

「……春子さん」

 

ええ、悪魔。春子は自虐的な笑みを浮かべた。たじろぐ菜摘に対し、畳みかけるように話を続ける。

 

「このアルカナキーは……気づいたら持ってた。いつ頃かは分かんない。もしかしたら生まれたときからかも。捨てる気は、なんかしなかった」

 

「……」

 

「記憶はじわじわ思い出した。マジで「思い出す」って感じ。幸いあたし前世でもこんな性格っぽかったからスルッと「昔のあたし」って感じで受け入れられた」

 

「前世など存在しませんよ」

 

天使のお出ましである。あんたも吸うの、という春子の問いを無視し、彼女は淡々と語り始めた。

 

「別の人生という意味では似たものですが、輪廻転生ではありません」

 

「じゃあ何?」

 

「地獄からこちらに渡る際……原因は不明ですが肉体が消失してしまったのですよ。そして魂だけの存在となり、さまよった末、意識が定まらない状態の肉体へ入った」

 

「胎児ですか」

 

「ええ、ですから一般的な前世ではなく」

 

「前世でいいわよめんどくせーし」

 

「まあ、どう呼ぶも構いませんが」

 

そう告げて立ち去っていく天使。それだけかよと悪態をつきつつ、春子は最後の灰を落とした。

 

「あー、てか、改めて思ったんだけどさ。地獄があるのよね?記憶通りだったら天国もあるはずよね」

 

「ええ」

 

「その……なんて言うべきかしら。天使だったら、多分天国に」

 

「名簿に地島湖冬の名前はない。アキエルの足取りは分からない。魂は呪術次第で消滅することがある。そもそも天国でも長くを過ごせばゆっくり溶けるように消えて、一つになる」

 

「……っ」

 

「以上が天使様から聞いたことの要約です。今の事を聞いて、希望を持てます?」

 

菜摘の声がロボットのように聞こえる。涙を押し殺すとかではなく、脳でかみ砕かず出力することで何も考えないようにしているように、春子には聞こえた。

 

「……ごめんなさい」

 

「春子さん、なんだかんだ優しいですよね」

 

いつもの彼の、穏やかな声だ。

 

「無神経だわ」

 

「気にしてます?」

 

「微塵も。優しいってのは事実に即してはいないけど別に優しくなりたいわけでもないし」

 

「愛なき時代に~」

 

「優しくなりたいって言わせようったってそうは行かないわよ」

 

「悔しいです」

 

「悔しがるようなこと?」

 

こんな冗談を言ったりもできる子なんだと、むしろ、これが本来の彼なんだろうなと、春子は心が痛む感覚を覚えた。明路が彼を巻き込むまいとするのも、よくわかる。

だが、ほかでもなく菜摘こそ戦いたいと言っているのだ。復讐は悲しみの連鎖を生むし、心理学的に心も晴れないそうだが、それをこんな顔をする者たちに投げかけるのは心がないなあと。そんな風に春子は勝手に思うのであった。

 

「今からですか?」

 

「あんたが望むなら明日とかでもいいけど」

 

「今からにしましょう」

 

「了解。じゃ、ショッピングしましょうか」

 

「え?」

 

「鋼誠はあたしがショッピング趣味ってこと知ってんのよ」

 

「意気投合した、って言ってましたもんね」

 

「惜しまれるわ。あの子服のセンスいいのに」

 

「春子さんもお洋服おしゃれですよね」

 

「あんたは……むしろ洒落てないとダメか」

 

「これでもアパレルメインのデザイナーですし」

 

護衛を悟られないよう、別々の方法で行くこととなった。とはいえ別過ぎては何も護衛ではない。バスに乗る彼女を、菜摘がバイクで追う形となった。

千代田区のショッピングモールまではつつがなし。とりあえずぼーっとしていても変だということで、買い物でもしようと提案が出る。

 

「雨野はなんで……洋服のデザインの仕事を?」

 

「もともと水彩画とかが好きで。ただ、見てもらうよりはなんというか……身近に使ってもらう方がいいなと、湖冬の学んでる姿を見て思ったんです」

 

「地島は工業デザインだっけ」

 

「……ええ、僕の父を間近で見てたから、とかで」

 

「素敵な話ね」

 

「ですよね」

 

微笑みながら彼はシャツに手を伸ばした。僕のデザインですと指差すそれは、シンプルながら流麗な印象を与える。「普通にいいわね」とカゴに加え。

 

「デートみたいですね」

 

「あんたはずっと彼女が居たから分かんないし意識したことないでしょうけどそれ、イケメンに言われたら勘違いするわよ世間一般の女は」

 

「えっ」

 

「あんたみたいなのタイプじゃないからあたしはどうでもいいけど」

 

「どんな人がタイプなんですか?」

 

「もっと男らしい……っつーと世間的に良くないわね。さんずいの方の。ほら。オトコっぽい奴よ」

 

空中に「漢」を書きながら彼女は言った。

会計を済ませて向かう先はカフェだ。再三だがこういうショッピングモールには大体カフェがある。

 

「顔の好みは……。例えば芸能人だと」

 

「高倉健」

 

「……漢、ですね。でもそういう顔立ちだとあきm」

 

「黙れ」

 

「え?」

 

「ってか誠といいマトモに恋バナさせる気がなさすぎでしょ!あたしが身を切るだけじゃない」

 

確かにと、ちょっと俯いて湖冬を想いながら菜摘は吐き出す。少し考え、話題転換。趣味の話を振ることに。

 

「ゲームね。とにかくゲーム。たまに映画」

 

「ゲーム……実は湖冬が買ったのが……その、置いてあって。ただ僕ちょっとしかゲームやらないのと……その、2人以上でのプレイ用が多くて」

 

「……勿体無いわねえ。人生10割損よ。人生はゲームのためにあるわ」

 

「ファッションはどうなんです?」

 

「ファッションも10割。あたしにはヘイナとしての前世があるから人生200%よ」

 

「100%勇気ならもう100%は愛と」

 

「なんの話よ」

 

閑話休題。オススメのゲームを問うと、彼女は1人プレイのアクションゲームを提案した。

 

「面白いんですか?」

 

「つまらないゲームを今の流れで薦めてどうすんのよ」

 

「はは、たしかに!」

 

「ってかゲームなら……あー」

 

こつん、こつん。指でテーブルを叩く。首を傾げる菜摘に対し、諦めて彼女は「来てんのよ!!」と告げた。中庭だ、空からの襲来ができる。

 

「モールス信号は分かりませんって!」

 

「モールス信号だって分かったことは褒めるわ。さあ頼んだわよ!」

 

「……あれ?雨野菜摘?」

 

「僕を知ってるわけ?」

 

『受胎告知』

 

ファンだと告げてグライダーから降りる彼女。しかし菜摘の様を見て彼女の足が止まる。

 

「天使って奴か……私は味方だぜ」

 

「悪いけど彼女は仲間だから」

 

「悪魔だっつーのにか?」

 

「受け売りだけど、人を雑なレッテルで見ない方がいいよ。僕はシェイドじゃなくて、あくまで君を『正義』の力を使う個人として君を見てる」

 

「悪魔であって人じゃねえよ。私もだ。例外はねえ」『ラミレシア』

 

「交渉は……」

 

「決裂だなァ」

 

翼が広がり、腕輪へとアルカナキーをセットする。睨み合い距離をとりながら、かたやボタンを押しかたやカギをひねる。

 

『解放』『ジャスティス』

 

『降臨……置換……変化……聖なる、開幕』『融合解放』

 

「はっ!」

 

「オラァ!!」

 

拳と剣がぶつかる。ばちんと跳ね返され両者空間が開くが、戦闘に慣れているのも自分の武器になれているのもレギエルの方である。シェイドを見据え、地面を蹴ッ。

 

「くらえっ!」

 

投げつけてきた火炎瓶が眼前に迫る。盾になるものは?最悪の選択肢だがもうこうなれば支障はない。

まだ消滅していない雨野菜摘の肉体を盾にして、さらに投げつけ。驚くシェイドの目の前で消滅し、油と熱が襲いかかった。

 

「っつぁ!!クソ!!」

 

さらにパンチが襲い掛かり、どんどんと押されていく。

 

「邪魔しやがってェェェ!!」

 

「邪魔もするよ。悪人だからといって殺していい……はずはない」

 

「悪法もまた法なりとでも言うか?詭弁で世界が綺麗になればいいんだがなァ!」

 

威勢はいいが、大剣は皆避けられ着々と拳がねじ込まれている。

だが鋼誠に策がないわけでもない。さらに殴り掛かろうとするその腕を、グライダーが阻んだ。

 

「ナイス!」

 

飛び乗り火炎瓶を連続投擲。いくつあるんだとため息をつきながら、彼は教皇のキーを取り出す。

 

『強制解放』『介入、開錠、解放……教皇。その、束縛』

 

「……当たらない!」

 

「ちょっと!!スパイダーマンは上手くやってるじゃない!」

 

「僕とピーターじゃ糸の扱ってきた年季が違うんですよ!」

 

腰部から糸を飛ばしながら、全て回避される。双方一進も一退しない状況に辟易したのか、シェイドが急接近。大剣をレギエルへ叩き込んだ。弱点の重さが多少克服された状況だ。

 

「っぐ、あ……」

 

「大丈夫?」

 

「大丈夫です!春子さんこそ気をつけて!」

 

爆発と斬撃をかわしながら、彼は駐車場までシェイドを誘導した。地下駐車場はないし、あったとしても彼女はついてこなかっただろう。

 

「何する気?」

 

「君と同じで使い慣れないおもちゃで遊んでみようと思ってね」

 

糸を使い一気に移動。乗ってきた自分のバイクへまたがり、走らせた。火炎瓶から逃げるには十分だが、今必要な『おもちゃ』はこいつではない。

たった今背中から広げた純白のそいつだ。

 

「よ…………っし、飛べた!」

 

「そういや天使だったなァ!」

 

要するに助走付きの飛行しかできないのだ。しかも羽ばたきながら糸を飛ばすも当たらず。飛行も不慣れでやはりすぐに落下。もう一度と振り返りバイクに向かった瞬間。

 

「っは、飛べねえなあ!!」

 

バイクが爆炎を噴き上げた。……やられた。

 

「あああああああ!僕のバイクが!!ああ!!あー!!!」

 

「まさか……思い出の」

 

「いや一昨年買ったものですけどね!……湖冬との移動は自動車が」

 

「思い出に浸る時間ないわよ!!」

 

迫る大剣と火炎瓶。かわすにもそろそろ疲れが出てくるというものだ。天使の肉体は圧倒的に強いが、それを言えば相手は悪魔である。

 

「コレ使って!」

 

春子から投げ渡されたのはアルカナキーだった。攻撃をくぐり抜けながら、引っこ抜き差し替える。

 

『運命の輪』

 

「ありがとうございます。……さてどう出るかな」

 

『強制解放』『介入、開錠、解放……運命の輪。その、転換』

 

差し込み、ひねる。

人間のものに戻った左腕が、今度はいろいろ撒き散らしながら弾け飛ぶ。そこに残った赤黒の左腕に、何やら装甲が現れる。

 

「……なるほど、タイムリー!」

 

その力がどういうものか、感覚でわかる。腕を振るうと、装甲外れ空中へ。車輪が出来上がり、生えるというか燃えるというか。その調子で赤と黒に彩られた二輪車が現れた。

 

「……ンだよ!!」

 

爆炎にはびくともしない。彼はそれに乗り込み、助走をつけ空中へ。今度こそ狼狽えるシェイドに近づき、いわゆるダブルスレッジハンマーの形で脳を揺らした。

 

「っく、あ……なんで、なんでダメなんだよォ!」

 

逃走するその背を、二輪が追う。彼に合わせて名付けるならケツァド・イブク。先ほどまで乗っていたバイクに負けることもなく、確かなスピードでグライダーに追いついた。

 

「ダメだ、私にはやらなきゃなんねえことがある!」

 

「奇遇だ。僕もやらなきゃいけないことがあってね」

 

『第二体抑制解放・運命の輪強制』

 

第二体解放装置に手をかざしながらイブクの背に立ち、ジャンプ。翼を広げ、右腕のグラスが砕け飛ぶ。

 

「来るなあああああ!!」

 

「ごめん、無理っぽい」

 

振るった大剣を左フックでぶっ飛ばし。よろけて崩れる彼女を追うようにグライダーを蹴り込むと、勢いそのままに右ストレート。地面に投げ出される鋼誠を他所に、拳を叩き込まれたままシェイドジャスティスの肉体が地面をえぐる。

ゆっくり立ち上がるレギエルのそばで、その形而上肉体が粉々に吹き飛んだ。

 

「……っは、ああ」

 

「警察は呼んどいたわ。っていうか。ずっと待機してたっていうか」

 

先導するのは明路だ。こういったシェイド関連の事件においては警察の顧問という立ち位置にいる。ドサリと倒れるレギエルに少々ビクッとしつつ、その場に立つ菜摘に彼女を託された。

 

「ご苦労だった」

 

「春子さんにこそ言ってあげてください」

 

「ああ、春子、大丈夫だったか?」

 

「ええ、まあ……」

 

少し照れくさそうに彼女は頰をかく。

 

「おい、春子さんもしかして」

 

「黙れ」

 

「っス」

 

「まあ、罪を償ったらまた買い物でもしましょう。あなたの贖罪に何年かかるかは知らないけど」

 

「前世の贖罪も済んでねえのにさらに重ねて来んのかよ……分かんねえよ、何が正しいか……」

 

「あたしも分かんない。ダークヒーローってのがあるように、あんたはまたある種の正義かもしれない」

 

「じゃあ……私は一体どうすれば」

 

「簡単よ。郷に居るのだから郷に従うの。今はそれしかできない。人間みんなそう。それが絶対に正義かはともかく、賢くて生きやすくて、比較的自分の正義のために戦えてるわ。……あたしもときどき、コレが正しいのかわからないけど」

 

地面に落ちた『正義』を拾いながら、彼女はうつむいた。

その様を見届け、菜摘は気分転換も兼ねて話題を選び出した。

 

「明路さん、このあと大丈夫ですか?」

 

「? ああ。報告業務はデータだしな」

 

「ブックオフ行きましょ。ゲーム買いましょゲーム」

 

「俺はあまりビデオゲームは」

 

「この期に!やりましょ!」

 

半ば強引に彼を連れ、立ち去る菜摘。その背を、春子は何も言えずに見守る。

菜摘は、自分の正義を貫けているのだろうか?




次回、「愛の節制、恋の桜色
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