最終話「紫の天使」
ゼイネルの放つ拳を防ぐと、クロスはそのまま迫るレギエルにも蹴り上げを叩き込み。三人相手にしても、クロスは三方位的確に対処する。
サタンことシカムは技巧的な戦いが上手いわけではないが、だが力を振るって暴れるのはかなりだ。クロスのしなりと攻撃範囲を振りかざし、三人を近寄せない。
「おら、行け!」
さらに、アスモデウスの憑依能力を応用した能力も持っているらしい。その辺のドールを雷の縄で縛りつけると、彼の指をはじく指示に従い駆け出す。
「埒が明かない……!!」
こうなると対処に精一杯だ。……だが、そこに救援が入る。
「オラオラなに遊んでんだよ!」『モリガン』
「真面目にやれ」『アモン』
「マ、かわい~~い妹の頼みだしネ」『ベルゼブブ』
「ちなみにルシファー様はレイフに寝かせてるから」『アスタロト』
『ジャッジメント』『マジシャン』『タワー』『スター』
シェイド達が、ドールを蹴散らし始めている。エーテルのドールは通常武装が効かないため自衛隊は救助や避難がメインであり、周辺の敵を彼らが請け負った形になる。
「オラァ!! はっはァ!!」
モリガンはいつも通り槍をぶん回し、赤いマントの体を翻らせて駆け抜けている。ドールを散らしながらブッ刺して、ぶん投げて。戦闘ではなく戦争の神。多数を散らすのは慣れたものなのだろう。
「おっほっほ、危ないナァ」
そして、多対一の制圧力ではシェイドベルゼブブも相当らしい。ドールを蹴って、蹴って、そのまままた蹴って。まるでピンポン玉か、スーパーボールか。
そんな様で跳ねまわる。さらに大ジャンプで空中からハエを飛ばし、これまた制圧。
「ウフフ、たまにはこういうのもいいわねぇ?」
そして、シェイドアスタロトのガスばらまき。火をつけるまでもなく、ドールたちが動きを鈍らせていく。魔力とエネルギーの塊のような存在だが、そもそも物質的な毒ではない。効果てきめんだ。
「はァ!!」
そして、アモンの役割はクロスから隙をもぎ取ること。向かわせるドールも一瞬で焼き尽くし、炎の目くらまし。後ろに回っていたヘイナが連続銃撃を浴びせかけ、同時にゼイネルの銃撃。
「うぜえぞ!」
しかし蹴りの反撃でしなる電撃が叩き込まれ、クロスの尻尾を使った追撃がさらにぶつかり、二人は防ぎつつも距離を離される。銃撃もドールが防ぎ、さらにレギエルのパンチもわかってるんだよとばかりにかわし肘をぶつける。
「追いついてないわ!ドール削んないと!」
「だがサンファロエは相当な量を作ったようだぞ。まだまだかかる!」
「でも今逃がしたらまた時間かかるわよ!」
「だろうな、サタンは今倒す!」
だが現実問題として、ドールが周辺にいる限り、あやつられて手駒が増え続ける。
「っぐ、」
そちらに気を取られると、縄の毒牙にかかってしまう。ゼイネルがヘイナに殴り掛かるのを取り押さえ、縄を撃って解放。
対処自体はどうにでもなるが、しかし戦闘中にやられれば致命的だ。
「でああああ!!」『ネフィリム』『ハーミット』
そこに、嬉しい猫の手。シェイドネフィリムが振り下ろした拳が地面を薙いで、一気にドールを狩りつくす。
「変身!」『Taoism……Human power without god's hand』『Fitting……OK. Five senses assist is ready』
そこに続き、娘と一緒に来たらしい。留一はタオイズムドライバーを装備し、メイルモードのタオへと変身した。驚く菜摘に、「作った」と端的に述べつつ、タオブラスターの銃撃をばらまいていく。
向かうドール、近づくドールすべてをネフィリムとタオが蹴散らしていく。それでも入る横槍をすべてアモンが焼き尽くす。
「だああ!」
さて、これで改めてクロスと直接対決だ。一対三の上クロスは戦法を一つ封じられた形になるが、それでもクロスが有利だ。翼で風を起こし、怯む三人に同時に鞭。
レギエルだけが飛びのいて、防ぐ二人を守るように拳を放つ。
「馬鹿の一つ覚えかよ!」
「そのまま返すよ!」
クロスが殴り掛かるレギエルの手をはたき落とすが、そのまま彼がしゃがんだ後ろから、跳びかかったヘイナの連続銃撃。怯まず尻尾を構える敵を前に、ヘイナは雷光の瞬間移動。
「雷の扱いはこっちが上なのよ!!」
そのまま放電し、一瞬だけふらついたクロスにゼイネルがシェンブラスターを押し付ける。ごりっという音の次の瞬間放たれる銃撃がクロスの姿勢を崩し、さらに背後からはタオの銃撃。振り返って怒る時間はない。そこに、ヘイナとゼイネルの蹴りが叩き込まれた。
「っはァ……クソ、磯羅明路はいい、人間の一生しか知らないヤツだからな。だが何故だヘイナ! なぜ人間なんかと一緒に戦ってんだ……!」
「ここに居る男に惚れたからよ!!」
「その程度でお前は俺たちの地獄での扱いを」
「あんた一生その話する気!? 言ったでしょ、あたしは今更人間界の支配とか興味ないし、そもそもそんな時代に産まれてないのよッ」
「あの時代に生きてないガキじゃたかが知れてるか……」
「ヘパイストスは結局僕たちと居た方がよかったみたいだったけどね」
「気の惑いだろ!」
「何人相手に気の惑いとささやき続ける気だ? アスモデウスですら、その惑い故にお前を」
「てめぇぇーーーーッごときがァ!! アスモデウスを語るなカスの人間ごときがァ!!」
鞭を叩きつけて大ジャンプ、空中に舞うクロスが、全身にエネルギーをまとって突進! レギエルを狙っているようで、かわしてもまた方向を変えて第二波。……まあ、来ると分っているものへの対処など容易い。
『第二体抑制解放・Strike!愚者強制。Ready!?』
「知ってんだよ!」
『第二体強化解放!死神強制!』
まあ、そちらも織り込み済みらしい。レギエルの拳と、姿勢を変えたクロスの蹴りがぶつかり、双方地面を転がる。少し早く立ちあがったクロスにゼイネルが重い銃撃を叩き込み。
怯みつつもそのままバックステップ、ヘイナの銃撃は今度はかわし、構え。
「いくらでもわめいていろ。俺たちはお前の言葉に耳を貸すつもりはない」
「高尚ぶりやがって」
「仮面ライダーだからな」
『そ、仮面ライダーヘイナ、ヒーローなのよ!』
「いくらでもわめいていろ人間ン!!」
怒り任せに鞭を地面に叩きこんで衝撃を這わせる。回避しつつ、シングルモードだった二人が融合。二人のコンビネーションが、トリッキーな動きとして現れる。
「そこかァ!」
「居ないわよ」
尻尾を叩きつけたそこには、もう風だけが残っていた。電光と共に放った蹴りが叩き込まれ、しかしクロスも即座に鞭による反撃。レギエルとヘイナの二人がかりと考えても、拮抗している。
「そこ!!」
「余計な邪魔すんなァ!!」
「邪魔するのが私の仕事だからね」
「同じくだ」
だったらもう、無理やり茶々を入れて打開するのが最善策となってくる。アモンの火炎攻撃とタオの銃撃で怯み、そこにレギエルのヘッドバットが叩き込まれた。
「っづあ!!」
『第二体抑制解放・Strike!愚者強制。Ready!?』
手に持ったナックルを両手でつかみ、思いっきり頭に向けて振り下ろす。ぐわっとその姿勢が傾くクロスに、さらにヘイナが迫り。
『Confirmed and Authorized. As you know, it's HISSATSU』
『Ready!HEIGHNA’s lightning bursts now!』
「『ライダーキック!!』」
飛び上がり、雷光を集め。放った足が雷の蹴りとしてえぐりこまれた。
『Confirmed and Authorized. As you know, it's HISSATSU』
「ライダーショット!」
そしてタオの銃撃とヘイナによるダメ押しの蹴り。エネルギーが放たれ、閃光が爆発のように。
第二体を破壊するには至らなかったが、姿の維持はできず人間のそれに戻ってしまう。
「ああ、クソ、クソが!!」
ずるずる起き上がるサタンが手を伸ばすが、その先のキーをヘイナが拾い上げる。そして手錠をかけようと迫る仮面ライダーを前に、サタンは周囲を伺って。
「クソ、拳銃は貸したままだったな……」
彼が取り出したのはコンバットナイフ。
ヘイナが反応するより先に、サタンは、シカムは自身ののど元を引き裂いた。にやりと笑いながら、口から、のどから、鮮血がどぼどぼ。
「ごぼ、がぼ、あ゛ー……痛ってェ……」
「何、を……」
「自殺? 追い込まれて、じゃないわよね」
「アモン、第二体残して死んだらどこ行くの?」
「当然地獄だ。……シカムの場合、準備があるかもしれない」
「俺たちの掃討を諦めて……地獄に逃げたということか」
明路の発言を聞き、レギエルが青ざめる。同時に明路らも察したようで、「止めねば」と作戦を練り始める。時間はないかもしれない。
「わけぎちゃんって事? でも、拠点には護衛がついてるって地島は言ってたじゃない」
「移住するという計画なら、サタンはかなりの人数の仲間を抱え込んでたはずです!」
「そか、ベリアルだのマルコシアスだのがマジに守ってくれるかはわかんないってわけね……」
と、そんなころ、ドールたちも概ね狩りつくされた。戦いを終えたシェイド達が駆け寄るそこに、駆動音。
「ごめん菜摘君! 遅くなった!」
「湖冬!? 怪我は……」
「こいつに治させた!」
バイク、ゲビナビノを駆ってアキエルが到着する。彼女が指さすのは後ろに浮いたガブリエルだ。ガブリエルはかぶりを振って、
「軽減させているまでです。"変身"はまだしも戦えばすぐ倒れますよ」
「いいよ、戦いに来たわけじゃないし」
アキエルが降りて、すこしシェイドの面々や明路に話すと、また乗り込み。レギエルも準備をして、彼女が促すままに後部座席に座った。ゲビナビノは『戦車』のバイク。二人乗り前提だ。
「アモン、頼めるよね?」
「構いませんが、送り届けるのも私の方がいいのでは?」
「ちょっとぐらいデートさせてよ、ね?」
「仰せのままに」
少しの礼を告げると、アキエルは交差点を走り出した。
避難が済んで、人気のないエリアを駆け抜ける。東京というロケーションで、こんなに二人だけという事があるか? すこし、爽やかな気もした。それどころではないが、それでも。
「ねえ菜摘君!」
風に阻まれて大きな声が必要だ。
「んー?」
「バイクでさ、二人乗りって初めてじゃん!」
「確かに!」
車で移動する音が多い二人だ。こうして風を受けるのも悪くないなと、そう感じられる。
複雑なもやもや、怒り、焦り、そういう物が、湖冬の……"仮面ライダーアキエル"の背中を見ると「やるぞ」という決意に変わる気がした。
湖冬が二人で乗ると言い出したのも、これを狙ってかもしれないし、そうでもないかもしれない。
「湖冬ー!」
「なにー!」
「愛してるよ!」
「運転中にそういうのやめてー!」
この背中に守られたし、これからも守られるだろうし、僕も守らなきゃ。照れる婚約者を見て、彼は微笑んだ。これが終わったら、ちゃんと結婚しないと。
……決意の中で、停止。目的地に着いたようである。
「ここにある装置が、アモンが使ってたやつ。装備そっち置いて」
ベッドを改造したような、少し乱雑な印象の装置だ。彼女が促すままに変身を解いて、横になる。
ヘルメットのようなものをつけたり、何かを張ったり。せわしない印象だ。
「どういう装置なの?」
「簡単に言えば、第二体を地獄に送る装置。眠らせながら形而上で仮死してるっぽい状態に見せかけて魂を騙すって感じ。君の座標を受け取って、70cmの立方体に収まるものなら送れる。準備いい?」
「うん、いつでも」
「痛くはないけど怖いからすぐに飛んでね」
湖冬が隣に座り、装置を動かし始めた。
一瞬、黒い視界に落ちて、
ぶわ、と
そう言うべきか、よくわからない衝撃と共に、風。
目を開けば、まさに自由落下の最中だった。驚きつつも湖冬の「すぐに飛んでね」を理解。翼を広げ、ゆっくり着地した。
彼の姿は今菜摘だが、肉体は第二体。
「ここ、は……」
そこに、足音。
「ルシファー、サタンの直接統治区域だ。すぐ先に議事堂がある」
「アモン……」
少し荒れた白髪で、灯田レイジでなければそういう人間態らしい。いま第二体である彼には、それがアモンだとすぐわかる。
アモンは、その手に持った、鎖のようなものを手渡す。
見れば、ボールチェーンにアルカナキーをまとめたものだった。
「私の分含めすべてある」
「……湖冬にありがとうって、言っといて」
「ああ」
どうやら湖冬に頼まれたのは、予備の装置を使ってこちらに来ることらしい。菜摘に目くばせをすると、自分にはやることがあるとそこをあとに。特に止めもせずそれを見送ると、彼はひとまず議事堂に向かいながらあたりを見た。
とりあえず、過ごす者たちは不自由なさそうだ。人間のような姿だったり、そうでもなかったり。だいぶ奇妙でハイテクな建物が並ぶが、思ったほど『地獄』という絵面ではない。
「さて……と」
サタンとの戦いが待っているはずだ。彼は、いま念じればレギエルの姿にはいくらでもなれるはずだ。第二体だけであるから。だが、何の意味がなくとも、彼は「ヒーロー」に、明路の認める「仮面ライダー」でいるため、その儀式を要する。
『受胎告知』
「変身!」
『解放』
真っ白な翼が、広がる。
『降臨……置換……変化……聖なる、開幕』
光と共に、緑の天使、仮面ライダーレギエルが姿を現した。湖冬の言った通り、留一に託された強化アイテムたる、フォールンブレイバーもその手にある。
『フール』『愚者の翼、堕ちたるアザゼル!』
『Why don't you dance?Let's get started!Why don't you dance?Let's get started!』
『Open!介入 by Fallen!開錠 by Start!解放 with Brave!愚者 a.k.a.Fool!その、無謀。そして光と闇!』
留一の趣味が詰まった、ロックな変身音。白と金の天使……仮面ライダーレギエル愚者解放堕天。決意を固め、駆け出そうとした、
そんな時。ざざ、っと、スピーカーの音声が鳴る。
『当代サタンです。皆様にお知らせがあります』
「サタン……!!」
『現在、南西施設にて養育中の当代ルシファーの娘である乳児が、侵入者である天使に狙われています。所属、動機は現在調査中です』
「はぁ!?」
住民が戸惑い始める。どこだ、南西はどこだ。菜摘は探し当てた表示案内板、南西に、政府の研究所を見つけた。続くサタンの言葉は、想像し得る限り最悪のもの。
『住民の皆様におかれましては、早急な保護と在住資格のない天使の拘束にご協力お願い致します。確保された場合は、政府窓口にご連絡を』
動く、人の波がレギエルの方を追い始める。さらには、先んじて南西の研究所に行こうとする動きもある。サタンのあとさきを何もかも放り投げた人質作戦が始まった。
「貴様か!」
「だったらなんだよ!」
フォールンブレイバーで殴りつけ、アザゼルによる拳の強化を叩き込み。しかしそれだけでは間に合わない。彼はキーに手を伸ばす。
『アモン』『魔術師』『連続解放!Come on!その、起源』
火炎をまとった拳で、前に立ちはだかる悪魔たち神々らに火を放つ。肉体を破壊するには至らないが、それでも十分だ。まあ、気遣ってやる必要もない。肉体を壊されても魂だけになるし、記憶を失うことだってない!
「でああああ!!」
炎を放つ、放つ! 湖冬を奪った炎だが、湖冬に地獄を救わせた炎でもある。怒り任せに左腕を振るい、その力がアモンのものだとわかる古株の悪魔はいぶかしげに距離を取ったりもしている。だが、もう見切ったとばかりに次々悪魔が襲い来る。同じ武器は使えない。
『ヘイナ』『女教皇』『連続解放!Come on!その、霹靂』
「春子さん、力借ります!」
角から全方向に雷撃! 怯んだ目前の悪魔に頭突きで直接ぶち込み、近づく悪魔にフォールンブレイバーで雷の拳。跳びかかって迫る敵には落雷と共にアッパーを叩きつける。
『アラハバキ』『女帝』『連続解放!Come on!その、包容』
「そこ!」
普段蹴りは使わない彼だが、戦い方を変えねば読まれるのは目に見えている。蹴り上げ、蹴り降ろし。かかと落としに続けてフェイントのパンチ。感情任せでも、湖冬流に合理の戦いをしている。
『アマテラス』『皇帝』『連続解放!Come on!その、支配』
闇と共に頭部がアマテラスの力を持ったものに変わる。ゴーグルの付いた頭部は、熱と閃光を額から放つ。さらに周辺に出現させた鏡が熱を跳ね返し、ハチャメチャにレーザーを散らす。
今の状況なら、ちょうどいい。
「食らえ天使!」
「割れた……!」
だが相手も弱くない。切り抜けてきた敵を前に、アマテラスの力は効かないようだった。
『ペイドヴァラ』『教皇』『連続解放!Come on!その、束縛』
「それなら!!」
尻尾の先から糸をばらまき拘束。他の神格には劣るが、隙を突いた一撃にはてきめんだ。
「どけよ!」
「いいや行かせはせんぞ!」
『ゼイネル』『恋人』『連続解放!Come on!その、誘惑』
盾を構える敵の蹴りを拳で押し返し、左腕の弓矢を発射。盾で防がれるが、拳でひるませ至近距離の矢。それにはひるんで体勢を崩し、もう一発で盾を取り落した。
そいつ一人だけが前にいた、たまたまだが押し切るのがいちばんいい。
『スレイプニル』『戦車』『連続解放!Come on!その、征服』
「どいてもらうよ今度こそ!!」
ゲビナビノで跳ね飛ばし、駆け抜ける! 迫る悪魔たちを蹴散らすその横で、バイクに乗った悪魔を発見。キーを抜いてゲビナビノが消えるが、蹴っ飛ばし乗っとったバイクにキーを突き立てれば今度はそいつがゲビナビノに変わる。
翼を広げ、空を並走する、黒い影。睨んだその悪魔は、巨大な爪と角と尻尾で、尻尾は、尖って、尖って。
「サタンッ!!」
「レギエルゥ!」
向顔。
『ラミレシア』『正義』『連続解放!Come on!その、均衡』
アザゼルも右腕が解放部位。ラミレシアで右腕が被ったが、それも想定済みらしい。空中にエネルギーの塊の右腕が現れ。空中で大剣を振るう。食らいつつも、サタン、減速しない。
『ネフィリム』『隠者』『連続解放!Come on!その、謀略』
「だああああ!!」
巨大な装甲に埋まるレギエルが、サタンに強烈な拳を放つ。
「っづぇ!!」
流石に効いて、サタンも怒りに目をぎらつかせる。とはいえネフィリムは長時間使えない。すぐさま解除し、レギエルはサタンを横目にまた……と、言うところで、サタンが尻尾の先に雷撃を溜め、闇を集めたドス黒いエネルギー放射。ゲビナビノがぶっ飛ばされ、レギエルは次のキーを出した。
『ケツァド』『運命の輪』『連続解放!Come on!その、転換』
「逃げてんじゃねえよカスが!」
「お前から逃げてるんじゃない、わけぎに向かってるんだよ!」
サタンはそれを許さない。口からかるく炎を放ち、レギエルだけはかわしつつもケツァド・イブク大破。すぐさま次の手を構える。
『ヘパイストス』『力』『連続解放!Come on!その、理性』
「だあッ!」
「効くかよ!」
多数の神々の力を奪ったにせよ借りてるにせよ、その辺の悪魔にはレギエルが警戒、恐怖の対象になるのは確かだ。前をふさぐ悪魔どもは、かなり減っていた。問題にすべきはサタンだ。
浮いた二本目の右腕が投げた斧は叩き落され。放つ拳もサタンは食らうがすぐ体勢を直し。
『アスモデウス』『死神』『連続解放!Come on!その、破滅』
「その力をォォォ!!!」
「それに文句を言う資格があるのか! 僕らの仲間を、人間を利用しておいてッ!」
「ガキが偉そうに!」
レギエルは左脚で向かってきた悪魔を蹴っ飛ばし、あやつってサタンに向かわせる。アスモデウスの乗っ取り、操りの力。それを見て、サタンの怒りはさらに爆発する。
「返してもらうぜ!!」
レギエルを倒すことなんて放っておいて、キーの奪取に突撃。それなら囮を与えた方が早い。
『サンファロエ』『節制』『連続解放!Come on!その、献身』
「行け!」
エーテルのドールを向かわせ、さらに殴りかかった。しかし防ぐサタンを囲い込んで追い込むが、身を捻って放った全方位への尻尾攻撃がドールたちを掻き消しレギエルを吹っ飛ばす。
「行かせるかよレギエル!」
「わけぎで何をする気だ!」
「俺の力にするのさ!」
そんなことがあって追及されないわけがない。サタンはもはや自分の保身をかなぐり捨てて目標を掴む気だ。
怒りで視界がぶっ飛ぶ勢いのまま、殴りかかったレギエルに反撃が入り、転がりつつキーを起動。
『サタン』『悪魔』『連続解放!Come on!その、憎悪』
「だァッ!!」
「クソが……!」
腰の翼で空を飛び、同じく空に浮かんだサタンとしばらく並行移動。尻尾を先に放ったサタンとぶつけ合いになり、流石に力の扱いの面でレギエルが押される。
だが地面を転がっても、レギエルは立ち続ける。
『ベルゼブブ』『塔』『連続解放!Come on!その、崩壊』
「人間はなんだってこんな価値観が狭いかね、また作れるんじゃねーのかァ!? 無秩序に増えやがって……たかが娘一人だろ!」
「たった一人の娘なんだよ!!」
左脚で跳躍を続け、追跡。
尻尾からのエネルギー放射に撃墜されるが諦めずに飛び続ける。
『アスタロト』『星』『連続解放!Come on!その、再起』
ガスをばら撒きながら竜の翼で飛び続けるが、しかしかわされる。近づいている、建物がすぐそこだ。
「っは、お前より、先に……いや、違う!この霧!」
『コッフオル』『月』『連続解放!Come on!その、幻惑』
「食らえッ!!」
『レッシオル』『太陽』『連続解放!Come on!その、祝福』
覆う霧の中、熱波が塊として叩きつけられ、サタン、吹き飛ぶ!
しかし着地とともに赤黒い雷撃を無差別にばら撒き、喰らったレギエルを発見。闇を纏い、翼を広げて突進である。
『モリガン』『審判』『連続解放!Come on!その、結論』
「っぐあああ!!」
モリガンのマントで身を守るが、その身もろともぶっ飛ばされ施設の壁を砕いて叩き込まれる。
「っく、」
「何寝てんだよ!」
「っぐぅっ!」
巨大な爪での攻撃も塞ぎきれず、光のマントが砕け。モリガンの力を失い、さらに足元に転がったレギエルのナックル、フォールンレジスターをサタンが拾い上げる。
「おもちゃを使った遊びもおしまいだな?」
そう言うと、サタンはアザゼルのキーを引っこ抜いた。緑の姿に戻る、仮面ライダーレギエル。
サタンは続けて死神のキーを出し、さらにレギエルから悪魔のキーを奪う。
『サタン』『アスモデウス』
『デビル』『デス』
「これでおーわりっ」
キーを壁に突き立てると、勝ち誇った様子でレギエルに迫る。
「何を、したんだ」
「見てみな」
彼が照明をつけると、研究室の全貌があらわになる。
どこか科学的でも呪術的でもあるその部屋の奥、鎖に繋がれたゆりかごで、小さな、小さな影がぴったりと止まっていた。
まるで、時間が止まったかのように。
「あ、あああ、あああああああ…………」
「俺はね、この空間、時間をいじられまくったエネルギーの塊であるこの空間を取り込むことにしたわけ。あんたの娘ごとね!」
「あ、あ……」
「いいね、いい絶望感。いい気味だよマジで。……どうせならもっと吠え面かかせてやるよ。俺を倒せば、この空間が指定した座標が消えて、この術はなかったことになる」
「……!」
「でも勝てねェんだよなァ~~~~?」
立ち上がったレギエルを蹴り上げて転がし、起き上がって殴り掛かる彼に引っ掻き攻撃。火花を散らすレギエルに尻尾を叩きつけ、ケタケタ笑ってサタンは見下ろす。
「お前には勝てないよレギエル! 人間が思い上がった時点で負けが決まってたと思いなよ。ッハ、まあ、俺を倒せばどうにかなる今……俺を倒せなかったお前は「仕方ない」じゃない、「ボクのせい」でしかないわけだが! ギャッハハハハ!!」
スカッとしたぜと、そんな視線で、まるで弔いでも送る様にアスモデウスのキーを見て。向かってくるレギエルをさらに蹴りつけ、その腰に装備したチェーンを奪い取る。アルカナキーが連なるそれを見て、クスクス。
「残念だったなァ? これもないし、そもそもあの、なんだっけ? アザゼルが作ったやつが使えないならお前めちゃくちゃ弱いしね」
「……」
「なに黙ってんの? 絶望で声出ませんかァ? くはは、いい気味…………あ? あれ?」
いち、に、さん、し、ご、ろく。
かける、さん。あとは自分の持っている二つと、あとアザゼル。サタンは、じろりとレギエルを見た。
「足らねえなァ、一個。タロットは22だ。0から、21の。隠してる? ま、今更何しても、無駄だろ。おまえ」
「だから負けるんだよ、お前は今から……!」
「そんな啖呵切る余裕あんのな」
「油断。非合理で、非効率。だからお前はダメなんだよ。人間全般を舐めてるから、苦汁を飲まされるんだ」
「言ってみろよまだ策があるならさァ?」
サタンが睨みつけるその前で、立ち上がったレギエル。建物はだんだんと消えつつある。時間はない。
それでも、レギエルはまっすぐ立って、そのキーを突き出した。
それは、当人の意向で、サタンの技術によりつくられた力の欠片。
22番目、『世界』のキーはいわゆる特例であり、
またルシフェルの頭部を解放する、キー。
『ルシファー』
「……ちっ、そいつね、はいはい」
今一度、レギエルは菜摘の姿に戻る。そして、真っ白な翼を広げ、ルシファーの、……
天使の力と共鳴し、悪魔の力を引き出す、だから、堕天使でなくてはならない。
『ワールド』『世界の翼、堕ちたるアキエル!』
『Why don't you dance?Let's get started!Why don't you dance?Let's get started!』
……ルシファー以上に有名な堕天使なんて、居ないじゃないか!
「クソが、そーいうおもちゃかよ!」
『Why don't you dance?Let's get started!Why don't you dance?Let's get started!』
「……借りるよ、湖冬。……変身!!」
腕を右側に構え、大きく回し左へ。ぱちんと指を鳴らし世界のキーを引っこ抜く。
『Open!介入 by Fallen!開錠 by Start!解放 with Brave!世界 a.k.a.World!その、終焉。そして光と闇!』
放たれた光が白い翼と共にまばゆくまたたいて、現れる。頭は赤黒く、角の伸びた形状。
白の体に、紫の鎧が走る、戦士。世界解放堕天……仮面ライダーレギエルがその姿を現した。
「はっ、それで何が変わるってんだよ!」
もうお前との問答は飽きたよ。そういうかのようにレギエルは向かうサタンを前に立ちふさがり。まずは、世界のキーを収納したナックル、フォールンレジスターでパンチを叩きつけ。
「っぐあ、」
ナメていた分効いているらしい。後ずさりするサタンに、後頭部から出現させた剣ルシフェルスラッシュで斬りつけて追撃。爪を放つそこに拳を叩きつけ。腕をはじき上げ。
「っはァ!!」
「がはァ!!」
がら空きの胴に袈裟斬り。その手のチェーンから奪い返したキーを、ルシフェルスラッシュにセットする。
『節制!サンファロエ!』
「でやぁぁぁあああ!!!!」
四つの元素をまとう乱斬撃!さらにエーテル、光をまとった、闇を引き裂くエネルギーそのものがサタンの翼を斬り飛ばした。
「レギエル……ッ!!」
「お前は天使に負けたんじゃないんだ。人間に負けた! 苗床にしようとした人間の怒りが! お前を倒すんだ!」
「もう勝ったつもりかカスがァ!!」
「悪いけど油断はしないよ!」
その爪をさらに滅多切りにし、ボロボロに。二つ目、キーを奪い返し、それをまたルシフェルスラッシュに差し替える。
『恋人!ゼイネル!』
「……あの時は、我を忘れてごめん、ゼイネル」
菜摘の愛する人、湖冬の、アキエルの幻影が浮かび。頭部を世界のキーで解放した、言うなれば頭だけルシフェルのような状態である。……レギエルと同じようにその手の剣を構えた。
「まあ、これは、帰って、ちゃんと帰って言わなきゃ、だよな!」
「ひとりで納得してんじゃねえぞ独善がァ!」
「もうお前の話を聞くなんてないよ!」
飛びかかり、迎撃するサタンを思いっきり斬りつけて。二つの斬撃が、諸悪の根源を、災厄の武器を、サタンの尻尾を斬り飛ばした!
「許さねェぞレギエルゥゥ!」
「好きにしなよ、恨みたければ一生恨めばいいし、それが誰かに届くことなんてないよ」
レギエルは、すこしだけ、何かに思いをはせる。そして、第二体解放装置に手をかざした。
「怒りだけの生き方なんて、苦しいだけだからね」
『第二体抑制解放・Strike!世界強制。Ready!?』
駆け出し、サタンのがむしゃらなひっかきをかわし、背後に跳ぶ。
視界の外から、効率的で、合理的で、理にかなった、急襲。飛び上がって、その足を伸ばす。……ヒーローとして、そんな思いより先に湖冬が浮かぶ。
それでいい。菜摘は、「湖冬の住む世界が、善い物であってほしい」のだから。湖冬のために、ヒーロー、仮面ライダーでありたいッ!
「……ライダーキック!!」
「っく、ぁ」
サタンの胸部へ叩きつけられ、そして、数秒。変身に割いたリソースすべてを注ぎ、サタンの前に菜摘が着地。一瞬して、膝をつき。
「ぐああああああああァァァァァッ!!!」
衝撃、熱波、閃光。そう、ヒーローのお約束、爆発である。
「……わけぎ!」
肉体を失い、魂だけになり。エーテルに満ちた空間でかろうじて人の姿を保って、倒れるサタン。どうにか取れた姿は、マシロとしてのそれだ。
だが菜摘はもう倒したクズになんて興味はない。駆け寄ったゆりかごで、そっと我が子を覗き込んだ。
「……あ、ああ、あはは……はは、あ、ぼく、僕……パパか、そっか、そっか…………」
上ずった声で我が子にそっと手を伸ばす。この空間にさらされ続け、なんとなく、理解できていた。このゆりかごの力、空間。
もう生まれたてより少しだけ、ほんの少しだけ育った姿になっていた。抱き上げ、上がる泣き声。
「ああ、あはは、元気だね、……僕だよ、パパだよわけぎ……」
「……くそ、何が悲しくて、そんなもん見せられなきゃなんねえんだ」
「……」
「なんか言えよ」
「君と話す気はないから」
「……そうかよ」
サタンは指一つ動かすことも、出来なさそうだ。同時に入ってきたアモンが、菜摘に耳打ち。
「次の飛行機の爆破、阻止したってさ」
「あっ、そ。」
サタンは、しばし沈黙し、そして続ける。
「……空虚だな、人間ってのは。子孫を残すための、情愛……雨野菜摘、お前はそれのために、世界をこのままにしたんだ。より多くの神々が、幸せになり得る機会を……」
「雨野菜摘、かっこよく反論してやれ」
「そう言うこと言うキャラだっけアモン。……ま、サタン……キミこそ空虚だろ。高尚な目的に振り回されて、結局その情欲を求めてたヒトを泣かせたんだからね」
「テメェにアスモデウスの何がわかる!!」
「少なくとも君よりは性欲あるからな僕は」
「あァ!? 俺なんかなァ!!」
「汚い肉の重りの話してるんだけどそれでも口答えする?」
「……。」
「いいかサタン、僕ら―――まり人間――で、愛―――子孫が―」
「雨野菜摘。……わけぎちゃんの泣き声で全く聞こえないが」
「……ま、こういう事。生きたいから泣くし、増えたいから生きるの」
その腕に抱いた娘をゆすってあやし、笑顔の菜摘を、サタンが一瞥し。ようやく動かせた体に、彼は「うつむく」という指令を与えた。
「ごめん、アスモデウス……おれ、ワガママな男で…………」
「……行くぞ、雨野菜摘」
「せめてレギエルって呼ばない?」
部屋を出るふたり。少し気にして研究所を一瞥する菜摘に、アモンは、顔を向けず語る。
「サタンという座標失った以上、収縮の位置が"無"になる。奴は魂もろとも消える」
「……消える」
「無に収束するからな。別次元に吹っ飛ぶかもしれないが……少なくとも私たちの前には姿を現わせないだろう」
「そっか」
菜摘は、少しだけ気にした様子だ。……だが、腕の中で泣く赤子がいればその注目はおのずとそこに戻る。
「あはは、元気だなー、んー? よしよし」
「議事堂の奥に研究室と同じ装置がある。肉体が用意できるまで、そこに待たせる形になる」
「分かった」
議事堂の中へ入っていき、そっと、部屋の奥のゆりかごに娘を寝かせて。時が止まって、ピタリと静かになる感覚は菜摘には、父親には少し不安になるもの。
アモンの「大丈夫だ」に頷いて、議事堂の中央、吹き抜けた空間に二人は出た。
「肉体は近いうちに用意できる」
「うん、よかった」
「……雨野菜摘」
「だからレギエルって、」
「私と戦え」
「……なんで」
色々なものを押し殺した顔で、アモンは菜摘を見る。
「お前はルシファー様に相応しくない。」
「……」
「無視をする気か? だがな」
「あのさ! ……あのさ、あんま言いたくないけど」
菜摘、吸った息を全て吐く勢いのため息。
「君、ものすごくダサい」
「……。」
「一回ぐらい言ってみなよ。あなたの婚約者のこと好きになっちゃったから無理矢理奪わせてくださいお願いしますってさ」
「それ、は」
「何か違うなら言ってよ」
「……御託はいい、私と」
「戦うわけないでしょ」
冷たく言い放つ湖冬と違い、菜摘は露骨に眉間に皺を寄せ不快を表明する。
「君になんて構ってやらないし、負けて割り切りも、勝って希望を見せもしない。好きなだけ横恋慕しなよ」
「……」
「君は僕から湖冬を奪って、湖冬から僕を奪ったんだぞ? その事実は揺るがないし絶対になあなあにもしない……! だからずっとそうしてなよ、僕にも湖冬にもうっすら嫌われたままね。これが僕の復讐。これで終わり」
「……そう、か。」
「……、最初はビノリエルの指示ってのは知ってるから、これでも軽くはしてるんだよ、僕の中で」
「分かっている」
アモンはそっと踵を返し、また視線を菜摘に向けて。
「そこを突きあたって、左の受話器に行け。あとはルシファー様の指示に従えばいい」
「うん」
去っていく菜摘を背中で見送ると、アモンも歩き出しつつため息をついた。
「悪いが
少し、笑って。
「諦めがつきそうだ。本当に信頼していて……愛し合っているんだな、お前たちは」
寂しげに笑いながら、彼も第一層、人間界に戻るべく歩みだした。
「ってことから三年半あったわけデショ?」
「そうねえ」
「我が愛すべき妹チャンは結局アモンと近づけたの?」
「んい~~~~! 黙ってちょうだい!」
アスタロトがソファに座り、その横で窓際に腰掛けてベルゼブブが脚をぷらぷら。相変わらずの様子である。
「でもなんか、アモン、笑うようになったわよね」
「いろいろ憑き物落ちたんじゃナイ~?」
「そうね」
「さすがよく見てるゥ」
「次茶化したら兄とはいえ毒殺するわよ」
「オッホ~~! こわ」
いつも通り、本気だか何だか、という態度。そんな兄に呆れながらもアスタロトは微笑んで。「まあ、頑張るわよ」と少し目をきらめかせて去るのであった。
と、言うところで入口にいたアモンともちゃり、揃って不器用そうに入れ替わる。
「青春だネ~」
「何の話だ?」
「ご想像にオマカセですよん」
「そうか。……これ、お前宛だ」
「ほい? ぼくに?」
ソファに寝っ転がり首を傾げるベルゼブブに、一通の手紙。地獄の文字で「ビノリエルより」と書かれており、いつになく真に迫った顔で跳び起きる。
そして、食い入って、真剣に眺め。十数分は読み込んで、だんだんと彼の顔がほころぶのを、アモンは最後まで眺めていた。
「どうだ」
「……ま、いろいろ。元気そうだよ、ビノリエルはね……アハハ、」
ハハ、と笑って寝転がり、目の上にパタッと手紙を乗せてため息。笑いながら、その、目の上に軽く置いたはずの手紙がゆっくり濡れている。
「悪いお人だなあ、ビノちゃんは……」
「地獄の面々はどう?」
アザゼルこと留一ことアザゼル。彼と天使の仲はなかなかマシになってきたようだ。同時に、仕事が立て込んで余裕がないのか、ガブリエルも露骨に疲れた顔でため息。
「マジで面倒ですが、裁判をしたり逮捕したりと、動いてきています。サタンに与していた者たちにも事情のあるものが多いので、無罪放免とは行きませんがかなり温情のある判断をしているようです」
「ちゃんコフはどう? 為政者として」
「かなり優秀なんですが、彼女圧が強くて苦手です」
「君には絶対に言われたくないと思う」
「ちなみに次期サタンは結局決まらず、前政権派としてベルゼブブの意見を聞くことが多いため彼が実質そうなっているようですが」
「あそう。権力の椅子あげていいタイプなの?彼」
「あまりそう見えないので検討中です」
「ふーん? ちゃんコフからはあえて聞かないことが多いしさー」
そんな雑談の中で、留一はしきりに時計を気にしている。少し笑って、用事があるならそれの準備をしなさいとガブリエルが告げた。
「……君、笑ってた方がプロモーション的にイイと思うんだけど」
「検討しておきましょう」
手を振って去るのも、少し彼女らしくない変化だ。
さて、一息つこうと言うところに、声がかかる。パパと呼ぶ声、トメ子だ。
「エッもう来ちゃった?」
「あたぼーよ!」
サムズアップの彼女はなかなかやんちゃな感じである。
「あはは……
ちなみに、留一は今レイフではなく公園にいる。いつもの白衣とゴーグルもなく、ジャケットを着てオシャレに決めた上で噴水そばに座っているのだ。
「あのね、私これでも受験勉強中のJCなんですよ」
「キャッチボールはしないか」
「いや好きだからしてもいいんだけど。でももう
「オッ!?」
「だはは、声やば!……おばさーん!こっち!」
カチカチに固まる留一をよそに、おばさんと呼ばれた女性がトコトコと歩いてくる。おしゃれにストールを巻いた、黒髪の女性だった。
「広島アユムです。姪が世話になっております……!」
「育てのママでーす」
「アッはじめまして!あー、浅井留一です。事情は分かりづらいと思うんですが、形而上の父です」
「前世のパパでーす」
「ふふ、聴いておりますよ。最初はビックリしましたけど」
「まあなにせ前世ですからねえ」
にこやかな女性だ。お互いちょっと照れた様子で挨拶するのを眺めると、トメ子は満足げに頷いて。
彼女はふたりの腕を掴むと、非常に強引に、歩き出す。
「……もう」
「ははは……」
ふたりが、「相変わらずなんだから」「いつも強引なんだもの」と、そんな視線で“娘”をみて、同じタイミング故に視線があって。
なんだか面白くって、くすくすと笑って。
「……ヘネママは、これを望んでたはずだもん」
誰にも聞こえない声で、トメルはつぶやく。
色々なものが混じった涙とともに、ひとり微笑んだ。
がしゃり、がしゃり、金具がこすれる音が、独房から響く。
拘束具を軽く縛り付けられた更科桃色がうつむいている。あいも変わらずの自殺未遂だ。……そんな時、小さな声が聞こえたして、彼女は耳を澄ませる。
「……?」
ぼそぼそ、噂話だろうか。しかし、彼女は地獄耳。その遠くで、「沢黒マシロの遺体が冷凍保存されている」という旨が、聞こえた気がした。
「……!! ーーー!!!」
がちゃガチャ音を立てて、暴れる。舌を噛まないようにと軽く口もふさがれ声が出ないが、それでも心の奥で絶叫しているのは、想像に難くないだろう。
彼女の目の奥で、何か、少し決意じみた執念が燃えた。
「うるさいな、あいつ……」
「いつもの事でしょう」
翼と八千代の黒田夫妻が、食堂でぼやく。独房はあまり遠くないのもあるが、ずっと暴れているので聞こえてしまうのだ。まあ、日常の雑談の種になるあたり彼らも慣れたようだが。
「丸山周矢、出所まで短かったですね」
「まあ彼、シェイド周りの法のごたつきを置いとけば、情状酌量もある道交法違反だろう? 当然と言えば当然じゃないか?」
「そうですね。我々は……あと何年ですかね?」
「ま、模範囚らしく行こうじゃないか。ここの生活もなかなか悪くないしね」
「ええ」
思ったより普通に美味しい食事を楽しみつつ、周りの収監者たちに少しだけ視線が向く。
「結局
「さあね……いやばらまいておいて無責任だとは思うが」
「混乱が目的でしたから致し方ないでしょう」
「それもそう。でも、アキエルがだいたい倒したっぽいし、そもそもアルカナキーがらみの事件が起きてからはほぼほぼ出てこなかったじゃないか」
「
「サタンの人間苗床大作戦中は出てこれない……か」
「プリンシパリティの一件もありますし、油断はできませんね。今度の雨野菜摘との面会で言いますか?」
「彼と話すの楽しいから時間潰したくないんだけどねー」
「ですが放置も無責任でしょう。聴く限り、サタン絡みの事後処理も三年かけて落ち着いたようですし。話すなら今でしょうね」
その八千代の発言に、頷きつつも翼はくつくつと笑った。
「どうかしましたか?」
「いや今更味方面するの、ゲームとかの信用ならないやつっぽくてちょっと面白くてさ」
「ぽいも何もほぼそのものですよ我々」
翼は確かにそうだと笑って。どこでもそれなりに楽しめるのは、彼ら北欧の神の享楽精神というべきだろうか。
時を同じくして、レイフ。緑髪の青年、ゼイネルがぺこりと頭を下げた。
「お久しぶりです、磯羅さん」
「ああ、元気……だったか?」
「ええ、まあ」
影を背負った表情ではあるが、それでもゼイネルは微笑んでいた。
「手を出せたのは捜査までで、俺は……君たちの顛末を聞けていなかったのだが」
「まず第一体を、雨野、にはなってないか。地島さん? ルシファーでいっか。ルシファーさまにもらって。で、こっちの法は……事情が事情なので、執行猶予付きの判決で。……いろいろ気を遣って、戸籍は、えっと」
「あー、戸籍周りは少しだがレイフにも話が来ていたな。話しづらいのであれば、」
「いや、いいんです。僕が、向き合う事なんで。まあ……ご存じの通り、戸籍上ハニーとして僕を扱う感じで、ああ、でも、改名は家庭裁判所でOKされて」
「……名前を、聞いても?」
「別府凛太郎です」
「リンではないのだな」
「解釈違いで怒られかねないんで……」
「? そうか」
まあ、話すことは話した、という感じでゼイネル改め凛太郎から話題をひと段落。そして、彼が切り出すのは、
「磯羅さんイメチェン激しすぎません?」
指さしたのは、明路のあご。……ヒゲが生えている。髪もかなり刈って爽やかワイルド系である。
「いや、これはだな……」
「あたしがいろいろ試させてんのよ」
喫煙から戻ってきた春子が、明路の顔を撫でまわす。
「やめろ……!」
「あはは! あんた顔いいんだから遊ばなきゃ。ゼイネルもそう思うわよね?」
「似合ってますよ」
「ああ、そうか……? 俺は剃りたい」
「ちぇっ」
そんな風にわちゃつく二人を見て、凛太郎は、本当にうれしそうに笑って、つぶやく。
「良質なはるあきに感謝します」
「その感想はキモいわよさすがに」
「アッハハ! キモオタやらせてもらってますよ」
クスクス笑っていた彼だが、そういえば!と呟くと同時にいろいろと思いだしたことがある様子。
「雨野さんに言っといてください。あんまり気にするなって」
「会うたび猛烈に謝るからな……」
「まあ、マジで鬼気迫ってたし」
「とはいえ、死んだ恋人に化けられて気持ちいい人なんて絶対にいませんから。謝るのはこっち、っていつも言ってるんですけどね……」
うつむいて、その視線の奥。誰かを見ている。遠くに、彼女を見ている。
「……」
「あー、空気悪くしちゃったかな」
「いや、大丈夫よ。っていうか、あんたと菜摘といえば。言ってたわよ彼、サタン倒したときの湖冬はちゃんと湖冬の所作だったし自信持ってって」
「そぉ~~……れは普通に雨野さんの記憶参照してるからっすね」
「あっ、そうね」
「それはまあ、秘密にしておく」
少しだけクスクス笑った後、凛太郎が席を立った。
「ご予定あるんですよね? 僕、お暇します」
「あ、まあ確かに向かっていい時間かもしれないわね」
「退勤して向かおうか。来てくれてありがとう。困ったことがあれば、いつでも連絡をくれ」
「了解です!」
「じゃあ、」
「あ、あと!」
席を立って去ろうとする足を止め、凛太郎は決意まじりに明路の方を見た。
「僕は……今後記憶の研究をしていきたいと思ってます。……ツラいですけど、アイの遺体の、脳を開いたり、僕自身の魂を地獄の機械にかけたりしてます」
「……っ」
「だから、上手くいったときは、何か光明があった時は、希望が見えたときは、」
頭を、まっすぐ下げて。
「ハニーをよろしくお願いします!!」
「……ああ、」
「そうね」
「だが、彼女の面倒を一番に見るべきは君だよ。応援しているし、助力は惜しまない」
「っはい!」
「会えた暁には、はるあき? を見せてやれれば」
「余計なこと言わんでいいのよ!」
「痛い! 叩くことないだろう!」
「言質取りました!」
「ほら!」
「ああ、悪かったよ。悪かった。ほどほどに見せることにする。……じゃあ、元気で」
「ええ、また」
彼を見送り、退勤の準備。思ったよりも前向きでいるようで、喜ばしいことだなと、二人は顔を見合わせた。
さて、もろもろを終えて、二人は車に乗り込んだ。休日前の夕方、社会人でも一番心躍る時間に、二人の目的地は、あそこ。
インターホンを押すと、元気な返答と、どたどたした足音。ドアの後ろでちょっと悶着あったのち、がちゃ。
「上がってください~!」
「ください~」
わんぱくな幼児を抱えた、三歳児のパパ、雨野菜摘……改め地島菜摘だ。両手をばんざいでつなぐような形で、ばたばた駆け巡る娘をうまく誘導。
地島わけぎは、元気に育っている。
「失礼します。」
「失礼しますー」
上がっていき、リビングで先回りした父娘。そしてすでにテーブルでなにやら手作業中の母が客人を迎え入れる。
「ご結婚おめでとうございます~!」
「おめでとうございます! あ、これお祝いなんですけど」
「ありがたいんだが手を洗ってからでいいか?」
「あ、勿論です、洗面台こっちで」
「ねーパパ、あきみちさんひげもじゃ」
「いや、もじゃってほどでは……」
「いいから手ェあらうわよひげもじゃ明路」
春子と洗面台に向かう明路と、父を見比べ。わけぎはぽかんと口を開いている。
「パパはひげもじゃならないの?」
「んー?ならないよー?」
「なんでー?」
「永久脱毛してるからねー」
「えーちー?」
「そう、なんかレーザービームでひげの根っこを焼くの」
「え~~!?」
ビームで焼くというのがツボだったらしい。ゲラゲラわらう娘につられて笑う菜摘を見て、湖冬もクスクス。
「菜摘あんたそーいうとこまで教えるのね」
「よっぽど答えづらく無ければ」
「好奇心旺盛なのでいずれは自分で調べるきっかけにもなるかなと思いますしね」
感心した様子で頷いた春子が湖冬を見ると、彼女は黙々と餃子を作っているではないか。
「ちょ、先始めてるの?」
「ええ、僭越ながら」
「せんえつ?」
「僭越ってなんて言おう。失礼だけど。みたいな意味かなー」
「ふーん」
「僕も手伝いたいんですけど、御覧の通りなので」
「あたしがわけぎちゃんの相手する?」
「いいんですか?」
「わけぎちゃんいい?」
「うん」
ててて、と歩いて春子の前に接近。親し気に足に抱き着き、春子の中の母性のようなものが電流として走る。「ふぉぉぉ」といった気の抜けた声だけを出すと、明路も呼び寄せて、彼も巻き添え。「餃子はいいのか」という彼に、二人は微笑んでもちろんと促す。
「あのね、これね、あそびたいの」
「む、出して欲しいかい?」
なぜかすこし恥ずかしがって頷くわけぎの前に、おままごと用のおもちゃを置いてやり。少し触れて、春子が目を見開く。
「えっ、今のお店屋さんごっこって、バーコード決済あるの!?」
「現代化の波だな……」
「私が現金あまり使わないんで、わけぎも支払いとかお店屋さんのイメージそっちみたいですよ」
なにかチップの入っているらしきスマホ型のおもちゃを受け取り、わけぎは自分でレジを操作して、ピッと音が鳴る。アンパンマンの「いらっしゃいませ!」を聞いて、満足げ。
意外と自己完結しているなと思い、そして結論が出る。
「セルフレジ?」
「……なるほど! パパとママ、自分でぴってするのか?」
「うん!」
「偉いな、パパもママも」
「でもパパきのうね、ちがうのしてたの」
「ドジね菜摘も」
「あはは……」
恥ずかし気な二人を見て、そういえば、と春子。
「結婚した時言ってたかしら。苗字地島にしたのは何でだっけ?」
「あんま理由ないですね……」
「どっちも親戚筋で苗字は残るので、まあ好きに」
「テキトーねぇ……」
「……そっちは、
「ええ、まあね」
明路のあぐらでできた足の上の空間に、わけぎがポンポン食べ物のおもちゃを入れていく。その様をクスクス笑って眺めつつ春子は頬をかいて。
「特別慣習から外す理由もなかったってだけだけどね。あ、って言うかお祝いの品何か見ていい?」
「なら、俺の方が近いぞ」
「いやあんた立てないでしょ」
紙袋の中身はおしゃれなコップのセットだった。
「食器、足りなくなってくるんで」
「いやマジで足りてなかったから助かるわね」
「同棲もまだ一年だしな」
「どーせーってなにー?」
「一緒に暮らすことだな。大体、男女が」
「だんじょ」
一瞬、菜摘が渋い顔をする。
「え、何?」
「いや、わけぎもそういう日が来るのかなと思って」
「寂しい?」
「寂しい!」
「なははは! 私と菜摘君はもうこのぐらいのころには一緒だったし、お父さんはどうだったんだろう」
「今ならわかるけど複雑だったと思う。幸せになってねわけぎ……!」
「わーちゃんね、いまたのしー!」
「ならよし! 焼こっか餃子」
「え?僕がやるよ。湖冬は休んでて」
「まだ動きたいんだけどなー」
菜摘がフライパンに餃子を乗せ、火をかける。
「あ、酒買って来たけど。あんたたち梅酒好きだったわよね。ちょっとだけいい感じのブランドなんだけどどう?」
「あ~~~~……僕は頂き、いや、どうしよ」
「いや飲みなって。困る困るそこ気遣われても」
「酒が、どうかしたのか?」
明路が問うのにあわせ、わけぎも首をかしげる。
「あー実は今日呼んだの、これの報告なんですけど」
「……まさか」
「私、第二子ができまして……」
「本当か!!」
「やっぱり!」
少し恥ずかし気な湖冬に、おめでとうムード。菜摘もうれしそうに餃子を皿に盛りつけた。
「ご両親には?」
「どっちの親も大喜びでしたよ」
「じいじね、え〜って!」
「驚いちゃうな。え〜ってな」
明路、子供の扱いにだいぶ慣れてきた。
「そりゃそ、ってか、え、マジで重大発表ね! 浅井さんいないのに」
「浅井さんトメ子ちゃんと会ってるんでしたっけ」
「そう言っていた。保護者さんとも会うとか。まあ、後日別途報告すればいいさ」
「今いきなりLINE送ろうかな」
「脳パンクしちゃうからやめてあげて。ほらほら餃子置くよ~」
テーブルの真ん中に大皿到着。同時にわけぎも椅子に登ろうとするが、さすがに危なっかしいので湖冬のアシスト付きで座り。食べやすいように、専用に作った餃子を切って盛ってあげる。
「わーちゃんね、ぎょうざすきぃー」
「お、よかったな」
「わけぎちゃんあなたお姉ちゃんよ」
「おねーちゃん!」
あまり意味は分かっていないようだが、非常に嬉しそうに腕を動かし。しかしご飯だよと言われればまあ落ち着くお利口な子だ。
五人が席に座って、机を囲む。
「なんか、このメンツだといろいろあったなとか、言いたくなるわね」
「浅井さん含めてだな、そういう話は」
「留一さんも、娘さん達と楽しくやってるはずですよ」
「じゃ、まあ、食べましょうか。もはや何のお祝いかよくわかんないけど、おめでとうございます!」
「だね。結婚おめでとうございます」
「おめでたおめでとうございます? 変か?」
「ご懐妊はお医者さんっぽいしね」
「ま、何はともあれ、わけぎ、おててやって」
「は~い!」
菜摘が全員と目を合わせて、微笑み。
「「「「「いただきます!!」」」」」
FIN
これにて、完結となります。
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました!
今後の作品もよろしくお願いします。形にするかはわかりませんが、仮面ライダービロウはレギエルとのコラボ予定もございますんで。
と、言いたいのですが。……まあ以下をどうぞ。
「言ったでしょう、抱きたい男がいると」
「更科桃色で結構」
「シカム様ですが、……同時にマシロ君ですよ」
「交換条件だ、いいか?」
「俺たちレイフとしても不本意だ」
「……アスモデウス、お前の捜査力が要る」
「交渉は?」
「成立です」
「タイムリミットは48時間。そこまでに解決に運べれば」
「マシロ君を屍姦できると」
「ああ。」
「では」
「変身。」
「本気で不本意だが、この際ヒーローのふりをしてくれ」
「ええ」
外伝・レギエルAfter
仮面ライダーアスモデウス
「ちなみに彼のあの、ペニスなんですが」
「黙ってくれ」
「じゃあ、精子なんですけど。ああいえ、獄中でも愛情をもって育てるので孕」
「黙ってくれ!!」
公開未定。
と、いう感じです。
こちら制作に関しても完全に未定なので、予告自体をそういうコンテンツとして楽しんでいただくぐらいの気持ちでいてください。
とまあ、こんなところで、レギエルの物語は一旦のおしまいです。それでも、レギエルのキャラクターはこの世界で生きていくんだろうなという妙な感覚もあります。
ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました!
感想など、お待ちしています。
Twitterなどでダラダラ語っているとも思うので、ぜひよろしくお願いします!