仮面ライダーレギエル   作:さわたり

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最終章
第二十二話「始まりは灰色で」


「じゃあさ、ガブリエルはしばらく出れないってことだよね?」

 

ハンバーグを飲み込んだ湖冬が、菜摘に問えば、菜摘もほおばりつつ頷く。

 

「ミカエルとか、初代ルシファーが起こした騒動のせい、か……」

 

「まあ、大変なことになったしね」

 

今日の夕飯は菜摘と湖冬の共同作業。仕事が落ち着いた……というよりは、デザイナーどころではない状態だったからというのもあるが、とにかく夜に忙しくない状態だ。そういった時、二人はたいてい一緒に料理をする。

 

「明日どうする?」

 

「特に考えてないけど、家でのびのびしてもいいんじゃない?」

 

「まあそうだよね、動物園とか行くってテンションじゃないもの……」

 

少し何かを考えた様子の菜摘に、湖冬は優しくうなずく。そんな彼女の携帯に一通の通知。金古少年から伺っても構わないかという内容のものだ。なんでも渡すものがあるとか。

 

「僕あんまり話したことないけど、彼、どんな人なの?」

 

「金古少年ってよりはヘパイストスって感じ。……ま、金古アツヒロになる前の彼はよく知らないけどね」

 

「ヘパイストス……ギリシャ神話だっけ?」

 

「しかもゼウスとヘラの子だよ」

 

「わ……大御所……」

 

菜摘は驚きつつも、少し複雑そうな顔をしている。

 

「アモンみたいなこと、警戒してたり?」

 

「警戒ってわけじゃ無いけどね」

 

「アハハ。菜摘君の性格がちょっと悪かったら、私がなびきっこないのを見せつけて気持ちよくなれたのにね」

 

「そういう趣味はないかなぁ、フフ」

 

「ヘパイストス、アフロディーテの浮気があってからあんまり恋愛沙汰に積極的じゃないみたいで」

 

「金古くんとしてもなんか……冷めた感じだったしね」

 

「そうなんだよねー」

 

そんな話をしながら食べ終え、しばし食器は水につけて。二人で話をしながら夜のドラマを見て。そんな夜を過ごして、静かに翌日の朝が来た。

朝日を浴びつつ、背を伸ばして、歯を磨いたり。録画の休日朝の女児アニメを見たりして。そんな数時間ののち、インターホンの音。菜摘が迎えた彼は、間違いなくヘパイストスこと金古アツヒロことヘパイストス。

 

「いらっしゃい」

 

「お邪魔します。夫婦の時間に邪魔をしてすみません」

 

「僕と湖冬の時間なんていくらでも用意できるし」

 

「ならいいのですが」

 

招かれるままにリビングの一室に腰を掛けるヘパイストス。その手の中の紙袋には、まあ、そんなに高くはないがオシャレな、駅構内で買えるような、そんな手土産のお菓子。

それともう一つ。ごそごそと彼が出したのは、計画書のようなものだった。

 

「雨野菜摘。あなたも読んでおいていいでしょう」

 

「これは?」

 

「日本政府との条約みたいなもの」

 

「随分なんていうか大きい話だね……外務省?」

 

「いや、内閣だね。レイフは警察庁が設立したものじゃん?その流れで国家公安委員会にかけあってるんだよ」

 

「すごい……ことしてるんだね……」

 

「アキエルとして戦ってた個人、っていうのとルシファーの実測データとかで呑ませた形になるね」

 

「じゃあ武力でした交渉なの?」

 

「40%ぐらいは」

 

そんな話をしながら見る資料では、天使や悪魔の扱いや、今後の干渉について書いてあるようだ。あまり社会システムに食い込む気はないようで、当然「サバイイ島をレッシオルコッフオル両名に譲渡」という内容など無い。

ヘパイストスは、少し複雑そうな顔で。

 

「……どうしたの?」

 

「いいえ、何でもないです」

 

「ならいいけど。本当にいいの?」

 

「……。……まあ、なんというか。人間界に寄り添った内容だなぁと」

 

どこか気まずそうなヘパイストスを一瞥し、湖冬はしばし考える様子を見せる。

 

「…………ヘパイストスは、今からオリュンポス山が欲しい?」

 

「……欲しいかどうかでいえば、まあ、……欲しいですが、それは支配欲に由来するものです。実用性はないので、異論はないです。他の十一人もみな同じはずですよ」

 

淡々と話す少年を見て、湖冬はまた考え込んで。

 

「……この人間の世界は、天使の庇護下で成り立っているのは事実。人間を対等に見ていない連中の勝手な『保護』が混沌を防いでもいるんだよ」

 

「重々、理解しています」

 

「地獄のいち区画で満足しろっていうわけじゃないけど……ううん、満足しろって、結果的に言ってるようなものだよね」

 

「俺は、それで満足ですので」

 

コーヒーの水面に、ヘパイストスが落とした視線が映りこむ。

 

 

 

 

 

 

 

第二十二話「始まりは灰色で」

 

 

 

 

 

 

 

「あ、もう出るのかよ」

 

「モリガン……何の用です」

 

「ヒマだったからよ」

 

菜摘と湖冬の家から、ヘパイストスが出てきた。モリガンは彼に軽く挨拶すると、ほぼ同時に外に出てきた婚約者たちの方へ視線を移す。

 

「三人でお散歩か?」

 

「いえ、俺はお暇しますよ。お二人の邪魔はしません」

 

「べつに邪魔じゃないのに」

 

「まだ再会してふた月とかでしょう。大事にしてください」

 

「……じゃあ、お言葉に甘えて」

 

立ち去っていく二人。やはり連れ添った時間が長いからか、夫婦らしい威厳。モリガンは「妬ましいねェ」などと、その背中を見送った。

 

「で、このあとはどうすんだよ」

 

「……特に仕事はありませんし、サタンが動く気配もまだありませんし。休暇を過ごします」

 

「じゃアタシもついてく」

 

「暇ですか」

 

「暇で~す」

 

「遠出はしませんからね」

 

「べつにいーよ」

 

菜摘らの家からそう遠くない駅に、二人は繰り出した。いつでもレイフ本部に行けるようにというのもあり、東京駅周辺。軽い喫茶店でもあればと、辺りを見る。

 

「お前休日何してんの?」

 

「自転車で色々出かけてます。旅行番組の録画をみたり、そういうのも好きです」

 

「ほーん」

 

「ゲームとかもヘイナ……土田春子ほどではないですがたまに」

 

「フツーの中学生って感じか?」

 

「さあ。俺は小学生の時から覚醒してたので……」

 

「アタシもお前ぐらいの時には思い出してたな」

 

「……。モリガンは、休日に何を?」

 

「だいたいゲームか……マンガ読んでるわ」

 

「当てましょう、バトルものですね」

 

「その通り!」

 

ケタケタ笑う彼女をどこか複雑そうに眺めると、ヘパイストスはまた街を見て。平日の昼でもおさまりようのない人混みのなか、ゲームセンターに視線が動いた。

 

「座って休もうかとも思いましたが、気が変わりました」

 

「あ? いーけどアタシゲーム上手くはないぞ」

 

「ゲームセンターで求められませんよ上手さは」

 

ずんずか入っていくヘパイストスの背を、クスッと笑ってからモリガンは追う。二人はやかましいゲームセンターの中へ。

 

「何やるよ」

 

「UFOキャッチャーとかですかね」

 

「ですかねじゃねえよですかねじゃ。軍神モリガン様とデートすんならエスコートしてみろや」

 

「俺あなたには興味ないんで」

 

「じゃアタシの武力は」

 

「あったところで何ができるんです」

 

「けけ、なんにもできねえなァ」

 

「……あんたも俺には興味ないでしょう。何が言いたいんです」

 

「別にィィ?」

 

モリガンは粗暴だが、やはり軍神。破壊神でもなく、いくさの神。戦略の神でもあるわけだ。その目は何かを見透かしたようでもある。

 

「……」

 

「黙っちゃった。悪かったよ、ちょ~~っとからかっただけだ」

 

「俺に、野心があるといいたいのでしょう」

 

「自分から晒しに行く気かよ」

 

「馬鹿馬鹿しい……」

 

いささか険悪な空気感が漂い出したとき、二人の耳に「あ」と、驚いた声が飛び込む。揃って振り返れば、そこには春子と明路が。

 

「あんたらなんでここに?」

 

「なんとなくです」

 

「おもしれー偶然。まあ、警視庁の近くだしな」

 

「仕事はどうしてるのです」

 

「休憩。明路が動かないからあたしが引っ張り出した」

 

「俺は気が気ではないのだが」

 

「部下の皆さんが連絡くれるって言ってんだからいいでしょ」

 

まあそうだが、と返す明路の腕にはやたらデカいお菓子の袋。UFOキャッチャーで当てたのだろう。

 

「満喫してんじゃん」

 

「あたしはさせてるつもりなんだけどね」

 

「まあ、気分転換にはなっているよ」

 

「この後どうすんの?」

 

「上の階でマリカーやる。勝負になるかはわかんないけど」

 

「俺は時折雨野君と争っているんだ。舐めないでもらおう」

 

「勝ったことは?」

 

「ない」

 

「あたしは10回やって全部勝った」

 

そんな春子を見てモリガンはニヤリ。

 

「お前付き合ってんの?」

 

春子の耳元でぼそり。急な問いに驚きむせる春子の背を明路が撫でる。若干モリガンをにらんだ後、ため息。

 

「そーよ」

 

「はは、そりゃよかった」

 

「あんたらは、どうすんの」

 

「安心しろ、ついては行かねえよ」

 

モリガンは踵を返しつつ手を振り、ゲーセン退出。ヘパイストスも、その背を追った。

 

「クー・フーリンが重なりますか」

 

「反撃の時間ってわけ? 別に土田春子はそうでもねえよ。ヘイナがそれっぽいってだけ」

 

「ああ、そうですか」

 

「ああそうだ。」

 

「…………。俺が見る旅番組は、ギリシアのものばかりです。最近やったゲームはイモータルズ、ギリシア神話がモチーフです」

 

「そうかよ」

 

「……すみません、しばらく一人にしてください」

 

そういって、モリガンの元を走り去るヘパイストス。振り返ってその様子を見送ると、モリガンは頭をガリガリとかいて警視庁側へと向かった。

レイフ本部で待機する旨を湖冬にメッセージで送り。モヤモヤした気分をごまかすために、マジメな仕事でもやってやろうかと。そんな気持ちで向かうと、留一は少女と一緒に座っていた。

 

「あ、モリガンじゃん」

 

「よ。お前は?」

 

「娘。……アザゼルの」

 

「あ、じゃあオグ?」

 

「そゆこと」

 

「何してんの?」

 

「ま、いろいろと教えてた」

 

すぐそばにあるホワイトボードには、現状の説明や、逆にオグことトメ子ことオグによる、飛行機事故の詳細があった。

 

「……親子、だな」

 

「んー、そだよ~」

 

「あとで聞かせろよ、その、事故とやら。日本にしかシェイドがいねえのもそのへん関わってんだろ」

 

「わかった」

 

「あとでって、別にわたしはいいのに。忙しくないよパパはともかく」

 

「あとでいいよ、気分じゃねえの」

 

「そか」

 

そう言ってその場をあとにすれば、にこやかに話す父と娘の姿。それをちょっと遠巻きに眺め、モリガンは少しだけ微笑んだ。

 

「アモンも居るじゃん。よ」

 

「……お前か」

 

アモンに勝手についていき、彼が何か資料をまとめるために入った会議室に座り込むモリガン。作業風景をのぞき込んだりする彼女を、アモンが一瞥する。

 

「……あのな、ここは部室じゃないんだぞ。気楽に出たり入ったり」

 

「いやお前こっちの世界の学校通ってねえだろ。ルシファーと来たんだから」

 

「いや、この世界に一度来て、まあ、いろいろ手を尽くして第二体を送った形になる」

 

「あ? じゃあお前高校生だったことあんのか。部活何?」

 

「バスケだが」

 

「バスケ!?!?!? 灯田レイジが!?!?!?」

 

「やかましいぞ。烏丸(からすま)ゆめ子はどうなんだ」

 

「サッカー部」

 

「『らしい』な」

 

「うるせえよ」

 

ケタケタ笑うモリガンこと烏丸ゆめ子ことモリガン。まあ同僚の邪魔をする気はないようで、「手伝ってやるよ」「私一人でいい」のやり取りのあとはしばし不干渉。

 

「……どした?」

 

「休憩だ」

 

自身のオールバックを直しつつ、雑に置いてあるココアの袋からマグカップに粉を投入。お湯を入れるとアモンは書類から離れた場所に座り込んだ。

 

「PCでできねえの?」

 

「地獄で紙でやりすぎた。機械は慣れない」

 

「機械は天使感あるしな」

 

「まあ、そうだな」

 

ココアをすするアモン。しばし静寂が流れて、モリガンはふと窓の外を見る。夕方前、太陽も傾きつつある。

 

「お前ってさァ、雨野菜摘チャンのことどうなん?」

 

「急になんだ」

 

「良いから答えろって」

 

「嫌いだが評価している。人間性含め」

 

「なんで嫌いなの?」

 

「言わせるな。仲良くしようと努力してるんだ私は」

 

「高慢~~。あいつから言わせりゃ『湖冬を三年もの間奪った怨敵』なのにな。よく耐えてるぜアイツ」

 

「…………。文句はビノリエルに言ってくれ」

 

「顔には『ごめんなさい』と『何が悪い』どっちも書いてるように見えるけどな」

 

「何の話がしたいんだお前は」

 

「さあな」

 

モリガンが弄るスマートフォンの画面には、「ケルト神話」のウィキペディアページ。ハイパーリンクの文字は概ね紫になっている。

いくつかページをサーフィンしたのち、たどり着く「クー・フーリン」のページ。ケルトの英雄の絵を見て、ため息。

 

「未練たらたらはダセえよな」

 

「……私への当てつけか」

 

「兼ねてる」

 

また静寂が来て、モリガンは少しして席を立った。

 

「遅ぇしヘパイストス迎えに行ってくるわ」

 

「ああ」

 

そうしてレイフを出て、ショートメッセージを送ってからしばしうろついて。返信が来たのを見て、カフェから出てきたヘパイストスと合流した。

 

「考えごとはできたか?」

 

「十分にはできてません」

 

そうして、まっすぐレイフに向かうさなか、少し人気のない路地。二人がほぼ同時に何かに気づき、目を見合わせて距離を置く。

 

「どっちだ?」

 

「さあ、どちらも同じくらいあり得ます」

 

思ったよりもそれはすぐやってくる。アスモデウス、その腕がヘパイストスから飛び出てその身体を拘束する。

 

「俺かッ」

 

「待ってろ、すぐ飛び出てくる!」『モリガン』『ジャッジメント』

 

二本の槍を構えて駆け抜けるモリガン、しかしそれがたどり着く前に、アスモデウスは動く。

 

「目を覚ましなさい」『サタン』

 

体にキーを突き立てられ、アスモデウスの目的が予想通りであることを確信。ギリギリで弾き飛ばし、アスモデウスの鞭をかわす。

 

「……ッ」『ヘパイストス』『ストレングス』

 

白い鋼鉄のような体に黒いラインの通うシェイドヘパイストス。対し、アスモデウスも構え。

アスモデウスはモリガンの猛攻をかわし、ヘパイストスの反撃も避けて。もう目的は一つ、急襲された側に比べればその動きは正確。

 

「っが、あ」

 

「ヘパイストス!!!」

 

より集めてとがらせ、槍のようになった鞭がヘパイストス……というよりは金古アツヒロの心臓をぶち抜いていた。

 

「てめえええええ!!!」

 

「彼もきっと感謝するはずですよ」

 

アスモデウスの鞭をかわしモリガンが駆け寄る。だが、もう間に合うことはない。アスモデウスが投げ捨てれば、だらんと力のない金古少年の体が叩きつけられる。

 

「……くそ、てことは」

 

そう、当然分離している。美形で、少しガタイの良い青年。あたりを見回し、すぐそばの少女が「アスモデウスですよ」と言えば「地獄の最高責任者の片方、その側近」を認識する。なぜ人間界にいるかもわからない状態では、吹き込まれたことを信じるのも道理だろう。

 

「君が反逆者という認識で良いんだな、モリガン」

 

「お好きにどうぞ!」

 

そして駆け出す、と見せかけて、モリガンは入り組んだ路地裏に入って逃げていく。

 

「……モリガンは立ち向かうタイプだと思ったんだが」

 

「彼女は戦闘ではなく戦争の神です。戦略的撤退もためらいませんよ」

 

「どうする? 援軍を連れてくると思うが」

 

「逃げましょう」

 

東京駅の前までしばし歩き、仕事終わりの人々が行き交う夕方。パトカーの音と、バルトチェイサーの駆動音。逃げるように人込みに飛び込み、追う足音が迫る。

 

「どこに逃げる気だ」

 

「それを聞かれていたらどうするのです」

 

「一理ある。連中は何なんだ、私が入っていたという肉体を抱えていた、あの顔」

 

「人間の身体のせいで惑わされていた形になります。さあこっちに」

 

駆け出す地下連絡通路で、サラリーマンを突き飛ばしだばだば迫る足音はモリガンと、それに先導された春子、明路である。

 

「……ヘイナか? モリガンと、横の人間は?」

 

「ヘイナと融合すると連中の最高戦力になりますよ」

 

「なら今ここでつぶすか?」

 

「もう少し逃げましょう」

 

「逃がすか!行くぞ!」『I’m waiting for you』

 

「ええ」『ヘイナ』

 

「「変身」」

 

『Get!』『Lightning……This is it!You are the KAMEN RIDER HEIGHNA!』

 

逃がすか、という言葉通り。雷光に変わって一瞬で駆け抜けると、仮面ライダーヘイナがすでに先回り。逃げながら鞭で応戦するアスモデウスに蹴りを叩き込み。

 

「やれやれ……」

 

「お前の相手はアタシだよ」

 

救援に向かおうとしたヘパイストスの前に、モリガンが立ちふさがる。

 

「邪魔しないでもらおうか」

 

「無理な相談だな」

 

「君の目的は何なんだ?」

 

「あー……てめえを倒す!」

 

「なんのために」

 

「ああもう黙れお前!」

 

「君は虚しくならないのか、天界の指先で」

 

「何吹き込まれたんだテメーは」

 

ヘパイストスもモリガンと同じように槍二本、その身から生み出して振るうと両者激突。しかし出力が違うというべきか。モリガンがやはり押されている。

 

「いろいろとな。君だって、アイルランドが欲しくはないのか!」

 

「そこに、そこに!! クー・フーリンは、居んのかよ!!」

 

頭突き!!喰らって一瞬怯みながらも、ヘパイストスはアスモデウスとヘイナを一瞥した。どちらかと言えば、アスモデウスが押されている状況。それは、的確な明路と春子のコンビネーション。声を聴く限り、留一と通信もしているようだ。

 

「……君はそんなにクー・フーリンが好きなのか?」

 

「べつにもう結ばれてえわけじゃねえよ。あいつ含めた空間で楽しみたいだけだし、アイツにもそう思っていてほしい。必ず一人の友人でありたい、そういうもんだろ」

 

「そうかね」

 

モリガンがとにかく技量で逃げながら、ヘパイストスと渡り合う。その傍ら、ヘイナとの戦いで逃げ腰なのはアスモデウスの方だった。連絡通路も終わり、国際フォーラム地下へ。

 

「っく、」

 

「っは!」

 

そもそもサタンとの二対一で互角だ。簡単に追い込まれ、アスモデウスは転がりながら回避を続ける。ムチを振るってみるが、電撃を這わせて反撃が来る始末。

 

「居た!今行くアスモデウス!!」

 

援軍、シェイドサタン。ヘイナが構えなおしたと同時に、国際フォーラム内部でもお構いなしのバイク音が響く。ゲビナビノに、レギエルと湖冬が乗ってきていた。

 

「法とかどうなってんですか」

 

「緊急回避でいいだろうこの際」『避難済んでるし』

 

レギエル、愚者解放堕天の姿でサタンの前に立ちはだかり拳を放つ。

 

「退け!」

 

「嫌だ」

 

「失せろよ天使の犬がァ!!」

 

組み合う二人を一瞥しつつ湖冬、強制解放装置を用意しつつスライディングでモリガンの元へ。即座にモリガンのキーを受け取ると、構え。

 

「変身!」

 

『超強制解放!堕落……腐敗……謀反……堕ちたる、終幕!』

 

六枚の翼を広げつつ接近。右腕はラミレシアのようだ。剣と剣で追い立てれば、急襲というのもあってヘパイストスも後ずさる。そもそもビノリエルしか知らないヘパイストス的には、湖冬の存在は聞かされていても対処はできない。だんだんと不利になり、状況はライダー側に傾く。

 

「どけレギエル!!待ってろアスモデウス、お前は弱くない、追い込まれてるのはその身体のせいだ、」

 

「身体……、」

 

「ああそうだ、人間の身体!そんな汚い肉の重り俺が取り払ってやるよ」

 

「汚い、肉。」

 

自らの手を見て、アスモデウスがゆっくり頷く。そんな一瞬の隙も、絶好のチャンス。ヘイナの銃撃が、明路流の重い一発が、確実に叩き込まれた。

 

「うぐぁ!」

 

「てめえええ!!!」

 

サタンがレギエルをどうにか押しのけて駆け抜ける。待ってろ、今放ってやる。尻尾を構えたサタンはもうなりふり構わないようだ。

ヘパイストスは生み出した盾でルシフェルの猛攻を防ぎつつ、アスモデウス、そしてヘイナを一瞥した。

 

「レギエルの婚約者らしいな、聞いたぞ」

 

「それが何」

 

「彼が大事か」

 

「当然でしょ」

 

「あそこで戦っている二人は? ヘイナと、融合する男の二人」

 

「大事だし、それが何って言ってるんだけど!」

 

心なしか、攻撃は激しくなる。

 

「……であるの、なら!!」

 

盾をとっさにハンマーに変えて火炎をまといルシフェルにぶつけ。すぐさま姿勢を戻す彼女をよそに、ヘパイストスもまたアスモデウスの方に駆けだす。

 

「来るか!」『対処!』

『Confirmed and Authorized. As you know, it's HISSATSU』

『Ready!HEIGHNA’s lightning bursts now!』

 

「な、」

 

「ヘパイストス……!?」

 

ヘパイストスはアスモデウスを突き飛ばし、サタンの尻尾の一撃をその身に受けた。第一体のない今、それはただの痛くもなんともない突き。

 

「邪魔する気か!?」

 

「なぜです……」

 

「……後悔するよ」

 

ヘパイストスはそのままサタンの尻尾を掴んで地面に叩きつける。混乱するアスモデウスの方を向くと、しゃがみこんでその視線を合わせる。

 

「私は後悔したよ。……人間の身体のせいで連中に惑わされていた、とか言っていたな。……私は惑わされているままの方が、きっと楽しかっただろう」

 

「それは、あなただっていずれ」

 

「アスモデウス。……アスモデウスそれは、本心か?」

 

ヘパイストスからの問いに、ただ荒れた吐息だけが返る。

 

「一体、ヘパイストスは」

 

『今ためらってたら逃げられるわよ!』

 

「ああ、そうだな。……とにかくアスモデウスを狙うぞ」

 

「『ライダーキック!』」

 

放たれる雷撃の蹴り。アスモデウスは縄をかけとっさにヘパイストスを盾にした。ヘパイストスは、青年の姿に戻って、うつむき。

 

「モリガン。私は、……俺は、ギリシアじゃなくて、ギリシアで、みんなと笑ってた頃が欲しいな」

 

微笑んでこぼしたその一言もろとも、雷撃がぶっ飛ばした。爆散、閃光と熱。

 

拜拜(Bye-Bye)!』

 

「……ッ、」

 

「逃げるぞアスモデウス!俺が立たせて、」

 

「サタン様!……いえ、マシロくん。……私は、」

 

言葉に詰まり、つばを飲み込んで、それでも続けて。

 

「私は、人間という、脆弱で、やたら数の多い生き物を、醜いと思います。グロテスクだと思います。汚いと思います。……ですが、ですが。……その弱さ故、数を増やそうとする、盛んな性が、どうしても狂おしく思います、愛おしく思います、妬ましく思います」

 

「何を言って、」

 

駆け寄ろうとするサタンをレギエルとルシフェルが押さえつけ、ヘイナはすぐさま体勢を変えてアスモデウスへ銃口を向ける。

 

『Confirmed and Authorized. As you know, it's HISSATSU』

『a.k.a. FINAL FINISH of High-Priestess』

 

「やめろ、おい!! やめろォォォオオオオ!!!!」

 

「『ライダーショット!』」

 

拜拜(Bye-Bye)!』

 

光が弾け飛び、閃光が舞う。

第二体が消え去り、キーを持った更科桃色がただ倒れ込んだ。ずるずる起き上がる彼女も、ヘイナに腕を掴まれ。

 

「あ、ああ、待て、待てアスモデウス、」

 

「サタン様……。……ッ!!」

 

とっさに暴れまわり、ヘイナに頭突き。駆け出したアスモデウスがサタンの唇に、自らの唇を押し付ける。サタンは笑おうとするが、むせて、えずいて、唾棄すべき人間の肉体を拒み。

アスモデウスは引きずられながら、ただ、ただただ笑う。そして泣いて。

 

「"汚い肉の重り"は抱けませんか」

 

「待ってくれアスモデウス、……お前は、何に惑わされて、」

 

「もういいんです、いいんです。今日ひとりで戦ったのは……頑張った私を労ってくれるかなと、いいえ、いいんです。卑しい女でごめんなさい」

 

レギエルとルシフェルを押しのけようとサタンは必死だが、二人がかりだと不利もいいところだ。アスモデウスが投げたキーをサタンはどうにか受け取り。それだけは死守しながら、更科桃色を見つめ続ける。

 

「でも一度くらい、あなたがこの肉の乾きを潤してくれればよかったのに」

 

力なくそうこぼす桃色は、レイフの隊員たちに引きずられていった。

 

「貴様らあああァァァァ!!!!」

 

怒りの咆哮と共に立ち上がるサタン。ヘイナも戻り、3ライダーに囲まれ、それでもなお構えて

 

「卑怯かもだけど、効率的にやらせてもらうからね」

 

「……クソ、早速使うことになるとはな」

 

サタンは素早く包囲網を潜り抜けるとマシロに戻り。懐からずるりと機械を持ち出すと、それを腰に当てた。

 

『客星堕天』

 

ベルトが巻かれるそれは第二体強制開放装置。驚く湖冬が、すぐに「初代ルシファーを調べたんだ」と分析。サタンは無理矢理不敵に笑う。

 

「力貸してくれ、アスモデウス」『サタン』『アスモデウス』

 

サタンのキーを自身に突き立て取り込み。大きく腕を回して構え、駆け寄るレギエルたちを前に、アスモデウスのキーを強制開放装置にセットする。

 

燐情(りんじょう)!」

 

掛け声と同時にキーを捻ると、その第二体にアスモデウスの力が注がれ、融合と解放が始まる。

 

『強制融合解放!彗星……電光……希望……死神、その破滅!そして終幕!』

 

青と紫が煌めく黒の悪魔。……クロス・アスモデウスと呼ぼう。クロスは、尻尾を構え、猛然とライダーたちを迎える。

しかしそれが届くより先に、ガラスを割って着地する音がいくつも。それは四つの属性でできた人形で、最後に降りたのは当然彼女だった。

 

「元気してたァ?」

 

「……日向ちゃん」

 

「お前、何しにきた」

 

「何って、お仲間逃がしにきたのよ。万全がいいでしょ?」

 

それだけ言って、舌を出してルシフェルを挑発。レギエルに若干の色目を送ったのち、水と炎のドールをぶつけ蒸気。

煙幕が晴れれば、そこに姿はなかった。

 

戦いは一旦の終わりを見せた。菜摘たちが口々にサタンを追う話や葵の話をするなか、モリガンは、ゆめ子は転がった『力』のキーを拾い上げた。

 

「別にお前を軽んじてるわけじゃねえだろうよ。ルシファー様は忙しいんだ」

 

ほぼ同時に、湖冬はキーの方を見ようとして、モリガンことゆめ子と目が合う。彼女はアイコンタクトで「大丈夫だ」と軽く伝えて、またキーに視線を向ける。

 

「ヘパイストス、お前も同じだとはな。わかるよ、私もあの頃がいちばん好きだった。……で、そうだな、これも同じだ。ああ、取り戻そうとは思わない。今も嫌いじゃないから」

 

ヘパイストスは死んだわけではない。金古少年としての記憶をなくしてはいるが、地獄に戻されただけだ。キーに話しかけるのも弔いというよりは自分の中での整理に近いのだろう。

弔いに当たるのは、続いて吐き出した言葉。

 

「なあ金古よ、アタシは、お前のこと仲間とか友達と思ってたし。……お前がいる時間、嫌いじゃなかったんだぜ」

 

ため息。少しだけ出た涙をモリガン……いや、ゆめ子は拭って、湖冬へと駆け寄るのだった。




次回、「に染めたいの」


描写的には「仮面ライダーアスモデウス」ですが、レギエル内の定義は明路が仮面ライダーと呼ぶか否かなのであくまで「クロス・アスモデウス」です。
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